『あれあれ?』
『あれあれ?』
『なんだろうね?』
『なんなんだろうねえ?』
『どうする?』
『どうしよう?』
『見てよっか?』
『見てみよっか?」
『うふふふふ』
『あははははは』
『『お腹空いたねえ』』
ぎょろり
* * *
ズドォォォォォン
聞こえた爆音、そして直後に感じたのは体を打ち付けた痛み。
「…………ふえ?」
目を開く。うつ伏せになっていたから、コンクリート舗装された地面だけが見えた。
痛む全身、目じりに涙を浮かべながら顔を上げて…………。
「……………………」
ただ言葉が出なかった。
どうして、一体どうしてこんなことになっているのか、何よりも。
「
それに。
「
どうして自分がこんなところにいるのか、何より、自分が一体誰なのか。
そんな当然のことが、どうしてか分からなかった。
何も無かった、自分が、何も無い、空っぽな存在なのが理解できた。
どうして、なんで、何が。
分からないことだらけで、戸惑いを覚える。
けれど状況は待ってはくれない。
シュン
と。
近くで何かが動く音がする。
ほとんど反射的に、音のした方向へと視線を向け…………。
そこにまるでカミキリムシとカマキリを足して人の形にしたような、奇妙な生物がいた。
――――ぷれでぃかーだ。
知らないはずの単語が脳裏に浮かび上がる。
けれどそれが何を意味するのか、理解するより早く。
目の前で、蟲人が消えた。
きょとん、とその事実に対して小首を傾げようとして。
――――ふせろ。
本能的に体が動いた。
アスファルトの地面にしがみつくかのように体が伏せると同時に、背後に現れた蟲人がその大きな鎌を薙いだ。
タッチの差、あと一瞬動くのが遅ければあの鎌に斬り裂かれていただろうことを理解すると同時に。
目の前のソレが危険な存在だと認識する。
「あ…………あ…………う…………」
途端に、体が強張り、思うように動かなくなる。
差し迫った危険に、本能が恐怖し、動かない。
けれど蟲人は待たない、ぎちぎちと不快感の残る鳴き声を鳴らしながら、腕を、その先の鎌を振り上げて。
――――逃げろ。
咄嗟、両足で地を蹴る。
それで動いた距離などたかが知れている、ほんの10cmか20cmほど。
それでも、その僅かな隙間に鎌が突き刺さる。
一撃目を避けた、そのことを理解する間も無く。
「あ、あ…………あああああああ!!!?」
叫びを発すると同時に体の緊張が解ける。
両手で地を叩き、体を起こしながら、もつれそうな足で二度、三度とアスファルトを蹴る。
一メートルほど、距離が開く。
体が震えを起こす。膝は笑っているし、今にも崩れ落ちそうだ…………最も、そんなことになれば直後に死ぬ未来しか見えないが。
ズッズズッ
蟲人がゆっくり、摺り足でこちらへと近づいてくる。
逃げなければならない…………生きたいならば、あの奇妙な生物から逃げなければならない。
「あ…………あぅ…………」
カチカチと歯が鳴る。目から涙が零れ落ちる。口から声にもならない空気の漏れる音だけが虚しく溢れる。
分からない、分からない、分からない。
何なのだろうか、この状況は。一体どうして自分はこんなことになっているのか。
分からない、分からないから不安が収まらない。
果たして自分は生きて逃げることなどできるのだろうか。
けれど、そんな内心の不安を押し殺し。
ふっ、と再び蟲人が消える。
背後、そのことを一度の死線で理解すると同時に。
「あっ…………っと!」
倒れ込むように前方へとダイブ。勢いを駆って、地面でくるり、と一回転。回転の勢いのままに起き上がり走り出す。
直線はダメだ、また回り込まれる…………だから。
くるり、とすぐさま建物の影へと入る。読み通り、視界が途切れたことで自身の背後に回って来る、ということは無さそうだ。
けれど、直後にざっ、とアスファルトを踏む音。
振り返れば建物の角に先ほどの蟲人が居て。
――――ぎょろり
「っ!」
咄嗟に伏せる。それだけが今自身にできる生きる道だと信じて。
それが功を奏したのか、自身の真上で空気を切り裂く音。
再び走り出す。けれど体がすぐに悲鳴を上げる。
だがそれでも走る、走らなければ死ぬ。それを理解しているからこそ足を動かそうとするが、けれど重い。
「うっ…………くぅ!」
足に感じる痛みに一瞬足を止めそうになる。
