道中と出会い~災厄の獣~
道中と出会い~災厄の獣~
「フォウ、フォ~ウ」
「…ハク、その子は?」
「なんか、懐かれた。賢いみたいだし邪魔にもならなそうだから連れて行こうと思ってな」
賊を討伐した夜、気がつくと天幕に正体不明の動物が入り込んでいた。リスくらいの大きさで紫色の瞳、もふもふの白い毛にシッポの先の方だけ青色、そしてフォウフォウ鳴く。なんか妙に懐かれ、森に返そうとしても自分にまとわりついて離れなかった為、連れて行く事にした。ちなみに今はまだ出発前で、自分が天幕の片付けをしていたところにクオンがやってきたのだ。
「フォ~ウ」
「あ、こら!くすぐったいかな。この子人懐っこいんだ。ねぇハク、この子の名前は?」
「いや、そいつは人懐っこくは無いぞ。クオンの前には普通に出てきてるが、他の奴の前だと姿をみせないしな。それと名前はまだない、そいつも懐いているみたいだしクオンがつけてやったらどうだ?」
何せなんて動物かわからないから、訓練で仲良くなった奴に聞きに行こうとしたんだが見せに行こうとすると断固として姿を見せなかったからな。まぁそれで賢いんだろうなと自分は思っているのだが。しかしなんでクオンは平気なんだろうなと思いながらクオンの肩にのる謎動物を眺めながら首をひねる。ま、なんか波長的に合う合わないってのがあるんだろう。それで自分とクオンは合う側だってだけか。
「へぇ、そうなんだ。そうは見えないかな。名前かぁ、ん~それじゃあ…ちょっと安直かもしれないけど“フォウ”でど「フォウ」…うかなって。これはもう決まりかな?」
「そうだな。それで呼んで反応するんだからフォウで良いだろ。ま、旅は道連れってな。よろしくなフォウ」
「フォウ!」
「私もよろしくね、フォウ」
「フォウ!」
フォウは気にいったみたいだが、クオンのその安直なネーミングにもし子供ができたら自分が名付けは頑張らないといけないかと考えて一人赤面する。まったく何を考えているんだろうな自分は。頭を振ってその考えを振り払い出発の準備を進めたのだった。
出発してから少したった頃、フォウも最初は自分の服の袖の中に大人しく潜んでいたのだが、さすがに尾心地が悪かったのか今は馬に揺られる自分の肩の上にいた。あんまりヒト前には姿を現したくないのかと思っていたのだが、自分たちと一緒に行くうえで、どうしてもヒトの目には触れると言っておいた事を理解してなのかは分からないが、周りのヒトは気にしない事にしたようである。隣で馬を進めるウコンも気になったようで自分に尋ねてきた。
「さっきから気になってたんだがよ。アンちゃん、その肩の動物はなんでい」
「いや、なんか懐かれてな。どんなに森に返そうとしても帰らないもんだから連れて行くことにした」
「ああ、アンちゃんの何故か動物に好かれるからな。しっかし俺には警戒心むき出しだねぇ、そいつは」
ウコンは自分の肩に乗るフォウを指さしながらそう言う。実際にフォウはウコンに近い側の肩には絶対に乗らなかったからな。あのルルティエにさえ懐かないなんて相当な物だ。
「アンちゃんは帝都に着いたら、何か当てはあるのかい?」
「ま、とりあえずは仕事を探すさ。実際クオンが薬を売るだけで生活は出来そうではあるんだが、それにおんぶ抱っこは男として…な。本当はだらだら、ごろごろしてたいんだがね」
最後のは本音ではある。男の意地が掛っている以上絶対にやらんが。
「アンちゃんらしいねぇ。しかし仕事ねぇ…正直アンちゃんならより取り見取りな気もするが」
「自分をなんだと思ってる。ちょっと自衛が出来て、計算なんかが人並み以上に得意なだけの平平凡凡の男だよ」
なんで自分の周りは自分を過剰に評価しようとするのか理解に苦しむ。武力については実際にそうだから妥協するがな。
「俺と戦って引き分けられるなんて奴は、ちょっと自衛ができるって領域じゃねぇんだよ。それにボロギギリ討伐の件や賊討伐の件を見て、頭がキレるのもわかってるし、ネェちゃんの話によると計算も早く正確。どこが平平凡凡な男だ、正直俺の部下に欲しいくらいだぜ」
「お前の部下とか何をやらされるかわからんから却下だ。毎日のようにお前と試合させられてぼろぼろになるのが目に見えてる」
