なんだか書いてたらそれなりの量になったので、半分に分けてから投稿することにします。少し手直しするのでちょっと遅れますが、この後すぐにもう半分を投下しますね
タケルくんが無事に金の亡者と成り果ててから半年ほど。段々と自分を抑えるようになり始めてきたタケルくんを適度にからかいつつ、時にはクラスメイト全員でバカをやらかしながら楽しい学校生活を送っていた。途中、鳳が異例の中等部でありながら異端審問官へ抜擢されるという出来事があったが、タケルくんとの激闘を知っている連中はさも当然と受け取っていた。そして、他の連中は誰だ此奴? みたいな顔をして鳳を眺めてる始末。なる程、彼女のボッチ道は中等部時代から始まっていたのか。これはボッチ拗らせてしまっても仕方がない。
鳳は先生に異端審問官となる旨を皆の前で発表されたとき、なんとも晴れやかな顔をしていた。あの顔は異端審問官になれることよりも、俺たちから離れられることへの安堵感の方が強かった気がする。その証拠に、偶々目があった俺に対して、なんともわかりやすい侮蔑の視線を向けてきた。なんで俺最後まであんな視線で見られなければならないのだろうか。心当たりがありすぎてもうわかんねぇなこれ。新しい扉開きそう。
「さて。第何回目か分からないが、『ドキドキ タケルくんと一緒に定期考査を乗り切ろう!』の開催を宣言しようと思う」
「なぁ、それネーミングセンスもうちょいどうにかならないのか? 正直聞いてて恥ずかしいんだけど」
「そんなこと言われても。いつもお前が赤点採らないかドキドキしながら、それでも尚お前にテストを乗り越えて欲しいという願いから付けた名前なんだから文句言うなよ」
「いや、まぁこうして勉強会開いてくれるのは嬉しいんだけどな」
「勉強会じゃなくて『ドキドキ タケルくんと一緒に定期考査を乗り切ろう!』だっつってんだろ!?」
「そこそんなに重要!?」
何をバカなことを。別に重要でも何でもないに決まってるじゃないか。そういうとタケルくんの目が泥沼のように濁ってしまったので、からかうのは程々にしようと思う。
相も変わらずゴミみたいな学力のタケルくんの勉強の面倒を見るのは、専ら俺の役目である。タケルくんには是非とも高等部に進学して貰わないと、俺の命がマジで燃え散る五秒前。もうタケルくん無しでは生きられない身体なの……
そう言うわけで、腐ってる連中からの気味の悪い視線に耐えつつ、わざわざ勉強を教えるようになってからこの『ドキドキ タケルくんと一緒に定期考査を乗り切ろう!』を開催して幾度目か。正直なんでここまでタケルくんの頭が残念なのか分からない。
「なぁ、お前って勉強したら死ぬ病気でも掛かってるの? それとも、学んだこと片っ端から忘れてっちゃうの? にわとりなの?」
「お、俺だって真面目にやっとるわ! ただ、なんつーか……頭の中で上手く組み立てられないっつーか」
「わかった、悪かった。お前の頭が残念だってことはよく分かったから。ちゃんと脳みそに栄養行ってる?」
「いや、どうなんだろうな……今朝は水だったし、水って栄養含まれてんのかな……」
「お前馬鹿なの? あ、いや、馬鹿か……」
どうやら真性の馬鹿だったらしい。なんで朝食が水なんだよ。もうそれ食成分含まれてねぇよ。朝飲だ朝飲。朝を抜いておいてあれだけ激しい動きが出来るのも謎だけど、タケルくんの私生活も謎に包まれてるわ。
「いや、俺も朝に水一杯じゃ物足りないことくらいは流石に分かるぞ? ただ、朝食分に回す金がなぁ……」
「だから馬鹿だって言ってんだよ朝に水一杯は足りないってレベルじゃねぇんだよいつか死ぬぞ寧ろ死ね! 死んで馬鹿直してからもう一回帰ってこい」
「だいぶ無茶言われてるんだけど……」
「おーけーわかった。俺は未だにお前のこと理解できてなかったみたいだ。取り敢えず、来週からお前んちに飯作りに行くから」
「は、え? 何言ってんのお前?」
「こちとらお前に進級して貰わなきゃ困るんだよ!!」
「まぁ、衆人環視の中で告白かしら、大胆ねぇ」
「あら奥さん、あの二人は今まで散々イチャコラしていたのですのよ。寧ろ遅すぎるくらいですわ」
「ぐふふ、強面の草薙と軽薄なのりの鯨澤。これはタケル×セイナ、タケセナが捗る……ッ」
「ばかね、これだから素人は。普段は強面の草薙が攻められるからこそ良いんでしょう!? 私はここにセナタケを提唱するわ!」
「なッ……あなたが、神か……」
「鯨澤……鯨……げい。っは!? つまり鯨澤は元から自分がゲイだと名乗っていた!?」
「井上天才かよお前!」
「ちょっとあいつら絞め殺してくる」
「お、おう……」
人の関係を勝手に巫山戯た方向に発展させる奴らには、ちょっとくらい痛い目に遭う覚悟は出来てるよなぁ? 取り敢えず腐ってる女子は半殺し、男共は全殺しの方向で。あとパンツくん、てめぇはダメだ。お前だけは最も悲惨な方法で殺してやるから覚悟しておけ。
◇ ◇ ◇ ◇
無事に周囲の悪意を全て排除して、タケルくんの元へと戻る。最近、何故か周りの目が俺達を変な風に見てくるから本当に困っている。何故俺が男を好きにならにゃならんのか。俺は普通にノーマルに、いろんな所が柔らかい女の子が大好きです。
