正義の味方に至る物語   作:トマトルテ

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出来る限りオリキャラは使わないようにするために高校は雄英となります。
生徒はともかくとして教師陣が他の学校だと難しいので。
後、31歳組にしたのも大体同じ理由。


1話:雄英

 雄英高校。

 あのオールマイトを筆頭に名立たるヒーローを育成してきた名門校である。

 それ故に偏差値は79を誇り、倍率も常に300近くある超難関高校だ。

 そんな雄英高校に、正義の味方を目指す男は進学していた。

 

「今日から高校生活か……さて、行こうか信乃ちゃん」

「まさか2人とも受かるとは思ってなかったけど……高校まで一緒になるなんてね」

「全く知らない場所で、知っている人が居ないよりは楽でいいじゃないか」

「まあ、それは言えてるけど」

 

 真新しい制服姿が眩しい信乃と話しながら、校門をくぐり抜けていく。

 結局の所、切嗣はヒーロー科を目指すことを決め、雄英を第一志望にした。

 そして信乃の方も雄英を目指しており、見事に二人とも合格することになったのである。

 因みに切嗣が雄英を選んだ理由は、“ヒーロー”を学ぶにはここが最も効率的だと判断したからである。

 

「そういえば……」

「なんだい?」

「あなたやけに楽しそうに見えるんだけど?」

「うん、楽しんでるよ。高校生活は()()()だからね」

「…? 当たり前でしょ」

 

 おかしなことを言う切嗣に信乃は首を傾げる。

 衛宮切嗣は魔術使いとしては超一流と呼んでいい存在であった。

 魔術師としても才能はある方だった。だが、学校というものに縁はなかったのだ。

 

 生まれた時から父に連れられ海外を転々とし、父を殺してからは戦場を駆け巡る毎日。

 こんな生活では学校、ましてや高校など行けるはずもない。

 そのため、こうして高校に通えることを楽しみにしていたのだ。

 

「それに……」

「それに?」

正義の味方(ヒーロー)とは何かを知ることができるからね」

 

 なにより、かつて誤ってしまった夢をやり直すことが出来るのだ。

 正義の味方(天秤の測り手)ではなく、正義の味方(ヒーロー)としての生き様を。

 命を奪うのではなく、命を救うための道を、今度こそ歩んでいくために。

 

「……まあ、何はともあれ教室に行かないとね。えーと、1-B、1-B…は」

「おや、新入生かな?」

 

 広すぎると、ボヤキたくなるような校舎の中をウロウロと歩いていると、ふと足元から声をかけられる。思わず下を向いてみると、そこには右目に古傷がある、ネズミのような犬のような動物が立っていた。

 

「失礼、あなたは…?」

「ネズミなのか犬なのか、答えは君達の担任で名前は根津さ!」

「た、担任の先生ですか。でも、なんで見ただけで分かるんですか?」

「ハハハハ! 教師が生徒の顔と名前を覚えておくのは当然のことだろう? 衛宮君に送崎君」

 

 そう言って、自慢の毛並みを撫でながら笑う根津。

 彼は動物に“個性”が発現した珍しい例で、全てにおいて『ハイスペック』である。

 そのため生徒の顔と名前など、軽く流し見するだけで暗記してしまえるのだ。

 

「さて、教室を探してたんだろう? ついてきなさい。初日から遅刻するのはいけない。生徒も教師もね」

「どうも……」

「あ、ありがとうございます」

 

 迷ったせいで時間がギリギリだったことに気づき、足早で根津についていく二人。

 そんな初々しい姿に根津は微笑みながらも、内心で思惑を巡らせる。

 

(ヒーローに必要なものは迅速な対応力。さて、初日から飛ばして行こうか)

 

 より実戦に近しい状態でヒーローの卵を育てる方法を。

 

 

 

「というわけで、君達には今から戦闘訓練を行ってもらうよ」

 

