連続投稿分2/6
ある屋敷にて~ウコンとオシュトル~
ネコネに帝都を案内してもらった日の夜。ネコネにある方が呼んでいるので会って欲しいと言われた。心当たりは一人くらいしかないが、ネコネの願いだし自分が思っている通りの奴なら特に問題はなさそうなので、クオンと共について行くことにした。
「ネコネ、どこに向かってるの?」
「着いてからのお楽しみなのですよ、姉さま。すぐにわかるのです」
どこに行くのかと聞くクオンにそう返し、ネコネは自分達を先導する。しばらく歩くと一度来た事のある街並みが見えてくる、あの瓦屋根のある通りだった。ネコネは自分の予測通り、ある屋敷の前で止まる。オシュトルの屋敷だ。
自分たちに気がついた門番が険しい目線を送ってくるが、ネコネに気がつくと緊張を解き頭を下げてくる。
「お役目、御苦労さまなのです」
ネコネはそう言うと自分たちを促して門をくぐり、屋敷の中へと入りある部屋の前で止まった。その部屋は他の部屋と違って明かりが付いており、まだ起きているヒトがいるようだった。
「お連れしたのです」
「入るといい」
ネコネが扉の外から声をかけると、聞き覚えのある男の声で返事が聞こえる。これはオシュトルの声だな…。クオンに目配せすると任せると言うように頷いてくれる。その様子を見ていたネコネは自分たちの心の準備が整ったと判断したのか扉を開け自分たちを先導して部屋へと入った。
「…失礼しますです」
部屋の中に入ると、部屋の奥、執務用の机のような物の奥に予想通りの人物――仮面の男、右近衛大将オシュトルが座っていた。
「よく来てくれたな」
「右近衛大将…オシュトル」
クオンが少しの警戒をにじませながらそう口を開く。こんな時間に呼び出しだからな。いくら清廉潔白、公正明大と評判の男でも警戒はする。いや組織の上に行けばいくほどに黒い部分とは無縁ではいられなくなるのだ、それなのにあれだけの名声と評価を誇る人物を警戒しない方が難しいだろう。
「ハク殿とクオン殿だったな。賊討伐の件では世話になった。改めて名乗るとしよう、某はオシュトル。突然の呼び出しに思うところはあるかも知れぬが、まずは座ってもらえるか。ネコネ、客人にお茶を」
「判りましたです」
ネコネはオシュトルに頭を下げると素直に部屋を出て行った。自分とクオンは用意された座布団に座り、オシュトルに相対する。無論自分が矢面に立つ位置だ。さて意識を切り替えろ。
「初めまして…と申すべきなのでしょうか?」
「そうだな。だが、紹介はいらぬ。失礼ながら、そちらの事は報告を受けているのでな」
「…いえ、当然の事かと。自身の部下が、身元の怪しい二人組を帝都へ連れて帰っているとなれば気にせずにはいられぬでしょう。某も同じ立場であればそうしますゆえ」
「そうか…」
そう、自分たちを調べたり報告を受けたりするのは当たり前だ。自分たちにその気はないが、なにか騒動を自分達が起こした場合、その咎がオシュトルにも向きかねないのだから。警戒をするのは当然と言えるだろう。オシュトルが腕を組んでそう返したタイミングでネコネがお茶を持って戻ってきた。少し不思議そうな顔をしているのが気になるがまぁ特に問題ないだろう。
「お茶をお持ちしましたです」
ネコネは茶を卓に置くとオシュトルの隣の席に着いた。義妹の淹れてくれた茶だ、とりあえず味わうことにするか。そう思い茶を手に取って口に運ぶ。口の中にお茶の美味しさが広がり思わず口元が緩んだ。どうやら隣のクオンも同じようだ。目線を前に戻すとネコネがすました顔をしつつ、こっちを見ていた。もっともこっちがおいしいと思った事は伝わったのか、頬が少しひくついていて嬉しさを隠しきれていないように見えたが。
「それで…右近衛大将ともあろう御方が某達を呼び出して如何な用向きであられるのか」
「ふむ、やはりまどろっこしい話は好まぬか。ならば単刀直入にいわせてもらうとしよう。ここに招いたのは他でもない。其方達を引き立てたいと考えたからだ」
「引き立てる…某とクオンをでしょうか?しかし、某達は貴殿に評価されるような事をした覚えは無いのですが…」
「正確にはそこにルルティエ殿を加えた三人を…だな。先ほど報告は受けていると言ったであろう。その報告の内容だけでも其方達を引き立てようと思うには十分だと思うが納得できぬか?」
