正義の味方に至る物語   作:トマトルテ
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8話:黒い願望

 

 それは彼が()()()光景だった。

 母が病院に運ばれたという知らせを受けた息子が病室に飛び込んでいく。

 暇を持て余しているのか、ベッドで本を読んでいた母親が顔を上げて叱るように声をかける。

 

「坊や、病室では静かにするもんだよ」

「……ああ、ごめんよ。心配だったから」

「大げさだねぇ。私はちょっと気を失ってだけさ」

 

 安堵の息を零す息子に、若干の気恥ずかしさを隠すように手を振って見せる母親。

 その様子に、緊張の糸が切れたように笑みを零し、息子は椅子に座る。

 

「酷いな。心配して大急ぎで来たのに」

「心配してくれるのは嬉しいけど、ドラマじゃないんだ。ゆっくり来ればよかったんだよ」

「親の死に目に会えないなんて最悪だろ?」

「ハ、勝手に私を殺してんじゃないよ」

 

 軽口を叩きながら親子は語り合う。

 ふと、息子は自分の視界がぼやけて行っていることに気づく。

 泣いているのだろうか。それにしては世界そのものが歪んでいるような違和感を覚える。

 まるで、そこにあるはずの無いものがあるような気持ち悪さ。

 

「母さん……(ヴィラン)からどんな奴だったんだい?」

「まあ、気持ち悪い奴だったねぇ。私の()()()で追っ払ってやったけど」

「ナイフ…?」

「そうさ、これだよ」

 

 母が笑いながら、見覚えのあるナイフを取り出してみせる。

 おかしい。患者が刃物なんて持ち込めるはずがない。

 何より、そのナイフは自分がもらった―――

 

『私の骨を使って作った“個性”を形にしたナイフさ』

 

 ―――ノイズが走る。

 母の声がしっかりと聞こえない。否、そもそも母親の声などない。

 内側から自分の脳が創り出しているだけだ。

 

 気づくな。気づいたらきっと絶望してしまう。

 だとしても、一度湧き上がってきた違和感を消すことはできない。

 

『……そのナイフって僕がもらわなかったかな?』

『ははは! そうだったね。だったら―――ここにあるのは()()()()か』

『母…さん』

 

 グニャリと世界が歪んでいく。それまでぼやけていた思考が急速に冴え渡っていく。

 気づいてしまった。こんなことはあり得ない。

 もし、あり得ないものが存在するのなら、その世界はきっと―――

 

 

 

「………夢か」

 

 

 

 どこまでも優しくて残酷な夢の世界なのだから。

 

「母さん……」

 

 意識が覚醒した切嗣は目の前で眠る母の姿を見つめる。

 病室に居ることは夢と変わらない。自分が椅子に座っているところも変わらない。

 ただ、違うのは母が目を覚ますことなく眠っていることだ。

 

「母さん…!」

 

 押し殺した声で呼びかけるが返事は返ってこない。

 呼吸器をつけ、その肌は無数の切り傷を隠すために全身を包帯で覆われている。

 そして、彼女の右手は肘から先が()()()()()()

 

 一目で重傷と分かる状態で、このまま目を覚まさない可能性すらある。

 (ヴィラン)に襲われた彼女は、生死の境をさまよう程の傷を負わされていたのだ。

 何の関係もない、赤の他人を庇ったばかりに。

 

「どんなことをしてでも生きろって言ったのは母さんだろ……」

 

 他人を見捨ててでも、自分が生きる方が大切だと教わった。

 だが、彼女はとっさの判断で赤の他人を守ろうとした。

 単に守った上で、自分も逃げられると思ったのかもしれない。

 だとしても、自身を犠牲にして助けたことには変わりはない。

 

「正しいんだろうな……正しい行為だ。僕だってそうする。でも……」

 

 今まで目を背けていた感情に切嗣は悲しみの声を零す。

 

「残された人間はこんなに辛いんだな…ッ」

 

 どんなに正しい行為をしたとしても、自分がそこで傷ついたら愛してくれた人は悲しむ。

 救われた人だって同じだろう。救われたというのに、いつまでも罪悪感を抱き続ける。

 これでは誰も救われない。行き場のないこの痛みはどうすればいいのだろうか。

 

 漠然とそんなことを考えていた所へ、電話がかかってくる。

 切嗣はもう一度、生気の無い母の顔を見つめた後に病室から出て行く。

 

「もしもし、衛宮です」

【……切嗣? 私だけど、さっき根津先生からお母さんのことを聞いたんだけど】

「信乃ちゃんか……心配してくれてありがとう」

 

