仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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◆今話の登場人物

◆ジークフリート・マルコシアン
 北欧某国の陸軍大佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」を率いている隊長。屈強な肉体と暗い茶髪が特徴の勇猛な軍人であり、部下達からの信頼も厚い。当時の年齢は34歳。
 ※ダス・ライヒ先生の3次創作「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」にもヴィランとして登場。本章から11年後に異世界から来た仮面ライダー達と敵対する。

◆アビス・ランバルツァー/仮面ライダーSPR-33アブソーブスパルタン
 ジークフリートと共にマルコシアン隊を創設した陸軍大佐であり、彼の親友。マルコシアン隊の戦術教官でもあり、鬼教官として部下達から恐れられている。彼が装着するアブソーブスパルタンは長方形に近い大型シールドを専用装備としている防御力特化の機体であり、シールド中心部には試製のエネルギー吸収ユニットを備えている。当時の年齢は35歳。
 ※アブソーブスパルタンの原案はX2愛好家先生。
 ※後にシェードに寝返りマルコシアン隊と敵対する黎明編(https://syosetu.org/novel/128200/151.html)のメインヴィラン。

◆エドゥアルド・オリクルカム
 北欧某国の陸軍技術中佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。スパルタンシリーズの製造を担当していた開発主任でもあり、自分の言うことをまともに聞かない奔放な部下達に毎日手を焼いている苦労人。当時の年齢は44歳。
 ※原案はリオンテイル先生。

◆アイングレイザー・アイアンザック/仮面ライダーSPR-31ワインキースパルタン
 北欧某国の陸軍中佐であり、マルコシアン隊の指揮官であるアレクサンダー・アイアンザック中将の息子。プライドが高く自信過剰な青年将校であり、父が開発責任者を務めているスパルタンシリーズに対して不信感を抱いている。陸軍が仮面ライダーGをモデルに開発した試作強化外骨格を一時的に着用しており、その機体はGと同じソムリエナイフ型の刀剣を装備している。当時の年齢は17歳。
 ※ワインキースパルタンの原案は黒崎 好太郎先生。
 ※本章から11年後にノバシェード対策室と敵対する 「特務捜査隊エージェントライダーズ!(https://syosetu.org/novel/344846/)※R-18」のメインヴィラン。

◆アレクサンダー・アイアンザック
 北欧某国の陸軍中将であり、マルコシアン隊の指揮官を務めているアイングレイザーの父。スパルタン計画の開発責任者でもあり、同計画に絶対の自信を持っている傲慢な野心家。家庭よりも兵器開発を優先している冷血漢であり、息子のアイングレイザーからも不信感を持たれている。当時の年齢は45歳。
 ※本章から11年後に新世代ライダー達と敵対する孤島編(https://syosetu.org/novel/128200/130.html)のメインヴィラン。



黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第0話

 

 ――2009年2月某日。北欧某国首都エンデバーランドに位置する、陸軍基地。そこでは当時、マルコシアン隊の隊員達によるスパルタンシリーズの運用実験が続けられていた。

 単なる「実験」と呼ぶにはあまりに苛烈な、「実戦的な運用試験(バトルロワイヤル)」。その轟音は日夜この基地に響き続けており、隊員達は常に生傷だらけとなっていた。今宵も整備班からの苦情と悲鳴が絶えないことだろう。

 

 荒くれ者揃いの郷土防衛隊第4基地から引き抜かれて来た「有望」な若者達に、いつしか他の隊員達も刺激されていたのかも知れない。彼らは訓練の中で負傷することすら厭わず、自身が装着する試作機の「限界」を引き出すことにのみ執心している。部隊全体が、鬼にも勝る羅刹と化していた。

 

 そんな中。基地の訓練場近くに設けられている広大な格納庫内に、重々しい足音が響き渡っていた。

 その足音の主である、金髪を靡かせている壮年の男――エドゥアルド・オリクルカム技術中佐は、自身が開発に携わったスパルタン用の装備を見つめながら神妙に目を細めている。彼の後ろを歩いている金髪の美男子も、鋭い眼差しで壁面に並べられた装備群を眺めていた。

