オーバーロードは稼ぎたい   作:うにコーン
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12巻読んでたら執筆が遅れました。 すみませんした。

犯罪者瞳のネイアちゃん。 自分の中では、どこぞフレンズのキャラにちなんで、ハシビロコウちゃんと呼んでます。 無口なのに胸中ではお喋りな所とかイイですねぇ~


あらすじ

コキュー「武士道トハ死ヌ事ト見付ケタリ!」
ドクトル「ダメです」
デミウル「覚悟なさい。スパルタ教育ですよ」
ありんす「グワー!」

ドクトル「科学の力、耐えてくれよ! うおお収穫量2倍弱だぁぁああ!」
マーレ君「私の収穫量は4倍です」
ドクトル「魔法には勝てなかったよ……」



現在のナザリック生産物

・そこそこの量の硫黄
・そこそこの量の高シリカ火山灰
・やや少ない量の鉄スクラップ
・まぁまぁの量のスケルトンの骨
・数十個単位の瓜科果物
・数百個単位の柑橘果物
・数千個単位のオリーブの実
・やや少ない量の過燐酸石灰
・バケツ数杯の硫酸
・MPが続く限りの塩酸
・プロトタイプの農業機械
・計測不能の量の石灰岩
・かなり多い量の生石灰
・かなり多い量の消石灰
・かなり多い量の石灰水
・そこそこの量のセメント



ニグンだって稼ぎたい

「ふー……やっぱりこの格好が一番落ち着くな……」

 

 カルネ村から帰還したアインズは、グレート・モモンガ・ローブに装備を変更すると、執務室へ入る。

 

 自分で開けたほうが早いのに……。 と考えながら、扉を開けてくれたフィースへつまらなそうに手を振り  何度も隠れて練習したポーズなので自信がある  感謝の意を伝えた。 アインズの中に居る鈴木悟は、社会人であるがゆえにこの行為に強烈な忌避感(きひかん)を訴えているが……

 

(おおう……やはりフィースもか)

 

 視界の端で様子を伺っていると、眼を輝かせたフィースは嬉しそうに頭を下げた。 コッソリ取ったアンケートの結果『支配されてる感があって良い』と、高圧的な態度は非常にウケが良く、受け取る本人がコレで喜んでいる以上アインズの嗜好は二の次になる。 支配者は部下が気持ちよく働ける環境を作らねばならぬのだ。 それがたとえ、生身の鈴木悟の場合、胃に穴が開きそうなストレスを感じるとしても。

 

(なんでだ? まさか、全員がこうなのか?)

 

 かつての仲間が作ったNPCは、全員Mなのだろうか。 アインズは表面に出ないように心の中で首を捻る。 世の中には、そんな特殊性癖を持つ人物が居るとバードマンの友人から聞いた事があるが、まさかナザリック全体がそうなのだろうか。

 

 答えが出ない悩みを抱えたまま席に着いたアインズが、アルベドが用意してくれた報告書を読んでいると。

 

「アインズ様。 捕らえたまま放置してある陽光聖典部隊員の処遇の件ですが  

 

 すっかり頭から抜け落ちて忘れてしまっていた存在の名を挙げた。

 

(あ……。 しまった、ドクトルのキャラが強烈過ぎて言われるまで完全に忘れてた!)

 

 流れるハズの無い冷や汗が、骨の額を流れた気がした。

 

「も……んだい無いとも、アルベド。 あの程度の連中なら、優先順位などいくらでも下げれよう」

「はい、アインズ様の仰る通りかと」

 

 ニコリと微笑んだアルベドは、急に目を輝かせ。 「ちなみに私の優先順位はアインズ様がトップです!」 と、胸の前で手を組んで興奮した面持ちでアインズに迫った。 突然の事に虚を突かれ、至近距離まで来る事を許してしまったアインズは、アルベドの異様な様子に少し仰け反る。

 

「トップなのです!」

「お、おう……」

「私がちょー愛してる魅力値MAXを振り切ってるアインズ様を差し置いて、外に何か優先すべき事などありますでしょうか!? いいえ、ありません!」

「お、落ち着くのだアルベド! お前の思いは嬉しく思うが、時と場合をだな!」

 

 ハッとして落ち着きを取り戻したアルベドは、謝罪を口にすると頭を下げた。

 

「まったくもう……はぁ。 さて…そうは言ったものの、流石にこれ以上放置も出来んか」

 

 そもそも、陽光聖典隊長であるのニグンがユグドラシルプレイヤー……つまりクサダと繋がりがある可能性があったため、拷問官が行なう情報収集を一時凍結していたに過ぎない。 クサダが、カルネ村を襲った武装集団や陽光聖典と係わり合いが無いと解った今、わざわざ生かして監禁している必要はないのだ。

