世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

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いつもより少し長めです


ささやかな

 高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する、という名の行き当たりばったり作戦を始動させて数分。俺は大量のペイント弾の嵐にさらされていた。

 

 

『くっ……すまない、やはり無理だ! 敵の狙撃手をなんとかしないことには……』

『っていっても、うさぎちゃんはもうやられてるけどねー』

『ぬなーっ! うるさいですわ、仕方がないじゃありませんの!? わたくしに近接戦闘なんて無理に決まってますわ!』

「うんまぁ、だよね。大体こうなる気はしてた」

 

 

 作戦始動直後、相手の煽りにぶち切れたタケルくんが単騎突撃で敵の陣形を乱し、それに乗じて俺や鳳が合流のために移動し始めたところまでは良かった。しかし、いつもより軽い武器を振っているせいかすぐに肩をぶっ壊してタケルくんがリタイア。ウサギちゃんも耐えきれずに弾を受けてしまい、マリは人知れず倒されていた。

 そんなわけで、移動中だった俺と鳳は最悪のタイミングではしごを外された状態となり、俺は敵前衛に見つかってしまい絶賛集中砲火を受けている真っ最中だった。

 

 

「鳳、その位置から此処までどれくらいで来れそう?」

『最短で一分だ。敵の狙撃手が居なければ、だがな。今は捕捉されてるせいで動けそうもない』

「やっぱり狙撃手が難題かぁ……」

『うむ、手元のアサルトライフルではぎりぎり届かんからな……』

 

 

 せめて手元に狙撃銃があれば、と悔やむ鳳だが無い物ねだりをしても仕方がない。勝つためにはある手段でどうにかしなくてはならないのだ。

 此処まできてしまったらいっそこのまま負けてもいい気はするものの、どうせだったら一回くらいは勝ちたいのが人情というものだ。雑魚小隊と呼ばれていようと俺達にだって意地くらいはあるのだ。多分。

 勝つためにはどうすれば良いのか。それを考えることしばし、一つの考えが浮かぶ。自分で考えておいて余り気は進まないものの、勝つためには手段を選んでいられないのも事実。このまま負けることとなんとしてでも勝つことを天秤に掛け、僅差で勝つ方に天秤が傾いた為に俺は覚悟を決めた。

 

 

「鳳。その位置から西園寺がやられたところまで、どれくらいの距離がある?」

『む……そっちに行くよりかは近いが、どっちにしろ今の状況では辿り付けんぞ。それがどうかしたか?』

「狙撃手の注意が少しはずれたら、なんとかなりそう?」

『……なるほどな、なんとかして見せよう。注意を逸らす作戦があるのか?』

「作戦ってほどじゃないんだけどね。頑張って注意を逸らしてみる」

『うむ、了解した』

 

 

 どうやら俺の意図することを理解してくれたようで、頼もしい返事を返してくれる鳳。流石雑魚小隊の中の出来る人は違うね。最近は感化されてきたのか段々色んな意味でポンコツになってきてるけど。

 俺はインカムをオープンにしたまま物陰の端に移動した。反射鏡を使って確認してみると、見事三つの銃口が此方に向いていた。

 普通に打って出たのでは、一人倒すか倒さないかのうちにやられてしまうだろう。それでは狙撃手の注意を引くことは出来ない。

 ──さて、やりたくはないけど、仕方がない。正面切ってがダメなら搦め手でやるまでだ。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 三五小隊と対戦中の二○小隊の面々は、ゆだんなく構えながら物陰に潜んだ敵が飛び出してくるのを待っていた。

 試合前の啖呵の通り草薙タケルにはペイント弾を大量にお見舞いし、ロリ巨乳のスナイパーとぺったんすっとんの女の子は既に倒している。

 最大の脅威とにらんでいた元魔女狩り(デュラハン)の鳳桜花は鐘楼からの射撃で牽制できているため、最早この試合には勝ったも同然の状況だ。

 ──とは、油断しないのが異端審問官を目指すものだ。普段は巫山戯ていようと、彼らも立派な異端審問官の卵。例え命のやり取りがない模擬戦でも、全力で向かうのが当たり前だ。

 

 

