正義の味方に至る物語   作:トマトルテ
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オーバーホールさんは前プロットでのラスボス予定のキャラでした。


23話:先生の異常な執念

 一難去ってまた一難。前門の虎後門の狼。はたまた絶体絶命か。

 

 今の壊理(エリ)の状況を表すのならそう言った言葉が的確だろう。

 ヤクザのアジトから逃げる覚悟を決めて、逃げたはいいものの現実はいつだって非情である。

 自分を痛めつける人間(オーバーホール)から逃げたのに、逃げた先には彼が赤子に見える程の化け物だ。

 

 

 ―――どうしようもなくないかな、これ?

 

 

 幼い壊理(エリ)の頭にはそんな投げやりな考えすら生まれ始めている。こんなことなら大人しく暗い地下室で体を刻まれる痛みに耐え続けていれば良かったとすら思ってしまう。そんな現実逃避をしたせいか、父と母が居てまだ明るかった日々の思い出までもが頭の中に去来(きょらい)する。

 

 そして壊理(エリ)は考えることを止めて流れに身を任せることにした。

 

「可哀そうにこんなに震えて、よっぽど酷いことをされてきたんだね。大丈夫、僕が来たからにはちゃんと助けてあげるよ」

「ふざけるな、そんな勝手なことを許すとでも思うか」

「ふふふふ…なに、ヒーロー(・・・・)の本質は余計なお世話と言うからね。なら、ヒーローとして目の前の泣いている女の子を…壊理(・・)ちゃんを勝手でも救ってあげるべきだろう?」

 

 自身が悪党であることを理解した上でヒーローを自称するAFOの皮肉に苛立ちを見せるオーバーホール。しかし、今はそれ以上に聞き過ごせない点があった。なぜ、AFOが秘密裏にされた壊理(エリ)の存在を知っているのかという点だ。

 

「貴様…なぜ壊理(エリ)の名前を知っている? 壊理(エリ)は―――」

死穢八斎會(しえはっさいかい)の組長の孫娘で、その強力過ぎる“個性”を悪用されないようにと出生届すら出されていないはず…かな? オーバーホール君」

 

 そんなオーバーホールの疑問に、AFOは嘲笑うように答える。

 そして、それを聞いたオーバーホールは面白い程に顔を歪めてAFOを睨みつける。

 

「おっと、そんなに怒らないでくれたまえ。私は君の言いそうなことを言ったまでだよ」

「馬鹿を言うな、どこで壊理(エリ)の情報を知った? オール・フォー・ワン…!」

「ふふふ…逆に聞こうか。どうして僕が―――その程度のことを知らないと思うのかな?」

 

 気圧(けお)される。地獄の底から響いてくる声が暴風の如く体に死を叩きつけてくる。

 それだけでオーバーホールは理解した。理解してしまった。

 自分は絶対に目をつけられてはいけない存在に目をつけられたのだと。

 

壊理(エリ)ちゃんのことは棚から牡丹餅というところだね。最初はオーバーホール君、君の“個性”に注目していた」

「……どうやって、俺のことを?」

「警察の友達(・・)から情報をもらってね。指定(ヴィラン)団体のリストから君に目を付けた。君だけじゃない。他の構成員達も実に良い“個性”を持っているようだね。よくもまあ、ここまで上手く隠れ潜んでいたものだよ。その気になればヤクザの中でもトップになれたのに」

 

「なるほど……警察に内通者ということはウチにも内通者を入れたのか」

「さて、どうだろうね?」

 

 AFOの話しぶりから自分達の情報を横流しにしている存在が居ることを悟り、苦々し気な表情を見せるオーバーホール。しかし、それも一瞬だけだ。すぐに気を取り直して、怯まぬように相手に殺気をぶつけ返す。

 

「それで? 貴様は俺に何の用だ、オール・フォー・ワン」

「僕の仲間になってくれないかい、オーバーホール君」

「仲間だと…?」

「そう。僕は世界を支配する魔王になりたくてね。そのためにはさらに仲間が必要なのさ」

「俺に…死穢八斎會(しえはっさいかい)にお前の下につけということか……」

 

