うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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八柱将~七光りの男~

八柱将~七光りの男~

 

 

「ハク様、こちらの件なのですが……」

 

「ああ、それか。それは基本的にクオンの管轄だな。一応数件の薬屋と懇意にしていて……」

 

 マロの件から数日がたった。マロンさんとロロは自分達と共に元気に過ごしている。自分達の意見がまとまってすぐに話は伝え了承を貰えた。マロンさんにはその日から仕事を手伝って貰っている。ロロは最年少として皆にかわいがられ、毎日を楽しく過ごしているようだ。

 それにしてもマロンさんは本当に優秀だった。今まではウコンが受けてきた仕事をそのまま処理していたのだが、今はその後にマロンさんが依頼主と交渉を行ってから仕事に入るようになっており、ここ数日の平均の稼ぎはマロンさんの来る前の二割増しといったところだ。元文官というだけあり数字や財の運用にも明るく、ここ数日の仕事ぶりを見て自分達のお金の管理をマロンさんにこのまま任せようと思っているくらいだ。もちろん確認などは自分でもやるがな。

 

 

「ハク兄さま、いま大丈夫ですか?」

 

 マロンさんと隠密衆の財政状況や依頼について話していると詰め所にネコネが入ってくる。途中で合流したのかロロも一緒のようで、仲良く手を繋ぐ姿は姉妹を思わせて大変に微笑ましい。ロロはネコネの手を離すと自分にも挨拶をしマロンさんの元へと向かいネコネに遊んでもらったと報告を始めた。

 

「はくにぃちゃ、こにちわ。ははさま、ねこねぇちゃにあそんでもらった―――」

 

「あらあら、そうなの。ありがとうございます。ネコネ様」

 

「いえ、ロロは良い子にしてたですし。お安い御用なのです」

 

 そうして、話がひと段落したところでネコネに声を掛ける事にする。今日はオシュトルのところに定期連絡という形で行っていたみたいだし、そちらで何かあったのだろうか。

 

「ああ、こんにちわロロ。ネコネ何かあったか?一応ひと段落はしているから今からなら問題ないが」

 

「あ、ハク兄さま。報告に行った際にオシュトルさまが頼みたい事がある為、至急来てほしいと。一応来られるヒトは全員集めて欲しいとの事なのです。それとマロンさんとロロを二人で残していくのは問題がある可能性もあるだろうから、お二人も一緒にとの事でした」

 

「ああ、了解した。今日は皆仕事が無かったり早く終わったりで戻って来ているはずだし、声を掛けて行くとするか。マロンさん、お二人も一緒にとの事なんで準備を頼む」

 

「はい、分かりました。ロロお出かけするから準備しましょうか」

 

「あい!」

 

 ネコネが言うには至急の要件がありオシュトルが呼んでいるらしい。マロンさんとロロも一緒に、との事だった為二人が準備をしている間に皆に声を掛け、集まった段階でオシュトル邸に向かった。

 

 

 オシュトルの屋敷に着き、オシュトルの部屋を目指して歩く。そういえばオシュトルはこんな屋敷に住んでいるのに金は無いって言ってたな。実は借家的な物なのだろうか。少し疑問に思った為、ネコネに聞いてみる事にする。

 

「なぁネコネ。ここはかなり広い屋敷だよな?金はあまりないって言ってたし、ここって貸し与えられたものなのか?」

 

「そうですよ。兄さまは右近衛大将という地位相応に俸禄を貰っているですが、元は下級貴族の出ですから。流石にこんな大きい屋敷を買うような資金は無いのです」

 

「そういう事なら納得かな。この屋敷の調度品は質素……というかあんまりお金が掛っている感じでもないしね」

 

「そうやねぇ。ウチの実家なんかだと、仰山高い物も置いてあるし、それに比べればここは調度品なんかは少ないしお金も掛ってない感じやぇ」

 

「……わたしも右近衛大将を務める方の屋敷にしては、質素だな……と感じてましたので、納得です」

 

 ネコネの答えに自分が納得する中、クオンとアトゥイ、ルルティエがそんな話をする。キウルなんかはあまり分かっていないようで貴族としての家の格がなんとなく見える結果になったな。自分としては調度品の善し悪しなんかは分からんから、ただただ金が無いって言っていたので疑問に思っただけなのだが。しかし、なし崩し的に仲間になったアトゥイだが問題なく馴染んでいるようでなによりだ。