 

「これはNo.1『ハードアーマー』。全身の増加装甲と関節部のブースター、手甲型の打撃兵器による近接戦闘を目的とした重装甲の試作装備だ。こちらはNo.2『ガロウガトリング』。2丁の大型ガトリングによる援護射撃に秀でた後方支援特化の装備で、銃身には敵の接近を想定したナイフを――」

 

 SPR-16「ガジェットスパルタン」。今は使い手(・・・)の得意分野に基づき「サムライスパルタン」と呼ばれているその機体の各武器種を解説しているエドゥアルド。そんな彼の後に続いている青年は、訝しむような表情で壁面の装備を見つめている。

 

「……」

 

 青年の名は、アイングレイザー・アイアンザック。マルコシアン隊の司令官にして、スパルタン計画の最高責任者でもあるアレクサンダー・アイアンザック中将の長男だ。齢17にして中佐相当の地位を与えられている彼は、多忙な父に代わってスパルタンシリーズ開発の進捗状況を「視察」しに訪れていたのである。

 

「――以上の10種類がSPR-16『ガジェットスパルタン』の換装バリエーションだ。この汎用性の高さには制式採用機のベースとなり得るポテンシャルがある。しかし困ったことに、この機体のテストを任せている奴はNo.7の『サムライソード』ばかりを使いたがる偏屈者でな。俺も毎日手を焼いている」

「……」

「そしてこれが、SPR-08『クラッシャースパルタン』の装備として俺が試作した『シリンダーパンチ』。パイルバンカーの構造に基づく近接格闘兵器だ。この技術が齎す威力はいずれ必ず、改造人間の脅威にも対抗し得る切り札となるだろう」

「……ふん」

 

 一通りの説明を終えたエドゥアルドは、機体の設計思想を理解せずに偏った運用を繰り返しているテスト装着者にため息をついている。唯一「使用中」となっている7番目の兵装(サムライソード)は今頃、外の訓練場で繰り広げられている「実戦的な運用試験(バトルロワイヤル)」で酷使されていることだろう。

 主任である自分の言うことにも従わない部下の奔放振りに頭を悩ませているエドゥアルドは、ゆっくりとアイングレイザーの方に振り返っていた。疑うような目でガジェットスパルタンの各装備を眺めている彼の表情に気付いたエドゥアルドは、その面持ちからアイングレイザーの胸中を察する。

 

「……気に召さんか。だがお前の父……アイアンザック中将が開発の指揮を取ったこのスパルタン計画は、必ずや我が国を守る盾となるだろう。いずれも性能は折り紙付きだ。少々、奇抜な見た目も多いがな」

「我が国の盾だと? ……こんな得体の知れないガラクタの集まりがか」

「そうだとも。例えば……そう、アイアンザック中将自らが設計したこの機体はどうだ? 俺には無い発想で設計された、防御力特化の機体だぞ」

 

 アイアンザック親子の関係は、決して良好なものではない。それを知るエドゥアルドはアイングレイザーの心中を察した上で、敢えて父親の成果を強調するかのように、アレクサンダーの設計思想に基づいた機体を紹介していた。今日の実戦訓練では使われていない、未完成の「後期ロット」だ。

 

 壁面を背に聳え立つ、1機のマッシブな外骨格。「仮面ライダー」を想起させる鉄仮面と鎧で全てを覆い尽くしているその外観は、雄々しい威圧感に満ち溢れている。

 シールドスパルタンを雛型とする防御型スパルタンであるその機体は、スパルタンシリーズ第33号機「SPR-33アブソーブスパルタン」。エドゥアルドが開発指揮を取っていた他のスパルタンシリーズとは異なり、アイアンザックが自ら設計した「異色作」だ。

 

 その機体における最も大きな特徴は、専用装備である大型のシールドだ。長方形の大楯の中心部に備えられた試製エネルギー吸収ユニットは、その名の通り相手のエネルギー攻撃を吸収して無効化することが可能なのである。

