正義の味方に至る物語   作:トマトルテ
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10話:父

 

 白と赤の菊が母の墓に供えられていく光景を、切嗣は黙って見つめていた。

 雨は先程よりは弱まってはいるが、まだ降りやまない。

 そんな中でも父、矩賢(のりたか)は黙々と祈りを奉げ続ける。

 

 何か言うべきなのかもしれない。だが、父に何と言葉をかければいいのか分からなかった。

 家を出て行った男への恨み節か、再会が出来たことへの喜びか、それとも犯罪者への糾弾(きゅうだん)か。

 どうするべきか切嗣が測りかねていると、逆に矩賢の方から声をかけられる。

 

「ヒーローを目指しているんだったな」

「…! ……うん」

「そうか。頑張りなさい」

 

 それだけ言い残して、立ち去ろうとする矩賢。

 だが、見逃すわけにはいかないのだ。ヒーローとして、息子として。

 

「父さん!」

「どうした、切嗣?」

「……父さんはどうして(ヴィラン)なんかに?」

「……ああ、そうか。私は世間的にはそうなっているんだったな」

「は…?」

 

 言われて初めて気づいたとでもいうように、目を丸くする矩賢に切嗣は間抜けな声を零す。

 自らの興味対象以外には無頓着な性格であるのは知っていたが、ここまでとは思ってなかった。

 

「私がアカシックレコードまたは根源と呼ばれるものを研究しているのは覚えているか?」

「覚えているよ、()()()

「なら、話は早い。私はそれらを知るために“時間”を研究の対象としている。時の無限加速により、アカシックレコードへの到達を目指しているからな」

 

 矩賢は生まれながらの学者気質だ。知らないものは全て知りたいと思っている。

 だからこそ、原始からの全ての象、想念、感情、できごとの記録を知ることのできるアカシックレコードを目指しているのだ。

 

「“個性”を使ってかい?」

「そうだ。“個性”は科学では到底説明できない力を持つ。特に私達の時間制御はその傾向が強い。科学に頼るよりも根源に至る可能性が高いと思うのも当然だろう」

 

 アカシックレコードなど夢物語だと“個性”発現前の世界ならば笑われていただろう。

 だが、“個性”という科学を超えた力を身につけた人は、それまでのオカルトを笑えなくなった。

 神話というものに真実が含まれている可能性を無視できなくなった。

 

 イエスキリストは『奇跡』という“個性”の持ち主だったのではないか?

 神話に語られる神々の戦争とは“個性”持ち同士の戦争だったのではないか?

 そもそも“個性”とは進化ではなく先祖返りではないか?

 

 そうした考えに至る人々は決して少なくなかった。実際にかつての人々が神話を聞けば嘘くさいと思った出来事も、今の人々は“個性”持ちのヒーローならばできるだろうな程度にしか思わない。ならば、今まで嘘だと思われていたアカシックレコードが存在しないなど、誰が言えようか。

 

「……それは分かるけど、結局の所、父さんが(ヴィラン)であることと何の関係が?」

「“個性”を強化する薬物の製造や、私以外の物質の時間を変化させるための実験を行っているのだが、それが法律に触れたことが原因だろう。特に薬物は研究資金のために製造法を他に流したりしたからな」

「なんでそれだけやって自覚がないんだ……」

 

 全く悪びれる様子の無い父の態度に、ガックリと肩を落とす切嗣。

 矩賢は犯罪行為を犯罪行為だと理解している。だが、それをしていけないとは思っていない。

 どこまでも自分本位に考え、研究のために必要だと分かればためらいなく罪を犯す。

 そこには悪意など欠片もなく、好奇心しかないのだ。

 

「私にとっては片手間に作れた薬品で、しかも実用には到底至るものではなかった。まさか、そういったものを完成させずに使うとは思っていなかったからな」

「父さんにとっては価値のないものでも、社会を大きく動かしてしまうものなんだ。特に“個性”を強化する薬なんて、“個性”にコンプレックスを抱いているような人間が副作用を無視して使ってしまうかもしれない」

「そういうものか。今度からはある程度気をつけるとしよう」

「……信用できない」

 

 矩賢は悪い意味で加減を知らない。研究に有用だと思えば何でもする。

 まるで、戦闘における切嗣のように効率重視の行動を取るのだ。

 子は親の背中を見て育つとはよく言ったものだ。

 

「心配するな。最近は()()()がスポンサーになって資金面や“個性”で不自由はない」

「あの方? いや、その前にどう考えてもそのスポンサーもまともなことはしてないよね?」

「否定はできないな」

 

