──これが、破軍学園の序列1位か。
地面に膝をつき、肩で息をする体を自らの霊装で支える少年──黒鉄一輝は目前に立つ狩人を見て冷や汗を流す。
──強い。
麻痺して動かない体を見据えながら、一輝は現状に至った経緯を思い返す。
始めは興味本位だった。実家経由で学校から悪質なイジメを受ける自分に友人として接してくれていた隣人、それが目の前に立つ《狩人》と称される
一輝は確かめたかったのだ。学園を首席で入学したAランクの学生騎士にして、一年生ながらに破軍学園の頂に立つ者。才能という面では一輝とは対極に位置するであろう、日本のみならず世界から将来を期待されている伐刀者の実力を。故にトレーニングに付き合ってくれという名目で蓮に模擬戦を持ち込み、その力を確かめようとして──結果はこの様だ。
「(こんなに力の差があるなんて……)」
圧倒。Fランクでありながらも並みの伐刀者ならば遅れを取らず、Aランク伐刀者とさえ渡り合える力を持つ一輝が一太刀も浴びせることが出来ず、されるがまま。この状況を見ればAランクとFランクなのだから当然の結果だと誰もが思うが、一輝の本質を知る者からすればそれは目を見開く結果に他ならない。
「(
蓮は空を飛ぶ術を持っている。そしてその固有霊装は弓。空を縦横無尽に駆けながらの攻撃で相手を翻弄し、広範囲の技を持たない伐刀者ではそれだけで蓮の前に跪く。しかしそれすらも蓮にとっては序の口。放たれる一矢は全て蓮の魔力で生み出された魔力矢であり、Aランクの伐刀者たる蓮にとっては数十の魔力矢を一斉に展開し相手に放つことは容易く、全力を出せば空を覆う魔力矢を一斉に展開出来るほど。しかし、いくら大量の魔力矢を放とうともそれだけで一輝は倒れない。その一輝が現状で膝をつき息を荒げている状態こそ、蓮の固有霊装──《二王弓》の真骨頂。
《二王弓》を媒介とし蓮が行う伐刀絶技は《魔力変換》。
その力は自身の魔力を自身の思う属性に変換し放出するもの。
例えば一輝が動けない今の状態は、蓮が自身の魔力を《雷》に変換し魔力矢を作ったことで備わった《麻痺》の力によるものだ。蓮が空中戦を可能としているのも、自身の両足から《風》に変換した魔力を放出し続けているため。
そう。これが《
「(けど何よりも凄いのは──蓮くんの矢は外れない)」
これまで幾度と蓮の魔力矢を弾いてきて一輝だが、一輝が弾く又は避けることをしない限りは蓮の魔力矢は全て一輝に命中していた。それが意味することは──蓮の矢は外れない、つまりは必中。その中で一矢でも喰らえば致命傷に等しい傷を受けるのだから、その姿に隙と呼べるものは何一つとしてなく、蓮が世界から期待される伐刀者だということを一輝は納得せざるを得なかった。そして、自身と蓮の圧倒的な才能の差も。だからこそ理解した……否、理解させられた。
「(勝てない。一刀修羅を使うまでもなく分かる。いや、これが模擬戦じゃなくて実戦なら蓮くんは僕が一刀修羅を使う暇さえ与えなかった筈だ)」
そう、これはあくまで模擬戦。
一輝なら一刀修羅という切り札を隠しているように、蓮もまたこの模擬戦では出してない手札がある。そして、そんな力を出し惜しんでる蓮に全力で挑んでも勝てないことを理解してしまった一輝は、その悔しさを表すかのように拳を握り締める。
力をつけて天狗になってきた部分は確かに一輝にはあった。他人とは比べ物にならないほどの努力を積んできたし、並みの伐刀者なら剣技だけで封殺出来るとも考えていた。
だからこそ、この結果は余計に悔しく尚且つ許せなかった。これだけ努力しても届かない才能の差と、負けた理由を才能の所為にしたがる己の心の弱さが。
「蓮くん」
「ん?」
《二王弓》を収め、スポドリとタオルを片手に持つ蓮は一輝のその視線に気づかない。
今は遥か先を行く蓮に、いつか必ず追いつくという言葉なき一輝の決意がその双眸に込められていることに。
「これからもよろしく」
「よく分からんが、こちらこそだ」
一輝にとっては完敗を喫した相手。
蓮にとってはヒヤリとした場面が少なからずあった油断ならない相手。
認識の違いこそあれど、この模擬戦以降二人は互いを認め合う好敵手となった。
学校からの悪質な嫌がらせに耐えながら日々研磨を絶やさない一輝と、止まることを知らない蓮の快進撃。
やがて一年の時が経ち、蓮は七星剣舞祭で優勝し学生最強の称号たる《七星剣王》を手に入れた。
一輝は結果的に留年しながらもその心は折れず、《落第騎士》の研磨は未だ終わらない。蓮もまたいつか来るであろう一輝の挑戦を頂点で待ち続ける。
これは、《落第騎士》と《狩人》の英雄譚。
英雄譚は理事長の交代、そして《紅蓮の皇女》の入学と共に幕を開けるのだった。
原作の方は読んでなくアニメしか見てないので、多分続きません。