うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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よろしくお願いします。


契約と彼らを巻き込み進む刻~はじめてのますたーけいやく/一方帝都~

契約と彼らを巻き込み進む刻~はじめてのますたーけいやく/一方帝都~

 

 

 少し遅い昼食を取った後、クオン、チィちゃんと武蔵、それと付いてきたウルゥルとサラァナで一度車の中に移動する。今日は取り合えず皆にも疲れが見えるしここで一泊し、明日帝都に向けて出発することにしたため時間がある。その為、チィちゃんにいろいろと説明しようと思ったのだ。

 

「お父さんが生きてるの……?」

 

 兄貴の事を説明したあと茫然とするようにチィちゃんはそう零す。自分もクオンから聞いた時は驚いたし、チィちゃんの反応は予想の範囲内だ。

 

「ああ、といっても今じゃヨボヨボの爺さんだがな」

 

「う……また会えるのは嬉しいけど、それはなんか複雑だよ」

 

 自分の言葉を聞き、チィちゃんはげんなりするようにそう言葉を零す。ま、自分の親父がよぼよぼになっているって聞いたらそりゃあそんな反応にもなるか。

 

「よし、話は終わったわね」

 

「ああ、自分からは以上ってとこだな」

 

 自分からの話がひと段落したのを見て取ってそう声をかけてくる。自分がそれに頷くと武蔵はチィちゃんに向きなおった。

 

「ええっと、うん、説明とか正直苦手だから単刀直入にいいましょう。チアちゃん、私と契約してくださいな」

 

「契約……?」

 

 武蔵のその言葉にクオンが敏感に反応する。まぁ、タタリすら斬り殺す剣士から契約なんて言葉が出ると、ウィツアルネミテアと関係があるものとして碌でもないものを思い浮かべたのだろう。ちなみにチィちゃんはあんまり状況が飲み込めていないのか頭上にはてなマークを浮かべているような顔をしている。双子は少なくとも武蔵が特別な存在だというのは感じ取っているのか静観の構えのようだな。

 

「ああ、クオン。そういうものではないから安心しろ」

 

「えっと、じゃあ、いったいどういう……」

 

「そうだな……それには武蔵がどういう存在か説明する必要があるんだが……。っとまずは……チィちゃん、武蔵はあの(・・)武蔵で間違いないぞ」

 

「ふへっ!?うへ、なんか変な声でた」

 

 自分の言葉に反応してなんか変な声を出しているチィちゃんを尻目にクオンに向き直る。チィちゃんは武蔵になんかきらきらした目を向けてるし、放っておいても勝手に話は進むだろう。

 

「そうだな……大いなる父と皆が呼ぶ者たち、それの祖先と呼べる者たちの中には今の皆でいう、呪法や術法みたいな技術をもった者達がいたんだが―――」

 

 自分は前知識としてクオンに魔術師と魔術という技法があったという事を説明する。

 

「えっと、それは分かったんだけど。それがどうムサシに繋がるのかな?」

 

「まぁ、詳しいことは自分もわかってないんだが、その技法の中に、過去の偉人や英雄なんかを召喚して使役するっていう物が存在してな。原理としてはネコネやウルゥル、サラァナが使役する式神みたいなもんだと思っておけばいい。で、武蔵はそう言った存在なんだよ」

 

 実際はそんなのと比べるのもおこがましいのだが説明がしやすいのでそう例える。クオンはとりあえずそういうものなのだという事で納得することにしたのかとりあえず頷いていた。

 

「うん……そう言うものだと思っておくね。でも、それがさっきの契約とどうつながるの?」

 

「ああ、そういう使い魔は現世に留まるために何かしらの楔のような存在を必要とするんだ。で、その適性を持っているチィちゃんに武蔵は契約を持ちかけているってわけだ」

 

 正確にはサーヴァントの維持には魔力と呼ばれる力も必要とするのだが、チィちゃんがあの痣―――令呪と呼ばれるものを持っている以上、多かれ少なかれそういうものは持っているのだろう。武蔵はそういうデメリットを黙って契約を持ちかけるようなタイプには見えないしそこについては信頼している。

 

「チアちゃんにデメリットはないの?」

 

「武蔵の体の維持に魔力って呼ばれてた力を持っていかれるが、それについては普通に食事でも補給できるはずだし大きな不利益はないはずだ」

 

「そう……うん、わかった。私のほうでも少し注意してみておくかな」

 

