正義の味方に至る物語   作:トマトルテ
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今回はネタ多め。


11話:将来の話

 高校3年生の秋。それは、今後の進路を決める大切な時期である。

 ヒーロー科でもそれは変わらない。

 

 各事務所の相棒(サイドキック)を目指す者、独立して事務所を立てる者。

 ヒーロー科では珍しいが大学への進学を目指す者と、各自忙しく動き回る。

 雄英高校であってもそれは例外ではない。

 

「進路希望調査の用紙を配るよ。みんな良く考えて1週間後までに提出してね。もちろん、相談がしたい子はいつでも歓迎さ。私以外の先生も親身になって相談に乗ってくれるよ」

 

 帰りの会の時間に根津から配られた用紙を眺める切嗣。

 彼ももう高校3年生。将来の進路を決めなければならない身分だ。

 自分で職業を選ぶことができるというありがたさに心の中で感謝しながら、用紙をファイルの中にしまい込む。

 

「それじゃあ、今日はこれで終わりだ。最近は暗くなっているからみんな気をつけて帰るように」

 

 帰りの挨拶を終え、職員室に戻っていく根津を見届けるや否や信乃達が切嗣の下にやってくる。

 

「切嗣、あなたは卒業後どうするつもりなの?」

「僕かい? 僕はこのままエンデヴァーさんの所で相棒(サイドキック)をやらせてもらうつもりだよ。独立は3,4年経ってからかな」

「まあ、予想通りね。エンデヴァーって№2ヒーローだから、出世街道真っすぐだし。……あなたが普通にエリートコースを歩んでるのは想像できないけど」

「あははは、確かに僕も出世とかにはあんまりイメージが湧かないなぁ」

 

 切嗣は卒業後にエンデヴァーの下で腕を磨き、数年後に独立するつもりだった。

 因みに、現在は相澤もインターンでエンデヴァーの下に居る。

 

「それにしても……信乃ちゃんに進路を聞かれると、3年前を思い出すね」

「……ああ、あの時のことね。もう3年も経ったんだね」

「早いもんだ。年を取ると年月があっという間に過ぎていく」

「うわぁ…えみやん。今のセリフ完全におじいちゃんだよ?」

 

 完全に年寄りのセリフを吐き、それを知子に突っ込まれるのを無視して切嗣は目を細める。3年前のあの日、改めてヒーロー(正義の味方)になりたいと思った。そこから色々なことを経験しながら多少なりとも成長できた。

 

 正義の味方は、悲しみを断ち切る存在でなければならない。

 そんなヒーロー(正義の味方)のあるべき姿に近づくこともできた。

 それだけで、この高校で過ごした3年間には意味がある。そして、何より。

 

「あー、2人しか分からない話でイチャつくんなら別の場所でやって欲しいんだけど、ペッ!」

「そんなのじゃないって! というか流子、あなたグレ過ぎじゃない?」

「マンダレイ、ピクシーボブは自分に彼氏がいないことを気にしているだけだ」

「ねこ!? べ、別にそんなこと気にしてないんだからね。だから虎も変なこと言わないでよ!」

「大丈夫だよ。流子ちゃんは可愛いから、きっとあちきよりも早く良い人が見つかるから」

「やめて、知子! そんなに優しい目で私を見ないで!?」

 

 かけがえのない仲間たちと出会えた。これだけは前世の人生を明確に超えたと言えるだろう。前世では仲間がいなかった。いや、誰も仲間として扱わなかったというのが正しい。彼女を道具として扱ってしまった。優しかった女を仲間だと思いもしなかった。

 

 それがとんでもない間違いだと気づいたのは女が死ぬ瞬間だった。

 だから、もう間違えない。道具ではなく仲間として関わっていこう。

 そうすれば、もっと違った、悲しいだけでない結末を迎えられるのかもしれないのだから。

 

「それで、信乃ちゃん達は卒業後はどうするんだい?」

「ああ、それはね。私達、知子の提案でチームで事務所を作ることにしたの」

「チームって……4人でかい?」

「そう、私達4人でね」

 

