ロクでなし魔術講師と超電磁砲 作:RAILGUN
意欲はあるのだけれども、構想が浮かばなくようやく捻り出した閑話。ダンスとか編入とか難しいよぉ!?
銀の鍵編みたいなところはやりたいことが多すぎて収拾がつかなくなってしまう始末。
次の更新も不定期ですが、今年中には投稿します(甘え
ㅤ幸せな気持ちだった。
「ねぇ、ラクスくん。今日はどこに行こっか?」
「どこに行くってもなー。フェジテの有名どころはあらかた行っちまったしな」
「そうだね。それじゃ、お家デートみたいな?」
「俺もルミアもそんなインドア気質じゃないだろ。最悪、寝て1日終了ってのもあり得る。いや、いいんだけどさ」
「じゃ、フェジテ出ちゃう?」
「出ちゃうか」
ㅤ切っ掛けはそんな些細な思い付きだった。
ㅤ友達というか知り合いに恵まれてるので移動手段はあるし、時期的にもちょうど暖かくなり出した頃で風が気持ちいいだろう。
ㅤフェジテ出るし泊まりがけになるかなー。ルミアは親御さんに許可は取ったのか?
ㅤ家の中で準備をするルミアを心配しながらバイクの暖気を始めて、荷物の確認。跨って待ってると頬に指が触れた。
「ふふっ、お待たせ」
「……お、おう」
ㅤなんだこの天使は最高か。無自覚なのか。天然なのか。天使なんだな!ㅤよし、そうだな。
ㅤ失礼、取り乱したようだ。
ㅤ後ろに跨ったルミアが俺の腰に手を回す。
ㅤそこでルミアは急に声色を変えて俺に言ってきた。
「いつまで寝てるんだよ、バカが」
「はっ!?」
ㅤ明らかにルミアの声じゃない。ルミアの綺麗なソプラノ声じゃない。男のものだ。
ㅤつか、この声どこかで……?
「起きろ、バカラクス!」
「がぁっ!?」
ㅤ頭部に衝撃を受けて俺はガバッと起き上がった。
ㅤ起き上がった……?ㅤ
「俺ってバイクに乗ってたよな?」
「何寝ぼけてんだ。学院のお泊りは禁止だぞ。俺じゃなかったら奉仕活動一週間だったかもだぞ。感謝しろ」
「グレン先生?」
「おう、偉大なるグレート先生グレン・レーダス大先生だ。GGGだ。G3だ」
ㅤなんだ、その青い警察所属の仮面ライダーみたいな名前は。グレートを二回言ってる辺りがバカくさい。
ㅤんな、事言ってる場合じゃねぇ。
ㅤそういや、俺って学院にサイレントでお泊りしてたんか。錬金部屋に忍び込むとはさすが、俺。グレン先生の講義で出された宿題の魔術制作が煮詰まってたからなー。期間はかなり設けられてんだけどさ。
ㅤ呪文改変することでシスティのようなゲルブロ改変呪文を生み出せれば100店満点とのことらしい。俺は【超電磁砲】があるんだが、どうせならまた新しい魔術の挑戦を行いたい。こういうのはなんか好きだ。
「とりあえず、先生」
「ん?ㅤなんだ?」
ㅤ俺は毛布を丁寧に片付けてグレン先生の前に立つ。
「幸せな夢を返せー!」
「まだ寝ぼけてんのか!?」
ㅤ朝イチの運動は騒ぎを嗅ぎつけたシスティがゲルブロ決めるまで続いた。
ㅤ◇
「で、グレン先生とラクス君は傷がたくさんあるんだね」
「いや、俺のは白猫にやられただけなんだが……?」
「俺が傷だらけで先生無傷ってのは割に合わなくないっすか?」
「仕掛けてきたのお前だよねぇ!?ㅤ都合よく記憶の改竄してるだろ!?」
「?」
「しっかりと覚えてますけどみたいな顔してんじゃねぇ!ㅤ第2ラウンド所望してんのか。そーなんだな!?」
「もうっ、二人ともいい加減にして。いつまでも子供なんだから」
ㅤシスティに恫喝……じゃなくて、恐喝……でもなくて説得されて俺は拳ではなくおにぎりを握る。海苔とご飯は別々に用意しておくと海苔のパリパリが楽しめるアイデア料理だ。
ㅤシスティとルミアは学食をグレン先生はなんと弁当だ。
ㅤアルフォネア教授が気分で作ってくれたものらしい。
「オムライスにハートねぇ……グレン、ちゅき?」
「張り倒すぞ」
「……ははは」
ㅤ俺とグレン先生の煽り合いにルミアは苦笑する。システィは怪訝な顔をしているが、それを嫉妬と理解するにはまだ経験が足りないみたいだな。ルミアが言ってたよ。システィはまだ自分の気持ちに気づけてないって。