「ああ、そうだな頼む」

 

 そんな風にクオンに説明している間に契約をする方向でチィちゃんと武蔵は合意したようだ。

 

「じゃあ、はい。契約契約っと」

 

「ってはやっ!風情もなにもあったもんじゃないんだけど!」

 

 そして速攻で契約を交わし、二人でぎゃーぎゃー漫才を始める。ていうか契約ってあんな雑でもいいんだな……。あの手記から感じていた憧れやら風情やらが霧散していくのを感じつつ二人に声をかける。

 

「うまく纏まったみたいでなによりだな。チィちゃんはなんか異常はないか?」

 

「う~ん、私からなにか武蔵ちゃんに向けて流れて行ってるのは感じるけど、そんなに負担は感じないかな。武蔵ちゃんが本気で暴れたらどうなるかはわかんないけど」

 

「あはは、私魔力はそんなに大食らいじゃないから大丈夫。食事で魔力補給はできるし、よっぽど切羽詰まりでもしない限りは問題ないと思うわ」

 

 チィちゃんと武蔵のその言葉にほっと胸をなでおろす。とりあえずは問題はなさそうだな。

 

「自分たちからの話はこれぐらいだが、チィちゃんからなにか聞きたいことはあるか?」

 

 そう尋ねると、チィちゃんは少し考える仕草をした後、自分の後ろ―――双子のところで視線を固定した。

 

「えっと、さっきから気になってたんだけどその二人―――ウルゥルさんとサラァナさんはおじちゃんとどういう関係なのかなって」

 

「ああ、この二人とは――「「愛人(です)」」じゃなくて主と従者、ってな感じだな……だからチィちゃん、その眼はやめてくれ」

 

「おじちゃん……不潔。お義姉ちゃんに悪いと思わないの?」

 

 自分にチィちゃんの侮蔑するような視線と言葉がが突き刺さる。本当に誤解なんだが……。

 

「ああ……この二人なら大丈夫。口ではこう言ってるけど実際はそんなことはないから」

 

「……本当に?」

 

「うん、本当に」

 

「「…………むぅ」」

 

 なんかいつものこと過ぎて反応が遅れたのか、一拍遅れてクオンがそう言ってフォローを入れてくれる。クオンの言うことは信じたのか、チィちゃんの視線が元に戻ったのでほっと胸をなでおろした。双子がなんか不満そうにしているが知ったことではないな。 

 

「武蔵は信じてくれたのか……」

 

「えっと、ハクの様子が清姫ちゃんとか静謐ちゃんとか全力ですり寄られる立香くんそっくりだったから、なんとなくね」

 

「…………おい」

 

 武蔵は自分に苦笑しながらそう言う。ああ、清姫とか静謐――たぶん静謐のハサンか?――とかはあの手記の中に出てきてたような気がする。藤丸も苦労していたんだなぁ。だがご先祖様、そんなところが似ていてもちっとも嬉しくないぞ。

 

「フォ~ウ……」

 

「お、そんなところにいたのか?」

 

 自分たちの声が煩かったのか先ほどから見かけないなと思っていたフォウが、物の隙間あたりからふらふらしながら出てきたので抱き上げる。

 

「わ~かわいい……おじちゃん、その子は?」

 

 そういいながら近づいてきたチィちゃんがそういってフォウの事を見て、手を伸ばしてくる。最近は随分とましになったがヒト嫌いの気があるフォウの事だ。避けると思っていたのだが。

 

「フォ~ウ……」

 

「うわ、ふわふわ」

 

 "まったくしょうがないな……"とでも言うようにチィちゃんの手を受け入れていた。珍しい仕草に驚いていた自分だが、武蔵が不思議そうな顔をしているのに気がついた。

 

「どうかしたのか?武蔵」

 

「ん?ああ、その子が立香君と一緒に行動していた子とそっくりだったから、驚いてただけ。それにしてもずいぶんと人懐っこいのね」

 

「そういえば、フォウは武蔵にも初対面で懐いた様子だったな。だけど普段はそんなことはなくて、むしろヒト嫌いの気があるくらいなんだがな」

 

 武蔵の話にそう言うこともあるかと思いつつそう返す。この面子――双子もどっちかっていうとフォウに好かれている様子だし、なにかフォウ的に気に入る何かがあるのだろう。

 

「フォウくんね……名前までおんなじなんて。いやこの鳴き声だとしょうがないのかしら?」

 