 4人で笑い合う信乃達に切嗣は驚いたような顔を見せる。

 

 それもそのはず、一般的に複数名義(チーム)での事務所は減少傾向にあるのだ。

 理由としては、複数人だと収入などで、イザコザが起きることが多いというもの上げられる。

 

「色々と面倒なことが多いと思うよ? それに不満が溜まる確率が高い」

「その点は大丈夫だよ。あちき達は気に入らないことがあったら遠慮なく言うから」

「喧嘩になるんじゃないかい?」

「ねこねこねこ、喧嘩してもまた仲直りすればいいだけにゃん」

「……そっか…そうだね」

 

 流子の『喧嘩してもまた仲直りすればいい』という言葉に切嗣は頬を緩ませる。

 

 それは子どものような理論だ。だが、同時に真理を突くものでもある。お互いを赦し合う。その心があれば世界中の戦争を終わらせることが出来るかもしれない。もちろん、再び起こる可能性は否定できないが、それでも、悲しみの連鎖を断ち切ることが出来るかもしれない。

 

 綺麗ごとだ。だが、綺麗ごとを実践することこそがヒーローの仕事だ。

 

「それで……4人はどんなチームにするつもりなんだい」

「救助活動をメインに行っていくつもりよ」

「特に山岳救助なんかが向いてるにゃん」

「うむ。ピクシーボブが土砂等を安全に取り除き、マンダレイが電波の届ぬ山間部であっても要救助者に情報を伝える。その間にラグドールが居場所をサーチして、我が直接救助に(おもむ)く寸法よ」

 

 4人の“個性”で戦闘に向いているのは虎の『柔軟』と流子の『土流』だけだ。

 しかし、その力を救助という方向に向ければ凄まじいものを発揮する。

 人を救うために向いた力。

 

 切嗣の人を傷つけるのに向いた力とは違う。

 

「……羨ましいな」

「ん? えみやん、なんか言った?」

「いや、何でもないよ。それで名前は決めてあるのかい?」

「ふっふっふー、それは私が考えたんだよ。名付けてワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

 

 自信満々でポーズを決めながら発表する流子の姿に思わず微笑みながら、切嗣は気になったことを口にする。

 

「やけに名前が長くないかな?」

「おっさんには分からなくて結構」

「おっ…!?」

 

 鋭すぎる言葉の刃に切嗣の心は(きし)みを上げる。

 じいさんではなく、おっさんと言う所にいつも以上に棘を感じるが、それもこれも切嗣が空気を読まなかったせいなので自業自得だろう。

 

「まあ、あちきも長いかなーって思ったけど、それ以上に良い名前だと思ってるよ」

「それに名前なんて、そのうち略称がつくものでしょ。日本人って何でも略したがるし」

「我も気に入っているからな。自分達が納得できればそれでよかろう」

 

 他の3人から気に入っている理由や理論武装を受け、切嗣は反論しようとしていた口を閉ざす。

 

 本人達が納得しているのにとやかく言うのは野暮だ。何より自分は認めたくないが、実年齢はおじ様なのだ。若者の感覚についていけずとも、仕方がないことなのだろう。……認めたくないが。

 

「まあ、困ったことがあったら出来るだけ力にはなるよ」

「そっちも、相棒(サイドキック)を首になったら雇ってあげるね」

「随分と自信満々だね。そっちの事務所の方が潰れるかもしれないよ?」

「その時はじいさんが独立したところに転がり込むから」

 

 そう言って悪戯っぽく笑う流子に切嗣は苦笑をこぼす。

 世の中はそんなに甘くはなく、公務員的なヒーローでも飯を食いっぱぐれることがある。

 だとしても、彼女たちのような前向きな姿勢は嫌いではなかった。

 

「ははは……まあ、ちょっと心配だけど、君達なら大丈夫だよね」

「……いや、私としてはあなたの方がよっぽど心配なんだけど」

「ん? どういう意味だい?」

 

 ジトッとした目で見つめてくる信乃に何事かと首を捻る切嗣。

 心配ごとなど何もないはずなのだが。

 

