よければお読みください。
目覚める者~三人目の大いなる父~
Interlude Side ???
「―――んっ」
意識が覚醒する。
しかしこんなにはっきりしているのはいつ振りだろうか?
そう……あれは最近おじちゃんと似た人―――ううんあれはおじちゃんだった。わたしがおじちゃんを見間違うなんてあるはずがない―――を見た時が最後だったような気がする。
「あ、目が覚めた?」
その声につられるようにしてそちらへ顔を向ける。この人は……確かおじちゃんと一緒にいた人だ。でもなんでこんな普通に話しかけてきているのだろう?わたしは確かあのおぞましい怪物の姿のはずなのに。
そう思い
「え――――?」
「どうかしたの。なにか不調なところがある?」
手がある、足がある、体がある、顔がある。人の体をしている。
思わず目の奥から熱いものがあふれ出てくるのが感じ取れた。
「ち、ちがうんです。わたし――」
わたしが急に泣き出してしまってその人を困らせてしまっているかと思いそう声を上げる。その瞬間暖かい――まるでお母さんのようなぬくもりに包まれた。
「――――」
突然の事で頭が真っ白になったけれど、その温もりが離しがたくて自分からもギュッと抱きつくようにしてその胸に顔を埋める。その人は優しく頭をなでながらわたしが泣きやむまでそのまま抱きしめてくれていた。
「――すん。ご、ごめんなさい」
「ううん、大丈夫。だけどそれだけ泣いて私に抱きついて来れるってことは体は問題なさそうだね」
きれいな声に惹かれるように顔をあげ、謝りながら改めてその人を見る。とてもきれいな人だ。艶やかな流れるような黒髪にきれいな顔立ち。優しげな眼差しがわたしを見ていた。だけど見慣れないものが付いてるのをみてふと首を傾げる。獣のような耳にしっぽ。服装も古風な感じだし、この人は俗にいうこすぷれいやーという人種なのだろうかと思う。
わたしの視線が耳としっぽにいってるのに気がついたのかその人は一つ笑うとわたしに声をかけてくる。
「疑問に思ってることは大体わかるけれどこの耳もしっぽも自前かな。ハクも同じ反応をしてたからちょっと新鮮」
「……お姉さんは人間じゃないの?」
耳としっぽが自前。そう聞いて思わず失礼な質問が口を衝いて出る。確かに自分と違うところもあるのかもしれないけれどこの人はわたしが泣いてしまった時に優しく抱きしめてくれた優しい人だってわかっているのに……。少し自己嫌悪に陥るわたしに気が付かなかったようでお姉さんは質問に律儀に答えてくれる。
「貴方と完全に同じヒトとは言い難いかな。わたしたちは――あなた達の中の科学者が遺伝子を掛け合わせて作りだした新人類……その子孫ってとこ。違いとしては耳とかしっぽがあって、あなた達より身体能力的に優れているってことかな?」
「えっと、その……ごめんなさい」
「?なんで謝るの」
お姉さんはあっけらかんとした様子で気にしていないようだが、罪悪感からそんな言葉が思わず口をついてでる。
「……あんまり気持ちのいい言葉じゃなかったかなって思うから。だからごめんなさい」
「そっか……でも、あんまり気にしないでいいかな。あなた達から見て純粋な人間っていい難いのは事実だし。あ、でもそのことをちゃんと把握してるのってごく一部だから、私以外には言わないようにね」
「うん……わかった」
お姉さんの言葉に素直に頷く。そんな優しい表情で諭されたらなにも言えないではないか。
少し落ち着いて自分がお姉さんの名前も知らないことに気が付く。正直わからないことだらけだがまずはそれを聞こうと思った。
「えっとわたしはチア。お姉さんの名前は?」
「私はクオン。それにしてもだからチィちゃんなんだ」
「なんでその呼び方を……もしかしておじちゃん?」
お姉さん――クオンさんがそう言った事で、そのことに気が付く。確かにクオンさんはおじちゃんと一緒にいた。それならおじちゃんからわたしの事を聞いていてもおかしくはないはずだ。
それに気がつくといてもたってもいられなくなる。わたしがあの化け物の姿になってたくさんの時間が過ぎたはずだ。それなのになぜおじちゃんがまだ生きてるのかとか、難しいことは全然わからないけれど今はともかくおじちゃんに会いたかった。
「うん、貴方のおじさん――今は自分の名前を忘れちゃってハクって名乗ってるけど。そのハクから聞いたの」
「えっと……おじちゃんは?」
「うん、じゃあ今から会いにいこっか」
「ホント!!」
その言葉に思わず身を乗り出すとクオンさんは優しく微笑んでわたしの手を引いてくれる。
わたしが寝ていたところから外に出る。わたしはどうやら昔に本の中で見たことのある馬車みたいなものに寝かされていたみたいだ。そんなことを思っていたのだが、馬車から降りて顔をあげると考えていたことはすべて吹き飛んだ。
「ぁ―――――」
そこに広がっていたのは、夢に見ていた外の風景、荒野と呼べるような土地ではあるのだが――――植物、生き物、風、水の音、全てが生命の息吹を感じさせるその光景にわたしは圧倒される。
それは人類がいつか取り戻したい、いつか戻りたい、そう思っていた大地そのものだったから。
「…………」
そんなわたしをクオンさんが優しく見ているのに気がつく。なんか気恥しくてそっぽを向きながらもその手をぎゅっと握る。
「じゃあいこっか」
「……うん」
優しくそういうクオンさんに頷き、土の感触をかみしめながら歩く。しばらく歩くと、10人くらいが地面に座って休んでいる様子が見えてくる。
その奥の方から歩いてくる人影だけがやけに鮮明に見える。少し髪は伸びてて、見たことがないような服装をしているけれど間違いない――――わたしが間違うはずがない。それは―――あの日わたしに何の言葉もなく眠りについた大好きなおじちゃんだ。
その姿を見た瞬間にクオンさんから手を離し駆け出す。いろいろと言いたいことや話したいこともあった。だけど会ってみればそんなことは吹き飛んでしまっていた。
近づいてくるわたしの姿に驚いたような顔をしているおじちゃんの胸に思いっきり突っ込む。なんか目が熱いが知ったことではない。
「っと、チィちゃん大きくなったなぁ」
「―――バカ、ばかばかばかばか!おじちゃんの大バカ!勝手に居なくなって!―――寂しかった」
「……ごめんな」
おじちゃんはそう言うと優しく抱きしめながら、わたしの頭をなでてくれる。なんか周りが騒がしい気もするがそんなの気にならない。わたしは懐かしくて優しいおじちゃんの胸の中で涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いて泣いて泣きまくったのだった。
Interlude out
お読みいただきありがとうございました。
ちなみにチィちゃんの名前は迷ったのですが、アンジュ→ange(フランス語で天使)→angel(天使)→智天使(天使の階級のひとつ)→智天(ちあ)→チアです。