BIOHAZARD エージェント E   作:あまてら

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 心の安定なんて、平穏なんて望んで無い。

 目を逸らさずにホルスターから拳銃を取り出したわたしは、護衛達全員の頭を素早く撃ち抜いてシモンズへと銃口を向ける。

 

「愚かな! 一体誰に銃を向けているのか理解出来ているのか?」

 

 アメリカの事なんて、世界の事なんてわたしにはどうでも良い。今この時も、わたしは自分の死の為にいる。

 けれど……。

 

「わたしは安定なんて拒んだ筈よ。なのにあなたはシェリーを引き合わせた。彼女を知らなければ、わたしはあなた側へと平気で付いたかも」

 

 やっぱりわたしは、"エヴァ"になっても心の底から非情にはなれなかった。

 

「エヴァ、君には失望したよ。私が今まで君の為にしてきた事は、全て無駄だったようだな」

「自分の望む世界の為でしょ? ああ、でも、新しいわたしにしてくれた事だけは感謝してる」

 

 今まで隠していた怒りを、シモンズは苦虫を噛み潰した様な顔でわたしを鋭く睨んだ。

 

「シモンズ! もう終わりだ!」

 

 護衛が死んだとわかったレオンとヘレナは、無造作に置かれた輸送コンテナから姿を現して再度銃口をシモンズへと向ける。続けてシェリーとジェイクもだった。

 

「こうなれば仕方ない。実に残念だ。エヴァ、そしてシェリー」

 

 わたし達に向けられている銃口に少しも動じず、シモンズは不敵な笑みを浮かべている。

 何故か──。

 

「!?」

 

 わたしは誰よりも早く気づく。シモンズはまだ、この死んだ護衛達以外にも他に人を潜めさせていたのだ。何の為の刺客か。レオン達の背後を狙い突如現れた刺客は、麻酔銃の様なものを手にしてシェリーを狙い撃とうとしていた。

 

「後ろ!」

 

 打つよりも先に。わたしは刺客の頭を狙って自分のナイフを投げる。見事に命中して刺客はその場に倒れたのだけれど、刺客は一人だけじゃなかった。

 

「まだいるぞ!」

 

 ジェイクが体術でもう一人を倒し、次々と現れる刺客にレオンやヘレナも必然的に対応せざるを得ない状況になる。

 

「どうしたエヴァ? 君も参戦しなくて良いのかね?」

 

 シモンズが嘲笑う。銃口を向けているのがわたしだけだからだ。だからわたしも刺客を狙いに行けば、この場からシモンズは逃げてしまえる。

 

「動けば撃つわよ」

 

 引き金にかけた指を強調してそう返せば、シモンズは薄く微笑んで大声を張り上げた。

 

「今だシェリーに狙いを定めろ!」

 

 ジェイクやレオン達を潜り抜けた刺客の一人が、再度シェリーに狙いを定めて撃ち放った。

 間に合わない。わたしは人間離れした速さで下へと飛び降り、シェリーの背後に回り込んで彼女の盾になった。

 

「ぐううっっ!」

 

 代わりにわたしの首元へ放たれた針が刺さった瞬間、嫌という程味わった全身の痺れがわたしを襲う。これは四肢の動きを奪う薬だ。しかもわたし用に改良されたものと近しい。

 

「エヴァ!?」

 

 全身を硬直させて倒れ、酷く小刻みに痙攣したわたしをシェリーが押さえるように抱き起こす。

 何故これをシモンズが。

 わたしはシェリーに抱き起こされ、唯一自由のきく目を使ってシモンズを睨んだ。

 

「君自ら当たりに行くとは……」

「エヴァに、彼女に何をしたの?」

 

 わたしの様子にシェリーは悲しみと怒りの表情を滲ませ、咎めるような視線をシモンズに投げる。

 

