あとがきにて重大発表やら補足やらがあります。
取り敢えず、と安全そうな場所に身を隠しつつ正門の方に視線を送ると、引いてあった防衛線に見事な穴が穿たれていた。確か、英雄の装備は試作型のレールガン。そう連続してポンポン撃てる物でも無いだろうけど、あんなもんに巻き込まれたら生存の可能性はゼロだ。気を付けなければ。
『な、なんですの!? た、たたた建物が揺れましたけど、もしや敵の攻撃が!? も、もうダメですわー!』
『落ち着きなさい。鯨澤、外に出てるなら状況は理解できてるわよね。何があったの?』
「英雄の攻撃だ。多分、今のはレールガンの弾光だと思うが……取り敢えず、正門の防衛戦が突破されたっていうのは確実だな」
『なっ。それって大丈夫なのか!? お前たち、怪我とかは……ッ!』
「してないしてない。そんなことより、早く帰ってこい草薙。このままじゃお前が帰ってくる前に更地にされちまう」
『お、おう! 今全力で向かってっから!』
そうかそうか、全力で向かってきてるのか。でも、タケルくんのことだからどうせ徒歩。常人よりは速いだろうけど、すぐに帰ってこれるわけでも無いだろうな。
果たして、タケルくんが帰ってくるまでの間校舎が持つのかというところに激しく疑問を抱くけど、気にしていたって始まらない。先ずは現状把握が第一だ。
おそるおそる正門の方をのぞき見ると、突破された防衛線に残っていた運良くレールガンの一撃を避けられた審問官や試験小隊の生徒たちと、弾幕が薄れたせいで一気に押し寄せてきた
プロの異端審問官は流石というべきか、群がる屍食鬼たちを危なげなく処理していく。更には、わざと屍食鬼を引き寄せて生徒たちに被害が行かないような配慮までしている。
けれども、屍食鬼の数に対して審問官の絶対数が足りていない。当然こぼれた屍食鬼は生徒の方に向かい、今の光景を頭で理解できず呆然と佇む生徒たちに襲いかかる。
俺のところまで聞こえるような断末魔がいくつも上がり、錯乱したのか闇雲に銃を乱射する者まで出る始末。当然、そんな銃弾が的確に屍食鬼を倒せるはずもなく、それどころか流れ弾が仲間であるはずの者たちを傷つけていく。
なんだこれ。目の前に広がる光景が明らかにホラー映画なんだけど。俺って実はバイオハザードの世界に転生してた? そんなわけないか。
審問官は頑張ってるけど、もうあの防衛線は駄目だろう。一回大穴開けられたときに、引いて体勢を立て直すべきだったのだ。そうすれば、こんな……
「ウ……オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォーー!!!」
突如、戦場と化した学園に獣のような雄叫びが響き渡る。その声は俺の中にある原初の恐怖を呼び起こしたようで、あまりの恐怖に気を失いそうになるのを歯を食いしばって耐える。
声を聞いただけで、存在を認知しただけで分かる。あれは、軽々しく挑んで良いような存在ではないのだ。自己よりも圧倒的に上に立つ存在。戦えば死ぬと、俺の本能が叫んでいる。
「う、がぁ……ッ」
『……鯨澤? どうしました? 大丈夫ですの!?』
「もん、だい……ない……!」
『とてもそんな風には……一度戻ってくださいまし、鯨澤!』
「平気だって、の……いいから、そっちはそっちで準備しろって!」
本当は大丈夫じゃないけど、なんとか歯を食いしばって耐えしのぐ。タケルくんも、ウサギちゃんも、こんな相手と相対するのだ。何もしない俺だけが、こんなところで気を失うなんて許されるはずがない。
なんとか気を落ち着かせながら再び正門の方に視線を送ると、殆ど生徒の姿は見えなくなっていて、審問官の数も減ってきている。完全に機能停止するのは時間の問題だな、と俺が場所を移動しようと動き出したとき、
遠目からでも分かる、赤黒く染まった全身。
「……あっれー?」
『く、鯨澤? 先ほどから一体……』
「あー、いやいや。何でもないって」
いやいや、気のせい気のせい。こんなシリアスな世界がネタをぶっ込んでくるはずないって。多分、あれは俺の見間違いだろう。うん、そういうことにしておこう。
まぁ、外見は多少見たことがあるような気がしなくもないが、性能面でいえば明らかに化け物だろう。あんな巨大な剣のようなレールガンを振り回して、当たるを幸いなぎ倒しているのだから。