自分達を引き立てたいね…さてどんな思惑があるのか全く判らんぞ。ウコンから報告が上がっていた場合、本気で言っているだけの可能性もあるのか。ウコンの自分への評価はなぜかめちゃくちゃ高いみたいだからな。
「某達に貴殿の配下となれ…と?」
そうであるのなら、すぐに頷ける話ではない。こんな時間に呼び出され、さらに人目が全くない部屋での話しだ。何をやらされるか判った物じゃないからな。だが、オシュトルからの返答は意外なものだった。
「そうだ。と…いってもそんなに堅苦しいものではない。某の協力者になってもらいたいのだ」
「……」
即座には返答せずにオシュトルの言葉の裏を考える。協力者なんぞ、いくらでも集められるはずの男がそう言うのだ。正直、真意が判らない。オシュトルを見ながら自分が黙っていると、奴が口を開いた。
「そんなにおかしいか」
「おかしいと言うより、真意が読めませぬ。貴殿ほどの立場の御仁なら、手駒など事欠かないはず。だというのに、なんの面識もない某達を雇いたいと申す。正直なところ貴殿が何か企まれていると勘繰ってしまっておりまする」
そう言った瞬間、ネコネが困ったようにして自分を見てくる。まぁその表情を見る限り、ネコネが知る限りではオシュトルに企みなど無いのだろう。憧れのオシュトルを援護したいが、自分の考えも理解できてしまいそんな微妙な表情になってしまったのだろうか。
「遠慮なく言ってくれるな、寧ろ小気味いい。しかし、その考えも最もか。これは信じてもらうしかないのだが、貴公等を陥れようとしているわけではない。ある理由があって、某は信頼のできる人物を探していてな。それも只の部下ではない。どこにも属しておらず、某を相手にしても臆することなく腹を割って話せる相手を…だ。そこで某の協力者でもある友人に相談してみたところ、貴公等を推薦されたのだ」
オシュトルはそこまで言い切り一呼吸置くようにお茶に手をつけると一口含む。ふむ、今の言葉に嘘は見えなかった、多分だが真実を語っているのだろう。しかしオシュトルの協力者とは一体?自分達を推薦するほどだから、少なくとも一定以上自分たちに好意的な感情を持ち、人柄も把握している人物。本命でウコン、次点がマロロ、大穴であの村の女将さんってとこかね。協力者って言うとあの赤い髪の姉弟、ノスリとオウギも当てはまるのだろうが、今回は候補に入らないな。何せあいつ等とはまともに話してすらいないのだから。
「ギギリの討伐や賊退治の際の話も某の耳に入っている。頭も切れ、闘いにも通じていて機転も利き、不思議とヒトを引きつける魅力を持つ男」
「…」
オシュトルの過大評価になんだか妙な顔になっている気がする。隣でクオンがうんうん頷いているが自分はそんなに凄くないぞ。自分がそんな表情をしているのは気にせずにオシュトルは言葉を続けた。
「付き合いは短いが、共に死線を潜り抜けた信頼の置ける人物だと絶賛していたよ。マロロがあれだけ太鼓判を押すのだ。ならば問題ないかと思ってな」
まさかの次点か…ちょっと梯子を外された感が凄いぞ。
「そこまで評価されるのは悪い気分ではありませぬが…某には過剰な評価だと」
「もっとも、推薦されるまでもなく、そのつもりだったんだがな」
オシュトルがにやりと笑う。いきなり言葉遣いと雰囲気が変わったが、この感じどこかで…。そう思いながら首を傾げているとオシュトルはさらに言葉を発した。
「なんでぇ、まだ気づかねぇか。
「…もしや、其方」
「おう、気づいたか。アンちゃん、多分こう思ってただろう?ウコンの奴はどこ行ったんだ、ってな」
おいおい、もしかしてというか、アンちゃんねぇ、これはもう確定じゃねぇかよ。今までの茶番にため息が出そうになるぞ、おい。そう思う自分の方を見つつ、オシュトルは笑みを浮かべたまま髪をかき乱し、いつの間にかネコネが持って来ていた外套を羽織り、口元に手を持っていくと、次の瞬間には見慣れた無精ひげがそこにはあった。最後に目元を覆う仮面をゆっくりと外すとそこには…。
「ここにいるじゃねぇか?」
「……変わりすぎではないか?」
あまりの変身に絶句、という感じだ。クオンはあまり驚いていない。おそらく話のどこかの段階で感づいていたのだろう。というかこんなもんわかるかってんだ!