「そういやラクス、魔術制作に戸惑ってるみたいだな。俺としては白猫より先に完成させるもんだと思ってたわ」
「ラクスがですか?」
ㅤシスティがこいつが……?ㅤみたいな顔をしてるがぶっちゃけシスティの感想は正しい。というより、土壇場でのシスティの改変スキルが神がかってる。
「あぁ、ぶっちゃけ改変スキルは白猫の方が上だがラクスは色々と隠してるだろうしな。それでもいいんだぜ、俺は」
ㅤまぁ、ボツネタなら沢山あるしそれを提出したっていいんだけどさ。
「なんかズリぃだろ、ソレ。クラスのみんなが必死こいてる中で俺だけ事前に準備してましたってのは、なんか……よくないだろ」
「ラクス君はみんなと一緒に魔術を学びたいんだもんね」
「真面目だな。ラクスちゃんは」
「別に……そんなんじゃねぇよ」
「はい、嘘つかないー」
「もぐっ!?」
ㅤルミアの言葉が自分でも分からなかった真意を突いてきたので抵抗してみたものの、唐揚げを口に突っ込まれて無駄になった。
「あむあむ……ごくっ。ところで、先生」
「ん?」
「魔術制作って二人でやっちゃダメですか?」
「ダメってことはないが、その場合は2つ作るんだぞ?」
「じゃ、二人で魔術を起動するタイプは?」
「儀式魔術でもやるのか?ㅤまぁ、それなら1つでもいいか。なにをするんだ?」
「合体魔術……ユニゾンレイドをやろうかなーとか考えてます」
「
合体魔術ーーーユニゾンレイドを一言で言い表すとなると難しい。なにせ、俺が不用意に言い表してしまえば時代の先駆者様達に対してとても失礼となるからだ。
俺の知る限りでは理論や論文などは一切なく恐らくはこの世界で初めての試みなんだろうが、俺の記憶には異界の教本として生き続けている。
俺はおにぎりと一緒に用意したおかずのウインナーにフォークを回しながら突き刺して、ドヤ顔で決めた。
「男のロマンですよ」
「こら、行儀が悪いよラクス君」
「あい」
オイラが悪かったよ。
ㅤ◆
ㅤさっそくとばかりにラクスはルミアの手を引いて食堂を出て行く。
ㅤこの頃は魔人やら神やら手品師もどきやらのイベント続きで気を抜く暇がなかったが、ここでようやく笑顔の展開を迎えたと言ってもいい。
「まぁ、お前は迷惑かけ過ぎだがな。問題児め」
「の割には嬉しそうですね、先生」
「うおっ、白猫!?ㅤてめぇ、まだ残ってたのか!」
「システィーナです……いい加減白猫呼びも慣れてきましたけど」
ㅤシスティは校庭へと向かうラクスとルミアを見て、頷きながら再びグレンの対面に座り直した。
「いや、行ってやれよ。お前がいないとまだ教えてないとこの問題点とか指摘できねぇだろ」
「……ルミアのあんな嬉しそうな顔、久し振りにみました」
「……」
ㅤグレンは脈絡のないシスティの独白に違和感を覚えたが、同時に聞いてやるかという気持ちになった。なぜかは分からない。ただ、そうしなければという気持ちになったのだ。
「学校に対するテロ。王女様を狙った呪殺事件。リィエルの秘密にラクスの過去。ラクスはその後もレオス先生に化けたジャティス=ロウファンとの決闘で生死を行き来しました」
ㅤグレンは黙ってシスティの独白を頷くことなく聞き続ける。遮音する【エア・スクリーン】は既に展開済みだ。
「……ねぇ、先生。こんなことがまだ続くんですか?」
ㅤそう来るだろうとグレンは予想していた。
ㅤ予想していた。だからこそ、答えは既に用意していた。
ㅤしかし、その答えは即席で用意された軽いものではない。
ㅤずっと貫いてきた軸のぶれない意志だ。
ㅤ
「続くだろうな。そんな流れが出来ちまってる。ルミアもラクスもそれに白猫もなんとなく感じ取ってんだろ?ㅤ平穏はまだまだ未来の向こう側って」
「……ッ!」
「あーあ、俺の計画した完璧な教員バラ生活はどこに行っちまったんだ」
ㅤグレンは頭をかいて椅子から立ち上がる。
ㅤ
ㅤここで、グレン=レーダスという男の性格を改めて紹介しよう。
ㅤロクでなし?ㅤ違くはないけど、今の場では置いておこう。
ㅤ穀粒し?ㅤ否定はできない。
ㅤ回りくどくなったが、要するにツンデレなのだ。