「それは身体の自由を一時的に奪う薬だ。元はあのアルバート・ウ(悪党)ェスカーがエヴァを抑える目的で使用していてね、彼女の体内に僅かながら残されていた成分を我々が抽出し、似たようなものを作らせておいたんだ。言うことを聞かない相手を懲らしめるのにとても役に立ったよ」

「酷い!」

「すまないエヴァ。辛い過去を思い出させてしまって悪かったね」

「しっ……、モンっ、っズ!!」

 

 謝罪の言葉も挑発に聞こえ、怒りの作用で髪が伸びる。自由の利かない身体が憎らしい。動けるなら今直ぐにでも殺してやりたい衝動にわたしは駆られた。

 

「何処へ行くつもりだ!」

 

 刺客を倒し切ったレオンとヘレナ、ジェイクがシモンズに銃口を向ける。が、シモンズはお構いなしに立ち去ろうとする。余裕からまだ他に伏兵でもいるのかもしれない。

 すると、だ。突如シモンズの目の前に京劇の面を被った人物が現れ、シモンズに何かを放つ。

 

「うっ!?」

 

 シモンズは首元を押さえて注射器のようなものを外し、地面に叩きつける。何かを打たれたらしく、僅かに苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ぐっ、あの女め……!」

 

 何かを打った仮面の人物はシモンズが護衛の銃を使って撃ち殺し、身を発火させて瞬時に燃え尽きる。ジュアヴォだったようだ。

 

「シモンズが逃げる!!」

「彼女は?」

 

 レオンとヘレナがシモンズを追おうとしながらわたしを見るので、『早く、シモンズを』と急かす。二人はシェリー達に目配せをし、逃げるシモンズを追いかけて行った。

 

「シェリー、あなた達も早く、この場から離れて。き、けんよ」

「でもエヴァを置いては行けない!」

「わたしは大丈、夫。この薬、劣化品だから」

 

 シェリーに身を任せていた上半身を自力で起こしてみると、シェリーは安堵して微笑んだ。

 

「シモンズの部下は、まだいるし、ジュアヴォだって潜んでる。さあ早く行って。後で追いかけるから」

「だけど……」

「おいシェリー、行こう。まだ終わってねぇぞ。あのレオンとかって奴も言ってただろ?」

 

 躊躇うシェリーを促すジェイクに『シェリーをお願い』と頼めば、『言われなくてもやるさ』とぶっきらぼうに彼が言う。

 

「……わかった。エヴァ、どうか無事で」

「あなたもね」

 

 シェリーとジェイクが扉の向こうへ去ったと同時、ジュアヴォが5体目の前に現れた。普通のとは違って変異したものらしく、足が節足系の虫の様だ。その脚を活かした大きなジャンプ力でこの階まで上がって来たらしい。

 

「何体来ようがかまわない」

 

 薬の効果を微かに残しつつ、わたしは立ち上がる。

 

「かかってきなさいよ」

 

 ジュアヴォが一斉に襲い掛かるより速く動き、床に落とした拳銃を拾って脳天を撃ち抜く。再生しようとする前にもう一発ずつ撃ち込み、リロードして撃つ。そして何度か繰り返す内に、現れた変異ジュアヴォは全て燃えて消え失せていった。

 早くシェリー達を追いかけなくては。急ぎ扉を開けるも、今度は蜘蛛みたいな変異ジュアヴォも追加されて、数体が立ち塞がるようにしてわたしを待ち構えていた。ふと視線を横にずらせば、気絶したシェリーとジェイクが今まさに連れ攫われようとしているのが見えた。

 

「シェリー!」

 

 助けに向かおうとするけど、ジュアヴォは次から次へと途切れる事なく現れてわたしを攻撃する。しかもそこへシモンズの側近達が現れ、三つ巴の戦いになってしまった。どちらかの攻撃を避け、反撃、避ける。

 両方を相手をしてる暇はないのに。

 

「邪魔!」

 

