続かない。
【誰かに認めてもらうのは気分が良い。】
人に認められるというそんなに当たり前のものさえ与えられなかった人間は、果たして人として育つだろうか。
人間として育てられた犬が自分を人間だと思ったとして、果たして犬は人間だろうか。
ゴミとして育てられた人間が果たして人間として生きられるだろうか。
☆★☆
『やあ、こんにちは』
『社会の底辺共』
路地裏。
とある事件が起きようとしていた現場に異様な空気が漂った。
少女を誘拐しようとして居た複数のヴィランの正面に何とも場違いな少年が佇む。
どこだかは分からないが制服を着ており、恐らく学生である事がうかがい知れる。
少年の言葉には反応せず、ヴィランの一人が慣れた動作で右腕を突き出した。
その動作には躊躇がない。
直後少年の胸部を複数の棘が貫き、そのまま壁に貼り付けた。
ヴィランはどうやら攻撃性の高い個性を持っていたらしい。
「ひっ…」
少女が声にならない悲鳴をあげる。
目の前で人が貫かれたのだ。
少年が無事でいられるはずがない。
しかし、
『痛いなあ』
『酷いじゃないか』
明らかに致命傷であるにも関わらず、その現実逃避とも聴こえる喋りは止まらない。
もちろんこの間にも血が流れ続けている。
『このままじゃ殺されちゃうなあ』
少女が息を呑む。
少年を見る目はまるでバケモノを見るかのようだ。
『こんなにか弱い少年が』
『殺されかかって居るのに』
『ヒーローが助けにきてくれないんだから』
『反撃しても正当防衛だろ?』
何故死なないのか。
ヴィランが訝しむ。
もう一度右手を突き出そうとして
『僕は悪くない』
直後何処からともなく現れた螺子がその場にいる少年以外の『全員』を貫き壁に貼り付けた。
『あっ、ごめーん』
『間違っちゃった』
螺子に貫かれた少女が苦しそうにもがく。
ヴィランは死んでいるのか動かない。
やがて少女も動かなくなった。
これでその場にいる人間全員が壁に張り付けにされている事になった。
『ハハハこれじゃ処刑場だ』
『誰がこんな酷いことしたんだろう』
その場に答える者は居ない。
側から見れば間違いなくその場にいる者は死んでいるように見えるので、当然とも言えた。
この日一人の少年が死んだ。
しかしそんな事は誰も気付かないし、世界すら認めてくれない。
ヒトデナシは笑う。
そしてダレカが泣く。
「誰か助けて…」
その言葉果たして誰の物なのか。
☆★☆
『試験に遅刻したのは僕のせいじゃないよ』
『ヴィランに絡まれてる可愛い女の子がいたからさあ』
『つい助けちゃったんだ』
『だから僕は悪くない』
どうやら試験に遅刻したらしい少年は、見苦しい言い訳にも聞こえる弁解をする。
それを弁護する者など居ないし、少年も別段何とも思わない。
それに戦闘した形跡どころか、埃すら付いてない制服は彼の言葉を虚言と裏付けている。
「しかし…規則なのだ。すまない。」
こうしてまた大勢のうちの一人が試験にすら受けられず落ちた。
雄英高校。
有能な者は入学させたいが、それ以上に落とす作業をしなくちゃいけない。
ましてや彼はヒーロー科志望だ。
遅れた上に嘘を吐く彼が倍率300倍の壁を突破するのは難しいように思われた。
『…そっかならしかたないね』
『帰って昼寝でもしよう』
少年はあっさりと諦めて、校門から出て行った。
そのあっさりと諦める態度に事務員は面食らいながらも、矢張り彼はヒーローには向いていない。と感じた。
そしてラジオから流れて来たニュースに耳を傾けた。
少女誘拐未遂事件。
犯人、被害者、共に気絶した状態で見つかったらしい。
少年の去った後の事務室で、事務員は少女が無事である事を喜んだ。
雄英高校の事務員は善人なのだろう。
少女は助かりヴィランが捕まった。
ありふれた事件の結末。
それだけだった。
始まらない。
オールマイトに「却本作り」使って負けるとこまで見えた。
誰か書いて。