オーバーロードは稼ぎたい   作:うにコーン
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あらすじ


アインズ「食え」
こくおう「はい」
アインズ「買え」
こくおう「はい」
アインズ「カネ」
こくおう「はい」




現在のナザリック生産物

・そこそこの量の硫黄
・そこそこの量の高シリカ火山灰
・やや少ない量の鉄スクラップ
・まぁまぁの量のスケルトンの骨
・数十個単位の瓜科果物
・数百個単位の柑橘果物
・数千個単位のオリーブの実
・やや少ない量の過燐酸石灰
・バケツ数杯の硫酸
・MPが続く限りの塩酸
・プロトタイプの農業機械
・計測不能の量の石灰岩
・かなり多い量の生石灰
・かなり多い量の消石灰
・かなり多い量の石灰水
・そこそこの量のセメント


クアイエッセと稼ぎたい

 しかと握り締められた異形の拳が、天を衝くように掲げられていた。 鋭く尖った、白い骨の指は丸められ、今はボールの様に固く握り込まれている。

 

「やったー! やったぞ、よくやった俺!」

 

 朗らかな声と、ピョンピョン飛び跳ねて喜びを表現しているのは、ナザリック地下大墳墓の最高支配者にして骸の王。 アインズ・ウール・ゴウンその人である。

 

 商談を終え、自室の寝室に戻って来たアインズは、その場で噛みしめる様に(成功だよな? 守護者達が作った商品、ちゃんと売れたんだよな?)と自問自答し、YESであると到達した瞬間……

 

「イヤッホー!」

 

 プレゼン成功の達成感と開放感が、アインズの心を爆発させたのだ。 両拳を天に掲げ、思わず声を上げてしまうくらいに。

 

(おっと、守護者や一般メイド達に聞かれたらマズイか)

 

 ひとしきり達成感に酔いしれた後、ふと冷静になったアインズは掲げていた拳を元の位置に戻す。 鈴木悟の残滓は、もう少しの間ハッチャケていたいと訴えているがグッと我慢だ。

 

 確かに、先の商談は鈴木悟の精神をゴリゴリとすり減らすプレッシャーがあった。 それもそのはずで、国王や貴族とは会社で例える所の社長だ。 領地と言う名の会社を経営し、領民と言う名の社員を纏め上げる経営者なのだ。 ……まあ、現実と同じように無能有能の差がある所もソックリなのだが。

 

 総社員数900万人のリ・エスティーゼ社CEO(最高経営責任者)のランポッサと、6人の子会社の社長。 そして中小と、大きさの違いこそあれど組織のトップが雁首揃えて集まった所に、元営業マンでしかない鈴木悟(現アインズ・ウール・ゴウン合資会社CEO)が単身でカチ込み入れたのだ。 異形種の身体と変質した精神を持ち合わせて無かったら、ものの数分で胃に穴が空いただろう。

 

(フフフ。 さっそくアインズ・ウール・ゴウン合資会社の主要取引先欄に記載できるな……)

 

 自分のベッドにダイブしたアインズは、寝具の柔らかさを背に感じながら仰向けに寝転がる。 もし骨の身体でなかったなら、口元はだらしなく緩んでいただろう。 取引先第1号が、大阪府くらいの人口を抱える国である事を鑑みれば、浮かれるのも無理は無い。

 

 考え無しに油だの果物だのを作りまくるクサダの行動から、地方の交易商人や旅商人辺りに目立たない様に広く薄く買って貰うのかと考えていた。 だが、クサダの作戦は国王に仲介業社の真似をさせるという、アインズの想像の斜め上だった。

 

 改めて考えてみれば、効率厨のクサダがそんな手間の掛かる方法を取るハズが無かったな…と、アインズは呆れる。 王に直接プレゼンをしたのはアインズなので、デミウルゴス辺りが深読みしそうだと、そこはかとなく不安な気持ちもあるが……

 

(いや待てよ? 私はドクトルのシナリオに沿って動いただけだ  って言えば、矛先が変わるんじゃないか?)