 隠す気が無いのか、どんどんと黒い話を続けていく矩賢に切嗣は考える。

 ここで捕まえられるかどうかを。

 

「と、そろそろ時間か。私は帰るとしよう」

「……父さん」

「なんだ、切嗣」

「僕は……仮免でもヒーローなんだ」

 

 帰ろうとして背を向ける矩賢に硬い声をかける。

 相手は父親だ。さらに悪事を働いているとはいえ、救いようのない悪人ではない。

 だが、それでも、目の前の人間は人々の平和を脅かす―――(ヴィラン)だ。

 

 ヒーローが見逃すわけにはいかない。

 

「……どうやら見ないうちに立派に育ったようだな」

「…っ! 僕は家族だとしても手加減しないよ」

「だろうな。お前はそういう子だ」

 

 目を細めて笑い、何故か左手を()()()()に入れる矩賢の姿に、思わず声が震えてしまうが切嗣は迷わず母のナイフを取り出す。

 手を抜くことはしない。速攻でいって捕縛すれば傷つけることもない。

 そう考え、一歩前に踏み出そうとした瞬間―――

 

「これは……()()が使っていたナイフか」

「…え?」

 

 何故か先程まで持っていたはずのナイフが()()()手の中にあった。

 

「まさか加速して一瞬のうちに取ったのか…?」

「当たらずも遠からずというところだな」

「なら! 固有時制御(Time alter)―――三倍速(triple accel)!」

 

 相手が加速したのなら自分も加速すればいい。

 実に単純かつ合理的な思考で、切嗣は自らの時間を加速させる。

 これならば、相手の速度より下であったとしても、見えないことはあり得な―――

 

「形見だろう、もっと大切にしなさい」

 

「うそ…だろ…?」

 

 気づけば切嗣は母のナイフを()()()いた。

 勿論、彼が奪い返したのではない。矩賢が切嗣に握らせていたのだ。

 ―――3倍速になった切嗣に知覚させることすらなく。

 

(どう…なってる…? 確かに父さんが僕以上に固有時制御を上手く使える可能性は高い。だとしても、3倍速になった僕が反応すらできないことがあるか!? そもそも、僕にはナイフを放した感覚も、握った感覚もない! そんな芸当―――)

 

「どれだけ加速してもあり得ない……そんな顔をしているな」

「…ッ!?」

「やめておけ。何が起きたのか理解できないお前では私には勝てない」

「それでも僕は…! 固有時制御(Time alter)4倍(square)―――」

 

 自分の考えを言い当てられ、今まで見せたこともない程の動揺を見せる切嗣。

 だとしても、引くわけにはいかない。自分が捕まえなければ、一体誰が捕まえられるのだ。

 そんな義務感で己を奮い立たせ、限界を超えた速度で再び立ち向かおうとするが。

 

 いつ隣に現れたかも分からぬままに、その肩を矩賢に押さえられていた。

 

 

「切嗣―――命を粗末にするな」

 

 

 低い声で叱る様に言われた言葉に切嗣は声を発することが出来なかった。

 限界を超えた速度を出そうとした切嗣への心配なのか、自分に挑む無謀を咎めたものなのか。

 その真意は分からないが、1つだけハッキリとしていることがあった。

 

 それは―――万に一つも勝ち目はないということだ。

 

「……風邪を引かないようにしなさい」

「…………」

「それと、()()が悲しむようなことはするな」

「父…さん……」

 

 最後に切嗣にそう言い残し、自分の傘を渡して去っていく矩賢。

 それを呼び止めることもできず、切嗣はただ茫然と立ち尽くす。

 

 供えられた白菊と赤菊が、その光景を、ただ静かに見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 母との別れ父との再会と、様々なことがあった夏休みも終わり、学校が再開される季節になる。

 通常の学校であれば、休み明けで気合の入らない生徒に合わせ、勉強に集中できない間に体育祭や文化祭などの行事を済ませてしまうが雄英は違う。

 

 プルスウルトラの精神で常に一歩前に進歩することを求める。

 それ故に、切嗣のクラスでは早速とばかりに戦闘訓練が開始されていた。

 休み明けで体がだるい? お前それサバンナでも同じこと言えんの? ということである。

 