 教室に入り自身の自己紹介が終わると同時に、根津が告げるとどよめきが走る。

 それもそうだろう。生徒達の方は自己紹介すら終えていないのだ。

 しかも初日から戦闘訓練など常識的に考えてあり得ない。

 

「あの…根津先生。自己紹介もまだですし、そもそも今日って入学初日ですよね?」

「送崎君、ヴィランはこちらの都合を考えてくれるのかい?」

 

 あまりの急展開に信乃が尋ねるが、ぐうの音も出ない反論を食らい黙り込んでしまう。

 そう、絶対にこの日は(ヴィラン)が現れないなんて日はない。

 だから、ヒーローはいつだって戦えるようにしておかなければならないのだ。

 

「それに現場では初対面のヒーローと組むことも当たり前! 当然、相手の情報だってない。全てが不明(アンノウン)! それでもヒーローは勝たないといけないのさ!」

 

 故に入学初日に行う。敵は勿論、仲間のことすら何も知らない。

 そんな経験を得ることが出来るのは今日この日しかないのだ。

 

「納得してくれたかな? それじゃあ、戦闘服(コスチューム)に着替えて演習場に集合だ!」

戦闘服(コスチューム)!?』

 

 根津の戦闘服(コスチューム)という言葉に、今まで曇っていた生徒達の顔が輝く。

 そう戦闘服(コスチューム)だ。誰もが一度は自分の戦闘服(コスチューム)を着た晴れ姿を想像したことがある。それが入学初日から着られるというのだ。

 テンションが上がらないはずがない。

 

「私も鬼じゃない。カリキュラムを早くするということは辛いことだけでなく、楽しいことも早く来るということさ」

 

 飴と鞭。根津の誇るハイスペックな頭脳から導き出される教育の基本方針だ。

 辛いことばかりでは、どんなに有望な才能も腐ってしまう。

 適度に楽しみを入れることでやる気を持続させるのがコツだ。

 

「さあ、始めようか。ヒーローへの第一歩をね!」

 

 

 

 

 

 演習場に集まった、個性豊かな戦闘服(コスチューム)を身につける学生達。

 例年ならば各々が自慢げに戦闘服(コスチューム)を見せ合うのだが今年は違った。

 

「信乃ちゃん、何だかあっちに人が集まってるみたいだけど何かあったのかい?」

「ん? ああ、あなただったのね。顔をフードと包帯で隠してたから気づかなかった」

「まあ、顔を隠せるようなデザインにしたからね、これは」

 

 猫を連想させる戦闘服(コスチューム)に身を包んだ信乃に語り掛ける切嗣。

 その姿は一言で言えば“アサシン”。

 

 顔は隠すためなのか、フードとマントが合わさったような赤い布と口元の包帯で覆われてある。

 体は硬質なバトルスーツとブーツを身にまとうことで、防御力の底上げが行われ。

 腰には武器のナイフと銃剣をしまうホルダーを装備するという、とてもではないがヒーローには見えない服装となっている。

 

「それで、何かあったのかい?」

「何かあったというか……凄い戦闘服(コスチューム)の人が居るのよ」

「凄い戦闘服(コスチューム)? それは気になるね」

「あ! あなたが見るのはちょっと…!」

 

 何やら慌てたように止めようとする信乃に逆に興味を抱き、人だかりができている方に歩いていく切嗣。

 そして、彼女の戦闘服(コスチューム)を見て目を見開く。

 何故ならその戦闘服(コスチューム)はほぼ―――裸だったからだ。

 

「………確かに凄いね」

 

 どこをどう見てもSMクラブの女王様にしか見えない出で立ち。

 だが、驚くべきところはそこではない。露出度の高さだ。

 大事なところを隠している以外はほぼ裸状態で、非常に扇情的な格好になっている。

 そのため、男子生徒からは熱い視線を。女子生徒からは畏怖の念を送られているのだ。

 

「ええ……あなたは男なんだからジロジロ見たらダメよ」

「そうさせてもらうよ。あの子は目の毒だ」

 