 正面からは開いた口のようにも見えるその外観は非常に禍々しく、「大口を開けた盾を構えて進む」光景による威圧効果も副次的に期待されている。そんな父親の作品(アブソーブスパルタン)の異様な姿形に、アイングレイザーは露骨に眉を顰めていた。

 

「……そうだろうな。この手のデザインはお前の趣味ではないだろう、オリクルカム。あの親父がやりそうなことだ」

「そう言うな、この機体は全試作機の中でも群を抜いた防御性能を有しているのだぞ。この大口はエネルギー吸収ユニットを搭載していて、敵方の熱線攻撃をこちらの動力に……」

「くだらん、こんなガラクタなど実戦で役に立つものか。もう『視察』は十分だ、俺は帰る」

 

 異形さが際立つ外観以上に、許し難い何かがあったのか。父親の顔を思い出してしまったアイングレイザーは、アブソーブスパルタンから目を背けるように踵を返し、この場から立ち去ろうとする。そんな彼の背中を横目で見遣りながら、エドゥアルドは静かに呟いた。

 

「息子の自分よりも優先されていたこの計画がそんなに気に食わんか?」

「……ッ!」

 

 冷ややかに響いたその一言は、アイングレイザーを瞬く間に激昂させる。「図星」であることを物語るように猛り狂った形相で、彼は勢いよくエドゥアルドに殴り掛かった。しかしそんな彼の動きなど容易く見抜いていたエドゥアルドは、突き出された拳を受け流してその腕の関節を一瞬で極めてしまう。

 

「あっ、ぐ……!? は、なせッ……!」

「お前の頭が冷えてからな」

 

 完全に関節を極められた状態でありながら、なおも怯むことなく吼えるアイングレイザー。そんな彼の狂犬振りにため息を吐くエドゥアルドが、どうしたものかと天を仰いだ瞬間。

 

「もういいエドゥアルド、そこまでだ」

「離してやれ。子供の可愛い癇癪だろう」

「……了解」

「うぐっ……!」

 

 威厳に満ちた男の声が響き渡って来る。「上官達」の声を背に受けたエドゥアルドは、後は任せたと言わんばかりにアイングレイザーから手を離した。ようやく関節技から解放されたアイングレイザーは息を荒げ、エドゥアルドの「上官達」を睨み付ける。

 

「あんた達は……」

「さすがはアイアンザック中将の息子だ、随分と活きが良い」

「頭に血に昇りやすいところも父親にそっくりだな」

「……ちっ」

 

 マルコシアン隊の隊長を務めるジークフリート・マルコシアン大佐と、戦術教官を務めるアビス・ランバルツァー大佐。両名の登場に眉を顰めるアイングレイザーは、父のことについて言及されたことでますます不機嫌な表情を露わにしていた。

 自身の怒りを「子供の癇癪」と揶揄する彼らを睨み付けているアイングレイザーだが、彼らとの力の差が理解できないほど愚かではない。だからこそ己の尊厳を保つために、怒りの貌を向けることしか出来ないのだ。

 

 そんな彼の胸中を察しているランバルツァーは、静かにアイングレイザーの「身体付き」を観察していた。ツカツカと音を立ててアイングレイザーの傍らを通り過ぎた後、ランバルツァーは肩越しに「若造」の横顔を見遣る。

 

「お前にとって面白くないのは尤もだ。中将はお前が士官学校を首席で卒業した時も、労いの言葉一つ掛けなかったと聞くからな。家族よりも兵器開発……そういう人間だ、あの男は」

「……っ」

「だからこそ。奴がそうまでして造り出したこのスパルタンシリーズは使える(・・・)、ということだ。中将譲りの才覚を以て、その若さで将校にまで出世したお前には……本プロジェクトの後継者として、それを知って貰う必要がある」

「誰がなるか、そんなもの……!」

「それは親父の七光りと言われたくないからか?」

「違う!」

「なら、スパルタンシリーズの性能を疑っているからか? ……それなら良い、その方が話が早い。試せば(・・・)済む話だからな」

「試す……だと」

 

