試しに書いてみた「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」と「名探偵コナン」のクロスです。
舞台は千葉、八幡たちは高校三年生の設定です。
コナンは永遠の小学校一年生w


※アンチ・ヘイト作品ではありません。

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実験的に書いた短編です。



捻くれぼっちと歪な少年

 

 

 梅雨明け近くになると、暑さは真夏と何ら変わらない。晴れていれば尚更で、今日も蒸し暑さが半端ない。

 南中を越えた太陽は容赦なく地面を炙り続け、その行手に陽炎を立たせる。首筋の汗を指で拭った瞬間、また新たな汗が落ちてくる。

 アスファルトに落ちた汗なんか瞬く間に空に還されてゆく。

 つまりは焦熱地獄。

 

「何だってこのくそ暑い時に出掛けなきゃならねぇんだよ……」

「まあまあ、いいじゃん」

「悪いわね……自分だけではどうも決めかねていて」

 

 三年生一学期の定期テストも無事に終了した土曜日の午後。

 由比ヶ浜と俺は、雪ノ下雪乃の依頼で海浜幕張の大型ショッピングモールへと買い物に来ていた。

 

 本来なら総武高校新一年生の小町も来る筈だったのだが、「先週録ったドラマ見るから」という謎の理由で不参加となった。

 まあ小町のことだ。ドラマ見ながら勉強でもしているのだろう。追試に向けて。

 

「おー、向こうにクレープあるよ、ゆきのんっ」

「あ、暑いから少し離れて……」

 

 三人揃ってのお出かけにテンションが上がりまくる由比ヶ浜は、炎天下で雪ノ下の腕ををがっしりと掴んで先陣切って駆けて行く。後陣は俺一人だ。

 

 はぁ、とっとと陽乃さんの誕生日プレゼント買って帰ろうぜ。今期の深夜アニメは当たりが多いんだよ。あと暑い。

 

 

 一時間後。

 どうにかプレゼント選びを済ませた俺たちは、フードコートで涼をとりつつ駄弁っている。主に喋るのは由比ヶ浜と雪ノ下で、俺は安定の相槌係だ。

 そのうち進路の話になり、雪ノ下は国公立文系、俺は私立文系の大学名を挙げる。

 その大学名を聞いた由比ヶ浜が苦笑いするのを見た雪ノ下にスイッチが入ってしまい、涙目で嫌がる由比ヶ浜を引きずって参考書を探しに書店に向かった。

 

「今日は息抜きに来たのにー、赤本とかよくわかんないし」

 

 つか由比ヶ浜、赤本くらい聞いたことあるだろ。仮にも受験生なんだから。

 恨み言を呟く由比ヶ浜を今度は雪ノ下が引っ張って、ショッピングモールの二階にある書店へと足を踏み入れる。

 

「わあ、女の子多いね〜」

 

 由比ヶ浜の言う通り、店内は私服やら制服やらの若い女性客が多数見かけられ……おい、携帯電話を取り出すな数字を押すな雪ノ下。

 決して背中に透ける下着の線なんか見てないから。見ようとはしてないから。

 

「あら、そのいやらしい腐った目は通報が必要な合図ではないのかしら」

「俺の目の腐りは今始まったことじゃねぇだろ」

「目は否定しないんだね……」

「そこは否定出来ないだろ。個性だし」

「個性が悲し過ぎるっ!?」

 

 うむ。本日も奉仕部は通常通り。

 遠目から見たら両手に花。近づいてみたら罵倒と屁理屈、そして突っ込みの応酬。

 それが奉仕部の日常だい。ぐすん。

 

 ふと見ると、雪ノ下が書架の高い棚に手を伸ばしていた。

 ちらと横目で「踏み台あるぞ」と合図をするも、雪ノ下は一瞥して再び書架の一番上の棚を目掛けて背伸びをする。

 こいつって、つまらないところで頑固だよな、などと巨大ブーメランが返ってきそうな思考を隅に押し込め、書架の一番上の棚に手を伸ばす。

 お、俺なら届くじゃん。さすが俺。

 

「どれだ」

「──いいわ、自分で取れるから」

 

 いやいや、無理があるからねそれ。自分で取るなら素直に踏み台使えよ。

 

「これか?」

 

 雪ノ下の目線を追って見当をつけ、一冊の背表紙に触れる。

 

「その右の……左」

 

 右の、左……?