あの攻撃の前には、プロも生徒も存在しない。当たれば即死、当たらなくても風圧で体勢を崩されて即死。対面すること自体が即死。やばいな、あれには近寄らんとこ。
しかしまぁ、プロの異端審問官は良くあんなものと対峙できるものだ。ほぼほぼ殺されると分かっているだろうに、連携を組み少しでも英雄の足止めをしようと攻撃を加える。そんな攻撃も、全て英雄に届く前に障壁のようなものに阻まれてしまっているのだが。
「──ん?」
そんな審問官たちが鬱陶しかったのか一人一人文字通り潰していた英雄だったが、ふと何を思ったのか攻撃の手を止めるとその巨大な剣を地面に突き立てた。
審問官たちはチャンスとばかりに攻撃の手を強めたが……違う。あれは決して隙を作ったとか、そういうことじゃない。ああいう溜を作るってことは、次に来る行動は……
──ブンッ、という音とともに、英雄を中心として魔法陣のようなものが地面に描かれる。その魔法陣は、英雄自身と同じ赤黒い色に発光し、周囲を取り囲む審問官たちをもその円のうちに取り込んでしまう。
皆が一様に戸惑う中、一人の審問官が絶叫とともに円外への退避を指示した。仲間からの通信か、はたまた知識としてか。その審問官は知っていたのだろう。それが、何をまき散らすものなのかを。
──っぱん!
一瞬、魔法陣がひときわ輝いた後、そんな水風船が割れるかのような音が周囲に響いた。
俺に見えたのは、それだけ。たったそれだけで、英雄を取り囲んでいた審問官
……やばい、そんなことしている場合じゃないのに、抑えきれない吐き気が押し寄せてきた。
何がギャグだ。どんな姿であっても、俺に死を運んでくるような存在には変わりないではないか。
怖い。俺の中で心臓が暴れ回り、呼吸が安定しないせいで視界が暗くなりかける。このままここに居るのは危険なのに、足がいうことを聞いてくれない。
「──ぁ」
ふいに前へと向けた視線。その視線が、遠くに居る英雄とぶつかったような錯覚を覚える。この距離からでは見えるはずもないのに、金色の瞳に捕らわれてしまったような、そんな錯覚を。
「い、いや……助け──」
思わず口から飛び出したのは、誰かに救いを求める言葉。それも、女の子っぽい口調のもの。おいおい、冗談だろ? 何でこんな……死に際に残した一言が女の子みたいとか、死んでも死にきれねぇよ……
「ア゛ア゛ア゛──ガアアァァァーー!」
英雄に気を取られ、周囲の警戒を全くしていなかった俺は、突如聞こえた唸り声とともに襲いかかってきた屍食鬼に対応が遅れた。
呆然としながら、迫り来る屍食鬼の方に視線見向けるのがやっと。本当に、冗談じゃない。まさか本当に屍食鬼に殺されるなんて、誰が思うよ。
嫌だ。まだまだ、これからだろう。ここからだろう。やってないことがまだあるのに、やらなきゃいけないことがまだあるのに、どうして、どうして
「──俺たちのセナちゃんから離れろ、この化け物風情が!」
「──え?」
噛まれる。思わず目を閉じてしまった俺は、聞こえてきた声に惚けた声を上げてしまう。同時にいくつかの発砲音が重なり、俺の体が後ろに引っ張られる。
一瞬タケルくんが来てくれたのかとも思ったが、それにしては声が違うし、そもそもタケルくんが「俺たちのセナちゃん」とかいうわけがない。言われたら胸きゅんものだ。主に怒りで。
まぁ、助かったのだろう。そう思った瞬間、助かったという安堵と誰かがそばに居る安心感から、一気に気が抜けてその場に倒れ込んでしまう。
地面に倒れると同時に、俺の中で何かが切れたような感覚が生まれる。それが、所謂緊張の糸なのだと気が付いたときには、俺の意識は黒く塗りつぶされていた。
◇ ◇ ◇ ◇
ゆらり、ゆらり。
風に揺らぐように、小さな灯火が揺れている。
それは、不安に成る程弱々しくて。今にも消えてしまいそうなほど儚げで。
消えてはならない、消してはならないという思いから、必死に火を燃え上がらせる方法を探す。
けれども、見渡す限りには何もない。薪に出来るものが何もない。
『────』
……いや、そうか。そうだった。あるじゃないか、燃やせるものが。
躊躇う必要がどこにある。この火を継ぐために、出来ることなら何でもしてやろうじゃないか。
嗚呼、燃えていく、燃えていく。
火が、僅かながらに勢いを増して……
──はて、どうしてこの火を継がなければならなかったのだろうか?