 ランバルツァーの言葉に振り返るアイングレイザーは、自身の思いを容易く見透かす歴戦の勇士を前にしても、怯むことなく敵意を露わにしている。そんな若造の「活きの良さ」に口元を緩めたランバルツァーは、壁面に並べられたスパルタンシリーズの装備群に目を向ける。

 アブソーブスパルタンと同様に、未完成であるため外での実戦訓練に投入されずにいた、数機のスパルタンシリーズ。それらの後期ロットを一通り見渡したランバルツァーは、アイングレイザーを煽るように親指でその装備群を指し示す。

 

「自分が1番使える(・・・)と思える機体をこの中から選んでみろ。俺はお前がガラクタと評した、このアブソーブスパルタンで相手をしてやる」

「なにィ……?」

「ガラクタ風情が相手なら、どんな装備でも負けはしまい? まして、士官学校首席のお前ならな?」

「……ふん、良いだろう。その安い挑発、敢えて乗ってやる。後悔するなよ!」

 

 この場での一騎打ちを提案して来たランバルツァーの誘いに乗り、アイングレイザーは意気揚々と外骨格を物色し始めていた。そんな2人の様子を、ジークフリートとエドゥアルドは神妙に静観している。

 

「……隊長(ボス)。アビス教官の好きにさせてよろしいので?」

「構わん、良い機会だ。少々壊れても、補修予算については俺から中将に話を通しておく」

「直すのは我々整備班なのですが?」

「確かにな。だが……余剰部品で『面白いモノ(ラビッシュ)』を作って遊んでいるオャスン達にとっても、良い暇潰しになるはずだ。俺とアビスが気付いていないとでも思ったか?」

「……あいつらには後日、厳重に注意しておきます」

 

 整備班の「お遊び」に目を瞑るという交換条件の前では、エドゥアルドも強くは出られなかったらしい。ガーベッジ・オャスン曹長をはじめとする整備士達の「ヤンチャ振り」に頭を悩ませるエドゥアルドは、気怠げに頭を掻きむしっている。

 そんな彼の様子にジークフリートがニヤリと笑う一方で、アイングレイザーも自身が使う外骨格を決めようとしていた。彼が目を付けたのは、第32号機「SPR-32スパイダースパルタン」――の隣で眠っていた機体だ。

 

「俺は……これを使う! この機体が最も『仮面ライダーG(オリジナル)』に近しいと聞いた! この機体でお前を黙らせてやる!」

 

 彼が選んだのは、スパルタンシリーズ第31号機「SPR-31ワインキースパルタン」。ランチャースパルタン等の初期ロットと同様に、「大量発生型相変異バッタオーグ」を彷彿させる基本ボディを持っている機体だ。その仮面の複眼は「G」を描いており、両肩にはワインボトル型のエネルギータンクを配置したアーマーが装備されている。

 

 そのボトルから腕にかけては、「オリジナル」の仮面ライダーGを想起させる赤いラインが走っていた。武装も「G」と同じソムリエナイフ型の刀剣となっており、ボトルから供給されるエネルギーによって切れ味を強化する仕様となっている。このスパルタン計画の本懐である、「仮面ライダーGの再現」に最も近付けた機体と言える外観だ。

 

「ショッピングは終わったようだな。……だが、そいつはあまりお勧めは出来ん」

「なにぃ……?」

「そいつはSPR-31『ワインキースパルタン』。確かにエドゥアルドの説明通り、そいつは最も『G』の再現に近付いた機体だ。しかしそれも完全とは言えん。何より、お前の筋肉(・・)には不向きだ」

「ふん……この機体を使われるのがそんなに怖いのか? ならば実戦にも勝る恐怖というものを、この俺が教えてやる! お前もさっさとその機体を装着しろ!」

「やれやれ、実戦に出たこともないお坊ちゃんの台詞とは思えんな。まぁ良い、それなら好きにしろ。今に嫌でも分かる」

 

 自分の忠告に対して全く聞く耳を持たないアイングレイザーの無鉄砲振りに、ランバルツァーは呆れたようなため息を漏らす。首から下の外骨格を装着し終えた2人は各々の鉄仮面を小脇に抱えて、格納庫内の広いスペースへと場を移す。機体の動作点検のために設けられたその場所で、ランバルツァーは「お遊び」を済ませるつもりなのだろう。

