世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

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鯨澤少年の受難2

 前回のあらすじ。にこやかに笑いかけたらにこやかに殺害宣言されました。どうなってんだこの世界。ガッデム。

 

 

「よし、まずは落ち着こう草薙くん。人を殺すのは大変に好ましくない行為だ。それに、将来人の上に立つってんなら一々こんなことで怒ってちゃダメだろう?」

「お前がそれをいうのか? 誰のせいだと思ってやがる」

「正直なんでこうなったのかさっぱり」

「いい度胸してんなお前……」

 

 

 度胸なんてないです正直睨まれてるだけでちびっちゃいそうです。そもそも本当になんで絡まれているのかがわからない。最大限刺激しないように振る舞っていたというのに、ここまで来ると本気で世界が俺の命を狙いに来てるとしか思えない。やっぱりバグってるよ、責任者呼んで。

 大体、本当だったらこの学園も来るのだって嫌だったんだ。だけどパパンとママンが異端審問官にさえなれれば苦労はしないってゴリ推してくるものだから仕方なく。まさか俺の知らないところで入学手続き勧めてるとは思わなかった。仕方なくっていうか強制じゃねぇかこれ。

 

 

「まぁ、いい。いいか、学園にいる間に絶対お前を超える。んでもって、頂点にも立ってみせる。絶対だ、わかったか?」

「あぁ、うん。まぁ頑張ってくれ。俺も応援してるから」

「……ッチ お前、性格悪いって言われたことないか?」

「知りあいからしょっちゅう」

 

 

 まぁ、前世での話だけど。というか、今の会話のどこに性格の悪さがにじみ出ていただろうか? 一途に目標へと走る奴に激励を送るいいやつを演じているはずなんだが。は、まさか俺の隠しきれない腐臭が目から漏れ出ていた……? どんだけ腐ってるんだ俺の性根。

 

 

「……取り敢えず、もう知ってるみたいだが名乗りはする。草薙タケル、草薙真明流皆伝。周りは馬鹿にしやがるが、剣術はまだまだ腐っちゃいねぇってことを証明するためにきた」

「お、おぅ。よろしく」

「…………」

「……な、なにか?」

「こっちが名乗ったんだ、お前も名乗り返すのが筋だろ?」

「あー、いや。まぁ……」

 

 

 さて、困った。ここで名乗ったりしたら本格的に名前を覚えられて面倒なことになりそうだ。かと言って、この雰囲気からして名乗らないって選択肢はなさそうだし。名乗るか名乗らないかの二択だと思ってたら、実質絡まれるって一択だけだった。何を言ってるかわからないと思うが、俺にもわからない。いや、本当にわからない。ってかわかりたくない。

 でもまぁ、ちゃんと名乗り返したほうが印象は良くなりそうだな。ここは絡まれないってのを諦めて、良好な関係を築くことに力を注ごう。となるとあれだな、名乗りは印象的かつダイナミックにやったほうが良いな。

 

 

「わかった。だけど、一回しか言わないからよーく聞けよ?」

「良いからさっさと名乗れ。人の名を聞き違えるほど愚図じゃない」

「良いだろう――

 

 

 

 

 

 ――我が名は鯨澤聖那! 平凡な人生を望む、未来を見通せし力を持つ者!」

 

 

 決まったな。やっぱりあの種族の名乗り方は特徴的かつ印象的だからこういう場面にはぴったりだ。まぁ、俺の名前は頭のおかしい爆裂娘達と違って至って平凡だから、若干違和感があるのは否めない。というか、あそこの種族のネーミングセンスが壊滅的すぎるだけだ。他の部分は割りと共感が持てるところがある。全部とはいっていないところがミソだ。

 と、タケルくん固まってる固まってる。まぁ、普通に返されても俺が困るけどな。因みにサラッと未来を見通す力を持つとかなんとか言ってるけど、もちろん大ぼらだ。いや、原作知識を持ってるって点ではあながち嘘じゃないかもしれんが。

 

 

