とある夏、少年は一人の少女と出会い、恋に落ちる。
だが、彼女にはある秘密があって……

ベタな話です、うん。

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図書室と彼女と僕

 

 

放課後、俺はいつも図書室へと向かう。図書室では、勉強したり、本を読んだり日によってやることは違うけれど、一番奥の窓際の席に座ることが習慣になっていた。しかし、今日、そこに人がいる。

掃除当番のせいで遅くなってしまったから、その隙に座られてしまったのだ。特にこだわりがあったわけではないが、狭くはない図書室で、何もその席を選ばなくても、と思ってしまう。

座っていたのは、女子生徒だった。白い肌に、綺麗な黒髪、美人ではないけれど、本を眺める物憂げな顔は悪くはない。これだけ図書室に頻繁に通いつめている俺でも見たことがない顔だったが、その姿は何故か図書室にまるで背景のように馴染んでいた。視線に気づいたように顔を上げた少女は、信じられないものを見たかのように目を瞬く。

「あ……違うんだ、俺がいつも座ってた席に人がいたからびっくりしただけで、怪しいものでは、決してないんだ」

慌てて弁明すると、図書委員に、静かにするようにと怒られる。少女は、席を正面に移動すると、元々座っていた椅子を、どうぞ、と口の動きで伝えながら指をさした。

「え、大丈夫だよ?」

俺が小声で伝えると、少女は首を緩やかにふって微笑んだ。促されるまま席に座ると、メモがすっと差し出される。

『ごめんなさい』

『こっちこそわけわからないこといってごめんなさい。何年生ですか?』

『あなたと同じ年』

『あ、そうなんだ、名前は?』

『紫紗。あなたは?』

『俺はーー』

というように、俺らは筆談で話すようになった。日を重ねるごとに仲良くなり、色々な話をした。好きな本の話をすれば、それが図書室にあると翌日には借りて読んでくれて、その本について語り合ってくれる。俺が愚痴を零すと、じっと話を聴きながら、助言だってしてくれた。

今まで出会ったどんな女の子とも違った不思議な存在だった。決して声は聞けない。一度勇気を出して『話せないの?』ときいてみたが、微笑んでそっとメモを押し戻してきただけだった。紫紗は、答えたくないといつもそうする。連絡先を聞いた時も、通学方法を聞いた時も、少し踏み込もうとすると、やんわりと拒否されてしまう。

それでも、俺は彼女に惹かれるのを止められなかった。

 

嫌われているのかとも思ったが、いつだって先に来て、俺の席の正面に腰掛け、俺が来るとほんの少し嬉しそうに周りの空気がふわっとするのだ。

彼女のことをもっと知りたい。

俺はいつしかそう願っていた。閉ざされた口も、物憂げな顔も、綺麗な文字も、彼女がまとう空気も、全てに惹かれていた。頭の中は紫紗で一杯で、今日は何を話そうか、どうやったら笑ってくれるだろうか、ということばかり考えるようになっていた。

告白、なんてしたら、紫紗はどう思うのだろうか。困ったように返されるのだろうか。返事すら、もらえないのだろうか。もし、告白なんてしたら、きっと紫紗には会えない、そんな予感がした。

 

***

 

最近放課後が待ち遠しくなった。早く涼夜に会いたい気持ちでいっぱいである。筆談でしか会話出来ない私達だけど会話はすごく弾む。涼夜の笑っている顔は私を元気にさせてくれる。何でそんなに涼夜は私に構ってくれるのか。そんなことを考えているうちに、図書室の戸が開く音がした。“ガチャ“あっ、今日も涼夜が来てくれた。

 

『紫紗!』

名前を呼ばれることが嬉しくなるなんて…そんな想いは初めてだ。最近涼夜は学校でのことをたくさん話してくれる。私は1日中図書室で本を読んでいるので図書室の外のことはよく分からないがいつも涼夜は楽しそうに話してくれる。なんだか私も図書室の外に出てみたくなった。あと、涼夜はよく“私がなぜ話せないのか“について聴いてくる。私もよく分からない。でも数年前までは普通に友達と、家族と話せていた。何回も質問してくるのに答えないのはちょっと失礼だと思って、涼夜に相談してみた。すると彼は『なんかよく分からないけどきっと大丈夫』と言ってくれた。その一言に、私は救われた気がした。

でもその一方で、彼に対する罪悪感は次第に増していった。

 

***

 

