うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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本日2話目になります。

前話を投稿してありますのでお読みでない方はそちらからお読みください。


大いなる父の遺産~帝都直轄領遺跡にて~

大いなる父の遺産~帝都直轄領遺跡にて~

 

 

 次の日の朝、まだ日も昇らぬ早朝にやる気満々のクオンとネコネに叩き起こされた自分たちは朝食をとると、遺跡の入り口に立っていた。

皆の準備が問題ないことを確認し中へと入る。ちなみにここでもシノノンとロロの最年少コンビはついて来ている。遺跡はしっかりしているし、自分たちが全員そろっている状態で守りは万全。極め付けがマロンさんが知識人としての血が騒いだのか興奮した様子で着いてくるといったためだ。道中はそうでもなかったが遺跡を見てテンションがあがってきたらしい。

 昨日の内に学士達から調査済み区画の地図は渡してもらっていたから、まっすぐに未調査の区画を目指す。

 

「っと、この先は未調査の区画みたいだな」

 

「じゃあ、この先は……私たちが一番乗りって事?」

 

「ああ、そういうことだな」

 

 気分が高揚して目をきらきらさせているクオン(+2名)に自分は苦笑を浮かべるとそう答える。

 

「ネコネ!マロンさん!」

 

「ハイなのです!」

 

「ええ、ええ!いきましょう!クオン様、ネコネ様!」

 

 三人はそういいあうと、ウキウキしながら我先へと遺跡の奥へずんずん進んでいく。

 

「おいおい……あの姉ちゃん達、なんかいつもと雰囲気が違うじゃない?」

 

「あぁ……ネコネさんがどこか遠くへ行ってしまう……」

 

「エンねぇちゃ、母さま、たのしー?」

 

「え、ええ、楽しそうですね。あんなマロンさん、初めて見ました。……まぁ、クオンにもネコネにも言えることですけど」

 

 困惑する皆を促すように自分も声を掛けると、クオンたちの後を追って、自分たちも奥へと進んでいく。 

 遺跡の内部はこれまで進んできた道と同様かなりしっかりと残っている。やはり様式としては自分の生きた時代が一番近いようだ。しかしこの遺跡、どっかで見たことがあるような……。

 クオンとネコネ、そしてマロンさんの話からするとこの遺跡は珍しい様式の遺跡のようで、ヤマトの中の遺跡とは違うようだ。正直自分にはまったく違いは判らんが。

 

「……何を話しているのかさっぱり判らん」

 

「……同感やぇ」

 

 後ろでそう話すノスリとアトゥイに心の中で同意を返す。完全に畑違いな話な以上、あとは詳しいやつに任せるのが得策だろう。

 

「今回の件は、あの三人に任せた方がよさそうですね」

 

「ああ……そうだな。皆も一応周りを気をつけてな。何か見つけたらあの三人――クオンかネコネ、マロンさんに報告してくれ」

 

「はい、ハクさま」

 

 オウギの言葉にそう返し、振り返りって皆にそう指示を出す。辺りは薄暗いがシノノンもロロも物怖じせず遺跡を興味深そうに眺めている。

 そのまましばらく進むと道のない奥まった部屋のような場所に出る。皆あたりを確認しているが特に扉らしき物は無いようだな。

 

「ふむ、行き止まりか?」

 

「みたいじゃない。ゼグニの兄さん」

 

「ということは、調査はここまで……でしょうか?」

 

「ええ、ここまでそれらしき物もなかったようですし」

 

「ううん、絶対に見つかってない扉なんかがあるはずかな」

 

 これで調査は終わりだろうという風に話す男性陣に、クオンがそう言って声を掛ける。自分もクオンと同意見だ。兄貴が可能性が高いといった以上、絶対に何かがあるはずだと思うのだが……。

 

「しかしオウギのいうとおり、ここまでそれらしき物は見当たらなかったが……」

 

「経験上何もなさそうな壁に扉があったりすることが多いんだ」

 

「そうなんですか……?」

 

「ええ、クオン様の言うとおり、そういう場合が多いのですよ」

 

 クオンの言葉に皆半信半疑ながらも辺りを調べる。しばらく調べていると崩れた瓦礫の向こうをネコネがじっと見ているのに気がついた。

 

「ネコネ、どうかしたか?」

 

「ハク兄様……あれ扉じゃないかと思うのですが……」

 

 そう言ってネコネは瓦礫の先を指差す。その先を目を凝らして見て見ると、なるほど確かに扉らしき物がある。

 

「やった。ネコネお手柄かな!」

 

「いえ、姉様の言葉があったからなのですよ」

 