「ん?アンちゃん?」
「うむ、ウコン殿だな…」
「うむ、俺だが。アンちゃん、いつまでその言葉遣ぇで居るつもりだ?正直、違和感が凄いんだが…」
「うん。ハク、もう大丈夫かな」
クオンの言葉で意識して切り替えていた物を元に戻す。
「はぁ、びっくりさせんでくれ、ウコン」
「うん、悪ふざけが過ぎるかなウコン」
「はっはっはっ。すまんな、アンちゃん、ネェちゃん」
ウコンはくつくつ笑いながら、楽しそうに無精ひげを撫でる。
「ま、さっき知っての通り、ウコンとは仮の姿。その正体は右近衛大将オシュトルってな。しっかしアンちゃんは全然気がつかねェんだから驚かしがいがあるぜ。ネェちゃんは途中で気づいてたみたいだったがな」
「私は少し外から見てたから気がついただけかな。自分で交渉してたら気がつけてたかはちょっと自信がないよ」
ウコンはそうかいと言うと頭をガシガシと掻き言葉を続けた。
「知っての通り、俺は帝から右近衛大将という身に余る官位を授かっている。自分で言うのもなんだが、近衛大将ってのは帝を、そしてこのヤマトの民を、あらゆる災いから護る事を任とする、とても偉ぇ官位だ。ホント、なんで俺なんかがなぁ」
最後はぼやきながらウコンが言う。ウコン的には荷に勝ちすぎていると感じているのだろう。自分だったら絶対に嫌だしな、仕事も多そうだし。
「当然だが、それに伴う力も絶大だ。有事には全軍の采配も許されている。だがな、それ故に身動きが取りづれぇ。位が高すぎて何をするにしても世間の注目を集めちまう」
ああ、うん。ここまで聞いてなんとなく分かった。なんで変装してウコンなんて存在になっているのかも、なんで自分達を引きこみたかったのかも。
「…だからウコンとなり、世間の目を欺いているの?」
「御明察だ。オシュトルの身では雁字搦めと言うか、何するにしても大規模になっちまう。見ただろう?ちょっと街を視察しただけであの仰々しい行列だ」
「それが身分相応の義務なのですよ、兄さま」
クオンの言葉に返答してぼやくウコンにネコネの割ともっともな指摘が入る。まぁ、ネコネの指摘ももっともだが、ウコンのしたい事はそれでは成せない何かなのだろうなと思う。
「確かにそうだ。それは分かってる。分かっちゃあいるんだがなぁ…オシュトルじゃあ民の声が聞けねぇのさ。その声を聞くには上辺だけじゃダメだ。いかがわしい場所に潜り組む必要が生じたり、時にはヒトを欺く事もある。そして、咎を背負う事もな。だから、こうやって世間さまの目を欺いて、自由に動きまわる事の出来るもう一人の俺が必要だったのさ」
「…よく判らんが、つまりは有名になりすぎて色々といかがわしい事なんかが出来なくなった。もっと過激で犯罪めいている場所に潜り込むためには変装して身分を欺く必要があったってとこか?」
自分がそう言った瞬間、ネコネが立ち上がりお茶を入れ直してくれる。
「お茶のお代りなのです」
「お、ありがとなネコ、って熱っ!」
「…兄さまを侮辱するのはやめるですよ?」
「…すまんかった。以後気をつけよう」
ネコネがバランスを崩してお茶をこぼしたのかと思ったがあれはわざとだな。まぁ確かにさっきのは自分の言葉の選び方が悪かったしな。素直に謝っておく。…決してネコネに睨まれたのに傷ついたわけではない。ないったらないのだ。ちなみにウコンは爆笑中である。あいつ後でしばく。
一度謝るとネコネも機嫌を戻してくれ、今はネコネが持って来てくれた手ぬぐいでクオンが拭いてくれている。自分とネコネを見ながらしょうがないなぁと思っているのが伝わってきて、自分も苦笑いを浮かべた。自分達の様子がひと段落したと見たのかネコネを見ながら口を開いた。