 マロンさんもこういうのには詳しいのか三人の話を聞きながらうんうんと頷いている。流石はマロのご母堂ってとこか。名家の元嫁さんの面目躍如と言ったところだろう。ロロは流石に分からないようで元の自身の家より大きい事に純粋に驚いているようだが。そんな風に考えながら歩いていたからだろう、廊下を曲がってきた男とぶつかってしまった。

 

「……っと悪い」

 

「いえ、こちらこそ失礼しました。少々考え事をしておりまして。それでは失礼します」

 

 男はそう言うと、自分に頭を下げてその場を後にした。しかしあの男どこかで……、クオンとルルティエも自分と同じように感じたのか首を傾げていた。赤い髪の糸目の男か……みた事がある気がするんだがどこだったか。

 

「今の……どこかであったこと無かったかな?」

 

「あ、クオンさまもですが?わたしも何処かで見た事があるような気が……」

 

「自分もだ。……ダメだ思い出せん。この屋敷ですれ違ったりでもしたかね」

 

 クオンもルルティエもどこかすっきりしないのか、思案顔だ。そんな風に考えていると目的地に着く。まぁ思い出せないんだし対して縁のある奴でもなかったんだろ。

 

「オシュトルさま。皆さんをお連れしたです」

 

「うむ、入ってくれ」

 

 ネコネの呼びかけに応えるオシュトルの声に従って部屋へと入り、思い思いの場所に腰を下ろす。オシュトルの横には先日から采配師として仕える事になったマロが座っていた。その姿を目にし、嬉しそうに頬を緩めるとマロンさんは別室へとロロと向かう。

 

「良く来てくれたな、楽にしてくれ」

 

 毅然とした態度と、静かな物腰。いつ見てもウコンと同一人物だとは思えん。しかし今回はなんだろうな?前みたいな厄介な依頼じゃないと良いんだが。オシュトルは自分達を見まわし、全員がそろっているのを確認すると口を開いた。

 

「話とはいうのは他でもない。貴公等も知っての通り、昨今、この城下にて賊の被害が頻発していてな。そこで、とある人物が自分の所の蔵が襲われることを懸念し、見張り番を増やしたいと依頼してきたのだ」

 

 確かに最近の城下では賊の被害が多発している。その賊が盗みに入るのはいわゆる金持ちや悪徳貴族と言われる輩で俗にいう義賊という奴だ。まぁ民衆の反応は微妙だがな。その義賊、盗みだした物を民衆に配って回っているのだが屋根の上から投げて回る為、家の屋根や壁なんかに大きな穴が開くのだ。しかも金塊なんかを投げたりすることもあり、換金する事も出来ずありがた迷惑なところもある。実際に助かっている民衆もいるみたいなので総評して評価は微妙に落ち着く。

 

「厠の掃除なんかよりはそれらしい依頼だな。ま、雑用という意味ではあんまり変わらない気もするが」

 

「此度の件、その人物たっての願いでな。本来ならこういった私的な依頼は受けないんだが、今度ばかりは例外とさせてもらう。なにせこちらにとって、好都合な話であるからな」

 

「と、いうと?」

 

 確かに個人からの依頼とはオシュトルらしくないように感じる。クオンの言うとおり理由は聞いておきたいな。

 

「依頼してきたのが八柱将の一人、デコポンポだからだ」

 

「あのデコポンポ……なのですか」

 

 八柱将というとヤマトの要となる八人の将軍だ。ヤマトの姫様の生誕祭の時に一度だけ遠巻きに見た事がある。デコポンポっていうと……あのまん丸に肥えてた男だな、確か。始めてみた時にこんな男がヤマトの頂点と言われる将軍の一人なのかと自分の目を疑ったものだ。確か二つ名は『七光りのデコポンポ』だったか。あの後に聞いた話だが父親は稀に見る傑物で、その父親が帝へと頼み込んで椅子に座った人物らしい。本人は愚物で、民からの評判も微妙、能力的にも微妙でその事から七光りと言われ始めたとの噂がある、だったと思う。

 八柱将について一応ネコネが再度説明してくれているが、自身の父親がそんなに偉かったとは知らなかったアトゥイがネコネに呆れられていた。

 

