銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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□ルルーシュ□

 

見慣れた教室で顔なじみのクラスメイトたちと受ける授業は何の変わり映えもない。先日、日本解放戦線が起こしたハイジャック事件で人質となったリヴァルとシャーリーも、事件直後は心配するクラスメイトたちに取り囲まれて大変そうであったが、それも一段落つき真面目に教師の話す言葉をノートに記している。

 

そんな中、教室内で浮いた存在である茶髪の少年・枢木スザクだけが、こっくりこっくりと現実と夢の狭間で戦っているのが俺の位置からは丸分かりだった。しかし睡魔に負けてしまったのか、スザクはすすっと机に前のめりになるように凭れ掛かっていく。俺は仕方がないなと、携帯端末のバイブレーションモードを使って起してやろうと思ったのだが、何を思ったのかスザクは急に立ち上がった。

 

「覚悟しろ、悪党どもっ!『特殊警察イェーガーズ』だっ!!……あれ?」

 

ぱっちりと覚醒した様子のスザクは周囲を見渡して次第に冷や汗をたらたらと流し始めた。

 

彼の視線の先には米神に血管を浮き立たせている教師がいる。教師は声を抑えながら言う。

 

「……枢木、丁度いいから、この問いに答えなさい」

 

ようやく今の事態を呑み込んだスザクは両手を彷徨わせながら、しどろもどろになりつつ教師の出す問いに何とか答えることが出来た。ほっと胸を撫で下ろした彼は椅子に着席する。

 

しかし、教師から「軍の仕事があるとはいえ、学園に来ている以上、学生の本分を忘れないように」と小言を言われた彼は教師に向かって深々と頭を下げるのだった。

 

 

 

 

スザクが漏らした『特殊警察イェーガーズ』は、コーネリア・リ・ブリタニアの親衛隊隊長であるライヴェルト・ローウェンクルスが、親衛隊とは別に率いるチームの名称である。表向きはユーフェミアが手を差し伸べた、イレブンたちが苦しんでいた元凶はすべて『イェーガーズ』が裏で次々と粛清していっている。

 

その迅速さと徹底的なまでの殲滅加減は第三者である俺から見ても薄ら寒いものを感じる。

 

コーネリアはエリア11の総督として、各地に散らばる反抗勢力を自身の配下たちだけでなくブリタニア軍も使って順調に減らしていっている。これはクロヴィスが総督だった頃に私腹を肥やした無能どもをローウェンクルス率いる『イェーガーズ』が徹底的に対処することを確信し、自身の能力を無為に割かないで済んでいるためだ。

 

ローウェンクルスはカレンと同じブリタニア人と日本人のハーフだが、その実力と功績は実力主義のブリタニアにおいて、あの男をはじめとしたブリタニア皇族たちにも認められている。

 

「河口湖のホテルジャック事件を解決に導いたのも恐らくこいつだ」

 

パソコンのモニターに映し出された銀髪碧眼の青年、ライヴェルト・ローウェンクルス。

 

アラスカ一帯を領地とするローウェンクルス伯爵家の次男であるが、その血は俺たちブリタニア皇族よりも皇族としての血が濃いという結果が出ている。

 

ブリタニア皇帝はあの男で98代目であるが、そこに至るまでに暗殺や病死などで世継ぎがいなくなり、遠縁の貴族の子を擁したこともあったという。

 

故にローウェンクルス家で武力や知力共に秀でた存在であるライヴェルトは皇位継承権が低いブリタニア皇族にとっては喉から手が出るほど貴重な存在であったのだが、残念ながら幼少の頃にはすでにコーネリアの騎士になることが定まっていた。

 

「で、どうするんだ。童貞坊や。お前が計画していた道筋は次々と塞がれていっている気がするのだが?」

 

「黙れ、魔女が。別に全ての道が塞がれてしまった訳ではない。ゼロには『弱者を虐殺する命を下したクロヴィスを討った』という実績がある」

 

「そうか?一応、共犯者として忠告しておくが、あの赤い髪の女のことは諦めろ。監視がついている」

 

