Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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装具の建議 01/11/04

 今日の207Bの教練をまりもに一任し、武は朝から帝都に赴いていた。

 

「お時間を取っていただきありがとうございます、巌谷中佐殿」

 武としては、鎧衣課長を経由して願い出たとはいえ、かなり無理な日程での技術廠訪問だ。門前払いに等しい扱いをされても仕方がないと思っていたのだが、いきなり第壱開発局副部長の巌谷榮二に会えることとなり、緊張と共に恐縮するしかなかった。

 

「いや、むしろ私が君に会いに行くべきだったんだがね、白銀臨時軍曹。そちらに向かう準備もできずに申し訳ない」

「え、いやっ、中佐殿、頭をお上げくださいっ!?」

 テーブルに着くや否や、巌谷が軽くではあるが頭を下げる。

 正式には訓練兵のままの国連軍の武に、帝国軍しかも元斯衛の中佐が頭を下げているのだ、さすがに傍若無人な部分の残る武としても、慌ててしまう。

 

「ははは、それほど取り乱すこともなかろう。ここでは君は今や時の人だ。君が考案し香月博士が作り上げたあのOS、XM3か。あれの概略と試用動画とを見せられた技術者は皆、心奪われているよ。たとえ戦術機に直接関わっていない者であっても、だ」

 ハード側の改良ではなく、ソフト側で性能を調整・改良するというアプローチは珍しいという。その発想の転換と、それらを成し遂げているXM3には分野が違う者であっても、技術者であれば無視できないものだ。

 

 

 

「ご期待に添えるように今後も努力いたします。そしてXM3、新OSに関しては予定通りに11月15日に白陵基地の方で公開トライアルを実施します」

「ああ、当日は私も向かわせてもらう。期待しているよ」

 社交辞令ではなく、本心からXM3に期待しているのが感じられる、裏の無い笑顔だった。

 

「さて。これでも衛士だからゆっくりとXM3に関して話を聞きたいところだが、今の君は忙しいのだろう? 私の、というよりも技術廠が出せる物なら出来うる限り融通しよう」

 秘書官さえ退室させ、武と二人きりで話を詰めようとまで気を使ってくれる。武としては重ねて恐縮するしかない。ただ武もそうだが、巌谷が暇なはずはない。無駄に使う時間はもったいないとばかりに、気持ちを切り替え本題に入る。

 

「本日お時間を作っていただいたのは、帝国軍の方でいくつか試作あるいは検討していただきたい装備に関して、お話を聞いていただきたいのです」

 

 提示するのは、突撃砲と支援突撃砲の改修案、そして兵装モジュール転用の三点だ。

 ご覧ください、といくつかの試案をまとめたレポートを巌谷に手渡す。といっても簡単な物だ。読むほどの物でもない。見たらすぐに意図は伝わるはずだ。

 ターニャから「A4・1枚、最初の10秒」と散々に脅されたのだ。細かな仕様はまた別だが、企画として提示するなら、複雑なことを伝える必要はない。

 

 

 

「突撃砲の改修案としての、銃剣と連結式弾倉と、そして負革か。まったくの盲点だった」

 巌谷に見せたのは、武とターニャとのシミュレータ上での遊びのようなXM3のテストの際に出た話を纏め直したものだ。白陵基地内の第四直下の技術部門で改修した物の写真なども一応は添えてある。

 武自身はいまだ実機での使用経験はないが、A-01の方では試用が始まっており、そちらでは良好な反応を引き出している。

 

「規模が異なるとはいえ戦術機の基本は人型です。人間以上の挙動もできますが、歩兵に便利な物は戦術機にも便利なのではないかと」

 銃剣はターニャの言葉ではないが、短刀や長刀と突撃砲とをいちいち持ち変えることの煩雑さ解消と、携帯武器の増加だ。極端な話、強襲掃討装備の突撃砲4門すべてに銃剣を付けて行けば、短刀の携帯数は6本となる。

 連結式弾倉、マガジンクリップはリロード時間の短縮に加え、携帯可能弾数の増加を可能とする。もちろんこれらの改修は突撃砲自体の重量増加を招くが、許容できる範囲に収まるはずだ。