ㅤそんなグレンが悲観的な意見で場を流すわけがない。
ㅤーーー我ながら情に流されやすくなったもんだ。
「まーあれだ、あれ。巨大兵器が来ようが、最近流行りのアカシックなんちゃらが絡んでようがなんとかしてやる」
「……先生」
「ーーーセリカがな」
ㅤ最後の一言で台無しである。
ㅤが、そんなところも含めてグレン=レーダス。システィやルミア、2年Ⅱ組のいざという時に頼れる担当教員なのだ。
「……ルミアのところに行ってきます!ㅤ巨大兵器なんて先生じゃ倒せそうにないですし、新作魔術でラクスにどうにかしてもらわないと!」
「いや、俺じゃなくてセリカがーーー」
「でも、一番最初に矢面に立ってくれるのは先生ですよね?」
「……はっ、んなことするか。一番最初に地下シェルターに籠るからな」
「はいはい、そういうことにしておきますね。それじゃ、失礼します!」
ㅤグレンは引き攣りながらもシスティは対照的に満面の笑みで去って行く。
ㅤどうも居心地が悪い。いい意味でというのは変かもしれないけど、居ても立っても居られないというのはきっとこういう状況なんだろう。
ㅤ
「……ほんと、情に流されやすくなったな」
ㅤグレンはトレイを抱えながら困ったように、しかし、どこか嬉しそうに呟くのであった。
◇
ㅤ新しい魔術の作成。
ㅤ聞こえは良いが、やってることは単純明解である。
「システィパイセン、ここの魔術回路簡略化できねぇかな。うざったらしくてしょうがねぇ」
「あんたねぇ……まぁ、そこを削除できればパス周りのマナが循環してーーー」
「ココとココにバイパスを繋げればどうかな?」
「頂き。名案っぽいなソレ。んじゃ、試すか」
ㅤ試して、試して、試し尽くす。
ㅤ研究とはそういうものである。
ㅤ一を知り二を知る。二を知れば三を知ることができる。
ㅤ三を知り二を知らなかったことを知るのだ。
「おう、ラクス。グレン先生の課題か。気合い入ってんなー」
「お、身体強化で課題受理されたカッシュパイセンじゃん。とりあえず、リィエルと殴り合いしてこいよ」
「殺す気かテメェ!?ㅤリィエルちゃんのパワーは身体能力とかいうちゃちなんもんじゃねぇんだよ!」
「でなー、ここの経路が一定確率で飽和しちゃうから上手く動作しないんじゃね?」
「聞いてねぇし!?」
ㅤ校庭で魔術の作成を行う三人組は学院内ではよく目立つ。カッシュも風の噂を聞きつけて興味本位で覗きに来た一人だろう。
ㅤ
「あっ、ラクスくんにルミアちゃん。それにシスティも」
「あら、リンじゃない。どうしたのよこんなゴミ溜めに」
「おい、システィパイセン。ゴミ溜めとはどういう意味じゃボケ。綺麗な銀髪を血染めにすんぞ」
「あら、野蛮。私とルミアはゴミじゃないわよ?」
「俺とラクスがゴミってことですよね!ㅤ分かってましたよコンチクショウ!」
「もう、システィってば……」
ㅤカッシュに加えてリンが加わることで喧騒は一気に拡大して行く。
ㅤ気づけば放課後であるのにも関わらず二年Ⅱ組の生徒が全員集合していた。
ㅤ
「お前まで来るとはなギイブル。明日はメルガリが落ちてくるんじゃねぇか?」
「別に僕はただ新種の魔術とやらを批判しに来ただけだ。まぁ、形すら出来上がっていないんだ。正直言って落胆したよ」
「はい、ツンデレー。男のツンデレ頂きましタァ!」
「「「「ご馳走さまです!!」」」」
「なんだそのテンションは気持ち悪いぞ!?」
ㅤギイブルも暇そうだったので拉致軟禁。
ㅤもともと足りない脳みそを振り絞っているので男性陣は暴走気味というか壊れてる。テンションが高いのはそのせいだ。
ㅤつーか、なんじゃこりゃ。合体魔法。思った以上に難しい。
ㅤなんで攻撃魔法に体を構成する要素のジーンコードが必要になるんだよ気づくかよ。ばーか、ばーか。システィさんあざっす。
ㅤなんかこれ、必要最低限の起動条件揃えれば完成な気がする。
ㅤ大事なのは発動するパートナーの相性だし。その点、俺とルミアだぜ?ㅤ学院中探してもこれ以上のパートナーはないつーか。え、俺たち以外で誰かできるんですか?