「ふ、ふふふ……このまま圧倒的な勝利を収めて、俺の格好良いところを見せれば女子にも人気が出るはず……」

 

 

 リーダーらしき少年がにやりと笑いながら漏らしたのは、この試合にかける意気込みそのもの。全力の出し方は人それぞれだということを実に雄弁に物語っていた。

 と、そんな折に物陰に動きがあった。気持ちを切り替えて手に持つ武器を構える少年だったが、どういうわけか此方に飛んできたのは銃弾ではなく銃そのものだった。

 不審に思いながら小隊員に待機の指令を出した少年は、次に物陰から片手を挙げて姿を現した少女を緊張の面持ちで眺めた。

 鯨澤セナ。薬師(シーリー)希望者で、平均よりやや背が小さく人形のように整った外見と、なによりも雑魚小隊所属とは思えない勤勉さと優秀さを併せ持つクラスの人気者。

 誰にでも隔てなく会話をしてくれるうえに、女子ということを忘れてしまいそうなノリの良さを垣間見させる彼女の人気は非常に高く、影ながらファンクラブも存在する。何を隠そう少年もその一人なのだが。

 

 

「武器を捨てたってことは、降伏で良いのか?」

「あはは……ちょっと私じゃ、どうしようもない状態みたいだから」

 

 

 そう苦笑するセナは、上げた手を僅かに下ろして顔をなでた。正確には、左目を覆う眼帯を、だが。

 現在、セナは左腕と左目がつかえない状況にある。怪我をしている、と言い換えてもいい。本当ならばこんな大会に出ずに、しっかりと養生していてしかるべきなのだが。

 だが、その惨状がセナが呟いた自分ではどうしようもないという言葉に説得力を持たせる。いくらセナが優秀であろうと、片腕で体のバランスを保てず、片目で距離感覚を上手くつかめない状態での一対多は無理だろう。

 警戒の一部を解いた少年は、未だ武器だけはしっかりと構えながらも上機嫌な様子で言葉を投げた。

 

 

「確かにそうだな。怪我人を駆り出しておいて、自分達は碌な援護もしないまま脱落。草薙って奴は本当にどうしようもない奴だよな?」

「うーん、確かに。勉強は出来ないし自炊も出来ないし、放っておいたら一人で生活すら出来ないんじゃないかなぁ……?」

「お、おう……」

 

 

 まるで母親のような言い草に、果たしてこの二人はどういう関係なのだろうかと少年は訝しむ。そもそも何故生活面のことまで把握しているのか。

 と、大きな溜息を吐いたセナはふとそうだ、と呟いて少年の方に意識を向ける。改めて正面から見つめられた少年は、僅かに頬を紅くして視線を逸らす。

 

 

「そうそう、こうして出てきたのはね? 君にいいたいことがあって」

「い、いいたいこと?」

「うん、いいたいこと」

 

 

 にこり、と笑って近づいてくるセナに、少年はたじろぎながらも何事だろうと考える。

 このタイミングで、わざわざ自分にいいたいこと。それは一体?

 

 

──まさか、俺に惚れて愛の告白を……!?

 

 

 ふと、少年の脳内に電流が走った。セナの事情を知っているものが聞けば鼻で笑うか呆れるようなことだが、生憎と事情を知らない少年は考えれば考えるほどそれが真実のように思えてしまう。

 緊張の面持ちで言葉の続きを待つ少年を前に、体が密着しそうなほど近づいたセナは下からのぞき込むように見上げると、右手で少年の手を取った。

 

 

「いいたいことって、一体……」

「うん。それは──」

 

 

 少年の手を取った右手にきゅっと力を込めたセナは、にこりと笑いかけ──

 

 

「──敵将討ち取ったりぃ!」

 

 

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「卑怯くせぇーーー!?」

「ですわーーー!?」

 

 

 脱落判定を受けて控え室に引っ込んでいたタケルとうさぎは、そこで戦況を映していたモニタを眺めて絶叫していた。そのあまりなやり口に、一緒にモニタを眺めていたマリも呆れたような声を上げる。

 

 

