※『pixiv』にも同じ作品を投稿させていただいています。
欲望のままに書きました。
よろしくお願いします。
私、鈴仙・優曇華院・イナバは林檎を片手に話し掛ける。
「まっさか、幽霊でも風邪を引いたりするなんてねぇ。それこそ、何でぶっ倒れるまで無理していたのさ」
「は、半分人間ですよ。幽々子様に迷惑を掛ける訳にもいきませんし……」
幻想郷の一角にある迷いの竹林。更にその奥にあるのがここ、永遠亭。その中の一室にて私はある患者の看病をしていた。人間だが半分幽霊の少し変わった少女だ。名前は魂魄妖夢と言う。ここに至る経緯は簡単で、人里で薬を売って帰る途中に道端で倒れている妖夢を見付けたということ。一瞬ドキッとしたけれど、意識はあったし会話も割とできたのは幸いだった。大丈夫です、と連呼する妖夢を抱えて永遠亭まで急ぎ、一室借りて妖夢をベッドに寝かせ、今は擦りリンゴとか食べさせている。
「本当、無理しないことよ? 忠誠を誓う主の為かは知らないけどさ、体を壊してしまっては何かすることもできないんだから。まして、入院するハメになったらもうどうしようもないわよ」
「全くその通りです……いや、でも、幽々子様の為ですから」
「こら、今は自分の心配をしなさい」
「はい」
妖夢の額をコツンと小突くと、妖夢はワザとらしく布団を顔まで持ち上げた。その布団を退かし、スプーンで掬った擦りリンゴを口元へ。なんかこの世話をしている感じがたまらない。クセになりそう。
なんてこと思いながら次から次へと擦りリンゴを食べさせていると、あっという間になくなってしまった。余程美味しかったのか、妖夢が残念そうにするので口元に人差し指を押し付け、私はある物を探す。
何てことは無い。ただの風邪薬だ。
ふと妖夢に視線を戻すと、何故かしら顔が赤くなっている。はっはーん、さては変に人差し指で押さえつけられたのが恥ずかしかったのね? なんだろう、そう考えると征服感があってゾクゾクする。
そんな感覚はどうでも良くて、取り敢えず薬を飲ませる為に妖夢の上半身を起こす。やっぱりまだ体温は高いわね。人間の平熱よりも高い。苦くないわよー、何て言いながら薬の袋を開き、零しても大丈夫なように左手で下を受けながら妖夢の口元へ。妖夢は少し上をむいて口をいっぱいに開き、横目で私の方を見ている。どうしよう、フェイントかけたい。
いや、看病位真面目にしないと。グッと気持ちを堪え、妖夢が変に顔を動かさないようにその顎を左手で支えながら口の中へと粉上の薬をさらさらと流す。なんかちょっと動いている舌が艶めかしい。
「水も飲ませてあげようか?」
「じ、自分で飲めまふ」
口の中の薬の所為かどこか舌足らずな妖夢に水入りのコップを渡し、することもないのでその様子を眺めていた。飲んでいる途中はなんてことなかったけれど、飲み終わった時に口元から一滴零れていたので、ハンカチで拭いてあげる。ありがとうございます、と言おうとした妖夢の口元にまた人差し指を当ててウィンクをし、またゆっくりと妖夢を寝かせた。
師匠の薬には副作用が無い。なので、眠たくなったりはしない。つまり、これから妖夢は暫く暇。そして私も暇。何をしようかしら、ちょっかいかけてみたいけど、流石に過度なのは良くないからなぁ。なんてことを思いながら妖夢の汗をタオルで拭いたり、適度に水分を取らせたりしていると、それが意外と時間が経つのが早く感じた。
そして、どれ位か、時間で言えば十五分位経った時、唐突に妖夢が口を開いた。
「あ、あの……鈴仙、さん」
「ん? 何かしら?」
「少し内緒の話がしたいので、耳を貸してもらえますか?」
「え? まぁ、良いけど……」
心なしか、先程よりも顔が赤い妖夢に耳を近付ける。すると、自然と頭の位置も妖夢に近くなるわけで。
突然妖夢が首筋に抱き着いて来て、物凄い力でベッドに引き込まれた。
「ちょ、ちょっと妖夢!? アンタ何し……ひぃ!?」
「ふっふっふ……鈴仙さん捕まえちゃいましたよぉ」
何とか抜け出そうともがくけれど、妖夢が両手両足でしがみ付いてくるので全然上手くいかない。お仕置きで縛られたりはよくあるけど、正直こんなのは全然慣れてないからどうしてよいのかまるで分からない。というか妖夢の力が強すぎるのだけど。
「よ、妖夢!! アンタ病人なんだから!! ちょ、へ、変な所に顔を埋めるな!!」
「ここが良いんですか?」
「真顔でそんなこと聞くな!!」
胸に顔をぐりぐりと押し付けてくる妖夢。その顔だけは何とか引き剥がそうとするものの、やっぱり上手くいかない。
そうだ、冷静になるのよ鈴仙。きっと簡単な抜け道があるに違いないのだから。
そう、原因はアレだ。あの風邪薬。アレが何か変なモノとすり替わっていたに違いない。
(だからどうしろって言うのよ……)
いや、どうすることもできないわよねこれ。