 久しぶりに聞く幼馴染みの声に不思議と安堵の息が零れる。

 どうやら無意識のうちに、彼女までも傷つけられていないか心配していたようだ。

 

【それで……お母さんは大丈夫なの?】

「生きてはいる」

【生きてはいるって……】

「正直油断ならない状態だ。内臓までやられた部分があるし、右腕も斬り落とされている」

【……大丈夫だよね?】

 

 電話越しに聞こえてくる懇願するような声と自身の平坦な声の違いに、切嗣は顔をしかめる。

 他人の親であっても心から心配してくれる彼女に比べ、自分は弱みを見せない様に振舞ってしまう。これではどちらの家族か分からないと暗い気分になりながら、切嗣は安心させるような声を出す。

 

「きっと大丈夫さ。母さんはそう簡単に死ぬ人じゃないよ」

【だと良いんだけど……】

「大丈夫…大丈夫さ…必ず」

 

 信乃だけでなく、自分も安心させるように呟き、心を落ち着かせようとする切嗣。

 そんな不安定な切嗣の様子に気づいた信乃が再び声をかけてくる。

 

【…大丈夫なの?】

「ああ、きっと大丈夫だ」

【いや、その……あなたの方なんだけど】

「僕が? いや、僕は大丈夫さ。インターンだって休むつもりはない。いつも通りだ」

【本当に…? 何にも変わってないの?】

 

 変わってないのかと言われて、切嗣はポツリと本音をこぼす。

 

「………知らなかったんだ」

【え?】

「今まで家族を()()()()()()ことなんてなかったから」

 

 切嗣の中には今まで感じたことのない感情が湧き上がっていた。

 親を失う経験も、家族を傷つけられる経験も全て彼は持っている。

 だが、それはいつだって、()()()がやってきたことだ。

 

 父を殺したのは自分。母を殺したのも自分。妻も娘もその手にかけた。

 そのことに嘆かなかったはずがないし、死ぬほどの絶望を味わった。

 しかし―――

 

 

「家族を傷つけられることが、こんなにも―――憎いなんて知らなかった」

 

 

 身を焼き尽くす程の憎悪を、誰かに抱いたことはなかった。

 自分以外の誰かを本気で殺したいと思ったことなどなかった。

 

【切嗣…?】

「ずっと愚かだと思っていた。復讐なんて何も生み出さない行為で、馬鹿な人間がやっているだけだと思ってたんだ。家族を傷つけられる痛みを知った気になって、簡単に悲しみの連鎖は止めるべきだと言っていた。でも……僕は知らなかっただけだ」

 

 衛宮切嗣は常に加害者だった。

 彼が本当の意味で被害者だったのは初恋の女性を殺せなかった時だけだろう。

 だが、それ以外は全て彼自身が手を下してきた。

 

 遺族の無念や、殺した人間の憎悪を理解できていると思っていた。

 でも、本当は違った。加害者に被害者の気持ちが分かるはずがない。

 今になってようやく理解したのだ。自分が切り捨ててきた無念や憎しみの重さを。

 

「人はこんなにも……誰かを憎いと思えるのか」

 

 初めて被害者となって理解してしまった感情。

 行き場のない怒り。ぶつけようのない殺意。そして拭いきれぬ悲しみ。

 今初めて理解する。人類が石器時代から悲しみの連鎖を止められない理由を。

 

 理性などなく、ただひたすらに、憎しみをぶつけてやりたいという想いを理解してしまった。

 

【切嗣、待って! 落ち着きなさい。馬鹿なことなんて考えないで!】

「大丈夫だよ。復讐なんてしないさ……だってそれは正しくないことだから」

【本当に分かっているの?】

 

 切嗣が復讐を考えていると思ったのか、受話器越しから信乃が切羽詰まった声をかけてくる。

 その必死な声に切嗣はなんとなく嬉しくなりながら答える。

 こんな自分でも心配してくれる人が居るのだと。

 

「分かっているよ。それにインターンで忙しくしていればすぐに忘れるさ」

【……ならいいけど。それと、合宿が終わったらお母さんのお見舞いに行くから】

「ああ、その頃には母さんもきっと良くなっているよ。じゃあ、切るね」

【あ、ちょっと、まだ―――】

 

 何かを言いかけている信乃を無視して電話を切る。

 これ以上、親しい人間と話したい気分ではなかった。

 

「……殺したいと思うのも正常な感情なんだな」

 