ウコンはそう言って勧誘してくるが、自分も自分の身が可愛いのだ。上司権限で試合を毎日やらされそうな職場にだれが就職するかってんだ。
「ああ、その手があったか!やっぱり冴えてんなアンちゃん」
うん、沈黙は金だ。余計なことは言わないようにしよう。今の言葉は聞こえなかった。その後の移動中、ウコンは局所局所に勧誘話を入れてたが自分は全力で断った。その度に慰めるようにというか労うようにというか体を擦り付けてくるフォウに癒されつつ昼休憩間際までそれは続いたのだった。
昼の休憩を挟んで一刻と半分程。なだらかな丘の上を通る時、ようやく目的地である帝都が見えてきた。自分たちウコン一行のほかにも途中のわかれ道などから合流してきた人々なども増え周りも大層にぎやかになっている。そういえば昨日からあのフードをかぶった二人組を見てないような気がするが…、オシュトル達が来たとき、奴と一緒にさきに向かったのかね。
「見えてきたぜ」
「そうみたいだな」
隣で馬を進めるウコンがそう言う。自分も顔を上げてその威容を目に収めた。そこは広く、高い立派な建物が立ち並ぶ都市だった。どことなく懐かし思えるその都市こそヤマトの中心たる町である帝都だ。自分の印象になるが今の文明レベルでこれほどの都を持つのはヤマトだけだろうなと思う。
「あれが帝都――目的地だ」
「まさか…あんなに…」
ウコンがそう言う傍らでクオンがそう漏らしていた。自分の故郷であるトゥスクルと比べているのだろう。国土の広さなんかも違うんだし、比べてもしょうがないと思うんだがなぁ。
「どうだい、ネェちゃんの故郷と比べて?」
「…そ…そう、だね。うん、まあまあかな、まあまあ」
クオン…どう考えても負け惜しみ以外の何物でもないぞ。おぼろげに覚えているトゥスクルの街並みと比べてみて、心の中で見栄をはるなと言っておいた。
「こんなに…大きかったなんて…」
「ルルティエも初めてなのか?」
「はい…あまり國から出た事はなくて…ですから、今からとっても楽しみです」
そんな会話の後、移動を再開し丘から半刻程で帝都には着いた。外壁とその大きさに驚いているクオンとルルティエが感嘆のため息を漏らしている。自分は昔に超高層ビルなんかを見慣れてるからな、これぐらいの高さなら今更驚くに値しない。もっとも今の時代の技術力でと考えると驚嘆に値するものであるのは確かなのだが。
門をくぐりぬけてからは流石に馬を下りて徒歩での移動になった。ヒトも増えてきていて馬に乗ったままだと少し危ないからな。自分は馬の手綱を引きつつウコン達の後を追う。
しかし、行き交うヒトの数が多いな。商店で品物を買い求める人に、路上で芸を披露する者、警備の為に巡回する兵に、荷を運ぶ者…本当にヒトでごった返している。
「…今日は何か、特別な日なのかな?祝祭の日…とか」
「ん?いいや、今日は何もないはずだが…。ああ、ヒトが多くて驚いてんのかい。帝都はいつもこんなもんだぜ」
「いつも!?あ…ううん、そうなんだ。いつもこんな感じなんだ…そう…」
ショックを受けている様子のクオンが自分の腕に抱きついてきたのを見て苦笑をこぼす。フォウはしょげているクオンの肩に移動すると慰めるようにすり寄った。
「あはは、ありがとうフォウ。少し元気が出たかな」
フォウとクオンの様子をがとても微笑ましく思える。あと、心の中でだが宣言させてもらおう。小動物と戯れる自分の恋人は最高にかわいいと、な。
「少しは元気が出たみたいだなクオン。ヤマトはトゥスクルとは土地の広さも違うし、人口も違う。比べる必要なんてないと思うぞ?もし比べるんであれば…そうだな、トゥスクルの人たちはここの人たちより暗い顔をしてたか?」
「…ううん。そんなこと無いかな。少なくともここの人たちに負けないくらいには活力があった…と思う。全員が全員とはいかないけれどね」
「じゃあ、それでいいじゃないか。何を悔しく思う事があるんだ?」
「うん!ハクの言うとおりかな。ありがと、ハク、大好き!」
その言葉に自分も笑顔を返す。そのまま少し歩いているとウコンが立ち止まり振り返って声をかけてきた。
