世界が俺を殺しにかかってきている   作:火孚

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難産回でした。少しは真面目な行動を取らせようと思っていたら、違和感が凄まじくて何回も書き直しているうちに結局いつもの展開へ。誰か私に文章構成能力を下さい。
それと、いつの間にかお気に入りが当初の想定の10倍近くになっていてびっくりしました。今この前書きを書いている時点で90件……正直お気に入り10も付けばいいほうだと思っていたので、どうしてこうなったと絶賛混乱中です。そしていつの間にか評価もついていて……この作品が平均評価8.00ってどういう冗談でしょう。いえ、とても嬉しいのですが。
お気に入り登録や投票して下さる方々のお陰で、モチベーションも均衡を保てています。いつもご愛読ありがとうございます。これからも当作品をよろしくお願いいたします。


今日も彼らは変わらない

 結局模擬戦は鳳チーム……というより、鳳の一人勝ちだった。よくもまぁあんな技術を覚えられたものだ。過去にどんな凄惨な出来事があっても、俺にはあんな高みにたどり着ける気がしない。と言うかそもそも、凄惨な場面に直面したら俺の精神は崩壊してる。血糊は鉄じゃなくても、心は硝子なのだ。アンリミテッド・トラウマワークス。術者は死ぬ。

 まぁでも、案外タケルくんも心は硝子製なのかもしれない。例の鳳との激闘の末、惜しくも敗れた後の彼は暫く放心状態だった。まぁ剣術の凄さを教えに行ったはずが、結局殆どの時間無手で戦闘してた挙句に負けたっていうのを考えると、たしかにきついものがあるかもしれない。

 

 

「草薙、元気出せって。上には上が常にいるもんなんだよ」

「あぁ……いや、それはわかってるんだけどさ……」

「んじゃなんだよ? てっきり負けたのが信じられないとかそういう理由かと思ってたんだが」

「違う。ただ……必死こいて強くなって、それでもまだまだ強いやつが居て……それなのに、この世界は何一つ変わりはしない。なら、俺が強くなる理由ってなんだったんだろうなって……」

 

 

 強くなる理由、か……それは将来女に刺されないようにするためなのでは? こいつ片っ端からフラグ立てるし、そのくせヘタレというか奥手というか。けど、まだフラグを乱立させ始めたわけじゃないから、そう言って説得するのは無理か……

 

 

「深く考えすぎだよ、お前。一人で強くなるのだって限度がある。それがわかってるから、俺なんかに鍛錬に付き合えとか言ってきたんだろ? 別に、一回くらい負けてもいいんじゃねぇの」

「お前は人生楽しそうでいいよな……」

「突然喧嘩売られた件について。おいてめぇ言い値で買ってやろうか?」

「なんとなく羨ましいってだけだ。別に喧嘩売ってるわけじゃないんだよ」

「喧嘩売ってるようにしか聞こえなかったんだが……いや、まぁ俺の勘違いか。悪かった」

「お前みたいにいつも軽いノリで脳天気に過ごせたら幸せなんだろうな……」

「やっぱ喧嘩売ってんじゃねぇか表でやがれ」

 

 

 ガタッと椅子を蹴立てて立ち上がり威嚇するも、タケルくんはため息を吐いてこちらを見るばかり。なんというか、とてもやりづらい。物憂げにしているタケルくんなんてこの一年一度も見たことがないし、まさかこれほどタケルくんが沈むとは考えていなかった。

 そのうち元気になってくれるんだろうけど、それまでの間は実に居心地の悪い思いをしなくてはいけなくなってしまう。ただでさえ姿の見えない神のいたずらで俺の精神ポイントは枯渇寸前だというのに、これ以上削られたら正気を保てる気がしない。

 そういうわけだから、タケルくんにはなんとしてでも早急に立ち直ってもらわなきゃいけない。べ、別にアンタのためなんかじゃないんだからね! 私の命にかかわることだから仕方なく!

