うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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ここ数話は説明会です。

あんまり……というか全然話が進んでいませんがもう少しだけお付つきあいください。


晒される真実~あのヒトとそっくりな少女/タタリの真実~

晒される真実~あのヒトとそっくりな少女/タタリの真実~

 

 

Interlude side ネコネ

 

 

「―――え?」

 

 そう、声に出したのは誰だったか。ハク兄様に『おじちゃん』と言いながら抱きつくその姿に、ここにはいないはずの彼女を誰もが連想する。

 

 その顔、声―――年の頃は彼女よりもいくらか上のようだが誰が見ても瓜二つ。わたしがある意味苦手である相手と瓜二つのその容姿は今目の前にある光景―――名前も知らない誰かがハク兄様に抱きつく―――を際立たせ、それに僅かな嫉妬を抱く。

 

 ――――わたしのハク兄様なのに……と。

 

 ただ、わたしより年上であるのだろうが迷子の中でやっと親を見つけた幼子のように泣くその姿に、胸の中に広がったそれも霧散していった。

 

「……ハク、良かったね」

 

「姉様……えっと、あの方は?」

 

 いつの間にかわたしのそばにまで来ていた姉様にそう尋ねる。エントゥアさんの抱えてきたあのヒトを先ほどまで見ていたのは姉様なのだから、何か知っているのではないのかという思いを込めての問いかけだ。

 

「あの娘は、ハクの姪っ子さん。アンジュにそっくりでしょ?」

 

 皆が疑問に思っていたことを姉様が口に出したためか仲間たちの視線が姉様に集中する。皆、疑問に思いながらも目の前の光景に口にできなかったことを姉様が口にしたため注目しているようだ。

 

「ハク兄様の?わたしは聞いたことがなかったですが……」

 

「それは仕方ないかな……ハクもてっきり亡くなっているものだと思っていたみたいだし」

 

 その言葉にハク兄様の遺跡での驚きようはそのせいだったのかと得心する。いつも冷静なハク兄様があの時は茫然自失と言いった風だったのでおかしいとは思っていた。

 

「それは……それでハク兄様はあんなに驚いていたですか」

 

「うん、そうみたい」

 

 それとは別になんであんなにアンジュ……様と瓜二つなんだろうという疑問が浮かんでくるがそれについて姉様はそれは偶然かなと軽く言った。

 

「世の中には三人はおんなじ顔をしたヒトがいるっていうし、そんなこともあるんじゃないかな?」

 

「そう言われると……」

 

 それに今の光景を見ていると、ハク兄様がアンジュ……様に甘いと内心で常々不満に思っていた事のへの得心もいく。ハク兄様はなんやかんや優しいというのもあるが、自分の姪っ子に瓜二つのアンジュ……様についつい甘くなっていたのだろうと想像もつくからだ。

 

 そこまで話すと近くに来ていたエントゥアさんが姉様にからかうように声をかける。

 

「でも意外ですね。いつものクオンなら、女性がハクにあんなことをしていようものなら威嚇して引き離しそうなものですが」

 

「むぅ、エントゥアは私をなんだと思っているのかな」

 

「最近までおね――」

 

「それ以上言ったら戦争かな、エントゥア」

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

 そんな風に話している二人を見ていると皆も苦笑しつつ、いつもの空気に戻っていく。

 

「流石にハク関連で暴走する自覚のある私も、いまあそこに行って二人を引き離すほどじゃないかな」

 

「くすっ―――」

 

 そういう姉様が妙にかわいくて思わず笑いがこぼれる。遺跡から戻ってきてからどこか沈んでいた仲間たちもいつもの調子を取り戻していた。

 

「あ~!ネコネも何で笑うかな!」

 

「しょうがありませんよ、クオンですし」

 

「ほんとにどういう意味かな!?」

 

 あの子が泣きやむまで姉様とエントゥアさんの漫才のような掛け合いは止まることなく続けられたのだった。

 

 

Interlude out

 

 

 

「こいつはチア、自分の姪っ子だ」

 

「チアです。よろしくお願いします」

 

 泣きやんだチィちゃんに自分が今はハクと名乗っていると軽く説明し、詳しいことはあとにと言って、その後はいまだに目が赤いチィちゃんを皆に紹介する。クオンがなんかそれっぽい感じの事を皆に話してくれていたのでそれに乗ることにする。まぁ、あながち間違ってないしいいだろう。

