うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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訪れる者~森の母と大神の巫~

訪れる者~森の母と大神の巫~

 

 オシュトルの執務室から聞こえてくる、静かながらも楽しそうな話し声を聞きながら部屋を後にする。

 

「な?問題なかっただろ」

 

「ええ、お父さまのあんな楽しそうなところは久々に見ました」

 

 トゥスクルからの使者が帝都に着いた日の翌日。ゼグニさんの怪我も動ける程度には回復したので、自分とエントゥア、そしてゼグニさんはオシュトルとの約束――ゼグニさんと語らってみたい――を果たすために奴の屋敷に赴いていた。特に問題もなさそうだった為、自分とエントゥアは先に帰ることにし、部屋を出てきたところだ。

 

「さて、あの様子だと長くなりそうだし先に帰るとするか」

 

「ええ、オシュトルさんからの依頼の件もありますし、白楼閣に待機していたほうがいいでしょうから」

 

 エントゥアとそう言葉を交わし、オシュトルの屋敷を出る。なんやかんやで結構出入りしているからか、屋敷の者も慣れたもので自分たちの事は気にもしていない。それはそれでいいのかと思わんでもないがな。

 

 オシュトルの屋敷を出てエントゥアと白楼閣への帰路を歩く。隣のエントゥアを見ると穏やかな表情で自分の隣を歩いていた。最近は完全に角も取れ、エントゥアから武士としての空気を感じる機会もほぼない。元々こういう気質ではあったんだろうな。

 

「じ~っ」

 

 そんな風に思いながら歩いていると自分とエントゥアの前方で口でそう言いながら見つめてくる女性が一人。ヤマトでは珍しい風合いの衣装に身を包んだ、素朴な感じながらも美人な女性だ――まぁ、ぶっちゃけるとアルルゥさんだな。

 

「で、なんでこんなとこにいるんだ?アルルゥさん」

 

「じ~っ」

 

 アルルゥさんは自分の言葉など聞こえていないかのように、しばらく自分とエントゥアを見つめ続ける。自分とエントゥアが固まっているとようやく口を開いた。

 

「……浮気?」

 

「って、んなわけあるか!」

 

「えっと、ハクこちらの方はトゥスクルの……」

 

 突然ぶっ込んで来た問題発言に全力で突っ込む。自分はクオン一筋だっての。自分と一緒にいたエントゥアもどこか頬を赤く染めながら、困惑したようにそう声を上げる。そんな風にやり取りをしているとアルルゥさんが近づいてきて自分の匂いを嗅ぎ始めた。

 

「すんすんすんすん」

 

「ってなにしてんの!?」

 

「うん、クーの匂いしかしない。勘違い。ハク、このヒトは?」

 

 アルルゥさんはしばらく自分の匂いを嗅いでいたかと思うと自分から離れそう聞いてくる。……誤解が解けたのはいいが自由すぎるだろ。このヒトはホントに……。

 

「ああ、こっちはエントゥアだ。自分たちの仕事を手伝ってもらっている。で、エントゥア、こちらの方はアルルゥさん、クオンの姉貴分みたいなヒトだな」

 

「ん、エントゥアよろしく」

 

「あ、はい。クオンさんのお姉さんなのですね。こちらこそよろしくお願いします。えっとアルルゥさんはどうしてこちらに?トゥスクルの方々は聖廟で持て成されていると聞いていたのですが……」

 

「ん、抜け出してきた」

 

 アルルゥさんはエントゥアの質問にあっけらかんとしてそう答える。正直頭が痛いがこのヒトならあり得るかとも思ってしまうな。カミュさんまで来てないだろうな……。

 

「ハク、クーのところに案内する」

 

「……それはいいんだが、カミュさんも一緒ってことはないよな」

 

「カミュちーは、まだクーを探してるはず」

 

 クオンのところに案内してくれというアルルゥさんにカミュさんの事を聞いてみるとそんな答えが返ってくる。……ほんとにこのヒト達は。自分が國の代表として来てる自覚はあるのか?まぁ、最低限の仕事はこなしているみたいだしとやかく言うほどのことでもないか。

 

「ハク、そのカミュさんというのはもしや……」

 