 じゃあこれで合ってるじゃねぇか。何だよその「賛成の反対なのだ」みたいな言い回しは。それでいいのか?

 背表紙の下側に指をかけ、引き抜……くっ、重い。

 何とか引き出したそれを雪ノ下に渡す。

 

「あり……がと」

「ん、なんか言ったか?」

 

 俺は難聴系ではない。逆に聴力が良過ぎて陰口ばっかり聞こえて困るまである。が、つい面白半分で聞き返してみた。

 面喰らった様な雪ノ下の顔は見る見る朱に染まり、くるりと振り返って離れてしまう。怒らせちまった様だ。

 

「……なーんかいい雰囲気」

 

 ほら、ぽしょりと呟く由比ヶ浜の言葉が聞き取れる俺は決して難聴系ではない。その意味するところは全然わからんが。

 

「あ、あたしも本、探そうかな。赤本だっけ」

 

 だばだばと他の書架に走る由比ヶ浜を見て、ふとエリマキトカゲを思い出す。何か……こういうのもたまにはいいのか、な。

 

 さて、俺は新書の新刊でも見にいくか、と歩き出した時に店内に怒声が響いた。

 見ると、制服姿の女の子が中年の男に腕を掴まれていた。真昼間からお盛んなことで。ちがうか。

 

「あたし、万引きなんてしてませんっ」

「ううう嘘をいうな。ここここんな本、それがしは売った覚えは無いぞ」

 

 言い争うのは制服姿の女の子と、エプロン姿の禿げ散らかした肥満体男性。エプロンからして書店の店員が万引きを見つけた、というところか。

 いつの間にか戻ってきた由比ヶ浜と雪ノ下が俺のTシャツの裾を引っ張る。

 

「どしたの、ヒッキー」

「自首するなら今よ。弁護くらいはしてあげるわ」

 

 俺が犯罪犯した前提で話を進めないで欲しい。何より雪ノ下の弁護が超こわい。パンを盗んで十九年間も投獄されるなんてまっぴらだ。

 

「落ち着け。たぶん万引きか何かだろう」

「万引き? そんなことする子には見えないんだけどなぁ」

「人を見かけで判断するのは良く無いわ。そこの比企谷くんだって生気のない顔をしているのにちゃんと生命活動を営んでいるのだから。ね、ゾンビ谷くん?」

「いやゾンビはそもそも死んでるし、即ち俺も……っておいっ」

「わわっ、ヒッキーがノリ突っ込みした!?」

 

 通常営業の由比ヶ浜はさて置き、静かな書店でこれだけ騒いでいれば野次馬も次々に寄ってくる。

 

「は、離してくださいっ」

「ははは離すもんか。せっかく見つけた手柄なんだぞ」

 

 主食がピザっぽい肥満体店員は唾を飛ばしながら高揚に叫ぶ。いくらあの子が万引き犯といえども、あの唾の弾幕を被弾するのには同情してしまう。

 野次馬はさらに増えて、若い女性たちに混じって子供連れの初老の男性までもが人垣の中に見える。

 

「──あら、何かしら、あの紙切れ」

 

 腕を掴まれた女の子の背後、はらりと紙切れが落ちた。

 距離にしておよそ三メートル。形状は細長い短冊の様な白い紙。

 もしかしてあれは。いや、もしかしなくても……だよな。

 ここで見過ごすのは後味が悪い。確かめようと紙切れに手を伸ばしたと同時に、もう一本の細い手が伸びてきた。

 

 手を伸ばすのは小学生低学年くらいであろうメガネの男の子。言い換えればメガネチビ。なんかつむじの辺りにぴょこんとアホ毛が立っている。

 その後ろには恰幅の良い、頭頂部に立つアホ毛も無いくらいに木枯らしが吹き荒れる初老の男性。

 

 と、忘れてた。紙切れは……え?