「あの子、逞しいっていうか太ましいっていうか……っていうか、いいの? 一回降伏したのに攻撃したりして」

「そりゃ、模擬戦って言っても俺たちは異端審問官を目指してるわけだからな。対象が降伏したからって、油断するほうが悪いってことなんだろ」

「そうなんだ……」

「……いや、言いたいことはわかる。わかるけど、あいつはその……ああいうやつだから……」

 

 どこか遠い目をしながら、タケルはそう呟いた。

 そうなんだと返しながら、マリは名も知らない少年に対し心のなかで合掌をした。

 ルール上はセーフでも、心情としてはアウトを通り越してギルティである。予想外の展開に会場は盛り上がっているようではあるが。

 モニタ上では、倒した少年の意識を素早く刈り取ったセナが未だ唖然としている残り二人に少年の武器を奪い攻撃を仕掛けていた。

 我に返り慌てて物陰に隠れようとした二人だが、行動が遅れた一人が餌食になる。異変に気が付いたのか、通信が入ったからなのか、鐘楼から援護射撃が飛んでくるが素早く隠れたセナには当たらない。そして、狙撃手の注意がそれたその隙に桜花はやるべきことを成し遂げていた。

 

 

 それから数分後、三五小隊の勝利でもって模擬戦は終結した。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 いやー、勝った勝った。いくらせこいといわれようと、ルール内で勝利を収めたんだから問題なし。うん、そのはずだ。

 ……いやまぁ、確かに多少はずるいと思わないこともないけどさ、ああでもしないと攻撃すら出来ないんだし仕方ないじゃん?

 そういうわけで、君たちそんな目で俺を見るのをやめなさい。

 

 

「確かに、勝ちは勝ちですわ。それに違いはありませんが……」

「そう、違いはないんだがなぁ……」

「……いいたいことがあるなら、はっきりどうぞ?」

「あんたがぶん投げた奴に謝った方が良いんじゃない? 泣いてたわよあいつ」

「ごめんなさい。言いたいことがあるなら事務所を通していただかないと……」

「何処の事務所よ」

 

 

 マリにストレートに切り込まれて焦った俺は、そっぽを向いてすっとぼける。

 いや、俺だってまさか泣かれるとは思ってなかったし……そんなに俺に負けたのが悔しかったのだろうか。

 まぁ、彼にはいざという時の授業料だと思っていただこう。ほら、もしかしたら俺みたいに狡い考えの犯罪者が居るかもしれないし。

 

 

「まぁ、そんな些細なことは置いておいて……」

「些細なこと!?」

「みんなで外の屋台回ろうよ。ほら、今年は縁日……じゃなくて、旧日本文化を汲んだ屋台なんでしょ?」

「屋台? そんなのあるの?」

「そういえば、マリには言ってなかったな。毎年理事長が業者を呼んでくれて、食いもんとかの屋台が出るんだ。今年はそれが昔のこの土地の奴なんだとさ」

 

 

 そう、今年は縁日をモチーフにするらしく、三五小隊ならず周りの皆も浮き立っている。何を隠そう、俺もそのうちの一員だ。縁日なんてもう前世以来だし、綿飴とかも食べてないからな。リンゴ飴とか好きだったけど、ちゃんとあるかな……

 皆で何処を回るかという話題で盛り上がっていると、ふと鳳が微妙な顔で会話に混じっていないのに気が付く。この人まだコミュ障治らないのか……いい加減慣れても良いと思うんだけど。

 

 

「鳳は何処を回りたいとかはないの?」

「……いや、私は先に報告をしなければならないからな」

「はぁ? あんた、折角の戦勝ムードになに言ってんのよ。折角この私が力を貸してあげたってのに」

「貴様は毛ほども役に立っていないだろうが! 今回活躍したのは私と鯨澤だけだ!」

「あぁ、うん。そうだよな。活躍したのは二人だけだよな。ごめんな、使えない隊長で……」

「あ、いや、草薙に言ったのではないぞ? 今のは言葉の綾というかだな……」

 

 