「あー、なんだ。お前、巫山戯てるよな?」

「いやいや、とある筋ではこれは立派な名乗り方だから。別に馬鹿にしてるとかそういうわけではないって。まぁ俺がこんな挨拶されたら顔面に一発叩き込む所存だけど」

「やっぱ巫山戯てるじゃねぇか」

 

 

 呆れたようにため息を吐いたタケルくん。でも、その後に小さく聞こえた「鯨澤、か……ぜってぇ忘れねぇ」という言葉、聞こえてますことよ? どうにも良い方で印象づけられた気がしない。やっぱり頭のおかしい種族に頼るのが間違いだったか。

 まぁでも、剣呑な雰囲気は引っ込めてくれたから成功と言っても過言ではないだろう。正直後ちょっと遅かったらちびってた。事前にトイレはいっておいて正解だったぜ。

 と、そんなこんなで時間を潰していたら、いよいよ入学式が始まる時間になった。いくら異世界の育成機関といっても、根本的なプログラムは変わらないらしい。もはや恒例というべき学校長、ここの場合は学園長か? のありがたいお言葉もきちんと組み込まれている。

 

 

「やぁ、諸君! 未来明るき異端審問官の卵達! 私がこの学園の理事長、鳳颯月だ」

 

 

 壇上には、想像してたより歳の若い学園長の姿が。しかしなぜだ、なんとも胡散臭い雰囲気が漂っているように見えてならない。それに、どっかで聞いたことがあるような名前……って、そういや鳳颯月といえば原作に深く広く関わってくる超重要人物じゃねぇか。まぁどんな感じにかはろくに覚えてないけど。なんか特別な立ち位置に居た気がしたけど、なんだったっけ?

 取り敢えず、俺には関係ないか。まさかそうそう複数人のキーマンに目をつけられるわけにもいかない。なんかチラチラ視線が合う気もしなくもないが、多分隣のタケルを見てるんだろう。そうでなくちゃ困る。という訳で、下手に目線を合わせて好きだと気がついてしまう前に、俺が前世で編み出した聞いているようでその実目を見開いて寝ているだけの姿勢をとる。目を開けていたら寝れないんじゃないかと思うかもしれないが、実はそうでもない。視覚情報が来る分脳は全然休まってないが、こういった場面では非常に役に立つ。寧ろこういった場面以外で使いみちはないが。難点は起きたら目がめっちゃ痛いこと。寝てると瞬きしないから、ドライアイがつらいです。

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

「――きろ……い、………って。きい………か……」

「んー、後五分……」

 

 

 誰だよ、人が寝てんのに声かけてくるやつは。人の三大欲求を阻もうなんて大した度胸じゃないか。裁判に持ち込んだら確実に勝てる。だがまぁ、俺は博愛主義者で無駄な争いは好まない。だから仕方ないから五分後に起きてやろう。さて、もう一眠りを……

 

 

「ったく……起きろって、言ってんだよ!」

「ごふぅ!?」

 

 

 瞬間! 鯨澤少年の脳内に電流が走った! 電流自体は常に走ってるんだよなぁ……まぁ、常日頃から流れてくる電流じゃないことは確かだな。取り敢えず、脳天が割れるように痛いです誰か助けて下さい。

 まぁ大体犯人はわかってるから、殴られた場所を押さえながら上を見上げてみる。そして気がついたけど、目がカラッカラに乾いてるせいで視界がめっちゃぼやけてる。目はそんなに悪いほうじゃないんだが、今は立ってるタケルくんの顔を見るのに目を細めないといけないくらいだ。

 

 

「いてて……え、なに? もう入学式終わった?」

「とっくの昔に終わった。置いてっても良かったが、後々なんか言われるのも嫌だったから起こしてやったんだ。ありがたく思え」

「あー、そりゃどーも」

 

 

 本当この時期のタケルくんは尖ってるというか鋭いというか……これが後々ああなると思うと、彼女の影響力って凄まじいよなぁ。さてと、入学式が終わったってことは一旦教室に行く流れか。というか、普通こういうのってまとまっていくもんじゃないの? なに、俺ってもしかして既に嫌われてる? 一体俺が何をしたっていうんだ。

 