 

「ドクトルの案で作った製品の、実地テストも問題なく終わった事だ。 今度は情報収集といこうじゃないか」

「その事なのですがアインズ様。 陽光聖典隊長のニグンの存在を知った博士が是非話を聞いてみたいとの事で、既に尋問を開始しています」

「……何? ドクトルが?」

「はい。 何か不都合が御座いましたでしょうか?」

 

 クサダのこの行動に不都合が生じ得るか。 アルベドの言葉を受け、アインズは腕を組んだ状態で顎先を摘まみ考える。

 

(問題……ないよな? 話を聞くくらいなら別に……。 むしろ、シモベ達の前では口を閉ざしていたニグンも、ドクトルの前では何か喋るかもしれないしな。 一応、ドクトルの見た目は人間に見えない事もないし……ナザリックのシモベは見た目からしてアレだからなぁ……)

 

 以外と結果オーライかも。 と、結論を出したアインズは、余裕タップリといった様子で鷹揚に頷き、うんざりするような思いでいつもの支配者ロールを続けながら言った。

 

「いや、それでいい。 好きにやらせておけ」

(かしこ)まりました」

 

 (うやうや)しく跪き、臣下の礼をするアルベド。 アインズは、無条件に向けられる好意を嬉しいと思いつつも、その重過ぎる忠誠心にぐったりしてしまう。

 

 アインズは肉体的な疲労を無効にしてくれるアンデッドだが、精神的な疲労までは無効化してくれないのか、何だか身体が重いような気がしてくる。 どうせなら精神的疲労も無効化してくれよ……と、都合の良い事を考えながら、タップリ2時間練習した動作で椅子の背もたれに寄りかかると、アルベドに気付かれないように小さくため息を吐いた。

 

(はぁ。 疲れる……支配者ロールには結構慣れて来たとは言っても、24時間ずっとじゃ集中力も続かないよ……。 ああ、昔みたいに何も考えずに冒険がしたい。 真っ赤なマントを翻して……剣は健御雷さんみたいなデカイのをブンブン振り回すんだ)

 

 王者に相応(ふさわ)しい  とアインズは思っている  ポーズで、現実逃避気味にそんな事を考えていたのだが。

 

(ヤッベ、熟考なされるアインズ様カッケ! クフフ  !)

 

 なんて感じで、アルベドはアインズへの忠誠心をますます高くしていくのだった

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 ナザリック地下大墳墓、第五階層―表決牢獄。 真実の部屋(Pain is not to tell)と名付けられた拷問部屋に、五大最悪と言われる『最悪な』NPCの内の1人。 役職最悪の名を持つニューロニスト・ペインキルの姿があった。

 

「うふん。 アインズ様のお許しが出たら、た~っぷり可愛がってあげるからねん。 楽しみにし・て・て、ねん」

「…………」

 

 バチコーンと音がしそうな豪快なウインクを打ったニューロニストは、水掻きの付いた細い指で、心底嫌そうな表情を浮かべているニグンの胸元に円を描いた。

 

 二度と戻らないぞ。 鳥肌が全身に浮き出るのを感じながら、彼は心の底から決意する。 一刻も早くこの場から去りたいニグンは、腰紐を引く拷問の悪魔(トーチャー)の指示に素直に従い、少し離れた場所に新しく建てられた『取調室』なる一室へ足を踏み入れた。

 

 その部屋は閑散としていた。 打ちっ放しのコンクリートで作られた壁は、ゾッとするほど無味乾燥で、冷たく灰色に染まっている。 備え付けられた机も椅子も、鉄であろう金属で出来ており、木を革で覆っただけの硬い物で座席が(しつら)えられていた。 そして、用途のわからない巨大な鏡が壁に一枚掛けられている。 じっと覗き込めば、向こう側のもう一人の自分が、こちらを冷たく睨み返してきた。

 

 悪魔に指示されるがまま、扉から一番遠い席に腰を下ろし数分待つ。 裁判官から判決を下されるのを待つ囚人のような気分で待っていると、唐突に鉄扉のノブが回され、ガチャリと硬質な音を奏で  

 

(なっ…人間だと?)