 

 正に天啓だった。 降りかかる火の粉を払いつつ、反撃に転じる一手だ。

 

 今度はクサダが、デミウルゴス達からのプレッシャーに胃を悪くする番だ……と思ったのだが。

 

(プレッシャーとか感じなさそうだなぁ、あいつ。 悩みとか無いんだろうな……)

 

 アインズは眉間に皺を  不可能だが  寄せる。

 

 今回、王族相手に商談を進めるにあたって、クサダは「何がどう転んでもアイツ等は買うからヘーキ」と楽観的だった。

 

 しかし、何の根拠も無いその言葉を鵜呑みに出来る程アインズの心臓に毛は生えて  両方存在しないが  いないし、ぶっつけ本番で100%上手く行くと考える程自惚れてもいない。 だから必死にプレゼンの練習をして、一夜漬けで(比喩では無い!)なんとかしたし、それでも足らない時間は玉座の間でワザとゆっくり歩いたり、オーバーな仕草をしたりして稼いだ。 牛歩戦術と言うヤツだ。

 

 確かに「あの時こう言えば良かった」とか、「アレをこうして置けば……」と、思う部分は無くはない。 事前にしっかり準備さえ出来ていれば「その様な認識で結構です」だとか「魔法的な方法で」だなんて、あやふやな答えで言葉を濁さずに済んだのだ。 結果的にそれで上手く行ったのが驚愕だが。

 

(必死で覚えた専門書も、深い質問が来なかったから全部無駄になったしな!)

 

 しかも、1番キツかった専門書丸暗記が全部無駄になったのが腹立たしい。 魔法の〜とか、錬金術で〜と言えば納得してしまうなんて、普通有り得ないだろう。 もし、リアルの時に「飲むだけで痩せる魔法の粉です」とか唄った何かの薬が売っていたら、100%詐欺だと思って絶対に買わない。 それだけ、この世界では魔法や錬金術は万能だと思われているのだろうか? と、アインズは首を傾げる。

 

(まあ、何にせよ上手くいって良かったよ……首都に居るセバスの活動資金も、これで目処が立つだろうし。 余った金貨は……シュレッダーでユグドラシル金貨に変換して、ナザリックの維持費に当てよう)

 

 ゴロリと寝返りを打ち、撫で下ろした胸に空気を取り込むように深呼吸する。

 

 すると  

 

(ん? なんだろう、この甘い匂いは。 プレゼン前は、ベッドからこんな良い匂いはしなかったのに)

 

 一般メイドがアインズの部屋を清掃する際、ベッドメイキングのついでに香水でも振りかけておいてくれたのだろう。 何の花の香りなのかは、環境汚染で自然が消滅したリアルでは学べようもない事だったので想像も出来ないが……何やら落ち着く感じだった。

 

 後は商品をシャルティアの<異界門(ゲート)>と魔獣に引かせた馬車を使って首都の貸し倉庫に運び込み、引き渡しを終えれば纏まった金額が手に入る。 しかもそれが毎月手に入るのだ。

 

(一時は金欠でどうなることやらと思ったけど……このまま何事も無ければ一安心だな。 ……そうだ!)

 

 アインズはポンと手を打ち合わせた。

 

(ひと段落ついたら、息抜きに俺も冒険者になってみよう! あぁいや、アルベドには何て言おうか……)

 

 絶対、反対されるか私も連れてけ〜と言い出すに決まっている。 息抜きのお遊びがしたいのに、アルベド達守護者を引き連れていては本末転倒だ。

 

(ドクトルに相談……いや、ダメだ。 あいつなら多分「女の子が居るお風呂屋さんをハシゴしたいんだ〜」とか言い出しかねない! くっそー、何でソッチ方向に持って行こうとするんだ……それで引き下がる守護者達もそうだけどさーあ!)

 

 アインズはNPC達から、普段から取っ替え引っ換えしてるモテモテギルド長だと思われているのだろうか? 現実はその逆だと言うのに。

 

 少し悲しくなって来たアインズは、ゴロリとうつ伏せになるとベッドに顔を埋める。 かつての仲間たちがデザインしたベッドは、陶器のように硬い骨の身体でも優しく受け止めてくれる。

 

 あ゛  と奇声を発しながら、アインズは良い匂いのするベッドの上で転げ回り……おや? と気付く。 アインズはこの匂いを知っている。 と言うよりも、ごく最近嗅いだことのある香りだ。

 

 どこで嗅いだ匂いだったか。 記憶を遡り思考する。 アンデッドの身体になってスグのような気がするが……イマイチ思い出せない。

 