 

「……『変身(セッタップ)』」

「『変身(セッタップ)!』」

 

 やがて両者は同時に鉄仮面を装着し、双方の仮面に備わった複眼を怪しく発光させた。装着完了を示すその輝きが格納庫内を照らし、窓から光が漏れ出して行く。装着を終えた2人の外骨格からは電光が飛び散り、各関節部からはブシュウと蒸気が噴き出していた。

 腰に巻かれた高電圧スパルタンドライバーが唸りを上げ、両者の全身にエネルギーを循環させて行く。この瞬間に2人は超人の兵士へと「変身」し、「仮面ライダー」と称される領域の力を手にしたのだ。

 

「くたばれぇえッ!」

 

 次の瞬間、ワインキースパルタンの鎧を纏ったアイングレイザーは刀剣を振り上げ、一気に突進する。単調で直前的ではあるものの、その踏み込みの速さは驚異的だ。マルコシアン隊の隊員達でも、このスピードにはなかなか対処し切れないだろう。

 そんな若獅子の底力を垣間見たランバルツァーは、アブソーブスパルタンの大楯を構えながら、仮面の下で鋭く目を細めている。実戦を知らない若造相手でも油断することなく身構えている彼の双眸に、慢心の色は無い。

 

(……装着自体が初めてな上に、不向きな機体を使っていて……この踏み込みの速さか。確かに筋は良い。鍛え方にも驕りは無い。機体の持ち味もよく理解している)

 

 アイングレイザーの才能と実力をあるがままに評価するランバルツァー。彼は相手の力量を的確に把握しつつ――振り下ろされたアイングレイザーの一閃を、大楯で軽やかに受け流してしまう。

 

「なっ……!?」

「……だが、それだけだ」

 

 相手の実力が確かなものであることを理解した上で。自身との力の差を思い知らせるかのように、ランバルツァーは冷たくアイングレイザーの足を払う。予期せぬ反撃に足を取られたアイングレイザーは、何が起きたのかも分からないまま体勢を崩してしまった。その直後、腰の入ったミドルキックがアイングレイザーの脇腹に直撃する。

 

「ぐほぁあぁッ!?」

 

 思わぬ衝撃と激痛に悲鳴を上げ、転倒するアイングレイザー。彼はのたうちまわりながらも戦意を失うことなく、ランバルツァーを忌々しげに睨み上げている。血気盛んな若獅子の眼光を受け止め、歴戦の勇士は静かに口を開いた。

 

「さっきも言っただろう、お前の筋肉(・・)には不向きだと」

「ぐっ、はぁっ……! ど、どういうことだッ……!? この、俺がぁッ……!」

「お前の筋肉は持久力こそ一級品だが、その筋肉量自体が『錘』になっていて瞬発力に欠けている。対してそのワインキースパルタンは防御力の再現を犠牲にしつつ、攻撃力と機動力の両立に重点を置いた機体だ。その2点だけでも『仮面ライダーG』を完全に再現するためにな」

「……ッ!」

「お前自身、機体に触れた時からその特性には気付いていたはずだろう。ただ勝つことよりも自己の尊厳を優先した結果、目が曇る。出世が早過ぎた若造には付き物の『流行り病』だ」

 

 アイングレイザーのような「血の気が多い若者」の面倒など見慣れているのだろう。ランバルツァーは装着者と外骨格の相性が明暗を分けたのだと説き、アイングレイザー自身の欠点を冷徹に指摘する。

 

「そんなお前に最適な装備は何だったのか、教えてやろうか。……お前の嫌いな親父が設計した、このアブソーブスパルタンのような防御力特化型だ」

「……!?」

「お前がスパルタンシリーズを使わねばならなくなった場合に備えて、わざわざこの機体を拵えていたのだろう。日本には『親の心子知らず』という諺があると聞くが、よく言ったものだな」

「くそッ……ふざけるなぁぁあッ!」

 