 

 そして負革、つまりはスリングだが、これは歩兵用の物とは少々重視する点が異なり、支持重量の分散目的よりもリロードなどに際し腕の自由度を確保するためだ。現状ではリロード時は、可動兵装担架を含めどこかの腕が空いていなければできないが、その際逆手側の突撃砲などを担架に戻すのではなく、ぶら下げるだけで手を空けることを目的としている。

 

 

 

 

 

 

「銃剣に関しては、こちらで試したのはフロントグリップ……じゃねぇや前把?」

 武は眼前の中佐の経歴を思い出し、英語由来の言葉を何とか漢字に置き換えようとしたが、笑って止められた。

 

「言葉狩りをするつもりなどないぞ、白銀君。普通に英語でいい。というよりもだ、言葉は崩してもらっても構わん」

「あ~助かります。正直目上の方への言葉遣いもまだまだでして。では話し戻しまして……」

 白陵基地で試作した物のデータを提示しつつ、説明を続ける。とはいうものの突撃砲のフロントグリップに短刀のグリップサイズの穴を開けて、バレルと刀身とを繋ぐプレートで無理矢理に固定しただけだ。

 

「このあたり、大陸派遣軍の方ではいくつか現地改修があったようなので、できましたら技術廠の名で聞き取り調査などして頂いて、より良い物を選んでいただきたいのです」

「……それは、この改修案に君たちの名を残さなくて良い、ということか?」

「俺個人の実績としてはXM3、新OSのほうで十分です。それにさすがにコレは第四関係だと言い張っても、各国へのカードにもならないんで」

 武としても名声や実績などが軍内部では重要だとは実感している。だがそれよりも性能の良い武装が必要だった。

 大陸派遣軍であれば、各種の運用データだけでなく現地改修の実績なども蓄積されているはずだ。そしてそれらを集めるには第四の権限ではなく、技術廠や巌谷の名前の方が適している。

 

 

 

「可動兵装担架や副腕などの干渉も含め、各種動作の再確認は必要だが、どれもすぐに実装できそうなうえに効果は大きいと予測される。素晴らしい」

 階級にしても年齢にしてもそして衛士としての実績でも、はるか上に位置する人物からの惜しみない賞賛に、武としては気恥ずかしさを感じてしまう。

 

「実のところこれらのほとんどは俺の案じゃないので、偉そうなことは言えません」

「……ほう?」

「出所は言ってもいいらしいんですが、信じられませんよ? いや信じられるかあの人の場合なら……」

「そこまで言われると気にはなるが、機密かね?」

 少しばかり怪訝そうな顔で訪ねてくるが、隠すほどでもないので、武は名前を出しておく。

 

「いえ。デグレチャフ事務次官補ですよ。これらはOS開発の間に茶飲み話で出たようなネタです」

「デグレチャフ事務次官補……ルナリアンか、なるほどな」

「中佐殿はデグレチャフ事務次官補と以前にお会いしたことは?」

「噂はよく聞いているが、お会いしたことはないな。各種のレポートを読む限り、驚くべきほどの慧眼の持ち主だとは思っていたが、想像以上だな」

「噂以上ですよ。ちょっと今は表向き療養中ということになっていますが、今も周りを掻き乱してます」

 

 ターニャも間違いなくある種の天才なのではないか、と武には思える。そして本人に言えば否定するのだろうが、なにかと現場に出てきたがる。

 経歴としては元は合衆国空軍将校だというが、以前の世界線では何を経験してきたのかまでは聞いていない。ただ装備関連の修正案を提示された時には、歩兵の経験でもあったのかと訝しむほど具体的な指摘もあり、しかもそれが理に適っている。

 武とは違い、ループの経験というものを有効に積み重ねているところは、羨望するしかない。

 

「まあしかし、JASRAが関与しているとなれば、より話は進めやすくはなる、な」

 

 

 

