出会いにして再会2~没落のおじゃる~
「みんな道中ご苦労だったな。今日は俺のおごりだ。存分に料理と酒を楽しんでくれ!」
『ウコンさん太っ腹~』、『よっ大将、わかってるね!』、『おじゃ、ウコン殿のおごりでおじゃるか』、『よし、ウコンさんのおごりでこの宿の酒を飲みつくすぞ!』というような男どもの声を聞きながら宴会場で夕食にありついている。クオンも周りを見ながらまったく男衆は困ったものかなと言いつつ苦笑いだ。昼間に行っていた通り、クオンは酒を飲ませてくれるようで自分にお酌をしてくれている。
「おう、すまねえな。アンちゃんにネェちゃん。うるさくしちまって」
この集団のまとめ役であるウコンがやってきてそう言ってくる。
「ま、宴会なんてこんなもんだろう。こっちは静かにクオンと飲んでるさ」
「うん、ハクの言うとおりかな。飲みすぎてヒトに迷惑をかけるならダメだけど、そのあたりはみんなわきまえてるでしょ?」
「ああ、そこについては問題はねぇさ。若い奴らにはハメ外しすぎないように言っておくから、安心してくんな。ただそれだと自分の気が収まらないんでな。女将に話をつけて、今夜この宿に宿泊している全員分の酒代と飯代はこっちで持つことになってっから、アンちゃんもネェちゃんも遠慮なく飲み食いしてくれや」
クオンと顔を見合わせそこまで話が通っているなら、という事で自分たちも相伴にあずかることにした。
ウコンはそのまま自分たちの席近くに腰を下ろして酒を注ぎ始めた。居座るつもりのようだ。まぁ今夜分の金は出してもらってるし付き合うかね。この男とは酒を飲みかわしてみたいと思っていた事ではあるし。
「まぁ、とりあえずは乾杯といこうや」
「そうだな。ほらクオンも」
「うん。私もご相伴に預かろうかな。え~っとこの出会いにってとこかな?」
「そういうこった。ではこの出会いに…」
「「「乾杯!」」」
クオンはそんなに酒に弱くはないし問題ないだろう。酔ったとこも見てみたい気もするが…ま、どうせなら二人きりの時にでだな。その後は他愛もない話をして過ごす。
「そう言えば、アンちゃんたちはどうして旅を?」
「自分はクオンの付添いだ。クオンは見聞を広めるためってとこだよな?」
「うん。自分の故郷に無かった文化や歴史、古代の遺跡なんかに興味があって」
「ほう、文化や歴史、それに古代の遺跡と来たか。だが、二人だけとなると結構大変じゃねえか…いや、あんちゃん達は腕がたちそうだし案外なんとかなるもんか?」
「私は旅に慣れてるし、ハクもそれなりに動けるから問題はなかったかな」
そういうもんかと言ってウコンは納得したように声を上げる。実際二人程度で旅をするとなると腕が立つ人物でもない限りは難しいだろうなとは思う、ましては女連れだし。しかしクオンと自分のペアであれば大概の事には対処できるし、問題らしい問題もない。恋人同士である事でそういう方面についてもあまり気を遣わなくて済むしな。
あれ?ウコンの連れでこっちに近づいてきている奴がいるな…。ってなんだあれは!?化粧で顔を白く塗り、眉は短く、極め付けにある時代の公家(貴族)のような服。これでおじゃるとか言って名前がマロとかだったら完ぺきだよなー。いやさすがにそれはないか。ウコンを最初に見た時のような懐かしさに加え、泣きたくなるような気持ちも感じたが、その圧倒的なビジュアルに全部吹っ飛んだわ。
「ウコン殿~、飲んでるでおじゃるか~」
「おう、マロロ。もう完全に出来上がってんじゃねえかお前は」
吹き出しそうになるのを気合いでこらえる。そうかおじゃるでマロなのか。まじか。
自分の様子には気が付いていないのかウコンはマロについて自分たちに紹介してきた。
「アンちゃん達、こいつはマロロ、俺の友人だ。没落貴族の出だが殿試に合格した優秀な奴でよ。今回は俺の補佐を頼んでいる」
「マロはマロロでおじゃ。よろしくお願いするでおじゃるよ」
ちょっとまてぇええええええ!!貴族(公家)でおじゃるでマロってどんだけ盛るつもりだこいつは!少し吹き出してしまったわ!
「っと、すまん。自分はハクだ。でこっちがクオン」
マロロからみると自分で隠れてしまっていたであろうクオンがひょっこりと自分の陰からでて会釈する。
それを見たマロロはその表情を輝かせていた。
「お、おお、これは何と美しい…まるで大輪の花でおじゃるな。誰もが目を止めるような美しき女子でおじゃ。きっと良き出会いに良き別れ、そして良き恋を経験してきたのでおじゃろうなぁ」
クオンをそう褒め称えたマロロに自分とクオンはあっけにとられる。
しかしウコンは違ったようで面白い物を見つけたといわんばかりの顔をしてマロロに言葉を投げかけた。
「ほほぅ?オメェが女に美惚れるなんざ珍しいじゃねぇか」
「いやいや、美しい物は美しい。このように美しい、それも外面だけでなく内面からも美しさが溢れてきているような御仁、帝都でもお目にかかった事がないでおじゃるよ」
ニコニコと笑いながら赤ら顔でマロロはそう言う。クオンは褒められすぎたせいで一周まわって恥ずかしさはどこかへ行ってしまったようで苦笑しながら自分の腕に抱きついている。
「マロ、女を口説くのは良いがネェちゃんはやめとけ。完全に脈無しなうえに
「むひょ!?ち、違うでおじゃるよ。思わず口走ってしまっただけで、他意は無いのでおじゃる。何と言うか突然失礼したでおじゃるよクオン殿、ハク殿」
「ああ、ちょっとびっくりしたがマロロが嘘を言ってないのは分かるから慌てんな」
「私も気にしてないかな。ハク以外にそんな事言われた事無かったたらびっくりしちゃったけど」
まぁ、マロロの言葉に嘘がないのは分かっているんだがこれだけは言わなければならんだろう。クオンは誰にもやらんさ。なにせ自分の女だからな。
「マロロの評価が適切かは置いといても、自分にとってはマロロの評価以上の…いや評価なんてする必要が無いくらいには唯一無二の女だよクオンは」
「…うん、私も同じ気持ちだよハク」
ウコンはそんな自分たちを見ながら熱いねぇと言いながら酒をぐいっと煽っている。マロロはあっけにとられた様に自分たちを見た後、何を思ったのか優しい笑顔を浮かべて再度口を開く。
「さっき言った事はハク殿にも当てはまるような気がするでおじゃる…。お二人は良き出会い、良き別れを経験して、そして今は最高の恋を経験し愛へと至ったみたいでおじゃるなぁ」
その声があまりにも優しかったものだからクオンと二人でぽかんとしてしまった。とりあえずマロロが空気は若干読めないが憎めない奴だってのは分かったな。その後はマロロも交えて四人で飲んだ。マロロの要望でマロロの事はマロと呼ぶようになりその夜はウコンとマロロと友好を深めた。宴は明け方まで続いていたらしいが、自分とクオンは適当な時間で辞して部屋へと戻って布団に入り、お互いの温もりを感じながら眠りに落ちた。