そして、八幡が黒雪姫と渋谷駅にて一緒になりネガ・ネビュラスに加入してから時は少し流れ16時。領土戦が開始となった。
ネガ・ネビュラスからすれば白のレギオンであり加速研究会、オシラトリ・ユニヴァースの確実な証拠を得るための重要な戦いだろう。
そのため、事前準備はこれでもかと入念に行ってきた。
まずは今回の領土戦が始まる前提にあった出来事は黒のレギオン『ネガ・ネビュラス』と赤のレギオン『プロミネンス』の合併。両レギオン共にちょっとしたトラブルはあったものの比較的平穏に話は進んだ。
暫定ではあるがリーダーは黒雪姫が引き継ぎ、サブリーダーはニコが担当することに。
加えて、前もって相談していた緑のレギオン『グレート・ウォール』との会談。
これまた目的達成のため、その日実装された宇宙ステージを引き当てるという豪運もあり、双方の言い分を納得し協力関係を築く――そういう儀式である黒と緑のレギオンとの戦闘があった。
結果として黒雪姫たちが勝利し、本日この瞬間、グレート・ウォールの領地である渋谷エリアと港区エリアの一部を捨て即座にネガ・ネビュラスがそれらを獲得。
よってオシラトリ・ユニヴァースがメインで持っている港区エリアへとバレることなく攻め込めるようになった。
領土戦が開始し港区エリアへと攻め込んだネガ・ネビュラスのメンバーはランダムな地点へと数人ごとに割り振られた。
今回参加しているネガ・ネビュラスのグループ分けは――――
新規加入となった3人組の小さなレギオン元プチ・パケ組であるショコラ・パペッター、ミント・ミトン、プラム・フリッパー。
シルバー・クロウと臨時戦力であるグレート・ウォールのアッシュ・ローラー、ブッシュ・ウータン、オリーブ・クラブを含めた4人。
かつてはISSキットを加速世界に広げたマゼンタ・シザー、新生ネガ・ネビュラスでありハルユキの幼馴染であるシアン・パイル、ライム・ベルを加えた3人。
ネガ・ネビュラスの幹部であるスカイ・レイカー、アーダー・メイデン、アクア・カレントの3人。
プロミネンス幹部であるブラッド・レパード、カシス・ムース、シスル・ボーキュバインの3人。
加えて、後方で待機している神器というブレイン・バーストにおいて最高峰の強化外装ジ・インフィニティを持っているトリリード・テトラオキサイドが控えている。
リードは何かあった際の伏兵だ。
その実力はブラック・ロータスの師であるグラファイト・エッジから直接鍛えられており、折り紙付きだろう。
面子としては申し分ないかもしれない。だが、大人数の領土戦を経験がない人はおよそ半分。
事前に知識として学んでいる人もいるが、知識と経験の差はいかんせん埋めがたい。一抹の不安はありつつもたしかに領土戦は始まった。
▽▽▽
ステージ属性は魔都。
通常対戦と領土戦においてずっと夜であり、構成されている建物は破壊不能と言われているほどの硬さを誇る。しかしながら、他に変なギミックはない。
各グループはそれぞれ行動を開始する。
比較的破壊しやすいオブジェクトを狙って必殺技ゲージを溜める者、自身の置かれている位置を確認する者、グループ同士で話し合い現状の把握に努める者たち。
その中においてプチ・パケ組は必殺技ゲージを溜めつつ要塞拠点へと直ぐ様移動を開始し、味方のために先に確保しようと動く。
先に確保さえできれば、自動でチャージされる必殺技ゲージによって3人のうちの1人ショコラ・パペッターの攻撃手段である1つ、チョコレート製の自動人形『チョペット』を無限に作れる算段だ。
まだレベル5のショコラだが、この必殺技は戦闘や索敵、陽動になど様々な用途で使用することが可能であり、自他共に認めるかなり強いモノだろう。
静かに速く移動し、見えてきた目的地である拠点は森の中心にある場所であった。
ただ魔都ステージ、木々も金属光沢を帯びており枝葉は武器のように鋭い。魔王の城のようなおどろおどろしい建築物があり雰囲気が物々しい。現実でいうとそこは泉岳寺だった。
