世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

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うーん、わんちゃん今までのペース維持できるのではとか思ってましたけど、普通に忙しくて無理でした……
そして、案の定話しが進まない進まない。展開が遅くてご不便をお掛けしています……

相も変わらず感想やお気に入りを頂けて嬉しく思います。やってみて分かる、お気に入りや感想がモチベーションに繋がる感覚……まぁ、同時にプレッシャーにもなるんですが。
それと、誤字修正して下さる方に感謝を。意外と間違ってるものですね……自分でも一応見直してはいるんですけど。
それでは、まだ暫くの間は不定期更新ですが、次回更新をごゆるりとお待ち下さい。


その少女、独りにつき

「鯨澤! 鯨澤セナはいるか!」

 

 

 なんとも凄い形相で部屋を見回しながらそう叫ぶ鳳を見て、俺は一時的に隠れようかしらと本気で考えた。けれども実行に移す前に鳳の視線は俺を捉え、うんともすんともいわずにずんずん近づいてくる。

 じっと俺のことを睨みつけたまま目の前にたつと、俺の襟口を掴んで顔をずいと近付けてきた。鳳の顔が俺の視界いっぱいに広がって今にも鼻と鼻が触れ合いそうって言うか近い近いちか良い匂い近い!

 

 

「な、ななななんのようですか? その、離して頂けると嬉しいのですが……」

「貴様……なのか」

「へ……? えと、なにが……」

「貴様は鯨澤聖那なのかと聞いている!」

「ふぁ!?」

 

 

 なんでバレてるのこれ!? なんかもう確信持ってるような目だから誤魔化し効かないよ絶対! 誰だよ、俺のことモルモットにしようと画策してる奴は!?

 下手人は三五小隊かあの二人だけ。取り敢えずタケルくん達に視線を送ってみるが、やはりというか皆一様に驚いた表情を浮かべるのみで、俺と視線が合うと自分じゃないという風に首を振る。まぁ、そもそも鳳との接点がなさそうだから初めっから疑ってはいなかったけど。もし本当は鳳と接点があって演技してるんだったら、ハリウッド級だよ本当。

 

 

「な、なんのことだかさっぱり……わ、私は聖那ではなくセナで……」

「貴様が名前を変えていることは理事長から聞いている! 誤魔化すな!」

「やっぱてめぇかクソ理事長がァァァーーーッ!!」

 

 

 思わず渾身の叫びを披露してしまい、目の前の鳳がギョッとしたように俺のことを離す。そして、まるでそのタイミングを計ったかのように部屋の扉からもう一人の人物が入ってきた。

 

 

「グラフタヌゥゥゥーーンッ!! はは、元気にしてたかい子供たちぃ!」

「出てけクソぼけ! なーにが元気にしてたかいだこの野郎、人の秘密をベラベラ喋りやがって! 薬師(シーリー)にバレたらどう責任とるつもりだ!?」

「んー、今日もセナちゃんは元気だね。なに、心配することはない。もしバレてしまっても私の権限でVIP待遇を受けられるように取りはからってあげようっ」

「まずモルモットにされないように立ち回ってくんない!? VIP待遇のモルモットって結局はモルモットだよこん畜生!」

 

 

 やはり颯月(こいつ)に相談したことは間違いだったんじゃないだろうかと、俺はあんまりな颯月の言に半ば涙を浮かべながらそう考える。というか、これって俺盛大に理事長に弱み握られちゃってんじゃん。言うこと聞かないとバラすぞとか脅しかけられちゃうじゃん。なんかどんどん厄介ごと増えてるぅ……

 

 

「まぁ、安心したまえ。桜花はそう易々と人に情報を喋ってしまうような子じゃない。だから、君がモルモットになるにしてもまだ暫く先さ」

「う、うむ……私とて、これでも元審問官だ。どんな事情があるにしても、それを使って脅しをかけたり周りに吹聴したりするつもりなどない」

「……ほんとうに?」

「なっ……本当だ! なんだその目は、そんなに私が信じられないか!?」

 