 なるほど、道理で止めようとしたわけだと納得し切嗣は背を向ける。

 

(肌をあれだけ晒しているのは趣味か、それとも“個性”の発動条件が関係しているのか。仮に肌を晒すことが発動条件なら対策は……)

 

 もし戦うとなった場合に、どう対策するべきかを考えながら。

 

「よし、みんな集まったみたいだね。ズバリ言うよ。今からやってもらうのは対人戦闘訓練さ!」

 

 何事もスピードを重視する唐突な根津の言葉に全員が騒めく。

 

「基礎訓練もなしに? と思うかもしれない。だが、特訓というものは自分に何ができて、何ができないかを理解して取り組まなければ意味がない。だからこそ、今の自分を知ってもらうために対人訓練を行うのさ」

「なるほど……それでフィールドは?」

「ズバリ屋内戦闘さ、衛宮君。それから今度は挙手をして尋ねるように」

「すみません、先生。それで、どういったシチュエーションで?」

 

 軽く叱られる切嗣だったが、一謝りをするだけで気にしない。

 

「郊外にある山荘。そこに人質を取り立てこもった(ヴィラン)2人組。それをヒーロー2人組で退治するのさ。因みに(ヴィラン)役と人質役も君達にやってもらうからね」

 

 (ヴィラン)役となった生徒は(ヴィラン)の思考を学ぶ。

 人質役の生徒は囚われるという経験を実感することで、人質になった人がして欲しいと思うことを知り、救助に活かす。

 そしてヒーロー役はどんな困難でも打ち破る精神力を磨くのだ。

 

「さあ、それじゃあチームを組んでもらうとしよう。方法はくじだ」

 

 どこから取り出したのか、アルファベットが書かれたボールの入った箱を取り出し生徒に引かせていく。因みにAからEまでがヒーローチームで、FからJまでが(ヴィラン)チームだ。

 

「……Fか。まあ、悪役は慣れていると言えば慣れているんだけどね」

「あ、君がF? あちきもFだから同じチームだよ!」

「君は?」

 

「あちきは知床(しれとこ)知子(ともこ)! ヒーロー名は『ラグドール』って決めてあるんだ! “個性”は『サーチ』! この目で見た人の情報は丸わかり! 居場所も弱点も!」

「……それは()()“個性”だね。僕は衛宮切嗣。よろしく、知子ちゃん」

 

 ぴょこっと、切嗣の顔を覗き込むように姿を現したのは、明るく活発そうな女の子。

 まん丸とした目に青く長い髪といった、どこかメルヘンチックな雰囲気を感じさせる子だ。

 だが、切嗣はそれ以上に彼女の“個性”に興味を持ち、警戒するように目を細める。

 情報を知られるということは、自分の()()()まで知られるということなのだから。

 

「はい、チームごとに分かれ終わったみたいだね。それじゃあ、訓練開始だ。まずはAチームとFチームがやるよ。人質役はBとG。じゃあ(ヴィラン)チームと人質役は先に山荘に入って準備をしなさい。5分後にヒーローチームが突入するから」

 

 根津の言葉に切嗣と知子は頷き、すぐに動き始める。

 皆、ヒーローを目指す生徒であるため(ヴィラン)になるのは心苦しい。

 だが、だからと言って負けてもいいと思えるほど素直な者もいない。 特に。

 

「さて(ヴィラン)になったんだ。どんな手を使ってでも勝ちに行かせてもらうよ」

 

 娘相手にズルをしてでも、勝ちに行こうとする程の負けず嫌いな切嗣は。

 

「勝利条件は15分間捕縛されず、尚且つ人質を救出されないことか。……圧倒的にこちらが有利だな。普通なら人質を取っている時点で追い込まれているんだが」

「15分経ったら仲間が迎えに来てくれるんだよ、きっと!」

「なるほど、そうかもしれないね」

 

 勝利条件を確認しつつ、会話を交わしていく二人。

 そこに人質役のBチームが合流する。

 

