別れの時~友との語らい/姉妹の語らい~
トゥスクル一行(+アンジュ)を帝都案内した日から数日、ついに明日はトゥスクル一行が帰国の途に着くという日。
自分は久々の休みを満喫していた。具体的には詰所の長椅子でごろごろとしつつ、ウルゥルとサラァナの淹れた茶を飲みながらフォウを撫でるという感じだな。クオンは仕事だし、トゥスクル一行とアンジュも今日は流石に襲撃はないだろう。心おきなくだらけることができるというものだ。
「よぅ!アンちゃん……って、今日はまた珍しいくらいに休み感をだしてんなぁ」
「ウコンか……今日の自分は閉店休業中だぞ。仕事なら明日以降にしてくれ」
自分がそう返すとウコンはこれ見よがしにため息をつき、手にぶら下げていた包みから徳利を二つ取り出して一つをこちらに放り投げた。
「付き合うだろう?」
「タダ酒は断れんなぁ。まぁ座るといい」
急にしゃきっとしだした自分を見てウコンは苦笑をこぼすが、特に何を言うまでもなく腰を下ろした。いつの間に用意したのか双子が肴を並べ始めていた。この洞察力は本当に謎だよな。ちなみにいつの間にかフォウの前にも果物が盛られておりどんな魔法だよと思ったのは内緒だ。こいつらならへんな呪法を使ったとしても驚かんがな。ちなみウコンが手にした包みから酒を取り出して置くと、いつの間にやら双子の手の中にわたっておりちょっと驚いた風なのが新鮮だったな。
「まずは一献」
「どうぞ、ウコン様」
「おぅ、悪ぃな。おとっとっと――」
「主様も、どうぞ」
「お、すまん。おとっとっと――」
双子は自分とウコンの徳利に酒をなみなみと注いでくれる。とりあえずは――
「そんじゃ、このタダ酒を祝して――」
「ぐうたらものの宴に――」
「「乾杯!」」
ウコンと徳利を合わせ、酒を味わう。うお、これはかなりいい酒だな。というより高そうな酒だ。
「――くぅぅ、美味い!真昼間に飲む酒は実に美味いな。それがタダ酒となればなおさらだ」
「そいつは持ってきた甲斐があったってモンだ」
二人でダメな大人の見本のように昼間から酒を飲む。これに勝る幸せはそうそうないと言っていいだろう。
「フォウ~」
フォウも果実を食べながらご満悦って様子だ。なんやかんや過酷なことにも着き合わせてるしたまにはいいだろうさ。……結構な頻度で高級な果実を与えているような気もするが、自分だけ美味いもんを飲んでいるっていうのもなんか気が引けるし気にしないでいいか。
「どうぞ」
「主様も、どうぞ」
双子がそう言って再度注いでくれる酒を盃で受けながら、ウコンに視線を向ける。こんな良い酒をもって来ているんだ。本当にタダ寄ったって可能性もなくはないが、なんか用件があるんだろう。実際今も依頼を受けている最中だってのもあるし、それ関係だろうか。
「んで?用件はなんだ。こんな良い酒を手土産に来たんだ。安くはないんだろう?」
「ふ……」
ウコンは静かに盃を傾けながら笑うと一気にそれを飲み干す。そしてニッと笑うと口を開いた。
「知っての通り、明日、トゥスクル大使様は帰國の途に就く。簡単な式典を執り行った後、御一行はそのまま出発って段取りだ。これでアンちゃん達に任した件はひとまず終わりってわけだな」
「……ああ、大変だったぞ。毎日のようにここに押し掛ける大使殿二人に皇女さん。一般人代表の自分にどうしろというんだまったく……だが、ようやくお役御免か」
「お、おう。その、なんだ、御愁傷さまだったな」
普段なら軽く返してくるウコンが顔を引きつらせるくらいには自分は饒舌しがたい顔をしていたらしい。まぁ、きついばかりではなかったが、気が休まる暇がなかったのは事実だしなぁ。
「うほん。……まぁ、それはいいとして、アンちゃん教えてくんな」
「……連中の事か?」
「ああ。どう、だった?」
ウコンはわざとらしく咳払いをした後、ウコンは目を細め鋭いまなざしで自分にそう問いかけてきた。……この話題が出たあたりで半ば確信していたが、ウコンの話はこれだったか。良い酒を持って来たのは予想を超えてトゥスクル一行と仲良くなった自分から出来るだけ情報を引き出すためってとこかね。
まぁ、それ自体は構わない。後はどこまでしゃべるかだが……まぁ、普通に接していた中で仕入れられた情報だけでいいよな。