何て要らないことを考えている内に状況は更に悪化していた。私が腕でグイグイ押していたのを邪魔にでも思ったのか、その腕諸共抱き着いて来たのだ。足も同様に、妖夢が足を絡めてきて、もうまともに動かせない。出来ることと言えば魚みたいにビチビチ動こうともがくくらいのこと。
「えへへぇ……」
「あの、妖夢? そんな幸せそうな笑顔を浮かべる位ならまず放してもらえると助かるのだけど」
「何でですかぁ」
お願いだから涙目で見ないでください。何故か罪悪感が湧いてきます。
「と言うか、お願いだからグリグリしないで!! たまに変な所に当たって、その……」
「その?」
「その……ね? ひゃひぃ!?」
体が勝手にビクビクと跳ねる様に動いてしまう。妖夢が顔を動かす度に変な所が擦れて、そこから伝わってくるもどかしい刺激はなんとも耐え難く、体がどんどん火照ってしまう。ただでさえ密着していて少々暑苦しいというのに、服の下なんてもう汗ばんで少し気持ち悪い。
ダメだ、早く抜け出さないと割と本気でマズい。風邪を移されるのは構わないけれど、もっとこう、構図的にマズい。てかなんでこんなに力が強いのよ。どうもがいても振り解けないのだけど。
「……温かいです」
「そ、そう……」
「えへへ……」
「放してもらえる?」
「ダメです」
いや、待ちなさい鈴仙。ここは冷静になって逆転の発想を試みるのよ。
そう、抱き着き返すとか。腕を上げることはできないけれど、妖夢の腰に手を回す位なら何とか動かせそうだし。そしたら妖夢も変に緊張して力が弱まるのではないかしら。いや、弱まるわ。弱まるに違いない。弱まってください。
ぎゅっ。
「鈴仙さん……」
実際にやってみると、何故か妖夢は恍惚とした表情で私の顔を見詰めてくるのであった。
(思っていた反応と違う!!)
後悔先に立たず。妖夢の抱き締める力は更に強くなるのであった。
しかし、こうして手を回してみると、妖夢の体が予想以上に華奢だということに気付く。私より一回り小柄だけれど、あんな長い刀を振り回しているもんだからもう少ししっかりしているものだと思い込んでいた。
そうすると、何故か途端に湧いてくる愛らしさ。これも子供が甘えるそれだと考えたら微笑ましい。
とは言っても、兎に角離れないとマズいことに変わりは無い。
(どうする……?)
きっと何か答えはあるはずだ。
しかし、これと言って名案は出ないのであった。というか、本当愛らしい。
衝動に駆られて、私の顔を見る彼女の頬に口付けをしてみた。
「……」
「……」
「……何やってんだ私は」
「鈴仙さん……」
猛烈な恥ずかしさに襲われる中、妖夢の瞳が輝いた。
歓喜とか希望に似た、そんなニュアンスの輝き。ふっと抱き着かれる力が緩み、妖夢の体が僅かに放れる。それなのに体が熱いままなのはどうしてだろうか。
よく分からない、心臓の高鳴りは何なのか。
「口付け、ですか……?」
「そ、そうね、うん」
「それは、どういった意味で……」
「まぁ、その、妖夢がとても愛らしくて、ね?」
正直に答えると、何故か妖夢の目元に涙が浮かぶ。何か酷いことでも言ってしまったのかしらとギョッとしたが、また妖夢に強く抱きつかれてそんな思考が中断した。
「それは……いえ、やっぱりなんでもありません」
「そう言われるととても気になるのだけど」
「い、言えませんよ。あ、貴方のことが、恋愛の対象としてす、好きだなんて……」
「言えるじゃないの」
「あ」
どうしよう、顔がドンドン熱くなっていく。
さっきからどうしてよいか分からないことばかりだ。抱き締められたりとか、その解き方とか、告白とか。素直に全部初めてのことで、今ではもう頭がパンクしかけている。
「お薬を飲んだ時から、何だか自分に歯止めが利かなくなってしまって……」
「それで、なのね」
「はい。ですが、多少平静が戻って来ました。というか、こんな状態になってしまってごめんなさい」
「良いわよ、別に。満更でもないし」
満更でもない、そう言うと妖夢の顔も見る見るうちに赤くなった。熟したリンゴか何かの様に綺麗な赤色。それがまた愛らしくて可愛くて、こっちの歯止めも聞きそうになくなる。
ダメだ、まだダメだ。自制心を持つのよ鈴仙。これで突き進めば流れに身を任せただけ。先を望むのなら別の機会でないとダメ。それでも、好きと言われて意識するなと言うのも難しい話だ。
だから、私は妖夢を強く抱き締めた。
「……妖夢」
「は、はい」
「……今は、ここまでで許してもらえるかしら?」
「……構いません。可であれ不可であれ、いつか答えをいただけるのであれば」
スゥっと蟠りが消えていく感覚。いや、まぁ、心臓は高鳴るし顔は熱いしは変わらないのだけどさ。胸に埋められた顔を動かされる度に私に走るくすぐったさ。だけど、それは悪くないし、寧ろ気持ちが良い。
風邪薬ではなかったけれど、妖夢が心の扉を開けるのを後押ししたと考えたら良い薬だったのかしら。その辺よく分からないから後で考えてみようかしら。
ただ、私はこんな嬉しい薬効を持つ薬を知らないのであった。