ついでにピクシブにも横流ししております。
体調を崩した。
とだけ書くとサボりの常套句と近しいものを感じるが、今回に関しては嘘ではない。
体温計に表示されたのは「39.2」とかいう頭のおかしい数字で、私はベッドから一歩たりとも出られない体になってしまっていた。
日ごろの不摂生な生活の酬いだろうか。そんなことを考えようとするも、高熱のせいで思考回路がうまく働いてくれない。脳みそがオーバーヒートでも起こしているのだろう。
これは、早く寝たほうがいい。理性がそう告げているし、実感としてそう思う。
布団に包まり目を閉じて、心地よいまどろみの中に飛び込もうとしたその時。
誰かに、声をかけられた。
「カガリさん!! 風邪引いたって本当!?」
~○~
アジトに響き渡る、声変わり真っ最中の、低音と高音のちょうど中間地点の高さの声。
それが今まさに落ちかけていたまどろみを吹き飛ばし、手持ち無沙汰になった私は目を開ける。
「……?」
そこにいたのは、赤色の服に黒いズボン、白い帽子を被った少年。
先日のゲンシグラードン事件やレックウザ騒動にてマグマ団とも関わりを持った、ホウエンリーグ殿堂入り。
そんな彼はベッドに横たえる私を見つけると、顔を大きく強張らせて顔を覗き込んできた。
「……どうしてキミがここにいるの?」
その少年、ユウキに、私は半目で尋ねる。
彼はマグマ団と関わりがあるとはいえ、マグマ団ではない。それどころか、仇敵といってもいい間柄だ。
私をはじめとするマグマ団幹部はあまり気にしてはいないが、下っ端の中には「何故あいつが」という感情を持つものも少なくない。
それが、どうしてこんなマグマ団の巣窟みたいな場所にいるのか。
「いやあ、今朝マルチナビを開いたらマツブサさんとホムラさんから連絡が入ってて。看病してくれって頼まれちゃったんだ」
どうやらリーダーとサブリーダーの差し金らしい。
全く、あの二人もそんなに心配なら出張なんか入れなければよかったのに。
呆れた心持ちになる私を見て、ユウキは安心したように微笑んだ。
「よかった。普段からは想像できないほど真っ赤になった顔を見たときは心臓が止まるかと思ったけど、その様子なら大丈夫そうだね」
そう見えるのなら、ユウキの目は腐ってるのではないか。
普段から想像できないくらい真っ赤になってるのなら、どう考えても大丈夫じゃないと思うのだが。
よほどそう言ってやろうかと思ったのだが、声を出すのも億劫だったのでやめる。
代わりに、わざとらしく彼から顔を背けた。
「あの、えっと、その。……氷枕、取り替えようか?」
ユウキはあたふたした挙句、首筋をぽりぽり掻きながらそんなことを言ってきた。
……よしよし。わかっているじゃないか。私は得意げな心地になった。
ユウキは年齢を見れば私よりも年下のガキであるが、実際は私よりも落ち着いているし、戦局を見据えているし、ポケモンバトルは私よりも強い。
そんな彼が取り乱しているのはなかなかにレアで、しかもそれが私によるものとなれば、小気味よく思うというもの。
私は薄く笑いながら、首を少し下げて首肯した。
ユウキはそんな私を見て、
「ん、分かった。それと、食欲はある? 一応、おかゆとかフルーツとかいろいろあるけど」
「……プリンが、食べたい」
苦々しくなるくらい痛い喉にも構わず、私は言った。
ユウキは苦笑する。
「はいはい、わかりました。ちょっと待っててね。今用意してくるから」
そう言うと、ユウキはパタパタと私の部屋を後にした。
その後姿を、私はぼんやりと眺める。
……まるで、お母さんみたいだなと。
そんなことを思いながら。
~○~
「ただいま~、持ってきたよ~」
暫く経って、ユウキは氷枕の代えとプリンカップを抱えて持ってきた。
一歩歩くたびにたぷたぷと音がするのは、おそらく氷枕の中の水が揺れる音だろう。
私はじとっとした目線を向けると、図々しくも言った。
「遅い」
「えー。これでも急いできたんだけどなあ」
弱ったな、とばかりに苦笑するユウキ。
私は鼻を鳴らした。
そりゃあ看病してくれるのはありがたいし何ならお礼の品にリーダーのブロマイドという宝石より尊い大切なものをあげるくらいには感謝しているが、しかしもう少し早くならなかったのか。
プリンたべたい。
