雪ノ下雪乃が姉である雪ノ下陽乃を倒す話。

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雪ノ下雪乃「姉さんを倒す」

 ある日の事である。

 奉仕部はいつものように活動していた。

 雪ノ下雪乃は本を読み、比企谷八幡もまた本を読み、由比ヶ浜結衣はケータイをいじっている。これを活動と言っていいかは疑問だが、依頼が来ない以上は仕方がない。

 

 ――パタン。

 

 ふいに、本が閉じる音が聞こえた。

 音の主は雪乃である。

 しかし、彼女はまだ本を読み終えてはいなかった。かと言って、まだ終了の時間には程遠い。

 一体なんだろうか……結衣は不思議そうな顔で雪乃を見、八幡は気にしてない風を装いながら横目で雪乃を見た。

 

「もう直ぐここに、姉さんが来るわ」

 

 八幡が露骨に嫌そうな顔をし、結衣もまた顔を曇らす。

 雪乃の姉――雪ノ下陽乃は奉仕部のメンバーにとって、苦手意識の対象だ。

 

「まあ待ちなさい。貴方達が姉さんを得意としてない事は分かってるわ。けれど、今日に関してはチャンスなのよ」

「どゆこと?」

「姉さんがここに来る、という事を私達は知らないと姉さんは思ってるわ。きっとサプライズで来て、私達を驚かす事で先手を取るつもりなのね」

「待て。雪ノ下さんが隠そうとしてる事を、どうしてお前が知ってるんだ?」

 

 雪ノ下陽乃の能力は高い。

 その妹である雪乃もまた大変優秀であるが、姉はその一歩も二歩も上を行く。

 そんな彼女が隠そうとしてる事を見破れるとは、にわかには信じがたい話だ。

 

「運転手を買収したからよ。「姉さんにサプライズでプレゼントを渡したいから、姉さんが総武高校に向かって出かけたら教えて」って言ったら、直ぐ私の方についてくれたわ」

「え、えげつねえ……」

「それで本題なのだけれど――ここに来る姉さんを逆に驚かして、姉さんをギャフンと言わせようと思うの」

 

 雪ノ下が「ギャフン」て言うとなんか少し面白いな、と八幡はどうでもいい事を思った。

 

「シミュレーションするわね。これまでの傾向から言って、姉さんはあっちの扉から入って来るわ」

 

 雪乃が扉を指差しながら言った。

 

「やっはろー! 第一声はこうでしょう。普段なら比企谷君が「げっ!」と言う顔をして、私は「姉さん帰ってちょうだい」と困り顔。そして由比ヶ浜さんが「やっはろー」と返しつつも、少し俯く――間違いないわね?」

「うん……」

「そこで私は考えたわ。由比ヶ浜さん、貴方は「やっはろー」ではなく「やんのかゴラァ!」と返しなさい」

「ええっ!?」

「そしたら比企谷君、貴方は全て服を脱いでから「陽乃さん陽乃さん陽乃さん陽乃さん陽乃陽乃陽乃陽乃陽乃陽乃陽乃ォォォォオオオオ!!!」と言いながらサンバを踊り出してちょうだい」

「!?」

「私は床に捨てられた比企谷君の服をダシに紅茶を淹れて「姉さん、早く帰ってちょうだい」と言いながらそれを頭から被るわ」

「待て待て待て! 雪ノ下、待て!」

「ゆ、ゆきのん? その、大丈夫?」

「由比ヶ浜さん」

「は、はい」

「貴女は「やんのかゴラァ!」と言った後「私のお団子食えやァ! ご希望なら調味料もあるぞ!」と言って迫ってくれるかしら」

 

 こと。

 雪乃は鞄から塩と胡椒、それからチリソースを取り出し、机の上に置いた。

 全て業務用である。

 

「ゆ、ゆきのん!」

「何かしら」

「その、えっと……本気?」

「由比ヶ浜さん。私は嘘をつくのが嫌いなの。もちろん本気よ。本気で姉を倒したいと思ってるし、その為には貴女達の協力が不可欠だと思ってるわ」

 

 ――不覚にも、由比ヶ浜結衣は感動した。

 ここまで素直に雪乃が助けを求めた事が、かつてあっただろうか。

 結衣にとって雪乃は憧れの存在だ。

 いつだって彼女の役に立ちたいと思ってるし、頼られたいと願っている。

 こんな事でも――こんな事でも雪乃が頼ってくれた事が、心から嬉しい。

 ふと横を見ると、八幡がぽりぽりと頰をかいていた。きっと八幡も同じで、こんな小さな事で喜んでしまう自分が恥ずかしいのだろう。

 それを見ると、なんだか温かい気持ちになれた。

 

「やるよ! 私「やんのかゴラァ!」って陽乃さんに怒鳴った後、塩と胡椒とチリソースを持ちながら「私のお団子食えやァ! ご希望なら調味料もあるぞ!」って迫るよ!」

「ありがとう。とても嬉しいわ、由比ヶ浜さん。それで……比企谷君は………」

「ま、気が向いたらな」

「そう。相変わらず、素直じゃないのね」

「うっせ」

 

 八幡がそっぽを向き、結衣と雪乃が微笑みながらそれを見る。

 

「! そろそろ姉さんが来るわ! 配置について!」

 

 八幡はなんでもない風にラノベを広げ、結衣が若干緊張した顔でケータイをいじりだす。

 雪乃は深呼吸をし、心を落ち着かせていた。

 ドクン、ドクン。

 心臓の音まで聞こえてきそうな、重い静寂が満ちる。

 一秒か、一分か、はたまた一時間か――時は流れ、そしてついに訪れた!

 

 ――ガラ。

 

 扉が開かれる。

 顧問である平塚静でないかだけを一応確認。

 そこに居るのは、間違いなく雪ノ下陽乃であった。

 相変わらず人の良さそうな、それでいて邪悪な笑みを浮かべている。

 

(ゆきのん……!)

 

 決意の眼差しで雪乃を見る。

 雪乃は言葉を発さず、コクンと頷いた。

 瞬間、結衣は駆け出した。

 

「やっは――」

「やんのかゴラァ!」

「えっ!?」

 

 狙い通り陽乃は固まった。

 

「……」

「……」

 

 一方八幡はラノベを読み続け、

 雪乃は小説を読みふけっていた。

 まさかの裏切りである。

 恐らく、いや間違いなく戦後最大の裏切りであろう。

 

「あはははは……ガハマちゃん面白いねー」

 

 あまつさえ敵である陽乃に気を使われる始末である。

 そして結衣は――塩と胡椒、チリソースを手に取った。

 

「私のお団子食えやァ! ご希望なら調味料もあるぞ!」

 

 まさかの続行!

 八幡と雪乃に裏切られてなお、結衣は使命を全うしたのである!

 その精神のなんて気高いことか!

 

「……由比ヶ浜さん。な、何を言ってるの?」

 

 対して雪ノ下雪乃、更に裏切る!

 自分から意味不明な行動を指示しておきながら、ここにきて常識人ぶる卑劣ぶり!

 おのれ雪ノ下雪乃!

 

「俺、マッカン買って来るわ」

 

 一方比企谷八幡、戦線離脱!

 この男、根がチキンであった!

 雪乃の場合最初から裏切る気であったが、八幡は土壇場になって急に恥ずかしくなっただけである!

 

 もう書くことなくなったから唐突に終了!

 奉仕部は今日も平和です!












土壇場になってお見合いから逃げた陽乃さんが八幡の家で匿われる中編ssのプロットを書いては消してる。


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