 自己紹介したチィちゃんに皆もそれぞれ自分の名を名乗っていく。アンジュにそっくりという事でどこか怖々といった様子だったがチィちゃんの溌剌とした様子にすぐに警戒を解いていた。そしてネコネがちょっとした爆弾を投下する。

 

「わたしはネコネなのです。ハク兄様にはお世話になっているのです」

 

「ハク兄様?」

 

「あ、わたしは姉様―――クオンさんと義姉妹の契りを結んでいるのですよ。それで姉様の恋人であるハクさんのこともハク兄様と呼んでいるのです」

 

「ふ~ん」

 

 それを聞いたチィちゃんがチャシャ猫のようにいやらしい笑みを浮かべて自分を見てくる。

 

「おじちゃんも隅におけないなぁ~。それにこんな美人さんを捕まえるなんていったいどんな手を使ったの?」

 

「お、お前なぁ」

 

 自分にそういったあと、チィちゃんは矛先を美人さんといわれてまんざらでもないのか照れ笑いしているクオンに向ける。

 

「クオンさん、いやいやお義姉ちゃんはおじちゃんのどこが気に入ったの~?」

 

「そ、それは―――」

 

 チィちゃんの勢いにクオンもたじたじといった様子でしどろもどろにもごもご言っていた。普段の凛としたクオンもいいもんだがこんなクオンもまたいいものだ。そんな風にクオンを愛でつつそろそろ助けに入ることにする。

 

「チィちゃん、あんまり大人をからかうな」

 

「あはは、ごめんなさ~い」

 

 悪びれることなくそういうチィちゃんに溜息を吐く。久々に会ったがまたイイ性格に育ったものだ。あとこの流れで沈黙を保っている双子がとても不穏なのだが……自分の気のせいだよな。

 

 そこに控えめな声がかけられた。

 

「あの~、盛り上がっているところ悪いんだけど、私もそろそろ自己紹介していいかしら?」

 

「っと、すまん」

 

「いや、いいんだけどね」

 

 そう武蔵に謝りつつ、皆の注目をあつめる。正直双子が何か画策してそうだが、それが流れそうでほっとする。

 

「私は新免武蔵守藤原玄信(しんめんむさしのかみふじわらのはるのぶ)――気軽に武蔵ちゃんとでも呼んで」

 

「先ほどはありがとうございました、ムサシ様。私はルルティエと申します」

 

「あはは、そうまっすぐに感謝されると照れるというかなんというか。うん、ルルティエちゃん気にしないで。私が勝手にしたことだから」

 

 武蔵が名乗ると先ほど助けられたルルティエが前に出てきていの一番にお礼をいい、挨拶をした。武蔵は真正面からお礼を言われ気恥しいのか照れたように頭をかきつつそう返す。隣にいるチィちゃんが武蔵のその名乗りに目を見開いているが、あの武蔵だという確信はないのだろう、どこか期待しつつも悶々とした表情をしている。

 で、皆も次々と挨拶していく中、キウルの番になったのだが……。

 

「私はキウルといいます。よろしくお願いしますムサシさん。先ほどの剣技は本当に見事でした。後日でいいので一手指南を……あのムサシさん?」

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あり!」

 

「あ、あのムサシさん?」

 

「あ、ううん、なんでもないの。よろしくねキウル君」

 

 キウルを見てぼーっとした後、我に返ったようにそう挨拶する。その様子を見ていた皆は……

 

「おやおや」

 

「ふむ……これは意外な」

 

「いやいや、ヒトの趣味ってのはそれぞれじゃない。ゼグニの兄さん」

 

「えっと、やっぱりあれってそういうことなのでしょうか……」

 

「ええと……どうなのでしょう?私はこういうことには疎いので……」

 

 キウルに春が来たのではないかと言いながら盛り上がっていた。ちなみにクオンはさっきチィちゃんにからかわれたのが糸を引いているのか真っ赤な顔で自分の腕に抱きついていてそれどころではなさそうで、チィちゃんは次なる獲物を発見したとでもいうような笑みを浮かべている。そんな風にみていると一点、うずうずした様子で槍を抱えている頭のおかしい海賊娘(アトゥイ)がいたがスルーだな、うん。

 