 自分に最も適した外骨格は、自分が嫌っていた父親が自分のために用意していた機体だった。アイングレイザーという男にとって、これほどプライドが傷付く話は無い。

 ランバルツァーの言葉を受け入れまいと首を振る彼は、痛みを堪えながらも歯を食いしばって立ち上がり、再び刀剣を振り上げて斬り掛かって行く。彼には先ほどのミドルキックより、今の言葉の方が遥かに効いた(・・・)のだろう。

 

「……ふんッ!」

「ぐ、あぁッ……!?」

 

 そんな若さゆえの過ちに、鉄槌を下すかの如く。ランバルツァーはアブソーブスパルタンの大楯で、突っ込んで来たアイングレイザーを真っ向から叩き伏せてしまう。大楯の硬度にはワインキースパルタンの刃も通らず、アイングレイザーの身体は床に勢いよく叩き付けられていた。

 

「あ、ぐッ……! お、おのれッ……こ、こんな、馬鹿なァッ……!」

「……それほどコイツが気に食わんか、仕方のない奴だ。それなら……ほら、あそこに置いている機体ならどうだ? アブソーブスパルタンと同じ防御力特化型であり……親父ではなく、エドゥアルドが造った機体だ」

「なッ……に、ィッ……!?」

 

 否応なしに実力差を突き付けられ、今の自分では敵わないという事実を「本能」に叩き込まれてしまったアイングレイザー。彼は地に伏したまま己の敗北を認められず、悔しさに身を震わせていた。そんな彼を見下ろすランバルツァーは無鉄砲な若造を導くように、ある一つの機体を指差す。

 

 それは――スパルタンシリーズ第29号機「SPR-29ロブスタースパルタン」。アブソーブスパルタンと同じく、装甲の厚さに重点を置いた近接格闘戦用の後期ロットだ。赤と黄色を基調とするそのボディは、アブソーブスパルタンにも劣らぬマッシブな印象を与えている。鋭利な赤い鋏となっている右腕は、非常に禍々しいディテールとなっていた。

 

「……!」

 

 ひと目で分かる。この機体こそ、自分の能力を最も活かせる鎧なのだと。しかしそれを認めることはアイングレイザーにとって、ランバルツァーに屈したことを意味する。この期に及んでも己のプライドを捨て切れないアイングレイザーは、目を背けるようにロブスタースパルタンから視線を外していた。

 

「ロブスターは嫌いか?」

「……ッ! 馬鹿にしおってッ……! 誰が貴様の言いなりになどなるものかッ……!」

 

 全てを見透かすように仮面の下で目を細めるランバルツァー。そんな彼の視線を敏感に感じ取ったアイングレイザーは仮面を外し、悔しげに唇を噛み締めた表情を露わにする。彼はそのまま外骨格をパージして、ワインキースパルタンの鎧を脱いでしまった。事実上の試合放棄といったところだが、彼がそれを認めることはないのだろう。

 

「……今日の『視察』はここまでだッ……! 次に会った時は、覚えていろよッ……!」

「そうかそうか。なら、また近いうちに様子を見に来い。俺達が忘れないうちにな」

「ぐッ……!」

 

 ワインキースパルタンの鎧をその場に残したまま、アイングレイザーは捨て台詞を吐いて逃げるように格納庫から立ち去って行く。しかし仮面を外したランバルツァーは、そんな彼の態度に怒ることもなく、揶揄うような言葉を投げ掛けていた。

 その言葉に思わず足を止めたアイングレイザーは再び肩越しにランバルツァーを睨み付け、青筋を立てたまま足早に去ってしまう。狂犬のような男がこの場を去り、ようやく格納庫内も静けさを取り戻した。

 

「……全く、手の掛かる『御曹司』ですね」

「口の減らない跳ねっ返りには違いない。……が、素質においては部隊(ウチ)の連中にも匹敵する。自分の適性に見合った装備を使いこなせるようになれば……かなり化ける(・・・)だろうな、アレは」

 