真っ先に到着した彼女らは泉岳寺中心の場所で拠点を得るために30秒ジッとする必要がある。周囲を警戒している最中、オシラトリ・ユニヴァースの幹部『
「…………」
ビヒモスはまずこの状況において初めに思った。なぜ彼女らがここにいるのかと。
まず前提ではあるが、領土戦において相手が所属しているレギオンの名前がその場で即座に分かるわけではない。そのため、ビヒモスはこの3人を見てプチ・パケがこちらに攻めてきたと判断する。
ショコラたち3人組のレギオンがあるとは事前に知っていた。だが、このような領土戦へ参加した記憶も記録もないはずだ。
故に不可解。この複雑な時期に挑んでくる。そこには何かしら重要な理由があるのではないかと訝しむ。もしかしたら――――なんてある思考が巡ってしまう。
「どうしてまたこんな所に?」
自己紹介をしたのち、ビヒモスはそう訊いた。
「えぇ、決まっていますわ! わたくしたちも、いつまでも根無しレギオンじゃいられませんから、領土戦に打って出る前の景気づけに、最強レギオンで腕試しに来たんですわ!」
ショコラが前に立ち毅然と言い放つ。
ビヒモスの口からネガビュの単語が出ないことから、こちらの所属しているレギオンを勘違いしていると察したからこそ勘違いを長引かせるための発言。
それに対し、ビヒモスは彼女らを一瞥しつつしばし逡巡する。
多少は疑わしくはある。しかし、特に違和感はなくある種妥当な理由であるとも思考する。同時にレベル8あるビヒモスにいわゆる弱小レギオンが移動という構図に、いくらなんでも無謀な試みである……そう内心考えつつも。
であれば、情報収集を兼ねてここで戦ってみても大丈夫だろうと結論付ける。
ネガ・ネビュラス所属元プチ・パケ組の3人とオシラトリ・ユニヴァース所属『|七星矮星』のビヒモスとの対戦が始まった。
プラム・フリッパーの主武器であるスリングショットによる遠距離攻撃、ミント・ミトンの拳による攻撃、それらはデバフとしてビヒモスの動きを阻害しようとする。
加えて、ショコラの必殺技によって生み出された数体のチョコレート人形『チョペット』が援護を行い、少しずつではあるがビヒモスの体力ゲージを減らしていく。
「……いやいやいや、これは……弱小レギオンと侮れませんね」
近接と遠隔、間接攻撃といったバランスの取れた連携に称賛の言葉を送る。だが、それだけで崩されるのでは白のレギオンで幹部は務まらない。
ビヒモスの常時発動アビリティ『
「『コンジール・レイ』」
トドメを刺すためにビヒモスら必殺技を使用し、青白い冷凍光線が3人目掛けて迸り飲み込むところで――――
「う……おおおっ…………!」
シルバー・クロウが間に割って入り、雄叫びの共にクロウの持つアビリティ『光学誘導』を用いて高レベルが放った必殺技である冷凍光線をほぼノーダメージで反射する。
「……お前はネガ・ネビュラスのシルバー・クロウ!? なぜここにいるのです!?」
ビヒモスはクロウの姿を視認すると驚きのあまり両目を見開き叫ぶ。
「決まってるだろ。お前たちの……」
「ヘイヘイヘエエエエエエイ!!」
そして、内心クロウがカッコつけて決めゼリフを放とうとしたところで、けたたましいエンジン音を轟かせたアッシュ・ローラーたちグレート・ウォール組が追い付く。言葉を遮られたことにより、思わず二の足を踏むクロウであった。
その騒がしさにまるでコント染みたやり取りにプチ・パケの3人は笑いながらもクロウへの頼もしさを感じていた。
まだ体力に余裕のあるアッシュたちをショコラたちの護衛に向かわせ――――クロウはビヒモスへと対決を挑む。
途中、ブレイン・バーストの在り方について口論をしながらもレベル8のビヒモス相手に苦戦する。自身よりも2つレベルが高い相手だ。この差がこのゲージでは非常に大きく、レベル差ばかりは如何ともしがたい。
ビヒモスは小さい傷なら修復するアビリティを持っており、純格闘型のハルユキはかなりの苦戦を強いられる。得意の格闘の効果はかなり薄い。