 紙切れはすでにメガネチビの手中にあった。それをじっと見た後、一瞬だけメガネチビの口角が上がった。錯覚や勘違いではない。

 確かに紙切れ──レシートを手にしたメガネチビは、大人びた含み笑いを浮かべたのだ。

 そしてレシートを差し出しながら俺に向かって数度口を開いた。

 声は無い、が、意味は理解出来た。

 

 ──あ・わ・せ・て

 

 声を発さずに口の形だけで音を伝える、口話(こうわ)とか読唇術とか言われる方法だ。何故こんな方法をガキが知っているのかと疑問が湧くが、その直後の「しーっ」という人差し指を口に立てる仕草は年相応のものだ。

 要するに、ただのガキではないってことだ。

 しかし、何故俺を巻き込むのだ。そこの初老の保護者を巻き込めばいいのに。

 

「あれれ〜、これってその本のレシートだよね〜」

 

 俺の了承を得ずに幕を開けたのは、棒読みも良いところの三文芝居。まったくもって白々しい、作ったような子供の口調。

 こいつ……前世の記憶を持ったままこの世界に転生してきたんじゃねえの。

 中身は大人なんじゃねぇのかよ。

 だとしたら、すげぇ。女湯入り放題じゃねぇか。

 ──おっと、思わずあり得ない妄想の中で厨二病を発症しそうになってしまった。

 

「……そうみたいだな。日時を見ると、このレシートは今日この店の二番レジから発行されてるな。担当者は……」

 

 ──くそっ。苗字の読み方が解らん。比企谷をヒキタニと間違えられ続けてきた俺が他人様の苗字の読みを間違える訳にはいかない。非常にデリケートな問題だ。

 つーかカタカナで書いとけよ。それかふりがなをお願いします。

 レシートを見つめていると、禿げ散らかしたピザ、もとい肥満体の店員は雄叫びを上げる。

 

「がぁあああ! そそそんな筈は無いのである。そそそれがしはずっとレジにいたのである」

 

 こいつも転生者か。きっと材木座が転生してしまったのだろう。お可哀想に。

 

「ホントにずっといたの?」

 

 メガネチビのメガネがきらんと光る。いいなそれ。俺の腐った目にも光をくれ。

 

「ももももちろんである。ききき休憩以外はずっとレジにいたのであるっ」

「……休憩時間はいなかったんじゃねぇかよ」

 

 ピ──肥満体店員の唾を飛ばしまくる様に堪らず軽い突っ込みを入れて溜息を漏らす。

 そこに第三、いや雪ノ下や由比ヶ浜、ハゲ初老を入れれば第七の人物が現れた。

 

「どうかしましたか?」

 

 女性客の群れを割って現れたのは、俺の大嫌いな爽やかイケメン。平塚先生と同じくらいの年齢だろうか、名札を見ると店長と書いてある。

 途端に周囲の女性が色めき立つ。ははーん、この店の女性客の多さはこいつの仕業か。爆ぜろ。

 

 レシートを見せて経緯を説明するとイケメン(笑)店長は渋い顔をした後、女の子に深々と頭を下げて謝罪する。

 

「まことに申し訳ありませんでした。お詫びをさせて頂きたいのであちらへお越し願えないでしょうか。あと君も一緒に来なさい。しっかりとお詫び申し上げるんだ」

 

 と、その女子をエスコートして奥の事務所に向かっていく。禿げ散らかした肥満体店員もすごすごとその後を追う。

 

 残されたのは雪ノ下、由比ヶ浜、メガネチビ、ハゲ初老、そして俺。

 顛末を見ていた由比ヶ浜は目をキラキラさせて、メガネチビにハグをかました。

 

「ボク、すっごいねー」

 

 しゃがんで目線の高さを合わせて微笑んだ由比ヶ浜は、ぎゅむっとメガネチビを抱き寄せる。

 一見すれば微笑ましい光景。

 だが──俺は見逃さない。

 このメガネチビ、一瞬戸惑いつつも由比ヶ浜のけしからん大きさの双丘にぽすんと収まった瞬間、にへらっと顔が緩みやがった。

 やはり転生者かっ。転生者ならではのラッキースケベかっ。

 

 ……う、うらやましくなんかないもんっ。ガキならではの特権なんて。

 