 

 純粋に不安になって涙目のまま鳳に視線を向けるが、流石に心外だったらしい鳳が顔を真っ赤にして怒り出す。いやだって、中等部時代に相当嫌われてたから、そう言う嫌がらせを受けるかも知れないとか考えて当然じゃない? 俺だったらするもん。そこまで出来た人間じゃないんで。

 

 

「い、いや……その、正直すまんかった、です……」

「……その口調は作っているのだろう? 私は気にせん、いつも通りに話せば良い」

「そ、そうか……あぁ、わかった」

 

 

 あれ、鳳って実は人間が良く出来てる良い子なのでは? 友達がいない偏見でなんか取っつきにくいやつとか思っててごめん……

 さて、それはそれとしてなにかを忘れている気がする。そもそもなんでこんな状況になってるんだっけ? 確か、鳳が何故か怒鳴り込んできてその後に颯月が乱入してきたから……

 

 

「……それで? お二人さん、こんな場末のバーみたいな所になんの用かしら。見ての通り、ここには私以外に弄り甲斐のあるおもちゃ二人と野郎位しかいないわよ」

「ちょっと待て斑鳩。西園寺はいいとしてどうして俺までおもちゃ扱いを受けてる。断固として扱いの改善を求めるぞ」

「わたくしが良いというのはどういうことですか鯨澤!? 自分だけ助かろうとしたってそうはいきませんわよ!」

「俺なんか野郎の二文字で説明終わってるんだが……一応隊長なのに……」

「はっはっはっ、相変わらず愉快な子達だ。なに、少しばかり君達の小隊活動が芳しくないことを小耳に挟んでね。元々メンバーも四人しかいない居ないみたいだし、補充要員を用意させて貰ったんだ」

「補充、要員……?」

 

 

 不思議そうに首を傾けて、キョロキョロと周りを見渡し出すタケルくん。まぁ、気持ちは分からなくもない。中等部時代にたった一年半で審問官に上り詰めた鳳が、まさかその補充要員だとは思わないだろう。さっき自分で元審問官って言ってたから、原作通りクビになってきたんだろうけど。

 そして、そのタケルくんの挙動に不機嫌になった鳳が、一歩ずいと踏み出して存在を主張しようとする。いや、不機嫌になるくらいなら自分の言葉で知らせろよ。コミュ障かお前は。あ、そういや友達居ないんだっけ……

 

 

「鯨澤、貴様今失礼なことを考えなかったか?」

「いえ滅相もございませんですことわよ」

「言語機能が乱れてるぞ鯨澤……んで、理事長。その補充要員って言うのは誰なんだ? 一応挨拶しておきたいんだけど」

「うん? これまた奇なることをいうね。補充要員なら、ほら。ずっと君達の前にいるじゃないか」

「……おぅ?」

 

 

 まさかのエスパー鳳に俺が内心戦々恐々としている間に、漸く誤解が解けたらしいタケルくんが鳳に視線を向ける。なんか鳳が若干満足そうなの腹立つなぁ……

 

 

「えっと……鳳って、確か異端審問官だったよな? それがどうしてうちの補充要員に……?」

「詳細は語れない。だが、今の私は異端審問官ではなく対魔導学園(ここ)の高等部所属である学生だ」

「つまり、クビになったんだろ?」

「……ッ 身もふたもない言い方をするな! 確かにその通りだが、もう少しオブラートに包むことは出来なかったのか!?」

「いやだって、お前がいつも通りに話せば良いって言うから……」

「そう言う意味ではない! 口調の話だ口調の!」

 

 

 折角現状を短く簡潔に表してあげたというのに、お気に召さなかったのか怒り出す鳳に呆れた目を向ける。てっきり私にもフランクに、友達のように接してくれとか言うコミュ障なりのアピールかと思ったんだけど、どうやら違ったらしい。全くボッチの言語は分らん。

 肩を怒らせて睨みつけてくる鳳の視線を受け流しながら、理由は分かったと頷くタケルくんに後のことを放り投げる。隊長なんだから少しは働くんだ。

 