 

 ニグンは驚愕に眼を見開いた。

 

 滑らかに開く扉から現れたのは、ラフな服装の上に白衣を羽織った短髪の男だった。 醜悪な異形の者が支配し、人間種は家畜以下の扱いを受ける空間に、拘束もされていない人間が自ら歩いて入室してきたのだ。

 

 クサダと名乗ったその男は、ニグンの標的だったガゼフと同じ黒目黒髪の、南方風の姿をしている。 だが、日に焼けてはおらず、その白さは病的な印象を受けるほどた。 案内役であろう悪魔の物腰は柔らかく、アインズ・ウール・ゴウンと名乗った魔法詠唱者が『崇拝』されているとするならば、この男は『尊敬』だろうか。

 

「おう。 テメーが陽光聖典とか言うダセェ名前した組織のリーダーか」

「…………」

 

 そして、一際異質なのがその喋り方だ。

 

 服装。 異形の者達からの扱い。 博士と言う肩書き。 知的な雰囲気を匂わせるその男は、まるで知識の欠片も無いチンピラのような喋り方をするのだ。 

 

 ニグンは混乱した。

 

 何もかもが異常な空間で、何一つ異常が無いように見えるクサダの風体(ふうてい)。 正気と狂気の混じり合った歪な空気が、ニグンの心に強烈な違和感を刻み込む。

 

(いや、正も狂も沙汰(さた)(ほか)だ)

 

 自分の実力を凌駕した、逆立ちしても勝てぬ存在が数え切れぬほどひしめく地獄の底で、今更何を考えようと全てが遅すぎる。

 

(クソッ、なんだこのザマは!)

 

 ニグンは人知れず(ほぞ)を噛む。 祖国へ怪物の出現を知らせるどころか、魔法で機密情報を吐かされかねないと言う失態に。

 

(機密が漏れる事だけは何としても防がなくては)

 

 支配の魔法を掛けられた状態で3回質問に答えると、新しく開発された信仰系の魔法  最早呪いの類いだが  の効果が発動し、機密保持が行われるが……それでも3つは漏れてしまう。 3つ……少ないようで、されとて決して無視できぬ数字だ。

 

「なあオイ。 なんか言ったらどーなんだ。 ああ?」

 

 悔しさに打ちひしがれていたニグンが視線を上げると、だらしない姿勢で椅子に座ったクサダが、ジロリとこちらを睨み付けている。 利発そうな外見からは想像もつかない所作に、どこかの国の錬金術師にチンピラの精神が乗り移ったのではなのいかと、あり得ない想像をしてしまう。

 

 路上のチンピラに絡まれている気分になったニグンは、皮肉を込めて吐き捨てるように言った。

 

「俺が特殊部隊の隊長だと知っているのなら、立場上何も言えなくなっている事ぐらいわかるだろう」

「……ああ?」

 

 不遜な態度に腹を立てたのか、目の前の男は片眉を吊り上げ不快感を露わにする。 ニグンも負けじと睨み返し、室内の空気は張り詰めていく。

 

 数分か、それとも数秒か。 威嚇するように見開かれていたクサダの眼が、スッ  と細く狭まり、纏わり付いていた空気が激変する。 凍てつくものへと。

 

「お前、何も言えなく()()()()()と言ったな。 ……何故、そんな回りくどい言い方をしたのか…な?」

「ッ  !」

 

 ニグンの心臓がドクン  と、大きく跳ねた。

 

 罠だった。 この状況も、チンピラのような男の行動も、挑発的な口調も何もかも。 あえて粗暴者を装って油断を誘い、ニグンの口が滑るのを舌舐めずりして待っていたのだ。

 

(こいつ…人間だと思っていたが……違う! こんな場所にいる人間がまともなワケが無かったッ! 悪魔だ! この男の精神は悪魔そのものだ!)

 

 致命的に歪んでいた。 クサダと名乗った男の内面は、精神は、心は、2度と元に戻らない程までに異形であった。 獣の思考を読み、罠を幾つも仕掛け、獲物が罠に掛かるのを虎視眈々と狙う悪意そのものだ。

 

 最初からもっと警戒するべきであった。 異形の怪物達からの扱いや、博士と言う肩書きなど、ヒントになる情報は幾つか転がっていた。 全ては演技……ニグンの油断を誘う、三文芝居だったのだ。

 

「さて……これで記念すべき1発目の尋問内容が決まったな」

 

 邪悪な笑みを浮かべたクサダの背後に。

 

「ひっ……や、やめろ……」

 

 カラスのクチバシを模した黒いペストマスクを身に付け、純白の衣装を身に着けた道化師。

 

「これわこれわ。 至高の御方の為に働く機会を作って頂き、ありがとうございます」

 

 プルチネッラが姿を現した。

 

「おう。 コイツを自白させたい……精神支配、使えるな?」

 

 プルチネッラは、クサダとニグンヘ大袈裟にお辞儀をすると、抱きすくめるように両手を広げ。

 