そこでクロウはレベル6のレベルアップボーナスで獲得した『ルシード・ブレード』を呼び出し握る。
レベル6になるまでひたすら素手で戦ってきた。そんなクロウは剣を使った経験はない。 付け焼き刃のように端から見ると映るだろう。
だが、過去に侵された呪い、クロム・ディザスターの記憶や経験はハルユキの躰を通じて残っている。
かつての記憶、そして剣と翼を合わせた攻撃――――それとハルユキの脳内に響いた謎の声、それらの助力があり、ビヒモスを砕き、たしかに斬った。
トドメを刺そうとしたが、ビヒモスは薄く赤い光線を上空に放つ。ハルユキがそれは仲間の合図と察し下手に追撃はせず静観する。アッシュ・ローラーたちと周囲を警戒しつつ。
それから10秒ほど経つところで、ビル群の屋上に人影をいくつも確認した。
「くっ……!」
そうこうしているうちに領土戦に参加しているオシラトリ・ユニヴァースのメンバーが集結したらしい。まだ遠目からで誰がいるのか判断が付かない。まさか全員揃っているとは考えないが当然幹部クラスもいるだろう。ハルユキはそう思考を回す。
ハルユキはその圧倒的な威圧感に呑まれそうになる瞬間、反対側からまた別種のオーラを放っている集団が現れた。
レイカーにメイデン、パイルやレパードたちが追い付きクロウたちと合流したことをすぐ理解し、頼もしさに安堵する。
ここから領土戦の本番が始まる――――ハルユキはそう確信し、ルシード・ブレードを握り直し再度警戒しようとした刹那、不意に気付く。
それは泉岳寺の北側にある細長いビルの屋上、そこに誰かいることに。
シルエットからは見覚えはなく、ビヒモスも怪訝そうに見上げていることに対して疑問が生じる。
「あれは……」
しかし、そんな思考を打ち消す光景をたしかにハルユキは視た。細長いビルに立つ誰かから薄桃色の鮮やかな光が迸った。あれは必殺技のエフェクトなどではない。ステージ全体を照らすが如き強烈な輝きだ。
「心意の……
訳が分からずハルユキが呟く。
そして響く。小さくもはっきりとその声がフィールド全体に。
「『パラダイム・ブレイクダウン』」
その心意はかつてなく非常識なモノだった。今までの心意を覆す、到底考えられないモノ。たたが1人の心意でここまで範囲を及ぼすなんて訊いたことがない。
つまりその効果は領土戦の通常フィールドから――――無制限フィールドへの変化。それがこの心意技が起こした効果だ。
▽▽▽
「皆さん、ここは無制限フィールドです! 早く撤退をしましょう……!」
「……そうね。状況が不明過ぎるわ。残念だけれど、一旦作戦を中止して戻りましょう。……まさか彼の言葉がこんな形で的中するなんてね」
メタトロンと共にハイエスト・レベルという1つ上の次元で現状を把握したハルユキはメンバー全員にそう呼びかける。
レイカーもそれに同意しこの場のリーダーとして不本意ながらも撤退し一時立て直す判断を下す。
今まで準備してきた時間がムダになる。そう感じながらも、突如として移り変わった環境の変化に対してこちらの情報はあまりにも不足している。レイカー……楓子は内心歯軋りしながらも全員の無事を確保するために行動を開始する。
「最寄りのポータルはどこなのです?」
「品川駅だな」
各々が焦りつつも現状から抜け出そうと動き出す。
そう撤退しようとするネガ・ネビュラスのメンバーだが、それを見逃すほどオシラトリ・ユニヴァースは甘くない。
「あなたたちは、もうそこからでられないよ」
オシラトリ・ユニヴァース『七星矮星』が1人、第二位の地位にある小柄なシルエットを持つスノー・フェアリーが心意により極低温のフィールドを作りハルユキたちの動きを鈍らせる。
続けてビヒモスの心意技『
ネガ・ネビュラスはオシラトリ・ユニヴァースが使う心意技によって完全に閉じ込められた形となってしまう。
そして自分勝手にワガママに語る。ビヒモスの上に立つスノー・フェアリーがゆっくりと自身の行いを肯定するように自信満々と。