「まさか、自分が人質に取られる日が来るなんてね」

「信乃ちゃんが人質役だったのか。それから……」

香山(かやま)(ねむり)よ。縛られるより縛る方が好きだから人質役は不服」

「……君か」

 

 香山(かやま)(ねむり)。高校生なのに戦闘服が既にR18の領域に踏み込んでいそうな少女だ。

 もちろん彼女が先程注目を集めていた少女である。

 将来的に18禁ヒーローと呼ばれるようになるかもしれない。

 

「Gチームは? それと睡ちゃんその恰好で寒くないのかい? 女の子は体を大切にしないとダメだよ」

「Gチームはもう少ししたら来ると思うわ。後、あなたは私の父親にでもなったのかしら? この戦闘服(コスチューム)は個性を最大限に発揮するために肌を露出させたものだから仕方ないのよ」

 

 特に色気づいた眼で見ることもなく、(ねむり)の体の心配をする切嗣。

 彼の保護者染みた対応に呆れ、ツッコミを入れながら説明する(ねむり)

 そんな彼女の説明に切嗣はスッと目を細め、彼女に聞こえるように呟く。

 

「なるほど…つまり君を抑えるには肌を何かで覆えば良いというわけか」

「…!? あなた……鎌をかけたの?」

「人質の中に強力な“個性”持ちが居て、背後から襲われましたじゃあ話にならない。人質を人質として最大限に利用するには相手を知ることが重要だ」

 

 “個性”のある世界では人質を取るのも一苦労だ。

 例えば信乃であれば、どれだけ隠れて逃げていても『テレパス』で居場所などの情報を簡単に警察やヒーローに教えられる。故に人質は慎重に選ぶ必要が出てくるのだ。

 

「あははは! えみやん、本物の悪役っぽいよ! それと情報が知りたいならあちきに聞いた方が正確だよ。“個性”でなんでも丸わかりだからね!」

「Gチームの人をお願いするよ。信乃ちゃんは既に知っているから、どうやって人質に取ればいいかもわかってる」

 

 知子の悪役っぽいという言葉に、切嗣は少し傷つきながらも仕方がないと割り切る。

 殺し屋でしかなかった自分がヒーロー(正義の味方)を目指せるだけでも恵まれているのだ。

 この歪みはここで学びながら直していけばいい。

 

「さて、信乃ちゃん。君にやってもらいたいことがある」

 

 もっとも、どんな手を使ってでも勝つという主義を曲げる気はないのだが。

 

 

 

 

 

 Aチーム、茶虎(ちゃとら)(やわら)こと『虎』。

 『軟体』という“個性”を鍛え上げた肉体で扱うことで柔と剛を兼ね備えた戦いを行う()()

 土川(つちかわ)流子(りゅうこ)こと『ピクシーボブ』。

 『土流』という個性で土を自在に操り遠隔操作まで行える少女。

 

 総合的に見て、この2人のチームは近接戦闘と遠距離戦闘どちらも行えるバランスのいいチームだ。だが、現在2人は(ヴィラン)1人を相手に非常に苦戦していた。

 

「このっ…! 卑怯な手を使いよるわ!」

「思い切って攻めきれないにゃん…ッ」

 

 山荘の大きな窓から景色が臨めるフロアで戦う2人。相手は切嗣1人。

 普通の2対1なら一気に叩き潰すことも、ゴリ押しで片方だけ通過することもできる。

 だが、それをさせないどころか、まともに攻めることを許さない理由があった。

 その理由とは。

 

「さあ、どうする? 攻めてくるなら攻めてきてもいいよ。

 ただ―――人質がどうなるかは知らないけどね」

 

 切嗣がナイフを首元に押し付けた()()という人質である。

 

「くっ、この外道めが!」

「最低! 本物の(ヴィラン)より外道にゃん!」

「この外道! 恩知らず!」

【えみやん、あちきも外道だと思うなぁ】

 