 慌てて草薙にフォローを入れようと慌てる鳳に、斑鳩がちょっかいを入れ始めいつも通り騒がしくなっていく。

 それをみて、俺は少しだけ笑ってしまった。コミュ障とはいうものの、鳳は少しずつ皆に打ち解けているようだ。

 笑った俺をキッと睨み付けてくる鳳の視線を躱し、俺は縁日のことを考えることにした。だってほら、折角の息抜きイベントなんだし、楽しまなきゃ損ってもんよ。ガイアが俺にもっと息抜きしろと囁いてくるのさ……まぁしたくて出来るんなら苦労はしないんだけど。

 暫くして、後から合流すると言い残して報告に行ってしまった鳳を除き、マリと三五小隊メンバー、そしていつ現れたのかラピスを合わせた皆で縁日へと繰り出した。

 飲食系、特に綿飴や鯛焼きなど甘いお菓子等は人気なようで、生徒たちが群がっている。遊戯の屋台も出ていて、伝統的な金魚掬いや水風船釣りの他に、型抜きのような余り見ないものもある。

 

 

「あ、みてみて。皆であれやってみたら?」

「あれ?」

「ほら、射的。景品を撃って落とせれば、それを貰えるんだよ」

「ふふん、と言うことはこの天才的狙撃手のわたくしの出番というわけですわね! 景品は全て頂きますわ!」

「いや、意外と難しいんだよ? そうだ、誰が一番多くとれるか勝負してみたら?」

「ふうん、面白そうじゃない。お姉さんも一枚かませて貰うわ」

「皆ってことは、俺もやるのか……」

「良いじゃんタケル、面白そうだし!」

 

 

 楽しそうに笑うマリだけど、君はタケルくんの銃の腕前を知らないからそんなことがいえるのさ。俺は射的に使う銃が爆発しても驚かない自信あるぞ。

 若干一名げんなりした顔が居るものの、概ね楽しげに銃を構えると思い思いの景品に狙いをつけ始める。

 

 

「ふっふっふ、わたくしにかかればこんなお子様の遊び、一瞬で在庫切れにして差し上げますわ。見ていてくださいまし!」

 

 

 ウサギちゃんが意気揚々とそういうと、一番大きな景品に狙いを定めた。さすが狙撃手というべきか、その狙う姿は様になっていた。

 しかし、ウサギちゃんは一つ重要なことを見落としている。それは――

 

――バスン

 

 若干情けない音とともに吐き出されたコルク弾は、見事景品に当たるもあっけなく跳ね返る。

 そう、こんなちゃちなおもちゃで重いものを落すなんて土台無理な話なんだよね。

 

 

「で、お子様の遊びがなんだっけ、うさぎちゃん」

「今ちゃんと当たりましたわよね!? なんで落ちないんですの!?」

「そりゃ、そんな威力の銃じゃ重いものは落とせないでしょ。寧ろなんで西園寺が気が付かなかったのかわからないんだけど」

「うぐ……た、確かにそれもそうですわね……」

「人様の子どもの遊びじゃ、うさぎちゃんには荷が勝ちすぎだったかしらね」

「うがあぁぁ! 杉波、それはどういう意味ですか!?」

「落ち着きなさいな。お姉さんがちゃんと遊び方を教えてあげるから。こういうのはね、小さくて軽そうなものを狙って……」

 

 

 斑鳩は適当に狙いを付けると、おもむろに引き金を引いた。

 またも情けない音とともにコルク弾が吐き出されると、今度は駄菓子に向かってまっすぐ飛んで行く。

 ……が、当たる直前で急に失速すると、コルクは景品の手前にあっけなく落ちていった。

 

「ぷぷ。杉波、それでどうやって遊ぶものなんですの?」

「……ちょっと、この銃不良品ね。私が整備してあげるわ」

「え、は? ちょ、待ちなさいな杉波! あなたが手を加えたらトンデモ兵器になりかねませんわ!」

「大丈夫よ、内蔵のバネを特別製に変えるだけだから」

「やっぱり改造してるじゃありませんの!?」

 

 

 おいバカやめろ。

 俺は慌てて斑鳩を止めようと声を上げようとしたが、どうやら本気で言っていたわけではないようでぶつぶつと文句を言いながらも次の的に狙いを定めようとしているところだった。