「この世界には、災禍の鎧よりも、ISSキットよりも、ずっとずっと残酷な呪いがあるってことに」
加速研究会が今まで仕出かした事例に大義があるように。
甚大な被害をもたらし、数々の悲しみを生み出してきたことを悪びれず、絶対的な意味があるかのように。
「あたしたちがときはなってあげるね……あなたたちをしばりつける、その呪いから」
過剰光によって輝くスノー・フェアリーが放つ心意技。
「『
それは遥か上空に出現した漏斗状の白い雲。
ゆっくりと、ハルユキたちへ降りてくるのが見えた。ゆらゆらと、不規則に揺れて。その正体超高速で回転する渦。つまり氷雪の竜巻である。
閉じ込められたネガ・ネビュラスを飲み込むべく近付いてくるが、その速度は遅い。到達まで30秒はかかるだろう。術者であるフェアリーを迎撃、または回避までの余裕はある。
しかし、それは満足に動ける状態での話。今はビヒモスの心意によって閉じ込めらている。おまけにフェアリーの心意により動きは鈍る。
メンバーの1人、シスル・ポーキュパインは掠れた声で『あれは攻撃力全振りの喰らったら死ぬ系の心意技』と語る。
レイカーはその言葉を訊き即座に指示を出す。
「防御系心意技を使える者は防御の用意を 物理攻撃系か火炎系が使える者は周りの壁を破壊して!」
全員がレイカーの発言に呼応し、それぞれが心意技を発動させようとした瞬間、今度は――――
「『
突如響いたその言葉によってネガ・ネビュラスの面々が発動させようとした心意技は…………掻き消えてしまった。心意技をキャンセルする心意技によって。
それをしたのは『七星矮星』アイボリー・タワーだ。現在、加速研究会の1人ブラック・バイスではないかと疑われている人部である。
まるで今までいたのかいきなり現れたのか、そんなことすら分からない存在感を操り、直接対戦にも戦場でも表舞台に出てこない相手が出現した。
そして、ハルユキたち最後の手段であった心意技ですら何人もまとめてキャンセルした技量の持ち主であることを初めて知ることとなる。
まずはフェアリーが極低温フィールドで機動力を奪い、ビヒモスが逃げ場を塞ぐ。
そこに圧倒的な攻撃力のフェアリーの氷雪の竜巻によって確実に全滅させる。
唯一の迎撃手段の心意技はアイボリー・タワーの心意技で中断させる。
鮮やかな連携は見事にハルユキたちを追い詰める。
まさに絶体絶命な状況に陥ってしまう。ネガ・ネビュラスに油断はなかった。持ちうる手段を用いてこの日のために準備を重ね、領土戦を迎えた今も全員が最善の行動を選択した。
だが、オシラトリ・ユニヴァースは、ハルユキたちが行ってきたその想定を、準備を、努力を、全て無に還そうとしている。その時はもう訪れようと刻一刻と迫っている。
「ベル、手を……!」
「うん!」
このままでは確実に全滅すると悟ったハルユキは彼と協力関係であるエネミーのメタトロンから借り受けた翼を全霊で震わせ、その場でなんとか抱え救うことができたチユリ――――ライム・ベルと共に空を飛び命からがら脱出することに成功した。
「みんな……!」
上空でどうなったか結末を見たくもない結末を見ようとする。ハルユキたちが敬愛する、心から尊敬する、信頼している仲間たちが嫌でも、無慈悲に無残に全滅する光景を。
しかしながら――――ハルユキはその直後自身の目を疑うになる。
なぜなら。
ハルユキたちを苦しめたうちの1人グレイシャー・ビヒモスが。
――――首と胴体ごと真っ二つになる瞬間を目撃したのだから。
レイカーたちを閉じ込めていた大量の氷の柱と共に綺麗に斬られる光景をたしかに視た。
その一連の流れはまるで暗闇の中に一筋の光が差し込んだかのようなそんな出来事だった。
「あれは――――ッ!?」
「うそっ!?」
ハルユキとチユリの驚愕する声がぴったり重なる。