「……カレンに監視だと?」

 

俺はパソコンを操作し、租界の監視ネットワークを盗み見る。時間を操作し、カメラの録画映像からカレンを探す。そしてシュタットフェルト家へ肩を落としながら帰るカレンの後を数人の男女が追跡しているのが分かった。勿論シュタットフェルト家から出かけるカレンを逃すことはない。

 

彼女が向かったのはブリタニアの病院であったが、確かこの病院はリフレインという麻薬中毒患者が入院している所だ。“カレン・シュタットフェルト”の関係者が入院しているとは考え難く、入院しているのは“紅月カレン”の関係者である可能性が高い。後者ならば扇や南といった面々も面会に訪れているだろう。

 

「……扇グループも目を付けられている可能性が高い……か」

 

俺はパソコンの画面に映るライヴェルト・ローウェンクルスを見ながら頭を抱える。

 

神聖ブリタニア帝国に相対するためには自分で動かすことが出来る軍が必要であることは、コーネリアの親衛隊との一戦で骨身に染みた。あの時、C.C.が来なければ俺はそのままコーネリアに顔を晒すことになり、ナナリー共々新たな国の人質として利用される羽目になるところだった。

 

「くそっ……。こいつは一体何者なんだ。俺の考えを完全に読んだようなこの動き、まさかギアス能力者っていう訳ではないだろうな?」

 

「…………」

 

散々と悪態を吐いていたC.C.が黙り込んでいたため、ベッドに我が物顔で寝転がる彼女に視線を向ける。しかし、彼女はフッと鼻で笑っただけで有力な情報は持っていないことが分かった。

 

俺はパソコンのモニターから憎き男の画像を消し、扇グループ以外の反抗勢力をリストアップしていく。その中には日本解放戦線の名前もあったが、彼らを使うのは最終手段になるだろう。

 

 

□ライヴェルト□

 

 

朝一でコーネリア総督に執務室に来る様に告げられた俺は親衛隊の制服を久しぶりに着て、残りの資料をまとめておくようにとジェレミアたちに告げて部屋を後にした。政庁の廊下で擦れ違う軍人たちが俺の姿を見るたびにビシッと足を止めて敬礼してくる。俺は適当に挨拶をしながらコーネリア総督の執務室に向かった。そして扉に向かってノックをして返事を待ち、コーネリア総督の執務室に入って早々、『ユーフェミア副総督に休暇を与えろ』と命令される。

 

「副総督の休暇に関しては俺に権限はありませんし、仕事を強要した覚えもありませんが?」

 

「嘘です!身に覚えの無い政策が私の主導の下で行われていることになっていて、各地の慰問や被害者のイレブンの方々との交流に加え、民放のテレビ局の取材や新聞雑誌などの記者の対応などの予定で、私のカレンダーの予定は休みなく真っ黒なのですよ!」

 

「イェーガーズの功績は、表向きの部分はすべてユーフェミア副総督の功績になるように手配したのは俺ではなくコーネリア総督なのですが?」

 

俺に向かっていたユーフェミア副総督の怒りの矛先が180度回転した。目に見えてうろたえるコーネリア総督の視線が俺に突き刺さるが、その前にユーフェミア副総督が吠える。

 

「私の知らないところで何を話し合ったのですか、お姉さま!確かにお姉さまと違い、私に出来る事は限られています。しかし、私は『私なりにできること』を模索しておりましたのに、ひどいです!」

 

つーん、とコーネリア総督から顔を背けるユーフェミア副総督。

 

その様子を見ていてギルフォードとダールトンは苦笑いを浮かべているが、コーネリア総督にとっては堪ったものではない。『どうにかしろ!』という言葉がこれでもかと篭められた鋭い視線が俺に向けられる。別に説得するわけではないとコーネリア総督にアイコンタクトした後で口を開く。

 

