「永遠に終わらない、車輪を、回し、て……」
「永久に続く、科学の探求を――」
「あの日の時計を……ずっと、ずっと」
秩序と混沌、双極を諸共手にした超人に敗れたオルフィレウス。
敗北を悟り、敵手の言葉からその理由を知り、宇宙の闇へと燐光として散っていった彼は、しかし、何の因果か並行世界にて再び蘇る。
永久機関を作った、と言うそれ以外の逸話がない男。されどその成果たる永久機関は現存しておらず、記録もなく。故にこそ条件に当てはまるのはそれを実現してみせた、名を同じくする存在のみ。
現世に降り立った彼は歓喜する。……だが。
「私は負けた。ならば、手段に誤りがあったのだろう。それを認めるのは吝かではないとも」
「足りなかったのは、何か。――ふむ。共に歩む者、か」
先へ。より先へ。その為にも同じ轍を踏んでいては先駆者たちに笑われよう。
科学を先へと進めるために、と科学信仰の機神は友を求めることにした。
これは歯車だけが友達な科学オタクをこじらせたぼっちが友達になってくれそうな相手を探す話。
「資材が足りん。売却がどうのと言っていた話はどうなった?こんな家など不要なのだろう?一切合切処理して私に投資するのだろうが」
「昨日の今日でどうこうなるものでもないって言ってるだろうが!」
「ならばいい。――私自身の手で文字通りの建材にしてくれるッ!」
「おいやめろ馬鹿!そんなんだから友達いないんだろう!!」
マスターの資産を食いつぶして新しい第零式永久機関君も作りつつ。
――さあ、再び時計の針を進めよう。
遍く神秘よ、絶叫しろ。
書きたい部分が終わったので最後の方が若干投げ遣りですが、お目こぼしいただければ幸いです。
輝きが収まったその時、佇んでいたのは一人の男だった。
悠然とした立ち姿。長身痩躯から放射されるのは濃密な魔力。人と言う存在を遥かに超越した存在だと理屈抜きに理解できる。
だがそれ以上に。男の視線を受ける雁夜は感じた。その男の中に煮え滾る情熱を。果てる事のない妄執を。
ああ、ともすれば500年を生き抜いてきた蟲翁以上に――こいつは何かに狂い焦がれているのだと、雁夜はそう確信した。
「こちらは及第点。輝装を身に纏うには足りているだろう。……対して、ああ、こちらは――」
――駄目だな、と。男の目が告げていた。間桐の支配者に対して。
「ほぉう? そこの落伍者よりはマシだと自負しているのだがなあ。その目で儂を見る理由には興味がある。聞かせてはくれんかな、キャスターのサーヴァントよ」
「その様が、だとも。ああ、微塵も価値がない。
私も果てを目指して止まぬ身だ。だからこそ歪んでいるという事だけは解る。初志をどこに打ち捨てた? 揺るがぬ誓いはどこにある。悲しくて見ていられんよ。手段と目的が逆転している、無様な姿など」
間桐臓硯は押し黙った。臓硯もまた、その目に感じていたのだ。この男に対するシンパシー、いいや、自身のかつてに対する既視感を。
――ああ、己にもこの様な時代があった。一心に目指したものがあった。ならば何を求めた、何を欲した。今の己が求めているものと、果たしてそれは同一だっただろうか?