 そう言って、AFOは友好の証として握手を求める。

 差し出された右手を見て、一瞬考える様に固まるオーバーホール。

 だが、その硬直はすぐに終わり、左手(・・)を差し出す。

 

「おっと、左手での握手をお望みかい?」

「意味を教えてやった方が良いか?」

「いや、いいよ。確か意味は―――“さようなら”だったかな」

「そうだ、俺達ヤクザは誰の下にもつかん! 壊理(エリ)を渡して死ね、オール・フォー・ワン!」

 

 ヤクザの復権。それがオーバーホール、ひいては彼が慕う組長の願いだった。

 故に誰かの下に着く小悪党など、まっぴらごめんだというのが彼の思いである。

 

「仕方ないな。じゃあ、予定通り(・・・・)に殺して奪うとしよう」

「だと思っていたよ。クロノ、出てこい! あれ(・・)を使うぞ!!」

「へい、若」

 

 地面のコンクリートに手を付け、分解し、AFOの身動きを封じる牢として再構築するオーバーホール。そのままコンクリートの量を増やして圧殺しようとするが、その目論見はコンクリートを豆腐のように砕いて拘束を解いたAFOにより阻まれる。

 

 しかし、その程度は予想の範囲内だ。相手は悪の神話。そう簡単に倒せるとは思っていない。故に騒ぎが起きる可能性も無視をする。相手に息をつく間も与えずに、今度はコンクリートを槍に変えて足元から突き刺しに行く。

 

「分解と修復を上手く使いこなしているね。(とむら)にもこういう発想ができるように教えなければ」

「ずいぶんと余裕のようだが、すぐに絶望に変えてやるさ」

 

 足元からの攻撃に堪らず、宙に飛び上がるAFO。

 それこそが、オーバーホールの本当の狙いだ。普通は空中では身動きが取れない。

 そこにクロノスタシスがあの銃弾(・・)を撃ち込めば、如何なる“個性”持ちも倒せる。

 

「クロノ、今だ撃て!!」

「……へい、若」

 

 クロノスタシスが構える拳銃に込められているのは『“個性”破壊弾』だ。

 壊理(エリ)の細胞を使って作られたこの銃弾は、撃たれた人間の“個性”を消す。

 現在は試作品の段階であるために完全に消せるわけではないが、1時間は打ち消せる。

 

「これで終わりだ、オール・フォー・ワン!」

 

 如何にオール・フォー・ワンであったとしても“個性”が使えなければただの人。

 倒すのは訳がない。そんな対“個性”持ちにとっては切り札となる一撃が今、放たれ。

 

 

 ―――肉を穿つ。

 

 

「すいやせんね、若」

「ッ! ばかな…なぜ、俺を撃った―――クロノォオオオッ!?」

 

 それを利用しようとしたオーバーホール張本人の肉を。

 

「今までずいぶんとお世話になりやしたが、今日限りで死穢八斎會(しえはっさいかい)を抜けさせてもらいます」

「まさか…! お前が内通者だったのか…クロノォッ!?」

「まァ、何もかもは信じる者に背中を撃たれて倒れるという、悪辣な(・・・)シナリオのためですよ」

 

 信頼していた補佐に裏切られた怒りで、耳をつんざくような叫びをあげるオーバーホール。

 そして、すぐに裏切り者を始末するべくオーバーホールは手を地面につける。

 しかし、“個性”を消されたその手は、何1つとして分解することも修復することもない。

 

「おかえり、クロノスタシス君。早速で悪いんだが、壊理(エリ)ちゃんをアジトまで連れて行ってくれないかい? 勿論、ワープで送るよ」

「分かりました。それにしても……随分と趣味の良い(・・・・・)脚本を書きやすね」

「ふふふふ……誰かが悲痛に顔を歪める様程美しいものもないだろう?」

「まァ…あんただけは絶対に敵に回したくないですね。じゃあ、ワープお願いします」

 

 AFOがパチリと指を鳴らすと黒い泥水のようなものが現れ、壊理(エリ)を抱えたクロノスタシスを飲み込んでいく。これはワープ“個性”の一種で自分と馴染みのある相手の場所にしか送れないという欠点はあるが非常に有用な“個性”である。