「う……ここは……?」
うっすらと目を開けると、視界に広がるのは広大な空。はて、俺はなぜに外でお昼寝なんてしていたのだろう。
鳳に連れ出された任務で、想像以上に疲れたとか? いや、だとしても外では寝ないよな、流石に。
というか、そろそろ視界の端にちらつく瓦礫の山が、現実見ろよと俺にささやきかけてきているんだよね。良いじゃないか、別に現実逃避したって。夢だったんだと忘れたいじゃないか。
そういえば、何かの夢を見ていた気がするんだけど……なんか抽象的というか、よく分からないふわふわ感のある夢だったな。まぁ、普通そんなものか夢って。
「お、おはようセナちゃん。どっか悪いところとか、気分悪いところとかない?」
「う、ううん。大丈夫。それより、ここって……?」
「ん、校舎裏……いや、
「そっか。もう、戦いは終わったの?」
「いや、まだ英雄は我が物顔で闊歩してるぞ。セナちゃんが気失ってから、まだそんなに時間はたってないしね」
つまりまだまだ地獄は始まったばかりと。いやまぁ、下手に気を失い続けてたら流れ弾で死ぬとかとても間抜けな死に方しかねないんだけれども。
この様子だと、鳳もタケルくんもまだ英雄とは戦ってないみたいだな。だけど、時間的にそろそろ良いんじゃない? もうおっ始めたって誰も文句言わないよ?
『──鯨澤! 聞こえていますか!?』
「……っと。も、もしもし?」
『あぁもう、漸く繋がりましたわ! いったい何をしていたんですの!』
「あ、あはは……ごめんなさい。ちょっといろいろあって……」
『はいはいうさぎちゃん、そういうことは後にしてちょうだい……鯨澤、聞こえる?』
「うん、聞こえるよ」
『……その口調で大体察しが付くわね。さっき草薙が到着して今準備中なんだけど、あんた今どこに居るの?』
「ええっと……校舎裏っていってたかな?」
『校舎裏、校舎裏……ここね。それじゃ、近くに居る連中を連れて校舎を回り込むように北に向かいなさい。そこだと、草薙たちの戦闘に巻き込まれかねないわ』
「わかった、ありがとう。えっと……草薙に、頑張ってって伝えておいてくれる?」
『ん、りょーかい。おねーさんがあることないこと尾ひれ羽ひれつけた上で伝えておいてあげるわ』
「原形とどめてなさそう! ……それじゃ、お願い」
いったいどんなねじ曲がり方をしてタケルくんに伝わるのかが非常に気になるところではあるけど、流石の斑鳩もこんな状況で馬鹿な真似はするまいと信じてる。
……しないよね? くそ、しないと言い切れないところが斑鳩だからな。余計なこといわなきゃ良かった……
「えっと、この近くで大きな戦闘が起きるみたいだから、離れろって。他に人は居る?」
「……まじで? いや、居る。居るには居るんだが……怪我人ばっかりでな。移動するってのは、ちょっと無理があるかもしれん」
……まじで? え、どうするのそれ。まさか置いてく訳にもいかないし、かといってタケルくん達に時間や場所をずらして貰うことも出来ないし。
ん? というか、確かタケルくんの前に……
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァーー!!」
「……ッ!」
突如聞こえてきた雄叫びに、一瞬俺の体が硬直する。この声は、英雄のものだ。それも、正門で聞いたときとは違う、僅かに怒りをはらんでいるような……そんな声。
「な、なんだ今の……?」
「英雄と戦ってる……!」
「え、ちょ。セナちゃん!? どこに行くんだ!」
「待ってて! 確認するだけだから!」
引き止めるようにかけられた声を振り切って、声の聞こえた方向へと走り出す。そんな俺を止める素振りをした男子生徒はしかし、追ってまで俺のことを止める気はないらしい。そりゃそうだ。誰だってあんな心から恐怖を覚えるような声が聞こえてきた方向に一歩だって近づきたくはないだろう。
わかってる。俺だってこんなことは出来ればしたくはない。だが、体が動いてしまうものは仕方がない。それも、よくあるヒーローとかがいう「気がついたら体が動いていた」と言うものではない――打算と自己保身の末の行動。
これまでの事件で、大筋はあっているものの細かいところでは正史との差異が出ていたことに俺は気がついている。俺が生まれ落ちたことによるバタフライエフェクトか、そもそも似て非なる世界なのか。どちらなのかは俺には判断のつけようがないが、わかるのは鳳がつい数時間前にそれなりの怪我を負っていることと、英雄アーサー・ペンドラゴンが正史のそれとは大きく異なっていること。