「さて、俺たちはこのまま
「クオンどうする?」
「うん、ウコンの紹介なら確かだろうし甘えちゃおっか」
「おし、そう言う事なら任せてくんな。それに今日は俺らも同じ宿に泊まるからよ」
ウコン達は帝都に住んでいるはずだし住処は別にあるはずだ。何故宿にと思ったので尋ねてみると、習わしだという答えが返ってきた。
「いや、帝都に着いたら、皆で仕事納めの宴をするって言うのが習わしでよ。そのつもりでもう店の方に予約を入れさせちまっててな。もちろんアンちゃん達の分も含めてな」
「ふふふ、それは私たちを歓待してくれるってこと?」
クオンは悪戯っぽい笑みを浮かべ『私たち』を強調しながらウコンにそう尋ねる。ウコンはついっと目をそらした。
「あ~、野郎どもの慰安もかねて…な」
言葉を濁しつつそう言うウコンに、自分は心の中でそれがメインだろと突っ込みを入れた。クオンもそれは判っているようですぐに笑って了承した。
「あはは、折角だし喜んで参加させてもらおうかな。ね、ハク」
「ああ、自分は構わんぞ」
「ああ、紹介しようって思ってた旅籠屋は今日予約を入れてる店でよ。騙されたと思ってそこにしてみたら良い。何しろ…いや、こいつは見てからのお楽しみってやつだな。特にネェちゃんは気にいると思うぜ?」
自分達が頷くとウコンは笑顔を浮かべる。紹介しようとしてくれていた旅籠屋は今日宴会を行う店のようなので楽しみにしておく事にした。
「ふ~ん、?なら楽しみにさせてもらおうかな」
おいおいクオン、口ではそう言ってるがシッポがびゅんびゅん左右に揺れてご機嫌なのが丸わかりだぞお前。肩にいるフォウを見ると「フォ~ウ」と鳴き、それがやれやれと言っているように聞こえて笑みがこぼれた。視線を上げるとウコンとも目があった為、お互いに肩を竦めると再び歩き出す。
「あの…ハクさま、クオンさま」
「ん?どうかした、ルルティエ」
周りを物珍しそうに観察していたルルティエが、自分たちに話しかけてきたので視線をそちらに向ける。二人分の視線を集めた事が恥ずかしいのか、顔をうつむかせそうになったが堪えたようで、自分たちを見返している。ちなみにフォウはルルティエの視線から隠れるような位置に移動しているようだ。ホントに徹底してるなこいつは…。
「もし…よろしければ、後日一緒に…帝都を見て回りませんか?」
「ああ、構わないぞ」
「うん、私も大丈夫かな」
自分たちが恋人同士という事もあり少しだけ誘いにくかったのだろう。自分たちの返事にルルティエは花の咲くような笑顔を浮かべ、嬉しそうにありがとうございますと言ってくる。
「ではお時間が出来ましたら…よろしくお願いします…」
「うん、こちらこそかな」
「ああ、よろしくたのむよ」
「えへへ、なんだか…今からとても楽しみです…」
そこからは三人でどう回ろうかと話しながら、歩を進める。しばらく歩くと門番が立っている門の前に近づく。どうやらここを通って中に入るらしい。隣を見るとルルティエが焦りながら口上が書かれているカンニングペーパー(そう言うのかはわからんが)に目を通している。自分も横から除くとそんなに複雑な内容ではなかった為、大丈夫だろうと思い視線を外した。
門に近づくと門衛の一人がこちらに近づいてきた。ルルティエは深呼吸繰り返し落ち着こうとしている。
「ここに何用か。目的と名を名乗られい」
門番の声で周りの視線が集まりる。自分はこれはまずいなと思った。ルルティエは人見知りだ。それがこんな視線にさらされたら…。案の定固まってるよ。
たくさん視線を受けたルルティエは緊張からか、同じ方向の手と足を同時に出しながら数歩前に出る。
「わ、わたしは、あの…ク、クジュウリ皇、オ、オーゼンが、むっ、むっ、むすめ…ルルティエ……あ、あの…」
ルルティエもなんとか最初は頑張っていたのだが、だんだんと声は小さくなり、視線もあっちこっちに泳いでいた。よく見ると冷汗もかいているようだ。後半の言葉はほとんど聞き取れないし、極度の緊張で内容が飛んだのか口上の途中に青い顔でうつむいてしまった。門衛もこういう時の対処は経験がないのか、若干おろおろしているように見える。とりあえず対処が決まったのか咳払いをすると、聞こえなかったのでもう一度最初からお願いすると言った。