崩れず朽ちず砕けず怯まず、前を光を未来を明日を、求め願って一直線に邁進した男の眼差しを前にして、蔵硯の心に堆積した塵の下に覆い隠された何かが微動する。懊悩するように表情が歪む。
故に、隙が生まれて。キャスターのサーヴァント、そう呼ばれた男は目的の存在の下へと足を進めていた。
「さて、マスター。君は虫に食われ、侵され、その命を擦り減らしてでも貫き通したい願いがあるようだ。ならば、これを扱うことも出来るだろう――」
キャスターの手の内に、鋼が生じる。無謬の時を刻む機械時計が。
それを手にしたまま、男は腕を引き絞り――見上げていた雁夜の目が見開かれる。何を、と。そう口にするより前に、その手は突き下ろされていた。
「ガッ、ハ――…ッ!?」
「この様な身になった以上、性能試験は必要だ。私の内に在る永久機関に問題がないのだから、君に対しても上手く機能するとは思うがね」
背中側から肉を破り、肋を砕き、心臓のある位置へと捻じ込まれるのは冷たい鋼。血反吐を吐き散らした雁夜の体が大きく痙攣し、そして、弛緩する。
薄れ行く意識の中、雁夜が人として最後に目にしたのは、
「自動輪の導く先にて、煌めく魔法を創始せよ。
無限の鼓動が成る果てに、オルフィレウスは待っている。
無謬の我執を携えて、新たな真理を待っている――とは言え、同属でもない君にそこまでは求めんよ」
だが、せめて。無我の影くらいは従えてみせてくれ、新たなる
そう口にして薄っすらと、傲慢に笑う男の顔だった。
暴君の背後に黄金の波紋が揺蕩う。向けられる敵意に反応し、その場に集ったサーヴァントたちが臨戦態勢を取った――新たな闖入者が現れたのは、その瞬間だった。
響く靴音。緩やかに距離を詰めてくるのは、二人の男だった。一方は覇気と自信に満ち満ちた長身、長髪の男。もう一方はおどろおどろしい怨念を身に纏い、パーカーで顔を隠した幽鬼の如き者。そのどちらもが現代風の衣装であった。
だが、この場に姿を現したのであればどちらか一方はサーヴァントであるはずだ。そう判断したマスターたちが目を凝らし――しかし、ステータスを見通すことは適わない。
ならば情報を隠蔽する宝具か、スキルの持ち主か。槍兵、騎兵は共にマスターからその情報を受け取り、片や警戒を、片や好奇心を露わにその二人を見詰めた。…いいや、騎兵に関しては嬉し気に声まで上げて出迎えた。
「おお、荒事の寸前ではあるが良く来た! 遅参ではあるが、まあ無粋な事は言うまい。余は征服王イスカンダル! ライダーのクラスを得て現界――」
「……誰の許しを得て我に不躾な視線を向けている、雑種が」
だが、空気を読まない暴君は彼一人ではない。いや、これに関しては新たに現れた男にも問題がある。
黄金のサーヴァントを、パーカーの男は黙して睨み付けていたのだ。昏い、昏い、戦意を込めて。
「――疾く失せよ。興じてやる価値もない」
波紋から射出される宝具。標的となった男たちが人を越えた動きで左右に散会する。その寸前、交わした言葉をその場にいるサーヴァントたちだけが聞き取っていた。
「さあ、君の
「ああ。――時臣にも見せ付けてやるさ、キャスター。あの魔術馬鹿には劇薬だろうけどな」
着弾、炸裂。巻き起こった破壊に紛れて、パーカーの男――間桐雁夜は、己が心臓へと意識を向けた。
チクタク、チクタクと、そこから漏れ出る時計の音。それが限界まで高まると同時、眩い光と共に扉が開いた。
その向こう側に広がるものは、無色透明の白い海。自分自身と言う無限の宇宙。そこから力を組み上げる為に、必要なワードを口にする。
「
『認証――汝が
これは本来ならば、成り立ての刻鋼人機が至れるはずもないステージだ。
しかし、蟲倉に一年余り放り込まれてなお心の折れなかった男である。その胸中に秘められた決意と恨み、その深度は推して知るべし。
心臓からの無機質な問いかけに、雁夜は全霊を乗せて答えを返していく。
声に乗るのは暗い激情。怨み、憎しみの果てに手にした黒い煌めき、滅奏の意志を今ここに顕現する!