 Aチームの二人は勿論。人質にとられ、ゴミを見るような目を向ける信乃。

 さらには無線越しに状況を理解した知子。

 そして勿論、モニター越しに観戦するクラスメイトもみんなで外道コールだ。

 だが、切嗣はそんな外道コールも鼻で笑うだけである。

 

「フン、聞き飽きたセリフだね」

「あなた、私の知らない所で一体何をしてきたのよ!? 十年来の幼馴染みだけどここまで酷いとは思わなかったわよ!」

「ぬう! 竹馬の友を自ら犠牲とするのか!?」

「ねこッ!? 4人の人質からわざわざ幼馴染みを選ぶとか、尻尾の毛まで逆立つ非情さ!」

【えみやん、信頼って言葉知ってる?】

 

 もう言われたい放題である。

 理由としては信乃の“個性”で、他の人質がいる場所まで教えられる危険性を無くすためなのだが、見た目と関係性が悪すぎる。

 

 敵も味方も全て彼を非難してくる様はまさに四面楚歌。

 だとしても切嗣は変わらない。

 

「すでに10分が経過している。あと5分もすれば味方が迎えに来て僕達は脱出できる」

「ああ、マズい! 早くしないと負けちゃうよ『虎』!」

「そうなったら人質は用済みとして始末するとしよう」

「『ピクシーボブ』奴なら本気でやりそうだ。死ぬ気で行くぞ!!」

 

 顔に焦りを浮かべて速攻を仕掛けようとするAチームの2人。

 しかし、切嗣は余裕の表情を崩さない。

 

「僕を倒しても残りの人質を抑えている『ラグドール』が逃げればこっちに負けはない。そして彼女は“個性”で君達の位置情報を全て知ることが出来る。尚且つ個性についても知っているから、不意打ちも不可能。つまり逃げきるのは難しくないということさ」

【えみやん、あちき胸が罪悪感でいっぱい!】

「幼馴染みだけど絶交していいかな。うん、していいよね、うん」

 

 勝利は確実に近づいているが、人心は遠のいている。

 だが、それでも勝てるのなら構わないとばかりに切嗣は手を緩めない。

 そう言ったところが、どこか子どもっぽいと人に言われるゆえんである。

 

(さて、知子ちゃんからの情報なら、『ピクシーボブ』は土の無い室内では土を操ることができない。そうなってくると、注意すべきは『虎』だけだ。“個性”の『軟体』を利用した格闘技は非常に強力。近接戦闘ではこちらが不利。だが、後退しつつキャリコで牽制すれば優位に立てる。そうすればゲームセットだ)

 

 知子からの情報を基に考え出した戦法を改めて確認し、切嗣は右手のキャリコで『虎』に照準を定める。そして、できるだけ相手との距離を取るために窓際へと下がっていく。

 

 だが、彼が真に警戒すべきは『ピクシーボブ』であった。

 

「今にゃん!」

 

 彼女の掛け声と共に窓が砕け散り、土でできた小型の魔獣が飛び込んでくる。

 

「遠隔操作…!? 土に触れずにここまで正確なものを作れるのか!」

「ねこねこねこ! まだ、そこまでできないから、これは作り置き!」

【ごめんね、あちきは場所は分かっても何をしているかまでは分からないの】

 

 『ピクシーボブ』は初めから自分の弱点に気づいていた。

 そのため、屋内に入る前に屋内でも使える小型の駒を作成してチャンスを狙っていたのである。

 

「そして、正面からは我が捨て身の特攻よ!」

「挟み撃ちか、やっかいなことを……」

 

 前からは撃たれても構わないとばかりに突撃してくる『虎』。

 背後からは無数の土魔獣。

 前を排除しようとすれば、後ろの魔獣に襲われる。

 後ろを排除すれば、前の『虎』に殴り飛ばされる。

 一見すれば完璧な作戦に見える。だが、二人は大切なことを忘れていた。

 

「まったく―――人質を盾にされるとは考えなかったのかい?」

 

