Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

21 / 73
XM3に関しては、"eXtra Maneuver 3"の略称とし、また機能別にXM1、XM2、XM3と分割する案を使わせていただいております。(下部に詳細を移動しました)



第二章:進展を自覚できない日常に
可逆の価値 01/10/25


 夕食後の207Bの皆との話が長引いてしまったが、自主練をこなした後でもすぐに消灯時間というほどでもない。レポートの続きを書くかと宛がわれている部屋に向かったが、その場で夕呼からの呼び出しを受けた。

 それも強化装備着用の上でシミュレータ室に来い、という話だ。待たせる訳にもいかず、急ぎ準備して向かう。

 

「ん? 白銀か、やはり貴様も呼ばれていたようだな」

 武としては、出来る限り急いだつもりだったが、シミュレータ室についてみると、すでにまりもが装備着用の上に待っていた。

 

「神宮寺軍曹殿もですか。しかし強化装備着用の上でここに呼び出しとは、軍曹殿と自分とで模擬戦でもさせられるのでしょうか?」

「さてな。副司令の急な呼び出し内容を予想するのは、ずいぶんと昔に諦めたよ」

 まりもならなにか聞いていないかと、探るように尋ねる。だがまりもも理由も告げられずに呼び出されただけのようだった。

 

 

 

「それはそうと白銀、あまり抜け道ばかり教えるなよ? 先程、どこまで隠し持って行って良いですか、と鎧衣に聞かれたときは叱責するよりも先に呆れたぞ」

「それは……申し訳ありませんでした、教官」

 夕呼が何を言い出すか、それを予測することが難しいと実感している二人にしてみれば、話す内容はどうしても207Bの演習に関してのこととなる。

 

(いや鎧衣よ、そこは遠まわしに誤魔化せよ)

 さすがに直接聞いてどうするのだ、と武も思う。だがそれでも聞いたことををすぐ様に実践しようとする姿勢には、感心できる。

 

「まあ一応は聞かなかったことにしておいてやる。演習の内容も少しばかりは変化があるから、貴様の助言だけで安心できる物にはならないはずだ」

「それはあいつらにとっては、またとない訓練でしょう。演習に合格することを目的にされても困りますからね」

「確かにそうだな。それが判っていればいいのだが……いや、そもそも我々が演習に拘っている時点で、あいつらのことをとやかく言えんな」

 

 まりもとしても少しばかり気になってはいる。

 どうしても短期的な目標、それも一度失敗しているとなっては、演習の合格が目的化してしまう。衛士になり戦い続けるという本来の目的を見失ってしまいかねない。総戦技演習であっても、それは衛士訓練の一環でしかないのだ。

 

 

 

 夕呼からどんな無理難題を言いつけられるのやら気にはなりつつも、二人して207Bに関しての話が続く。そんな話をしていたからか、さほど待たされたとも思わないうちに、霞とピアティフとを連れて夕呼がシミュレータ室に入ってきた。

 

「だから敬礼なんていいって。で、なに模擬戦したいの? 時間の無駄よ」

 雑談を止めたまりもと武が敬礼、それに夕呼が文句を言うまでが、半ば儀式のような流れだ。

 

「時間の無駄ということは、俺の戦術機適正試験とかでもないですよね」

 今更ながらではあるが、武は意識が戻ってからは適性試験を受けていない。が、すでに幾度かはシミュレータに乗っているので、それこそ時間の無駄だ。

 

「アンタの適正は、一応は数値としては取っておく必要があるわね……ま、それは今度でいいわ。あたしがいる必要ないでしょ」

「ということは、まさかとは思いますがOS出来たんですか」

 

 OSの話をして三日と経っていない。早すぎるだろ、とは思うがそれくらいしか呼び出される理由が考えつかない。そしてそれが正解だったようだ。にやにやと夕呼が笑っている。

 

「社ががんばってくれたのか、ありがとな。ピアティフ中尉も、ありがとうございました」

 が、そこは武としても慣れたもので、最大の功労者であろう霞にまずは礼を言う。もちろん手伝っていたであろうピアティフにも、だ。

 