「さて。纏めると、だ。突撃砲の改修は三点。銃剣とマガジンクリップに、スリングの対応だな」

 87式突撃砲に関してはフォアグリップ前部を改修、65式近接戦用短刀は鍔部分にバレルとの接続用アタッチメントを、これで装着と着脱とを戦術機のみで可能とさせる。

 36mmと120mmのマガジンクリップに関しては、いくつか試作する。場合によっては最初から結合したマガジンを作るのも良いが、これは兵站側に無用の負担を掛けそうなのが懸念された。あとはマガジン形状の変更に伴うモーションの再構築。

 

「スリングに関しては、素材の選定と装着箇所、挙動への負担などを調べていこう。これは突撃砲側ではなく、機体に増設すべきか……?」

「こっちでやってきたのは資材固定用のゴムベルトで代用しただけですからね。ゴムだと高機動中にバタつくので、ワイヤーなどの方がいいかもしれません」

「それなら電動ウインチワイヤーを肩の前後に着ける形かな? いや肩部装甲ユニットの裏側の方がいいのか……どちらにせよ、スリングも含めこれらは比較的すぐに終わる。来週中にはサンプルをそちらに送らせてもらおう」

 人間に似せているとはいえ戦術機の関節レイアウトは人そのものではない。巌谷はいくつかの固定方法を思い浮べながら、メモに書き込んでいく。

 

 

 

 

 

 

「しかし、こちら支援突撃砲の改修は……興味深いが難しいな」

 突撃砲の改修案が現実的だったのに対し、支援突撃砲の方はかなり目に願望が積み重なったものだ。

 提示したのは二案。短刀の着剣を可能とする案はほぼ突撃砲と同様だ。問題なのはもう一つの、ロングバレルユニット下部を再設計してスーパーカーボンブレードに変更する、といった案だった。

 

「ガキの妄想と嗤われてしまいそうですよね、ガンブレードなんて」

「ああ、いや。そうではない。支援突撃砲に74式長刀の代替機能を付与するというのは魅力的だ。しかし……ふむガンブレードか、言いえて妙だな」

 突撃砲に比して延長されるバレル、その下部に65式短刀の二倍から三倍程度の刀身を備え付けられないか、というのが武が提示した案だ。

 

 どうしても対BETA戦においては、相手の展開速度ゆえに近接密集戦が発生してしまう。その際に銃と剣とを持ち替えたくない、言ってしまえばそういう我儘から生まれた話だ。ターニャは銃剣だけでも良さそうな顔をしていたが、武としては74式長刀ほどではなくとも、それなりの刃渡りが欲しい。なにも突撃級の前面外殻を断てるほどとは言わないが、重光線級や要塞級の対処ができる程度の刀身は必要だと考えている。

 

 

 

「65式を銃剣として付けるだけなら、センサーの保護は必要だが、ほぼ突撃砲と同じでいいんだ。スリングへの対応も同様だな。重量増加とその配分など技術的な問題は確かに存在する。ただ難しいのは、やはりこちらのガンブレードだな」

 巌谷が少し困ったように笑い、そこで口籠る。

 

「恥ずかしい話だが刀にはこだわる奴らが多すぎてな。これの計画を出せば、無駄に張り切りそうな連中の姿が目に浮かぶよ」

 出来る出来ないという話ではない。身内の恥とは言わないが、技術屋のこだわりという面での問題があるようだ。

 

「ああ……日本人ですからねぇ」

 刀への憧れという感情は武としても納得できてしまう。

 武も近接格闘にはそれなりには自信があり、長刀は必ずと言っていいほどに装備する。しかもポジション的には突撃前衛だったが、自分で選ぶとすれば強襲前衛の装備に多い、突撃砲と長刀とを二本ずついう構成を取ってしまう。

 

 

 

「しかしこれが完成すれば、白銀君は判っているのだろうが、ポジションごとの装備から運用にまで大きな変化をもたらすぞ」

 YF-23は銃剣付の突撃砲を主装備としつつ、副腕たる可動兵装担架の数を増やすことで対応可能な状況を拡げようとした。

 対してターニャの意見を取り入れつつ武が提示した刀身付の支援突撃砲というものは、火器の方の変更で多目的性を与えようとしている。

 