 人質を取られているのだから、その命を第一に考えなければならないということを。

 

「幼馴染みを肉壁にするとか残虐過ぎ!!」

「鬼! 悪魔! 外道!! あなたのことなんてもう知らない!!」

 

 信乃を前に突き出して肉壁にして、自分は背後の魔獣を弾丸で撃ち抜いていく。

 これで前からの攻撃を無効化し、背後に集中できる。仮に前に出した人質を奪われても、今度は人質を狙って撃てばヒーローは庇わなければならなくなり、戦力を減らすことが可能となる。

 まさに完璧な作戦だ。今後の人間関係に目を瞑ればだが。

 

「ぬう!? このままでは人質ごと殴ってしまう…!」

「え、ちょっと待って? 私殴られるの!?」

 

 しかし、問題は何も今後の切嗣の人間関係だけではなかった。

 完全に一撃で決めるつもりで来ていたのでブレーキの効かない『虎』。

 そして、身動きの取れない信乃。

 このままでは容赦なく殴り飛ばされ星になってしまうだろう。

 

「……訓練でやるには少し危険だったか」

 

 流石にそれは切嗣にとっても、避けたい結果のため顔をしかめる。

 彼はあくまでも本番を想定して動いていたが、実際にはこれは本番ではない。

 負傷者が出るのはマズいのだ。ヒーロー側にとっても、(ヴィラン)側にとっても。

 

「仕方がない……固有時制御(Time alter)二倍速(double accel)

 

 だから彼は加速して信乃を横に押すことで、『虎』の拳を紙一重で避けさせ彼女を守る。

 そして―――自分が代わりに殴り飛ばされる。

 

「人質を庇って我のCATPUNCHを真正面から…!?」

「ねこ? まさか、ここに来て友情を思い出す泣ける展開に!?」

【悪の心が浄化されて、最後は2人が涙で抱きしめ合う感動のシーンね!】

「いや、例えそうだとしても私は全く泣けないんだけど」

 

 突如として、ヒーローらしい自己犠牲の精神を見せた切嗣に騒めく四人。

 因みに最初から切嗣には悪の心も正義の心もない。

 効率が良かったからやっただけである。

 

「痛たた……『軟体』により体を鞭のようにしならせたパンチか……しばらく動けそうにないな」

 

 そして、そこでモロに吹き飛ばされて壁に叩きつけられた切嗣が苦しそうに体を起こす。

 しかし、その顔には苦痛だけでなく笑顔が浮かんでいた。

 何故かと言えば、理由は単純。

 

「まあ、でも―――僕達の勝ちだ」

【あ、時間だ。あちき、何だか複雑な気分】

 

『Time up! (ヴィラン)の勝利だ!』

 

 15分は既に経過していたのだ。

 根津からの終了の放送を聞き、切嗣はホッと息を吐いて姿勢を崩す。

 そして、先程まで人質にとっていた信乃に申し訳なさそうに問い掛ける。

 

「信乃ちゃん。さっきの庇った件で、人質にとったのはチャラにしてくれないかい?」

 

「絶対に許さない」

 

「それは、手厳しい」

 

 真顔で言われたセリフに、切嗣はそう苦笑いをして肩をすくめるのだった。

 結局の所、切嗣はその後3日間は信乃から口を利いてもらえなかったらしい。

 




今回はコスチュームお披露目とキャラ紹介回。
ケリィのはヒーローっぽいアサエミの衣装にしました。
個人的にはスーツ姿が一番好きだけど、機能的には多分アサエミの方が上そうですし。

高校時代は原作キャラとの関係作りのため、言わばコネづくりです。
後、ケリィに青春というものを味わってもらうため。血と硝煙は前世で十分。

それと、原作キャラの出身高校はここでは大体『雄英』になります。
他の高校がどうなっているのか詳しくわからないせいなので許してください。
というか、バラけさせるとオリキャラ作らないと書けなくなる。
あくまでもメインは原作キャラとして書いていきます。

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