「わ、わた…わたしは…その…」
ルルティエはそれに答えようと言葉を紡ぎだすが声はさらに小さく、さらには体も震えだしていた。腕を引かれた為そちらに目線を向けると隣にいるクオンが目線で助けてあげてと言ってくるので、それに頷きをかえした。自分としてもこれ以上見ているのは忍びないし助けに入るかね。
一度息を吸い、意識を切り替える。背を伸ばし一歩前に出てルルティエの斜め後ろに立つ。周りが動かない中で自分が動いたことで自分に注目が集まった事を感じつつ、先ほど見たカンペもどきに書いていた内容を述べた。
「我らはクジュウリ皇オーゼン様の使い。このお方はクジュウリが姫御子、ルルティエ様である」
「えっ…」
自分がそう言った事に驚いたのか振り返ってこちらを見てくるルルティエに安心させるように頷く。ウコンの感心したような視線が気になるが無視だ無視。
「此度は聖上の御代を祝い、更なる繁栄を願って名産の品などを献上したくここに参った」
「事の次第、しかと拝聴しました。オーゼン皇の名代とは露知らず、散々の無礼の数々、どうかお許しを。では御印をあらためさせていただきます」
門番がルルティエにそう言うが、彼女は呆けているようで動かない。
「ルルティエ様?」
「?は、はいっ」
「御印をあらためさせていただきたいのですが…」
「あ、はい。た、只今…」
ルルティエは慌てながらも袖口からクジュウリの紋が彫られた札を取り出して門衛に見せる。
「うむ、確かに。遠路お疲れ様であります。お通りを」
門衛がそう言ってから門を開くと、ルルティエは呆然としたように開く門を見つめる。ただすぐにこちらを振り向き、安心したように笑顔を浮かべてくれた。
「あの、ありがとう…ございました…」
「ん?ああ、どういたしまして、だな」
言われたお礼が照れくさくて、どうにもぶっきらぼうな言い方になってしまったような気がする。そう考えながら頬をかいていると、逆の腕に重みを感じた。あ、これはクオンだな。
「ハク、お疲れ様」
自分の腕に抱きついたクオンが笑顔でそう言ってくる。それにおう、とだけ返し歩を進めた。その場から少しだけ離れ、頑張ったなと言ってルルティエの頭を撫でる。
「でも、わたし結局言えませんでした…最後は、ハクさまに助けていただく始末ですし」
「ま、これも経験ってな?だったら次回言えるようになってればいいさ」
「…出来るように、なるでしょうか…」
さっき自分でできなかった事を気にしているみたいだな。正直ルルティエに足りないのは経験で場数を踏めば自然にできるようになりそうな気がするんだがなぁ。ま、自分なんかの言葉で納得するなら安いもんだ。
「おう、大丈夫だ。自分が保証する」
「私もルルティエなら大丈夫だと思うかな」
「ハクさま、クオンさま…はい、お二人にそう言っていただけると出来るような気がします」
そう言って微笑むルルティエに自分とクオンは二人で笑顔を返した。
そんなこんなで進む事しばらく、美しい瓦屋根の建物が立ち並ぶ通りに出た。屋敷はそれぞれ堀によって囲まれており、自分にはどこか物々しく感じられた。その通りを進んでいきウコンがある屋敷の前で停止を指示する。
「よぉし、ここだ。着いたぜ」
目の前にある屋敷は他の屋敷と比べてもひと際立派で、位の高い人物の屋敷だと推察できる。こちらに気がついた門衛が近づいてきてウコンと話をしていた。荷物を運んでいた男たちは自分たちの仕事はここまでだと言わんばかりに、さっさとその場から居なくなっている。
「……こいつがクジュウリからの献上品だ。んじゃ、後の事は頼んだぜ」
「ハッ!……はぁ!?いや、ちょっ待ってください!どこに行くんですか。報告やら手続きやらやっていただかないと困りますって!」
「いや、悪いな。疲れてるんで細かい事は、また明日にな。おーいアンちゃん達いくぞー」
自分としてはそれで問題ないんだがそんなんで良いのかね?ウコンは後でオシュトルに怒られても知らんぞ。自分は心の中で多分一番の被害者であろう門衛さんに合掌しつつ、ウコンの後を追って、今日の宴会会場に急ぐのだった。