「もちろんでございます。 ニグンさん、怖がる事わありませんよ。 気を楽にして。 さあ、偉大なる御方に役立てる事を共に喜びましょう」

 

 精神支配のスキルを発動させた。 思考が霞み掛かる様にホワイトアウトして行くニグンは、歯を食いしばり、額に血管を浮き立たせ支配の魔力に抵抗する。 しかし、やがて事切れるように静かになる。

 

「……大丈夫です。 支配の力わ、完全に効果を発揮しています」

「素晴らしい手際だぜプルチネッラ。 創造主の方達も鼻が高いだろうな」

「お褒めの言葉、有り難う御座います」

 

 クサダは「さて……」と呟くと、改めて向き直る。 眼から光が消え、虚ろな表情になったニグンヘと。

 

 クサダは悪巧みするのが楽しいと、悪戯を考える子供のように白い犬歯を覗かせニヤリと笑うと、1つ目の質問を口にした。 何故『言えなくなっている』のか、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 突然、椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がったクサダは、怒り任せに両手を机に叩き付けるとニグンの髪を掴み上げた。

 

「はぁ~~? 無理矢理3回喋らされると爆発して死ぬ魔法だと!? んな都合のいい魔法があってたまるかこのモヒカン野郎!」

「イィィ痛だだだ! う、嘘じゃ無い、本当だ!」

 

 激痛に涙を浮かべ、抜ける抜けると叫びながらクサダの腕に追従して頭を揺らす。 何度も揺すられてから突然手を離されたニグンは、頭皮を庇いながら崩れ落ちるように椅子へ座る。 

 

 クサダは心底不快だと言いたげに盛大に舌打ちを打つと、乱暴に椅子へ腰を下ろした。

 

(くっそ~っ……そんな呪いじみた魔法があんのかよ。 コイツ等が使っていた魔法がユグドラシルにある魔法ばかりだったって聞いてたから、異世界の魔法やスキルはユグドラシルに順ずると思ってたぜ)

 

 クサダは大きく溜息を1つ吐く。

 

 3回あるチャンスは、先程の1回で潰れた。 故に、ニグンから得られる情報は残りあと2回……とはならない。

 

(しかも()()()()()()、じゃなく()()()()()()()()と発動するんだから性質(たち)が悪いぜ……)

 

 この情報流出を防ぐ呪いは、ニグンの認識が正しければ拷問などでも発動するのだと言う。 つまり、何処かで偶然、もう1回のチャンスを消費している可能性があるのだ。 今現在ニグンが生存している事を考えると、少なくともあと1回は情報を吐かす事ができる。 しかし、それは同時に次の質問でニグンが死亡するリスクも持っている。

 

 捕えられたニグンの部下は40……いや、1人が頭部が弾け飛んだ死体だったから39人。 だが、ニグンを合わせ合計120の質問が出来る……とは行かない。 何故なら  

 

(厄介だな……精神支配と言えど、間違った認識で喋られたら意味が無ぇ。 得た情報が正しいかどうか、他のヤツから聞いて擦り合わせをしてもチャンスを消費しちまうんだからな)

 

 質問しても期待した答えが返って来るとは限らず、裏を取るにも数が足らない。 蘇生の魔法を使ったとしても、蘇生するかどうかを選ぶのは魔法を受けた本人であり、結果は火を見るより明らかだ。 確実にニグンは拒絶するだろう。 これは蘇生を悪用してリスキル  リスポーンキルの略  を繰り返すハラスメント行為を防ぐ為にあるシステムだ。

 

(うーん……『テメーが持っている一番ヤバイ情報を吐け』つっても、それが本当かどうか調べられねえよな。 どうせ部下は何も知らされてない駒でしかねーハズだし)

 

 裏が取れていない情報を鵜呑みにするのは非常に危険だ。 嘘とは、真実の中に紛れ込ませるように混ぜる事で最大の効力を発揮する。 嘘の情報に踊らされた敵を罠にかけるなど、()()()のだ。

 

「チッ……しょうがねぇ。 無理矢理じゃなく、自発的に喋れば爆死しねーんだろ?」

「う……あ…な、何?」

 

 精神支配の効果時間が過ぎたのか、薬物中毒者のような顔をしていたニグンの眼に光が戻る。

 

「こっちが持っている情報を教えてやる。 『等価交換』だ。 テメーが機密情報を言えねーように、俺もヤバイ情報は伏せるがな」

「とっ…等価交換……だと? お、俺の知っている情報を、お前らに売れと言うのか」

「ああ、そうだぜ。 テメーは死なずに済む。 俺達は情報が手に入る。 テメーの国は金をタップリつぎ込んだ特殊部隊が戻ってくる。 3方丸く収まるって寸法だぜ」

 