 

 因みに以前は転送距離が非常に短いという欠点もあったが、使いこなしていく上でそれも克服されている。

 

「さて、それじゃあ死穢八斎會(しえはっさいかい)の方に行かせてもらうよ」

「まて…ッ。八斎會(はっさいかい)はオヤジの…!」

死穢八斎會(しえはっさいかい)、今までしぶとく生き延びてきたがそれも今日で終わりだ」

「ふざけるなッ! 八斎會(はっさいかい)は俺が死んでも守るッ!!」

「守る、ね。ふ…はは…はーはっはっはっはッ!! 実に滑稽だよ、君は。オーバーホール君」

 

 突如としてゾッとするような声で笑い始めたAFOに思わず呆気にとられるオーバーホール。

 そんな彼に対してAFOは優しく、丁寧に、子どもに教えるように語り掛ける。

 

八斎會(はっさいかい)なんて小さなヤクザを狙ったのは君の“個性”が欲しかったからだ。いいかい? 君さえ居なければ、君の“個性”さえなければ、僕は八斎會(はっさいかい)を狙うこともなく、壊理(エリ)ちゃんの存在を知ることもなかった。全ては君の“個性”からだ。

 言うなれば君の“個性”は―――呪われた(・・・・)“個性”さ」

 

 その言葉にオーバーホールの頭は怒りを通り越して真っ白になる。

 死穢八斎會(しえはっさいかい)を復興したかった。組長を助けたかった。

 だというのに、それらが滅ぼされる切欠となったのは全て、オーバーホール自身。

 

「俺は…俺はぁあああッ!!」

 

 その事実に気が触れたように叫び声を上げたオーバーホールは、自身の“個性”が失われていることも忘れ、AFOに突進していく。しかしながら、そんな特攻が何か意味をなすわけもなく。

 

 

「オーバーホール君―――“さようなら”」

 

 

 握手を求める形の左手(・・)から繰り出された衝撃波により、腹部を削り取られるのだった。

 

 

 

 

 

「はい、こちらクロノス。……なんだ、相澤君か。どうしたんだい急に電話なんて?」

 

 この世から1つの小さなヤクザが消えていく中、塩野市でステインの捜査を続けていた切嗣の下に相澤からの電話がかかってくる。極端に合理主義な人間である相澤は用事が無ければ、電話をかけてくることはないので、何かあったのかと訝しみながら返事をする。

 

【クロノス、雄英襲撃事件のことは知っているか?】

「うん。まあ、ニュースで見た程度だけどね」

 

 挨拶も無しに本題に入るという、相も変らぬ合理的な態度に苦笑しながら切嗣は答える。

 それと同時に相澤が現在は雄英の教師を務めていたことを思い出す。

 

「で、君自身は大丈夫だったのかい? ニュースだと(ヴィラン)は撃退したって聞いたけど」

【……現在は包帯でグルグル巻き状態だ】

「君が? 直接戦ったとしても君の“抹消”でそれだけやられることがあるとは思えないんだが」

【それが“個性”を消しても化け物染みた筋肉を持つ奴だった。昔戦った野球超人と同じ改造人間ってやつだ。名前は脳無(のうむ)と呼ばれていたからタイプは違うんだろうがな】

「あれか……」

 

 相澤から言われて随分前となってしまった記憶を思い出す。父親の痕跡を追って、エンデヴァーや相澤と共に研究者達の巣窟に入ったことを。そして、その最奥で遭遇した悪の化身を。

 

「そのことが電話をかけてきた理由なのかい?」

【ああ。さらに言うとだ、改造人間は複数の“個性”を持っていた】

「複数? 待ってくれ。そうなると意識を保つのが難しいどころか、死にかねないぞ」

 

 複数の“個性”を1人の人間が持とうとするとどうなるかを切嗣は身をもって知っていた。

 他人の一部を体に入れる拒絶反応による肉体の崩壊。精神を破壊する想像を絶する苦痛。

 とてもではないが、人間が耐えられる行為ではない。

 

【警察の報告では意識に関しては確認できず、特定の人間に命令に従うというプログラミングがされているだけらしい】

「……それで脳無(のうむ)というわけか。やはり科学者連中は狂ってるな」

 