 

「おい、いつまで座ってるつもりだ?」

「あっと、悪い悪い。そうだ草薙くん――」

「――おい、くん付けはやめろ。気持ち悪くて鳥肌が立つ」

「お、おぅ……んじゃ、草薙。俺寝てて全くわからないんだけど、俺達の教室ってどこ?」

「それは後で案内してやる。その前に行かなきゃいけないところがあるからな」

「まじか。あぁ、そんじゃ俺はその用事が終わるまで待ってるよ」

「……何言ってるんだ? お前も呼び出されてんだから、一緒に来るんだよ」

「へ?」

 

 

 あれ、言ってなかったっけ? みたいな顔するのやめてくれない? 全くこれっぽっちも一切言ってないからね君。というか呼び出されてる? 一体誰に呼び出されてるっていうんだ。

 

 

「鳳颯月……例の理事長サマが会いたいんだと。おら、さっさと理事長室に行くぞ」

「あー悪いなんか急に腹が痛くなってきたーこれは大変だーということで草薙お前一人でいってきてくれ俺は帰る」

「巫山戯んな、殴り殺してでも連れて行くぞ」

「そこはせめて殴り倒すくらいで勘弁してもらえませんかね……」

 

 

 くそう、今日は厄日か。厄日なのか。平穏無事に暮らしたいだけなのになんでこうも厄介事が向こうからタップダンスを踊りながら近寄ってくるんだ。あっちいけあっち、オメーの席ねーから! とはいえ、目の前のタケルくんから逃げおおせるすべを俺は持ち合わせてないし、まさか殴り殺されはしないだろうけど殴り倒してでも連れて行かれそうだから大人しくするしかない。

 仕方がないので、毒沼並みに目を腐らせながらタケルくんの後に続いて理事長室に向かう。下手なことはしゃべらないで、会話はタケルくんに任せてしまおう。決してコミュ障なわけではなく、これは戦略的撤退というものだ。

 

 

 

 

 

「いいか、あんたをその座から引き摺り下ろして、俺がその場所に代わりに立ってやる! その時まで、首洗って待ってろ!」

「ははは、若さだねぇ。うん、いいよ。君が来るまで楽しみに待ってるさ」

 

 

 目の前で突然お偉いさんに喧嘩をふっかけ始めたタケルくん。君はなんでそんなに喧嘩っ早いのか、俺にはわかりかねますね。しかも首洗って待ってろって。そんな表現リアルで聞くはめになるとは思わなかった。俺的には芋洗って煮っころがしてる方が好きです。

 まぁでも、この調子なら俺に話が来ることにはならなそうだな。なんで俺まで呼ばれたのかはしらないけど、どうせ話中に寝てたのがバレたとかそんなもんだろ。大したお咎めもなく釈放されるに違いない。それはそれとして未だに視界がぼやけててやばい。極限まで目を細めないと表情が全く見えない。

 

 

「さてと……あぁ、君もきてくれたんだね。入学式で堂々と寝てたそうじゃないか?」

「いやぁ、人の話を聞くのは苦手でして。お陰様でスッキリしました」

「君も実に……うん、面白い子だ。さてと、別に叱るために呼んだとかそういうわけではないんだ。ただちょっと顔を見てみたくてね。それだけさ」

「はぁ……」

「いつまでも引き止めるのも悪いだろう? 確かこの後は各教室でかんたんな顔合わせだったはずだ。君たちも向かい給え」

 

 

 本当にお咎めなしで開放されてしまった。顔を見ておきたかっただけとか、小生意気な小僧の顔を忘れないためにとかそういうのじゃないよな……? そうじゃなかったらこの世界を生き残れる気がしない。

 くよくよ考えていても仕方ないか。取り敢えずお礼をいって、タケルくん先導のもと教室に向かうことになった。これから人生二度目かつ、前世とは比べ物にならない様な中学生生活が始まるんだろうな。そう考えると今から心労がマッハで辛い。どうか平穏無事に過ごさせて下さいなんでもしますから。ただしなんでもするとはいっていない。すまない、俺はノーマルなんだ。


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