ならば、行動に精彩がなくなっているのではないか? もし、鳳がここで英雄に殺されるようなことがあったら、この後のことはどうなるのか?
後々の展開がわかるという知識を持っているがゆえに、生かすべき人間とそうでない人間を
「……ッ! 居た!」
それでも、俺は死にたくない。死にたくないと願っているからこそ、死地に頭を突っ込むという矛盾を犯す。どんなに無様でも、どんなに意地汚くても、生きていたいと、そう願ったから。
盛大にまき散らしてくれる破壊の音を頼りに走ると、今まさに鳳が英雄に吹き飛ばされ、入れ替わるようにタケルくんが英雄との間合いに入ったところだった。
しかし、明らかに死角から放たれたであろうタケルくんの一撃は、振り向きざまに振るわれた大剣の一薙ぎによって打ち払われる。あぁ、そうだろう。近くで見れば否定しようもないほどに理解できる。
この英雄は、否、この
「確かに源流は同じかも知れねぇけどさ……出る作品間違えてるだろ、黒王」
そんな芸当、朝飯前なのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
「おい、鳳! 大丈夫か!?」
「なっ……鯨澤、お前まで。なんで……お前らに、私を助けるメリットなんて……」
「ばーか、あのお人好しの草薙タケルが、そんな損得勘定で動くわけないだろ。あいつのことだから、多分仲間だからとかそんな理由で動いてるに違いない」
「なら、お前は……っ」
「あー、俺はバッチリ損得勘定で動いてるから安心しろ。英雄は草薙が抑えてるし、お前という戦力にいなくなられると今後俺の生命の危機が増すからな。今後の保険だよ、保険」
かるく笑いながら鳳の傷を見ると、素早く簡易治療キットを広げる。まだ何かいいたそうな鳳を無理やり黙らせて、移動に障害が出そうな傷だけ手早く手当していく。ふむ、明らかに生身で英雄に吹き飛ばされたっていうのに、打撲や擦り傷切り傷だけで重篤な傷を負ってないっていうのは、ちとおかしくありませんかね? これだから逸般人は……
粗方手当を終えると、タケルくんの邪魔にならないように鳳に肩を貸すと、その場から移動を始める。わざわざこんなところで正史を再現しなくてもいいのだ。
「鯨澤……やはり、お前はどこか矛盾している」
「んぁ、何だよ藪から棒に」
「お前の願いは生きることだ。それなのに、危険の多い異端審問官を目指し、自ら危険に突っ込む真似までする。そして、挙げ句の果てには人助けだ……お前は、何がしたいんだ? どうして、自分の願いを蔑ろにする?」
「別に蔑ろにしちゃいないけどな。お前がどう考えてるかは知らんが、俺の願いは一人じゃ到底叶えられないことなんだよ。だから、周りを利用してるんだ」
「周りを、利用……?」
「そう、利用。綺麗にいえば協力、手伝ってもらってんだよ。そうした方が確実で、なおかつ安全だ」
「だが、自分の願いを他者にも背負わせるなどっ」
「だけど、それを背負ってやるってやつがいるんだ」
「ッ!」
「事情もろくに知らないくせに、手伝わせろって物好きがいるんだよ。不思議だよな、とんだお人好しだ」
まぁ、俺はタケルくんが手伝わせろって言ってくる前から勝手に手伝わせていたようなものだけど……事後承諾取ったからノーカンだ、ノーカン! 一体何のカウントを取っているのかは俺にもわからない。
ともかく、手伝わせろなんて言ってくる物好きがいるんだから、手伝わせたってどこに怒られるわけでもない。自分の望みをどうしたって叶えたいのなら、より確実な方法を選ぶのが常識ってもんだ。
「お前はどうなんだ? なんか事情があるみたいだけど。それは、意地を張って結局叶えられませんで済むようなもんなのか?」
「それ、は……私は……」
「お前も少しは他人とのつながりを大事にした方がいいんじゃないか? 一生ボッチから抜け出せないぞ」
「……まて、私は別にボッチというわけでは――ッ!?」
俺が小粋なジョークを飛ばし、鳳が反論仕掛けた瞬間、踏みしめていた地面が揺れ、とんでもない圧迫感が場を支配する。ちょっと、たかがジョークに本気で怒り過ぎじゃないですかね……?