 意思が無く、ただ命令に従う怪物。脳味噌が無い、または能無しとかけているのか。

 そんな命を弄び、馬鹿にする行為に嫌悪感を募らせながら切嗣は唇を噛む。

 ただ、今はそれ以上に無視できないことがある。

 

「ただ、それ以上の問題は……誰が(・・)複数の“個性”を与えたかということだね」

【そんなことが可能な存在は1人しか思い浮かばない】

「―――オール・フォー・ワン。オールマイトが討ち取ったと聞いていたが……生きているのか」

【オールマイト本人もその可能性を危惧していた……】

 

 今から6年前、オールマイトとAFOは戦い、現在は雄英で教鞭を取るオールマイトがその命を獲ったはずだった。切嗣自身は初めて会ったあの日以来、AFOとは出会ってはいない。

 しかし、『何度打ちのめされようとも、必ず君達の前に立ちはだかる』という言葉は忘れてない。

 

 絶対に諦めないという執念。煮え滾る憎悪。

 恐らくあの狂気に満ちた笑顔を一生忘れることはないだろう。

 そんな男が力を蓄えて動き出そうとしている可能性がある。その事実に背筋が冷たくなる。

 

【俺達はオール・フォー・ワンに目をつけられている。もし奴が生きているのなら……何かしら仕掛けてくるかもしれない】

「だから僕に注意するように電話をしてきたのか。エンデヴァーさんに連絡は?」

【オールマイトが連絡するとさ。まあ、あの人なら余計なお世話だと言うだろうがな】

「あはは、確かに」

 

 しかし、だからと言って怖気づくわけでもない。AFOが生きているかもしれない。さらに力を蓄えているかもしれない。だとしてもだ。成長するのは悪だけではないのだ。

 

「わざわざ、電話をしてくれてありがとう。こっちは大丈夫さ。それよりも、そっちは体育祭も近いんだから早く体を治してくれ」

【……冷静だな。まあ、心を乱すのは合理的じゃないが】

「いやいや、本音を言えば怖いさ。背負うものが色々とあるからね」

 

 かつての切嗣は全てを捨てていたからこそ、誰よりも苛烈な戦士でいられた。

 逆に家族を得て、守るものが増えるとそれらを失う恐怖から弱くなっていた。

 だが、今の彼は違う。

 

「でも、背負うものがあるから負けられない。負けられないから、人は強くなれる」

 

 守るものがあるから、背負うものがあるからこそ生み出される強さを知っている。

 負けられないこその、どんな窮地にも決して諦めずに戦い続ける真に強靭なる魂の強さ。

 それを今の切嗣は知っている。

 

「だから、誰が敵だとしても―――僕は負けない」

 

 そう断言して電話を切り、切嗣はステインの捜査に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 壊理(エリ)が黒い水のワープゲートを通り抜けると、そこはシックなバーであった。

 クロノスタシスの腕に抱えられているために、逃げることもできないので諦めて大人しく辺りを見回してみる壊理(エリ)

 

 カウンターには何も並べられていないが、バーテンダーなのか黒い霧が服を着たような男が立っており、椅子に座る何者かの千切れた“手”をマスクのように顔に付けた男に話しかけていた。しかし、2人が現れたことに気づくと会話を切り、こちらに話しかけてくるのだった。

 

「あぁ? 誰だお前ら。特にそこの白い髪のガキ、俺はガキが嫌いなんだよ。黒霧(くろぎり)追い出せ」

「ご、ごめんなさい……」

「まぁまぁ、死柄木(しがらき)(とむら)。彼女も先生に救われた子でしょうから」

「先生に?」

 

 開口一番に気に入らないと言い放つ、灰色の髪に死人のような青白い肌を持つ男、死柄木(しがらき)(とむら)

 そんな、彼を宥めるように声をかけるのは黒い霧で体ができた男、黒霧(くろぎり)

 明らかに堅気の人間ではない2人に思わず謝ってしまう壊理(エリ)だったが、(とむら)の方は先生という言葉に興味を持ったのか、ジッと壊理(エリ)を見つめてくる。

 