「何、全く思いつかないって顔してるのよ。今でさえ壊滅的な私生活送ってるくせに」

「あー……いや、まあ、死にはしないよ、うん」

「確実に寿命は縮むわね」

 

 私生活のことをツッコまれて、切嗣は誤魔化すようにぎこちない笑みを浮かべる。

 そんな2人の様子に事情を知らない知子が不思議そうに尋ねてくる。

 

「シノシノ、どういうこと?」

「どうもこうもないわよ。ご飯はファストフードばかり、そもそも時間が無いと食べない。

 睡眠も仕事中は平気で3日ぐらい寝ない。かと思えば、寝るときは昼過ぎまで寝たりする。

 おまけに物の整理が壊滅的に下手で、服をしまおうとすると先に入れていた物が出てくる始末。

 これでどうやって生きていくつもりなのよ!」

 

 今までの鬱憤(うっぷん)をぶつけるかのようにぶちまける信乃に、切嗣は肩身の狭い思いをする。

 いや、ほぼ100%自業自得ではあるのだが。

 効率重視の私生活は、言い換えれば効率よく寿命を消化しているということでもある。

 

 早い話が生き急いでいた前世の名残で、今も不摂生な生活がやめられないのだ。

 そもそも彼自身の家事能力は引き取った息子に『これは自分がやらないとダメだ』と切実な使命感を抱かせるレベルなのだ。

 生まれ変わったところでその本質は変わらない。

 

「うわぁ……ダメ人間だ。えみやん、絵に描いたようなダメ人間だよ」

「そ、そこまでダメかい? ちゃんと生きてはいけてるよ、僕は」

「生きてたらみんな立派な人間ってわけじゃないんだよ?」

「…………」

 

 知子にそう言われて何も言い返せなかった。

 深く考えなくても、幼い子供に家事を任せるような男が立派な大人だとは思えない。

 それによくよく考えると、前世で問題なく生きていけていたのは全て他人の手があったからだ。

 

 父と別れるまでは家事手伝いをしてくれた初恋の少女が居た。

 母と別れるまでは母が自分にできないことをしてくれた。

 ある女を拾ってからは雑務は基本的に彼女に任せていた。

 妻と結婚してからは城にメイドが居たので家事などするはずもない。

 養子と住み始めてからも、家事はその子に任せた。というか台所に入るなと言われた。

 

 改めて思い起こすと、私生活に関しては本当にダメ人間である。

 特に子どもに任せる所など、もう完全に大人失格である。

 その事実に今更ながらに思い至った切嗣は心の中で謝罪するのだった。

 

 ダメ人間ですみませんと。

 

「まあ、じいさんがダメ人間なのは何となく察してたけど」

「え? 待って、流子ちゃん。僕って学校でもダメダメなのかい?」

「なんでそれを信乃が知ってるの?」

「なんでって、そんなの……」

 

 まさか学校でもダメ人間なのかと、(すが)る様に尋ねてくる切嗣を無視して流子が信乃に聞く。

 それに対して信乃は何を当たり前のことをという顔で答える。

 

「私が切嗣の世話をしてるからよ」

 

 3人の視線が本当かと切嗣に集中してくるので、切嗣は素直に頷く。

 

「……因みにどんなことをしてるにゃん?」

「自分で起きない切嗣を起こしたり、ご飯を作ったりしてるだけよ」

「え、なにそれエロゲ?」

「エ、エロゲ!? ちょ、なに訳の分からないことを言ってるのよ!」

 

 幼馴染みが朝起こしに来るというエロゲ染みた行為を()の当たりにして、流子の目が死ぬ。

 反対にエロゲーと言われた信乃の方は、顔を真っ赤にして手をブンブンと振っている。

 

「信乃ちゃんは何を恥ずかしがってるんだ…?」

「ねぇ、えみやんってもしかしてギャルゲーの主人公だったりするの? それも鈍感系の」

「いやいや、僕はそんなにモテないから無理だよ。というか、ギャルゲーなんてとんでもない」

「今のこの女の子4人に囲まれている状況も……ううん、なんでもない」

 

