うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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4年間愛用していたPCが先週の休みにご臨終なされました。

新PCでの初投稿です!


兄との再会~うけつぐもの~

兄との再会~うけつぐもの~

 

 ウルゥルとサラァナの二人は仲間達になんとか受け入れられた。最初は自分に冷たい視線を送って来ていた女性陣もクオンの説得のお陰で現在は態度が軟化してきている。正直ルルティエからの視線とネコネからの視線はきつかったからな……。ノスリはそれも男の甲斐性というものだろうと気にしてなかったが。アトゥイは……どうでもいいか。あと二人が来てからルルティエが少し落ち込んでいたが、今は前にもまして自分とクオンに世話を焼いてくるようになった。それとこの数日の間にムネチカも自分達に謝罪をしに尋ねてきて、なにがあったのかは知らんがルルティエと仲良くなり自分たちにも馴染んでいるようだ。なんか今度はアンジュも連れてくると言って本当に連れてきたのは驚いたな。

 二人はいろいろと騒動を起こしながらも自分達との生活に馴染んでいる……正直クオンと一緒に寝ているところに忍びこんでくるのは勘弁だが。

 

 そして二人が白楼閣に来てから数日後の深夜、自分はまたあの場所に招かれていた。

 

「良く来てくれたのう客人」

 

「こんな時間にお呼びして申し訳ありません。ご迷惑ではありませんでしたか」

 

 ミト――いや兄貴とホノカさんはそう言って前のように出迎えてくれた。前とは違い自分もこの老人が兄貴だと気がついている為、この茶番のようなやり取りに少し苦笑が漏れたが。

 

「ああ、迷惑ではないよホノカさん、兄貴(・・)

 

 自分がそう言うと二人は驚いたようにこちらを見てくる。どうやら双子はまだ報告して居なかったようだな。今の段階で気がつかれているとは思っていなかったのだろう。固まる二人を見ながら自分は椅子に腰かけ、話をする姿勢をとった。

 

「「どうぞ、お茶です」」

 

 自分をここに案内してきたウルゥルとサラァナがそう言って自分の前にお茶を置いてくる。それにありがとうと返し、改めて兄貴と向きあった。兄貴は驚愕からは立ち直ったのか、静かな眼差しで自分を見てきている。

 

「……気がついておったのか、ヒロシよ」

 

 兄貴のその本気なのかボケなのか判らない言葉に肩の力が抜ける。自分は昔の名については全く覚えていないが確かヒロシという名前では無かったはずだ。それはちぃちゃんが見ていた、昔のアニメの主人公の父親の名前(声が似ていると言われ延々と真似をさせられたので覚えている)だろうが。

 

「……自分は少なくともそんな名前では無かったぞ兄貴」

 

「ふむ、ではホランドだったかの?」

 

「違う」

 

 その後も兄貴は達也、マース、アリー他にも色々と名前が出てきたが欠片もかすっている気配さえもない。自分が若干呆れた気配をしていたのに気がついたのだろう、咳払いをすると話を戻してきた。

 

「うほん、長く生きていると色々な物を忘れてしもうてのぉ。正直お前の顔は覚えていても名前は思い出せんのじゃよ」

 

「ならハクでいい。自分も名前については思い出せんし、今の自分はハクだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「そうか、ならばハクよ、いつから気がついていたのじゃ?まさか初めて会った時からではあるまい」

 

「ああ、気がついたのはその後だ。兄貴を謁見の間で見た時だよ。ホノカさんやアンジュ、気が付ける要素はいくらでもあったっていうのに自分も間抜けだなと思ったもんだ」

 

 兄貴は雰囲気を戻すと自分にいつ気が付いたのかと聞いてくる。自分はそれに時期に関しては誤魔化して話した。正確にはクオンに教えて貰ったが正しいからな。

 

「しかしなんで兄貴がヤマトの帝を?それになんで生きている。いや生きていてくれた事については嬉しいんだが、正直寿命で死んでないとおかしいはずだ」

 

「そうさなぁ、どこから話したものか……」

 

 自分の疑問に答えるように兄貴は昔話を始めた。

 

 自分が兄貴の実験の被検体として志願し眠ってからしばらくして、誰の手による物かは分からないが、気象制御衛生アマテラスによって人類の施設が攻撃され、人類はその数を大きく減らしたそうだ。幸い兄貴達が居た施設は攻撃されずに生き残ったらしいが、自分はその時の攻撃の余波による地殻変動で施設の場所が判らなくなったらしい。

 

 そこまで話すと兄貴はお茶を口に含み一息つく。自分としてはそんな事になっていたとは、としか言えんがまだ話には続きがあるようで再度口を開いた。

 