 

 

「んで、草薙はここを辞めるわけ?」

「は? どうしてそんな話になるんだよ」

「いや、ここに来た理由って頂点に立って世界を変えるためだったんだろ? けど、それは無理だって悟ったわけだ。んじゃ、ここに通う理由もないんじゃねぇの?」

「……言われてみれば、その通りかもしれないな」

「んで、どうするわけよ」

「あー……」

 

 

 眉をひそめて悩みだすタケルくんを見つめながら、ふとここでタケルくんが本当に辞めてしまったらどうなるのだろうかと考える。まず、原作においてタケルくんに救われた面子が悲惨な目に遭う。そんでもって、アーサー王の襲撃の際の被害が……増す……? あれ、あの時タケルくん居なかったらどうなってたんだ? 普通に魔女狩り(デュラハン)が駆けつけて守ってくれたのか? それとも原作よりも被害が大きくなるまで止まらないのか?

 ……うん、俺の生命の保険のためにも、不確定要素はなるべく排除した方がいいな。下手したら二次災害的に巻き起こったバイオハザードですら死にかねないのに、その上あのレールガン搭載腹ペコ王に好き勝手暴れられたら命がいくつあっても足りない。と言うか何だよレールガン搭載って。お前の時代そんなもんなかっただろ、剣で戦え剣で。あれ、でも待てよ? たしかあいつらって剣でもビーム打てるんだったよな……あれ? 銃よりも強くねぇ?

 

 

「悩んでるみたいだな。そんな草薙くんに、いいことを教えてやろう」

「いいこと?」

「あぁ。俺もお袋達から聞いた話なんだが、異端審問官の給料はとてもいいらしい。つまり、異端審問官にさえなれれば生活で不自由を感じることはなくなる」

「なん……だと……ッ!?」

「お前の部屋の様子から察するに、お前んち貧乏だろ? それも、普通の貧乏さじゃないよな。借金でもあるのか?」

「うっ……あぁ、両親の残した多額の借金が、な……」

「お前、世界変える前にもっと変えなきゃいけないとこあるじゃねぇかよ。貧乏人に世界変えられても世界が貧乏臭くなる未来しか浮かばねぇわ」

「幾らなんでもそれはいいすぎじゃねぇ? 俺だって地味に傷つくときだってあるんだぞ?」

「知るかそんなもん。取り敢えず、お前は世界を変える前にまず自分の周りの環境を変えなきゃいけない。そのためには金が必要だ。金を稼ぐためには異端審問官になるのが手っ取り早い。お前学力面は本当に残念だから、戦闘力で異端審問官になるしかない。強くなる理由なんて、これでいいんじゃね? 完璧なロジックだろ」

「……そうだな。何にしても、金は必要ってことか。そんな理由で強さを求めるなんて、先祖にどう顔向けしたらいいかわからねぇけど……大切なのは今だもんな」

 

 

 沈んだ顔から一転、どこか晴れやかになった顔でタケルくんが頷く。未来の金の亡者は今ここに爆誕したようで、これからは金稼ぎの方向に全力を出してくれることだろう。必然、入学時に言っていた俺を殺す等々のことも綺麗サッパリ白紙に戻るわけで、俺は複数の死亡要因をたった一手で解消したわけだ。これは自画自賛しても許されるレベル。なんて天才的な発想、これには孔明先生もニッコリ。

 

 

「金か……よし、ひとまずは金だな。金を集めないと」

「……いっておくが、カツアゲは犯罪だからな?」

「どっからカツアゲが出てくるんだよこのハゲ。俺がそんなことするようにみえるのか?」

「ばっかお前! 俺ふっさふさだよふっさふさ! 親父も未だに髪豊富だし、禿げる要因なんて……ッ あるわ……ストレスで俺の毛根がマッハ。あと、お前はどう見てもカツアゲしそうな人相をしてる」

「よし、わかった。将来的にとは言わずに今すぐお前の毛根を全滅させてやるよ。いいから表出ろ」

「いいよかかってこいよ。お前にハゲの恐ろしさをたっぷり教え込んでやる。いや、別に俺ハゲじゃねぇけど」

 

 

 売り言葉に買い言葉。互いにガンを飛ばしながら、俺たちは今日も馬鹿みたいにはしゃぎ倒す。俺たち二人のやり取りはもはやこのクラスの名物化していて、次第に野次馬共が集まって騒ぎが大きくなっていく。と言っても、別に俺とタケルくんは殴り合いの喧嘩をしているわけではない。そんなことをしたら俺は瞬殺される自信がある。