 モテないとか、どの口が言っているのだろうかと4人の視線が切嗣の顔に集中するが、本人には全く自覚がない。それどころか、モテるのなら自分ような人間ではなく、誰にでも優しくできる息子のような人間だろうと思っている。彼ならば立派に主人公を務めてくれるだろう。

 

「はぁ……まあいいや。じいさんが信乃に何かするとは思えないし。でも、なんでわざわざそんなことしてるにゃん? もしかして幼馴染みってそういうものなの?」

「私はただ……切嗣のお母さんに頼まれたから……」

 

 そう言って、悲し気な表情を切嗣に向ける信乃。

 元々、彼女が切嗣の生活を監視していたのは切嗣の母からの依頼だ。

 今となっては依頼主もこの世に居ない。だが、彼女は律儀に切嗣の面倒を見ていた。

 

 それは亡くなった者の意志を継いでいるからなのか、はたまた悲しむ彼に寄り添うことが出来なかった彼女の贖罪(しょくざい)なのか。それは、誰にも、恐らくは彼女にも分からない。だからこそ、切嗣もそうした影響に対してとやかく言ったことはなかった。

 これはある種の共依存ではないかと頭を悩ませながらも。

 

「じいさんのお母さんって確か……ごめん」

「いや、気にすることじゃないよ。もう、割り切ったことだから、それに今は」

 

 嫌なことを思い出させてしまったと思い、頭を下げようとする流子を切嗣は手で制す。

 もう1年も経った。心の整理はつけているのだ。他人に気を使ってもらう必要もない。

 それに今は、過去ではなく、現在の()()を解決しなければならないのだ。

 

 

父さん(別の山)に対処しないといけないしね」

 

 

 1年間追い続けて、遂に足跡を捉えた父親の逮捕という問題を。

 

 

 

 

 

 切嗣はこの1年間、学業とインターンの傍らに父の足跡を追っていた。そしてその結果、ある違法研究所の存在に辿り着いた。それは都内にひっそりと構えた工場で、現在も稼働しているがそれはダミーに過ぎない。その工場の本分は地下の研究施設にある。

 

 日夜そこでは違法な人体実験が行われ、都内のホームレスなどがその材料となっている。そんな研究所に、矩賢らしき人物が出入りしている情報を()()()掴んだ切嗣はすぐにエンデヴァーに報告し、その研究所の制圧に乗り出すことを進言した。そして、それが受け入れられ今ここに至る。

 

「ここが研究所か。なるほど音波の具合から見ても地下に何かを隠しているのは間違いないな」

「周辺住民からの悲鳴のような声が聞こえてきたとの情報もあるので、知られたくないものがあるのは間違いないかと」

 

 工場の外から超音波を発して、地下に空間があることを確認するギャングオルカ。

 それを補足するように切嗣が調べた情報を付け加える。

 矩賢の所在を知るのは生半可な難度ではなかった。

 

 始めは(ヴィラン)時の探究者(Chrono・Seeker)』としての少ない目撃情報を(しらみ)(つぶ)しに調べて行った。

 しかし、それでも影すら捕らえることが出来ずに、焦りだけがつのる時間を過ごすことになる。

 事態が進展したのは今年の8月、お盆のことだった。

 

 母の墓参りに行った際に供えられていた新しい赤と白の菊。

 矩賢が供えたであろう花を見た切嗣は、矩賢の人相書きを持って近郊の花屋を全て回った。

 切嗣としてはダメ元だったが、奇跡的に目撃情報を得ることができ、そこを起点としてさらに調査をしていった結果、今回の違法研究所の存在に辿り着くことができたのである。

 

「しかし、地下にアジトを構えているとなると派手な戦闘はできないか……。いっそのこと、上の地盤を爆破して敵を生き埋めにするなんてどうでしょうか?」

「相澤、貴様は馬鹿か!? (ヴィラン)といえど基本殺しは無しだ!」

「作戦の1つとして言ってみただけですよ、ギャングオルカ。相手が仮にこっちの手に負えない程の強さを持つのなら、そういう作戦も合理的だというだけです」

「却下だ! 研究所に攫われた人間が捕らわれている可能性もあるのだぞ!」

 

