出会いにして再会~義侠の男~
「おはよう、ハク」
「おはよう、クオン」
翌朝、自分の目が覚めると同時にそう言ってきたクオンにそう返す。クオンは自分の隣で布団に入っており、衣服は一切身にまとっていない。…まぁ自分もなのだが。
その姿を見ていると心の底から愛情やらなんやらがあふれ出してきて、その心の赴くままにクオンの頭を優しく撫でた。嬉しそうに微笑み返してくる表情は自分に幸せを感じさせてくれる。
「…その、体の方は大丈夫そうか?初めてだってのに抑えが効かなくて結構激しくしちゃった気がするんだが」
「まだ、ちょっと違和感があるけど問題ないかな。…確かにちょっと疲れたけどあんなに求めてくれた事は嬉しかったし」
「…そっか、ちょっと風呂でも行くか?なんやかんやで汗もかいてるしな」
「賛成かな。でももうちょっとこうしてたいんだけど、ダメ?」
「こんなに幸せなのに、自分がダメだというと思うか?」
その返答にクオンは自分の胸にすり寄るようにしてから目を閉じ、幸せそうな表情を見せた。あと5分だけだぞと言って、自分もその幸せな熱に身を任せることにした。
風呂にも入って、とりあえず朝食をという事で部屋を出る。
女将さんに言って朝食をもらい、今日の予定について話し合う事にした。
「一応、女将さんに村の困りごととかを聞いて仕事をもらってるからそれをやろうと思ってるけど…」
「わかった。出来る分については自分でやっておくから今日のところは一日ゆっくりしてろ。一応本調子じゃないんだろ?」
「うう~それはハクのせいかな。仕事はしないからハクについて行っちゃダメ?」
今日は仕事はするなと言うと顔を赤くしてジト目で見てくるがむしろかわいものだ。
そして自分についてくるというがこれについては諦めるしかないだろう。クオンの不安もいくらか緩和されているが、まだ再会して数日だ。しばらく、こういうのは甘んじて受けようではないか。
「(治ったら治ったで寂しいって思いそうだが…)わかった。今日も一緒にいようか。ただし無理はするなよ?」
「うん、ありがとうハク!ちゃんと大人しくしてるかな」
今日の予定も決まったところで女将に仕事の確認に行く。任された仕事はアマムの粉の運搬とアマムの粉ひきだった。
それと昨日報告したボロギギリの件について尋ねたが、村長は今回の事を信じてくれたようで、現在は国に対応を依頼するか検討中。今日中には結論をだすとの事だった。
聞きたいことも聞けたので仕事に赴く事にする。もちろんクオンも一緒だ。
二件の仕事については先にアマムの粉ひきからすることにした。結局挽き終わった後に運搬もしなくちゃならんから先にやってしまった方が効率がいい。
粉挽き小屋は水路の隣にあった。普段は水車の力を利用して挽いていたようなのだが、壊れたためにアマムを粉にするのが間に合っていないらしい。そう言っていたのを思い出しながらからくりの方に近づく。からくりは二機あり一機は前から壊れていたようでしばらく使われた形跡がない。もう一機をだましだまし使っていたがどこかが故障し使えなくなったのだろうとあたりをつける。
自分に一からこのからくりを直せるとは思っていないが、からくりを直してクオンに褒められた記憶があるため、前に自分はこのからくりを直したのだろう。それならば部品の入れ替えなどで多分なんとかなるはずだ。
「ハク、どう?なおりそう?」
「ま、なんとかなるだろう。ああ、この歯車がダメになってるんだな。この歯車は隣で言うところの…こいつだな。こいつとこいつを入れ替えてっと。…よしこれで多分大丈夫なはずだ」
「もう大丈夫そう?」
「ああ、多分大丈夫だろう。この止め板を外せば…よし動いたな」
「やっぱりハクは凄いかな!」
そう言ってはしゃぐクオンにこれぐらいならカラクリをしっかり観察できれば誰だってできると返し、アマムを粉挽き機に投入していく。ある程度投入したらしばらくは時間がかかりそうなので、荷車を借りてきて先に引いてあったアマムの粉を運び出した。
隣にはクオンがニコニコしながら着いてくる。何がそんなに嬉しんだと聞くとハクの隣にいるからという答えに加えて、ハクがしっかり仕事をしているからという答えが返ってくる。まあ、自分の性格ならそうだろうが、惚れた女にあんまり情けない姿は見せたくない。ちょっとした意地って奴だ。…まぁクオンならそれに幻滅したりはしないだろうがシッポが飛んでくるからなぁ。