 よろめきながらも基地から立ち去って行くアイングレイザーの背中を見送り、エドゥアルドは深々とため息を吐く。そんな彼の様子に不敵な笑みを溢しつつ、ランバルツァーは感心した様子で顎鬚を撫でていた。やがて、ゆっくりと歩み出て来たジークフリートも2人の隣で足を止める。

 

「おーい、隊長(ボス)ーっ!」

「……ふっ」

 

 今日の実戦訓練を終え、こちらに向かおうとしているマルコシアン隊の隊員達。朗らかに手を振る彼らの様子を眺めているジークフリートの貌は、「未来」への自信に満ち溢れていた。

 

「確かにアビスの言う通り、あの御曹司はなかなかの逸材だ。鍛えればかなりの戦力になるだろう。……しかし、それには一つ問題がある」

「なんです?」

「その時が来る前に、俺達が戦いを終わらせてしまう……ということだ」

「ふっ……相変わらずの自信家だな、お前は」

 

 自分達ならば、必ずシェードにも勝てる。この世から改造人間を駆逐し、人類の自由と平和を守り抜くことが出来る。その「確信」が顕れている横顔に、ランバルツァーとエドゥアルドはふっと口元を緩めていた。

 

 その一方。基地から足早に立ち去ったアイングレイザーの前には、漆黒の高級車(リムジン)が待ち構えていた。

 高級車の傍に立つ黒服の男達は恐らく、アイアンザックの部下なのだろう。アイングレイザーを出迎える彼らは、淡々とした佇まいで高級車のドアを開いていた。

 

「此度の視察、誠にお疲れ様でした。如何でしたか、お父上が主導されたスパルタン計画の成果物(アーマースーツ)は」

「……どうでもいい」

「は……?」

「どうでもいいと言っているッ!」

 

 黒服の男達から掛けられた言葉に苛立ちを露わにして、アイングレイザーは高級車の車内にドカッと乱暴に座り込む。男達はそんな彼の様子に顔を見合わせながらも、即座に車を出し始めていた。

 エンジンを始動させ、素早く基地から離れて行く高級車。その車窓から基地を眺めているアイングレイザーは、どこか複雑な表情で格納庫を見つめていた。

 

(……どうでもいい)

 

 士官学校を首席で卒業した時でさえ、労いの言葉一つ掛けなかったアレクサンダー。そんな父が造った鎧など、到底受け入れられるものではなかった。

 だが。その鎧を纏って死地に立たんとしている戦士達は、父よりもずっと真摯に自分と向き合おうとしていた。父のご機嫌取りしか頭にない周りの連中とは違い、中将の息子である自分に対する忖度も無かった。

 

 ――断じて認めるつもりはないが。先ほどの時間は、士官学校以来の充足感に満ちていた。

 あの基地に居る戦士達は父の部下でありながら、全く媚びることなく対等の立場で接してくれていた。そればかりか、父なりの思いやりがあったことまで教えてくれた。その嬉しさを認めたくなかったから、アイングレイザーは足早に立ち去ってしまったのだ。

 

(あいつらを死なせない鎧でさえあれば……あとは、どうでもいいんだ)

 

 自分の本心を誰にも悟られまいと。格納庫から目を背けたアイングレイザーは、頬杖をつき正面へと視線を向ける。その口元は、微かに緩んでいるようにも見えていた。

 

 ◆

 

 ――しかし、この後。ランバルツァーはジークフリート達の前から姿を消し、シェードの精鋭集団「グールベレー」を率いてマルコシアン隊と対峙することとなる。

 マルコシアン隊を知り尽くしている彼の戦略により、ジークフリート達は壊滅的な打撃を受けた。大楯によるエネルギー吸収機能を持っていたアブソーブスパルタンも、その能力が通じない実弾兵器によって撃破されてしまった。

 

 そしてジークフリートは、思い知らされたのである。自分は戦いを終わらせる英雄などではなく。むしろ自分の戦いこそが、全ての「始まり」だったのだと。

 