 切嗣との交流が増えたせいか、色々と歯止めが失われている相澤にギャングオルカが吠える。

 かくいう切嗣本人も、絶対にやる気はないが同じ作戦は考えていた。

 やはりギャングオルカに言うようにリスクが高すぎるので絶対に行わないが、最終手段としては非常に有効だと考えている。

 

 絶対に許可は下りないだろうが、考えることは自由だ。

 絶対にやらないが、敵を逃がさないという点から見れば最高の策であることは疑いようがない。

 もちろん、人質や殺しかねないことを考えれば絶対にやってはならないのだが。

 

「……おい、衛宮。貴様も何を爆薬の計算を始めているんだ」

「万が一に備えてですよ。ええ、万が一です」

「俺の目が黒いうちは絶対に爆破などさせんからな! はぁ……なぜ俺がこんなことを」

 

 効率と合理性を極めようとしている後輩2人の姿に、胃の辺りを押さえるギャングオルカ。

 彼は見た目とは反対に面倒見の良い性格をしているので、自然と問題児2人のストッパーを任されているのだ。ご愁傷様である。

 

「何を馬鹿なことをしている。気を抜いているようなら(ヴィラン)でなく、俺が焼き殺す」

 

 そんな相棒(サイドキック)達のやりとりに苛立たしげな声を上げるエンデヴァー。

 “殺すぞ”という脅しではなく“殺す”と断言しているところが恐ろしいところだ。

 

「今から工場内に侵入するが地下で戦闘を行う際は俺に近づくな。炎で酸素が消費されるからな」

「分かりました。遠距離からの援護に徹します」

 

 工場内に侵入し、堂々と地下に続く道を探すエンデヴァーからそんな警告が入る。彼の“個性”は炎であり、当然のごとく燃える際には酸素を必要とする。地上ではさほど影響はないが、密閉された地下空間では死活問題になりかねない。

 

 なので、相棒(サイドキック)が酸欠状態で足手纏いにならないために忠告しているのだ。

 因みに彼自身は少々酸素が無くなろうとも“個性”の影響で問題なく動ける体となっている。

 

「ここか。重機の下に道を隠すとは随分とおざなりな隠し方だな」

「罠などは仕掛けられてないか?」

「ない。あったところで、せいぜい雑魚を足止めする程度の物だろう。ギャングオルカ、衛宮、相澤は着いてこい。残りは地上で待機、何かあったら連絡を寄こす。常に通信は繋いでおけ」

『了解』

 

 (ヴィラン)の逃げ道を塞ぐために地上組と地下組に別れ、エンデヴァー達は地下への隠し通路の中へと侵入していく。

 

「通路には足元を照らす程度の光しか置いてないか。ハ、地下に隠れていることから見ても随分と臆病な連中のようだな」

「その分、狡猾(こうかつ)である可能性もあるわけですがね」

「フン、所詮はザコだ。恐るるに足らん」

 

 いっそ傲慢とも思える発言と態度であるが、その実エンデヴァーは欠片も油断していない。

 

 トラップなどが仕掛けられないか瞬時に見分けつつ、暗い通路を自らの炎で照らしたり、ギャングオルカの超音波で通路の形状を確認させ、不意打ちなどを仕掛けてこれない様に細心の注意を払っている。

 

 ただ、その注意の払い方があまりにも自然で呼吸をするように行われているので、一見すると油断しているように見えるのだ。

 

「む、開けた場所に出るようだ」

「実験施設か、それとも別の空間か……」

 

 しばらく進んだところで、ギャングオルカが進行方向に大きな空間があることを知らせる。

 その言葉にエンデヴァーは一瞬だけ考える様子を見せるが、気にすることなく足を進めていく。

 何が来ようとも対処してみせる自信があるために。

 

「さて、出たはいいがここは明かりが完全にないな。しかし、この足元の感触は一体……エンデヴァーさん炎で照らして貰ってもいいでしょうか?」

「俺をロウソク扱いするな、衛宮。……これは芝生だな」

「芝生? 確かにそういう感触ですが、何でこんなところに」

 