ㅤ怖いものなんてない。つか、怖いってなに?ㅤだれか、俺に怖いという感情教えて?
「《
ㅤまずは試作品でテストプレイだ。やってみようそうしようということでルミアの詠唱からスタート。
ㅤこの際、俺は左手をルミアは右手を突き出し重ね合う。それとなく手を腰に回して、抱き合う形だ。双丘がたまらないぜ。
「《その広大なる慈悲を分け与え給えーーー」
「「《命の輝き・眩く先に光をさしたまえーーー》」」
ㅤ俺とルミアの頭上に巨大な黄色と薄緑の魔方陣が二重に形成される。
ㅤ
「「《ユニゾンレイド!》」」
ㅤ詠唱を終えると同時に黄色と薄緑の粒子が魔法陣から降り注ぎ……爆発した。
「不発!?」
「そんなことよりも避難ですわ!」
「まったく、世話のやける!」
ㅤカッシュとウェンデイが薄情にも尻尾巻いてトンズラしようとするが、ギイブルの錬金術が発動し爆発から俺らを守る。
ㅤ一応、ルミアは俺が庇う形で砂鉄も発動していた。ついでに防御手段に疎そうなリンも。
「えっと、失敗だったんだよね?」
「だな。回復魔法だったんだが、とんだクラスター爆弾の出来上がりだ」
「く、くらす……?」
「あー、覚えなくていいから」
ㅤそれにしても……。
「そうか、俺とルミア相性は思ったほど良くないのか……」
「おい、ラクスがよつんゔぁいんになって鬱モードだぞ!」
「ちょっと、ラクス。しっかりしなさいってば」
ㅤうるさいぞカッシュ。なんそのダンバイゲフンゲフンみたいな姿勢は。
ㅤそれとシスティ、しばらくそっとしておいてくれ。怖いという感情は知ったから。
ㅤはー、鬱だ。もうむリィ。
「おいぃぃぃぃ!?ㅤラクスちゃん校庭を穴だらけにしちゃってなにしちゃってくれてんの!?」
ㅤハイテンションなダメ講師の声が聞こえる。いや、ダメなのは俺の方か。すいません、生きててすいません、ホント。
「え、なにこの抜け殻みたいな殊勝なラクス。一周して不気味なんだけど」
「あっ、先生。ラクス君がユニゾンレイド失敗してから鬱モード?ㅤに入っちゃったみたいで」
「はっ?ㅤこいつからポジティブ抜いちまったらダメ人間だろ。見た目コーヒーでも中身泥水みたいなもんだろ」
「生徒相手に容赦ないわね、ほんと」
ㅤシスティ。そう言うな、その通りなんだ。
ㅤ
「あー、そういうことかー。なるほどな。おい、ラクス!」
「なんですか、このダメ生徒にーーーむぐっ!?」
ㅤグレン先生に口になにかを押し込まれた。
ㅤあれ?ㅤなんで今までこんな弱気だったんだ?
「つか、いてぇだろコラぁ!?ㅤ口に突っ込むのに掌底にするバカがいるかぁ!」
「そうでもしねぇと弱気ダメ男はくわねぇだろうが!?ㅤ口に固定して蹴りでぶちこまなかっただけ感謝しろドアホ!」
「口開くたびに喧嘩しないと気が済まないのかしら!?」
ㅤあいあい、ゲルブロ制裁。
ㅤというより、なんで俺は先まで弱気に?ㅤつか、何食わせたコイツ。毒か?ㅤぺっぺっ。
「吐き出すな、魔力を少しだけ補充する兵糧丸みたいなもんだ。眠気覚ましにも使える」
「エナジードリンクの丸薬版?ㅤ翼を授けるのか?」
「授けねぇよ。お前、魔力の使いすぎで欠乏症じゃなくてメンタルに来たみたいだな。そう珍しい話じゃねぇし、何よりあの二重魔法陣はラクスの魔力が多すぎだ。パートナーと半々が理想なんじゃねぇのか?」
「たしかに私もラクス君の魔力に拮抗しようと思ったんだけど、最後の方は飲まれちゃってましたし」
ㅤなん……だと!?