 タケルくんには、一種の呪いとも呼べる体質が存在する。それは、運動神経はいいくせにスポーツが壊滅的に下手くそなところ。まぁ、それ以外にも銃が使えなかったり学力が壊滅的だったりするが、そんなものは呪いの一端にすぎない。こと、ルールで縛られた環境において、何故かタケルくんは本来の実力の1/10も出せない。腕相撲をすれば突然腕がつり、サッカーをすれば突然ボールが破裂するか、盛大に足を挫く。もうお前部屋ともどもお祓いしてもらえよといいたいレベルで何かが憑いているのだ。そして、俺はタケルくんとの小競り合いのときには必ず明確にルールを決めて、勝者敗者がわかるようにしている。つまり、タケルくんが剣術勝負でも仕掛けてこない限り、俺に負けはないというわけだ。事実、対タケルくん戦績において俺は通算負けなしである。卑怯? 笑止! どんな手をつかおうが…………最終的に…勝てばよかろうなのだァァァァッ!!

 

 

「今日こそは……勝つ! 鯨澤ァァァ!」

「はっ……さんをつけろよデコスケ野郎!」

「ハゲはてめぇだろ!」

「ぶっころ」

 

 

 禿げちゃうし! 確かに最近デコ広くなってきたと思うこともあるけど、禿げちゃうわ! ……禿げてないよな?

 

 

 

 

 

◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 

 

 二年後。その年も、中等部三年生最大の難関と言われる高等部への進級試験に合格した少年少女らが、様々な思いを胸に異端審問官への第一歩を踏み出していた。ある者は、己の正義のために。ある者は、己の欲のために。抱いているものは違えども、皆一様に異端審問官というものへのあこがれを持ってこの日を迎えていた。

 今日この日、それは高等部において必修である学園試験小隊制度の小隊メンバー発表の日だ。このメンバーは原則として変更されない。つまり、これから先ずっと共に行動することになる、頼るべき、信頼すべき相手となるわけだ。

 旧知の仲の者同士で組めたのか、あちこちで喜色を帯びた歓声や声が上がる中、ごく一部の空気は暗く重く淀んでいた。

 

 

「……なぁ、俺第三五試験小隊所属らしいんだけどさ。草薙お前どこだった?」

「……鯨澤。お前、読み間違いなんじゃねぇの? 第三五試験小隊所属は俺だぞ」

「……やっぱりかぁ。因みに、もう一人杉波斑鳩って名前があるようなきがするのも俺の気のせい?」

「……気のせいだと信じたいな」

「はぁい、お姉さんと一緒の小隊になれた幸せ者共はあんた達? どうやら、よくよく縁があるみたいねぇ」

「「今すぐ肥溜めに吐き捨てたいわその縁」」

「やぁねぇ、息ぴったりじゃない。ま、あんたらに限って相性が悪いなんてこともないでしょ。これからよろしくねん」

 

 

 死んだような目をした二人の少年を、一人の少女が笑いながらばしばしと叩くというなんともいい難い光景がそこにはあった。まるでそこだけお通夜なのかと錯覚するような空気の中、そんな三人を少し遠巻きに眺める少女の姿が一つ。

 

 

「あれが、わたくしの小隊メンバー。新しい仲間、ですわね」

 

 

 そうつぶやいた少女もまた、彼らと同じ第三五試験小隊所属となる新高等部一年だ。彼女はそのたわわに実った二つの山の前で不安げに手を合わせ、思わずといった体で内心の不安を吐露する。

 

 

「草薙タケル、鯨澤聖那、杉波斑鳩……上手く、やっていけるでしょうか……」

 

 

 心配せずとも、少女は彼らの中であっという間にツッコミ役という立場を確立して馴染んでしまうのだが、今の少女にそれを知る由もない。今はただ、楽しそうに笑うあの輪に、自分はきちんと入っていけるのだろうかという不安だけが彼女につきまとっていた。

 第三五試験小隊。各々が凄まじいまでの個性を持つ、しかし全くもってそれぞれが噛み合わないという致命的欠陥を持ってして、周りから三五小隊(ザコ小隊)と彼らが呼ばれるようになるのは、もう少し先の話である。




なんか最終回風ですが、もう少しだけ続くんじゃよ。
嘘です。もう少しどころかまだオリ主が性転換してないのでプロローグが終わったくらいのところです。さっさと話勧めないとタグ詐欺だって言われちゃいますね……一体いつになったら第一巻にたどり着けるのやら

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