「ああ、その想像で間違っていないと思うぞ」

 

 エントゥアがそう聞いてくるので肯定を返すと流石にエントゥアも頭が痛いとでもいうように手を頭にあてる。ああ分かるぞ、エントゥア。自分も頭が痛いからな。もう諦めの境地に達してはいるが。

 

「早く案内する」

 

 そう言うアルルゥさんに急かされ自分とエントゥアはアルルゥさんを伴い白楼閣に急ぎ戻るのだった。

 

 

「クー、居ない」

 

「ああ、今は仕事で出てるからこれでも食べながら待っててくれ。エントゥア、アルルゥさんの相手を頼めるか?自分は少し仕事があるから部屋に戻る」

 

「あ、はい、わかりました。クオンが戻ったら呼びに向かいますので」

 

「ああ、頼む」

 

 白楼閣に戻るとアルルゥさんを詰所に案内し、お菓子と茶を出してそこで待っているように言う。さて一応クオンを探しに出るか。流石に心の準備も無しに合わせるのも酷だろうからな。なにもなければ部屋にいるはずだが……。

 そう思いつつ自室を目指す。そして自室の扉を開けたのだがそこにはクオンではなくある人物がいた。

 

「すぅ、すぅ」

 

「何故、ここで寝てるんだよ……」

 

 そこにいた人物――正確にはそこで寝ている人物を見て自分はそう声を上げる。そこには黒い羽根に浅葱色の髪の美人さん――カミュさんの姿があった。

 しかし腹をぼりぼり掻きながら眠るその姿からはもう残念美人という感想しか出てこない。自分はため息を吐きつつ頭に手をやりどうするべきかと考える。このまま気がつかなかった事にしてクオンを探しにいってもいいが、カミュさんがどう動くか分からないのは怖い。ここは起きるまで待つか、それとも起こすべきか……そう思っているとカミュさんに動きがあった。

 

「ん~」

 

 カミュさんはそう言って瞼を震わせると、ゆっくりと目を開いた。ま、起きたなら起きたでアルルゥさんと同じように詰所に案内するかね。

 

「ふぁ……クーちゃん、おかえり~。もう、遅いよクーちゃん、ずっと待ってたんだよ。便りも寄越さないで……カルラ姉さまから元気だって文は来てたけど」

 

 カミュさんは寝ぼけているのかそう言いながら、瞼をこすり身体を起こす。どうやら自分のことをクオンと勘違いしているみたいだがすぐに気がつくだろうし、そのままにしておく。

 

「一人でこんなに遠くまで来ちゃうし、心配……あれ?おじ……さま……?」

 

 カミュさんはそこまで言うと固まり自分を驚いたように見てくる。やっと目が覚めたらしいな。しかしおじさまとは……ふむ、ハクオロ皇の記憶によるとカミュさんからそう呼ばれていたようだし多分ハクオロ皇の事だろう。

 

「はじめましてカミュさん、自分はハクと言う。それと自分はそんなにハクオロ皇に似ているか?」

 

「うええぇ!?ど、どうして、クーちゃんじゃない!?」

 

「いや、不法侵入してたヒトに言われたくはないんだが……」

 

 そう言うカミュさんに自分がそう答えるとカミュさんは困惑したように見てきた後、自分の顔とトゥスクルに知らされていた情報を思い出したのだろう。自分の顔をじっと見てくる。

 

「あ、そうか貴方がハクちゃん。クーちゃんの恋人さんの。う~ん、こうしてみるとおじさまにはあんまり似てないんだけどなんでだろ?」

 

「いや、自分に聞かれてもな……」

 

 忙しくそう話しかけて思案顔をするカミュさんにそう返す。自分に聞かれても分かるはずもないことを聞かれてもなぁ。

 

「でもどうして……ちゃんとクーちゃんの気配を追ってきたのに……」

 

「いや間違ってはいないと思うぞ?ここは自分とクオンの部屋だからな」

 

「ああ、じゃあカミュは間違ってなかったんだ……って、ええ!!ちょっと今何て言ったの!?」

 