 全く、心臓に悪い冗談だ。斑鳩が弄ったりなんかしたら、冗談抜きでウサギちゃんのいうようにトンデモ兵器になりかねない。斑鳩には、変態兵器を作ってやらかしかねない、という信頼だけはあるんだ。何その信頼、犬にでも食わせてやりたい。

 ため息を吐きつつ、残りの二人に目をやる。どうやらタケルくんの呪いも火薬を使わない射的の銃は暴発させられなかったようで、今のところはなんともないらしい。

 二人とも慣れていないためか、若干ダイから身を乗り出し気味になりながらも慎重に狙いを定め、ゆっくりと引き金を引いた。

 マリの銃口から真っ直ぐに飛び出したコルク弾は、吸い込まれるように駄菓子に命中した。ぐらり、と駄菓子が揺れると、倒れて板の向こうに落ちていく。

 どうやら、真っ先に景品を手に入れられたのはマリのようだ。

 タケルくんのコルク弾? 屋台のおっさんの禿頭に見事に命中したよ。残念だったなタケルくん、そのオッサンは景品じゃないんだ。

 

「あ、やった! 見てタケル、景品ゲット!」

「あー、うん。やったな。俺は屋台のおっさんに当たったし、おっさんゲットかな。あははは……」

 

 

 景品を手に入れて喜ぶマリの隣には、屋台のおっさんに涙目で謝るタケルくんの姿が。

 なんともいい難い光景なのだが、マリが景品を手に入れたことを快く思わなかった人物にとってはどうでもいいらしかった。

 

 

「……二階堂マリ。まぐれで景品をゲットできたくらいでいい気にならないことですわ。それと、草薙に対して慣れ慣れしすぎじゃありません?」

「……ふーん? でも、どこかには銃の訓練をちゃんと受けてるのに、実力でも運でも当てられない人がいるみたいだけど?」

「あぁ、うん。俺、剣術しか能がないから……」

「ちょ、別にタケルのことじゃないってば! ほら、人には得手不得手ってあるし……」

「草薙はちょっと不得手が多すぎるけどね」

「鯨澤さん? ここは追い打ちじゃなくて親友にフォロー入れるべきところじゃないかと俺は思うんだが?」

「いやでも事実だし……」

 

 

 でも剣術は誰よりもすごいよね! といったところで、他の才能が人間以下なのは覆し様のない事実なのだ。人並み以下じゃなく、人間以下。ココ重要だから。

 しかし、俺のその言葉に深く傷ついてしまったのか、タケルくんは悲しげな顔でいじけてしまった。ごめんねタケルくん。でも俺は悪いとは思ってないし反省もしていない。

 まぁ、ほっとけばそのうち復活するでしょ、きっと。

 

 

「言うじゃありませんか。ですがまぐれでは二度と当たらないでしょう? あなたが無駄玉を撃つ間に、わたくしは屋台の景品を空にして差し上げますわ」

「いいの? そんなできもしないこと言って。一発も当てられなくて恥かいたって、私は知らないけど?」

「「……」」

 

 

 無言で睨み合うこと暫し、ウサギちゃんとマリは唐突に銃を取り直すと景品に狙いを定め始めた。

 どうして仲良くできないのか、と俺は思ったが、まぁそんなことを言っても火に油を注ぐような結果になりかねないと俺は黙っていることにした。厄介事はゴメンだからね。

 

 

「ちょ、おい。お前ら、他の屋台は回らないのか?」

「「こいつを叩きのめした後(ですわ)!!」」

「お、おぅ……」

 

 

 案の定すぐに復活したタケルくんが勇敢に口を挟みに行くも、一括で追い払われてしまった。

 しかし、本当に屋台を空にするまではやらなそうだけど、終わるまでにかなり時間がかかりそうな勝負だな……いや、そんなどうしようみたいな目で見られても俺はどうしようもないんだけど。

 

 

「はぁ……あんた達、ここは私が見てるから二人で他の屋台回ってきなさいな」

「いや、でもそれじゃ杉波に悪いだろ?」

「平気よ平気。あの二人をからかうネタにもなるし」

「お前らしいな……」

「でも、やっぱりなぁ……」

「あら、鯨澤はあの二人を見張ってるのが私じゃご不満?」

「お前を見張ってるやつが不在になるから不満かな」

「即答なんて傷つくわぁ……まぁ、安心しなさいな。今日は何にもしないから」

「いつもなにもしないでいてくれると助かるんだけど?」

「それは保証しかねるわね」

 