 その間にシェリーとジェイクが連れて行かれてしまった。2人を拉致するジュアヴォらを狙い撃とうとするも、わたしの拳銃は弾切れだ。

 こんな時に。攻撃を交わしながらマガジンを交換しつつ、背後から襲いかかろと来たジュアヴォの頭を腹立ち紛れに回し蹴りで割り、そのジュアヴォが落とした青龍刀を拾って胴体を叩き斬る。

 

「ああ! もう!」

 

 いくらわたしでも数十人を相手に一度には倒せない。すると、下の階から銃声音が。数名の足音と声。また敵かと警戒すれば、やって来たのは騒ぎを聞きつけたらしいBSAAの隊員達だった。

 

「撃て撃て!」

 

 彼らが来たお陰で、ジュアヴォとシモンズの側近達を倒し終える事は出来た。でも──。

 

「此処へ来る途中、ジュアヴォが2人連れて行くのを見なかった?」

 

 わたしが隊員にエージェント手帳を見せながら問うと、『ビルから出て行った変異ジュアヴォ数体を見た』と、別の隊員が教えてくれた。

 追いかけようとしたけど、高いジャンプでビルからビルへ逃げられて見失ってしまったのだと言う。

 

「なんてこと……」

 

 まさか2人が攫われてしまうなんて。

 

「他に誰か?」

「わたしだけよ」

 

 辺りに警戒を広げ、状況を伝える為の無線連絡をし始めるBSAAの隊員らを他所に、わたしは携帯情報端末を取り出す。

 

「マヤ?」

『ああエヴァ、無事で良かった。大統領補佐官と中国へ行ったっきり連絡もしないから、あなたに何かあったかと思って心配してたんだから。それにあなたの情報が盗まれたって報告が上がってる』

「そうみたいね」

『知ってたの?』

「ええ」

 

 どうや"エイダ・ウォン"が言っていたのは本当だったらしい。

 

「それより、こっちも大変な事態になったわ。今回の大統領殺害とバイオテロだけど、シモンズが関与してる疑いを持ったまま逃げたの。それをレオン・S・ケネディとヘレナ・ハーパーが追ってるわ。そっちでも何か聞いてない?」

 

 マヤにFOSでの状況を訊く。わたしが中国へ行く時よりも更に混乱を極めたらしい。でも、イングリッド・ハニガンというレオンのサポートをしてる女性が中心となって、なんとか場を納めたようだった。

 マヤが憧れるレオンは一時、トールオークスの滅菌作戦でヘレナと共に死亡したと伝えられてたみたい。でも実はシモンズを欺く為だったそうで、絶望から一転、生きてるとわかってマヤは凄く喜んでた。

 

『シェリーとジェイクとは合流出来てないの?』

「それが──」

 

 悔いながら2人の事を報告する。多勢を1人で相手してたのもあったけど、それでも二人を目の前で攫われてしまったのは、わたしが至らなかった所為だ。

 

『ジュアヴォが2人を?』

「誰が指示したのかはわからないけど、半年も2人を監禁してた人物と同じだと思う」

 

 何故監禁する必要があったのか。ジェイクがあの男の息子で同じ特異体質を受け継いでおり、しかもC-ウイルスの抗体持ち。それをなんらかで知ったシモンズが、悪用を防ぐ為の保護を目的とした極秘任務をシェリーに命じていた事を、わたしはマヤに伝える。

 マヤはその情報を知らされてなかった。

 

『なら大変。至急上層部に伝えないと。レオンを担当してる先輩にこの事を報せるわ。大丈夫。彼女は上層部にも一目置かれてるし、とても信用に値する人物だから』

「ええ、急いで」

『あなたは? 上層部があなたを至急アメリカへと戻すようにって通達が出てる』

「こっちは何とかなるから、シェリー達を優先に」

『わかった。あなたの無事も祈ってる』

 