「さて、話を戻そうか。草薙、取り敢えずお前は朝なんか食え。今更大して変わるとも思えないが、少しくらいは脳に栄養が行くだろ」
「少しくらいって……ってか、別に鯨澤が来なくても一人で飯くらい食えるぞ」
「ほぉ? 朝を水で済ませてたやつが、人に注意されたからって翌日からしっかり朝食を取ってくると?」
「で、できなくは……ないし?」
「おう、そういうことをいうときはきっちり人の目を見ていうんだよ」
思いっきり目をそらしている辺り、多分できる自信がないのだろう。むしろ、こんな調子でよく今まで一人での生活が成り立っていたもんだ。いつ体壊してもおかしくないじゃないか。
「第一、鯨澤がわざわざ俺の家まで来て朝飯作るとか、そんな面倒なことさせられねぇよ。これは俺自身の問題だし、そもそも鯨澤って料理作れんの?」
「舐めるな若造。いっとくが俺は朝昼晩と全ての飯は自分で作ってる」
「……確か、鯨澤って両親と一緒に住んでたよな?」
「お袋達が張り切りまくってとんでもない物作ったりし始めるから、飯は俺が作ることになったんだ。一度フランス料理フルコースで振る舞われたときは我が目を疑ったよ」
「なんか大変だな、お前のとこも……」
「わかってくれるか……んで、取り敢えず飯は毎日作りに行くからな。断られても勝手に侵入するのであしからず」
「ちょ……だからなんでそんなに俺の世話焼いてくれるんだ? お前になんのメリットがあるんだよ」
「ふざけんなお前! 俺の命が掛かってるんだ全力でやるに決まってんだろ!?」
「命掛かってんの!?」
当たり前だ。お前が無事に高等部に上がってくれないと俺が悲惨な死に目に遭う確率が跳ね上がるんだ。ただし、タケルくんが高等部に上がっても俺が死なないとはいっていない。人生がハードモードすぎる……
しかし、しかしだ。ここで踏ん張れば少なくとも確実にバッドエンド一直線ということはなくなるはずだ。ふとした拍子でバッドエンドにそれることはあるだろうが、もうそうなったら諦めるしかない。最大限タケルくんに頼りつつ……あれ、でも俺タケルくんの戦闘行動についていける気しないんだけど。もしかしてこの世界に生まれ落ちた時点で、バッドエンドは確定していた……? 俺は神のイタズラか何かで、バッドエンド一直線の未来を……強いられているんだ! なにこれ救いはどこですか。
「んじゃ、そういうわけだから。なんなら夕飯も作ってやろうか? どうせお前夕飯もまともに食ってないんだろ?」
「いや、そっちは大丈夫だ。バイト先の人にまかないを作ってもらってる。つっても余り物だからあんまり量はないけど、贅沢は言えないしな」
「はぁ……まぁ、一応食ってるなら夕飯は別にいいか。取り敢えず食材は俺が買い揃えて持ってく。まさか家に食器がないとか言わないよな?」
「流石にある。ってか、作ってくれるのはありがたいけど、知っての通り俺あんまり金持ってないから、できれば安めの材料で頼むわ……」
「なーにいってだ。別にお前は金払わなくていいよ。お前の懐事情に合わせたらまともな飯が作れる気がしねぇ」
「だけど、それだとなんか悪くないか?」
「なに、俺の明るい未来のための投資って考えればこれくらい」
「お前は一体どんな因果背負ってんだよ……」
因果と言うか、単にタケルくんがいないと死んでしまう身体になってるだけですはい。別に卑猥な要素は一切なく、純粋に生命の危機にさらされるところがミソだ。まぁ生命の危機なんて高等部に上がったらバーゲンセール並みに安売りしてそうだけど。
「いいか、俺のことはどうでもいい。いや、正直どうでも良くはないけど、どうしようもないこともまた事実なんだ。草薙、お前だけが頼りだ。お前だけが俺を救うことができる。どうか頼んだぞ」
「お、おぅ……いや、だからお前に何があったんだって! 俺だけにしかってどういうことだよ!?」
「話せないし話したって信じてくれないだろ。取り敢えず草薙、お前は本当に人の心配をする前に自分のテストの心配をしてくれ……」
そう、これはあくまで『ドキドキ タケルくんと一緒に定期考査を乗り切ろう!』の開催によってタケルくんの学力向上を測り、なんとしてでも高等部に進級させるという強い意志の元行われている計画だ。タケルくんの元に朝食を作りに行くのもその一環。健康な一日は朝食から始まるのさ。
未だに中等部一年レベルの問題すら的外れ解答をしてしまうタケルくんが、一体全体どうやって原作では高等部に進級できたのだろうか。もしかして、原作タケルくんはここまで酷くなかったりするのかも知れない。やだ、この世界線での私の生存率、低すぎ……?
「……勉強だ草薙。勉強して勉強して、なんとしてでも赤点を回避するんだ! それだけが唯一の残された道だ!」
「お、おう! 何だかわかんねぇけど、俺頑張るからさ! それに、今回はなんとか赤点を回避できそうな気がする!」
「その息だ! 頑張るぞ草薙ィ!」
何となくテンションが上がった俺達は、その後無茶苦茶勉強した。タケルくんは、今回はいける気がすると笑ってた。俺もタケルくんなら出来るって笑ってた。後日行われたテストは、俺とタケルくんが勉強していた範囲とがっつり被っていた。なのに、タケルくんは赤点だった。タケルくんは笑ってた。俺も笑ってた。俺は笑って……そして、泣いた。どうなってんだこん畜生。