「ヒーローに休みなどあってないようなものさ! さあ、楽しく戦闘訓練と行こうじゃないか!」

「だからって、タンクローリーを4台も私に突っ込ませるなんて酷いにゃ、根津先生!?」

「忘れたのかい知床君? (ヴィラン)は待ってくれないって言っただろう」

「ぬうううッ! だったら私も手加減抜きで行くよ!」

 

 根津により遠隔操作で操られたタンクローリーに四方から突進される流子。

 その理不尽さに思わず訴えの声を上げてしまう彼女だが、それだけでは終わらない。

 すぐさま地面を隆起させ、タンクローリーを横転させて自らから遠ざけることに成功する。

 

「あ、言い忘れていたけど、タンクローリーには大量の爆弾が入ってるから、扱いには気をつけるように」

「それを先に言って―――にゃあぁああッ!?」

「HAHAHA! 派手に爆発したね」

 

 だが、相手が悪かった、根津のハイスペックはその程度予測済みだ。

 タンクローリーが爆発した爆炎に呑まれ、悲鳴を上げながら消えていく流子。

 ハリウッドさながらの危険な状況だ。しかし、根津どころか他の生徒も彼女を心配しない。

 

「……こ、殺す気かーッ!?」

「とっさに地面の中に潜り込んで逃げるか、うん、しっかりと“個性”を使いこなしているね」

 

 まるでゾンビのように土の中からボコリと這い出てきた流子を見て、根津は満足げに頷く。

 彼女も夏の間遊んでいたわけではない。しっかりと成長しているのだ。

 

「さて、他の子達はどうなっているかな」

 

 怒りのままにタンクローリーの残骸を土砂で押し潰す流子から目を離し、他の生徒を見る。

 (ねむり)は眠り香が効かない、純粋な機械である仮想(ヴィラン)を鞭で壊している。

 知子も同じように“個性”が効かない仮想(ヴィラン)を信乃と共に蹴り壊していく。

 そして、切嗣は。

 

「……面倒だ。本当に面倒だ」

 

 うじゃうじゃと、どこからともなく湧いてくる小型の仮想(ヴィラン)を死んだ目で壊していた。

 

「壊しても、壊しても、壊しても、壊しても、全滅しない」

「やあ、衛宮君。無駄に数だけが多い敵の相手はどうかな?」

「対人兵器じゃなくて対軍兵器が欲しいです」

「はははは! 数の暴力を存分に味わって乗り越えたまえ」

「……核で消し飛ばせば終わるかな」

 

 対切嗣用に作られた数だけが多い仮想(ヴィラン)に、ボソリと黒い言葉を吐く。

 敵はハッキリ言って弱い。片手間に倒せる程度の強さしかない。

 しかし、その数が厄介なのだ。切嗣の基本戦術は対個人用だ。

 

 それ故に特殊な武装が無ければ、こうした数だけ多い敵に足止めをされてしまう。

 また、相手が機械であるためにキャリコでは倒せない程、装甲が厚いものも居る。

 そういう手合いはコンテンダーで始末するのだが、やはり時間がかかる。

 

 今だけは聖剣からビームをぶっ放す、どこぞの騎士を心底羨ましく感じていた。

 

「しかし……明らかに僕だけ相手をしている数が違いすぎませんか?」

「HAHAHAHA! 君は私のクラスで一番の優等生兼問題児だからね。何より、対機械の戦闘は若干不得手な部分があったからね」

「機械なんていったいどこで戦うと……ああ、ヒーロー側が作れるなら(ヴィラン)も作れるのか」

 

 背中から迫っていた、ロボット兵士を蹴り飛ばしながら切嗣はぼやく。

 仮想(ヴィラン)は金が豊富にあれば作るのは難しくない。

 単なる犯罪者なら模倣される心配もないが、犯罪組織ならばそれも可能となる。

 

「ふぅ……ままならないな」

 

 平和のために作られたものが、戦争に使われることは珍しくない。そうしたことを考えれば、人殺しに使えそうなものは発明せず、仮に発明できても封印するべきなのだろう。しかし、それは文明を丸ごと捨てることと同義だ。

 

 そもそも人間など、ごく普通のタオルで首を絞めれば殺せるのだ。食物を作る農具も一揆の際には立派な武器となる。世界大戦で猛威を振るった爆撃機の罪を、飛行機を作ったライト兄弟に被せるなど余りにも愚かだ。全ての責任は生み出したものではなく、使う者にある。

 

(まあ、起源弾なんて作って使ってる僕が言えた義理じゃないけどね。製造法は僕以外に知らないし教える気もないが、同じ発想をされたらどうしようもない。……やはり、起源弾は僕の“個性”だと言い張っておくのが賢明だろうな)