 そういって不思議そうにするカミュさんにそう返す。カミュさんは自分の言葉に納得したように声を上げると、次の瞬間びっくりしたように自分へと詰めよってきた。

 

「いや、だからここは自分とクオンの部屋だからな」

 

「……ク、クーちゃんが大人の階段を上っちゃってる!?クーちゃんに恋人が出来たのは知ってたけど、カルラ姉さまの手紙にはそこまで書いてなかったよ!?」

 

「……あー、流石にカルラ(ねえ)さんも配慮したんじゃないか?主にオボロ皇に」

 

 驚き若干取り乱すカミュさんにそう返す。姉さんの事だから配慮したっていうよりはその方が面白そうだからあえて伝えなかっただけではないかとも思うが、主にオボロ皇との事に配慮したのは多分間違ってないだろう。そうじゃないと文が届いた直後に自分を殺す勢いで乗り込んできていてもおかしくはないからな。

 

「あ~、確かにボボロ兄さまが聞いたら乗り込んできそう……。ハクちゃん頑張ってね?クーちゃんのことで、ものすごい顔してたし多分近いうちに乗り込んでくると思うから」

 

「……覚悟はしておくよ」

 

そう脅しでなく言ってくるカミュさんに、若干頬をひきつらせながらそう返す。こればっかりは覚悟を決めててもどうしてもな……。お互いに苦笑いしていると、カミュさんが部屋の外を見て声を上げた。

 

「あ!この気配」

 

 カミュさんがそう声を上げたタイミングで部屋の戸が開き、誰かが入ってきた。

 

「――良し、ここなら……。あ、ハク帰ってたん――カミュお姉さま!?」

 

「クーちゃん、久し振り」

 

「な、なんでここに……」

 

 入ってきたのはクオンだった。クオンは安心した様子で入って来た直後、自分の後ろにいたカミュさんをみて驚きの声を上げる。ああ、これは詰所のアルルゥさんに気がついて一旦部屋に逃げてきたな。

 

「カミュさんは部屋に不法侵入してたんだよ。それとクオン、アルルゥさんが詰所にいるのに気がついてこっちに来たんだろ?お願いされて断れなくてな、それでクオンを探してたんだが……」

 

「ああ、だいたい分かったかな……。ハク知らせてくれようとしてありがとね」

 

「いや、すまんな。勝手に連れて来て」

 

「ううん、覚悟はしてたから……」

 

 少し落ち込んだようにそういうクオンの頭を慰めるように撫でて落ち着かせる。クオンは気持ちよさそうにそれを受け入れてくれていた。しばらくするとクオンも落ち着いたようで目の前にカミュさんがいたことに思い至ったようで顔を赤くするが、自分にやめろとは言わなかった。

 

「うわ~、クーちゃんのあんな安心しきった顔久しぶりに見た。ね、アルちゃん」

 

「うん、クー気持ちよさそうにしてる。それとどことなく大人の顔」

 

「って、なんでアルルゥお姉さままでここにいるかな!?」

 

「クー、お久さ」

 

「あ、ハク。アルルゥさんが詰所から……ああ、ここにいたのですか」

 

 そんなこんなしているとアルルゥさんにエントゥアも集まって来て場が混沌としてくる。その後は恥ずかしがるクオンをよそにして、アルルゥさんとカミュさんによる『クーちゃんかわいい劇場~クーちゃんはじめてのお使いで迷子になってお漏らし~、~クーの反抗期と家出(夕飯時にお腹が空いて帰って来た)~、~クーちゃん怖い夢を見て泣きながら夜中に家中を走り回る(そしてお漏らし)~』などなど、クオンの小さい頃の恥ずかしい思い出が続々と暴露されたのだった。……クオン強く生きろよ。あとエントゥア、生き生きした顔で後でからかってやろうって顔してるがやめてやってくれ。流石にクオンも轟沈するから。話を続ける二人には……なにもいうまい。

 

 ひとしきり話し終わり、日が暮れる時間になるとアルルゥさんとカミュさんの二人は“また”と言って帰って行った。部屋には煤けた感じのクオン、苦笑いの自分とエントゥアが残された。なお自分はその後、クオンを立ち直らせるのにこれでもかってくらい甘やかしてやったのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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