 

 

「何、白銀? あたしへの感謝の言葉はないわけ?」

「いや、夕呼先生がご自身で作ってる時間は、さすがに無い、ですよね?」

 確か以前の時もほぼ霞に投げていたはずだ。が、こちらでは00ユニットの開発を急がなくていい分、夕呼の手が空いていたのかもしれないと思い至り、確認するかのような問いになってしまう。

 

「ま、ほとんどの部分、作ったのは社なんだけどね」

「……(コク)」

 そんな武の心配りをあっさりと否定する。が、どこか娘の成績を誇るかのような顔で、夕呼としても満更でもないようだ。霞は照れているのか、一歩下がってしまい、ピアティフと共にOSの実装手続きに入ろうとする。

 

 

 

「あと完成したわけじゃないわ。CPUも既存品をちょっと弄っただけよ。まずはアンタが言ってたOSの基本をなす『キャンセル』だけの実装。言ってみれば"eXtra Maneuver"その第一段階、XM1ね」

 出来るところからまずは手を付けてみたという。夕呼にしては堅実に過ぎるようにも思えるが、使う方としては堅実であることに異論はない。

 

「"eXtra Maneuver"……ですか?」

「そ。XMが何の略称か判らなかったから付けておいたわ。特例的挙動、とでも言うべきかしら?」

 それっぽい名前にしてみた、ということらしい。武としても特に拘る部分でもないので、それで納得しておく。

 

「今のところ機能としては本当にキャンセルだけね。他はまったく今まで通りよ。『先行入力』はメモリ含めてハード側にもう少し余裕が欲しいから、今回は無し。コンボも『パターン認識と集積』とが負担になりそうだったから、これはホントにCPUの方が目途が立たないとシミュレータでも動かせないわね」

 

 夕呼がわざわざ各機能を分けて説明するのは、何らかの意図がありそうだ。そしてそれを隠すつもりもなく、答えを期待する顔で武を見やる。

 

 

 

「あの、もしかして夕呼先生、分割販売にするつもり、ですか?」

「へぇ……そっかー白銀、そういう風に考えるのね」

 わざとらしく良いことを聞いたわと笑いながらはぐらかす。間違いなく最初から、提示する相手に応じて実装内容を分ける心積もりだったはずだ。

 

「ま、ホントに分割するほどの価値ができるかどうかはこれからの試験次第ね。このキャンセルだけでも実用性があるなら、CPU周辺の質的向上は勝手にやってもらってOSのライセンスだけバラまく、というのは一つの方法ではあるわ」

 

 キャンセルのみのXM1、先行入力も可能なXM2、フルスペックのXM3と最初から分けておけば、それぞれにソフトとハードとのライセンスとで最低限の制限は加えられる。

 複製や量産の難しいハード部分とは異なり、ソフト部分はどれほど強固にブロックしても解析はされる。それに解析されずともXM3の概念が理解されれば、類似したOSは時間がかかったとしても作る事が出来る。今回のようにキャンセルのみなどと要素ごとに分割すれば、既存のシステム上でも稼働させることはできるはずだ。

 

 XM3が完成し公開されてしまえば、どれほど厳しく制限しようとも模倣される。であれば、先にそれを作って頒布してしまう方が、夕呼としては利が大きい。

 そもそも今後継続的なサポートが第四計画の下で実行できるかというとそうでもない。最初の概念提示と、それに伴うライセンスだけを抑えて、細かな修正などは軍や企業に投げた方が効率的だ。

 

「あの事務次官補の言葉じゃないけど、契約の意味さえ理解できないような連中が相手よ? 最初に搾り取るだけ搾り取っておかないとね」

 

 

 

 

 

 

 時間がもったいないとばかりにOSの準備ができ次第、まりもと武はシミュレータに入る。歩く走る止まると簡単な挙動を確認した後は、動作教習応用課程Dを試してみた。おそらくはこの世界での歴代最速記録を塗り替えたとは、武も思う。