「何をぼやっと私を眺めている……? 違う、発生源は向こうだ!」
「向こう……?」
鳳が指し示す先には、まさに今大地に大剣を突き立てて威圧感を放つ英雄の姿が。いつかに見た、プロの異端審問官を血煙に変えた威力過剰な技。固有結界による範囲攻撃を、またもや行ってくるつもりなのだ。
【我が終末は破滅なり。歩む
その口から紡がれるのは、呪詛のようなおどろおどろしい言葉。その言葉に呼応するように、周囲一体に赤黒い魔法陣が広がり……
――ゾクッ
一瞬の体の硬直。心臓を鷲掴みにされたかのような圧迫感。できたことといえば、鳳を前の方に突き飛ばすことのみ。
以前見たものよりも何回りも巨大な魔法陣が、硬直する俺の足元で輝いている。
おかしい、おかしすぎる。英雄の固有結界にわざわざ巻き込まれないようにと移動したというのに、その範囲が広がるだなんて話は聞いていない。今ので鳳は範囲外に逃れたようだが、肝心の俺がまだ効果範囲の中だ。
赤黒い光が輝きを増す。英雄の口から、呪詛の締めくくりの文言が漏れ聞こえる。そして――その光を遮るかのように、誰かの背中が見えた。
【――
全ては刹那よりも短い間の出来事。俺にはろくに認知もできないまま、世界が一色に塗りつぶされた。
光と轟音に目と耳をやられた俺は、ふらつきながら立ち上がろうと必死になる。踏ん張れるということは下半身があるということで、バランスを取れるということは両腕がついている証だ。幸い、俺は五体満足で済んだらしい。
当然、英雄の一撃が不発だったとか、俺の耐久度が上回ったとか、そんな話ではない。タケルくんが
視線の先には、なんとか原型をとどめているもののぼろぼろになり、極めつけに上半身と下半身が泣き別れているタケルくんの姿。その姿を見た瞬間胸が締め付けられるように痛んだが、なんということはない。彼は今、レリックイーターである
――そう、はずなのだ。
「……ッ!」
ドクン、と心臓が跳ねる。何か取り返しのつかないミスを犯してしまったのではないかと、何かがささやきかける。
第一、タケルくんがラピスと初めにあうのは学園の外。俺はずっと学園にいたせいでその現場を目撃しておらず、タケルくんがきちんと見初められているという保証はない。
ということは、どういうことだろうか? それはつまり、この場で英雄を倒せるものがいないという証左なのではないだろうか? いや、そもそも、そもそもだ。
――タケルくんは、このまま死んだままなんじゃないか?