 クオンはネコネと自分の会話が聞こえたのか、そう言うとネコネの手を引いて扉に近づくその後ろを会いかけるようにマロンさんも近づいていった。

 しばらく調べていたようだが扉があかないようなので自分も近づいてみる。

 

「だめ……ですか。開きませんね」

 

「そっか……」

 

「なんとかこじ開けられそうにないのですか?」

 

「……ちょっと下がってな」

 

「……ヤクトワルトさん?」

 

 近づいてきたクオンとマロンさんがそう言って言葉を交わす中、ヤクトワルトが前に出てくる。

 皆が訝しげに見る中、抜刀の構えを取ると――

 

「……はっ!!」

 

 剛剣一閃。

 

「とまぁ、ざっとこんなもんじゃない?」

 

――一瞬で扉はただの鉄くずになった。

 

「と、扉が……」

 

「流石はヤクトワルトってとこか?」

 

「ああ……見事な業の冴え。剣の腕だけならあのオシュトル殿に勝れども劣らん」

 

「ええ、惚れ惚れします」

 

「フォ~ウ!フォウ!!」

 

「いやぁ、褒めすぎじゃない」

 

 自分を含めた男共がヤクトワルトを誉めそやす中、件の三人はその様子にも目もくれずに扉の中に入っていく。

 自分たちはその様子に肩をすくめると皆を促し、中に入っていった。

 

「う~ん、また通路……か」

 

「ええ、構造としては次辺りで奥に着きそうですね」

 

「ハイなのです」

 

 三人がそういいながらさらに中に進もうとしたのだが――ノスリが急に立ち止まる。

 

「?どうしたの。ノスリ」

 

「……この音。聞こえないか?」

 

 ノスリにそう言われ耳を澄ます。自分には何も聞き取れないが……

 

「……これは、何者かがこの先で戦っている?」

 

「オウギもそう思うか?私には何者かが刀を振るっているような音に聞こえるが」

 

 オウギもそう言っていることだし、この中に何者かが入り込んでいるのは確かなのだろう。

 そう判断し皆の様子を見る。シノノンとロロ、そしてマロンさんは連れて行くべきではない。そして戦闘が起こる可能性が出てきた以上、それなりの戦力を護衛として残す必要があるか……。

 

 思考は一瞬。ある程度の戦力を率いて偵察の必要があると判断する。ただし連れていけない者も居るため少数精鋭で行くべきだ。

 まず、狭い遺跡の中ということで、遠距離攻撃を主体とするノスリとキウルは除外。ただしノスリには案内で着いてきてもらう。なので消去法で隠密行動に長けるオウギも除外。それに狭い場所での戦闘の可能性があるため巨体のコポポに乗って戦闘に参加するルルティエも残す。あとアトゥイも暴走の心配がある為外し、本当に念のためだがこの場での最高戦力といえるクオンを残すか。……後、双子もクオンの護衛の名目で残していった方が無難だな。

 

 後は誰でもいいだろうということで、歴戦の武士であり冷静な判断を期待できるゼグニさんとその娘のエントゥア、そして向かった先で治療が必要なことを考えて治癒の術を使えるネコネ。この三人を連れて向かうことにする。ヤクトワルトを連れて行くことも考えたがこの状況ならシノノンの傍に残していった方が無難だろう。あと、フォウはクオンに預けていくか。

 

「ゼグニさん、エントゥア、ネコネ着いて来てくれ。ノスリは案内を頼む」

 

「うむ」「はい、ハク」「ハイなのです」「承った」

 

「皆はさっきの通路で待っていてくれ。クオン、フォウを頼む。後は任せたぞ。ウルゥルとサラァナはクオンを頼む」

 

「うん、皆も気をつけてね」

 

「「御心のままに」」

 

「フォウ、フォ~ウ」

 

 そう言うと、フォウの鳴き声をバックに先導するノスリについていく形で通路を奥へと進んだ。

 

 

Interlude Side クオン

 

 

 あの後、ハクが行ったのを見送ってから元の通路に戻った。もちろんハクが戻ってくるまで大人しくしているしているつもりだったんだけど、マロンさんが新しい扉を見つけたのをきっかけに好奇心を抑えきれなくて、先ほどと同じようにヤクトワルトに扉を斬ってもらって中に入った。

 

「ここは……」

 

 入った先は広い空間。しかし薄暗くて周りが良く見えない。何かが並んでいるようなのは一目両全なんだけど……

 

「予備の明かりをつけます」

 

 オウギがそう言って追加で明かりをつけるとその部屋の全容が見えてくる。

 

「……っ!」

 

 私は似たような光景を知っていた。そこにはハクが眠っていたところと同じだ。ハクはレイトウスイミンソウチって言ってたかな?

