「こう、何っすかね。おいらなんか悪い事でもしたっすかね?」
おいらの名前は礼人。片親が外国人なのとやたら兄弟姉妹が多いのを除けば、ごく普通の男子中学生の筈だったんすよ。
「だというのに気が付けば見渡す限り一面の銀世界に放り出されていた上に――」
「この天候、景色、ふぅむ……光の大陸ではないようだな、我が主よ」
オレンジの服を着た青い肌の人外が腕を組んでこっちを見てるんだから思わず現実逃避したくなったって仕方ないっすよね。
「こう、全力で見覚えあるんすけど、この人」
そう、おいらの記憶が確かなら、ドラゴンクエストⅢでラスボスをやってた大魔王以外の何者でもなく。
「って、我が主?!」
「いかにも」
遅れて頭に入った単語に思わず聞き返すと肯定したのは別の人。
「え」
いや、人と言っていいのかも微妙っすね。ピンクに近い紫のマントを羽織る異形の首から上は角のような突起のようなものを一つ頭上にもち、口も鳥のくちばしのように前に突き出していたのだから。
「姿形はいささか変わった様じゃが、それでもわしらは主を見まごうことはないぞ」
「ああ。それは新参の者とて変わらん」
バラモス、その名で記憶するゾーマの配下の言葉を肯定したのは銀の長髪ととがり耳をもつ剣士。
「魔剣士ピサロ……次はⅣっすか、あれ? この組み合わせなんだか猛烈に見覚えが」
なんでナンバリング違うボス勢が集ってるんだとツッコミを入れる前に猛烈なデジャヴを覚え。
「駄目じゃ、あたりを見て回ったがアデリアナ号の姿も馬車も見つから……おお、わが主よ、気づかれたか!」
「へ? ちょ」
声に振り返ったおいらが見たのは、顔の左右にヒレのような飾りを付けた白い法衣のおっさんだったっす。肌の色はゾーマとどっこいどっこいで、思わず仰け反ってしまったものの。
「もうこの流れなら今更っすよね……って、そうじゃなくて!」
「主よみなまで言われるな」
顔を上げたおいらは最後まで言い終えることもなく後ろから抱きすくめられた、こう肉球のある複数の腕に。
「この地は寒い。わたしの毛皮でどれだけ寒さを軽減できるかはわからぬが、主が風邪を召されては一大事。パレードにも支障がでるだろう」
顔は見えないものの複数腕のある推定ネコ科の何者かはおいらの背後でそう言ったっす。
「むぅ、新参者に至極まっとうなことを先に言われるとは」
「いや、じゃがパレードしようにも主の馬車が無くてはどうしようもあるまい?」
「パレード? ……って、ああっ、モンパレ!」
そして騒がしくなりつつある周囲から一つの単語を拾ったおいらはようやく思い至る。自分を囲むボスたちに見覚えがあるその理由に。モンスターを従えパレードを作って行軍するゲームでおいらが仲間にした魔物たちであると。
「なら馬車がないって騒いでるのも納得っすね……こう、すさまじく拙い事態っすし」
馬車には同行する旅の仲間やパレードに参加しない控えメンバーが入っていただけでなく、普通に考えれば様々なものが積まれていたはずだ。
「回復を始めとした各種アイテムはゲーム内での主人公が持つ道具袋に入っていたとしても、食料や野営の為の道具は普通に考えれば馬車の中が妥当っすもんね……」
あまりにもぶっとんだ状況過ぎて一周まわって妙に冷静になったおいらは状況のまずさを再認識する。
「こう、あの兄貴なら思考がひらがなになるレベルで錯乱しそうな状況っすよねー」
だから、思わず遠い目をしてしまうぐらいは許してほしいっす。
「ま、それはそれとして……ええと、主ってことだから聞くっすけど、このどこかよくわからない場所に気付いたら居たってのはここに居る面々だけっすか?」
「いや、幸か不幸か馬車の中の者達も居た」
「じゃが、ここがどういう場所かわからぬのでな。主に無断での行動となったのは申し訳ないのじゃが」
「野良モンスターと勘違いされては拙いので人に見える外見の者を最低一人は編成に入れる形で偵察に出て貰っている」
「へぇ」
一面の銀世界、食料の確保が厳しいかもしれないとモンスターたちで話し合った結果らしいのだが、しっかりしてるというか。
「馬車が無くてパレードも不可能となるとおいらの居る意味って何っすかねぇ」
主と認めてくれているようなので、指示は出せるが戦闘力は皆無。おまけに一人で放り出されたら凍死確定の状況下だ。もちろん、贅沢だってのは解かってるっすけど。
「みんなーっ! 向こうの方に明りが見えたよ」
「なっ」
「「何っ?!」」
もやもやした気持ちは、突然の知らせを受けて一瞬で吹っ飛んだ。弾かれたように声の方を見れば金属の輝きを持つ触手の生えたくらげの様なスライムがふよふよとこちらへ向かってくるところであり。
「おお、メタルホイミンではないか。最初に報告を持ってきたのはおぬしの班か」
「えっ、そうなんだ。ええと、フレイムとか炎のモンスターの可能性もあるから念のため強い人に来てほしいって伝言なんだけど」