「さて……どう、と聞かれてもな。ひと言でいえば……見たまんまだな。お人好しで、裏表のない気持ちのいい連中。見ている分には物見優山気分で、危機感ってものはこれっぽちもなかった。あまりにも無邪気で……國益のために躊躇いなく権謀術数をめぐらせねばならん大使とは思えんかったよ」
手元の盃を回し、揺れる酒を見つめながら答える。
「ま、大使としては失格なんだろうが……嫌いじゃないな」
少なくともあの御仁達を見る限りトゥスクルが良い國なのは疑いようがないだろう。実際、自分の記憶の中にうっすらと残るトゥスクルの様子も良い國と呼べるものだ。……ただその中に規格外の牙を持っているだけで。
「…………」
自分の答えに何を思ったのか、ウコンは考え込むように目を閉じている。そうだな依頼って事だったしもう少しだけサービスしてやるか。
「ただ大使殿……アルルゥさんもカミュさんも只者ではないとは思うがな」
「ほぅ……」
ウコンは自分の言葉にうっすらと目を開けると続きを促すように目で言ってくる。それに自分は気がつかなかったふりをして言葉をつづけた。
「片や
「……そこまで聞きだしたのか、やるねぇ」
自分の言葉にウコンがそう言って軽く詰め寄ってくる。これは少しサービスしすぎたか?だが自分が次に言おうとしている言葉に続けるのなら必要な話しだししかたないか。
「まぁ今はそれは置いといてだ。自分から言えることは、トゥスクルの側は今回、ヤマトに最大限に敬意を払っているって事くらいだよ」
「だとしたらいいんだが……まったく、俺の想像以上に重要な情報を持ってくるたぁ、アンちゃんはやっぱり侮れないねぇ。ま、しかしそれなら俺の印象からも外れないか。カミュ殿のあの底が見えない吸い込まれそうな感じ……まるでホノカ様みてぇだった。それにアルルゥ殿……はアンちゃんが全部言っちまってるが相当に修羅場をくぐってきてる、それにやはりあの獣、ありゃヒトの御せるものじゃねぇ。ああいうのを天恵っていうのかねぇ」
そういうとウコンは手に持った盃を傾け酒を飲みほした。なんか重い空気になってしまったし実際にあの二人がこの國に来た思惑の半分くらいを占めるであろう秘密を明かしてやるとするか。
「あとはそうだな……」
「なんでぇ、まだあるのか?」
ウルゥルから盃に追加の酒を注がれていたウコンはそういうと自分に視線を再度向けてくる。真剣な目をしているが自分がこれから言うのは本当に当事者以外からしたらばからしいとしか言いようのない話だから流してくれても構わんのだが。
「いや、あの二人、クオンの姉みたいなヒト達でな。この國に使者としてやってきた理由の半分くらいはクオンに会いたかっただけだと思うぞってだけなんだが」
「…………」
自分の言葉にあっけにとられたようにポカンとした表情を浮かべたウコンは、次の瞬間あきれたような声を漏らした。
「それはまた……。クオンの姉ちゃんも國元だと結構な人脈をお持ちのようで」
「クオンはあれで結構いいとこの出だからな」
「確かにちょっとした所作にも気品がある。良いとこのお嬢さんだってのも納得だが……」
ウコンは毒気を抜かれたような呆れたような様子でそう言うと肩をすくめる。先ほどまでの重い空気も少し和らいで酒も美味いってもんだ。
そうこうしながら飲んでいる内にウコンの持ってきた酒も切れ、明日の準備もあるからとウコンは席を立つ。しかし何かに気がついたのかこちらに目線を向けると手に提げた包みから何かを取り出しこちらに放った。
「っと、いきなり投げるな」
「わりぃ、わりぃ。ちとはええけど今回の報酬だ。助かったぜアンちゃん。今回はちぃとばかし色をつけてある。何も言わずに振り回す形になって悪かったな。
その侘びと今回の情報の口止め料だ。うっかり市井の口さがない連中に漏れようもんなら、二度とお天道さまを拝めないようになるかもな」
「……さて、なんのことやら」
自分はウコンのその言葉に肩をすくめる。言われずとも流石にそれくらいは分かっている。ウコンの色もどっちかっていうと今回の迷惑料って意味合いが強いんだろう
「ふ……無粋だったな。じゃ、俺はお暇するぜ」
「「お送りします」」
双子の言葉に自分も腰を上げようとするが、ウコンに手で制される。