 ボソリと恐ろしい言葉を呟きながら切嗣は無表情で歩き出す。

 彼は意図して心と体を切り離し、無感情のままに母の手術を受け持った医師の下を訪ねに行く。

 そして、医師の前で淡々と告げるのだった。

 

 

「―――切り離した()()()を譲り渡していただけないでしょうか」

 

 

 どこまでも合理的で残酷な、魔弾の材料の名を。

 

 

 

 

 

 翌日、切嗣は特に変わった様子を見せることもなく、エンデヴァー事務所に出社していた。

 

「衛宮か……休まなくていいのか?」

「おはようございます。ギャングオルカさん」

 

 出社すると同時に、エンデヴァーの相棒(サイドキック)であるギャングオルカが声をかけてくる。

 本名は逆俣(さかまた)空悟(くうご)。“個性”は『シャチ』で非常に強力な力を持つ。

 彼本人は母親が(ヴィラン)に襲われた切嗣を心配してくれる善人なのだが、見た目がすこぶる悪人なので子どもから良く泣かれたりするらしい。

 

 そんなギャングオルカの気遣いに対しても、切嗣は淡々と挨拶を返すだけである。

 だが、彼のそっけない態度は逆に心配を煽ってしまう。

 

「おい、俺の質問の意味を分かっているのか?」

「ええ、勿論。母が倒れたからと言って仕事を休むわけにはいきません」

「普通なら1日2日休んでも誰も文句は言わん」

「ヒーローは自らを省みず他者を助ける。自分の都合で休んでいい仕事ではないでしょう?」

「それはそうだがな……」

 

 どこまでも冷淡で、それでいて否定しづらい正論にギャングオルカは言葉を詰まらせる。

 

「それに、いつ目覚めるかも分からない人間を待つよりも、今まさに助けを求めている人を助ける方が効率的です」

「貴様……親に対する情はないのか?」

 

 咎めるような言葉を投げかけるギャングオルカに、切嗣は少し黙った後に背を向けて歩き出す。

 その人を馬鹿にしたような態度に、流石のギャングオルカも苛立ちを見せ切嗣の肩を掴み取る。

 

「おい、衛宮!」

「……僕達は誰かの支えになるのが仕事です。いつだってそれは変わらない。どんなに辛いことがあったとしても顔を上げていないといけない。ヒーローが弱みを見せたら、助けを求める弱者がヒーローにすがれなくなる。だから正義の味方(ヒーロー)はいつだって強くなくてはいけない…!」

「…っ! ……悪かったな」

 

 掴んだ肩から伝わってくる震えにギャングオルカは恥じ入る。

 家族を傷つけられて何も思わない人間などいない。

 だとしても、自分達はヒーローなのだ。弱り切った誰かを守る役目なのだ。

 

 ヒーローという弱者がすがれる柱が折れてしまったら、弱き者は何にすがればいいのか。

 だからヒーローはいつだって笑ってみせる。痛くとも、辛くとも、悲しくとも。

 平和の象徴として、絶対に崩れない存在として立ち続けねばならないのだ。

 

 そんな当たり前で、何よりも難しいことを実行しようとしている年下の少年の姿に何も思わないわけがなかった。自分ではなく、あくまでも他者のために生きる。

 

 その、痛々しくもの悲しい姿こそが―――英雄(ヒーロー)なのだから。

 

「行きましょう。もうすぐ、ミーティングが始まります」

「ああ……そうだな」

「エンデヴァーさんは気が短い。待たせるわけにはいかない」

「……そうだな」

 

 背筋を伸ばし、会議室へと歩いていく切嗣の後ろ姿を見ながらギャングオルカは思う。

 とてもではないが、インターンに来ただけの高校生には見えない。

 まるで何年もここで働いているかのような錯覚をしてしまう。

 

 先日の『口裂け女事件』での対応もそうだが、やたら大人びている。

 だというのに、先程の震えから分かるように、彼の内面にあるものはどこか子どもっぽいもの。

 そんなアンバランスさを感じさせる後輩について考えている間に、会議室に到着する。

 

『おはようございます、エンデヴァーさん』

「来たか、早く席につけ。他の奴らは既に来ているぞ」

「分かりました」

 

 舌打ちでもしかねない口調で、2人に座るように急かすエンデヴァーだが、別に2人が遅刻した訳ではない。エンデヴァーは基本的に時間は無駄にしない性格であるために、早い準備を常に心がけており、相棒(サイドキック)達もそれにならって常に早い行動を行っているのである。

 

「先日の『口裂け女事件』は無事に解決した。警察が動機やら犯行目的を事情聴取しているらしいがどうでもいいことだな。そのうち裁判にかけられて死刑になるだけだ」

 