「しかしそこからが、人類の本当の絶望の始まりだったのだ」

 

「……なにがあったんだ?」

 

 自分の問いかけに答えるように兄貴は話を続けた。

 

 しかしそれからさらに人類は苦難の時を迎える。突然人が赤いゲル状の生き物(現在のタタリ)に変貌し他の人間を襲い始めたのだ。いつ隣人が自分を襲う脅威に変わるのか判らない状況の中、人類はお互いに殺し合い、お互いを信じることさえできなくなっていったという。その時に姉さんやちぃちゃんもタタリに変貌し、兄貴は泣く泣く別の研究所に移ったのだそうだ。

 その後、周りの人間は全てタタリとなったが、兄貴は自身の研究の被検体として自身で臨床実験をした影響か、タタリになる事は無かったらしい。その後、自身の研究の成果によって兄貴は外の世界に出る事に成功するもそこには荒野が広がるばかりで絶望したそうだ。

 兄貴は研究所に戻り、自分以外の生きている人間の痕跡を探したそうだが見つからず、その時に自分がハッキングして手に入れていたアイスマン計画のデータを見たらしい。孤独に押しつぶされそうになっていた兄貴は一抹の希望に縋るようにそのデータから獣人(デコイ)を生み出し彼らと一緒に暮らし始めたという。ちなみにアイスマン計画とは氷の中から見つかった旧人類の遺伝子を元に新しい種を生み出すという研究だ。

 

「しかし、それでは儂の孤独は癒されんかった。デコイ達は良く働き、増え、儂を慕い頼った。しかし、儂にはどうしても彼らを同族だと思う事が出来なんだ。そのときにお主の事を思い出した。もしかしたら生きているかもしれんとな」

 

「それがこのヤマトとどう繋がるんだ?」

 

 自分の問いかけに頷くと兄貴は話を続ける。

 

 兄貴は自分を慕う獣人達をまとめ上げ國をおこした。ヤマトの前身にあたる國だ。兄貴が自分の知識、技術、ノウハウなんかを惜しみなく与えたお陰でその國は瞬く間に広がり、近隣諸国を併合し続けた。いつしかその國はヤマトと呼ばれるようになり兄貴は帝と崇めまつられるようになる。そうして今のヤマトが誕生したんだそうだ。だが兄貴の目的は別にあった。ありとあらゆる遺跡を調査するという目的が。國を併合していったのは自分が眠る遺跡を探し出すのが目的だったらしい。兄貴は延命治療を行いながら長い時間自分を探し続けた。しかし自分は見つからず諦めかけていたらしい。

 

「そして、そんなときにお前を見つけたのだ」

 

「そうか、大変だったんだな」

 

 万感の思いを込めてそう言い自分を見つめてくる兄貴に、そう短く返す。兄貴の苦労を思うと言えた事ではないが自分には実感が湧かなかった。自分にとってはクオン達は仲間だし同輩だと思っている。……自分も前の時間でクオンに発見された際に記憶を持っていたら同じ気持ちを共有できたのかもしれないとも思うが、自分としてはあのとき記憶を失っていて良かったのだろうと思う。そのおかげで本当に大切だと思える者に出会えたのだから。

 

「儂の命ももう短い。この時にお主と再会できたことは天よりの采配だと思うておる」

 

「……兄貴はもう長くは生きられないのか?」

 

「なにアンジュが……あの子が成人し國を動かす者として十分に成長するまでは持つ。そうさなぁ、あと十数年といったところか」

 

 兄貴の余命が幾ばくも無いと聞こえるような言葉に少し動揺したが、思ったよりも長く生きると聞いて胸をなでおろす。しかし帝の地位を継がせるわけでもないようだし、兄貴は自分に何をやらせるつもりなのだろうか?

 

「で、兄貴は自分に何をやらせるつもりなんだ?」

 

「ふむ、お主には儂の研究を引き継いで貰いたいと思っておる。着いてまいれ」

 

 兄貴は自分の問いかけにそう答えると、ホノカさんに車いすを押され何処かへと向かう。自分もそれに着いていくと双子も自分に付従ってきていた。

 

 兄貴が自分を連れて行ったのは完全に生きている、人類の施設のようだ。明かりは着いているしシステムも問題なく生きている。長い時間が経過しているにも関わらずこんな設備が生きているとはな。なるほどこれがヤマトの帝としての力の一端というわけか。

 しばらく進むと、エレベーター前でホノカさんが止まり、この先は自分と兄貴の二人で言って欲しいと言ってくるので、その場にホノカさんと双子を残しエレベーターに乗り込んだ。エレベーターが止まると兄貴の車いすを押してそのフロアの中に入った。

 兄貴はそこの中ほどで自分に止まるように言うと口を開く。

 