「いや、ちょいと考えたいことがあってな。風に当たりながら帰るとするさ。じゃぁな、今日は良い酒だったぜ」
「ああ、またな」
座ったままウコンを見送り、ひとつ伸びをする。
「主様、まだ飲む?」
「でしたら、新しいものをお出ししますが?」
「いや、いい。自分も少し歩いてくるかね」
「「御一緒します」」
双子が進めてくる酒を断りつつ立ち上がる。若干シルエットの丸くなったフォウを肩に乗せ、自分に着いてくるといった双子を伴って午後の散歩と洒落こむことにしよう。
その日の夜、部屋でクオンと穏やかに過ごす。相も変わらず双子が突撃して来ようとするのだが、クオンが物理的に黙らせたりなんとか自分が説得したりしている(次の朝には自分たちの布団にもぐりこんでいることも多いが)。ちなみに今日はクオンが物理的に黙らせたので朝まで目は覚めないだろう。
ということでだ……
「クオン……」
「ハク……すき」
ここからは恋人の時間だ。
クオンがそう言いながら啄ばむようにキスをしてくるのに答えるように唇を降らしながらクオンを抱きよせ、クオンの着物に手を……
「(あ、あわわ……アルちゃん!く、クーちゃんが更に大人の階段を!し、しかもなんか手慣れてない!?)」
「(ん、クーも大人になった)」
なにかぼそぼそと声が聞こえた気がしたので部屋を見回してみると……
「!!!!!」
「(ん?いま目があった?)」
「(カミュちー術解いた?)」
「(解いてないよぉ。だから大丈夫)」
「ハクゥ……どこ見てるの」
堂々と自分達の部屋の入口に戸を閉めて立っている。カミュさんとアルルゥさんを見つけた。驚いて固まる自分をクオンは若干トロンとした瞳に不満の色を乗せて自分の顔を挟むようにすると自身の方へ向け、唇をふさいでくる。
「今は……私だけを見てて欲しいかな」
自分の理性をとろけさせるような声でそういうと、自分にぎゅっとくっつきながら上目使いで見つめてくる。
普段の自分ならこれで獣になっていた自信があるが、今の自分にそんな余裕はない。むしろなんか変な汗が流れてくるんだが。それもこれも……
「(うわ、クーちゃん積極的だよー!?なんかすっごい女の顔してるし)」
「(ん、これは私たちが見届けるべき)」
さっきよりさらに近づいてきている二人組のせいだ。
「クオン……」
「ん、なぁに?ハク」
「すまんが今日はお預けだな」
自分はクオンにだけ聞こえる声量で言うと飛び起きて、すぐそこまで近づいてきていたカミュさんとアルルゥさんを確保するために動く。飛び起きて最速でカミュさんとアルルゥさんの背後をとるように動き首根っこの部分をつかんで持ち上げた。
「(へ?)」
「(お?)」
「捕まえた」
「ハク、ホントにどうしたの?」
どうやらクオンにはこの二人は見えていないらしい。自分に首根っこをつかまれるような体勢になったアルルゥさんとカミュさんは不思議そうに声をあげて、ぎぎぎという音が聞こえてきそうな動きで自分を振り返ってくる。
「……え~と、見えてる?」
「ばっちりとな」
「ん?ん?」
「……まさか、この声」
先ほどまでひそめていた声を抑えなくなったことでクオンにも聞きとれたのか、事態を飲みこめて来たらしいクオンが硬直していくのが見える中、ジト目で二人を見ていると観念したのか何らかの術法が溶ける気配がする。
「え、えっと、こんばんは?」
「ああ、こんばんわだな、カミュさん、アルルゥさん。で、言いわけなら聞くだけ聞くが」
「あ、あはは、ほら明日にはトゥスクルに帰るし今日はクーちゃんのところにお邪魔しようとしたら、すんごい場面だったから……ね?」
「ん、私にはクーの成長を見守る義務がある」
「―――――」
クオンが段々真っ赤になっていく中、そんな言いわけとも言えないことをほざいた二人に自分の額に青筋が浮かんでいるのが分かるが先に爆発したのはやっぱりというか顔を真っ赤にしたクオンだった。
「なんで二人ともこんなところにいるかな―――――!!」
なお、絶叫ではあったが宿に気を使ったのか小声だったとだけ言っておく。
「まったくもう!非常識かな!」
怒髪天を突く、といった勢いで怒るクオンに並びながら自分も侵入者二人――カミュさんとアルルゥさんをジト目で見る。流石に今回のはまずいと思って小さくなっているかと思いきや……