「で、まさか相手がお偉いさんだから特別に引き受けたってわけでもないんだろ?」

 

「なに、今回はそう言う事と取ってもらって構わぬよ」

 

「……はぁ、まぁいいさ。どうせやる事には変わりはないからな」

 

 一応、オシュトルに暗に真意は何だと聞いてみるが、奴は笑うだけで取り付く島がない。納得はいかんがいいだろう、やる事に変わりは無いんだろうし、ほどほどに頑張るだけさ。

 

「感謝する。マロロ説明を頼む」

 

「了解でおじゃ。今回の依頼でおじゃるが……」

 

 オシュトルは感謝の言葉を告げると、マロが今回の依頼内容についての詳細を説明し始めた。要約すると蔵の前に陣取って賊の侵入を防ぐという事だった。今夜マロンさんとロロはオシュトルの屋敷で預かってくれるという事だ。

 説明を聞き終えた後はマロンさんに一声だけかけて、ネコネの案内でデコポンポの屋敷へと向かい、門兵に話を通して中に入れてもらった。

 

「しっかし、豪華な屋敷だな。どんなあくどい事をしたらこんな屋敷に住めるんだか」

 

「そんなこと言ったら駄目だよ。こんな立派な御殿の主なんだもの、きっと立派な御仁に違いないかな」

 

「………」

 

 デコポンポの屋敷はオシュトルの屋敷とは比べ物にならないくらいに豪華絢爛だった。自分は素直に思った事を口にしたのだが、クオンは好意的な見方をしたようだ。クオンの後ろにいるネコネの目が泳ぎまくっている事を見ても、自分の考えで正解だと思うぞ。

 

「うぇ~、悪趣味な屋敷やぇ。目がちかちかするぇ」

 

「み、皆さん、いらっしゃったみたいですから」

 

 アトゥイも自分に近い意見のようだな。デコポンポがきたようであくどい事をしただの悪趣味だの言っていた自分達を窘めるようにキウルが声を掛けてくる。

 

 とりあえずデコポンポの第一印象は悪趣味でぶくぶくと肥えた、ふてぶてしい態度の小男だな。ある意味貴族らしい貴族って感じだ。側女を大量に引きつれて自分達の方に向かってくる男を確認しながらそんな事を思う。正直関わりあいになりたいタイプの男ではないが……依頼人だ我慢するかね。

 そのまま歩いてきたデコポンポは自分達の前にどしっと腰を下ろすと自分達に話かけてきた。

 

「おみゃあらが補充の者達にゃもか。儂がデコポンポにゃもよ」

 

 デコポンポの風貌に自分以外の全員が、“うわー”とでも言うような顔をしていたようだが、デコポンポは好意的に解釈したようでそのまま上機嫌に話を続けた。

 

「そう堅くならずともいいにゃも。我が輩のような高貴な者を前にして、緊張するのは分かるにゃもが。話は聞いておるだろうが、おみゃあらには蔵の番をしてもらうにゃもよ。最近都を騒がす賊どもの噂は耳にしておるにゃも。まったく小うるさい蝿にゃもよ―――――」

 

 デコポンポの話は要約するとこうだ。蔵が多すぎて人手が足りないから、自分達に依頼をしているということだ。そこまで説明するとデコポンポはこちらの返事も聞かず、来た時と同じようにのしのしと戻っていくが、まだ話ていない事があったのかこっちを振り返りクオンに声を掛ける。どうやら先程のクオンの言葉が聞こえていたらしく、調度品の自慢をしたかったらしい。“下々の者たちにも儂の偉大さが分かるにゃもな、にゃぷぷぷ”というとその場を後にした。

 

「下々のもの……」

 

「「………」」

 

「……ごめんハク。私が間違っていたみたいかな」

 

 流石にこのメンツを下々のもの扱いは無いんじゃなかろうかと思いつつ、指定された蔵の防衛についた。

 

 

 持ってきた盤上遊戯などをしながら蔵の前で過ごす。正直なところ今回の依頼はそんなに肩肘はるものでもないし、持って来ていたのだ。キウルは難色を示したがクオンのOKも出たし(むしろ率先して遊んでいる)問題は無いだろう。

 