割れたアスファルト片を踏んだのだと気づく。今の今まで気づかなかったが、素足だ。何も履いていない。
街中は荒廃していた。建物は瓦礫と化し、アスファルト舗装された地面がひび割れ、時にはささくれ立ち、窓ガラスが散らばっているところもある。
ダメだ、止まるな。
痛みに片目を閉じながらそれでも走る。
けれどやはり子供の足だ、すぐに限界が来て。
「あっ…………」
とん、と足がもつれ。
とてん、と地面を転がる。
アスファルトに体を打ち付け、全身を襲う痛みに涙が止まらない。
「ぅ…………う…………」
痛みを堪えようとして、声を押し殺す。
そうして、ふと気づく。
自身が追われていたことに。
「あ…………ああ…………」
目の前で、蟲人が鎌を振り上げていた。
鋭い切っ先が陽光を反射した。
そうして。
振り下ろされた。
* * *
――――目を見開く。
振り下ろされる鎌に、咄嗟に。
べきり、と小さな拳の一撃に
突き出した拳の先から溢れたフォトンが目の前の
「…………危ねえな」
突然の反撃に驚いたらしいプレディカーダが数歩、後退する。
だがそれを許すはずも無い、体を跳ねさせながら再び拳にフォトンをたっぷりと溜めこみ。
振り抜いた拳がプレディカーダのコアを狙い撃つ。
ぼん、と呆気ないほどにプレディカーダが霧消する。
と、同時に。
「ぐ…………あぁ」
すとん、とその場にへたり込むように腰を下ろす。
アスファルトの上に直接座り込んでいることすら気にならないほど体中に痛みが走った。
「クソ…………なんだこれ」
どうして自分はこんなところにいるのだろうか…………奇しくもつい先ほど少女が考えたことと全く同じことを同じ体で思考した。
「ここは…………市街地か? なんでこんなとこに? それに最後…………確か俺はあの時」
■■と差し違いに倒れて…………けれど相手は生きていて。
「…………まだ世界が残っているってことは、倒せたのか? いや、それとも一回滅んでまた俺は…………」
思考してみても無駄だと即座に悟る。ここにいる限り答えは出ない。
ならば…………。
「取りあえず動くか」
痛みの走る足の裏を見やれば、足の皮膚を突き破りアスファルト片が刺さっていた。
舌打ち一つ、突き刺さったアスファルト片を取り除けば、血が滲みだすが。
「…………何もねえな」
モノメイトの一つでもあれば、いくらかマシになったのかもしれないが、上から下まで繋がれた…………ワンピースと言うのだったか。白のワンピースを着ている。それ以外には無い。ズボンも靴も無い、当然靴下も無い。まあさすがに下着はあったみたいだが、下だけだ。上は無い。
「…………ていうか、この体、女か?」
今になってようやく気づく。あるはずの物がない不可思議な感覚。
身長は…………130あるかないかと言ったところか。体型から見てまあ五歳前後の子供だろうか。
性別は女、肌は白い。髪の色は…………後ろで括っている髪が前まで垂れていたので見えたが藍色、とでもいうべきか。
鏡は無いのでどんな顔かは分からないが、まあこの世界基本的に顔面偏差値が総じて高いので悪くは無いと信じたい。
改めてみれば、体の動かし方に違和感を覚えるのは子供だからか、それとも女だからか。
ただ感じるフォトンの力は、以前の自身の物と同じだ。
フォトンの力は、人それぞれ固有だ。集めているフォトン自体は同じでも、体の中に入った時点でその人物固有の波長のようなものが出てくる。
故にフォトンの力を解析すればそこに誰がいたのか、とかそういうことも分かるし、実際戦ったことのある相手ならば感じるフォトンだけである程度察しをつけることもできる。
そういう前提を知った上で。
この体から溢れてくるフォトンは以前の自身の物と同じだ。
けれど。
体の奥底に、もう一つのフォトンを感じる。
「…………この体の持ち主のか?」
先ほどから薄ぼんやりとした意識で何かを呟いていた気がする。
はっきりと意識が覚醒したのは直前の話だが、その前からこの体を誰かが動かしていたとするなら。
「…………気絶した?」
代わりに自身が出て来た、というのはどうだろう。
昔そんな漫画だったか小説だったかがあった気がする。
自身はすでに死者だ。
そういう認識が自身の中にすでにある。
まさしく幽霊的存在。ならば、今自身がすべきことは。
「…………この体を安全な場所に移動させることか」