ㅤ神様体験ツアーのせいで魔力容量が上がって制御が効かなくなってるのか?
ㅤだとしたら、よくない。ユニゾンレイドは何より調和が必要とされて……あ。
ㅤ俺の魔術特性に完全不向きやんけ。
ㅤ◇
「そんなわけで合体魔法は無しの方向で。ごめんルミア、巻き込んで挙句に成果なしとか。笑ってくれ……」
「よしよし、頑張ったねラクスくん」
「……よし、もう少しがんばるかァ!」
「ちょろい上にルミアがダメ男製造機過ぎて、心配になってきた」
ㅤほんまそれな。わかるでー。おぎゃる丸になるところだった危ねぇぜ。さすがは天使。
ㅤ災難を食うのはごめんだと二組の生徒はみんな帰ってしまった。薄情なやつらだぜ。代わりにリィエルが来た。爆発で飛び起きたらしい。戦力的にはマイナスだな。リィエルは実務担当なんです。
「……その改変呪文?ㅤはそんなに難しい?」
「そういや、リィエル。お前は課題出したのか?」
「ん。確か、【ショック・ボルト】を改変したと思う」
「は!?」
ㅤいや、驚きである。リィエルが改変とか明日は空からウーツ鋼が降り注いでくるんじゃねぇか?
ㅤ試しに実演させる。
「《万象に希うーーー」
ㅤ呪文は聞かないことにしておこう。どうせ、知ってるんだ。
「ショック・ボルト」
「いや、どう見てもいつもの大剣なんですが」
「ショック・ボルト」
「よくそれで通したなグレン先生よォ!?」
ㅤ詳しく聞けば脅迫紛いのことをしたらしい。システィが苦笑いしながら教えてくれた。
「いちごタルト当面禁止な」
「……!?」
「そんな驚いた顔した後に悲しそうな顔してもダメだから。反省して。お願い、切り刻んでもいちごタルトはドロップしないのよ。剣を下げなさい、スティィィイイイイ!?」
ㅤリィエルは強い。が、砂鉄は完璧なのだ。拘束、拘束。
「では、改めて俺とルミアの改変呪文について考えていこう」
「んー!ㅤむー!」
「あんたよくこの状態で会話始めようと思ったわね!?」
「ラクス君。リィエルも反省してるみたいだし離してあげて。ね?」
「いえすまいろーど」
ㅤ解放されたリィエルはすぐにルミアの抱き枕にされた。くぅ、羨ましいぜ。
ㅤ某脳退散。ラクス君本気だしちゃうぞー。
ㅤまず改変についてだが、ある程度の方向性は決めてある。俺なら攻勢しかも雷系のやつ。ルミアなら支援系の光系だな。順当だろう。
「うーむ……」
「どうしたのよラクス?ㅤ知恵熱なら気のせいよ」
「手袋叩きつけんぞコラ……雷系の攻勢魔術を考えてみたんだが、思い浮かばなくてな。ほら、俺ってそこそこに気合の入った雷魔術使うだろ?」
「超電磁砲よね?ㅤたしかにあれを上回る攻勢魔術は数える程度でしょうね」
「しかも、まだ全力で撃ったことねぇし」
「……は?」
ㅤシスティが間抜け顔を晒す。というか、超電磁砲見たことないやろ……と思ったが研究所絡みの事件で愛は勝つよろしく夜空に流星を掲げちゃってたのを思い出す。
ㅤ全力で撃つんなら射出する弾丸からこだわんねぇとな。コインじゃ誘電率が悪いし、熱を持つわでいいことなし。ウーツ鋼は万能。
「んじゃ、俺のは置いといて……ルミアのからだな」
「私?ㅤんー、ラクス君の方優先でいいんじゃないかな。元々、これは個人に課せられた宿題ーーー」
ㅤ俺は控えめになってるルミアの両頬を掴んで目を合わせる。システィがお腹いっぱいみたいな顔してるけど無視しておこう。
「それをみんなでやるから学友なんだろう?ㅤそれに俺達、カップルだし。細かいことが言いっこなしで。んじゃ、決めてこ。案が決まれば3日で終わるだろ」
「ーーーありがとう、ラクス君」
ㅤそして提出期限にかなりの余裕を持って提出された俺とルミアの改変呪文。
ㅤルミアは光系支援魔術【エンチャント・クロー】。【ウェポン・エンチャント】改変で両手に鉤爪の形をした魔力武装を展開する。魔力効率は最悪だが、破壊力は一級品。グレン先生が使えば化けるだろう。
ㅤさて、お気づきだろうがルミアらしくない魔術だ。
ㅤが、それを制作した理由はとてもルミアらしい。
ㅤ曰く、俺とグレン先生が素手で戦うシーンが多いからだそうだ。切り札は多いに越したことはない。サークル撲滅のため遠慮なく頼らせてもらうとする。
ㅤちなみに俺は雷系魔術【マイクロウェーブ】。読んで字の如く、只の電子レンジだ。しかし、驚くことなかれ中世ファンタジーだぞ!ㅤ昼に食べる弁当は冷めてるし、買い置きとかは話にならん!