「お主に引き継いで欲しい研究とはタタリ――人類を救済する研究の事じゃ。救う事は出来なくともその永遠に続く生を終わらせてやりたいと思っておる」

 

 そうして兄貴はモニターを立ち上げるとある映像を映し出す。

 

「これは……全部、タタリ……なのか?」

 

「帝都の地下の映像じゃ。長い時を掛け、儂が秘密裏に集めさせた。今はどうにか休眠状態にすることができておる。儂はこ奴らだけでもどうにかしてやりたいと思っておるのだ」

 

 そこに存在したのは赤、赤、赤……画面一面を埋め尽くす、どれだけいるのかも判らないタタリの大群だった。兄貴はこいつらを楽にさせてやりたいという。正直自分がこの時代に戻る前の大神の空蝉の状態であったなら彼らを何とかする事も可能だっただろうが、ウィツァルネミテアの弱体化に自分との繋がりの希薄さなどの要素が重なり今は出来る事ではない。それに今の自分には空蝉として動く気が無いのだ。それならば普通に考えて人の手には余る物だとも理解できた。

 

「この施設にもレーザー兵器などはあるが儂が持つ権限ではこ奴らを葬り去るだけの威力を出す事は出来んかった。じゃから其方にはマスターキーを探して欲しいのだ。この施設の端末を通じて何処かに存在しているのは判っておる。それを儂の代わりに探して欲しいのじゃよ」

 

「マスターキー?それを探せばいいのか?」

 

 兄貴は自分の言葉に頷きを返し、引きうけてくれるかと問うてきたので、その件については了承する。もちろん今すぐにとはいかないと念を押しての上でだが。兄貴はそれで問題ないと了承の言葉をくれ、自分にもう一つ頼みがあると言ってきた。

 

「アンジュの事なのだが、儂亡き後お主が後見として支えてくれれば良いと思っておる。無論、研究の片手間で良い。今度会った時にでも、その事を認めた文と儂が全権を与えた者に託す印籠を其方に渡すとしよう」

 

「……判った。なぁ兄貴、アンジュはちぃちゃんの……」

 

「うむ、そうじゃ。あの子は娘の遺伝子を、そしてホノカは妻の遺伝子を使って創造した獣人(デコイ)じゃよ」

 

 自分は兄貴の言葉に頷きを返すと、一番気になっていた事を尋ねた。すると案の定予想していた答えが返って来て、判っていたことなのにも関わらず動揺が自分の胸中に広がるのが判った。あくまでアンジュはアンジュ、ホノカさんはホノカさんであってちぃちゃんや姉さんで無いのは判っている。それでも……

 

「……未練だな」

 

 兄貴にも聞こえないようにそう呟くと、今の仲間達を思い出す。大切な恋人に、可愛い妹に、自分を慕ってくれる少女に、弟分のような少年、世話の焼ける生意気な少女。そして最近仲間に加わった義の心を持つ女性に、その少女をどこまでも大事にする弟の男性、自分を主と呼ぶ双子の少女。没落貴族の友にその家族、親友。そしてアンジュにその教育係の女性、ホノカさん、兄貴。いろいろな顔が自分の脳裏に現れる。心の中で姉さんとちぃちゃんに別れを告げ、仲間達の方に一歩を踏み出すと二人が頑張れと言ってくれたような気がした。

 

 

 ある程度話を聞いた後、自分達は元の庭園に戻り、兄貴とホノカさんに見送られながら庭園を後にした。双子の先導で歩くと白楼閣へと着き、隣室に双子を押し込んで自分とクオンの部屋へと戻る。

 

「おかえり、ハク」

 

「……ただいま、クオン。双子が術で眠らせてるって言ってたが起きてたのか」

 

 部屋に入るといつものようにクオンが待っていてくれた。双子が術で眠らせたとか言っていたが実際はタヌキ寝入りしていただけだったようだ。

 

「あのくらいの呪法になら抵抗出来るかな。ただハクの家族との対面を邪魔するのも悪いし、今日は寝たふりしていたけれど」

 

「そうか……」

 

 柔らかく微笑みながらそういうクオンが優しく自分を抱きしめてくる。まったく、お見通しか……。クオンも自分の様子が何処かおかしいのを感じ取っていたのだろう、自分を頭を自身の膝の上に乗せると優しく撫でてくる。正直、今はこの温もりがありがたい。今日はいろんな事がありすぎた、とりあえず今はこの感触に身を任せる事にする。クオンの口から聞きなれた子守唄が聞こえ出し段々と自分の意識は闇に飲まれていく。

 

「ハク、おやすみなさい」

 

 クオンのその声を聞きながら自分の意識は闇に閉ざされた。


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