もう取れる手段は残されてなく、絶体絶命、全滅する未来に絶望するしかなかったネガ・ネビュラスの面々の前に見覚えのある、そこにいるとは思えないバーストリンカーが現れたのだから。
凍える風が吹き荒れる中、ハルユキは目撃する。マントをたなびかせ、身の丈ほどの大剣を携える自身の師匠と同じかそれ以上のドス黒い黒を背負っているバーストリンカー。
「エンペラーさん……!」
ダークネス・エンペラーがそこにいたのだ。
この場にいる理由や経緯は知らない。
だがしかし、まだこちらに助力してくれたのだと瞬時に察する。
その事実に胸が震えるほど嬉しくなると同時にハルユキはしばし判断に迷う。エンペラーの加勢に行くべきかこのまま脱出を図るべきか。
「――――」
「――――」
ほんの一瞬だがわずかな時間、1秒にも満たない時間ながらもハルユキはエンペラーと目が合った。それは『この場は任せてクロウのすべきことをしろ』と物語っていたようにハルユキは感じ取った。
「……ベル、行くよ!」
「う、うん!」
そして、そのメッセージを受け取った2人は即座にその場から即座に離れ、無制限フィールドへと変貌した領土戦の解決を目指すため翼を震わせた。
▽▽▽
「エンペラー……」
レイカー……楓子の呟きが八幡の耳に届く。
もう全滅寸前だった。オシラトリ・ユニヴァースの作戦に、心意に苦しめられ、抵抗するための手段も奪われ、どうしようもなかった。
その場にいる全員が生き残ることを諦め、クロウたちに希望を託そうとしたその刹那――――楓子は、謡は、美早は、たしかにその目に焼き付けた。
グレイシャー・ビヒモスが何かを悟ったのかスノー・フェアリーを庇い、アイボリー・タワーも即座に屈んだ。まずはビヒモスの首が飛び、その直後には楓子たちを塞いでいた壁、ビヒモスの心意技『最終氷期』の氷柱までもが一瞬で斬られた。
それはまるでどれだけ強固だろうが関係ないと言いたげな――――防御不能である空間ごと斬る技によって。
3人は直ぐ様察した。この圧倒的な攻撃範囲と無慈悲ささえ感じる攻撃力の技は彼だと。
謡と美早は不可解であった。なぜ今この瞬間において見覚えのあるあの技が繰り出されたのか分からなかった。
ここで唯一事情を把握している楓子は安堵と共に『遅いです』と軽口を叩きたくなり内心苦笑してしまった。
「……悪いな。遅れたわ」
そして、呑気な言葉と共に出現したダークネス・エンペラーは楓子たちを庇うかのように間に割って入り、オシラトリ・ユニヴァースへとその姿を明らかにさせた。
▽▽▽
「……とはいえ」
楓子の前に立ち庇った八幡は現状を1秒で把握する。
奇襲は成功したものの、不意を突いた一撃として不十分だと考える。
最初に八幡は氷雪の竜巻、フェアリーが発動した『白の終局』を終わらせるために心意で強化した必殺技『エターナル・ブレイク』で彼女を狙った。
本来想像力を固め発動させる心意技には使用したバーストリンカーが必要だからだ。ただの必殺技では足りないからこその心意で強化した。
倒してしまえば、発動した心意はなくなると考え攻撃目標をフェアリーとした。しかし、それは今しがたHPを全損させたビヒモスによって阻まれてしまった。
「……」
さすが高ランカーと呼ぶべきか、と内心で八幡はある種の称賛を送る。
この圧倒的に有利な状況においてもかなりの勘の良さだ。なにせ八幡がこの一撃を放つ寸前まで彼の持つアビリティによって誰にも姿は確認出来ず認識されない状態であったのだから。
にも関わらず、どういう理屈なのか勘が鋭かったのかビヒモスはフェアリーを庇うことに成功した。代わりにビヒモスは避け遅れ、充分にあった体力ゲージは首が離れた次の瞬間には完全に消え失せた。
ビヒモスの死亡マーカーがその場に留まるなか、それでも緊迫の雰囲気は崩されない。
まだネガ・ネビュラスを襲っている脅威は去っていないのだから当然だ。フェアリーの放っている心意技で氷雪の竜巻は今にも呑み込もうとしている。
囲っていた氷の柱は消え失せ、どうにか逃げることは可能となった。だが、ここでこの一撃を対処しないと延々とこの関係は続いてしまう。