 

「あー、なんだ……その、久しぶり、だな……?」

「……貴様か。どうやら未だに(それ)を使っているようだな? まぁ、それならばこの小隊の成績が悪いのにも納得がいく。只でさえ少ない人員が玉砕前提ではな」

「ふぐぅ!?」

「ちょっと、うちのセナちゃんに文句言っといて、あんたこそその歯に衣着せない言いぐさは何よ。これだから他人との距離感が分からないボッチは」

「うぐっ!?」

 

 

 ダブルKO、勝者は斑鳩。決め手は精神攻撃からの精神攻撃でした。どんだけ精神脆いんだお前ら。

 思わずといった体で膝をついた二人だったが、そこは流石に逸般人。すぐに復活すると、鳳が斑鳩に若干潤んだ視線で睨みつけながら口を開いた。めっちゃダメージ受けてるじゃねぇか。

 

 

「ぐ、確かに先程の言い方は少々きつかった。その点は謝罪しよう……だか、私は決してボッチなどではないぞ! 距離感もきちんと分かる!」

「ッハ。よく言うわよ孤高の戦士(笑)さん。中等部時代にまともに友達の居なかったあんたが、ボッチじゃなくてなんなのよ。試しに友人の一人でも挙げてみなさい」

「うぐぐ……そ、そうだ! あんぱんは私を裏切らない、唯一の癒やしだ! ほらみろ、私はボッチじゃないぞ!」

「某愛と勇気だけしか友達がいないヒーローより尚少ないじゃない。それに、ぱんを友人としてカウントしてる時点で十二分にボッチよ」

 

 

 凄く可哀想な物を見るような目で斑鳩に見られた鳳は、今度こそノックアウトされ地面に崩れ落ちる。というか、斑鳩の煽りと精神攻撃が想像以上に手厳しい。あんなん俺だったら再起不能になってるわ。

 今後斑鳩にはなるべく逆らわんどこと思いつつ、先程からこの状況を楽しげに眺めている颯月に視線を向ける。原作を最初から最後まで覚えてるわけじゃないから、こいつが何をしたいのかさっぱり分からない。もしかしたら単純に俺の心労を増やしてやろう的なノリでやっているかも知れないし、ぶっちゃけそれが一番可能性高いんじゃないだろうか。もしそうだったら一発殴るぞこの野郎。

 

 

「うん? どうかしたのかい、セナちゃん。そんなに見つめられても何も出てこないから、もっと見ると良いよっ」

「なにか出てくるならまだしも、何でお前の胡散臭い面ジッと眺めとかなきゃいけないんだよ」

「うーん、前々から思ってたけど、君達の私に対する扱いはちょっと問題じゃないかな? 私はこの学園の理事長でありお偉いさんだもっと敬っても罰は当たらないと思うんだけどどうなのかなっ」

「くたばれ」

「うーん辛辣!」

 

 

 敬うも何もこんな奴のどこをどう敬えば良いのかまず教えて欲しい。そもそも俺は颯月に心労を増やされてる恨みこそあれ、感謝するようなことをされた記憶がない。冗談のような物だとは分かってるが、敬われたかったら相応の態度を見せるべきだと思うの。

 というかいつまでここに居る気だ此奴。お偉いさんならさっさと帰って事務でもこなせ。

 

 

「草薙、いつまで落ち込んでるんだお前! 玉砕前提なんて前から分かってることだろ! 後鳳、いい加減自分がボッチだと認めないとこの先苦労するぞ!」

「少しは慰めろよ鯨澤!? いやまぁ、確かに毎回玉砕じみたことになってるけどさぁ!」

「ぼ、ボボボボッチ言うな! 私だって探せば友達の一人や二人……いや、一人くらいは……」

「ええい黙れ黙れ! ともかく、俺達の進級が掛かってる大切な事案、確実に成功させるためにブリーフィングだ! 部外者は出てけ!」

「ははは。それじゃ、君達の成功を影ながら祈っておくことにするよ。それではね」

 