「衛宮君、何か考え事かい? ……できるだけ忙しくさせて悲しいことは忘れさせようと思ったんだけどね」

 

 根津の重苦しい声が耳に入り、最後の仮想(ヴィラン)を破壊しながら思考を切り上げる。

 どうやら、根津は切嗣が母親のことで思い悩んでいるのではないかと心配しているらしい。

 やけに忙しい仮想(ヴィラン)狩りをやらされたのは彼なりの気遣いだったのかと納得し、切嗣は返事を返す。

 

「いえ、それとは別のことですよ。……心の整理は()()()()()。それに」

「それに?」

「……他に考えないといけないことが出来ましたので」

 

 そう言って内心で溜息を吐く切嗣。

 母が死んだことは辛いが、永遠の別れを経験するのはこれが初めてではない。

 むしろ、生きている父親に対してどう対処するべきかの方が難しい問題だ。

 

「それが何か聞いても?」

「……相手に知覚させることすらしない速度で動けないか考えていまして」

「新しい必殺技でも作りたいのかい?」

「まあ、そんなところです」

 

 適当にボカシながら相談してみる切嗣。一応、匿名で(ヴィラン)を見かけたと通報しておいたが、捕まりはしないだろう。それに勘ではあるが、父親を倒すのは自分の役目だと確信していた。故にあの不可思議な能力に対して対策を講じる必要があるのだ。

 

「しかし、知覚させないというのはどのくらいのレベルでだい?」

「相手に反応させることすらなく物を握らせるレベルです」

「無理じゃないかい、それは?」

「……そうですよね」

 

 二の句も告げさせぬ否定に、切嗣も顔をしかめさせながら頷く。

 彼自身、話で聞いただけならば無理だと断言していただろう。

 

「相手に動いたことすら気づかせずに動くのは、フィードバックを無視すれば可能だと思うよ。でも、物を握らせてまで相手に反応させないのは無理だろう。物を握らせる以上、相手の手に触れないといけないし、その時点で動きを一度止める必要がある。何より、コンマ1秒に満たない時間で手を開かせる、握らせるの2つの動作を行うんだから、それだけの速度に相手の手が耐えられるはずがない。金属バットで殴られるぐらいの衝撃は行くんじゃないかな?」

 

 根津の考察に思わず唸り声を上げてしまう。そう、切嗣は無傷だったのだ。

 全く反応できずにナイフを握らされていたというのに、衝撃を欠片も感じなかった。

 素早く手を握れば、早くすればするほど衝撃が大きくなる。

 

 だというのに、切嗣は初めから握っていたかのように何も感じなかった。

 どう考えてもこれは異常である。

 さらに言えば、その時の切嗣は神経伝達速度も3倍だったにも関わらずにだ。

 

「やっぱりあり得ない。でも……」

「別にそこまでの速度は必要ないと思うけどね。まあ、相手に知覚させないということにこだわるなら、相手の時間を遅くするという考えもあるよ」

「…! そうか、加速でなく停滞を使えば……いや、それでも自分の体内以外の時間に干渉できるのか?」

「まあ、そこがネックだろうね」

 

 根津の考えに一瞬謎が解けたかと興奮するが、すぐに冷静になる。

 “個性”『固有時制御』はあくまでも体内時間を操作するだけだ。

 これが固有結界ならば話は別だが、“個性”である以上できるとは思えない。

 

(父さんなら“個性”を僕以上に使いこなすことはできるだろうが、自分以外の時間に干渉は可能なのか? いや、待てよ。確か父さんは“個性”を強化する薬の話をしていたな。それで強化した可能性もあるな。だが、それでも……)

 

 どうやって自分の時間に干渉してきたのかが分からない。

 仮にそれが可能だとしても、フィードバックはより大きなものになるだろう。

 耐えられるとは思えない。それに干渉されたと仮定しても、時間をいじられた影響はやはり感じなかった。

 

 そもそも、自分も“個性”を使用していたのだ。干渉されたのなら気づかないはずがない。

 そうなると、やはり干渉ではなく別の理由。

 

「……ダメだ。思いつかない」

「まあ、思いつめていてもアイデアは中々思い浮かばないものさ。そういった時は別のことをやって、気分のリフレッシュを図るのが生きる知恵さ! というわけで、みんな注目!」

 

 大きく声を張り上げた根津に生徒全員の視線が注目する。

 

「みんな各々の訓練を終えたようだね。全員がこの夏に成長できたことが見えて私は嬉しいよ。しかし! ご存知の通り、我が校はプルスウルトラの精神でさらに上に行ってもらうことを旨としている。そこでだ、私のヒーローではなく教師としての経験を語ろうと思う」

 

 あ、これはまた長い話が始まるなと、生徒全員の思考が一致する。

 しかし、そんなウンザリとした顔を気にすることなく根津は朗々と語り始める。

 

 

「教師という職は完全に成長しきった者が就くと思われる。

 しかし、それは違う。教師程成長できる職を私は知らない。ん? 教師しかやったことがない?