対抗するための心意はアイボリー・タワーの心意で封じられている。いかに八幡が奇襲をかけても白のレギオンの優位性は変わっていない。誰もがそう考える。
まさに詰み、チェックメイトな状況だ。ここからどう足掻こうが通常の手段では逆転の芽は残っていない。
――――しかし、現状をひたすらに荒らし、既に決まったを盤面をひっくり返す役目を八幡に与えられている。だから彼はここに現れた。
「あれは……」
ふと謡が声を漏らす。ここに自身の子が助けに来てくれたことにも驚いているが、今は違う。彼の纏う雰囲気に圧されている。
八幡の……エンペラーの躰は光に包まれている。見たことのない、黒い黒い、ドス黒い光だ。
「
エンペラーに心意技を教えたのはメイデンだ。
だから彼の練度は知っていた。使う心意技の種類も把握していた。しかし、これは違う。親であるメイデンも見たことないほど闇が深い過剰光だ。同じ黒でもブラック・ロータスとも別の黒だ。
何にも染まらないようなその色に楓子も美早も驚愕しながらもそれを見守る。
ただ敵側である白のレギオンは違う。
「くっ……『虚数時間』」
その様子を見逃すほど甘くはない。そのため八幡の過剰光を確認すると即座に心意技をキャンセルさせる心意技を発動するも――――
「き、消えない……!?」
初めてたじろぎ焦っている声がアイボリー・タワーから漏れる。
クロウもレイカーも、この場にいた心意技すら全員封じることができた技がエンペラーには効いていない。まだ彼の光は維持している。消えずに途切れることなく続いている。
「…………」
心意技を打ち消せない最中、皇帝の名を冠した心意はたしかな変化をもたらす。
エンペラーを中心にまるで水面に葉が落ちてきた際に生まれるかの如くゆっくりと……過剰光と同じ色の波紋は幾重にも広がる。
次第にその波紋から芽吹き黒い輝きを放つ花が咲く。
「百合……?」
ふいに楓子が呟く。
ドス黒い闇のような色であるが、そのシルエットはたしかに百合である。黒い百合……ある人物を想起させるネガ・ネビュラスの面々だが、彼の心意は更に変化を見せる。
黒い百合が数え切れないほど何輪もの数が彼を中心に咲き誇る。
それは満開に花畑のように。しかしてそれは美しさなどなく黒一色に侵されていると直視させられる不気味な光景。
そして、ダークネス・エンペラーは静かに告げる。その心意技の名を。
「心意――――『
直後、ネガ・ネビュラスとオシラトリ・ユニヴァースのバーストリンカーたち全員は自身の目を疑う。目前の出来事に対して、とてもではないが信じ難いと。
「なんで……!?」
「まさか……」
スノー・フェアリーとアイボリー・タワーは声を揃えて小声で驚愕の声色を乗せた呟きを漏らす。
エンペラーが心意技を発生させたその瞬間――――その全てが無に帰した。
今にもネガ・ネビュラスを全滅させようとしたスノー・フェアリーの攻撃力に特化した心意技『
今、彼らがいる空間は心意も何もないただの魔都ステージでしかない。ただ、エンペラーが発動させているどこか悍ましい風貌の心意技を除いて。
「わざわざ解説なんてするのも馬鹿馬鹿しいが、味方に伝えるために加速研究会のお前らにも話そうか。この心意の効果はわりと単純だよ。――――俺が認識しているバーストリンカーの心意技の発動及び必殺技ゲージの消費を禁ずる」
言ってしまえばそれだけ、そう彼は平然と話す。
「今現在……この場、この瞬間において、俺がルールだ。名前に皇帝が含まれているしな。何人足りとも俺に逆らうなよ……ってことで」
冗談めかした口調で語る。
心意技の効果としては不条理であり、あまりにも非常識なモノ。
そのような彼の心意に全員が絶句しているなか、再度後方にいる彼女たちを守るかのように立ち塞がり敵である相手たちを見据える。
「改めて自己紹介を。ネガ・ネビュラス所属の新参者――――ダークネス・エンペラー。以後よろしく」