 初めの言葉も無しに、事件の経過を話し始めるエンデヴァー。

 だが、相棒(サイドキック)達にとってはいつものことなので、誰も何も言わない。

 

「そして、今後に追うことに決めた(ヴィラン)は―――ムーンフィッシュだ」

『な…っ!?』

 

 だが、続けて告げられた名前には相棒(サイドキック)達は1()()を除いてざわめき立つ。

 (ヴィラン)『ムーンフィッシュ』は最近、巷を騒がしている通り魔である。

 ムーンフィッシュは自らの歯を変幻自在な刃として操り、人の肉面を見ることに興奮を覚える危険な存在だ。

 

「いいのか!?」

「口答えするな、ギャングオルカ」

「しかし、ムーンフィッシュは―――」

 

 しかし、相棒(サイドキック)が驚いたのはムーンフィッシュが凶悪な犯罪者であるからではない。

 ムーンフィッシュについ先日襲われた被害者が誰かを知っていたからである。

 

 

「―――衛宮の母を襲った張本人だぞ!?」

 

 

 そう、切嗣の母親の体を快楽目的で切り刻み、右腕を奪った張本人がムーンフィッシュなのだ。

 エンデヴァーは欠片も気にしているようには見えないが、相棒(サイドキック)達は別だった。

 高校生という不安定な年代な切嗣が、復讐に走ってしまう危険性は十分に考えれれる。

 

 そうでなくとも普段ではあり得ないようなミスを犯してしまう可能性もあるのだ。

 常識的に考えれば被害者家族の切嗣を今回の事件に関わらせるべきではない。

 だが、そのような心配はエンデヴァーにはなかった。

 

「だ、そうだが。問題はあるか?」

「いえ、何も問題はありません」

 

 ムーンフィッシュの名前が出た際に、()()1()()微動だにしていなかった切嗣が静かに頷く。

 周囲の人間が咎めるように見つめてくるが、彼の表情は能面のように動かない。

 まるで、そこに居るのが人間ではなく、機械だとでも言わんばかりに。

 

「内容を変更するつもりはない。そもそも、どんな状況だろうと仕事をこなすのがプロだ。遊びに来させているわけじゃない。こなすべき仕事はしっかりとやってもらう」

「はい。ですので、先輩方も僕のことは気にせず業務に集中してくださって結構です」

「相手は隠れながら犯行を繰り返している。見回りは長期的なものになるぞ、覚悟しておけ」

 

 最後にそれだけ告げて、反論を許すことなく立ち去って行くエンデヴァー。

 その傍若無人ぶりに言いたいことがありそうな顔をする者も居たが、誰も口を開くことなく、気まずそうに切嗣の方を見た後に会議室から出て行く。

 

「行きましょう、ギャングオルカさん。市民をこれ以上危険に晒すわけにはいきません」

「……ああ、そうだな」

 

 他の相棒(サイドキック)の視線を気にすることなく、淡々と歩き出す切嗣。

 傍から見ればその姿には、動揺というものが一切見受けられなかった。

 

 ただ一つ、誰からも見えない様に、強く握られた拳を除いては。

 

 

 

 

 

 人間の肉面はどうしてああも美しいのだろうか?

 

 1人の男が月明かりの路地裏で獲物を追いながら、そんなことを考えていた。

 

 きっかけは小さな疑問だった。生き物の中身はどんな色をしているのだろう。どんな形をしているのだろう。触れるとどんな感触なんだろう。そんなごくありふれた疑問。それを知ろうとしただけだった。

 

 初めは猫や犬、鳥を解体してその中身を覗いた。

 

 動脈出血の鮮やかな赤色(せきしょく)。白く弾力のある新鮮な脂肪。死後もなお痙攣する筋肉。

 生物という奇跡の存在の全てを味わった。今でもその興奮を覚えている。

 だから、興奮をもっと味わいたくて多くの命を切り刻んだ。だが、何事にも飽きは来るもの。

 

 ―――動物に飽きたなら人間の肉面を見ればいい。

 

 その考えに至るのに時間はかからなかった。

 今まで感じることのなかった、人が人を殺すことへの背徳感。

 自分と同じ肉持つ者を切り刻む快感。

 その全てが彼を新たなる世界へと導いた。

 

 初めに殺したのは両親。

 

 自分の基になった肉面に感動すら覚えた。

 

 自身の生まれた場所をじっくりと眺め、その温かい腹腔(ふくこう)を愛おしく撫でた。

 