「まぁ俺に免じて勘弁してくれや、アンちゃん。コイツは幼いころから本の虫でよ、あまり人づきあいには慣れてねェから、加減がよく判ってなくてよ」
「あぅ…」
「気にしてないぞ。自分の言い方もまずかったしな。それにこれだけ遠慮なくやってくるって事は、信頼してくれてるっことでもあるだろう?」
「…」
ウコンに言われた後、真っ赤になっていたネコネが自分の言葉でさらに真っ赤になって俯いてしまうが、まぁいいか。クオンも苦笑するだけで特に何も言ってこないし大丈夫だろ、うん。
「…そうかい、ありがとな、アンちゃん。しっかしあのネコネがねぇ。まあ、今はそれは良いか…さてどこまで話したか、あぁ、いかがわしい云々だったな。ネコネは怒ってたがアンちゃんの言い方もあながち間違っちゃいねぇよ。実際にこの姿は右近衛大将としてなす事が出来ない事をする為の、咎を犯すことを前提としたもう一人の自分だからな」
そう言ったウコンの強い瞳に少しだけ圧倒される。しかしすぐにそれは収まり、苦笑気味にウコンは続けた。
「もともと俺は、父上のように民を助け苦楽を共にする士卒になるつもりでな。その志を胸に辺境の地より上京してきたんだ。そして、恩師を頼りその伝手で近衛に入る事になった。――故郷に錦を飾る為に、出世する為の努力はしたつもりだが、まさかここまでなるたぁ夢にも思わなかったぜ。正直ここまでの官位なんざ望んでなかったんだがなぁ」
「それ、聞く奴が聞いたら泣いて悔しがるぞ…」
ぼやくウコンにそう言うと、ちがいないと苦笑しながら同意を返してくる。それは贅沢ってもんだからなぁ。ああ、ネコネの淹れてくれた茶は美味いな。正直疲れてきたんだが、そろそろ終わらんかね。
「まぁ、それはともかく、右近衛大将だと背負っている物が大きすぎて、俺が目指してた民と苦楽を共にってのは難しいのさ。出来る事といえば、精々都を見回るくらいが関の山でな。まぁ賊の討伐は近衛の仕事と絡めたから出来た事だけどよ」
「随分とめんどくさい立場にいるんだな、おまえは」
「おうさ。だからこうして俺はウコンとなったってわけだ。ただ色々やりすぎたせいで、ウコンの名も売れてきちまってな。最近じゃあ周りをこそこそ嗅ぎまわる奴も出てきて、これ以上やると正体がバレかねねぇんだよこれが」
「もしかしてそれを私たちにやって欲しいってことなのかな?」
ウコンはクオンの言葉にわが意を得たりと言わんばかりにニヤリと笑う。ああ、うん予想通りではあるんだが、そうか。
「流石はネェちゃん、話しが早ぇな。アンちゃん達にはウコンの後を引き継いで、隠密として民と都を護ってもらいたいのさ。出会って間もないが、アンちゃんなら信頼できるからな」
「はぁ、随分と自分を高く買ってるんだな」
「これでもヒトを見る目はあるつもりだぜ?」
ニカリと笑うウコンを見て自分は溜息を吐いた。隣を見るとクオンは乗り気なようなのでこれは断れないかと腹をくくる事にする。
「で、仕事はなんなんだ?」
「お、受ける気になってくれたかい」
「はぁ、クオンも乗り気みたいだし受けるさ。ちょうど就職先を探していたとこだしな。ただルルティエには聞いてみんと判らんぞ」
「おう、恩に着るぜアンちゃん、ネェちゃんもな。ルルティエ様には俺から話を持って行って、アンちゃん達と一緒ならって条件で了解をもらってるんで心配はいらねぇぜ」
こいつ、絶対に自分に引きうけさせる気だったよな?それとも自分が断らないって核心でもしてたのかね。
「まぁ、これも何かの縁だ。よろしくなウコン」
「おう、これからよろしく頼むぜ。アンちゃん」
自分はウコンに手を差し出し握手をする。クオンはそれを優しい目で、ネコネは少し安心したように見てきていた。
「と、そうだ、これを。支度金だ、ネェちゃんに預けるぜ。それと連絡役としてネコネをつける」