 武蔵がなにか呟いていたようだが小声だったっため、自分には何と言っているのか聞き取れなかった。

 

「でも本当に珍しいかな。フォウがこんなに懐くなんて」

 

「さてな……ここにいる面子になにかフォウが気に入る要素でもあったんじゃないか?」

 

 そんな事を話しつつ、自分の腕の中から移動したフォウと戯れるチィちゃんを見る。屈託なく笑うその姿にこっちまで気分が上がってくるみたいだ。するとクオンが自分の腕に抱きついてきた。

 

「ハク良かったね」

 

「ああ――ホントにな」

 

 そう言いながら優しく微笑み自分を見つめてくるクオンに柔らかく返しながら、この奇跡のような瞬間を目に焼き付けるのだった。

 

 なおこの後、自分とクオンの様子に気がついたチィちゃんにむちゃくちゃからかわれた。

 恥ずかしそうにしながらも自分から離れないクオンとそれを当然のことだと受け入れる自分をみたチィちゃんから"うわ、バカップル……"との言葉を頂いたのだが普段からこんな感じだが、なにかおかしいだろうか?

 

 

 その日は遺跡前で野営し、次の日には帝都に向けて発つ。

 車の中は来たとき以上に賑やかだ。チィちゃんと武蔵が加わったからな。ちなみに武蔵の同行は素直に認められた。あの斬撃を見せられた後というのもあり、人柄もさっぱりしているということで皆も反対する理由はなかったのだ。チィちゃんについては言わずもがなだな。

 

 昨日はあの後、アトゥイが武蔵に手合せを申し入れた事をきっかけにして、ヤクトワルトやゼグニさん達も手合せしていたのだが仲間たちの躯(比喩表現だが)積み上げられていた。ちなみに武蔵は、そのあと自分に向けて鯉口を切りながらちらつかせてきていたのだが、気がつかないふりをした。ちなみにクオンもうずうずしていたが、大惨事になりそうだったので自分が抱きしめる形で押しとどめた。それでチィちゃんにまたからかわれたりなんだりしながらも賑やかに過ごしたのだった。

 

「しかし、平和なもんだ」

 

「そうだね……。あんなことがあった後だから、余計にかも知れないけれど」

 

 自分がそう呟くと、クオンが自分の肩に頭を預けながら、そう返してくる。ちなみに今は自分とクオン、そしてウルゥルとサラァナ、ついでにフォウ(自分の肩の上)が御者台に座りながらゆっくりと車で道を進んでいる。ちなみにもう一つの車の御者にはキウルとヤクトワルトが座っている。

 

 そんな風にしていると突然重さがかかった。

 

「すごいね!おじちゃん」

 

「はは、はしゃいでるなぁ」

 

 チィちゃんが窓から顔を出し、自分にもたれかかりながらそう言ってくる。あんなに憧れていた外の世界という事でチィちゃんはさっきからずっと興奮した様子で動き回っていた。外の景色をみて目を輝かせ、最年少二人組に構い、みんなに話しかけながらご機嫌な様子だ。初めての外の世界ということでなのだろうが、皆は自分と久しぶりに会えて不安がなくなった影響だろうと思ってくれているようでチィちゃんの様子を不審には思っていないようだ。

 

「だって、すっごい楽しい!」

 

「あはは、元気そうでなによりかな」

 

「うん!ねぇねぇお義姉ちゃん、こっちにきて話そうよ。おじちゃんとの馴れ初めとかいろいろ聞きたいし」

 

 そういえばチィちゃんはクオンの事をいつのまにかお義姉ちゃんと呼ぶようになっていた。なんでかと聞くと"だっておじちゃんのお嫁さんなんでしょ?それにわたしクオンさんのこと気に入っちゃったし"とのことだった。

 

「えっと……お手柔らかにね」

 

「確約はできないなぁ~」

 

 少し引き気味にそう言うクオンにチィちゃんはいたずらっぽく笑いながらそう返した。クオンは顔を若干ひきつらせていたがチィちゃんの勢いに負け、車の中に引きづり込まれていった。

 

「奥様もいないことですし」

 

「私達としっぽり……」

 

「何を言ってるんだおまえらは……そもそも御者してるだろうが」

 

「大丈夫、ココポは賢い」

 

「ココポは賢いので問題ないはずです」

 

「ホロロロロッ~」

 

「……フォ~ウ」

 

