青の魔剣士   作:フワワ

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今回は雪男とその周りの話で、閑話みたいなものです。
一応時系列としてはルシフェル戦の前になります。



兄弟

その日のことを、今でも覚えている。

 

その日、何となく起きた僕は、部屋に兄が居ないことに気づいた。

手洗いにでも行ったのかとも思ったが、不意にさっき見た兄の様子を思い出した。

まるで何かに浮かれる様な兄の様子を。

普段物静かで、退屈そうな雰囲気を醸し出す兄にしては珍しかったのでよく覚えている。

 

「兄さん、何か良いことでも有ったの?」

 

「ああ、欲しかった物が手に入りそうなんだ。」

 

そう問いかけると、兄はすこし驚いた様子で答えた。

普段、何かを欲することの無い兄がここまで欲しがる物がある事に僕自身もすこし驚いた。

兄は強い人だった。

虐められる僕を何度も助けてくれた。

そのせいでありもしない悪意ある噂を広められたりもしていたが、兄はくだらないとばかりに何の興味を示さなかった。

どんな時でも自分の信念を曲げようとせず、ただ自分であり続けた。

いつも何かに怯えている僕とは違って。

 

兄はいつも、何処か別の場所を見ていた。

それは幼い頃から変わらず、ただひたすらにその場所に向けて生きていた様にも感じる。

人を必要以上に近づけようとせず、自分達家族に対しても何処か一線を引いていた。

父はそんな兄を気にかけて、よく話しかけていた。

そんな兄に対して幼い僕は嫉妬を覚えなかったといえば、嘘になる。

だから兄の秘密を父から知らされた僕は、兄を守る為に祓魔師になる事を決めた。

いつも守ってくれた兄に恩返ししたいという想いもあったが、自分が弱く無い事を証明したい、父と兄に認めて貰いたいという気持ちもあった。

だから僕は努力した、兄を守るために。

 

なのにーーー

 

満月が明るく輝く夜。

兄はいつもと変わらない様に見えた。

本当にいつもと変わらない。

 

その身に纏う青い炎を除けばだが。

 

なんとなく気になって兄を探し、外にいた兄を見つけてこんな時間に何をしているのかと問い詰めようとした時の事だった。

兄の手に見たことのない刀が握られていた。

兄が今まで見たことのない笑みを浮かべてその刀を抜き放つと、目が眩むほど眩い青い炎に包まれた。

それを確認した兄はより一層深い笑みを浮かべる。

 

「兄、さん?何を、してるの?」

 

思わぬ光景にどう言葉をかければ良いのかわからなくなり、咄嗟に出た言葉はたどたどしくなってしまう。

それでも目の前の光景を信じられずーーー信じたくなかった僕は恐怖から逃げる様に必死に兄に声をかけた。

 

「何を、してるんだ! 兄さん!!」

 

そう叫んで兄に詰め寄よろうとした時、腹部に今まで感じたことのない激痛が走った。

メキメキと体の中から危機感を煽る様な音がすると同時に一瞬の浮遊感を感じ、そのまま何が起こったのかわからずに倒れふす。

殴られたのだと気付いた時には兄が目の前に立っており、僕を冷たい瞳で見下ろしていた。

 

「雪男、お前は弱いな。」

 

その言葉を聞いた時、自分の中の何かにヒビが入った音がした。

意識が朦朧としながら、それでも兄に必死に問いかける。

 

「なぜ、こんなことを?」

 

それを聞いた兄は僅かに熱のこもった声で答えた。

 

「俺の魂が叫んでいる、もっと力をと」

 

その言葉を最後に、僕の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

☆★☆★

正十字騎士団日本支部。

そこには多くの祓魔師が集まり日々悪魔との戦いに備えている。

その為のトレーニングルームで一人の少年が汗だくになりながら鍛錬を続けていた。

13歳で祓魔師の資格を得て、史上最年少でエクソシストになった少年、奥村雪男。

多くの人々が彼を讃える中、彼自身はそれでも自らを鍛え続け、高め続ける事をやめなかった。

 

(あの日の事を忘れた事はない。)

 

あれから父は最初こそ、いつもと変わらない様に振舞って一人で兄の行方を捜していたが結局見つけられず時間が経つにつれてまるで抜け殻の様になってしまった。

今では聖騎士の称号まで剥奪された。

 

それからというもの、雪男はひたすら己を鍛え続けた。

もはや自傷行為となんら変わらない程の、余りにも激しい鍛錬に何度か周りの人間が止めようとしたものの、頑なに続けようとする雪男についぞ諦めた。

今では気味の悪い物を見る様に遠巻きから眺めるだけである。

 