 だが、このメガネチビが一人の少女を冤罪の危機から救ったのは事実だ。

 落ちたレシートを見つけたのは俺と同じく偶然だろう。だがそこから情報を読み取り、判断し、真実を暴く。

 大人なら簡単に出来ることだが、果たして小学校低学年の子供には可能なのだろうか。

 ……出来なくはないか。俺も子供の頃は相当大人びていたし。なんなら可愛げがないと親戚連中に言われまくってたし。

 何はともあれ、一件落着か。

 おいガキ、いつまで由比ヶ浜の胸に顔を埋めてるつもりだよ。そろそろ代わって欲しい。無理ですね知ってます。

 

 ──はっ、殺気……いや冷気。

 

 冷気の方へ向くと……雪ノ下がじっと俺を睨んでいた。

 

「小さな子供だから許されるのよ、乳谷(ちちがや)くん?」

 

 読唇術も使わずに心を読むの、やめてね。

 その後、妙な社交性を発揮し始めた由比ヶ浜が流れを作り、自己紹介が行われた。

 

 頭頂部が物悲しい初老の男性は阿笠博士(あがさひろし)という街の発明家らしい。

 そしてこのメガネチビの名は……江戸川コナン。

 

「……江戸川乱歩にアーサー・コナン・ドイル、か。すげえ名前だな」

「きっとご両親は相当の推理小説好きなのね」

「え、江戸川? アーなんとかドイルって誰?」

 

 仕方ない。物を知らないアホの子の為に説明しよう。

 

「超有名な推理作家の名前だ。怪人二十面相とかシャーロック・ホームズは知ってるだろ」

「え、あー、うん、知ってる知ってる」

 

 ……こいつ絶対知らないな。ならこれ以上の説明は無意味だな。

 

「ねえねえ、ひきがやはちまんって、本当の名前?」

 

 ……こいつ失礼なガキだな。

 

「そうね。普段は比企谷八幡だけれど、そこの由比ヶ浜さんの胸元を見ている時は乳谷(ちちがや)になるのよ。あとは遅刻谷(ちこくがや)になったり……ある意味怪人二十面相ね」

 

 おい、小さな子供に何てことを。

 

「……何か反論があるのかしら、乳谷くん?」

「……ヒッキーのエッチ」

 

 ぐっ、反論出来ねえ。

 

「はははー、お姉ちゃんたち、仲良しなんだね」

 

 ば、馬鹿。そんなことを雪ノ下に言ったら──

 

「初対面だし子供だから勘違いしているのだと思うけれど、友人と呼べるのは由比ヶ浜さんだけ。この目の腐った男は部活の備品よ。それでも幾つもの案件を処理してきた実績だけは評価出来なくもないけれど、それにしても私とこの比企谷くんが友人関係にあるという誤解だけは辞めて欲しいわ」

 

 いつもより多少短めだが、一気にまくし立てた雪ノ下がほぅと息をつく。

 つかそれ、ガキには理解し難い言葉が多過ぎ。

 

「ふーん、じゃあ、恋人?」

「「違うっ」」

 

 どうしてそうなる。見ろ、さっきまで冷酷だった雪ノ下の顔が真っ赤になる程に怒りに燃えてらっしゃるぞ。

 

「じゃあ、比企谷さんはこっちのお姉ちゃんと恋人なんだね」

 

 そのメガネチビの視線の先には由比ヶ浜。

 

「……へ? あ、あー、ど、どーだろ、たはは……」

 

 たははじゃねぇよ。ちゃんと否定しろよ。ガキだからって構うこたぁねぇ。

 ちゃんと単なる知り合い……うん、まあ、仲間ではある、よな。

 

「あーわかった! 三角関……むぐっ」

「おいチビ、そろそろ家に帰る時間だろ。そうだろ、そうだよな?」

 

 咄嗟にメガネチビの口を塞いでその耳元で囁く。こくこくと頷いたメガネチビは、テヘペロっぽい笑顔を向けてきた。

 くそっ、小学生にからかわれた。

 

「おーい新一、帰るぞ」

 

 初老の男性に呼ばれたメガネチビは、バイバーイと如何にも子供らしく手を大きく振って去って行った。

 

 ──あれ。新一って、誰?

 

 

 




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