「んなわけがあるか……」

 

 自身の名前が呼ばれたことに反応したのか、車を引いていたココポがそう鳴き声を上げ、フォウがなにやら呆れたような声を上げる。そんな風に疲れる馬鹿話をしながら車を進めたのだった。

 

 

Interlude Side オシュトル

 

 

「……このようなことになろうとは」

 

 ハク殿達が帝都を留守にしてそろそろ一月と半分近く。状況は目まぐるしく変化していた。

 

「こうも苦戦―――いや、押されるとはな……。侮りすぎたということか」

 

 ある國への出兵。八柱将を三人が――ライコウ殿、デコポンポ殿、ムネチカ殿――送り込こまれたが、それがこうも難航するとはな。いや、どこか嫌な予感は感じていたがこうなるとは予測できなかった。

 

「某の手元には自由に動かせる戦力は―――ないことはないがこの状況で送って十分な働きができる者となると。ハク殿達がいないのが痛いな」

 

 某はムネチカ殿不在の間、帝都の守護を任された身。それゆえ動くことができぬ。

 せめてもの援護として自身の手勢を援護として送り込みたいが、今手元にいる者たちでは不安が残る。マロロを送りこむことも考えたが……資質として劣っているとは思わないが、現時点のマロロがライコウ殿以上の働きができるとは思えぬ。それに嫌な予感を感じていたこともあり、ハク殿達に某からの依頼を届けて貰う為、帝都を留守にしている。

 

「ままならぬな……ハク殿達が間に合えば良いが。いや、クオン殿の事も考えると受けてくれるかも分らぬ」

 

 思わずそんな言葉が口を衝いて出る。クオン殿はあの國の出身ということのようだしハク殿が受けてくれるかは……。

 しかしハク殿達が居なくなった途端この体たらくとは……某は存外、あの男に頼りきりになっていたらしい。

 

「トゥスクル……よもやここまでとはな」

 

 

 

 時はハクたちが帝都を発った日の翌日まで遡る。

 その日は聖上の命で帝都にいる主だった役人が全て集められていた。國元を離れられないオゼーン殿、ソヤンケクル殿を除いた全ての八柱将に加え、軍事、内政の主だった面子。いやがおうにも何かがあることを感じさせる。

 

 そう思いながらその場に佇んでいると、奥から誰か……いな、聖上の気配を感じ取る。

 

「聖上の御出座である!!」

 

 ミカヅチのその声とともに場は静まり、某の視線の先で御簾が引き上げられるのが見え顔を伏せる。

 

「皆さま、お直りください」

 

 ホノカ様の声に某を含めた皆が一様に顔をあげた。聖上は某たちを見回すように首を巡らせると口を開かれた。

 

「先の戦、皆の者、大義であった。これで、彼奴等も身の程を弁え、大人しくしていることであろう」

 

「もったいなきお言葉。一同、さらなる研鑽を積み、武技を極め、聖上の御為、あらゆる朝敵を討滅する所存」

 

 聖上のお言葉に代表してウォシス殿がそう答える。

 

「うむ。此度の件、余にも政を再考する契機になった。現状に甘んじ、この地に留まるのみでは、何事もたちゆかぬ」

 

 ウォシス殿の言葉に聖上はそうお答えになると一度言葉を切られた。

 

「そこで余は……先に進むことを決めた。ヤマトはこれより、最果ての隣國、トゥスクルへと進行する」

 

 そしてそう宣言なされた。

 

「ついに彼の地へ……」

 

「おもしろい……立ちはだかる者全てを、殲滅してくれるわ」

 

 聖上の言葉にライコウ殿とヴライ殿がそう言葉を零す。某の意見としては気が進まぬが……そう思っていると聖上より某の意見を聞かせてほしいとのお言葉を頂いた。下級貴族の出という事で軽んじられている某に聖上が意見を求められたことで、ほかの者たちが不満そうにしたが、それを無視して口を開く。

 

「承知。恐れながら申し上げまする。某は……反対にございます」

 

 皆に緊張が走る。聖上は特に表情を変えることもなく某に続きを促された。

 

「我がヤマトは先日、彼の國よりの使者を歓待したばかり。巫のお二方は友好を示され、今後もよき協力関係を築く手応えは十分だったと存じます。トゥスクルに進むとなれなば海を越えまする。戦費は莫大、膳だてに時間も必要となります。彼の國を落としたとしても、我等と思想も文化も違います。統治は統治は困難を極め得る物は多くありませぬ。どうか今一度、お考え直し頂きたく、奏上致します」