 それでもまだ足りるわけが無かった。否、刻めば刻むほどより多くの断面を見たいと彼は欲する。自らの(やいば)で斬るときの快感を忘れられない。男と女の断面の違い。子どもや老人、赤ん坊の中身の差異。知れば知るほどに欲望は膨れ上がっていく。だから彼は人を刻み続けた。

 

 人間の内側を覗きたいという己の欲望を叶えるためだけに。

 

「ねぇ…君の肉面を見せて。僕のおもちゃになってくれない?」

「ひぃ!? く、くるなッ!」

「君は子どもなんだよねぇ? 前に()()()()より、柔らかくて、綺麗なにくめぇぇん!」

「助けて! お母さん!!」

 

 そして、今宵もまた、男『ムーンフィッシュ』は新たな肉面を見ようとしていた。

 今日、肉面を()()()()()()のは小学生ぐらいの男の子。

 弾力があり、まだあどけなさを残す断面は、きっとよだれが出る程に美しいだろう。

 

「心配しなくていいよぉ。僕に肉面を見せてくれれば殺しはしないからさぁ」

「う、うそだ! そんなデッカイ包丁で切られたら死んじゃうよ!」

「本当だよぉ、肉面さえ見られれば後はどうだっていいからねぇ、男も女も飽きたらポイだよ」

 

 ムーンフィッシュの()には巨大な肉切り包丁が握られていた。

 自身の“個性”で切断するのも悪くないが、こうした道具を使うのも趣がある。

 刃物の種類によって肉面の顔が変わるのだから、興味は尽きない。

 

 ノコギリを使う時は、ゆっくりと悲鳴を聞きながら手足をそぎ落とし。

 チェーンソーを使う時は太い胴体を真っ二つにし、内臓のコントラストを楽しむ。

 ナイフを使う時は(はらわた)が良く見えるように丁寧に腹部を裂く。

 

「にくぅ切り包丁はぁー…指を1本、1本、斬り落としてぇええ、骨と肉の断面を眺められるよぉ」

「いやだ! そんなのいやだ!!」

「逃げてもむぅだぁ……君は()()()みたいに僕の“歯”で綺麗な筋繊維まで見てあげるぅ」

 

 死の恐怖から失禁しながら男の子は座り込む。

 逃げなければならない。だが、足が震えて言うことを聞いてくれない。

 そんな男の子の様子を楽しむ様にムーンフィッシュは涎を垂らしながら、近づいて行く。

 

「誰かぁッ!? 誰かぁあああッ!!」

「良いぃ声で鳴くねぇ……興奮してきたよ! あの女みたいに優しく切り刻んで(遊んで)あげるぅッ!」

「誰か…助けて…ッ!」

 

 そして、絶望と恐怖からグチャグチャになった顔に興奮を覚えながら、肉切り包丁を振り上げ。

 

 

固有時制御(Time alter)―――三倍速(triple accel)!」

 

 

 突如、腹部に襲ってきた鋭い蹴りによって吹き飛ばされてしまう。

 

「もう大丈夫だ。よく頑張ったね」

「あ…あ……」

「立てるかい? 1人で歩けるならこの道を真っすぐ行くんだ。そしたら、他のヒーロー達が君を守ってくれる」

 

 ムーンフィッシュを蹴り飛ばした男は、男の子の方を振り向くことすらなく語り掛ける。

 それは何も彼が冷淡だからという理由ではない。ただ、敵があの程度の攻撃ではダメージすら受けていないと確信しているからだ。

 

「誰だああッ! 僕の肉面を邪魔するのわぁ!? 邪魔する奴はみんな切り刻んでやるぅッ!!」

 

 その証拠にムーンフィッシュは口から出した刃を支えにして、すぐに立ち上がってみせる。

 そんな、まさに悪魔とも言える姿にも表情を見せることなく、“魔銃コンテンダー”を構え、切嗣は短く答えるのだった。

 

 

「―――正義の味方だよ」

 

 

 凍りついた瞳の奥にどす黒い炎を宿しながら。

 

 





ムーンフィッシュさんは死刑囚&脱獄犯なので原作より前の段階で人を殺している。なので、その事件に巻き込まれたという形で彼を出しました。
オール・フォー・ワンを予想してくれた人も居ましたが、先生はまだです。
全盛期の先生はもうちょい後に出ます。

後、サイドキックの同僚で動かせる人が欲しかったので、21歳のギャングオルカさんに登場してもらいました。彼を選んだ理由はどうせならヴィランっぽい奴らで固めようと思ったから。

男ばっかりになるけど、まあ、仕方ないよね。女キャラはヴィランで補います(笑)


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