 その後はエレメントを組み、小規模のBETA群を相手に弾薬補給までの時間ただひたすら粘り続けるという、ベテランでも嫌がる訓練を試してみた。

 

 

 

「キャンセルだけでもこれほど変わるとは……先日の説明だけで理解していたと思った自分を叱責したい気持ちです」

 シミュレータから出てきたまりもの、感想を求められての第一声が、それだった。一時間程度のシミュレータ訓練だったが、わずかながらにも疲労が見えるのは、既存のOSとは異なる挙動に意識をすり合わせたためだと思われる。

 

「ふ~ん、OSの性能としては、まりもは満足な訳?」

「はい、いいえ。香月副司令、キャンセルだけでも間違いなく既存OSの挙動を凌駕しております。ですが、やはりこれで完成とは言えないと考えます。キャンセルがあることで、より一層先行入力の必要性が想像できます」

 ただ理屈が判ってしまうまりもとしては、ここで満足できるとは言い切れない。

 

「なによ? キャンセルだけじゃ不満ってワケ?」

 武がいる上に、仕事中ということもありまりもは言葉遣いを崩すことはない。

 夕呼にしてみれば、そんな無駄な儀礼に時間をかけるくらいなら、ざくざくと要望と問題点を指摘しろという事なのだろう、言葉少なめに問いを続ける。

 

 

 

「現状のキャンセルだけであれば、そうですね。昨日の白銀の例に習いますと、地表へ向けてのブーストからの着地後、その時の姿勢制御をまず『キャンセル』し、次の行動を入力しています」

 録画されていた挙動をモニタに映し出し、その横に自身の入力ログを並べて説明を始める。

 

 記録された映像としては15秒程度だ。

 ただ入力ログを見れば、主脚走行状態からの跳躍、直後に上昇ブーストをキャンセル。さらに地表へ向けての降下ブースト、対地高度に合わせて自動的に着地モーションに入り脚部全体がショックアブソーバーとして沈み切ったところで再びキャンセル。機体が姿勢を正そうとする前に前方への主脚走行を開始している。

 

「これが『先行入力』が可能になれば、着地動作に入った時点で主脚走行を指定しておくことで、半ば自動的に処理されると推測いたします。『コンボ』まで実装されていれば、さらに簡略化されることでしょう」

 

「さすがは神宮寺軍曹。いえ、キャンセルのタイミングも的確ですが、OSに組み込みたい機能をよく予想されております」

 武がまりもの推測と感想に驚きつつも、褒める。

 訓練兵が教官を評価するという、軍としては許容しがたい事態だが、この場にいる者はそれを咎めることもない。それに今のところは確定していないが、XM3がそれなりに形になってくれば対外的なプレゼンの為に、武を正規任官前に少尉担当官程度には地位を与えることも考慮されていた。

 

 

 

「つまりは先行入力やコンボが無くても、キャンセルだけで十分。ただしあればさらに動きは良くなるってことね」

「正確な評価は、先行入力機能が付いたOSを動かしてからということになりますが、間違いなく現状の仮称XM1以上の挙動が可能になると推測いたします」

 

「加えて言えば、キャンセルの目的は二点ですね。衛士が不要と判断した動作を中断させ次の動作を割りこませて、挙動の全体的な連続性を作り出すのが一点。もう一点は誤った動作入力を破棄、停止させ、新しく動作を選択することですね」

 現時点でこの二点の目的は、ほぼ達成できていると武は思う。

 確かに衛士の入力と挙動すべてに割り込みを監視しているためか、CPUも換装しているとはいえ、どこか動き出しに「重さ」は感じる。それも誤差程度の物だ。

 

 すこしばかりの問題としては、武にしろまりもにしろ、挙動試験程度であれば「誤った動作入力」というものがなく、そちらの評価がこの短時間ではおこなえていないことくらいだ。

 