 ははは、そういうツッコミはなしだよ。でないと、世の中何も語れないからね。

 私は、教師にはゴールがないと思っている。ここまでやれば良い先生なんて基準はないんだ。

 にている、いや、まさにプルスウルトラの精神だと思わないかい?

 と、話が逸れたね。だから、教師は常に成長するために勉強や、授業研究を行い続ける。

 つまり、目の前の生徒達のため、自分のため、未来の社会のために学ぶのさ。

 てんで話が分からないという顔だね。確かに話しがずれているかもしれないが。

 天才揃いの君達なら、教師が生徒から日々学んでいるという話だと分かると思ったんだけどね。

 しかし、言っても仕方ないね。こういった自分で伝わると思ったものが伝わらないのも学びさ。

 よく言われる、『弟子は師から学び、師は弟子から学ぶ』という言葉は良いと思わないかい?

 くしくも、これは私の座右の銘さ。教師としてこれ以上相応しい心構えはないからね。

 さて、しゃべりたりないけど、前置きはここまでにしておいて本題に入ろうか」

 

 

 まだ喋りたいのかよ、というか前置きだったのかと、戦慄する生徒を気にすることなく根津は指をパチンと鳴らす。

 

「要するに、他人を教えることで学ぶこともあるということさ。というわけで今から君達には―――1年生諸君を指導してもらうよ!」

 

 その言葉と共に、1年生の生徒達が演習場に顔を表す。

 上級生に緊張している者も居れば、根津の長すぎる話に疲れた顔をしている者もいる。

 しかし、その中でも一際目立っている生徒がいた。

 

「YEAH! 2年生と訓練なんてテンションが上がるぜぇええッ!!」

 

 演習場全体に響き渡るやたら良い声を出す生徒、山田ひざし。

 “個性”『ヴォイス』を操り、後にボイスヒーローと呼ばれることになる少年だ。

 そんなテンションだだ上がりな少年だったが、突如としてその声を()()()()()しまう。

 

「訓練前に無駄に“個性”を使うな、合理的じゃない」

「そういうお前こそ、“個性”使ってるじゃねえかよ! イレイザー!」

「お前が無意味に叫んでこっちの耳が痛いからだ、プレゼント・マイク」

 

 髪を整える時間が勿体ないと言わんばかりのぼさぼさ頭。

 ドライアイのために常備している目薬を差している少年、相澤(あいざわ)消太(しょうた)

 ひざしにつけられたイレイザー・ヘッドという名前をそのままヒーロー名にしてしまう程、合理的でないと感じたことはやらない人間だ。

 

「何というか、個性的な子達だねぇ、えみやん」

「そうかい? 知子ちゃんも大分個性的だと思うよ」

「あははは! ……えみやんにだけは言われたくないよ」

「え?」

 

 知子も十分個性的だと返すと、何故か真顔でお前に言われるのは心外だという顔をされる切嗣。

 一体自分の何が間違っていたのかと、他のクラスメイトに顔を向けるが目を逸らされてしまう。

 自分の胸によく聞いてみろということである。

 

「さて、今から指導に入ってもらうにあたって二人一組になってもらうよ。香山君は山田君に“個性”の影響で仲間と固まって戦えない場合の対策を教えて欲しい」

「これって同じような弱点を持つ人を組ませるんですか?」

「その通り、その方が君達も教えやすいだろう? 人間当たり前にできることを説明するより、苦労して覚えたことを説明する方が簡単だからね」

「分かりました。うふふふ……ビシバシ教えてあげるわ」

 

 獲物を見つけた肉食獣のような笑みを見せる睡の姿に、1年生は若干引いているが、2年生は誰も気にしない。どうせ、そのうち慣れるだろう程度にしか考えていないのだ。

 