(周りの人間がどう言おうと構わない。僕は強くなる。強くならなければならない。そうでなければーーー)

 

「おうおう、相変わらずだな〜雪男。」

 

「何の用です?シュラさん。」

 

幼い時から面識があり彼女も雪男と同じ藤本獅郎の教え子で彼にとっての姉弟子でもある女性、霧隠シュラが軽い調子で話しかけてきた。

雪男は彼女のそう言ったところが余り好きではなく、嫌そうな顔を隠しもせず問いかける。

 

「良い加減休め。お前朝からロクに休まず続けてるだろ。もう昼過ぎだぞ。」

 

「もう、そんな時間でしたか。」

 

呆れた顔をしながら手に持っていたドリンクを雪男に渡すシュラ。

そんなシュラを気にせず雪男は渡されたドリンクを一気に飲み干す。

 

「お前、なんでそんなに強くなろうとする? 史上最年少でエクソシストになったてのに、余計に焦ってる様に見えるぜ。」

 

「・・・・そう、見えますか?」

 

そう言う雪男の顔はあらゆる感情を必死に押し殺して作った様な無表情で、それを見たシュラは雪男が如何に危うい状態かを見抜いた。

 

(ったく、あのクソ親父何やってやがんだ。)

 

心の中で二年程前からすっかり腑抜けになってしまった男の事を思い出す。

元々雪男は悪魔堕ちしやすいタイプだったが、こちらも二年程前からますますそれに拍車がかかった。

そんな様子になる原因に、ヴァチカンからの特別任務を与えられていたシュラには一つだけ心当たりがあった。

シュラが与えられた任務は日本支部のメフィストと獅郎が関わっていると思しきサタンにまつわる何かの調査である。

 

二年前。

 

そう、事の始まりは二年程前からだ。

突如として裏の世界に青い炎を操る男が現れたと言う噂が広がり騒ぎになった。

しかし騎士団が本腰を入れて調査に踏み切った時にはすでにその男の噂は過去の物となっており、完全に情報がなくなっていた。

また、それと同時期に騎士団のスポンサーなどの有力者から圧力がかかる様になった。

騎士団はその職務上様々な特権を持っているが、それでも組織である以上、そう言った連中に逆らう訳にはいかなかった。

それでも青い炎という特大の爆弾を放置出来なかった騎士団上層部は、それに関わっていたと思われるメフィスト・フェレスと藤本獅郎の調査をシュラを含めた数名に与えたのだ。

メフィストと獅郎には数年前から不審な動きがあり、青い炎を操る男の件では騎士団に情報を伝えるのを故意に遅らせる、或いは隠蔽した疑いがあった。

 

(二年前。クソ親父が腑抜けになったのも、雪男がああなったのも二年前からだ。そして青い炎を操る男。)

 

昔、獅郎から雪男の双子の兄にいつか剣を教えて欲しいと頼まれたことがある。

しかし、獅郎は二年前からその双子の兄の事を何も話さなくなった。

 

ーーーサタンにまつわる何かーーー

 

「なぁ、雪男。お前、確か双子の兄貴がいたっ、」

 

その言葉を口にした瞬間、雪男は思い切りシュラの胸ぐらを掴み上げて思い切り壁に叩きつけた。

その顔は完全な無表情だが、その瞳からは憎しみや悲しみといった様々な感情が見て取れた。

 

「おいおい、いきなりどうしたんだよ。」

 

額に冷や汗を流しながらシュラは確信した。

 

「っ、すいません。つい手が出てしまって。」

 

本当に申し訳なさそうに、そして自分の感情を必死に押し殺す様に謝罪する雪男。

 

そんな雪男を見て確信した。

サタンにまつわる何か、すなわち青い炎を操る男は雪男の双子の兄だと。

 

(メンドくせーからこんな任務、ほかの奴らに任せようと思ってたんだけどなー。こりゃ本腰入れて調べて見るか。)

 

今にも色々な物が崩れ落ちて取り返しのつかなくなってしまいそうな雪男を見て、シュラは姉弟子としての範疇で面倒くらいは見てやるかと心に決めたのだった。

 




というわけで原作より強くなったけど、色々追い詰められている雪男でした。
獅郎は一応生存してはいますが、精神的に追い込まれてすでにパラディンとしての力はありません。
サタンが憑依しなかったのは近くに燐がいなかったことと、最初はそこまで追い詰められていなかったことから、心の準備だけは出来ていたから。

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