 

 この野郎、いい笑顔でいいやがった。いや、今日はなにもしないっていう言質を取れただけでも良い方か……

 取り敢えず、と斑鳩に後のことを任せてタケルくんと屋台を回ることにしたのだが、何をやらせても絶望的なタケルくんと怪我をして片腕しか使えない俺の組み合わせだ。一体何処をどう回れというのだろうか。

 

 

「……取り敢えず、適当にどこか回ろうか。草薙は何処か行きたい所ある?」

「いや、特に。鯨澤は?」

「……特に」

「……どうするか」

「と、取り敢えず歩きながら考える方向で……」

 

 

 なんとはなしに二人で歩き始めるが、喋ることもなく二人の間に沈黙が横たわる。

 く、気まずい……

 

 

「「……えっと」」

 

 

 気まずい空気をなんとかしようと口を開くと、どうやらタケルくんの方も同じ考えだったのか二人の声が重なる。これ幸いとタケルくんに会話を譲ろうと黙ると、タケルくんもまた黙って俺のことを見つめて……

 ……って、なんでこんなお約束みたいな展開になるんだ。誰も得しないぞこんな展開。

 

 

「あー、草薙。なにか――」

「お、そこのカップルさん! ちょっとよっていかないかい?」

 

 

 何か食べ物でも買うか? と続けようとした声を、大きな声が遮る。

 カップルだと? リア充め、爆殺されろ。と念を込めた目で周囲を見回すも、俺達の周りにカップルらしき男女の組み合わせを発見することができなかった。

 

 

「そこのお二人さんだよ! 切れ目のあんちゃんと、すっとんなお嬢ちゃん!」

 

 

 リア充に対する殺意が聞こえさせた幻聴だったのだろうか、と首を傾げていると再び呼びかける大きな声が聞こえてきた。

 ふむ、どうやら幻聴ではないらしいな。しかし一体誰のことを呼んでいるのだろうか。

 声の主を探すと、中年の人の良さそうなおっさんがこちらの方ををまっすぐに見つめていることに気がついた。

 ……これはあれだな。俺の後ろにカップルが居るパターンだな! ふはは、俺は騙されんぞ!

 ばっと勢い良く後ろを振り返るも、後ろには誰もいない。うん? おかしいぞ?

 改めておっさんに視線を戻し、試しに俺とタケルくんを交互に指差してみせると、おっさんはにこりと笑って頷いた。

 なるほどなぁ……

 俺は溜息をつくと、タケルくんを連れておっさんの元へと足を運んだ。

 

 

「いや、別にカップルとかそういうのじゃないんですけど……」

「ははは、照れなくてもいいじゃないか。お似合いのカップルだとおじさんは思うがね」

「私達がカップルとか、誰得……って、そういえばクラスに何人か居るんだった……」

「ん? だれとく……? 何の話だい?」

 

 

 そう、世の中にはいるんだ。男と男がカップルであることに生産性を見いだす人種が。野郎腐ってやがる。遅すぎたんだ……

 何でもないですとおっさんには誤魔化しておき、俺たちに声をかけてきた理由を聞いてみた。正直、カップルと誤解されてる時点で碌なことじゃないと思うんだけど。

 

 

「いやね、すっとんの嬢ちゃんはかなりの別嬪さんだからね。さぞ浴衣が似合うんじゃないかと思って」

「浴衣?」

「あんちゃんは知らないかい? 嬢ちゃんみたいな女の子がこういうときに着る服のことさ。嬢ちゃんは実に浴衣と親和性がいい!」

「親和性って、鯨澤が?」

「そうさ。この──すっとんな嬢ちゃんなら、親和性もばっちりさ!」

「帰っていいですか?」

 

 

 すっとんすっとん連呼するおっさんにぶち切れそうになりながら、何とか抑えてそう訪ねる。いや、別に体型のことを気にしてるわけじゃないんだけど、こう連呼されると頭にくるのも事実だ。