「ふむ、炎となれば」
「我が出番か」
顔を見合わせたモンスターたちの中、進み出たのは大魔王ゾーマ。
「妥当じゃとは思うが……もしただの町や民家のあかりならば我ら魔物だけで行くのも拙いかもしれぬな。主よ」
ただ、これを見て一つ唸ったバラモスはおいらに視線をやり。
「あー、一理あるっすね」
歴代ボスの面々に囲まれた少し前の自分を思い出し、いやがおうにも納得させられて同行を承諾する。
「で、その結果がこれっすか……」
結論から言うなら、メタルホイミン達の見た炎はフレイムと言う意思を持つ炎の魔物だった。過去形なのは人間を襲っているところに出くわし、うちのモンスターが一瞬で蹴散らしたからなのだが。
「ひいいっ、命ばかりはお、お助けをっ」
圧倒的な戦力差があったからか、見たところ武器を持ってるし兵士っぽい格好をしているにも関わらず助けた人は完全におびえた目でこちらを見ていた。
「一応助けたはずなんすけどねぇ……。ちょっとみんな下がってもらっていいっすか? おいらなら会話が成立するかもしれないっすし」
そもそもおいらはそういう理由で同行したはずなのだ。
「あ、主。ですが、武器を持ったままの者のま」
「えっ、あ、ご、ごめんなさいいいいっ」
一瞬ゾーマが渋ったが、兵士の方でもその発言で武器を持ったままだったことに気付いて槍を放り出し。
「これで問題ないっすね。さて、ちょっと話を聞きたいんっすけど――」
おいらはまず、ここがどこかと質問した。ドラゴンクエストと呼ばれるゲームの魔物が存在する世界なのだ、地名なり国の名前がわかればきっと手掛かりになる。たとえ自分の居る場所がわからないとか残念そうな目で見られるような発言だとしても聞く価値はあると信じて。
「オーザム?」
だというのに、得られたおは聞き覚えのない国の名。
「北方の国ねぇ……まぁこうも雪だらけで寒いから北にあるのは納得っすけど。しかも、今この国はさっきみたいな奴に襲われていると」
「主、いかがするのじゃ?」
「いかがも何もわかってるっすよね?」
人間が襲われているのに放置する気なんてないっす。と言うか、今宵寝る場所すら無い状況なのだ。
「助けて恩を売るのじゃな」
「人聞き悪いっすよ。間違ってもいないっすけど」
ゾーマたちに戦ってもらったところ襲ってきてるモンスターは大したことがなかった。
「だから大丈夫だって思ってたんっすけどねぇ」
この日何度目の現実逃避だろうか。
「カァッ、どいつもこいつも情けねぇ」
炎と氷で半分半分の姿を持つ魔物は不機嫌さを隠さずおいらたちを睨みつける。
「ダイの大冒険の世界とか……想定外にも程があるっすよ」
聞き覚えのない国の名だと思ってはいたが、目の前に居る相手の名前は知っていた。氷炎魔団長氷炎将軍フレイザード。大雑把に言うならマンガであるその作品のラスボスの部下、六人いる幹部の一人だ。ぶっちゃけ、その幹部ってのもラスボスのお遊びで、反則的な強さを持ってるのは、同僚の一人とラスボスだけだったはずっすけど。
「むしろそっちの方が問題なんすよねー」
特に問題なのが、こいつの同僚の方。物理攻撃も呪文攻撃も効かない状態で動き回るってふざけた状態の上、本体は憑依することで他人に取り付き自由に動かせるという能力の持ち主。
「あれをどうにかしないと詰むんすよねー」
「おい、そこの人間、オレを無視す」
「あ、みんな。そいつメラとヒャド、ひょっとしたらギラ系は吸収するんで気を付けて」
考えてる最中に炎と氷半々のそれが絡んできたので味方にアドバイスするとおいらはまた厄介な相手の対処に思考を戻す。
「そうか、ならば……ドルマドン!」
暗い闇のドームの様な爆発に誰かの断末魔が掻き消えたような気もするけど、それはさておき。
「やっぱいてつく波動っすかねー。あれがうまくいけばあとは蹂躙っすし」
たぶんこの世界のラスボスにとって不運だったのは、強さがインフレするものだってことだったんじゃないかとおいらは思うっす。
「この世界はメラゾーマまでしか存在しないっすけど、うちのモンスター、一つ上のメラガイアー使える子複数いるんすよね」
少なくともあの反則キャラ相手に至るまでは負ける気がしない。ボロボロになって転がった鎖付きのメダルに視線を落としたおいらは顔を上げると傷ついた二人の騎士の方に向き直る。
「大丈夫だったっすか? 実はちょっとお願いがあるんすけど――」
思い付きで書いたので説明多くて読み物としてはあれかも。
ちなみにトリップした魔物たちの主な能力はこちら。
ゾーマ:マヒャデドス・メラガイアー・ラブリー
バラモス:メラガイアー・イオグランデ・ザキ攻撃
シドー:ベホマ・シャイニングボウ
ハーゴン:イオグランデ・バギクロス
ピサロ:ドルマドン・ギガスラッシュ・マホトラ攻撃
キングレオ:だいぼうぎょ・ばくれつけん・ベタン・マヒ攻撃・ぐるぐるボディ