六限の終わりを告げるチャイムは、私の心臓をすこしだけ、早くさせる。今日も会えるかな、そんなことを思いながら、足早に図書室に向かう。……いつも一番奥の窓際にいる彼。今までにいったい何百万ページめくってきたのだろうか、と考えてしまうような華奢な指。色素の薄い、どこか憂いを帯びた目。影は薄いのだけれども、淡い色彩をもってふわりと存在が浮かび上がる……そんな人。図書室に入った瞬間、癖で一番奥の席に目をやるが、彼はいない。いつもは当番の私よりも早く来るのだけれども、今日はなぜだかいないのだ。些細なことのはずなのに気になって、なぜだろうか、すこし不安になってしまう。仕方ない、早く作業を終わらせて帰ろうと思って、彼が座る席がよく見える、いつもの場所に座ってラベル貼りを始めた。

ガラッ。控えめな音を立てて、彼が図書室に入ってくる。胸が高鳴り、思わず彼を目で追う。

突然、彼はいつもの席の前で立ち止まり、驚いたように目を見開いて、焦るような口調で誰もいない空間に向けて謝った。

かなり大きな声だったので、本棚の陰で作業していた先輩が彼を注意した。誰もいないのに謝ったように見えたが、それよりも初めて聞く彼の大きな声に驚き、もしかしたらちょうど私から見えないところにいた人に謝ったのかもしれない、と思うことにした。まだ彼のことが気がかりだったが、司書さんに呼ばれたのでその後彼がどのような様子だったのか見ることはできなかった。

その後、図書室で毎日見かける彼は、なぜかいつも笑っていた。誰もいないのに、とても楽しそうに笑う。初めて見る彼の笑顔。私に向けられたことのない、何かに向けられた笑顔。心がちくりと痛む。私は、彼の笑顔がわからない。何か、あったのだろうか。何かが、彼の心をおかしくさせてしまったのだろうか。彼のことがわからない。彼は何かを抱えているのだろうか。相談に乗りたいが、名前も知らない彼に何と話しかければ良いのだろうか。

次第に彼の頰はやつれ、華奢な手はさらに細くなっていった。落ち窪んだ眼窩に、色素の薄い目だけが、生々しく煌々と光っていた。彼は、どうなってしまったのだろうか。そんな不安が、心を蝕んでいた。

そんな時、私はSNSを見て、ある書き込みを見つけた。いつもなら流し読みしているのに、私はその書き込みに目が釘付けになった。

 

「もうすぐ、あの女子生徒が屋上から飛び降り自殺したっていうあの事件から四年目なんだってね」

 

まさか。嫌な予感がして、私はその書き込みの詳細を表示した。そこには、その書き込みに対する返信があった。

「うん、なんか透き通るような白い肌で、儚げな子だったらしいね。勉強に行き詰まってノイローゼになったとかー」

「そうそう、彼女本が好きだったらしく、彼女の幽霊が図書室にいるっていう噂が……」

 

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室に入った瞬間、癖で一番奥の席に目をやるが、彼はいない。いつもは当番の私よりも早く来るのだけれども、今日はなぜだかいないのだ。些細なことのはずなのに気になって、なぜだろうか、すこし不安になってしまう。仕方ない、早く作業を終わらせて帰ろうと思って、彼が座る席がよく見える、いつもの場所に座ってラベル貼りを始めた。

ガラッ。控えめな音を立てて、彼が図書室に入ってくる。胸が高鳴り、思わず彼を目で追う。

突然、彼はいつもの席の前で立ち止まり、驚いたように目を見開いて、焦るような口調で誰もいない空間に向けて謝った。

かなり大きな声だったので、本棚の陰で作業していた先輩が彼を注意した。誰もいないのに謝ったように見えたが、それよりも初めて聞く彼の大きな声に驚き、もしかしたらちょうど私から見えないところにいた人に謝ったのかもしれない、と思うことにした。まだ彼のことが気がかりだったが、司書さんに呼ばれたのでその後彼がどのような様子だったのか見ることはできなかった。

その後、図書室で毎日見かける彼は、なぜかいつも笑っていた。誰もいないのに、とても楽しそうに笑う。初めて見る彼の笑顔。私に向けられたことのない、何かに向けられた笑顔。心がちくりと痛む。私は、彼の笑顔がわからない。何か、あったのだろうか。何かが、彼の心をおかしくさせてしまったのだろうか。彼のこ

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とがわからない。彼は何かを抱えているのだろうか。相談に乗りたいが、名前も知らない彼に何と話しかければ良いのだろうか。