 睨みつけるようにおっさんを見つめると、流石に言い過ぎたと思ったのか罰が悪そうに頭を掻いた。

 なんだ、別に悪気があっていっていたわけじゃないのか。てっきりバカにされているのかと……

 

 

「いや、ごめんなすっとんな嬢ちゃん。彼氏の前であんまり胸の話はされたくなかったな」

「やっぱりバカにしてますよね? いい加減ぶち転がしますよ?」

「どうどう、落ち着くんだ鯨澤!」

 

 

 思わず殴りかかりそうになる俺の体を、タケルくんが羽交い締めにして押しとどめてくれる。っけ、タケルくんのお陰で命は助かったようだな。運のいいやつめ。

 

 

「まぁ、なんだ。お詫びと言うか、元々そのつもりだったんだが、嬢ちゃんは浴衣に興味ないかい?」

「……いえ、特には」

「そうかそうか! だったら一つ着替えていきな。無料で貸し出してあげるからな!」

「言葉のドッジボールはやめません?」

「ほら、彼氏とのデートだろう? 可愛く着飾るのが女子の勤めってもんさ」

「やだ、なにこの人怖い……全然会話成り立たない……」

 

 

 結局なんだかんだ言っておっさんに押し切られ、俺は渋々着付けのために仮設の建物の奥に通された。

 怪我してるから一人で着付けできないって言おうとしたのに、このおっさん用意周到なことに女性の着付け係まで用意してやがった……

 はぁ、本当に誰が得するんだよ、このイベント。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 上手く丸め込まれて連れ去られていくセナを苦笑いとともに見送ったタケルは、セナの姿が見えなくなると安堵ともつかないため息を漏らした。

 セナ本人は男だ男だと言い張っていても、結局見た目は女の子。しかも、相当外見の整っている方だとくれば、周りがどう見てくるかは明らかだ。

 事実、ここまでくる道中ですれ違った生徒達の、特に男子生徒のタケルを睨みつけるような視線はすごかった。尋常じゃないほど殺気のこもった視線に晒され、冷や汗をかいたほどだ。

 本人たちがいくら否定しても、二人で居ることの多いタケル達は周りからカップルだと思われている。どうしてお前が選ばれるんだ、という男どものやっかみの感情は凄まじい。

 幸いなことに、セナ本人は鈍感なのか気がついていないらしく、男性生徒たちもセナの周りでは表立ってやっかんだりすることはない。

 本人が知ったらどんな顔をするだろうか、とタケルはふと考え、多分吐きそうな顔で嫌がるんだろうなと苦笑を漏らす。その手の話が大嫌いなことは、タケルも重々承知していた。

 

 

「はぁ、全く……なんなんだかな……」

「何がなんなんだって?」

 

 

 一人ごちるように漏らした言葉に返答が帰ってきて、タケルは驚いたように声のもとに目を向ける。

 そして、呆けたように固まってしまった。

 

 

「いやぁ、着付けの人が手をわきわきさせながら迫ってきた時は身の危険を感じたよ……浴衣とか初めて着たけど、結構窮屈だねこれ」

「……」

「まぁ、お金取られたわけじゃないから良いんだけど……って、どうしたの草薙。すっごいアホ面になってるけど」

「……え? あぁ、いや……」

「……? 体調でも悪くなった?」

「いや、大丈夫だ。何でもない」

 

 

 慌てたように顔を背けつつそう返すタケルに怪訝そうな顔をしながらも、セナはそっかとだけ呟いてそれ以上追求はしなかった。

 一方のタケルは、セナから顔を背けながら静かに呼吸を整えていた。

 タケルがセナを見て固まってしまった理由は、至極単純。その浴衣姿が、似合っていると思ったから。()()()()()()、とても似合っていると思ってしまったから。

 もちろん、そんなことをセナ本人に言えば何を言われるかわかったものではないために口には出さなかったが、浴衣姿のセナをいつも以上に女の子だと認識してしまうことに、タケルは戸惑っていた。

 

 

「さて、と。どこか屋台によって食べ物でも買おうか。お腹へってきたし」

「……そうだな。そうするか」

 