 

 漸く颯月(邪魔者)を追い払い、一息を入れる。どうにもあの胡散臭い薄ら笑みは慣れないし、一緒に居るとどうしようもなく不安になる。主に俺の心に負荷をかけてこないかどうかで。

 全く、一緒に居ると安心感しかないタケルくんを見習って貰いたい物だ。主に生命的な意味合いで。

 

 

「さて、と。悪は去った」

「理事長を悪ってなぁ……」

「悪以外のなんだってんだよ。害悪だ害悪。っと、そんじゃ草薙、ブリーフィングだから後は任せたぞ」

「あぁ、うん……つっても、いつもと大して変更点はないと思うけどなぁ。そうだ、鳳。お前の役割(ポジション)はどこなんだ?」

魔女狩り(デュラハン)の時は基本的に一人でやっていたからな。大抵のことは可能だ。好きに配置してくれ」

「うーん、そうなるといつも通り鯨澤を斥候にして、俺と鳳で二方向から突入、か?」

「そして、その突入の間に俺は逃げると……」

「……まぁ、今回は鳳も居てくれることだしな。取り敢えず近くで状況を判断しておいてくれ」

 

 

 さらりと戦線からの離脱を提案してみるが、どうやらタケルくんはきちんと聞いていたようで、近くで待機しろとの命令を頂く。まぁ一緒に突入しろとか言われないだけマシか……

 張り切ったは良いものの、結局いつも通りの動きに鳳が加わっただけの作戦と言って良いのかよく分からない感じでブリーフィングは終了する。まぁ、お互い得意分野以外はてんで駄目だから各々で考えた方が良いのかも知れんけど……

 その後は、取引の時間付近まで各自で準備する時間に。鳳は自動拳銃のメンテナンスや装備の確認。ウサギちゃんは、もう既に緊張しているのかラマーズ法を試していて、タケルくんは警棒で素振りを始める。

 俺はといえば、斑鳩に改造されたDEの調子を確かめつつ、主兵装であるPDWの分解修理を行っている。こいつは分解しやすいし、取り回しも良くて俺の手に馴染んでいる。少なくとも何処かの馬鹿が改造したDEよりは何倍も頼りに出来るものだ。ついでにロマンのある形をしている。だってマガジンがスライド式だぞ? 全体的に長方形に収まるような形をしてるし、伏せ状態からリロードするにも苦にならない。ついでに言えば、トリガの押し込みで射撃モードを変えられるから、単発・フルオートの切り替えが素早く出来る。嗚呼、なんて素晴らしい子なんだお前は。お前だけは斑鳩の魔の手からなんとしてでも守り抜いてやろう。そう、例え俺自身の命と引き替えにしても──

 

 

「──セナちゃん? ちょっと、お姉さんのこと武器胸にかき抱いた状態で睨みつけてる理由について聞いてもいいかしら?」

「お前にはこの子は渡さないぞ!」

「やだ、そう言われると奪い取っていじくり回したくなっちゃうんだけど。どう、五十発装填じゃ足りなくない? ドラムマガジンとかいっそ弾薬ベルトでの給弾とかにしてみない?」

「アホかお前は!? んなことしたら取り回し悪くなるだろ! ぜってぇお前には渡さんからな!」

「冗談よ冗談。いくら何でも弾薬ベルトは現実性がないわ」

「ドラムマガジンも大概だからな!? ったく……そういえば、お前は今何してんだ? てっきりまた頭のおかしい武器でも造ってるのかと思ったが」

「んー? さっきのうさぎちゃんのセクシーシーンを焼き回してるのよ。上裸のロリっ子が人相の悪い男を殴り飛ばす。もう状況が訳分からなすぎてそそらない?」

「ちょっと分かりかねますね……」

 

 

 やっぱり此奴のことも俺には理解できない。そんな状況にそそるのはお前だけだと思うんだ……

 まぁ、それはそれとして。後で一枚それ下さい。


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