「ぶっちゃけまして、この時点でバグ取り終れば、一つの完成形だとは思いますよ」

 XM3の実装バージョンを知っている武にしてみれば、逆にこの段階でも一つの「完成品」として止めることには賛成ともいえる。

 

 そしてまたOSを組み上げている霞の能力には十分以上に信頼を置いている。

 ただしソフトには絶対にバグがある、いや想定外の事態というのはどうしても発生する。そしてそれらを発見して潰していくには、幾多の環境で試用し、ただただ時間をかけるしかない。つまりは試験環境を拡大し、時間的コストを費やすことで対処するしかない。

 

 

 

「A-01の、そうね昨日の話通り伊隅のところにとっと渡して、バグ出しさせるわ」

 そして残念ながら、第四計画最高責任者という立場の夕呼にしても、自由にできる戦術機甲部隊は直轄のA-01しか存在しない。今は大規模な作戦行動が予定されていないために比較的時間が空くとはいえ、開発部隊の真似ごとをいつまでも続けることは無理だ。

 

「……夕呼先生。今後の話になりますが、できれば小隊ごとにバージョン分け出来るようにお伝えできますか?」

 武は時間短縮の一案として、ふと思いついたものを提示してみる。

 

「白銀、続けて」

「最初は中隊すべてでこのキャンセルのみのXM1。次にXM2が出来れば第三小隊はそのままに、第一第二はXM2、最後にフルスペックのXM3、は第一小隊のみ、といったかたちで試してもらうのはどうでしょうか?」

 最終的には皆がXM3に完熟してもらう必要があるが、バグ取りの試用と教導用のデータ取りと考えれば、並列でやってもらう方が時間的には有効だろうと、武は提案する。

 

「ふ~ん、まりも、どうなの?」

「白銀の言いたいことは、前衛、中衛、後衛それぞれで試用するOSを変えて、バグ出しをしながら慣熟時間を取るということだと考えます。理想とすれば配属先の違う大隊を三個ほど選び、その中隊ごとにOSを変えるべきでしょうが、香月博士の指揮下ではそれを実行することは難しいかと」

 

 同じ中隊内部ではどうしても運用方法が似てしまい、多様な環境下での実働試験としては偏った環境としか言えない。九州に展開している部隊では問題なくとも、樺太方面では事故が起きる、ということも想像はできる。

 A-01は特殊任務部隊という性格上、様々な環境下での作戦経験があるが、それをこの白陵基地内だけで再現するのも難しい。

 

「それはまあ、無い物強請りになるわね。じゃ、そういう形で伊隅は伝えておくわ。といっても完成しないことには、次に進めないけどね」

 

 

 

 

 

 

 




第二章開始~ということで予定通りにXM3関連をちょっと進めます。前書きにも書きましたがXM3に関しては、"eXtra Maneuver 3"の略とし「特例的挙動」と当てております。マブラヴwikiのコメント欄で見かけた"Xeno Maneuver in 3-dimensional space"にも心惹かれましたが、1~3と続けるために、"eXtra"の方にしています。

このあたり何か問題があれば改訂いたします。



▼XM3に関しまして■追記(17/07/15)
前書きの通りXM3は"eXtra Maneuver 3"の略称とし、また機能別にXM1、XM2、XM3と分割する案を使わせていただいております。これらは先に書かれている方々には無断のアイデア流用であること、ご容赦ください。

これらは公式設定ではないので、どなたかの二次創作だとは思いますが、初出が判っておりません。もし初出作品をご存知の方がおられましたら、感想欄などでお知らせいただけると幸いです。


■追記(17/07/12)
XM1~XM3分割案はArcadia様にて鹿◆15b70d9b様が書かれている「Muv-Luv Alternative 1991 『政戦両略の斯衛』」がおそらく初出だと思われます。

■追記(17/07/15)
XM2という呼称に関してはArcadia様にてぷり◆ab1796e5様が書かれている「Muv-Luv Idea that doesn't intersect」が初出ではないかということです。


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。