 早々に記憶の発掘を切り上げ、やれやれと言わんばかりにため息を1つ。 ベッドから起き上がったアインズは魔法を発動させ、漆黒の全身鎧姿へ変わる。

 

(冒険者姿は…これで良いか。 顔も隠せるし。 武器は技術の無い俺でも扱えて、かつ筋力で振り回せる大剣で…アルベドに何て言おう……)

 

 ほぼ確実に立ち塞がるであろうラスボスの姿を幻視し、アインズは頭を抱えて知恵を絞る。 そこで、ふとクサダが言っていた事を思い出す。

 

「例えばそうだなぁ……よし、アレだ。 拷問具に鉄の処女ってあんじゃん?」

「あぁ、あの……トゲトゲしいヤツ」

 

 あの時は、何の話題で喋っていたのだったか。 

 

「実はあの拷問具、実際に使われた事は無いんだよ」

「へぇ」

 

 ハッキリと思い出せないが、確か支配者ロールが難しい的な話だった気がする。

 

「回転式の扉になってんのに、あんな直線の長い釘が上手く刺さるハズねーからね。 本当に使うなら前後にスライドさせるか、釘を鎌みてーに湾曲させねーと」

 

 場所はアインズの自室。 クサダは相変わらずで、この時もマグカップを傾けていた。

 

「ああ、確かにあの構造では無理があるな。 なるほど、恐怖心を煽る為のオブジェとして作ったワケか……尋問をスムーズに行う為に」

「しかも名前からしてそうだから」

「名前?」

「だってホラ、使われてねーって事は、血を流した事がない。 つまり処女っつーね?」

「……何か急に話の流れが下衆な方向に行ったな」

「まぁ今の話は全部、即興で作った嘘なんだけど」

「嘘かい!」

 

 アインズは、あまりにもあんまりな嘘に仰け反った。

 

「何で急にそんなしょうもない嘘吐いた!?」

「へっへっへ。 いやなに、ちょっと嘘の吐き方を教えとこーと思ってね」

「はぁ?」

「思わず信じちまうくれーには信憑性あったろ?」

「まぁ、そうだけれども」

「嘘を信じさせんには、並び立てた真実の中に致命的な嘘を1つだけ混ぜるのさ。 行き着くゴールは1つだけでも、過程の道筋はいくつもあっからね」

 

 クサダは肩を竦ると、苦笑いを浮かべて「嘘も方便さ」と、そう答えたのだった。

 

 

 

(嘘も方便、か。 はは、嘘だらけじゃないか俺は)

 

 守護者達に、本当は大した奴じゃ無いと言えたら、どれだけ楽になるかと思う。

 

 だが、真実は劇薬だ。 正しい事が最善だとは限らない。 だから、今はまだ言えない。

 

 そう、今はまだ、だ。 もしかしたら、時間が解決してくれるかもしれない。 今は打ち明けられずとも、いつかきっと本当の事を話せる機会は来るハズなのだ。

 

(うん。 今、やるべき事をやる。 それだけだ)

 

 

 

 それがたとえ、ただの先延ばしだったとしても……

 

 

 

 ◆

 

 

 

 コツ、コツ、コツ……と、薄暗い地下空間に硬い靴底で石畳を打つ音が響く。 何度も反響した音は、ぐわんぐわんと震え、間延びした印象を覚えさせた。

 

「それは?」

 

 人の声とて例外ではない。 反響して返ってくる声のせいで、声を発した人物の年齢を特定するのは難しい。 ただ、なんとなく若そうだ……としか感じ取れないだろう。

 

 風の流れが滞りがちの地下において、空気を汚す松明やランタンを照明にするのは難しい。 よって、この通路にも多分に漏れず魔法の灯りが使われている。 松明や蝋燭のように揺れない安定した魔法の光は、頑丈そうな鉄格子越しに光を届ける。 鍵のかかった、狭い密室の中へと。

 

「紙ヒコーキ、だ」

 

 薄暗がりに身を潜めるように座り込んだ人影。 頬に傷を持つ男は、鉄格子越しに短く答えた。 その手に持った、ノートの切れ端で作られた白い紙飛行機に視線を落としたままに。

 

「ふうん? ヒコーキ?」

 

 初めて聞く単語だね。 と、人懐っこい笑みを貼り付けた彼は首を傾げる。

 

