世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

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鯨澤少年+αの受難

 タケルくんに連れられて、無事に我らが教室に。流石にそんなに立て続けに何かが起きたりはしなかったようだ。良かった、もしまたなんか面倒なことがあったら大声で世界を呪っているところだった。

 なんとは無しにクラスを見回してみると、大体40人くらいのクラスメイトの中に、キワモノが何人かいることが確認できた。夕焼け色の髪を持つ少女。気怠げな様子を隠しもしない少女。頭にパンツを被ってる少年……少年? っていうかあいつ何やってるの? 思わず二度見したけど、マジで何やってるの? ってか周りも突っ込んでやれよ、気まずげに視線をそらすなよ。あれ絶対受けと印象づけ狙いでやったら滑っちゃったやつだろ。み、見るに耐えねぇ……

 ある意味原作の重要人物たちよりも目立っているキワモノの存在に、俺の頬が引きつる。タケルくん以上に関わりたくない奴が存在するとは思っても見なかった。タケルくんも若干唖然としてるし。ほんと誰か突っ込んであげて。

 

 

「さて、皆さん揃ったようですね。このメンバーが、今後一年一緒にやっていく仲間たちです。高等部からは小隊制度を用いて仲間間の連携を密に取る必要がありますが、中等部では仲間とのコミュニケーションが必要ないというわけではありません。寧ろ、クラスという大きなコミュニティの中で、どのように互いと関わっていくか。それを皆さんに知ってもらいたいと思います。ともあれ、まず第一歩として皆さんにはそれぞれかんたんな自己紹介をしてもらいたいと思います。名前と、趣味や抱負など、かんたんなものを一つお願いしますね。それとそこの君、学校にアクセサリーは禁止ですよ?」

 

 

 長い長い長い! なっげーよ先生の話! いや、大切なことを伝えたいって気持ちはわかったけどもうちょっと簡潔にまとめられなかったの? というか、パンツくん(仮名)の被ってるパンツはアクセサリー認定なのかよ……いくらなんでもその突っ込み方は予想外すぎるだろ。あぁ、ほら。パンツくん(仮名)泣いちゃったし……

 不憫すぎるパンツくん(仮名)を置き去りにして、順調に進んでいく自己紹介。淡々と自己紹介するもの。緊張しながらも声を張って自己紹介するもの。小声過ぎて何いってるかわからないものもいた。

 因みに、パンツくん(仮名)の名前は井上というらしい。やっぱりあのパンツはウケ狙いでやっていたみたいで、自己紹介自体は普通だった。ただ、自己紹介の直後に先生に「今後勉学に関係のないアクセサリーは持ち込まないようにしてくださいね? 今度見かけたら取り上げますから」とか言われて、泣きながら教室の外に走り去っていった。なんで死体蹴りしたんだあの人。と言うかパンツなんて取り上げてどうするんだ一体。ほんとうに教師か疑わしくなるレベルだわ。

 

 

「草薙タケル。お前ら全員ぶっ潰して異端審問会の上に立つ。以上」

 

 

 と、いつの間にか俺の前まで自己紹介の順番が回ってきていたようだ。もうタケルくんが周囲に喧嘩を売るのはデフォルトみたいなものだから、俺には思うところはなかった。ただ、他の連中は違ったようで、ひそひそと噂しあっている。まぁ、タケルくんが一睨みすれば瞬く間に静かになったけど。

 

 

「なるほど、草薙くんは出世欲が強いんですね。そういう人は頑張って結果を残すので、先生は好きですよ」

 

 

 いや、アンタの好みは聞いてねーよ。というか、さっきの自己紹介からどうあったらそんな感想がひねり出てくるのかが疑問だわ。タケルくんも若干戸惑いながら座ってるし。もしかして、この担任が一番の強者かもしれない……?