「土川君は(かん)赤慈郎(せきじろう)君と組んでもらうよ。(かん)君は自分の血を操るから、同じ操作系としてアドバイスをあげて欲しい」

「はいはーい、お任せー」

「衛宮君は相澤君と組んで欲しい。遠距離戦を封じられた際の対処を教えて欲しい」

「分かりました」

「あ、それと、訓練の成果を確認するために後半はそのペアで模擬戦を行うから覚えておくように。じゃあ、組み合わせに戻るよ。茶虎君は…………」

 

 その後も淀むことなく組み分けは行われていき、全員がペアを組み終える。

 根津はその様子を眺め、満足そうに頷くと1年生の教師と共にどこかに歩き去っていく。

 

 恐らくは生徒の自主性に任せるということなのだろう。

 もっとも、本気で目を離すわけがないのでどこかで監視しているだろうが。

 そんなことを切嗣が考えていると、相澤少年が歩いてくる。

 

「あなたが衛宮……先輩か?」

「ああ、君が相澤君だね。僕は衛宮切嗣。話しづらいなら呼び捨てで良い」

「……早く始めよう。合理性に欠く」

「なるほど……そういうタイプか。なら、こっちも効率的に行かせてもらうよ」

 

 相澤が昔の仕事中の自分と同じようなタイプだと理解し、最低限の会話だけですませることに決める切嗣。この時点で矯正(きょうせい)する気が全くないのは、自分が言っても効果がないとなんとなく察しているからだ。

 

「君の“個性”は?」

「目で見た対象の“個性”を一時的に使用不可にできる」

「どの程度まで消せる?」

「『発動型』と『変形型』には通じる。ただ、能力が身体的特徴に現れる『異形型』には効かない」

 

 相澤の“個性”『抹消』は目で捉えた対象の個性を使用不可にする強力なものだ。

 だが、“個性”が姿形に大きく影響を与えている『異形型』は消すことが出来ない。

 そして、そうした『異形型』は大抵の場合、人間離れした力で近接戦を行うので、近接戦闘能力が低い相澤は詰め寄られると劣勢を強いられるのである。

 

「なら、近接戦闘は不得手と見せかけて、懐に誘き寄せたところで叩く戦法が良いな」

「なぜ?」

「相手の弱みを突くのが戦闘の基本だ。だから、相手は君に対して近接戦闘をしかけてくる。そこまで読めるのなら馬鹿正直に戦う必要なんてない。避けられない程に近づいたところでマシンガンでもなんでもお見舞いしてやれば良い。ああ、あらかじめ地雷でも設置しておくと無警戒で踏んでくれていいかもしれないな」

「……合理的だな」

 

 切嗣の説明に頷く相澤。彼も切嗣と同じように形よりも勝利を優先する人間であるのだ。

 それ故に、混ぜるな危険なコンビになる可能性もあるわけだが。

 

「仮に武装を作るなら、中近距離で相手を不意打ちで無力化できるタイプ。それも、如何にもな武器ではなく、相手が警戒を抱きづらい武器にするべきだろうな」

「確かに…格闘を鍛えても腕力で負けるのだから、不意打ちで勝負を決められるものがいいか」

「弱点は消すよりも利用する方が効率的だ。君の“個性”は誰であっても警戒するのだからどれだけ鍛えても対策はされる。だからこそ、“個性”を囮として使用して、逆に弱点の近接戦闘で相手の不意を打つのが一番だ」

「合理的な作戦だな。それを活かすなら戦闘服(コスチューム)に見せかけた武装がいいか」

「同時に防御にも使えるものなら、さらに効率的だね。僕としては―――」

 

 2人は意気投合したかのように、効率的だ、合理的だと話し合っていく。

 その様子を見ていた信乃は、まるで長年の親友と話していたようだと語る。

 それ程に2人の効率性と合理性は上手く噛み合っていたのだ。

 

 

 

 故に、その後の模擬戦で、悪辣(効率的)辛辣(合理的)な戦法を用いて何人かの心にトラウマを作ったのは仕方のないことだったのだろう。

 

 

 





根津のやけに長いセリフは縦読みで
「教しは私にとつて天しよくさ」=「教師は私にとって天職さ」
となります。今度は小文字を使わないセリフで分かりやすくしたい。

次回は3年に飛びます。3年では進路相談とかヴィランとの戦闘とか父との対決とかやります。
定番の修学旅行で事件に巻き込まれるやつをやろうと思ってましたが、よく考えるとプロヒーローの先生が引率している上に武装を持っていかないから、生徒の出張る要素ないと気づいて没に。なんか閃いたら書くかもしれませんが。


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