 口を開けたり閉じたりして言い淀む、ニグンの額には冷や汗が大量に浮き出ていた。 泳ぐ目、大量の発汗、浅く早い呼吸。 クサダは見抜く…ニグンは今、過大な重圧(ストレス)を感じていると。

 

「うっ…ぐ……。 し、しかし俺は体制側の人間……公務員だ。 幾ら大した事の無い情報でも、おいそれと漏らすワケには…ッ」

 

 目端に涙を浮かべたニグンは、下唇を噛み締めながら絞り出すように言った。

 

 ニグンの弱々しい返答を好機と見たクサダは、僅かに力を込めただけで折れると判断した。 故に、ここで手の平を返し、突き放しに掛かる。

 

「あーそう。 そんじゃあテメーの部下に吐かせた情報で、今からテメーの上司を呼びつけっから」

「な、そっそれは」

 

 クサダの態度が急変し、焦るニグン。

 

 交渉決裂、奴は情報源になり得ない…と、判断されれてしまえば、彼はあのタコのような見た目をした拷問官に(もてあそ)ばれる運命が待っているだろう。 自爆の呪いの存在がバレた今、彼を待つ未来は、只々痛めつけられるだけの処刑でしか無い。

 

「土下座して『大変ご迷惑をお掛けしました』つって謝る上司の背中眺めてよぉ。 身内から余計な事をしてくれたなって目で見られてよぉ。 一般人から『アレが通りすがりに負けた特殊部隊の隊長よ』って後ろ指さされながら歩いて帰れや」

 

 薄汚れた捨て犬を見るような冷たい目で、クサダはそう言った。

 

 ニグンは考える。 まずい、このままではまずい…と。 何とかしてこの最悪の状況から抜け出さなくては…と。

 

(嫌だ! あ、あああ、あの怪物の玩具として弄ばれるのは、それだけ……は   何だ?)

 

 唐突に耳に聞こえて来る異音。 カタカタと、何かが小刻みに震え打ち付けられる音だった。

 

 ふと、辺りを見回し……謎が解ける。

 

 震えていた。

 

 怯え、恐怖し、青ざめていた。

 

 悪魔が。

 

 ありとあらゆる悪を凝縮させた異形の怪物供が、雷鳴に怯える子犬のように震えていた。 クサダの発した、嫌がらせとしか思えない仕打ちの案に、この化け物達は恐怖したのだ。 自分が同じ状況に陥り、自分の失態から支配者であるアインズに()()()()()()()しまったら、と。

 

 化物共にここまで崇拝されているアインズ・ウール・ゴウンとは、一体何物なんだ。 ニグンは、そんな疑問と共に自身の心が落ち着いていくのを感じていた。 周りの人物が自分以上にパニックを起こすと、逆に冷静になる現象だ。

 

 ニグンは思い込んでいた。 交渉と見せかけた一方的な口撃。 この男、ドクトル・クサダの狙いは、重要情報を持つニグンの希望を奪い去り、プライドを打ち砕き、尊厳を踏み躙り屈服させるのだと。 そして、実際その通り  

 

 

 

(いや……違う! こいつは誘っているのだ!)

 

  では無い!

 

 

 

 

 

(ドクトル・クサダ! 奴の狙いは  孤立したスレイン法国との戦争だ!)

 

 

 冷静さを取り戻したニグンは、ふと立ち止まり……現在の状況を整理して思考する。

 

(俺を取引材料にされたく無い祖国の神官長達が、新たな特殊部隊を此処へ侵入させ、奪還作戦や口封じを考えるだろう。 アインズ・ウール・ゴウンが持っている戦力を隠していた場合、賭けに出た長達が強行手段を取る可能性を排除出来ない……)

 

 祖国、スレイン法国が武力行使に出た場合どうなるか。

 

 虎の子である秘密特殊部隊・漆黒聖典の投入  不可能。 1度しか使えない至宝を(もち)いてまで召喚した威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の1撃を平然と耐え、あまつさえ1発の魔法で消滅……そう、正しく『消滅』させたアインズ・ウール・ゴウンの力は凄まじい。 絶対に勝ち目は無い。

 

(神人……いや、駄目だ。 祖国最大の切り札はあの場所から動かせない。 あのクソったれの竜族に見つかったら、アインズ・ウール・ゴウンが無傷の状態で法国が滅ぶか弱体化してしまう。 そうなっては、この化け物供の思う壺だ。 クソ、個でも群でも勝てる者がいない……ッ!)