思考がまとまらない。嫌な可能性だけが矢継ぎ早に過ぎていく。早く起きてほしいと願っても、やけに引き伸ばされた時間が俺の不安を増長させる。
「……ぁ」
英雄は突き立てていた大剣を引き抜くと、切っ先をタケルくんへと突きつける。大剣とはいっているが、その本質はレールガンを素体にした改造剣。切っ先に集約されていく光を見るに、タケルくんへと魔弾を打ち込むつもりなのだろう。
タケルくんは、未だ目覚めない。いくらレリックイーターといえども、肉片ものこらない損壊度の人間を蘇らせることはできないだろう。
あれが放たれれば、ラピス如何関係なしにタケルくんは死ぬ。完全に、完膚なきまでに、この世から消える。
「やめ、ろ……」
ふざけるな、と奥歯を噛みしめる。タケルくんが死んだら、誰が俺の命を助けてくれる? 誰がこの先の未来を切り開いてくれる?
「はな、れろ……ッ」
……いいや、そんなことは関係ない。ただ、単純に。ひたすら、純粋に。
「タケルくんから、離れろぉぉぉおおーーッ!」
タケルくんが死んでしまうのが、どうしても許せないだけだ。
叫ぶと同時、俺の中に不可思議な熱を感じる。実に不愉快な、それでいてあっても違和感のない熱。その熱が導くままに、俺はサイドアームであるDEに手を伸ばすと、英雄へと銃口を向ける。
当然、こんなもので英雄が倒せるわけじがない。それどころか、本体に届きすらしない可能性のほうが大きい。けれども、俺には不思議と予感があった。この一撃は、確実に英雄の動きを止められると。
何かを吸い取られるような虚脱感とともに、何かを失ったかのような喪失感に襲われる。それが何なのか判然としないが、いま重要なことではないために無理やり無視する。
引き金を引け、と誰かが耳元で囁いた気がした。鳳は真後ろとはいえない後方に、インカムからの通信でもない。一体誰の声なのか。何処かで聞いたことがある声だと思いながらも、指は声に従って引き金を引き絞った。
放たれたのは、銃弾ではなく一塊の光の塊。凄まじい反動でもって、DEを分解させ俺の両腕を一瞬にして使えなくしたその光は、俺の願いどおりにタケルくんの元から英雄を引き剥がす。頭部に直撃を受けた英雄は、そのバイザーに罅を入れながら後方へ吹き飛び、魔弾は見当違いの方向へ飛んでいく。俺の腕は使えなくなったが、元々使うような場面もさしてない以上、気にするほどのことでもない。
「グ……オオオォォォォォアアアアアアーーッ!!」
問題は、英雄の標的が明らかに俺に切り替わったことか。もはやその雰囲気に飲まれることもないが、怖いものは怖く一歩後ずさる。ここから、英雄の攻撃を両の脚のみで耐えしのぎ、振り切ってしまえばゲームクリアだ。なんて素晴らしいゲームなのだろうか、クリアさせる気が一切ない作りだ。
「オアアァァァァァーーッ!」
「ッ! っと、と……ッ!?」
余計なことを考えて現実逃避をする間もなく、すぐに復帰してきた英雄が俺に向けて大剣を薙いでくる。しかし、ダメージのせいかいささか鈍い速度で迫ってくるそれは、俺でもなんとか避けられそうなものだった。これなら俺でも、と若干の安堵を覚える。戦場では気の緩みが死につながるということも忘れて。
大剣の振り切りに合わせて放たれた蹴りが俺の胴を確実に捉えた頃になって、ようやく俺は先の大剣での一撃が釣りだったことに気がつく。俺には、超常的な存在から攻撃を受けて無傷で耐えられるような肉体は持ち合わせていなかったようで、明らかに骨が折れるような異音を響かせながら瓦礫へとダイブする。
英雄に蹴られただけでも十分だというのに、瓦礫に取っこんだせいか左目から光が消える。残った右目が捉えるのは、大剣でもって俺をすり身にせんと迫る英雄の姿。
そんな絶望的なシチュエーションで、俺の口に浮かんできたのは笑みだった。
恐怖でついに頭がおかしくなった? それもあるかもしれない。何と言っても、全身くまなく激痛に苛まれているような状況なんだ。間違っても笑みを浮かべるような場面ではない。
それでも、英雄の大剣が俺の目前で振り上げられても、俺の笑みが崩れることはなかった。
何と言っても、現状をきちんと理解できているからだ。
――ガギンッ!