「神…ぷれいやー様のおわす世界の『りある』では、ヒコーキを用いて音の3倍の速度で空を飛び…星々を巡る船で月に降り立つのだそうだ」

「へぇ……月ってあの、空に浮かぶ月にかい?」

 

 天井越しに空を見上げた男は、不思議そうに声を漏らす。 そして、彼が視線を上げると同時。 金の前髪がハラリと避け、紅い瞳が姿を見せた。

 

 それはアルビノの瞳。 生まれつき色素を作る事が出来ず、血液の色がそのまま虹彩に現れた、血潮の瞳。

 

「……随分と豪華な出迎えだな。 任務を失敗させ、至宝のマジックアイテムまで失ったこの俺に……漆黒聖典第五席次の貴様が遣わされるとは」

「我が国スレイン法国には、1度や2度失敗した程度で、優秀な人員をクビにする余裕など無いんですよ」

 

 アルビノ症の様に赤い瞳を持つ彼は、スッと目を細めてにこやかに笑みを浮かべ  

 

「………ふん」

 

 返答としてニグンは鼻を鳴らす。

 

 上層部の判断は慈悲ではない。 自らの失態は今後の働きで帳消しにしろ、と言っているのだ。

 

(多勢を相手取る事を得意とする彼とは言え……1人? アインズ・ウール・ゴウンの情報は既に伝わっているはずだが……奴等を刺激しないようにか、それとも単純に手が足りないだけか。 前者であればいいが……)

 

 何処までも合理的で、冷徹で、それゆえ危うい祖国をニグンは憂いた。

 

「それに、いくら殲滅を得意とする貴方(あなた)でも、ぷれいやー様が相手ではいささか分が悪過ぎる」

「嬉しくて涙が出そうだ。 『一人師団』の君にそう言ってもらえるのはな……」

「本当に驚きましたよ…突然貴方から〈伝言(メッセージ)〉の連絡が届いたのは」

「やれ、と言われれば拒否など出来無いだろう。 俺はその時、身柄を拘束されていたのだ」

 

 とは言うものの、まだアインズ・ウール・ゴウンなるアンデッドが『ぷれいやー』だとは判断出来ていない。 神の名を騙る愚者なのか、はたまた本当に神なのか……

 

 だが、本当に神にも等しい『ぷれいやー』である可能性があるのなら、彼らと敵対しながらも生きて返されたニグンの処遇を簡単に決められるハズも無い。 下手に処分などしようものならば、彼から怒りを買う恐れもあるのだ。

 

 もし、絶滅の危機に瀕している人間を救って頂けるのなら、例えアンデッドだろうとニグンは構わなかった。 ただ、逆に怒りを買って滅びを早める結果にはしたくない。 時間さえ掛ければ、何か逆転の秘策が見つかるかもしれないのだ。

 

「ハッキリ言いましょう。 『上層部』は、彼らの要求を飲む判断を下しました」

「賢明だな」

 

 ニグンは突き放すように言うと同時、内心ホッとする。 だが、まるで他人事のようなその態度に、金髪の男の表情にヒビが入る。

 

「……実の所、巫女姫の力を使い、そちらの様子を定期的に観察していました」

「知っている」

「至宝のマジックアイテムの使用が確認されたので、異常事態だと判断した上層部は急遽、遠視の魔法で貴方の様子を確認しようとしました」

 

 ここで、初めて彼は渋面を作り「ですが……」と続けた。

 

「突如空間が爆発し、火の神殿は崩壊。 犠牲者多数……火の巫女姫も亡くなりました」

「あの時か……」

 

 ニグンの脳裏に、陶器のようにヒビ割れた空の景色が()ぎる。

 

 あの夜は、本当に、初めてだらけの夜だった。 自らが積み上げてきた常識が、音を立ててガラスのように砕け散るくらいに衝撃的だった。

 

「心当たりをご存知のようで」

「ああ。 ……確か、攻勢防壁と言っていた。 情報系魔法に対する防備だと」

「防御と反撃を同時に? ……成る程、攻撃は最大の防御、と言う事ですか。 恐らく、抑止力の意味も持たせているハズ……」

 

 ニグンは、一字一句間違えぬよう必死で記憶を呼び戻し、言った。

 

「範囲を強化した〈爆裂(エクスプロージョン)〉の魔法だと、あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)……アインズ・ウール・ゴウンは言っていた。 さらに、もっと強力な魔法を反撃に選ぶのも可能だとも」