 っと、タケルくんが終わったってことは俺の番だな。流石にタケルくんにしたみたいに巫山戯た自己紹介はする必要もないし、普通に行くか。

 

 

「鯨澤聖那だ。将来は可愛い嫁さん貰って紐になって暮らしたい。以上」

 

 

 あれ、なんだろう。俺が自己紹介した途端周りの温度が少し下がった気がする。そんなに駄目だったろうか、俺の自己紹介。俺は唯自分の欲望を素直に口にしただけなのに……ッ! うん、原因は間違いなくそれだな。

 というか、一部女子生徒の視線が非常に冷たい。そこの夕焼け色の鳳某さん。視線じゃ人は殺せないからその蔑むような視線はやめてくださいませんか。思わず新しい扉を開けてしまうところだった。俺じゃなかったら致命傷じゃすまなかったぜ……

 それと、なぜ先生はそこでニッコリ微笑んで黙るんだ。なんか言ってくれ、そうじゃないと不安になる。やっぱりこの人只者じゃねぇ。更にはタケルくんにまで呆れたため息を吐かれる始末。言っておくがお前の自己紹介も大概だったからな?

 なんだか納得できなかったが、これ以上喋ることもないから大人しく席に着く。その後は、おかしな自己紹介をするやつも居なくて平穏無事に自己紹介が終わった。しかしこのクラス、原作の登場人物が3人もいるとか大丈夫なのか。いや、大丈夫じゃないな。絶対何か起こるってガイアが囁いてる。

 

 

「さて、無事に第一歩を踏み出せましたね。本当はもっとみなさんとの時間を取りたいのですが、今日は初日ということもありますし、ここまでにしましょう。今後の予定や時間割と言ったものは既に届いていると思いますので、明日から頑張りましょうね」

 

 

 ニッコリと微笑んで全員を見回した後、先生はそう言って教室から出ていった。先生が出ていったことで緊張が解けたのか、それとも早速友達作りに励んでいるのか。教室がガヤガヤと賑やかになってくる。そんな周囲を無視しつつ、俺は早々に帰ることに決めていた。いや、だって今日いろいろあってめっちゃ疲れたし。なんならめっちゃ憑かれているレベル。だから俺はさっさと家に帰ってベッドに飛び込みたいわけだ。決してコミュ障とかそういうものでは断じてない。決して。

 

 

「おい、鯨澤」

 

 

 そそくさと帰ろうとしていると、それを目ざとく見つけたのかタケルくんが俺に声をかけてくる。正直相手をする元気はないのだが、無視などできるはずもない。致し方なくタケルくんの方に視線を向ける。

 

 

「どうしたんだ、草薙。まさか、一緒に帰ろうとか中学生みたいな事言いだすんじゃないだろうな」

「いや、俺達は今日からまさにそれなんだが……違う、そういうわけじゃない。今度暇な時で良い、鍛錬に付き合ってくれないか?」

「は? いや、なんで俺なんだよ。まともに相手できねーぞ」

「いや、別に組手の相手をしてくれとか、そういうわけじゃないんだ。いつか越えるべきやつに見られてたほうが、やる気も出るだろ?」

「いや、だろって言われてもなぁ……」

 

 

 正直君たち逸般人の思考は俺たち平民にはわからないんだよなぁ。そもそも男に見てもらってやる気が出るとか正気かよ。俺だったら逆にやる気失うわ。ただし可愛い女の子が応援してくれるなら話は別。格好いいところを見せようと限界を超えて頑張れる気がする。因みに格好いいところを見せられるとはいってない。張り切りすぎて逆に無様なところを見せてしまうまでがワンセットだ。

 まぁでも、タケルくんは今暇な時って言ったし、伺いを立てられているのがこっちな以上強制的ってわけでもないだろう。ここは適当に頷いておいて、のらりくらりとやり過ごせばいいか。

 

 

「わかったよ。俺の方で予定が合えば、な。取り敢えず今週は無理だとだけ言っておく」

「あぁ、分かった」

 

 

 タケルくん、力強く頷くと颯爽と立ち去ってしまう。というか、君も友達作りに勤しむ気はないんだな。そんなんだから後々ぼっち拗らせることになるんだよ。いや、拗らせてたかどうかは覚えてないけど。

 取り敢えず、今度こそ帰ろう。そう思って数歩進んだら、またも誰かが俺の進行方向に立ちふさがる。特徴的なのはその髪の色。一体どこの人種の遺伝子が混じったら地毛がそんな色になるんだって言いたくなるような、夕焼け色の髪。

 

 

「あー。鳳、だったよな? 俺、今から帰ろうとしてるんだけど。そこどいてくれない?」

 

 