「遊びに来ただけなのに……ねぇアルちゃん、トゥスクルへのお土産にこの間のおばあちゃんのお店でもらって来てた茶葉をもらっていこっか」
「ん、流石カミュちー。あれはいいものだった」
と、足を崩してのんきに平常運転の会話をしていやがるのである。流石の自分も堪忍袋の緒が切れるとこなんだがな……。そんなことを思いながら、クオンの様子に少しだけ引いてきていた怒気がふつふつと湧きあがり、再度自分の顔に青筋が浮かんできているのを自覚していると、自分の隣から何かがプッツンと切れた音が聞こえた気がした。
「……正座」
クオンが小さく呟くようにそう言うと部屋の空気が一気に冷え込んだかの様な感覚を覚える。心なしかクオンの周りに赤色のオーラのようなものが漂っているようだ。
「え~足がしびれちゃうから、い――「あ゛?」――は、はい」
無謀にも空気を読まずにそう声をあげたカミュさんだが、クオンの迫力に顔を引きつらせ、冷や汗を流しながら素直に従う。この段階に来てやっとクオンの怒りの大きさに気がついたらしい。で、片割れのアルルゥさんはというと……
「(そろ~り……そろー)……ハク、離す」
自分は少しずつその場から離れていこうとしていたアルルゥさんの肩に
「……正座」
「……」
そう言った自分の顔を見たアルルゥさんは更に冷や汗を流すと体を震わせながら、素直に座りなおして正座をする。
まったく何をおびえることがあるというのか、自分はこんなにもやさしくしているというのに。そう思いながら、アルルゥさんに
「(がくがくぶるぶる)」
「どうかしたのか?自分は笑顔で話を聞いてほしいと言っているだけじゃないか?」
「(がくがくぶるぶるがくがくぶるぶるがくがくぶるぶるがくがくぶるぶるがくがくぶるぶる)」
自分が更に笑みを深くしてそう言葉をかけると、アルルゥさんはまるで生まれたての小鹿のように震えだす。
アルルゥさんは助けを求めるようにカミュさんとクオンに目線を向けるが、片や固まって正座中、片や自分の味方が側だ。再度状況を認識した事でさらに表情を固めたアルルゥさんは救いを求めるようにクオンへと視線を向ける。
クオンはそれに気がついたようで目が全然笑っていない笑顔をアルルゥさんに向けて口を開いた。
「ちょ~っと、お話しよう。ね?カミュ姉さま、アルルゥ姉さま」
その言葉に全力で顔を引きつらせる二人に向かって、自分とクオンは笑顔で半刻ほど
「……この辺で許してあげるかな」
「……そうだな。カミュさん、アルルゥさん次はないぞ?」
クオンのその言葉を合図にして、お説教は終わりを告げた。なお、お説教を受けた二人はぐったりした様子でそれどころではないようだが。
「……クーちゃん、まさかエルルゥ姉様より怖いなんて……。あ、足が足がしびれッ!」
「……ん(ぐったり)。――ん!?(足が痺れているらしい)」
いや、怒気が引いてみてみると実に面白いことになっているようでなによりだ。自分とクオンは二人の傍に近づくと
「で、何か用事があったんじゃないのか?」
「そうそう、姉さまたち流石に何もないのに来たって事はないよね?」
「――――ッ!!!!???」
「――――んっ!!!???」
ちなみに声をかけている間も足をつつく手は休めていない。あと若干そう言ってカミュさんの足をつつくクオンの顔が黒い。自分も少し楽しくなってきたが。
そうしてひとしきり二人を悶絶させたのだが、ようやく足のしびれが取れてきたのか二人が口を開いた。
「あ、あした帰、――ッ、る。んっ!?」
「だから、――しびっ、そ、その前にクーちゃんにね」
「――――うん、知ってる」
本来シリアスな場面なのだろうが、そのうち二人が足のしびれが抜けきらないのかたまにビクビクと震えながら話すので、ギャグのような雰囲気が漂う。
「だ、――ッ!?だから――ァッ!?クーちゃんも一緒にって、しびッ!」
「しびッ!?約束の―――ッ!?期間、もう過ぎ――んッ!?た」
「―――うん。分かってる。だからもうちょっとだけって、お父様の許可はもらったかな。近いうちにトゥスクルにはハクと一緒に一回帰るから」
クオンは穏やかにそう返すが、はたから見てる分にはやはりギャグにしか見えないのだが……。言うべきか言わざるべきか迷うところだ。