「我は魔を厭うものなり。我は穢れを憎むものなり。
無垢なるものが冥府魔道へ落ち往くその前に、蠢く魍魎悉く、我が手で滅ぼし平らげん――!」
魔術師を憎んだ。魔術を怨んだ。己が父を厭うた。二度と戻るまいと家を出て――愛する女性の娘のために、舞い戻った。
必ず救う。必ず魔道から遠ざけて見せる。力がなかった己には、聖杯を対価としての取引以外に手段はなかったが――今、この胸に宿るのは無限を刻む真理の時計。
それが心を形にすると言うのならば、さあ、いざ見るがいい。これが魔術師と言う外道どもを否定する己の決意だと、あの昏い世界から■■■を必ず引き離して見せるのだと雁夜が力強く叫びを上げた。
同時に眩い光が全身を包む。収束した光がラインとなり、雁夜の体を血管のように彩り、
『受諾――素粒子生成』
それが爆発的な閃光を発した。
白い光の素粒子が、雁夜の四肢を覆い包んで膨れ上がる。
『輝装展開開始』
前腕から五指にかけてを覆う小手。
膝から下を鎧う具足。
白光が結んだ像が確かな質量へと変換され――
「心装――輝装・
今ここに、心の
同時、間桐雁夜が踏み込んだ。アスファルトを陥没させて黄金の暴君へと向けて突進する。
土煙の中から飛び出してきた雁夜の変貌を目にし、深紅の瞳が僅かばかり見開かれた。芸の一つもできない野良犬風情と見ていただけに、少し驚く。
だが、裁定を覆すほどではない。おもむろに指を鳴らすことで、再び黄金の波紋を――
「――何ッ!?」
「ォォオオオオオオッ!」
展開、出来ない。いいや、展開しようとした瞬間に収束しかけた魔力が解けて霧散したのだ。
驚愕して振り向いた横っ面に、亜音速で駆け抜けた雁夜の拳が叩き込まれる。
瞬間、霊核まで揺るがすような衝撃が黄金の王の全身に突き刺さった。全身の細胞を一つ一つ摘まんで引き剥がされているかの様な、言い表せないような不快感と激痛。それを感じながら、英雄王――ギルガメッシュは積み上げられたコンテナの森の中へ轟音と共に姿を消し、後を追って雁夜が地を蹴る。
自分は戦闘者としては素人だ。そして、向こうはどこの、かは分からないが英雄・英傑の類である。故にペースを握って畳みかけるしかない、と。
爆発的に向上したスペックと覚醒した機能だけを頼りに、ギルガメッシュを叩きのめさんと間桐雁夜は疾走した。
「一定範囲内に措ける魔力結合崩壊機能――…既に実体化しているものや物質の内界までに効果は及ばんとは言え、ふむ、実に興味深い」
「おいおい、そんなことを言っちまっていいのか、お前さんは」
「構わんとも。寧ろ、存分に対策を練って欲しいものだ。マスターには是非とも影装まで至って貰いたいのでね。苦戦、敗戦の経験は糧になる。あれは逆境に奮起する人間だと思っているよ」
「まあ確かに根性がありそうな感じだったなあ。だが、キャスターよ。そいつを使われたら貴様も困ろう? 余が見るに、ありゃあ無差別に効果を及ぼす代物だ」
「いいや、私は一向に困らんとも」
何事もなかったかのように始まったキャスターとライダーの会話内容に、その場にいた魔術師たちは戦慄した。今の間桐雁夜がどれほど魔術師にとって致命的な存在であるかを教えられたからである。
特に魔術的な要塞を築いているケイネス・エルメロイの動揺は酷い。何せ、あれが突撃してきただけで苦心して築き上げた魔術工房が崩壊する可能性があるのだから。更に、気付けば自身に掛けていた魔術迷彩すら消失している始末だ。
外界への魔力放出を戦闘補助に用いるセイバー、そして雷を吐き出す神威の車輪の性能低下を悟ったウェイバーの顔色も冴えなかった。平然としているのはならば私は相性がいいな、などと考えているランサーと平常運転のライダーくらいのものである。