 通話を切れば、BSAAの隊員らに達芝への避難を促される。いくら合衆国のエージェントだとしても、ジュアヴォがまだまだ現れるこの地区は危険であると判断されたようだった。別に拒否する理由も無いし、促されるままに歩みを進め、丁度崑崙ビルを出た時だった。

 

「あれは……!」

 

 隊員の一人が言った。

 どこからか放たれたミサイルが、達芝方向へと向かっているのが見える。そしてあっという間に上空で爆発。達芝の街が蒼いガスに覆われた。

 

「こちらインディア! 達芝へのミサイルを確認! 応答せよ!」

 

 達芝にいるであろう仲間への応答を待つと、数分後に途切れ途切れで通信が入る。

 

『達芝に……は来るな! テロ……により住……人が……ぐわあああ!』

 

 通信は途中でノイズと共に途切れた。他にも達芝からの応答はあったけど、どれも同じようなものだった。

 隊員達は悔しさを滲ませながら小隊長らしき人物の判断を仰ぎ、達芝から逃げて来るであろう仲間の隊員らと合流すべく、達芝と偉葉の境を目指した。わたしは途中まで彼らと行動し、偉葉側にいた別小隊の協力を得て空港へと戻る事が出来た。

 空港へと到着すると、別任務で一緒だったDSOの同僚がわたしを迎える。情報が極秘施設から盗み出された事により、容疑がかかったシモンズによって隠されていたわたし(ダイアナ)の経歴が上層部に上がったそうで、悪用を防ぐ為と、今回の重要参考人としての保護も兼ねての迎えだった。

 

 そして今回の結末は、首謀者のネオアンブレラのエイダであるカーラ・ラダメスと、元大統領補佐官ディレック・クリフォード・シモンズ両名の死亡が確認、バイオテロによる被害は抗体を持つジェイクの協力もあって抑えられ、事態は収束していった。

 それからの詳しい事はわからない。わたしにはそれ以上の情報は得られなかった。何故ならわたしは、合衆国の極秘施設で軟禁状態になっていたからだ。

 合衆国政府内を牛耳っていたシモンズがいなくなった今、管轄下にあったわたしとシェリーは、関与を疑われての参考人として長い期間拘束される事になってしまった。

 

「エヴァが無事で良かった」

「あなたもね」

 

 3日ぶりにシェリーと再会した。聴取の為に待機させられていた廊下で、挨拶程度の会話しか出来なかったけど。

 2週間後。疑いの晴れたシェリーが軟禁状態から解放され、一足先にエージェントに復帰したと、シェリー本人からの手紙で知った。

 同じく容疑から外れたわたしはと言うと、2ヶ月経っても施設から一歩も外へ出られないままだった。

 カーラの部下だった人物が極秘施設内で研究員として働き、わたしの情報を持ち去ったから。その所為で新たなバイオテロを警戒しての隔離なのだと。

 

 

「ダイアナ・オブリーに戻るかね?」

 

 半年後のある日、急死した大統領に代わって務めた副大統領が、大統領になって面会にやって来た。シモンズが死んだ今、DSOやFOSの指揮権を持っているのは彼だ。

 

「いいえ。ダイアナは死にました。可能であるならわたしは、エヴァ・グレイディでいたい」

「そうか。わかった」

「あの、大統領。わたしの軟禁状態は解かれますか?」

 

 仕切られたガラス壁の向こうにいる大統領を見つめれば、大統領は小さく溜息を吐いた。

 

「君の仕事はとても優秀で、私も買っていたんだ」

「この特殊な体質を哀れに思ってくれるのであれば、わたしはエージェントとしての復帰を望みます」

「君の気持ちは理解出来なくもない。そこまで望むのなら、復帰を視野に考えてみよう」

「お願いします」

 

 

 大統領からは何も音沙汰が無かった。

 折角自分の死への手がかりを見つける道だったのに。

 このままわたしは、この極秘施設で永遠に閉じ込められてしまうのかもしれない。

 

 ──それから年月は経ち、2015年を迎えた。

 

 

 

 

 

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