「先生はどこだ? 一緒に居ないのか」

「あの人はヤクザを潰している最中でしょう。まァ、すぐに終わると思いやすけどね」

「お前に聞いたんじゃねーよ。というか、誰だお前」

「クロノスタシス。以後、お見知りおきを。それと、こちらのお嬢さんは壊理(エリ)さん」

「えっと……壊理(エリ)です」

 

 クロノスタシスに促されて、ペコリと頭を下げる壊理(エリ)

 しかし、(とむら)の方は先生、AFOにしか興味がないのか挨拶を返す素振もみせない。

 

「ガキ、お前も先生に助けられたんだな」

「えっと……そうなる…のかな?」

 

 問いかけというよりも確認に近い(とむら)の問いかけに、壊理(エリ)は不安げに頷く。

 本音を言うと、怖い人ばかりに囲まれて助かったという気持ちはまるで湧いていない。

 しかし、それを言うと(とむら)を怒らせそうなのでごまかすことにしたのだ。

 そして、そんな壊理(エリ)の健気な気遣いは功を奏す。

 

「先生はすげぇだろ! ヒーローなんて社会のゴミと違ってちゃんと助けてくれる! 勝手なことばっかり言う奴らと違って導いてくれる! お前も先生に救われたなら分かるだろ!?」

「う…うん…」

 

 分からない。本音を言うとそうなるのだが、またしても壊理(エリ)は本音を言えなかった。いや、壊理(エリ)でなくてもメジャーリーガーに憧れる少年のように語る(とむら)を見て否定できないだろう。

 

「先生は今の腐った社会をぶっ壊そうとしてるんだよ! 俺もその手伝いがしたくて、一番邪魔なオールマイトを殺そうとしているんだけどな、この前雄英に襲撃かけたのに失敗したんだよ! クソッ、あのチート野郎が!!」

「えっと……」

 

 もはや話しかけていることすら忘れて1人で気炎を吐く(とむら)壊理(エリ)は呆気にとられる。

 そもそも、監禁状態であった壊理(エリ)には社会や雄英のことなどサッパリだ。

 オールマイトという名前がかろうじて聞き覚えがあるという程度である。

 

 このまま一方通行な会話が続いていくのだろうかと、彼女が半ば現実逃避気味に考えたところで救い主が現れる。

 

「こらこら、(とむら)壊理(エリ)ちゃんが困っているじゃないか」

「っ、先生!」

 

 黒い水の中からワープしてきたAFOに(とむら)が顔をパッと明るくして近づいていく。

 そんな、親を慕う子どものような姿に壊理(エリ)は自分の家族のことを幻視し、目を伏せる。

 

「なあ、先生。目当ての“個性”は手に入ったのか?」

「ああ、『分解と修復(オーバーホール)』に、他にも色々と手に入れられたよ」

「まあ、先生ならそのぐらい当然だよな! それにこれで先生の怪我が治るんだろ? おい、黒霧(くろぎり)酒を出せ、祝いだ」

「ははは、そこまでしなくてもいいよ」

 

 どこか歪ながらも確かな親愛の感情がうかがえる光景に、羨ましさを感じながら壊理(エリ)はAFOを観察する。先程、(とむら)はAFOには怪我があると言っていた。その傷は6年前にオールマイトから与えられた傷であるが、それを知らない壊理(エリ)は2人の話からどこか怪我をしたのだろうかと探す。

 

 そして、AFOの手の甲にかすり傷がついているのを見つける。

 

「……怪我」

「ん? ああ、戦いの際についたのか。まあ、甘くはない相手だったから仕方ないか」

「先生、怪我してるのか? おい、黒霧(くろぎり)すぐに手当てをしろ!」

 

 おずおずといった感じで壊理(エリ)が指し示した傷に、場は慌ただしくなる。

と言っても、AFOはクロノスタシスの裏切りが無ければ危なかったかもしれないと考えているだけで、(とむら)のように焦っているわけではない。

 

「待って…私なら…治せる」

 