なお、遠坂時臣に至っては顔色を紙の様に白くし、卒倒寸前の有様だった。この場にはいないが。散々見下してきた三流以下の凡俗幼馴染が魔術師絶対殺すマンと化していた上、現在進行形で英雄王を殴り付けているとあれば然もありなんだろう。パスから伝わる王の憤怒を感じて頭を抱えている真っ最中である。
王の財宝の展開そのものを阻害する上、打撃に魔力結合を崩壊させる波動を乗せてがむしゃらに殴り付けてくる雁夜を相手に、英雄王は完全に防戦一方だ。身体的なスペックで優越されている為に手も足も出ていない。近接戦闘でもセイバーとやり合えるプロトな英雄王だったら話は別だっただろうが。
さておき。――キャスターが口にした言葉が、その場にいる者たちの間に緊張を走らせた。
「時に、私を狙わなくてよいのかな。普通に考えれば、彼の変貌は私の仕業。ならば私を討てば戻るかもしれない。魔の天敵たる資格を失うかも知れない――と、そう考えてはいないと?」
三流の魔術師を、サーヴァントと拮抗、否、相性によっては凌駕する所まで押し上げる――明らかに宝具を使っている。
そして、通常なら陣地に引きこもって出てこないはずのキャスターのサーヴァントが今、ここにある。千載一遇の好機なのは間違いない。
だが、征服王は征服王であった。
「そんな無粋は後で良かろう。それよりもキャスターよ、余は貴様に問わねばならぬ。――改めて名乗るが、余は征服王イスカンダル。此度の戦争にはライダーのクラスを得て現界した。
して、キャスターよ。我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様を朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる」
あたかもそんなことはどうでもいいと言わんばかりの振るまい。男気に溢れた笑みで紡ぎ出された問いを好ましく感じて、キャスターもまた薄く笑う。不遜に、傲岸に。
「ならば、私も名乗っておこう。私はオルフィレウス――そして、誘いへの答えは否だ、イスカンダル。
この身には、成したい夢と理想があるから。聖杯もまた、その一助となるだろう。無色の力を如何様にも調整する
故に譲らん。文句があるのなら力で押し通すがいい」
イスカンダルは理解した。この男は目に見える形で下されん限りは己を曲げまい。己がオケアノスを目指しているように、キャスター――オルフィレウスもまた、まだ見ぬ地平を目指しているのだと。
ならば、取るべき手段は一つ。言うまでもない、――征服である。
「うむ、ならばよし! しかしだ。余が貴様を下した時には従ってもらうぞオルフィレウスよ。夢と理想があるのなら、余の旗下で存分に追い求めるが良かろう!」
「ああ、好きにするといい。我が無謬の妄執を飲み込めると言うのならば、それも悪くはないとも。――私は決して屈さんがね」
見果てぬ夢を求める者同士、何はなくとも通じ合うものを感じたのだろう。片や磊落に、片や不遜に、笑みを交わし合う男二人のその傍らで、ウェイバー・ベルベットは頭を抱えていた。
「……何で永久機関を作っただけの科学者があんな出鱈目な強化が出来るんだよ…! ああもう、馬鹿にしやがって――!」
雁夜おじさんの輝装の適当設定
【輝装・魔葬殲機】
周辺の魔力素の結合崩壊。個体として物理的な実体を持つに至った代物までは無理。
だが逆に実体を持つ前なら幾らでも邪魔できるので、展開したが最後、範囲内ではサーヴァントやサーヴァントが保有する武装を新たに実体化することができなくなる。
また、魔力の収束や魔力放出なども妨害でき、常時発動型以外の宝具は発動までに大幅なディレイがかかる。即時発動したいなら令呪を切りましょう。
またその特性上、この殲機による直接攻撃は魔力で編まれた相手に対する特攻効果を持つ。
なお、オルフィレウスさんは素でもくっそ強いです。武器剣だし。