「更に強力な? ブラフ  と切り捨てるのは危険ですね。 信じられませんが、全て事実だと想定して動くべきでしょう」

「同感だ」

 

 ニグンは重々しい声でそう言うと、深々と頷く。

 

「奴等の武力は凄まじい上に、頭も切れると来た。 今は王国に意識が行っているが、今後どうなるかはわからん」

「……今の所、何故か彼らは商人の真似事をしているようですが……何が目的なのか解りますか?」

「さあな」

 

 ニグンは草臥れたように首を左右に振った。 深い溜息を吐いてから、眼だけで彼の赤い瞳に視線を送る。

 

「見当も付かん。 だが、本当かどうかはわからんが1つ聞いたことがある。 ナザリック……これは奴等の拠点の名なのだが、そこを守るため行動している……と話していた」

「ナザリック、ですか……」

 

 巨大な腕輪を填めた腕を持ち上げ、男は顎先を摘まみ唸る。

 

「うーん、なんとも奇妙な話ですね。 ニグンさんの言う通り、彼等が凄まじい武力を持つのなら、誰だろうと簡単に手出し出来ないでしょうに」

「考えるだけ無駄に思えるが、そうもいかんのが口惜しいな。 化け物共が畑を耕し、食材を加工し商売を始めた……人間相手に。 それだけでも信じられんのに、裏に隠された真意など見抜けようも無い」

「商売  となると、貨幣を集める事が目的なのでしょうか? ……食べるんですかね?」

「金属を食べるモンスターは知っているが……もしかしたら、真の目的を隠す為の隠れ蓑にする気かもしれんぞ」

「ふうむ。 真の目的……『ナザリック』を守る為に、予め世界中の知的生物を絶滅させようとしている……とか? ですが、それだと商売と関連がありませんね」

 

 苦笑いを浮かべ、冗談っぽく言った彼の言葉に、ニグンは掌で目元を覆い天を仰ぐ。

 

「冗談みたいな話だが、本当に企んでいそうで冗談にならん」

「……まさか、ですよね?」

「奴等に『まさか』は通用しない。 特にあの魔法詠唱者(マジック・キャスター)と白衣の男にはな」

「それ程まで……」

 

 重々しく吐き出されたニグンの声には、地獄から生還した者ゆえの説得力があった。 2人を隔てる鉄格子のように、冷徹な沈黙が間に横たわり空間を支配する。

 

 すると突然、離れた所からガチャリと扉の開く音がする。 カツカツと踵で石畳を叩く音が真っ直ぐに近づいて来て、ニグンの前で止まる。

 

「お話中失礼します。 定刻となりましたので、囚人を移動させます」

 

 現れたのは看守、ではない。 王国戦士団の副隊長だ。 彼は金髪の男にキレのある敬礼をした後、手際良く牢の扉を開ける。

 

「移動? 彼の身柄を引き受けるのは僕なのですが」

「俺が頼んだのだ」

 

 牢から出たニグンは、振り返ってそう言った。 手に持っていた紙飛行機を、大事そうに懐にしまっている。

 

「まだ1つ、俺はこの国でやらねばならん事がある。 それが上手く行けば、ご褒美にビーストマンに滅ぼされ掛かっている竜王国を()()()()()()()のだそうだ」

「救わせて? 強力なマジックアイテムでも融通していただけるのでしょうか?」

「多分な。 キャロットは既に用意されている。 ……後は、俺が馬車馬のように働くだけだ」

「解放されるのはその後、と?」

「ああ。 それさえ終えれば、こんなシケた国とおさらばできる……と思えば少しは気が楽になるか」

 

 トゲのあるニグンの言葉に、むっと副長は眉と唇を歪める。

 

「私としても、貴方の顔は二度と見たくありませんね」

「俺も二度とこの国を訪れるつもりはない」

 

 フン! ハン! と、そっぽを向く2人。 遺恨とは、そう簡単に消えやしないのだ。

 

「あの…ニグンさんの居ない間、私はどこへ?」

「あ、失礼しました。 では、控え室まで御案内いたしますので、そちらで今しばらくお待ちください  

 

 副長は、金髪紅眼の男に頭を下げた。

 

 

 

「クアイエッセ・ハゼイア・クインティア様」








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