たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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2023/09/29投稿


最新話
いずくH/C


 世界総人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会。

 かつては異能と呼ばれた超能力が“個性”と呼ばれ当たり前のものとなっている。

 そんな千差万別、多種多様な個性が存在する社会においては、ときおりどうしてこうなったのか分からないような個性が現れることもあったり。

 

 これは、世にも珍しい特性を持った個性を手に入れてしまった緑谷出久の物語だ。

 

 

 

 

 

 ――雄英高校 グラウンド・β 屋内訓練用ビル

 

 全国の数あるヒーロー科の頂点に位置する名門校に入学した出久は、その最初の戦闘訓練でいきなり困難に直面していた。

 

「死ィねェ!!」

「うわああああ!?」

 

 強烈な爆破に吹き飛ばされる出久。

 戦闘訓練の相手は、幼馴染の爆豪勝己だ。

 くじ引きによって決められた対戦カードだったが、出久にとっては最悪の組み合わせになってしまっていた。

 幼馴染だから手の内がバレているというのももちろんある。

 だが、それ以上に――

 

「くっ、そォ! フゥー」

 

 吹き飛ばされて体を打ち付けながらも、反撃とばかりに口から火を吹く出久。

 

 個性「炎熱放射」

 口から炎や高温の吐息を出すことができる。

 それが出久が父親の個性が深化して遺伝した結果発現した個性だ。

 シンプルな炎熱系の個性だけに応用も利く良い個性なのだが、いかんせん相手が悪かった。

 

「ハッ! そんなもン当たんねェよ!」

「ぐあっ」

 

 狙いも定めずに放たれたおざなりな攻撃を容易く躱して出久に蹴りを入れる勝己。

 強力な炎熱のブレスも、両手の爆破の個性を使った機動力で当たらなければどうということもない。

 その事実に、出久は歯噛みしていた。

 

『やっぱりかっちゃんと僕の個性じゃ相性が悪い!』

 

 勝己の個性「爆破」は掌の汗腺からニトロのような物質を爆破させるというもの。

 その性質上、汗をかけばかくほど強力な爆破を行えるようになっていく。

 つまり、出久が炎熱を吐き出せば吐き出すほど、勝己は発汗しやすくなり戦いやすくなっていくのだ。

 

 このように相性の悪い個性を相手に出久がまだ戦えているのは、ひとえに勝己が出久をいたぶるような戦い方をしていることが大きい。

 これは有利な状況ゆえの余裕の表れがないわけではないが、実のところ、彼個人の私怨によるものだったりする。

 

「火ィ吹くだけの没個性のクソナードが、俺の将来設計をズタボロにしてくれやがって……この落とし前はつけさせてもらうからなァ!」

 

 母校初の雄英高校進学者となること。

 それが勝己の完璧な人生設計の一部になっていたらしいのだが、出久が同時に入学したことで早くも崩れ去ってしまっていた。

 完璧主義者の勝己にとってこれは許しがたいことであり、その原因となった出久を戦闘訓練の場にかこつけて怒りをぶつけているのである。

 人はこれを八つ当たりという。

 

「勝手なことを言わないでよ、かっちゃん!」

 

 勝己の理不尽さに思わず文句が口に出るも、このままではジリ貧の出久。

 ここから逆転勝利を掴むためには、それなりの何かが必要だった。

 

『やっぱり強いなかっちゃん! 出し惜しみして勝てる相手じゃないのは分かってただろ……でも、できれば使いたくはないよ』

 

 状況を一変させる切り札はあるものの、出久はその使用を躊躇していた。

 それは使用すれば勝己の爆破を攻略することが可能となるものであったが、同時に出久に大事なものを失う覚悟を強いるものでもあった。

 思い悩むも決断する時間はあまりない。どうする、出久?

 

『僕は……それでも勝ちたい! かっちゃんは僕にとって一番身近な凄いヒーローだから! だから、勝って超えてやりたいんだ!!』

 

 勝利を願う一心で覚悟を決める。

 彼は身に宿した()()()()()()()を使った。

 

「うっ、ぐぅううう!」

「あ? 何してやがる?」

 

 勝己が攻勢に出ようと身を乗り出したとき、出久が突然身をよじり、声を上げて身悶えしはじめた。

 様子のおかしさに足を止め、状況を観察することを決めた勝己だったが、次の瞬間に目の前で起きたことに驚愕することとなる。

 

 

 

んっ、あっ、ああん!