「申し訳ありませんでした。いたく反省しております。と、それより枕代えるから、少し首上げてくれない?」
少しとは何だ、と眉をひそめるも、私は言われたとおり首を持ち上げる。
ベットと頭に生まれた隙間に、作り立てほやほやの氷枕が滑りこまれる。
頭を下ろすと、後頭部にひんやりと心地いい感触。
顔をほころばせる私を前に、ユウキはやわらかく微笑んだ。
そして、それから。
「カガリさん、プリン食べる?」
「食べる」
即答。間髪いれずに答える。
ユウキは「りょーかいりょーかい」と呟きながら、プリンカップを手に取ると、薄いプラスチックでできたふたを取り始めた。
ぺりっと、乾いた音がアジトに鳴り響く。ユウキは同じくプラスチック製のスプーンでプリンを一掬いすると、
「はい、あーん」
あろうことか、スプーンを私の口に持ってきた。
私は硬直する。
「……なんのつもり?」
「いや、プリンを食べさせてあげようかなって」
睨みながら尋ねても、悪びれもせずにそんなことを言ってくる。
「さっき、首をあれしか持ち上げられなかったから。腕を動かすのも辛いのかなって思ったんだ」
それどころか、そんなことまで付け足す始末。
全く。この男は、本当に全く。
「でも、ひょっとして余計なお世話だったかな?」
当たり前だ。そんなの、余計なお世話に決まっているだろう。小さな親切余計なお世話とトレーナースクールで習わなかったのか、この少年は。
……本ッ当に。そんなの、余計なお世話に、決まっている。
私はスプーンにぱくりとしゃぶりついた。不安そうな面持ちだったユウキは、それを見てニッコリと安心したように微笑む。
熱で頭がぼうっとして、味覚はあんまり感じられないはずなのに。
それでも、そのプリンは、角砂糖を溢れるほど入れたプールに水を一滴落としたような、強烈な甘さを覚えさせた。
~○~
「……ご馳走様」
「お粗末様」
顔を背けてプリンを咀嚼する機械と化していた私だったが、しかしすぐに食べ終えてしまい。
私はいよいよ、寝る以外にすることがなくなった。
「じゃ、ボク寝るから。……部屋、出てっていいよ」
私が告げると、ユウキは何を言い出すんだとばかりに薄く笑った。
「いや、ここにいるよ。カガリさんが心配だし」
そう言ってくれるのはありがたいのだけれど。
「でも、多分、酷く退屈だよ?」
気を遣うような私の発言に、ユウキは、
「いいんだよ。暇を持て余してるのはいつものことだし」
あっけらかんと、そんなことを言った。
「――それに。風邪は人にうつしたら直るっていうのは、迷信だったかな?」
……全く。この男は、本当に。本当に、全く。
「好きにして」
呟くように言うと、ユウキは太陽みたいに優しく微笑んだ。
余りにも眩しくて、私は再び、顔を背けた。
そんな私に、ユウキは声をかける。
「早く、直るといいね」
そりゃあ、ね。
それっきり、言葉はなく。
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、と規則的に背中を叩く優しい手の存在のみを感じて。
そのやけに心地いい温もりに身を委ねるように、私は眠りに落ちていった。
~○~
後日。
「ごほっ……ごほっ……」
「……だから言ったのに」
案の定というか、当たり前というか。
ユウキはがっつり風邪を引いてしまっていた。
「いやでも。カガリさんは元気になったから。俺としては満足、問題なんか何もな……ごほっごほっ!」
「めちゃくちゃ問題あるよねこれ」
確かに私の風邪は治ったけれど。ユウキが風邪を引いているのは自己犠牲の発露というか、自業自得と言えなくもないけれど。
それでも一応、私の過失でもあるわけで。
私は買ってきたプリンを取り出した。ぴりぴりと音を立てて蓋を開け、プラスチック製のスプーンとともにユウキに差し出す。
「ユウキ、プリン食べる?」
「……食べる」
熱のせいか元気なく首肯するユウキを見て、私は赤子を見つめる母親のような、やわらかくてあたたかい気持ちになった。
今度は私が、ユウキを看病する番だ。
「ほらユウキ、口開けて。ボクが手ずから食べさせてあげる。はい、あ、あ~」
「……ん」
「「……………………」」
……どうしよう。これ、想像以上に恥ずかしいっ!
カガユウ流行れ