半刻程で置いてあった袋をすべて運び終わると、クオンが茶を淹れてくれたので休憩にすることにした。クオンも自分のすぐそばに腰をおろし、自分の方に頭を載せるようにして安らいだ表情をしている。心地いい雰囲気の中でしばし体を休めた。
しばらくするとアマムをすべて挽き終わったため、からくりを止め、粉を袋へと詰めていく。そして荷車に載せ運ぶを繰り返した。それらも一刻程ですべて完了し、なんと正午過ぎには仕事が終わってしまっていた。
「はい、ハク。お疲れ様」
そう言ってクオンが手渡してくれる手ぬぐいで手をふき、次にくれたお茶を飲み干す。
「こんなに早く終わるなんて以前のハクじゃ考えられないかな」
「まぁ、なんやかんやであの戦で体力もついたし。今日はサボろうともしてないしな」
「後者の理由が大きい気がするかな。ハクはできるのにぎりぎりまで来ないとやる気を出さないんだから。あ、女将さんからお昼ごはんもらってきたから食べよう。ハクもお腹すいたでしょ?」
「おう腹ペコだ。労働後のメシと酒は格別だからな」
「さすがにお酒はダメかな。今日の晩までお預け」
「さすがにわかってるさ。クオンと食ってるだけで格別にうまいのにそれ以上言ったら罰が当たるっての」
自分のその言葉に、どっちかっていうと罰を与える方の立場だったヒトの言葉とは思えないかな、と言いながらも穏やかに笑っていた。
そうして昼食を食べ、女将に報告に戻った。女将にはからくりを修理したことについて礼を言われた。給金には少し色をつけてくれたようだ。
午後は部屋に戻りクオンとゆっくり過ごした。とりあえずクオンの膝枕は至福だったとだけ言っておく。
そうこうしているうちに時間も過ぎ、あと一刻ほどで夕食というような時間、外が騒がしくなったのでクオンとともに様子を見に女将のもとに顔を出す。するとそこには旅装束の男たちの集団がおり、宿泊の手続きをしているようだった。
その代表であろう男と女将の話が終わったようで、女将はこちらに気がついたのか声をかけてきた。
「あら、クオンさん、ハクさんなにかあったかい?」
「いや、表が騒がしかったんでね。ちょっと様子を見に来ただけだ。団体のお客さんが来ただけだったんだな」
「ああ、そうなんだよ。帝都からのお客人で、しばらくこの村に逗留するからうちを宿にってね、いつも利用してもらってありがたい事さ」
女将はそう言って嬉しそうに笑う。懐も潤うし、何より自分の宿を評価してもらえるのが嬉しいのだろう。そうやって女将と話していると、先ほど女将と話していた男がこちらに興味を持ったのか近づいてくるのがみえた。
「お前さんらはここの宿泊客かい?」
「ああ、そうだが、あんたは?」
「ああ、すまねえ、俺はウコンってもんだ。一応こいつらの頭をやってる」
そう男―ウコン―はにかっと笑って言う。なんとも感じのいい漢だと思う。けれど懐かしさに加え、泣きたくなるようなこの気持ちはいったいなんだろうか?まぁ、推測はできる。こいつとは前の時は友人…それも親友と呼べるような仲だったのだろう。心が覚えてるさとはクオンに言ったが本当にそうなるとは思わなかった。ともあれ今は初対面だ、変な印象は持たれないようにしよう。
「まぁ、うるさくするかもしれないが勘弁してくれ」
「ううん。少々の宴会くらいじゃなんともないかな。あ、私はクオンよろしくかな」
「自分はハク。ま、あんまり接点はないだろうがよろしく頼むよ」
「ああ、よろしく頼むぜアンちゃん、ネェちゃん」
そう言って、ウコンが右手を差し出してきたので握手をする。次にクオンと握手しているのを横目に見ながら心の中では関わる確率が高いんだろうなとも思っていた。まぁ明らかに武闘派ってな感じの御仁だから、もしかしたらボロギギリの件で協力することになるかもしれん。クオンに色目使ってこなきゃ仲好く出来るだろう。こいつとは気も合いそうだ。あと、名前は呼ばんのな。
「そういえば、アンちゃんとネェちゃんは夫婦で旅の途中かい?」
「旅をしてるのはそうだが夫婦ってのは残念ながら違うさ。まぁ将来的にそうなる予定ではあるがな」
「…ハク、恥ずかしいから公衆の面前でそうはっきりと言わないで欲しいかな」
「おう、そうかい。だったらうちの奴らにもネェちゃんにちょっかいかけないように言っとかねえとな。そうしとかないとアンちゃんが怖いからな」
笑いながらそういうウコンにつられ、こっちも自然と笑顔になってくる。なにはともあれ良い付き合いができそうな奴でよかった。