 

 言われるがまま頷いたタケルは、なんとか考えを切り替えようと考えを絞った。

 このままでは、まともに顔すら見れそうにない。どうにかして別のことを考えようとし、タケルは受け答えが上の空になる。

 

 

「んー、縁日って言ったら焼きそば……? いやでも、たこ焼きって線もありか……」

「……そうだな」

「草薙はどっち食べたい? 焼きそばと、たこ焼き」

「……そうだな」

「……? おーい、草薙。かえってこーい」

「……そうだな」

「……ほほぅ、そっちがその気ならこっちにも考えがある」

 

 

 ニヤリ、と笑ったセナはその場から少しはなれた後、手に何か持って戻って来ると再度タケルに声をかけた。

 

 

「草薙、聞こえてる?」

「……そうだな」

「微妙に会話みたいになってるの頭くるなぁ……ほら、草薙こっち向いてー」

 

 

 かけられた声に、タケルは無意識にそちら側へと顔を向けた。

 その途端、タケルの顔の前にずいと何かが近づき、そのまま唇へと触れた。

 それはタケルの唇を無理やり押し開き、中へと侵入して――

 

 

「――って、あっつぅ!? な、これ、口の中やけどする!?」

「あはは、漸くトリップから戻ってきたな小僧」

「おま、何だこれ!?」

「何って、たこ焼きだけど。美味しい?」

「めっちゃ熱い!」

「そりゃよかった」

 

 

 愉快そうにセナは笑い声を上げるが、タケルはそれどころではなかった。

 目を白黒させつつもなんとか口の中のものを咀嚼し飲み下すと、目の前にペットボトルの水が差し出される。

 これで冷やせ、と言っているのだと解釈したタケルはそれを遠慮なく貰い受けると、蓋を開けて中身を一気に煽った。

 程よく冷えた刺激が口の中の痛みを若干和らげてくれ、タケルは漸く人心地付いた。

 

 

「お前、なんてことするんだよ……」

「ボーッとしてる方が悪い。故に当方に非は一切ない」

「いや、確かに俺もボーッとしてたのは悪かったけどな? 幾らなんでもやりすぎだろ……」

 

 

 若干恨みがましい目をセナに向けると、タケルはもう一度ペットボトルの水を煽る。

 と、そのタイミングでセナは悪戯げに微笑むと、唇に指を当てて呟いた。

 

 

「……間接キス、しちゃったね?」

「ぶっふぁ!?」

「うわ、きたな!? かかったんだけど!?」

「ゲホッゲホッ……お、お前なんてこと……」

「いや、冗談だから……そもそも、ペットボトル最初は開いてなかったでしょ」

「確かに……」

 

 

 よくよく考えてみれば、自分が開けた時は未開封だったのだから、間接キスも何もないのである。

 またからかわれたのか、とゲンナリしたタケルは、くすくすと笑うセナを見やりため息を吐いた。

 その時、聞きなれない高い音が周囲に鳴り響く。何事かとタケルが周りを見渡すと、パッと一瞬辺りが明るくなり、直後にドドン、と重い炸裂音が響き渡った。

 その拍子に、セナの笑い顔が明るく照らされる。赤やオレンジなど、様々な色で代わる代わる。

 

 

「花火……こんなのもやるんだ。綺麗だね」

「あぁ……そうだな」

 

 

 確かに綺麗だ、と思ったのは、果たして花火に対しての感想なのか、それとも別なものも入っているのか。

 タケルには、それがよくわからなくなっていた。

 

 

 

 

 

「……宿主。良い雰囲気なのは結構ですが、至急皆の所に戻ることを推奨します」

「うお!? ラピス、お前いたのか……」

「? 私はずっとそばにいますが」

「あー、うん。そういやそうだったな……んで、何で至急? まさか、あいつらがなんかやらかしたのか……?」

「端的に言いますと、屋台が一つ吹き飛びました」

「マジで何やってんの!?」




この後、怒れるマリと荒ぶるうさぎの迫真の大バトルや、その影で方々に半泣きで頭を下げるタケルの姿があったのだが、それはまた別のお話(大嘘
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