 日本の戦術機に限らず、背部の可動兵装担架はブレードマウントとガンマウントとは現状併用できない。この中刀とも呼べるような長さの刀身を持つ支援突撃砲が完成すれば、ブレードマウントを無くすことも可能となる。

 

「74式長刀は良い武器です。間違いありません。ただ……」

「判っている。あれは結局使いこなせる衛士が少ない。むしろ長刀に限れば統一戦線の77式の方が問題もあるが、使える衛士は多かろう」

 

 記憶の中にある冥夜や、真那といった斯衛の衛士、それに沙霧尚哉大尉などが異質なまでに使えているだけだ。なにかと適正の高いA-01においても74式長刀を使いこなせている、という衛士は少ない。

 手慣れれば突撃級の正面外殻でも断ち切れる74式長刀だが、逆に言えば使いこなせなければただの棒以下だ。逆に77式長刀はその重量が問題とされるほどにトップヘビーの形状で、ただシンプルに切り下ろすだけでそれなりに活用できる。

 

「斯衛ならまだマシなんだ。武家であれば幼少から剣術に親しんでいるし、黒の者たちであっても一応全員がそれになりには使える。ただな。帝国陸軍、いや本土防衛軍の一部になぁ……」

「精神主義的な長刀信仰ですか」

 ハイヴ攻略時や、それこそ兵站が破綻した撤退戦などでなければ、突撃砲を使用するべきなのだ。無理に長刀を使用して弾薬の消耗を避けようとして、機体そのものに損傷を与えるほうが愚かだ。

 だが初陣を迎えていない若手衛士ほど、長刀の威力を過信してしまう。

 

 

 

「とりあえず、まずは突撃砲と同様に短刀を装着して銃剣として使えるように変更する。これに合わせてセンサー位置の調整だな。マガジンクリップやスリングは先も言ったが突撃砲とほぼ同じでいいだろう」

 

 突撃砲と共有できる物は共有する。その上でガンブレードは別のプランとして考える。

 今のロングバレルや滑腔砲のようにモジュールとして取り外するようにするのか、完全に銃のフレームとして組み込んでしまうのか。また取り外した場合に単体として使えるようにグリップを付けるべきか、と幾通りかが想定される。

 

「整備性からすればモジュール扱いで、かつ現場での利便性を考えれば取り外しが可能であればいいんですが……そこまですると重くなりますよね」

「そうだ。逆にフレーム一体式にしてしまえば強度も稼げるし軽くはできる。ただ既存の支援突撃砲との共通部分は減るし、刀身の交換は前線では不可能とは言わぬが困難となるな」

「理想的にはロングバレルユニットと、先の突撃砲同様にフロントグリップ部分だけの改修で済まし、ブレード部分は取り外して交換可能にする。いや……違うか、逆に考えるんだ、か」

 

 武はふと思いついたように、呟きながらプランを纏める。

 

「逆、とはどういうことかね、白銀君?」

「刀好きが多いって話がありましたよね? それを踏まえてのことになりますが、支援突撃砲を改修するんじゃなくて、新しい長刀じゃないな……小太刀?中刀?とかを作るっていうのはどうでしょうか?」

「……なるほど。確かに逆だな。新たな刀を作り出し、それを支援突撃砲に装着できるようにする、か。ふむそう言われると、試製01式中刀とでも分類して作る方が上を説得できるかもしれんな、これは」

 

 これは大仕事になりそうだという巌谷の顔は、言葉とは裏腹に楽しげに笑っている。部下がどうなどとは言っていたが、巌谷自身が技術者として、そして武家に連なる者としても、新たな刀を作るという計画に興奮は隠せないようだ。

 

 

 

 

 

 

 




よーやく巌谷中佐の登場ということで、「トータル・イクリプス」がウソタグでなくなりました。出せるまで20万字近くになるとは思ってなかったです。装備改修の話は次まで続きます。でもオリジナル戦術機は出てこない模様……

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