 ひとしきり武蔵に挨拶がすむと、ヤクトワルトがふと呟くのが耳に入った。

 

「しかしあれは……なんだったんだ」

 

「そうですね。流石にあれは驚きましたよ、ホントに皆さんといると退屈しませんね」

 

「確かにな。しかし一体なんだったのだアレは、ヒトがタタリになるなど聞いたこともない」

 

 一息ついた事で先ほどの遺跡の事を思い出したらしい。自分としてはそのまま流してくれる方が良かったのだが。そう思いつつクオンに視線を向ける。クオンは私に任せてほしいとでも言うように自分の方へ目線をやって頷く。

 

「えっとヒトがタタリに?……何があったですか?わたしが来た時には皆さん休んでいて、その後あの大きなタタリが出てきたですが」

 

「クオンさんは何か知っている風でしたけど……」

 

 キウルがそう言うと皆の視線がクオンの元に集まる。クオンは自分の腕から離れるとひとつ息を吸い口を開いた。タタリというのが何を指すのか把握したらしいチィちゃんが、不安げに自分の腕にすがりつくように抱きついてくる。自分は安心させるようにその頭をなでるとクオンの方を向いた。

 

「うん、そうだね。私たちは……見てはいけないものを見てしまったんだと思う」

 

「いったいどういうことなのだ?」

 

 クオンのその意味深な言葉にノスリがそう声を上げる。クオンはちらとノスリに視線をやり少し考えるようにして話し始めた。

 

「ん~そうだ。ねぇ、タタリについて今回みたいな話って聞いたことあるかな?」

 

「それは……聞いたことはありませんが」

 

「確かに、タタリは闇の奥深くに潜んでいて滅多に遭遇することはないかな、でもね遺跡の奥深くなんかでの目撃報告はよく耳にしたりして、それほど珍しいことじゃないんだ。私自身、何度か遭遇したことがあるくらいだし」 

 

 そこでクオンは一旦言葉を切り皆を見渡す。

 

「なのに、ヒトが溶けてタタリに変貌した話なんて聞いたことがない。ただ、目撃例がなかっただけなのかもしれないけれど、それにしたってタタリに関する情報は驚くほど少ないかな。誰かが調べてその生態がいくらか解明されてもおかしくないはずなのに。ねぇ、変だと思わない?」

 

「それは……確かに変ですね。まるで意図的(・・・)に……」

 

 マロンさんはクオンの言葉に同意するように呟くと何かに気がついたように顔を上げ、クオンを見る。クオンはひとつ頷きを返すと言葉を続けた。

 

「私の國ではタタリの事は禁忌ってことになってるんだ。まことしやかにタタリに関わると不幸になるとか、呪われるとか地獄(ディネボクシリ)に引きづり込まれるだとか言われてる。これは憶測になるけれどこのヤマトでもタタリに関することは意図的に避けられているんじゃないかな」

 

「言われてみるとそんな気がしてきますが……誰が何の目的で?」

 

 オウギの疑問も最もだろう。だが少し考えればわかる話だ。少なくともこれだけ大規模な情報封鎖、このヤマトへの絶大な影響力を持っていなければ不可能。それこそ右近衛大将たるオシュトルでも他の八柱将でも―――能力的には可能かもしれないが長い時の中それを行い続けるのは難しいだろう。となればこの國でそれをできるのは一人だけだ。

 

「私の國でタタリを禁忌に指定しているのは、宗教の総本山。じゃあこの國でそれに当たるのは?たぶんそれで正解だと思う」

 

 クオンの言葉に皆同じ人物を思い浮かべたようで途端に口を噤む。少なくとも帝主導で行われていると推測できる情報操作だ。事の大きさに皆が絶句するのも無理はない。

 

「だからもし無理に知ろうとしたり……知ってしまった者は……『消される』ことになる」

 

「そんなまさか。いくらなんでも……」

 

 ルルティエがそう言うが自身の心の中ではあり得ると思ってしまっているのだろう。その声には力がない。

 

「そうだね、私もそう思うよ。でも、それが知られてはならない事だとしたら?」

 

「たかが、不定形の生き物ではないですか。何を知られてはいけないというんです」

 

 キウルが声を震わせながらそう問う。

 さて、流石にここから先までクオンに任せるのは何か違うだろう。これを語るのはきっと人類であるべきだ。

 そう思いクオンに目配せしてからチィちゃんを預けると一歩前に出る。

 