 

 艶めかしい嬌声をあげる出久。

 いままで封印していた能力を使用したことで彼の肉体の変化引き起こされていた。

 豊かに膨らんだ胸をはじめとした全体的に丸みを帯びた体つきに、繊細な印象を与える顔のパーツ。

 体にフィットしているジャンプスーツによってはっきりとわかる女性の身体であった。

 出久、女の子に大・変・身!

 

 

「…………は?」

 

 その一部始終を目撃してしまった勝己は、あまりの現実に理解が追い付かず混乱して動きが止まってしまっていた。

 まぁ、幼馴染が目の前で女の子になったらそうもなろうというもの。むしろ、動揺してなかったらヤバいかもしれない。

 理由はともあれ、勝己の動きが止まったこの瞬間こそ、出久にとって反撃のチャンス到来だ。

 

「スゥーー」

 

 出久が大きく深呼吸をする。

 炎熱を吐き出すときと同じ予備動作?

 いいや、違う。予備動作などではなくすでに個性はその効果を発揮していた。

 

「寒ィ!?」

 

 急激に温度が低下し、驚きの声を漏らす勝己。

 この現象は相対している幼馴染が自分の知らない能力を使って引き起こしたことに違いなく、持ち前の戦闘センスがこのままではマズいと警鐘を鳴らしている。

 即座に退避の選択をするも、先ほどの驚愕で思考停止していたわずかな時間がすでに致命的な隙になってしまっていた。

 

「フゥーーッ!」

 

 大きく吸い込んだ息を吐き出す出久。

 しかし、吐き出されたのは炎熱ではなく触れたものを凍てつかせる輝く吐息だった。

 

「クッ、ソがァ!!」

 

 爆破の個性で抵抗しようとする勝己だったが、急激に下げられた気温と強力な冷気のせいで発汗量が減り、威力が激減。

 出久の攻撃を防ぎきれずに直撃を受けてしまったのだった。

 苛立たしげに悪態をつく勝己の手足には氷がまとわりついており、個性の使用も移動も阻害されてしまっている。

 形勢逆転。一気に追い込まれた勝己。

 当然、彼の才能と実力を知る出久はこの絶好の機会を逃さずに仕留めにかかった。

 走り寄って距離を詰めた出久は、その勢いのまま勝己に組み付き、その首筋に唇を落とす。

 

「なっ、てめ……ェ」

 

 予想外の出久の行動に怒声をあげようとした勝己だったが、見る見るうちに青ざめて何も言えなくなってしまった。

 血の気の引いた顔に唇は紫色に変わっている。

 手先の感覚がなくなり、身震いが止まらない。

 明らかに低体温症の症状がみられた。

 

 これが出久の個性のもう一つの側面、「熱吸収」の効果だった。

 口を介して熱を吸収し体内に溜めておくことのできる個性で、周囲の気温を下げ、勝己の体温を奪ったのだ。

 彼――今は彼女――が普段使っていた「炎熱放射」の個性はため込んだ熱を使っていたりする。

 つまり、出久の個性の本質は“周囲の熱を自在にコントロールできる”個性だったというわけだ。

 

 何はともあれ、男の子として大事な何かを失いながらも勝己に勝利した出久。

 この戦闘訓練自体も建物全体を氷漬けにするという大技を使って見事勝って見せたのであった。

 

「デクくん、女の子になっとる!?」

「緑谷くん、君は女の子だったのか!?」

「あ、ごめんね。すぐに元に戻るから……あっ、んっ!

「「えぇーっ!?」」

 

 氷漬けにした建物は男に戻った出久が責任を持って全部とかしました。

 

 


 個性「炎熱放射/熱吸収」

 

 口から熱を放出・吸収する個性。

 吸収した熱は体内に溜めこんでおくことが可能だが、許容量を超えると体温が上昇し始めて危険な状態になってしまう。

 逆に炎熱放射で熱を放出し続けても体温が下がって命の危険になる。

 なお、熱の放出時は男に、吸収時は女に性別が変わる。

 どちらの性別でも熱の放出・吸収は可能だが、極めて効率が悪くてほとんど使い物にならない。

 個性の切り替えと性別の切り替えがリンクしているのか原因は不明。ホント、なんでだろうね?