 自分はアトゥイに誘われ将棋をしているところだ。自慢ではないが自分は将棋は弱い。実践ならなんとでもできるが定石を知っていないと難しい類のゲームはほとんどやった事が無い。アトゥイから始まり、クオン、ネコネと三連敗し今はルルティエと対局中だ。えっと、ここかね。

 

「あ、そこは歩を置いて足止めとかが定石かな」

 

「ハク兄さま、弱すぎるのですよ……」

 

「……あやや」

 

「えっと、すみません、桂馬いただきます」

 

 流石にクオンとネコネ、アトゥイはあきれ顔でそう言ってくる。ルルティエもちょっと掛ける言葉が無いのかすまなそうにそう言うと自分の桂馬を取る。いいんだよ、ほとんどやった事が無いし、駒の動かし方を知っているだけな状態だからな……まぁ、自分でもちょっとなさけないなとは思っているが。

 

「だぁぁ、なにやってんだよ、もどかしい!!そこは歩を置いて足止めするとかあるじゃんよ!ちょっとどけよ俺にやらせてみるじゃんよ」

 

 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには先日捕まえたはずの賊の頭――モズヌが立っていた。というかまた逃げ出したのか。都の兵たちは何してんだ、まったく。皆も呆然として声が出ないようで固まってしまっていた。

 

「「「「「「……………」」」」」」

 

「あ、ヤベェ―――!?」

 

 モズヌも今の状況に気がついたのか、焦った声を上げる。これで三回目だしな、なんかこいつとは縁があんのかね。

 

「……ふむ、久方ぶりだな。してこの屋敷にどのようにして忍びこんだのだ?」

 

「……ヒィッ!!おめぇ等は―――ちっ、警備の奴らにも気がつかれたか。おい、野郎どもずらかるじゃんよ」

 

「待て――!」

 

 自分達が前に自身を捕縛した者たちだと気がつくと、モズヌは部下達を呼び一目散に逃げ始める。どうやら警備の者たちも気がついてこちらに向かってきているようだ。キウルが手に持った弓で賊に狙いを定めようとするも、もう背中は遠ざかっており、広大な庭の植木の中に消えて行った。よし、これで依頼は十分に果たしたはずだ。

 

「さて、警備に戻るぞ」

 

「え、えっとハクさま。追わなくてよろしいのですか?」

 

 ルルティエの言葉ももっともかもしれんが、それは依頼の範囲外だ。正直に言うとデコポンポの為に働く気にもならんし、最低限の仕事はしたのだ。もう放置しててもいいだろう。それにあいつらをまた自分達が捕まえると、都の兵たちの顔を潰す事になる。

 

「最低限の仕事は果たしているんだし、問題は無いだろうさ。それに今回もまた自分達が捕まえてしまうと、いよいよ帝都の兵たちの面目を潰してしまうからな」

 

「……そういう事でしたら」

 

「ですがハクさん、追跡だけなら行ってもいいのでは?」

 

 キウルはそう言うが、追うなら追うで構わんのだが、ここを離れるわけにもいかんし隊を二つに分ける必要がある。問題は無いと思うが相手は数も多いようだし、そんな危険は犯したくない。

 

「ここを放棄していくわけにもいかんし、隊を二つに分ける必要がある。正直皆のまとめ役としてそんな危険が増えるような話は容認しかねるんだよ」

 

「……そうですね。相手の数は多いようでしたし二つに分かれるべきではありませんね。わかりました。しかし、あのヒト達って先日の……」

 

「また、脱獄したみたいだね。確かにハクの言うとおりだし私達はここで大人しくしてようか」

 

 クオンがそう締めると皆は納得したのか各々警備に戻り始める。ルルティエも遊戯版を片付け一応周りを警戒し始めた。さすがに賊の襲撃(?)の後で遊ぶ気にもなれんし少しは真面目にやるかね。そんな風に考えていると警備の兵たちが駆けてくる音とのしのしとした感じの足音が聞こえた。これは……デコポンポかね。

 

「賊は何処にゃもーっ!?蔵は無事にゃもかーっ!?」

 

 手勢を引き連れたデコポンポは自分達に近づいてくると凄い勢いで自分に詰め寄り、そう聞いてくる。やれやれ、なんとも暑苦しい事で。まぁ、随分と欲深い男のようだし、財産が無事か気が気じゃないってとこかね。

 

「おみゃあら。早く質問にこたえるにゃも!」

 