「……うん、カルラお姉さまから聞いてはいたけど、一応……ね?あ~やっと痺れが取れたよぉ~」
「ん、クーに確認したかった」
やっと足のしびれが完全に抜けたのか二人は少しだけさびしそうな表情でそう言って微笑むと自分に顔を向けてきた。
「ということで、ハクちゃん。クーちゃんのことよろしくね」
「クーは大事なところで抜けてるから。ハクにお願いする」
「おう。承った」
二人の真摯な言葉に自分は目を見て頷き、そう短く返す。それに満足そうにうなずくと二人はクオンに近づき声を掛ける。
「身体には十分気をつけてね」
「……うん」
「生水は飲んじゃ駄目だよ?」
「カミュ姉さま、もう子供じゃないよ」
「うん、子供じゃねいけどクーちゃんだよ。そして私たちはクーちゃんのお姉さんなんだから」
「ん、クーはいくつになっても私たちの妹」
そう、言いながら抱き合う三人をみながら、自分は少しだけちーちゃんの事を思い出した。
その後、泊っていくのかと思ったが流石に抜け出したままなのはまずいのか二人は帰っていった(宣言通りばあさんの茶葉は持って行った)。
そして次の日の昼過ぎごろ、自分たちは皆で帰國するトゥスクルの一行を見送るため大通りへと出向いていた。周りには大勢のヒトが集まっており、少しだけ窮屈だったが。
「来たのです」
ネコネがそう言うのに少し遅れて周りが俄かに騒がしくなってくる。
それを聞きながら自分は腕に抱きついているクオンに声をかけた。
「寂しくなるな……」
「ハク……ううん」
自分の言葉にクオンは首を振って、周りを見渡す。
周りには――――
「ホロロロロゥ……」
「はい、またいつか会えたら……」
ココポが別れだと分かっているのか切なげに声を上げ(その巨体が邪魔なのか周りは少し迷惑そうにしていたが)、ルルティエが少しさびしそうにそう言う。
「なぁ、先頭の者の帯の色で、おかずを一品賭けないか?」
「うひひ、のったえ。ウチは赤な」
「ならば、青だ」
ルルティエの少し寂しそうな様子に気を回したのか、それとも素なのかノスリがそう声を上げると、アトゥイが乗った。
「寂しくなりますね」
「ええ」
キウルのその声にオウギが短く答える。
「お~、ヒトがいっぱいだなロロ」
「ん、シノねえちゃ、みえない」
「よいせっと、これなら見えるじゃない」
「おお~とぅちゃんたかいぞ~」
「ありあと、ヤクにいちゃ」
最年少コンビとヤクトワルトがそう話す。
「気のいい者たちだったな」
「はい、お父様」
ゼグニとエントゥアがそう言って笑いあう。
「主様?奥様?」
「どうかなさいましたか?」
自分たちの傍に控え、不思議そうにそう尋ねてくるウルゥルとサラァナ。
――――自分たちの大切な仲間の姿があった。
「私は一人じゃないから。それにハクがいるかな」
「そうか」
「うん、そう」
クオンはそう言って、目の前を通り過ぎていく行列へと目を向ける。
「それにすぐに会えるかな」
「ああ」
「トゥスクルに行って、ベナウィとクロウとウルお母様にハクの事を紹介するの」
「ちょっと緊張するがな」
自分はクオンにそう返し、クオンと視線を交わしあう。そうしているとネコネの声が聞こえた。
「あ、姉様、ハク兄様。カミュ様とアルルゥ様がこちらに手を振ってくださってるですよ」
そう言って顔を前に向けると少し遠めからこちらに手を振るカミュさんとアルルゥさんと目が合う。その口元が何かをゆっくりとこちらに向けて何か言っているようだったので唇を読んでみた。
「えっと、なになに……『あ・か・ちゃ・ん・が・で・き。た・ら・あ・わ・せ・て・ね』、『た・の・し・み・に・し・て・る』ってあのヒト達は……」
真っ赤になってこちらを上目づかいで見上げてくるクオンと、同様に唇を呼んだのであろうネコネが真っ赤になっているのを見ながら自分は苦笑を浮かべた。
「奥様の次は」
「私たちに」
「お前たちは…………」
「ぁぅ………」
「ぜぇぇっっったいにだめかな――――!!」
あとこの双子はどこまでもぶれないらしいことが改めて分かった。
ヤマトとの縁を結び、異国の使者は去りゆく。
この出会い、そして別れが後にどのような影響を及ぼすのか、まだ誰にもわからない。
読んでいただきありがとうございました