「な!兄さま!?わたしは兄さまの手伝いもあります。そんな暇はないのです」
「おう、という事でおまえには暇を出す。しばらくは同年代の奴らと行動してみろ、なぁに良い経験になるだろ」
支度金はクオンに渡された。自分はそう言う方面に信用が無いのかね。まぁ実際クオンに任せとけば大丈夫だろうから文句は言うまい。それはそうと、あんなに可愛がっている妹を預けるとか本当に信用してくれてるな。自分にとっても可愛い義妹だし全力で守るさ。まぁネコネが納得したらの話だがな。
「…兄さまがそう言うのでしたら、頑張ってみるです。よろしくおねがいするです、姉さま、ハク兄さま」
「任せたぜネコネ。という事でアンちゃん、ネェちゃん。ネコネの事をよろしく頼む」
「ああ、任された」
「うん、可愛い妹分の事だし任せて欲しいかな」
ネコネも納得したようなので、そういう事で話はまとまった。
「しっかしネェちゃんやアンちゃんと義兄妹になったとは聞いてはいたが、会ったばっかりの奴らにネコネがここまで懐くとはなぁ」
「うなっ!姉さまはそうかもしれないですけど、ハク兄さまは違うのです!姉さまの恋人なのでそう呼んであげてるだけなのです!」
ウコンの言葉に顔を真っ赤にしてそう言うネコネを見つつ、自分は騒がしくなりそうだなと思いながら、恋人と義妹と姫様と過ごすことになる日々に思いを馳せた。
その後はなんとかネコネをなだめた。今日はオシュトルの屋敷で過ごすというネコネとウコンに見送られ宿へと戻る。明日はとりあえず拠点を確保してどう活動していくのかある程度決めないとな、とクオンと話していたら白楼閣に着き、その日は風呂に入って就寝した。
オシュトル(ウコン)SIDE
ハクとクオンの帰った執務室で俺とネコネは向かい合って話をしていた。ネコネを連絡員としておくのだから連絡の方法だとか、頻度などその辺は詰めておかないといけないからな。概要をまとめ、ある程度はネコネの裁量に任せる事にする。まぁ連絡員として預けるのは必要だと思ったからだが、別の思惑もある。言った通り、あいつ等とは仲良くなったようだし、ネコネを同年代の者達と一緒に居させてやりたいという兄心だ。
「では、そのようにするのです。だけど、本当にハクさんで大丈夫ですか?信頼は出来ると思うですが正直いまいち頼りない印象があるのです」
頼りないか。確かに第一印象だとそう言う感じだなアンちゃんは。基本的にネェちゃんが絡む事や有事以外はそんな感じだしな。
「ま、ネコネの言う事も判らんでもない。基本的にネェちゃんが絡まない限りはボケっとした印象だからなアンちゃんは。だが面倒だと言いながらも仕事は任された分以上の物をこなすし、機転も利く。俺が知る限りだと一番適任だと思ってる」
「まぁ、マロロさんよりかは頼りになりそうなのです」
「ひでぇ言い草だな。まぁ、マロロは腕っ節って意味では流石の俺でも信用してるっては言えねェがよ」
「それもあるですが、マロロさんのあの自信なさげな態度が一番気に入らないのです。能力は十分にあるのにわたしに対してもどこかびくびくしているですし」
マロロの持ち味は、あの人柄と殿試に合格できるだけの頭脳だ。俺の見立てでは采配師としても優れた才を有していると見ている。ま、ネコネもなんやかんや言いながらマロロの事は認めているのだろう。だからこそ、その態度が腹立たしいのかもしれんな。
「そう言えばハクさんもあまり腕が立つ印象ではありませんが実際のところどうなのです?姉さまからは腕の方も相当立つと聞いているのですが…正直恋は盲目とも言いますし、どこまで信じていいのか半信半疑なのです」
「アンちゃんの腕か…そうだな、木刀を使っての模擬戦闘だったが、俺が本気でやって倒しきれなかったってので納得しねぇか?」