 開けた空間を調べるために、ブツクサ言いながらも炎を照らすエンデヴァー。

 だが、判明した床の材質が通常屋内に無いものなので、4人とも首を捻る。

 

 

「―――ソレハ野球ヲスルタメデース」

 

 

「下がっていろッ!」

 

 突如として聞こえてきた胡散臭そうな声に反応し、エンデヴァーがすぐさま切嗣達を下げる。

 そして、闇に紛れて高速で飛んできた何かを片手で焼き払うことで打ち落とす。

 

「これは……野球ボール?」

「ソノ通ーリ。ココハ私ノ研究施設デアル“野球ぐらうんど”。私ノ作品ノ試験ヲ行ウ場所デース」

「野球グラウンドだと…?」

 

 胡散臭い何者かの声と共にライトが点灯される。

 その光が映し出したものは見事なまでの野球グラウンドだった。

 切嗣達の場所は外野の芝生部分で、ホームベース付近には謎の白衣を着た人物が立っている。

 そして、その後ろには、野球のユニフォームを着た謎の男達が9人静かに整列していた。

 

「貴様、何者だ?」

「私ハ、“オールライト博士”。野球ト科学ヲ、コヨナク愛スル者デース」

「オールライトだと? オールマイトを(たばか)る名前を名乗るか、貴様ッ!」

「オーウ、誤解デース。私ノ名前ハ英語ノ“all right”。日本語デ“大丈夫”デース」

「俺が知るか! 即刻投降しろッ!!」

 

 名前がオールマイトに似ていたために、警告も早々に不快感をマックスにして炎を噴射するエンデヴァー。しかし、その炎は進み出てきた野球選手のスイングにより無理やり曲げられてしまう。

 

「なに? コケ脅しとはいえバットの素振りだけであれを曲げるか」

「コレガ科学ノ力デ進化シタ野球選手ノ力デース! “個性”ノ出現デ風化シタ野球ノ栄光ヲ取リ戻ス事ガ私ノ目標。ソノタメニハ、ココデ邪魔ヲサレルワケニハイキマセーン!」

「ほぉ…つまり探られると不味いことをしているわけだな。裏を取る手間が省けた、感謝するぞ」

「ノー、私ヲ倒シテモ、マダ他ノ研究者達ガ居マス。コレハ優位ニ立ツ者ノ余裕デース。地下ニ潜レバ潜ルホド同士達ガ出テキマス。敗北ハ、アリ得マセーン」

 

 余程自信があるのかペラペラと情報を喋り出す“オールライト博士”。

 そのおかげで、エンデヴァーは敵が彼だけでなく、さらに地下にも居ることを知る。

 そうと分かれば、ここで無駄な時間を使うつもりはない。

 炎で作られた槍を手に持ち、オールライトに突き付ける。

 

「最後に1つだけ質問をするぞ。ユニフォームを着たそいつらに―――自我はあるか?」

『…………』

 

 喋ることなく、目には光が籠っていない野球軍団。

 だというのに、その身体能力は常人ではあり得ないもの。

 どう考えても違法改造を受けたとしか思えない。

 そして、そんなエンデヴァーの推測は。

 

 

「―――科学ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース」

 

 

 悲しいことに当たっていた。

 

「そうか、なら―――加減をする必要はないな」

 

 燃え滾る剛槍が容赦なく放たれ、オールライト博士VSエンデヴァー事務所の戦いが始まる。

 




〇オールライト博士
“個性”の出現により形骸化した野球の栄光を取り戻すべく、超人野球チームを作り上げようとしている謎の研究者。同じように平仮名部分をカタカナで喋るヒーロー『エクトプラズム』との間に浅からぬ因縁があるわけではない。


“個性”:『人体改造』
自分以外の人間の体を30%の確率で強化する手術が行える。
ただし、失敗すると患者は力を著しく失い、元に戻らなくなる。
従える9人のチームは30%の確率を何度も乗り越えた強運の持ち主達。
しかし、度重なる手術の影響で自我は失われ、ただ命令のままに野球をするだけの存在になり果ててしまった。もう無邪気に白球を追っていたあの頃には戻れないのか……。



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