 

 ならば。 国力を総動員しての戦争  不可能。 アインズ・ウール・ゴウンの護衛の黒い鎧を着た騎士……今だから解るが、恐らく此処にはあんな怪物が大量に居るのだ。 全面戦争に入れば、これ幸いと「こちらは被害者。 宣戦布告されたのは我々である」と吹聴するだろう。

 

 人間至上主義を掲げる法国は周囲の国々  主に亜人国家やエルフなど  と外交上・軍事上共に問題を抱ええいるし、(あまつさ)えエルフの国とは戦時中ですらある。 そんな状態で援軍や支援を求めても一笑に付されるどころか、好機と見た敵対国・敵対種族から逆に攻められかねない。 絶対に弱みを見せられ無いのだ。

 

 戦争・外交とは1対1ではないのだ。 政務者は第三国の存在も加味せねば、その国は容易に亡国と化すだろう。 主義故にとは言え、全方位敵対外交を取る法国であれば尚更に。

 

(マズイ……マズイぞこれは……。 上からの指示とは言え、リ・エスティーゼ王国の村々を襲ったのはバハルス帝国の騎士に偽装させた工作員だ。 ガゼフ・ストロノーフを生かして帰してしまった今、祖国が工作員を送った事は知られている……。 ああクソ、これでは帝国・王国両方に恨まれてしまうではないか!)

 

 人間が人口の大半を  帝国はエルフも  占め、なおかつ国力もそこそこある国は、帝国と王国の2つのみ。 現在の状況でこの2国に支援を求めても、良い顔をしないに決まっている。 しかも、相手が耳障りのいい大義名分を主張する強大な組織であれば尚の事。

 

(だ…めだ……打つ手なし…………だ。 なにもかも、すでに詰んでいる……)

 

 ニグンは絶望した。

 

 底なし沼に()まり込んでしまった気分だった。 もがけばもがくほど、ズブズブと音を立てて汚泥が体を包み込み、口を覆い、鼻を塞ぎ、眼を閉じさせていく。 まさにそんな気分であった。

 

 ガックリと力無くうな垂れると、両手の平を見せて降伏の意思表示をする。 手首にまわされた手錠が、チャラリと金属音を響かせた。

 

「わかった……()()()()だ。 そちらの案を全面的に飲もう」

 

 不機嫌そうな表情をしていたクサダは、ニグンが全面降伏の意思を見せると急に真顔になり「…………ふーん。 ま、それならそれでいいけどな」と、つまらなそうにそう言った。

 

 突然、金属製の簡素な机に陶器製の器が、ドンと音を立てて乱暴に置かれた。 白地に青い縦縞模様の入った底の深い食器で、同じく陶器製の蓋が被されており中身は(うかが)い知れない。 だが、食欲をそそる良い香りが(わず)かに漏れ出ており、何らかの料理ではないかとニグンは予想した。

 

「とりあえずコレがテメーの昼飯だ。 報酬の前払いってヤツだな」

 

 ダルそうに立ち上がったクサダは「今さら爆死してもらっちゃー困るからな」と、ピラピラと手を振りながら肩越しにそう言うと、扉を開けて出て行く。 同時に、クサダの背後で護衛のように立っていた悪魔も、室内の片隅で黙々と会話を記録していた悪魔もノートを閉じると退室していく。

 

 一人、取調室に残される形になったニグン。

 

「なんなのだ、一体……」

 

 誰も居なくなった部屋で、ひとりごちる。 今、ニグンの胸中を渦巻くのは、強烈な敗北感だった。

 

「昼飯、と言っていたな……あの男は。 そうか……今は昼なのか……」

 

 窓が一切無く、人工の光しか届かない環境に長時間晒され、時間の感覚はすでに無い。 魂まで吐き出しそうな深い溜息を1つ吐くと、おもむろに目の前に置かれた器の蓋を開け  

 

「こ、これは!」

 

 ニグンは驚愕に眼を見開いた。

 

 蓋を持ち上げた瞬間、フワリと暖かな湯気が立ち上り、良い香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。 高価な、大量の油で揚げられた分厚いカツレツが黄金色に輝く卵でとじられており、まるで金貨の海原を漂う1艘の船のようだった。 久々の暖かい食事に、胃は空腹を訴え泣き叫び、唾液は洪水のように溢れ出る。

 

 ゴクリと無意識に喉を動かしたニグンは、匙を手に取りそのまま肉へと差し込んだ。

 

(柔らかい!)