 

 某の言葉に先ほどよりも大きなざわめきが起こる。皆にとって聖上の言葉は絶対。それに真っ向から反対意見を申し上げたのだからこの反応も当然。しかし某はこの國を思う者として必要な事を申し上げたつもりだ。それでこの首が落とされようと構わぬ。某になにかあれば母とネコネは悲しむだろうが、特にネコネにはあの漢が―――ハク殿がついてくれている。ハク殿ならば悪いようにはせぬだろう。

 

「ほぅ…………」

 

「く、口を慎むにゃもオシュトル!聖上に対してなんという出すぎた真似をするにゃもか!」

 

 ライコウ殿は面白そうにそう零し、デコポンポがそう声を荒げる。ミカヅチとムネチカ殿は心配そうに某に視線を送ってきているが他の八柱将―――否、他の者は皆デコポンポと言葉は異なるが同じような事を口々に呟いている。

 

「ふむ、なるほどな」

 

 聖上がそう呟かれると先ほどのざわめき等なかったかのように静寂が満ち、皆は聖上の言葉に耳を傾ける。

 

「オシュトル其方の言い分はもっともだ。確かに今の状況を客観的に判断すれば、その結論に至るのは当然であろう」

 

「ありがたきお言葉。身に余る光栄にございまする」

 

 聖上のそのお言葉に某は深く頭を下げる。四方から敵意が向けられるが聖上からこのような言葉を頂いたのだ。國の中枢に近いもの―――特にデコポンポのような輩からすれば今の某は目の上のたんこぶにしか見えぬであろうからな。

 

「確かに、トゥスクルの巫たちは傑物であった。指導者としても、一人の人としてもな。オシュトルの申す通り、あの者達であれば良き関係が築けるであろう」

 

「はっ……」

 

「だが……これは既に決定事項である」

 

「……御心のままに」

 

 聖上のお言葉にそう返す。いくら某が反対でも聖上がそう決められたのであるならばその決定に異議は唱えられぬ。

 

「他の者もよいな」

 

「聖上の御意志は我等の意思。異を唱える者など一人でもおりましょうか」

 

 ライコウ殿がそう答えると、後は誰を向かわせるかの話に移る。いろいろと揉めたがウォシス殿の提案によりライコウ殿、デコポンポ殿、ムネチカ殿の派遣が決まる。海路を進むためにソヤンケクル殿の力を借りることとなり迅速に準備が進められていった。某はムネチカ殿が留守中の帝都の護りを任される事となった。

 

 

 そしてその数日後には軍勢はまとめ上げられ帝都を発った。

 

 

 その数週後には戦端が開かれた。緒戦は調子よく進軍していたようだが現在は敵の策に嵌ったのか連絡が途絶し、増援を送ったもののそちらも消息を絶っている。硬直状態に陥っているのだろうが、補給路も断たれ状況は悪いだろう。要因は―――地の利、敵側の精強さ……いくらでもあるだろうが一番は敵側の将が非常に優秀なのだろう。

 

「……本当に最悪の事態に陥っているとは思えぬが、ままならぬ……」

 

 そう呟いていると、この屋敷で働いてる女衆が某の執務室に入室を求めてくる。許可を出しマロロから報告が届いた事を伝えてくれたのであった。

 

 

Interlude out

 

 

 道中は平和に進み、帝都まであと数日という距離になった時に道の先からすごい勢いで進んでくる一団がみえた。なんかその中に妙に見覚えのある姿が混じっているのだが、何かあったのだろうか?

 

 そしてその一団は自分達の車に近づいてくると少し手前で速度を落とし、自分たちを待ち構える。自分たちも車を止めると一団の中から貴族風の着物を着た白塗りの顔をした男性……マロロが近付いてくる。普段なら自分を見つけるとものすごくテンション高く近づいてくるのだが、今はその顔は厳しく引き締められていた。やれやれ……何があったのかはわからんが碌でもなさそうな気配がするなこれは。

 

「どうしたんだマロ。こんなところで」

 

「ハク殿。オシュトル殿より文をお預かりしているでおじゃる。少しお時間を頂いてよろしいでおじゃるか?」

 

 

 世界は動き出している。そしてそれは否応なしに彼らを巻き込んでいくのであった。




お読みいただきありがとうございました。

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