ㅤそこでこの魔術ですよ奥さん。こちら温めますか?ㅤ今年の流行語大賞は頂きだね!
ㅤちなみにグレン先生からはもっと過激なやつを期待していたのか不評だったが、アルフォネア教授からはとても好評でした。
ㅤ……グレン先生、この魔術を砂鉄で覆った空間内で人に放つのはやめて下さいね。なんかムカついたので先生に声色を変えて言うと、容易に想像ができたのか顔を真っ青にしていた。
ㅤ俺の現代物理学知識(ガバガバ)を舐めんな。
「ねぇ、ラクス君?」
「お、なんだ?」
ㅤ魔術提出後、俺とルミアは屋上で風を一緒に感じていた。
ㅤ理由は至極簡単。約束を果たすためにな。
ㅤ
ㅤいつか一緒に流星を見よう。
ㅤ俺がバカで向う見ずな時に約束した大切な約束だ。
ㅤ満点の星空。排ガスがない夜空というはのは綺麗だな。
ㅤ
「呼んでみただけだよ、ごめんね」
「可愛い許す」
「「はははっ!」」
ㅤお互いに簡易式の組み立て椅子に座りながら顔を見せて笑い合う。
ㅤ陳腐な表現が許されるなら、ルミアの笑顔は夜空に負けないくらい綺麗だ。
ㅤこうしてゆっくりと夜空を見たことなんてなかったな。
ㅤ余裕がなかった。そう思う。
ㅤ今の今まで血反吐を吐きながら続けてきたマラソンみたいなもんだ。ゴールは見えなく、どこを走ってるからすらわからねぇ。
ㅤルミアっつう松明がなきゃ、走ってるコースが合ってるかさえも分からなかった。答えが欲しかったんだ。
ㅤ流星が空を駆けていく。
「ねっ!ㅤねっ!ㅤラクス君、ほしっ、星がっ!」
「あぁ、綺麗なもんだなぁ」
ㅤルミアが興奮した様子で袖をぐいぐいと引っ張って空に指を指す。
ㅤ俺はそんなルミアを見て少し笑ってしまった。
「むっ、どうして笑ってるの?」
「いやいや、あまりにもルミアが子供っぽくはしゃぐから、今夜は流星よりもイイもんが見れたなってな」
「あー、少しバカにしてるでしょ?」
「してないって……多分」
「もう、そんなことを言うラクス君はこうだ!」
「いひゃい、いひゃいぞー。ほほをひっはるなー」
「あははは、変な顔。ふふふ」
ㅤけど、答えなんていらなかったんだ。
ㅤそんな俺が感じていた空虚を埋める必要なんてない。
ㅤなんでかなんて気がついてみれば愚問だった。どうして、んなことにも気づかねぇのかって。
ㅤルミアは頬を引っ張っていた手をようやく離してくれたので、お返しに恋人繋ぎをする。驚いた様子はなく、すんなりと受け入れてくれる。
「……俺は最初から満たされていたんだ」
「え、何か言った?」
「気にしないでくれ、独り言だ」
「えぇ、気になーーーんっ!?」
ㅤそう。
ㅤなんつーか、ほら?ㅤ雰囲気出てたじゃん?
ㅤ俺は悪くなくない?
ㅤルミアも嫌がっては無いみたいだし!?
ㅤ
「これからもよろしくなルミア」
「……不意打ちは卑怯だよ、ラクス君」
ㅤいつぞやの祭りの時の仕返しだ。
ㅤお前の彼氏はやられっぱなしが捨て置けない。そんな生来のへそまがりなんだよ。