「そうだな。……マロンさん、皆が見た場所は他の遺跡ではどのような場所かわかるか」

 

「え、ええ。あれは墓所として知られる遺跡と類似していましたが……」

 

「ありがとうマロンさん。さて、キウル。最近発見された、誰の目も届かないような遺跡の奥底で……仮にあれが墓所だとして、あそこに眠っていたのは誰だ(・・)?」

 

 自分の言葉に意味を把握したマロンさんとネコネは驚きの表情を作り、血の気が引いたように顔が青白くなっていく。キウルを含む他の皆は先ほどの言葉でそこまでは推察できなかったようで怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

「それは……ヒトではないのですか?あれは少なくとも僕にはヒトに見えました」

 

「ハク何が言いたいのだ?聞きたいのは私のほうだぞ」

 

 キウルはそう答え、ノスリもそう言いながら困惑したように自分を見ていた。流石に常識が邪魔をしてそこまでは思い至らないか。こうなるとネコネとマロンさんが別格ってところだな。

 

「ネコネとマロンさんは思い当ったようだな?」

 

「ハ、ハク様……」

 

「ハ、ハク兄様……まさか」

 

「状況からの推察になるが、ほぼ確実だろう。皆が見たタタリに変貌したヒト。あれは……おとぎ話なんかで語られる遥か昔に高度な文明を築き、この地を支配した者」

 

 自分の言葉にようやく思い当たるものがあったのか皆が驚きの表情を浮かべるのが見える。それに構わず自分は言葉を続ける。

 

「それにも関らず突如歴史の舞台から姿を消した、うたわれるもの」

 

「「大いなる父(オンヴィタイカヤン)……」」

 

 ネコネとマロンさんの口から思わずといったように漏れた言葉に自分は頷く。

 

「大いなる父……おとぎ話で聞かされたことはありますが、まさか……」

 

「だが……一応の説明はつく。ついてしまう」

 

 驚きながらも冷静さを保っているエントゥアとゼグニさんがそう話す。皆大きな衝撃を受けた様子だったがウズールッシャ出身の三人は大いなる父信仰の国の出でないだけいくらか冷静に話を聞けているようだ。

 

「そんな……タタリの正体が……尊き大いなる父だなんて知れたら……」

 

「あやや……それはちょっと、シャレになってないかもなぁ」

 

「クオンが黙っているように言ったのはそう言うわけだ」

 

 自分はルルティエとアトゥイの呟きに答えるようにそう言うと皆を見渡す。

 

「……自分たちは何も見てないし、何も知らない。このことは他言無用だ、いいな?」

 

 その言葉に皆の頷きが返ってくる。

 

「ハイなのです。姉様とハク兄様の考えが正しいとして、こんなことがしられると……」

 

「だが、秘密といわれると口が軽くなるのがヒトの性じゃない」

 

「ヤクトワルト……」

 

「冗談じゃない。だからそんな目で見るなってのエントゥア。それに考えるのは自分の仕事じゃない。どうするのかは旦那に任せるじゃない」

 

 若干、不安なことをいってる奴らもいるが大丈夫だろう。……大丈夫だよな?

 

 ―――ぐ~~―――

 

 皆がそんな風にしている中、何とも気の抜ける、そんな音が響き渡る。そんなに大きな音ではなかったのだが皆の話が途切れたタイミングだったので妙に大きく響いた。皆がその音の発生源に思わず目を向ける。

 

「あ、あはは。ちょっとお腹がすいたかなって……」

 

 皆に見つめられ先ほどの音の発生源―――武蔵が恥ずかしそうに頭をかく。それを見て皆の張りつめた空気が緩んだ。

 

「クスッ、急いでご飯の準備をしてしまいますので少しだけお待ちください」

 

「あ、手伝うかな、ルルティエ」

 

「あ、それならわたしもお手伝いするのですよ」

 

 ルルティエは小さく微笑み、そう言うとクオンとネコネと一緒に、食事の用意に取り掛かる。皆もそれぞれ仲間たちと話ながら野営地の中に散っていった。

 

 いろいろとチィちゃんに話さないといけないこともあるが、とりあえず今はゆっくりすることにしようか。




お読みいただきありがとうございました。

というか気がついたら50話です。これも皆様のおかげです。ありがとうございました。

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