 一応お伺いを立てる様に尋ねてみるも、返ってくるのは無言の威圧。全く、人が下手に出てやれば調子に乗りやがって。さては俺が上手に出れないヘタレだと思っていやがるな? 全くその通りだよこんちくしょう。お願いですから何か喋って下さい。

 じーっと、無言で俺のことを睨みつけてくる鳳。これ、BGMと背景をピンクっぽく加工したら恋に落ちた二人っぽい演出にならないだろうか。二人の間に流れる甘い空気。たったひと目会ったその日から、二人は互いのことが忘れられなくなってしまう……

 まぁ、そんな甘い空気なんて欠片もないわけですが。鳳の視線に混じってるものは明らかな侮蔑と嫌悪。なんで俺がそんな視線を向けられにゃならんのかはわからないけど、俺にはそれで喜ぶような特殊性癖はないんだよなぁ……

 

 

「いや、マジで用事がないんだったら帰りたいんだけど」

「…………」

「あのー、鳳? 鳳さん?」

「…………俗物が」

 

 

 おい、言いたいことだけ言って帰ってったぞあの子。マジどうなってんだ。人の顔散々睨みつけた挙句俗物って、まさかそれいうためだけに睨みつけてたの? なんて面倒くさいことを。もはやそれは一周回って俺のことが好きなんじゃないだろうか。ははは、モテる男は辛いぜ。そろそろ俺のガラスのハートが粉々に崩れ去りそう。

 うん、帰ろう。もう帰って傷ついた心を休ませてあげよう。今日だってこんなに頑張ったんだ。もう、ゴールしても……いいよね?

 

 

「ちょい、そこの鯨澤少年。ちょっといいかい?」

「……なんだ?」

 

 

 まだゴールは許してくれないみたいです。と言うかなんなんだお前ら。なんで寄ってたかって原作勢が俺に話しかけてくるんだ。明らかな悪意を感じるんだけど? 絶対故意にやってるよねこれ。マジふざけんな。神様なんてものがいるんだったら呪い殺してやる。

 

 

「おぉ、初日から随分と擦れた目をしてるわね。何か嫌なことでもあった? お姉さんに話してごらんなさいな」

「今まさにこの状況がそうだと言っても過言じゃないな」

「おお、怖い怖い。そんなに睨まないでちょうだい、別にあんたをどうこうしようって腹じゃないから」

「んじゃ、何の用だよ。まさか用事もなく話しかけたとか言わないよな?」

「まさか。ただちょっとおもしろそうだなって思って、お近づきに……ちょっと、そこまで露骨に嫌そうな表情をしないでくれるかしら? さすがのお姉さんも傷ついちゃうわぁ」

 

 

 これが嫌じゃなくて、一体何が嫌だというのだろうか。もうやめてくれ。そんなに俺をいじめるのが楽しいのかお前ら。俺は全然楽しくないぞ。そもそも斑鳩、お前尖った物好きじゃなかったっけ? 俺に尖ってる要素なんてないんだけど。一体何がお前の琴線に触れたんだ。

 

 

「まぁ、あんたがいやがるなら無理にとは言わないけど。暇な時にでも話しかけてちょうだい」

 

 

 そう言って、あっさりと俺から離れていく斑鳩。何なんだお前と言いたいところだが、今はとてもありがたい。もう原作勢は絡んでこないだろうし、俺は帰る。俺は帰ってベッドに飛び込むぞ! ジョジョォォオオオ!

 妙に高いテンションとなった俺が教室を飛び出そうとした瞬間、またも俺の前に影が立ちふさがる。うそ、だろお前……もう居ないって思ってたのに、なんでまだいるんだよ……って言うか誰だよ……

 あまりの悲しさに、殺意の波動に目覚めかけた俺が殺意を込めて影を睨みつける。すると、そこに居たのは……

 

 

「あ、いや。ごめん、遮っちゃって……」

 

 

 そこに居たのは……パンツくん(仮名)だった。あれ、パンツくん(仮名)の名前ってなんだっけ。前後のやり取りが印象的すぎて完全に頭からスッポ抜けた……まぁもうパンツくんでいいや。

 取り敢えず、なんかごめんねパンツくん。そういえば荷物置いたまま飛び出してったもんね。と言うか今まで存在忘れてたわ


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