「は、蔵の中身は問題なく。賊どもは撃退しましたが、逃走を図りました。自分達は逃走した賊の捕縛よりも蔵を護る事を最優先と考えここに残った次第です」

 

「逃がしたなにゃもか!?」

 

「いえ、逃げた賊どもが囮であり、自分達が離れた隙に蔵を襲撃する可能性がありましたので。お陰で蔵はこの通り無事です」

 

「にゃももぉ……とりあえずは褒めてやるにゃも」

 

 デコポンポは完全に納得したわけではないだろうがそう言うと、財産を確認するためだろう、蔵の中へと入って行った。ネコネがその後ろ姿を見ながら眉をしかめ、小さな声で自分達にだけ聞こえる声量で呟く。

 

「あれが、兄さまと同じヤマトの将ですか……」

 

「仕方がないかな。ヒトが皆、オシュトルのようにはなれないから」

 

『一大事でありますぞ~』

 

 そんな風に話していると、ひげを生やした背の高い厳つい風貌の男がデコポンポに近づきなにやら報告をすると、デコポンポは慌てた様子で何処かへと走っていった。

 

「何だったんでしょう?」

 

「さてな……さて、自分達は蔵の見張りを続けるとしようか」

 

 その後は何もなく終わり交代の人員に見張りを引き継いで任務は終了。自分達は報告をしにオシュトルの屋敷へと戻ったのだった。

 

 

「さて、皆よく役目を果たしてくれた。怪我は無いな?」

 

「ハイです」

 

「で、オシュトル。そろそろ、今回の依頼の裏にあった事情、教えてくれるんだろ?」

 

「えっ……」

 

「それは私もちょっと気になっていたかな」

 

 オシュトルの屋敷へと戻り、今回の依頼の成功を報告する。ルルティエやキウル、アトゥイなんかは気がついて無かったみたいだが、どう考えても今回の依頼には裏があるし、そろそろ種明かしをしてもらってもいい頃合いだろう。

 

「裏……ですか?」

 

「気がついていたか」

 

「なに、あれだけ色々と臭わされればな。なんとなくだが裏があるだろう事くらいは察しが付く」

 

「……そうだな、話しておくか。これは今後にも関わる事である故な」

 

 オシュトルは自分の言葉を聞き、楽しそうに口角を上げると今回の依頼の裏の事情について話始めた。

 今回の依頼人であるデコポンポには禁制品を隠しもっている疑惑があったらしい。どうもあの男、悪知恵は回るようで取り締まりなんかをのらりくらりとかわしシッポは今まで見せなかった。それで今回の件らしい。自分達が護っていたのとは別の蔵に

賊が侵入し、衛兵が調べてみたところ禁制の品が蔵から出てきて、いま都はちょっとした騒ぎになっているそうだ。いかに八柱将といえども物がものだけになんらかの沙汰は免れないみたいだ。自分達は囮だった、ということらしい。となると、自分達が護っていた蔵に来た連中もオシュトルの差し金なのか?あんな奴らを使うとは思えんが一応聞いておくか。

 

「で、自分達が護っていた蔵を襲ってきた連中もおまえの差し金なのか?」

 

「それは少し違います」

 

 背後に突然現れたその声に、オシュトルと自分、それにクオンを除いた面々が身を強張らせる。これは先程から近くにあった気配だ。オシュトルが気が付いていないとも思えんかったし、そのまま話し始めたのでオシュトルの配下かと思って放置してたがあたりだったか。

 

「あれは我らの仲間ではなく、情報を流して誘導した者達です」

 

「ふぅん。顔は良い男やけど、なんだかあんまり面白そうじゃない男やなぁ」

 

「これは手厳しい」

 

 声を掛けた男の顔を見て思い出す。先日すれ違った時にもどこかで会った気がすると思ったが、こいつノスリの弟か。名は……確かオウギと言ったかね。

 

「紹介しておこう。この者の名はオウギ。いま巷を騒がせている義賊のものだ」

 

「オシュトルさんとは、よくよく利害が一致しまして。こうして協力し合っているんです」

 

 オウギはオシュトルの言葉に付け加えるようにそういうと、帳簿のようなものを取り出しひらひらさせる。なるほどね、いままでの話から推測するにそれが今回デコポンポが禁制品を扱っていた証拠になるものってとこか。

 

「それが目的のものか」

 