 皆様、お久しぶりです! そしてあけましておめでとうございます。今話は久方ぶりにマルコシアン隊にスポットを当てる、黎明編の前日談となりました。時系列としては黎明編の第1話から5ヶ月前の出来事であり、まだランバルツァーが隊に残っていた頃のお話になりますね。今回は他の方々が考案してくださった、黎明編未登場のスパルタンライダーや装備案にも触れております。考案者の皆様、ご協力ありがとうございましたm(_ _)m

 今話に登場したアイングレイザー・アイアンザックは、作中で言及されていた通りアイアンザック中将の息子。黎明編の終盤でもちょこっとだけ登場しておりました。
 そして前書きでの記述通り、本章から11年後が舞台のR-18スピンオフ作品「特務捜査隊エージェントライダーズ!(https://syosetu.org/novel/344846/)」でメインヴィランを務めております。ジークフリートもランバルツァーもアイアンザック中将も後々闇落ちするし、今回はエドゥアルド以外悪役になる奴しか居ねえ……(´・ω・`)

 この頃は希望に満ち溢れていたマルコシアン隊も、5ヶ月後にはあんなことやこんなことになってしまいます……が、彼らの思いは次の世代の仮面ライダー達に受け継がれて行くのでしょう。それらの物語は黎明編以外のエピソード群ですでに描かれておりますので、機会がありましたらそちらもどうぞよしなに!m(_ _)m
 ちなみに今話で存在が触れられたクラッシャースパルタンの試作装備「シリンダーパンチ」は実戦で使われることはありませんでしたが、戦後の混乱で流出してしまったこの技術が、後の新世代ライダーの1人「仮面ライダーアルビオン」の武装へと繋がって行くことになります……(´-ω-`)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う「ジャスティアライダー」達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 また現在は、「Imitated Devil」とも繋がっているX2愛好家先生の派生作品「九十九 光の気ままな実験録(https://syosetu.org/novel/357309/)」も連載されております! こちらの作品では多種多様なドーパントが登場しておりますので、機会がありましたらこちらの作品もぜひご一読くださいませ……m(_ _)m

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております!(*^▽^*)
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役だったジークフリート・マルコシアン大佐の闇堕ち後も明確に描かれております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

 加えて、リオンテイル先生も新たな3次創作作品「ある技術者の考察、または「スパルタン」についての所感(https://syosetu.org/novel/380617/)」を公開されております。新世代ライダーの装備開発に携わっていた技術者達の視点から、スパルタンシリーズの終焉を紐解いて行く物語となっております。こちらの作品もぜひご一読ください(о´∀`о)

 また現在、ダス・ライヒ先生が公開されている作品「スーパーロボット大戦 無限戦争 設定集&外伝(https://syosetu.org/novel/272189/)」の一部エピソード(https://syosetu.org/novel/272189/36.html)には、ゾルダスパルタンことノクト・マグナギガが登場しており、エンデバーランドの死闘から生き延びていた彼の新たな活躍が描かれております。さらには新たに再編されたグールベレーや、完全体のグールズ・ブリアレオスまで……!? 機会がありましたら是非ご一読ください!(*≧∀≦*)

 そして現在は、R-18のスピンオフ作品である「特務捜査隊エージェントライダーズ!(https://syosetu.org/novel/344846/)も掲載されております。
 舞台は本章から約11年後に当たる2020年10月頃。ノバシェード対策室所属の特殊部隊「B.A.V.A.R.F.」のメンバーである女捜査官達が主役であり、こちらでも多くの読者応募ヒロイン達が活躍しております。本作の孤島編(https://syosetu.org/novel/128200/130.html)やアナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)で活躍していたマス・ライダー軽装型が主役の作品であり、ぴっちりボディスーツ型の強化服を纏う女捜査官達の物語となっております。
 さらに今話に登場したアイングレイザー・アイアンザックもメインヴィランとして暗躍しておりますので、気になる方はぜひご一読くださいませ……! しかしこちらの作品はR-18作品となっておりますので、その点はご注意ください……m(_ _)m

Ps
 気付けば黎明編の連載開始から1周年。これも皆様の温かい応援のおかげであります。本当にありがとうございました……(*´ω`*)
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