少なくともあの時俺は本気だった。あんだけ全力で戦えたのは正直ミカヅチやヴライを相手にした時以来だ。ネコネは…ありゃ、流石に衝撃が大きかったのかポカンとしてやがるぜ。
「は…?あ、兄さま冗談にしてもそれは……もしかして本当なのです?」
ネコネも最初は冗談だと思っていたようだが、俺が真剣な表情を崩さない事に本当の事だと理解したようだ。
「そうさな、あの時俺は全力だった。普段使っている刀より短い物だったとかいいわけならいくらでも言えるけどよ、それはアンちゃんも同じ事よ。アンちゃんの得物は鉄扇のようでな、なんであんな扱い辛い物を使うのかは分からねぇが腕は一級品だぜ。正直あの守りを突破できるとは俺でも自信を持ってはいえねぇ。攻めも守りに比べりゃぁ苦手なようだが、それでも堅実で隙を逃さねぇ強かさをもってて、一流といっても問題ねぇ。それにネェちゃんも相当な腕だ。なんせボロギギリを二人で討伐しちまうんだからよ」
アンちゃんはタタリに運良く(いや悪くか?)遭遇したと言っていたが、そこに関してだけは信じてねぇ。正直にいえばボロギギリ討伐の矢面に立たされると思ったアンちゃんが考えたいいわけだろ、あれは。ネコネは本当に驚いたようで眼を見開き、口は開けっぱなしだ。おいおい女子がする表情じゃねぇぞ、それは。まぁネコネの驚きもわかる。俺と引き分ける、それは本来とてつもねぇ事だ。自分でいうことじゃねぇかもしれんが俺はこの國の武の頂点に限りなく近い位置にいると自負しているからな。
「それは…兄さまが言うのだったら本当なのでしょうが。にわかには信じがたいのです。姉さまに関しては腑に落ちるのですが」
「なに、別に信じる必要はねぇさ。まぁそう言う事だから遠慮なくアンちゃんやネェちゃんを頼るといい。少なくともそこらの奴には後れをとらねぇはずだ」
「はぁ、兄さまの話が本当ならハクさんを倒せるヒトはこの帝都にも何人と居ないのです。それこそ兄さまを除けば、ミカヅチ様やヴライ様、後はムネチカ様くらいですか?」
ネコネの口から出る名前はこの帝都…いやヤマトにおいて最強に近い位置にいる武人の名前ばかりだ。俺は笑って頷く。
「おう、だから荒事なんかになっても問題はねぇと思ってる。さて、もうこんな時間だ、ネコネはもう休みな。俺は少し政務が残っちまってるから、それをやってから休むからよ」
「分かったです、兄さまもあまり遅くならないようにしてくださいです。それでは、おやすみなさい、兄さま」
「おう、ゆっくり休むといい」
そう言うとネコネは出て行く。さて、ちゃっちゃと終わらせて俺も休むかね。だがその前に…。
「出てきたらどうでい」
「ふふ、やはり貴方は誤魔化せませんね」
声を掛けると、先日賊討伐の際に協力してもらったオウギが現れる。そう言えば今日報酬を渡すと言ってたな、すっかり忘れてたぜ。
「…褒め言葉として受け取っておくぜ。それと先日は世話になったな、オウギ。これが報酬だ」
「それでは確かに。ああ、それと姉上から伝言です。“このような事は今回限りだ”だそうです。僕も姉上の指示には逆らいたくありませんので、今後しばらくは依頼を受けるのが難しくなると思います」
ああ、そういやこいつの姉ノスリは宮仕えの人間にあんまり良い印象は持ってないって話だったな。まぁアンちゃん達もいるし、しばらくはなんとかなるだろ。
「ああ、分かった。ノスリ殿には俺が感謝していたとだけ伝えてくれ」
「分かりました。それでは僕はこれでお暇いたします」
オウギはそう言うと去って行った。まったく、あいつら隠密向きの連中なんでこっちで抱え込みたいんだが、そうもいかねぇか。何はともあれ残りの政務を片付けるかね。
いつもの格好へと戻り、
オシュトル(ウコン)SIDE OUT