「御明察です。いわゆる裏帳簿といわれるものですね。いや、随分楽な仕事でした、ご協力感謝します」

 

 自分達の話を聞いているキウルが兄上が賊と手を……とか言っているし、ネコネも愕然とした顔をしている。さすがにこの二人には知らせていない事柄だったか。

 オシュトルはそんな二人の様子に気がついたようで説明するように言葉を発した。

 

「ヒトに表と裏があるように、この帝都にも表と裏がある。秩序とは、その双方に安寧をもたらしてこそ盤石足り得るのだ。彼らは賊といえども悪漢ではない。某の手の届かぬ、帝都の裏を知る者たちだ。立場は違えど志を同じくしていると某は思っている」

 

「そんな大それた者ではないんですけれどもね」

 

「だが間違ってはいまい?」

 

 要は自分達の同輩ってところかね。まぁ、頭であるノスリの様子を見る限り悪い奴らじゃないってのは分かるし、自分としては構わんが。

 

「しかし、これだけは言っておかねばいけませんね。我々は持ちつ持たれつ、どちらが上というわけではありません」

 

「うむ」

 

 オウギの言葉にオシュトルが頷く。まぁ正直でなにより、おべっか使う相手なんかよりよっぽど信用できる。

 

「まぁ、そういうことなら納得だな」

 

「ハクさん……」

 

「そう固く考えるなって。悪党を懲らしめる為には、時には小狡い手を使わなくちゃならん時もあるって話だ。それにキウル、お前はエンナカムイの次期皇なんだろ?偉くなるとそういう清濁併せのむってのも必要になるって事だけ覚えておけ」

 

「……そうですね。わかりました」

 

 キウルは今回の話にあまり感情的には納得がいっていないみたいだが、必要な事は理解できるのか、自分の言葉にしぶしぶとした様子で同意を返してくる。キウルはそれでいい。そもそも、こんな手は使わないにこしたことは無い。だが、いつか國の皇として立つのなら、こういう事が必要な事もあるのだと知っておくのは悪い事ではないだろう。

 

「では、これが御約束のモノになります」

 

「確かに受け取った。ほぅ……これは食いでのありそうな輩が並んでいる」

 

「手を打つのならばなるべく急ぐ事をお勧めします。さもなくば姉が駆けることとなりますので。ご了承のほどを」

 

 例の物を受け取ったオシュトルが好戦的な雰囲気をわずかに醸しつつそう声を上げる。しかしオウギがいってる姉ってのはノスリの事か。確かにあいつは曲がった事は嫌いそうだったし、今みたいなのを聞いたら飛んできそうな印象はあるな。

 

「出来ればそれまでの間、足止めをしてもらいたいものだがな」

 

「御冗談を。姉上を止めるなど、そのようなこと僕にはできません。姉上は自由に駆けてこそ輝くのですから」

 

 それと賊討伐の時から思っていたのだが、こいつはノスリの事が好きすぎないだろうか?いや兄弟仲がいいのは何よりなんだがな。

 

「ああ、そうそう。この繋がりは、長である姉上の知らぬことなので、どうか御内密に。姉上が知ったら、朝廷に与するとは何事だと激怒するでしょうから」

 

「おいおい、いいのか?それ」

 

「いえいえ、姉上のあれは憧れへの裏返しですので問題ありません。姉上は素直じゃありませんから」

 

 “ですので姉上に偶然会う事になっても御内密にお願いします”そう言って、オウギは音もなく立ち去った。なんだか掴みどころのない奴だったな。

 

「ふっ、どうやらオウギに気に入られたらしいな。……いやなんでもない。これが此度の特別手当だ、収めて貰いたい」

 

「うん、確かにかな。えっと、今回の依頼の経費に、宿泊費、それにお茶代着物代を引いてっと。はいハクお小遣いね」

 

「いや、クオン別に良いんだが、できれば皆の前ではやめてくれ。……なんかこっぱずかしい」

 

「はいはい、でももう今更な気もするかな」

 

 いや、皆のまえでも散々いちゃついたり、今みたいなやりとりもしてるのは確かだがな。しかし今はこんなことをしてたら突っ込んできそうな奴が今傍に……

 

「おに~さん、尻にしかれてるんやねぇ」

 

「ほっとけ!」

 

 そのあと散々アトゥイにいじり倒された。


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