「ユーフェミア副総督、トウキョウ租界に蔓延っていた悪党はほとんどを殲滅し終えましたので、しばらくはそういった対応に追われることも少なくなると思います。しかし、今後コーネリア総督がトウキョウ租界を離れることがあれば、ユーフェミア副総督が全権を引き継いで各所に指示を出すことになります。“何の功績もないお飾り副総督”と、“巨悪を許さずに弱者へ手を差し伸べる副総督”であれば、圧倒的に後者の方が意見を通せるということを忘れてはいけません。事実、この政庁には未だにユーフェミア副総督を認めていない将校も多い。彼らの意見に流されない内外ともに強さが必要なのです」

 

「うぐっ……」

 

ユーフェミア副総督が乙女にあるまじき呻き声を上げたが、俺は華麗にスルーする。

 

「しかし、まぁ……ユーフェミア副総督もそうですが、『イェーガーズ』の面々も最近やつれたように感じますし、何日か休暇を与えましょうか。そういえば、ゴッドバルト辺境伯たちもここ5日くらいは俺の執務室に缶詰で情報の裏取りと精査をさせていたし、純血派の連中も1週間くらい自宅のベッドで眠れていないって言う奴もいたな。特派の枢木准尉に至っては暇な時間は俺と模擬戦三昧で、思考力が低下しているのか一人称が『僕』から『俺』に変わっていたくらいだしな」

 

俺が言い終えるとコーネリア総督の執務室にいた全員がドン引きしていた。そんな中、コーネリア総督は俺に微笑みながら告げた。

 

「ローウェンクルス。貴殿も職務のことは一切合財忘れて休んで来い。純血派の面々と特派には私の方から直々に辞令と特別給金を出しておくから、貴殿は今すぐ休め。これは命令だ」

 

「えっと……イエスユアハイネス?」

 

やけに遠い目をしたコーネリア総督に強制的に休暇を取るように命令された俺はそのまま寮の一室に戻ったのだが、寮にいても始まらないのでこの世界の俺に嫌がらせをするためにアッシュフォード学園へと足を向けたのだった。

 

 

 

 

アッシュフォード学園の事務に枢木准尉に面会したいことを伝え、待つこと暫し、アッシュフォード学園の制服に身を包んだスザクが大急ぎで事務所までやってきた。私服姿の俺を見て思わず首を傾げるスザクに、俺は笑みを携えて声を掛ける。

 

「悪いな、枢木准尉。今日は任務じゃないんだ。先日の河口湖ホテルハイジャック事件で人質になった子たちがいると思うのだが、その子たちにコーネリア総督から感謝状が出ている。メディアに露出すると彼らの今後の生活に支障が出るから、そこを考慮して秘密裏に表彰することとなった。このことは学園長に話は通してあるので、枢木准尉にはこのアッシュフォード学園の案内をお願いしたい。ユーフェミア副総督が今度来訪するかもしれないので、一応は下見といった形だ」

 

「あの、僕はまだ授業中なのですが?」

 

スザクが困った様子でおずおずと告げてくる。そう言うと思っていたさ。

 

「分かっている。枢木准尉の都合がつく、昼休みでも放課後でも構わない。でも学生食堂がどこにあるのかだけは頼むな。朝から何も食べていなくて、腹の虫が鳴き止まないんだ」

 

「……。分かりました。こちらです、ローウェンクルス卿」

 

俺はスザクの案内でアッシュフォード学園の中に入った。そして、俺を学生食堂へ案内し終えた彼は一度礼をして俺の前から去っていった。

 

事務所から話が通っていたのもあって、学生食堂ではきちんとした食事が出された。ただで食べさせてもらうのは気が引けたので、余計なお節介と思いつつも本日の日替わり定食のメインの調理で気になったところを指摘する。格段に味の深みが出たことに、あんたは何者なんだってコックたちが目を向けてきたが俺は本来の目的のためにアッシュフォード学園内を歩き回り、よく俺とスザクが2人きりで話した屋上へと移動した。

 

給水塔の上にはしごを使って上り、降り注ぐ陽光で日光浴をしながらまどろんでいると、2人分の気配が上がってきていることに気付く。俺はそのままの体勢で目を閉じる。

 

「話って何だ、スザク」

 