 

「これは……墓所ですね」

 

「お墓……ですか?」

 

 そう話すマロンさんとキウルの声を聞き、それに近づく皆について歩きながらも思考を続ける。原理はよくわからなかったけれど、ハクは大いなる父(オンビタイカヤン)達が大災厄から逃れるために眠りに着いたんだろうって言ってた。もっともそれでも……タタリに変貌するのは止められなかったみたいだけど。

 

「はい。過去にもこれと同じものが発見されていて、そこには古代のヒトが埋葬されていたらしいと聞いています」

 

 同じような話をハクにしたら、それは装置が止まってしまったんだろうと言っていた。もし止まっていないんだとしたらそれは……

 

「―――ッ!」

 

 そこまで考えて血の引くような感覚を覚える。もしそうなのだとしたら私たちは大量のタタリ(・・・)の――正確にはそれに変貌する可能性のある物の近くに居ることになる。

 

「皆!ここを出るかな」

 

 だから、つい大声がでてしまった。

 

「わっ!?」

 

 私の声に驚いたキウルがバランスを崩し壁に寄りかかるようにしてバランスをとった。それで少しだけ冷静になる。そうだ作動はしていないんだからゆっくり出れば――――

 

 

―――ピッ――― 

 

 

 小さく、しかしそんな音が確かに聞こえた後、部屋に明かりが点った。

 

「!!皆、入り口に走って!!」

 

「ど、どうしたのですか。クオン様」

 

「いいから早く!」

 

 戸惑う仲間たちを急き立てその場を離れる。後ろを振り返ると壁から棺のような物がせり出てきているのが見える。そして何か力が加わったのだろう。そのふたが開き何かが噴出しているのが見えた。

 

「ったく、なんだってんですか姉御」

 

「―――!!皆、ここ塞ぐよ!!」

 

 その様子に急いでここを塞ぐように指示を出す。皆は戸惑いながらも私の尋常じゃない様子に何かを感じたのか、周りから扉を塞げそうな物を持ってきてくれる。

 

「――ぁ、あぁ」

 

「ルルティエさん、どうかしたのですか?」

 

「ヒ、ヒトが……」

 

 扉の奥を覗き込んでいたルルティエが、見てしまったようだ。できれば見せたくなかったんだけど。

 

「……ルルティエ、見ないほうがいいかな」

 

「で、でもクオンさま!」

 

 そう言ってくるルルティエに首を振ると、その光景を見ないように抱きしめる。

 

「おい、おい!なんじゃそりゃ……」

 

「ヒ、ヒトがタタリに……」

 

 皆はその光景を見てしまい呆然とする。私も何も知らなかったら同様の反応をしただろう。だが今は――

 

「早く扉を塞ぐかな!!」

 

「!!っおう」

 

 私の声に正気づいた皆は急いで扉を塞いでいく。なんとかタタリに気がつかれないうちに扉を塞ぐことはできたんだけど……

 

「アトゥイ、ヤクトワルト扉を見張ってて」

 

「うひひ、なんか面白くなってきたなぁ」

 

「……分かったじゃない姉御」

 

「マロンさん、シノノンとロロを連れて先に出てるかな。それとここの封鎖の用意を。オウギは三人を送っていって。皆はハク達が戻ってくるまで待機。良い?」

 

 矢継ぎ早に指示を出し、一息つく。皆は異常事態だと分かっているのだろう、私の指示に黙々と従ってくれた。マロンさんたちは急いで出口の方へとかけていく。

 ただ、少し余裕が出るといろいろと疑問に思うことが出てくるのだろう。私の顔をちらちらとルルティエが伺っているのが見えた。

 

「え、えっと、クオンさま……これは」

 

「うん、ここを出たら話すから、今はちょっと待ってて」

 

「ハ、ハイ……」

 

 皆、戸惑っているようだがここでゆっくりと話すのは得策じゃない。幸いハク達が奥に行ってからそれなりに時間が経ってるからそろそろ戻ってきても可笑しくはない。

 

「フォウ!」

 

「あはは、フォウ私は大丈夫かな。ありがとう心配してくれたんだ」

 

 私を元気づけるように体をすりつけてくるフォウを安心させるように優しくなでる。少し気分も上向いたような気がする。

 

「……ハク、早く戻ってきて」

 

 そう小さく呟くのと奥のほうから足音が聞こえてきたのはほぼ同時だった。

 

 

Interlude out




お読みいただきありがとうございました。

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