 そんな場の騒ぎも気にせずに、壊理(エリ)はAFOの手に触れる。

 彼女は自身の“個性”をまだ上手く使いこなすことが出来ない。

 それ故に、コップから水が零れるのを恐れながら注ぐように少しずつ力を入れる。

 

 これが大きめの傷であれば、効果が出ない。もしくは傷ごと肉体を消した(・・・)かもしれない。

 だが、おっかなびっくりにやったのが功を奏し、傷だけ治すことに成功する。

 

「よかった…ちゃんと戻せた」

「これは……傷が出来る前に巻き戻して(・・・・・)くれたんだね」

 

 成功したことにホッと息を吐く壊理(エリ)にAFOは仮面の下で微笑みを浮かべて、頭を撫でる。

 

「わわ…っ」

「ありがとう。優しい子だね、君は」

 

 クシャリと柔らかく撫でられた髪の感触に壊理(エリ)は目を白黒させる。

 同時にその手から伝わる底知れない闇を感じ取り、身を震わせるがAFOはそれを咎めない。

 そのことに内心で大きく息をついていると、拗ねた様な声が横から聞こえてくる。

 

「へぇ、便利な回復アイテムだから連れてきたのか、先生」

(とむら)、人を道具扱いするんじゃないよ。そんな使い方では必ずしっぺ返しをくらう」

「分かってるよ……信用できない駒程、厄介なものもないんだろ?」

 

「その通りだ。人を縛るのは恐怖ではなく恩義でなくてはいけない。恐怖は駒が強くなればいつか克服される。だが、恩義は駒が強くなろうとも、利益で吊られようとも破ることが出来ない。罪悪感という鎖で自らを縛り付けてくれるからね」

 

 難しくてよく理解できない壊理(エリ)であったが、1つだけ理解できたことがあった。

 それは、昔も今も自分は誰かに利用され続ける運命にあるということだ。

 

壊理(エリ)ちゃん、僕は君を守るし、君が欲しいものを全て用意できる。だからというのも何だけど、君に手伝ってほしいことがあるんだ」

「あなたは…なにを…したいの?」

 

 壊理(エリ)の問いかけに対して、AFOは仮面の下でゾッとするような笑みを浮かべる。幸い、その表情は壊理(エリ)には見えなかったが、仮に見えていれば間違いなく泣いていただろう。それほどの狂気が籠っているのだ。AFOの願いには。

 

 

「―――勝ちたいんだ」

 

 

 一言。勝ちたいという言葉だけ。

 それだけだというのに、そこに込められた狂気じみた情熱は空気を焼く。

 壊理(エリ)だけでなく、(とむら)、クロノスタシス、黒霧(くろぎり)までもが冷たい汗をかく。

 

「僕はかつてある者達(・・・・)に負けた。完膚なきまでに叩きのめされた。

 これほどの屈辱はない。これほどの怒りはない。これほどの高揚はない。

 負けたからこそ、何が何でも勝ちたいと願う。砂漠で水を乞う様に勝利を乞う。

 

 だから力が必要なんだ。自分の力を、他人の力を、全てを1つにする必要があるんだ。

 僕は彼らに勝ちたい。そのために君の力が必要になる。

 壊理(エリ)ちゃん。僕に君の力を貸してくれないかい?」

 

 差し出される右手、疑問形ではあるが従わなければどうなるか分からない威圧感。

 そんな、生命の危機を感じさせる問いかけに幼い彼女が拒否を出来るはずもなく。

 

「…はい…わかりました」

 

 うなだれながら、差し出された右手を握り返すのだった。

 




この作品のラスボスは“個性”てんこ盛りのオール・フォー・ワンさんになりました。

これも、エリちゃんの巻き戻しという神様染みた“個性”を活かすためです。
流石に幼女を倒すわけにはいかないからね。
そして、AFOさんが前面に出ることになって弔君との関係性もちょい変化。
後継者なのは変わらないけど、俺の背中を見て育て方針になってます。

オーバーホールさんはごめんなさい。彼のエリちゃんへの異常な執着から考えて。
エリちゃんを奪うためには倒す以外の方法が無いので、黒幕に倒されるボスキャラ扱いに。
でも安心して、“個性”の方はしっかりと活躍する予定だから(真顔)



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