次第に彼の頰はやつれ、華奢な手はさらに細くなっていった。落ち窪んだ眼窩に、色素の薄い目だけが、生々しく煌々と光っていた。彼は、どうなってしまったのだろうか。そんな不安が、心を蝕んでいた。

そんな時、私はSNSを見て、ある書き込みを見つけた。いつもなら流し読みしているのに、私はその書き込みに目が釘付けになった。

 

「もうすぐ、あの女子生徒が屋上から飛び降り自殺したっていうあの事件から四年目なんだってね」

 

まさか。嫌な予感がして、私はその書き込みの詳細を表示した。そこには、その書き込みに対する返信があった。

「うん、なんか透き通るような白い肌で、儚げな子だったらしいね。勉強に行き詰まってノイローゼになったとかー」

「そうそう、彼女本が好きだったらしく、彼女の幽霊が図書室にいるっていう噂が……」

 

私は心臓が止まりそうになった。まさか。彼はその彼女に取り憑かれているのだろうか。確たる証拠はないけれど、直感がそうだと告げている。

このままじゃ、彼が危ない、そう思ったその時、彼の姿が視界に入った。

どうやら彼は、手紙を取り出して何かを呟いているようだ。

何を言っているのか私には聞き取れなかった。このままじゃいけない、そう思っても、私はその場から動けなかった。そして気付いたら、彼の姿は消えていた。

この時何もしなかったことを、この後一生後悔するとも知らず。

 

***

 

「貴方が本当に私と結ばれたいと願うなら、明日の夜、屋上へ来て。そこで答えを教えてあげる。」

 

彼の脳裏で、何度もその言葉が反響した。

「やるしか、ないな……」

涼夜は迷いながらも決心した。彼女に、紫紗に自分の想いを伝えることを。覚悟はできた。彼女との仲も深めた。認められるよう努力もした。今の自分なら、必ずや彼女と結ばれるはずーー

 

だから彼は今、真夏の夜、屋上に立っていた。一度は突き返された手紙を持って。

そうは思っていても、やはり緊張はする。夜だというのに、眩むような蒸し暑さのせいもあるのだろうか。彼の意識は朦朧としていた。それに何故だろうか。何処と無く不安を感じるのだ。

この決意に。それは、想いが届かないのではないかという不安とは、違う種類の不安に感じられた。空を見上げれば、厚い雲が立ち込めている。眩むような暑さと分厚く空を覆う雲。

その奇妙な天気が、より一層彼の心を不安にさせた。そうやって彼がしばらく思い詰めていた時。

屋上のドアが開いた。そのドアから出て来た一人の少女を見て、彼の心に強い風が吹いたような気がした。その瞬間、彼の心を覆っていた不安は全て消え去った。

 

ーその不安が、最後の警告だったとも知らずにー

 

彼女は彼の元に近づいていく。

 

「答えは、決まった?」

紫紗は彼の前で立ち止まり、そう問い掛ける。

 

「ここにいるということは、答えは一つしか無いだろう?」

彼はそう答えた。二人は見つめ合う。紫紗と見つめ合っていると、

彼は自分の心が彼女に惹きつけられ、鷲掴みにされるような気がした。

だからこそ、彼は彼女に恋をしたのだ。

 

「改めて言う。紫紗、僕は君と付き合いたい。僕の想いを受け入れて欲しい。」

彼は決心してそういった。

 

彼女は沈黙する。それを見て、彼の心臓は最高潮に高鳴った。

そして暫く沈黙した後、遂に彼女は口を開く。

「ー本当に、死ぬまで?」

 

「勿論、一生君を愛する。僕は迷わない。」

 

「そう、良かった。」

彼女は妖しく微笑んだ。それは純粋で、どこか儚さを感じる彼女のいつもの笑顔とはどこか違っていた。そして、彼女は彼に抱き付き、その唇を奪う。

そのまま彼女は僕を押し倒す。

 

バキッ!

 

柵か何かが折れたような音がして、気づけば彼は宙空を真っ逆さまに落ちていた。

気付けば、彼女の姿はどこにもない。

ドン!

鈍い衝撃音がして、彼の意識はそこで途絶えた。

 

***

 

「今朝、○×高校の校庭で、一人の男子高校生が亡くなっているのが発見されました。

頭を強く打ち付けていて、屋上から転落死したのが死因と見られています。

警察は自殺と見て、詳しい情報を集めています。

なお、その場所は数年前、女子生徒が屋上から飛び降り自殺した事件と全く同じ場所とのことです。」

 

それ以来、その高校の屋上は立ち入り禁止となり、その入り口は固く閉ざされたという。


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