何故自身がこの体に宿っているかは知らないが、この体の持ち主が目を覚ました場合、自身は再び意識を暗転させることになる可能性がある。
目覚めた直後の様子からして、この体の持ち主が何事も無くこの崩壊しつつある市街地から抜け出せるとも思えない。
「…………何で市街地が襲われてるんだ? クエストか?」
確か市街地襲撃クエストがあったような気がする。ゲームとして遊んでいたのは過去の話のため、どうにも記憶がはっきりとしないが。
市街地クエストの場合…………えーっと、確か適当に敵を倒してればポイントが溜まってクエスト終了だったよな。
「ダメだ、まるで当てにならん」
この状況でそんな知識があってどうしろと。そもそもどう考えてもこの体の持ち主はアークスじゃないだろうし。
「となれば…………現地のアークスと合流するのが賢明か」
市街地、というかアークスシップが襲撃されているのだ、当然アークスが救援に来ているはずだ。
フォトンを感じる方へと進めば、恐らく会えるだろうと予想し。
直後。
「っ!?」
フォトンの高まり、そうして弾ける感覚。
誰かが戦っているのだと、直観的に理解する。
この状況で、否、そもそもフォトンを使って戦う存在など、アークスに決まっている。
そちらへ向かえば合流できる、それを確信して。
足を向けようとした瞬間、ぐらり、と体が揺れる。
「…………う、嘘だろ」
このタイミングでか、この一番大事なタイミングで。
「目覚めやがった」
持ち主が、目覚めかけている。
代わりに自身の意識が引っ込められる。
ダメだ、あと少しで良い、あと少しだけ、寝ていてくれ。
そう願うも、意識がどんどん堕ちていき。
「……………………ふえ?」
体から漏れた小さな呟きを聞きながら。
体の感覚が消えうせた。
……………………。
………………………………?
………………………………………………あれ?
* * *
「……………………ふえ?」
気が付くと、蟲人が消えていた。
どうして、そんなことを考えながら。
どうしよう、そんなことを考えた。
途方に暮れていた。
どうして自分がここに居るのか、どうして記憶が無いのか、何も分からないから呆然とするしかない。
今も街のどこかで爆音が響く。その度にびくびくと身を竦ませる。
指針が無い。
否、そこまで幼い少女は深く考えているわけではないが、結局のところ、記憶が無い故に現状が上手く把握できず、どうすればいいのか戸惑っていた。
最も、少女の年齢を鑑みれば記憶があったところでどうなるという物でも無いかもしれないが。
自分のことすら分からない不安と迫る命の危機、小さな少女の幼い心が押しつぶされそうになっていた、その時。
――――真っすぐだ、真っすぐ歩け。
声が聞こえた。
「ふえ…………だれ?」
左右を見渡す、けれど視界の中には誰の姿も映らない。
声の主の姿は見えず、声も聞こえなくなる。
どうするか、一瞬だけ悩み、けれど声に従って歩きだす。
真っすぐ、瓦礫の散乱し、車が炎上する街の中をとぼとぼと進んでいく。
そうして、そうして、そうして。
「…………あれ?」
前方から歩いてくる小さな影を見つける。
金の髪の小さな子供の姿。
自身と同じくらいの年の。
ふらふらと、おぼつかない足取りの少年が視線を上げ。
二人の視線がぶつかり合った。
PC①おにいさん
なんかちょいちょいメタな発言するおにいさん。現役以前より害悪テッセンマンだった。幽霊属性ついてる気がする。カンストレベルですもの、そりゃレベル40~60のプレディカーダくらい拳だけで殴り倒せますよ。
PC②ようじょ
記憶の無いようじょ。プレディカーダに攻撃されたけど、フォトンの力が無ければ即死だった。PC1が表に出ている時に限定してBr80Hu80になる。うわようじょつよい。
出だしの【■■】
『誰だろうね?』『誰なんだろうね?』『うふふふ』『あはははは』
途中の【■■】
まじつよなはずなのに遊び過ぎてやられる人。でも本人的には楽しければ満足。
相棒
「やる気出ねえから一人で頑張ってくれよな、相棒!」
制作陣のせいでガチ屑認定されつつある相棒。
今作ではちゃんと相棒させてあげたいと書いてて思った(
PSO2の天使
相棒が来た方向にもうちょっと歩けば出会えますよ。出会うと過去改変だけど。
ところで今回テッセンできなかったのが不満だわ。
まあカタナ無いからできないのは当然なんだが。