振り下ろされた大剣が何かに弾かれ、英雄の体が横薙ぎに吹き飛ばされる。
俺の視界に代わりに写ったのは、趣味の悪いほどに瑠璃色で統一された装甲騎士。
事情を知らなければ、誰だお前となること必然の謎のヒーロー。
けれど、生憎ながら俺は事情を知っていて、当然ながらその正体も知っている。だから、俺は口元に溢れる笑みをそのままに、
「起きるならもっと早く起きろよ、寝坊助」
「ちょっと夢見が悪かったんでな。飛び起きちまったんだよ」
交わした言葉は一瞬だが、それでも俺は嘗てない安心感を覚えた。
後はタケルくんに任せて、俺は暫く休むとしよう。なに、次に目が覚めたら戦闘なんて決着がついてるさ。
取り敢えず、家に帰ったら風呂入ろう……
深く沈んでいく意識の中で、俺はそう決意した。
なーんか中途半端ですが、これにて第一章は完結です。そして章タイトルで煽っていたくせにほぼほぼ出番のなかった王に、合掌。後で章のタイトル変えとこっと……
ここからは若干の補足をしていきます。
第一に、何故英雄召喚で呼び出されたのが正史のアーサー・ペンドラゴンではなく、アルトリア・ペンドラゴンのしかもオルタだったのか?
これは完全なる独自解釈かつ独自設定で、もし読み込み不足できちんとした内容が原作にあった場合は非常に申し訳ないのですが、英雄召喚とは過去に偉業を成し遂げた人物を縁のあるものを使って降霊させるという、いわば某ゲームの霊基召喚のようなものです。向こうは肉体ついてきてますけどね。
それで、その英雄の強さとは何をもって決められるのか? 存在したのかどうか怪しく、実在していたとしても本当に語り継がれる偉業を成し遂げたのかどうかも不透明な英雄です。召喚する側も、いざ満を持して呼び出したら使えないポンコツでした、では話にならないでしょう。
ですので、この儀式によって呼び出された英雄は「語り継がれた偉業を元に」その格を決められている、ということになっています。つまり、人々の記憶に残れば残るほど、伝承が多ければ多いほど強くなると逝った、知名度ボーナス的何かがはいるわけです。
そして、今回黒王が呼び出された理由。それは、オリ主の前世知識によるところが多いです。オリ主は、黒王のことを知っています。それはもうステータスやマテリアルを諳んじ、姿を詳細に思い浮かべられるほどに。そして、黒王の源流はアーサー・ペンドラゴン。そんな強力なイメージが儀式に吸い込まれた結果、色んな方面で引っ張られたというわけです。
とはいうものの、完全にトレースされたものが出てくるはずもなく、完成したのはほぼほぼ理性というものを失った黒王(狂)。なんで召喚された英雄に自我みたいなのがあるの? と言うのは聞いてはいけないことです。大人の事情です。
そんなわけで、カリスマという名の威圧を周囲にばらまく黒王が、覚醒したタケルくんにフルボッコにされて一連の事件は幕を閉じることに成ります。そのシーンも大人の事情により割愛されています。大人の事情って便利ですね。
オリ主が気を失った後は、ほぼほぼ原作通りの流れで決着が付きましたので、気になる方は原作をどうぞというダイレクト・マーケティングを展開しつつ、重大発表に移りたいと思います。そういえば第一にとか銘打っておきながら結局一個しかなかったな……
一章完結ということで、一話後日譚のような甘い成分多めのものを挟んだ後に、かっ飛ばした夏の同棲期間での幕間を書こうと思っています。もしかしたら私に求められてるのはイチャイチャだけなんじゃないだろうかと思うくらいの量、イチャイチャみせろとのご意見を頂いたので、キリもいいので書きますかと思い至った次第です。
つきましては、もしこの二人にここに行ってもらいたい、だとかこんな遊びをして欲しい、などご要望がありましたら、活動報告へお寄せください。要望がない場合、または私の独断と偏見によって無理そうだと判断された場合は、こちらで適当に考えついたものを持って変えさせていただきます。
長々とお付き合い頂きありがとうございました。オリ主達の冒険はこれからだ!(本当に)
というわけで、次回更新をごゆるりとお待ち下さい。
誤字報告、感想等もお待ちしています。