 

 殆ど力を入れていないのに、プツリと抵抗無くカツレツは断ち切られる。 震える手をそっと持ち上げると、黄金色の卵の下には真珠のように白く輝く粒が敷き詰められていた。 見た事のない未知の食材に若干気後れするも、強力な食欲に背を押され1口頬張る。

 

  ッ!」

 

 言葉にならなかった。 美味いの一言では表せない。 かなりの空腹である事も関係しているであろうが、それでも記憶にある何よりも美味であった。

 

 ニグンは無心で頬張る。 2口、3口と、かきこむ様に嚥下し……頬を暖かいものが流れる。

 

(くそっ! くそぉっ!! 何の涙だこれは!)

 

 ニグンの眼からは、何時の間にか涙が流れ落ちていた。 何の変哲も無い、バフ効果も回復効果も無いただの料理に、だ。 アインズに見せ付けられた力量差か、クサダに思い知らされた敗北感か、祖国の情報を売って得た安心感か。 どれが理由なのか本人にもわからなかった。 ただ、無性に、泣けてきたのだ。

 

 

 

 ……器が空になるまで、大して時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 情報収集の途中経過をアインズに報告するため、クサダは第9階層ロイヤルスイートを歩く。

 

「思ったより()()。 ニグンと言ったか……途中で俺の狙いに気付きやがった。 かろうじて、だがな」

「狙い、ですか? 私にわ、あの人間の男が博士の智謀に膝を屈しただけに見えましたが」

「いんや、あんなもん大した事無いさ。 セオリー通りに進めただけなんだからよ」

 

 歩み寄ってから突き放し、主導権を握り有利に交渉を進める。 なんて事は無い、ただの交渉人(ネゴシエイター)の技術だ。

 

「練習すりゃー誰にでも使える、ただの技術さ。 ……どうだ? 仕掛さえわかっちまえば、つまらねえだろ?」

「いえ。 私わ素晴らしい技術だと思います、博士」

「まっじっめだねぇ〜〜」

 

 そう言ってクサダが苦笑いを浮かべると同時、執務室に詰めていた一般メイドの1人が、両開きの扉を開けてくれる。

 

 手動自動ドア……いや、自動手動ドアか。 と、どうでもいい事を考えながら、クサダは執務室に備えられた長椅子に座る。 対面にはアインズが  そして何故かアルベドも  座り、その後ろに困った表情を浮かべたデミウルゴスが、控えるように立つ。

 

「あ゛  ……ニグンの尋問結果なんだけどよぉ〜〜」

 

 どう言ったものかと言い淀むクサダ。

 

「なんつーか……わからねぇ事がわかったっつーか、その、なんだ。 ……3回口を割らせようとすると自爆する、謎の魔法食らってるらしい」

「……はぁ?」

「いやマジで。 精神支配ブッ込んでゲロさせた情報だから嘘じゃねー。 ヤツら……殺られた(slain)法国とかフザケた名前の組織は、新しい魔法を()()出来るんだとさ」

 

 人間種の最大の国スレイン法国は、個人名や何らかの固有名詞ではなく、物騒な英単語を国の名に冠する国だ。 名前からしてユグドラシルプレイヤーか、少なくともリアルの世界に繋がりがある『何か』が、その国には存在すると容易に想像出来ると、クサダ面倒そうに漏らす。

 

「それは……厄介だな」

(あっぶね  ! 自分でやってたら自爆される所だった!)

 

 未知の国に、未知の魔法があり、未知の脅威が居る。 スレイン法国が、この世界の覇権国家になり得て無いことから、軍事力等は他の国とあまり変わらないのだろう。 しかし、プレイヤーの影がチラつく国が脅威足り得ないともならない。

 

(なるほど……やっぱりドクトルに任せて正解だった。 ゲームが現実になったみたいな状況だったけど、やっぱりゲームの時とは色々違うのか)

「やはりスレイン法国は一筋縄ではいかないか」

「だねぇ。 おっと、言い忘れる所だった。 聴取の記録をトーチャーにしてもらってたんだよ」

 

 アインズはトーチャーから一冊のノートを受け取り。

 

(こんなの渡されても弁護士とかじゃ無いんだから分かるわけ無いんだけど……とりあえず頷いておくか)

「フム……なるほど……」

 

 パラパラと流し読みした後、デミウルゴスに渡し。

 

「御苦労だったな」

「いえ、ナザリックのシモベとして当然の事をしたまでです」

 

 アインズが労いの言葉をかけると、デミウルゴスとその部下であるプルチネッラ達が喜色満面の笑みで頭を下げた。

 

「それにしても……人間のくせに味な真似をするわね。 一息に踏み潰せたらどんなに気が晴れるか」

(……え?)