 口を介して個性を使うため、基本的に呼吸で熱の放出/吸収をコントロールするわけだが、直接口を接触させることで対象を温めたり冷やしたりすることが可能。

 女の時の冷気を吐き出す技は実は応用技で、吸い込んだ空気の熱を体内で吸収してから吐き出すことで結果的に低温の吐息となっている。

 個性の性質上、仲間として戦うなら男の時は勝己と相性がいい。逆に女の時は敵味方のどちらの立場でも相性が悪い。


 

 

 その日の放課後。

 初の個性を使った対人戦闘訓練の興奮が冷めやらず、教室で反省会をする流れになった。

 各々、言いたいことや聞きたいことは多々あるわけだが、やはり気なっているのは出久の個性について。

 世の中にはいろいろな個性があるわけだが、性別が入れ替わるというのはレア中のレアな珍しい個性だ。

 誰もがその詳細を知りたがっているものの、問題は誰がその話題を持ちかけるのかということだ。

 個性による性転換など、本人の性自認だとかコンプレックスだとかのセンシティブな部分に触れるかもしれないと考えると、怖くて質問しづらいわけで。

 そういったものをまるっと無視して問いかけることができる人物はこのクラスには一人しかいない。

 

「おい、クソデク! てめぇの個性はどうなってやがる!?」

『単刀直入きたあぁぁぁ!!』

 

 なんの前置きもなくいきなり本題に触れる勝己。

 幼馴染ゆえの気兼ねのなさと自分にずっと秘密を隠していたという怒りもあって、投げかける言葉は必然的にとげとげしいものになってしまった。

 

「俺に隠し事とはいい度胸だなァ、デクゥ……?」

「ひ、秘密にしてたのはごめん。でも……」

 

 謝罪の言葉を口にする出久だが、勝己の苛立ちはその程度でおさまるはずもなく。

 

「俺を騙して、さぞいい気分だったんだろうなァ! アァン!?」

「そ、そんなつもりじゃないよ! 騙そうだなんて……」

「じゃあ、なンで個性のこと黙っていやがった!」

 

 自分に嘘の個性を教えて、手玉に取っていたのかと責める勝己。

 度重なる詰問に出久もついにキレた。

 

「い、言えるわけないだろ、バカヤロー!!」

 

 勝己にも負けない大声で怒鳴る出久。

 そこからはもう怒涛の勢いだった。

 

「個性使おうとしたら女の子になるとか、僕が一番困惑してるよ! というか、仮に打ち明けてたとしてもかっちゃんが困るヤツじゃないか! 急に男の幼馴染が女の子になるとか知らされてもどうしようもないだろ!! それで変な反応返されたら僕はどうすればいいんだよ!? 僕のお母さんですら困惑して一時期家の中が大変だったんだよ? それを幼馴染とはいえ他人のかっちゃんに打ち明けるとかできるわけないよ! 打ち明けるにしたってどのタイミングでどういう風に言えばよかったのか分からなかったし!! そもそも自分の性自認もなんかよくわからなくなりそうでヤバかったんだからね? 下手に相談してたらかっちゃんの一言で僕の性別決まってた可能性だってあるんだよ!? そうなったらもうかっちゃんの責任重大だよねェ! こんなことだから秘密にしておくしかなかったんじゃないか!! ねぇ、かっちゃん、僕、どうすれば良かったってんだよ!!」

 

 出久、魂の叫びであった。

 苦労したんだねぇ。うん。

 勝己どころかクラスメイト全員「何も言えねぇ……」状態になったのであった。

 


 

『緑谷のやつ、そんな悩みを抱えてたのに冷やす個性を使うことを決めたのか……』

 

 なお、似たような個性を持つ轟焦凍が興味を持ち始めたようです。

 この先、どうなっていくんだ……

 

【いずくHeat/Cold】




初心にかえって男の子と女の子を行ったり来たりする出久くん/ちゃんのお話でした。
ぶっちゃけ「ブレス」の個性のほうが汎用性あるし強力なんだけど、出久ちゃんになれるってだけで価値あるよね?

読みたい出久の系統は?

  • 後付け個性系(1/2、Dハートなど)
  • 両親個性変質系(ヒロイン、恋愛追跡など)
  • 無個性技能特化系(バトラー、メイドなど)
  • その他
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