「いきなり、ごめん。けど、伝えないといけないことがあるんだ。僕の今の上司であるローウェンクルス卿がコーネリア総督の使いとして、ミレイ会長たちに河口湖での騒動の時の感謝状を持参して来ているんだ」

 

「コーネリア姉上の親衛隊隊長の彼が?」

 

「ルルーシュやナナリーが隠れて暮らしている事情は僕も知っている。昼休みに彼を学園内の案内をしないといけないから、ルルーシュはナナリーと一緒にどこかに隠れていて欲しいんだ」

 

「……分かった。すまない、スザク。俺は先に行くぞ」

 

「うん。僕はもう少し風に当たってから行くよ」

 

この世界の俺が屋上から去って階段を降りていく。気配が完全に遠のいたのを見計らって、俺は起き上がって給水塔の上から飛び降りた。背後に着地した人物を見るために振り返ったスザクが驚愕する。

 

「っ!?そんな……、ローウェンクルス卿!?」

 

スザクは親友であるルルーシュの秘密を自らブリタニア軍の上官である俺にばらしてしまったと顔を青くしている。彼は下唇を噛み締めて、どうこの場を切り抜けるか思案するように眉を寄せている。俺は苦笑いを浮かべて、肩を竦める真似をする。

 

「そう警戒するな、枢木准尉。俺も『閃光の遺児』が存命であることと、アッシュフォードに身を寄せていることには驚いたが、公表するつもりはない。こうやって生きていることを隠してひっそりと暮らしている時点で、俺如きが関与していい問題ではないことは承知済みだ。ただひとつだけ、機会があったら伝えてくれないか?」

 

「……何を、でありますか?」

 

訝しげに見てくるスザクに俺はゆっくりと伝えた。

 

「『マリアンヌさまの命を救うことが出来ずに申し訳なかった』と。当時、本土防衛軍統合参謀本部に所属し、帝都の治安を守る任務に就いていた俺は、異変に気付いてアリエス宮に向かった。かつて、『私の騎士になれ』とおっしゃってくれたコーネリア殿下と一緒にな。結果は知っての通りだ。俺たちは襲撃犯を取り逃がし、マリアンヌさまは命を落とした。マリアンヌさまという後ろ盾を失ったルルーシュ殿下たちが日本に留学したという話を聞いて、叔父上にくれぐれもよろしくと伝えた。が、程なくして日本とブリタニアが戦争状態になって2人が死んでしまったという話を聞いた。俺が本国の軍人を辞めて、コーネリア殿下の騎士となったのはその後だ。本国を守るのは他の人間でもできるが、騒乱が起きているエリアを治められるのはコーネリア殿下だけだと思ったからな」

 

俺はとりあえず、“俺”が憑依する前のライヴェルトの行動を客観的に読み解き、スザクに説明した。彼はまだ信用できていないようだが、俺の経歴はまさにこんな形なので、この世界の俺が調べればすぐに分かることだろう。ただし、ライヴェルトの経歴をどう判断するかは見物であるが。

 

「俺はしばらくここにいるから、枢木准尉は教室に向かったらどうだ。授業があるのだろう?」

 

「……授業が終わったら、すぐに来ます」

 

「ああ。俺は逃げも隠れもしないよ」

 

「はっ!失礼します」

 

バシッと敬礼をして去っていくスザクの背を見送る。

 

これでどう転ぶか、全く分からなくなった。

 

この時期のスザクは他人を頼ることが出来ない。俺がルルーシュだった時は、マオによって父親を殺したことを暴露されて精神が不安定になっていたところを俺に肯定されることで落ち着きを取り戻した。それ以後だ、彼が他人に悩みを相談できるようになったのは。そのイベントが起きていない現状で、スザクはこの事実をどうするのか。

 

スザクが来れば、今まで通りだし。

 

もしも、この世界の俺が来ることがあれば、確実にギアスを使ってくるだろう。

 

“ライヴェルト・ローウェンクルスにギアスは効かない”とはいえ、態々この世界の俺にギアスを使わせる余裕を与える必要もない。

 

さて、どうなるかな。

 




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