「それは難しいと思いますよ。 まあ、個人的にはアルベドに同意しますが」

(……は?)

「そうだねぇ。 今んトコわかってる中じゃあ、法国が一番邪魔かな」

(……ちょ)

 

 やがて、何やら話の流れが怪しい方向へと向かい始め、アインズは嫌な予感に背筋を凍らせる。 そして、その予感はすぐに的中する事になった。

 

 くつくつと肩を揺らしながら、攻撃的な笑みを浮かべたクサダは「だからよぉ〜〜」と続ける。

 

「ニグン餌にしてこっちのホームグラウンド に誘い出してよぉ〜〜皮を1枚1枚剥ぐように少しずつ国力を削いでいって潰してやろうと思ったんだがよぉ〜〜」

 

 勘付かれて降伏されちった。 てへ! と戯けてみせるクサダ。

 

「惜しいですね。 もう少しで()()()()()かもしれませんでしたのに」

「だな〜〜 シャルティアやコキュートス達の見せ場が作れるかと思ったんだがよぉ〜〜……ま、獲らタヌだ獲らタヌ。 欲張りすぎは良くないぜ」

「でも情報収集の目的は果たせそうじゃない。 これなら、機密情報以外なら吐かせられそうね」

 

 聴取の記録を見ていたアルベドが、微笑みながら言った。

 

「まあな。 ……大幅ショートカットは出来なくなっちまったが  」腕を組んだクサダは頭を(かし)げる「スレイン法国にプレッシャーも掛けれるし、これはこれでアリなんじゃねぇかな」

「しかし、命を取らない約束をしてしまって良かったのですか?」

「ッハ、んなもんタダの口約束なんだから『殺さないと言ったな、アレは嘘だ』の一言でオシメーだよ」

「ああ、それもそうですね」

 

 ハッハッハ。 と、(なご)やかに談笑を楽しむ3人だった……が、しかし。

 

(ええ  !? な、何笑ってるんだ3人とも!)

 

 アインズ1人だけ、カルマ値-500の会話にドン引きしていた。

 

(の、農業で外貨を稼ぐんじゃあ無かったのか!? いつの間に国盗りする事になってるんだ!? キャー怖い! ドクトル怖いアルベドとデミウルゴスも頭良すぎて怖いけどドクトルも別ベクトルで怖いぃぃ!)

 

 アインズの想定をはるかに超えたクサダの行動。 例えるならば、鈴木悟の勤める会社の後輩が彼を過剰評価し、ただでさえ胃が痛いのに「先輩ならこれくらい余裕っすよね」と、キャパシティを超える契約を取り付けてきたようなものだ。 しかも、そのやり方が結構エグイと来た。

 

 マジグッジョブ! と、アインズがこの場にいないニグンへ心の中で親指を立てていると。

 

「フフフ…… デミウルゴス、重要なのはそこじゃないわよ?」

 

 悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべたアルベドが、なにか気付かないかしら? と指を振る。

 

「ほう……アルベドは気付いたようですね。 さて、この情報ですと……」

 

 考え込むデミウルゴスに、クサダはパチンと指を鳴らし、謎解きを楽しむかのようにヒントを口にした。

 

「……ヒントは『手札』だぜ、デミウルゴス」

 

 少なすぎるヒントを得たデミウルゴスは、顎先を摘まんで考え込む。 そんなんでわかるか! と心の中で絶叫するアインズの背後で「…………! 成程、そう言う事ですか。 流石はアインズ様……」と、常に微笑を絶やさないデミウルゴスの表情が驚愕に染まり、一瞬だが金剛石の瞳が顔を覗かせた。

 

「全ては御身の(たなごころ)の上。 アインズ様の深謀遠慮(しんぼうえんりょ)、感服致しました。 少しでもアインズ様に近付けるよう精進いたします」

 

 デミウルゴスはアインズの前に来て跪き、悪魔達も慌てて続く。 そうする事がもっとも正しく、あたり前であるかのような滑らかな動作であった。 アインズの背筋に、存在しないハズの汗が滴る。

 

「へっへっへ…… そう、今回重要なのは『俺は手札を一切用意して無い』ことだぜ。 俺はスデにあった手札を順番に切っただけっつー事さ……!」

 

 と、未だに理解の色が見えていなかった悪魔達に、クサダは人差し指を立てて補足した。 眼を一層輝かせ、口々にアインズの智謀を褒め称えるシモベ達にかける言葉を、アインズは1つしか知らない。 そう。

 

「さ……すがはアルベド。 我が狙いを見抜くとは」

 

 である。

 

 








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