「ハーハッハッ!! どうしたヴァーリ!」
「くっ! コイツ以前より……!」
突然現れたコカビエルがヴァーリを襲う。
片腕のヴァーリには今のコカビエルは手に余る相手らしい。
以前よりも確実に強くなっていた。
その戦闘を呆気を取られつつも眺めながら、祐斗が一樹に問いかける。
「どうしようか?」
「どうすっかなぁ……?」
馬鹿は馬鹿同士遊ばせておくのも手だが、ヴァーリが一樹を狙う理由は知っておきたい。
少し考えてから一樹は頭を掻く。
「だぁもう! しょーがねぇなぁ!!」
「前と立場が逆転したな、ヴァーリ」
「チッ」
コカビエルはロキと闘った頃より確実に実力を上げている。
なにか対策講じているのか、半減で上手く力が奪えてない。
「こんな状況でければ楽しかったろうにな……」
今、ヴァーリがやらなければならないのは、日ノ宮一樹を捕獲する事であり、コカビエルと闘う事ではない。
ヴァーリの嗜好的に心躍る場面ではあるが、今は状況が悪過ぎる。
(ここで日ノ宮一樹を捕らえなければ、あの人が……)
手は打ったが、間に合うとは限らない。なんとしてもコカビエルをここで退け、目標を確保しなければ。
そう考えれば考える程に焦りが生まれ、動きの精細さを掻いていく。
そう焦っていると、いつの間にかコカビエルの背後に立っていた日ノ宮一樹がその背中をポンポンと叩く。
「アン? ────っ!?」
コカビエルが振り向いたと同時にその顔を殴り飛ばした。
「
炎の球をいくつも生み出して放ち、コカビエルへと直撃させた。
それを簡単に払うと、不可解そうに一樹を見る。
「なんのつもりだ?」
「ガキの喧嘩に大人が割って入ってくんじゃねぇよ。弱い者イジメもいい加減にしとけなおっさん」
親指を下に向けてそう言ってくる一樹にコカビエルはくつくつと笑う。
「弱い者イジメか……言われているぞ、ヴァーリ」
「……」
祐斗に斬られた腕の止血を済ませたヴァーリが一樹を見る。
それに気付いて一樹が舌打ちする。
「優先順位だよ。あのおっさんを黙らせたら、お前から話聞くからな」
ヤケクソ気味に言う一樹にヴァーリが苦い顔をする。
「話を聞いてどうするつもりだ?」
「あん? 別に。襲ってきた奴の動機くらいは知りてぇだろ?」
一樹からすれば、ヴァーリが襲ってきたどうであれムカつくのに変わりないが、事情を知ればアザゼル辺りが何とかするかもしれない。
だけど今は、目の前の脅威を排除する事が先決。
指をクイクイと動かす。
「来いよおっさん。アンタもここでぶちのめして、アザゼルさんに土下座させてやっから」
「はっ! 言うな小僧っ!!」
コカビエルが1歩前に出ると背後の左右から白音と祐斗が距離を詰め、一樹も時間差で正面から挑みにかかる。
しかし。
「甘いわっ!!」
力を込めて払われた右腕。
そこから発生した衝撃波に3人共に弾き飛ばされる。
これは、今のコカビエルと一樹達の基礎能力の差もあるが、これまでの戦いで、体力が消耗し過ぎている。
「はっ! 口程にもないな! これではヴァーリの代わりにもならん」
砂塵に紛れて一樹がコカビエルに炎を纏った拳で殴りかかるが、態と顔面で受け止める。
「温い! 弱い! こんなものではなっ!」
「こ、のっ!?」
コカビエルが一樹の腕を掴み、そのまま再び向かってきた祐斗の方に投げる。
「つっ!?」
一樹を受け止め切れずに抱えたまま転がる祐斗。
勢いが止まると身体を起こした。
「わりい……」
「だ、い……丈夫、だよ……それに、時間は稼げた……!」
苦しそうに立ち上がる。
その間、離れた位置に居る白音が尾獣玉を準備していた。
「……っ!!」
コカビエルに向けて尾獣玉を撃ち込む白音。
それは、間違いなくコカビエルに命中した。
撃ち込んだ膨大な気が命中と共に爆発する。
「やった……?」
白音が懐疑的に疑問を口にするが、彼女の中に居る又旅が即座に否定する。
『いえ! まだです!』
「今のは効いたぞ小娘。この場でヴァーリを除いて、1番強いのはお前のようだな」
白音の頭上を取ったコカビエルがその腕を振り下ろす。
だが、それは投げられた如意棒によって防がれた。
「はは……こりゃいったいどういう状況だい?」
「どうやら私達が治療に専念してる間に、状況が変わったようですね」
「美猴……アーサー……無事だったか」
「勝手に殺すんじゃないぜぃ、ヴァーリ。流石に死ぬかと思ったけどな……」
酷い目に遭ったと肩を竦める美猴。
そこで2人はヴァーリの右腕が失われている事に気付く。
「どうした、ヴァーリ? 右腕を失うなんてお前らしくないぜぃ? コカビエルにやられたのかぃ?」
「……木場祐斗だ」
息を吐いて告げる。
それにアーサーは眼鏡の奥の目を細めた。
「なるほど。やはり、アレはまぐれではありませんでしたか」
自分を下した時のあの一瞬の強さ。
彼は自分との戦いで何かを掴んだのだと確信する。
そんな会話をしている内に、この場にいる全員が自然とコカビエルを取り囲む形になっていた。
だがコカビエルはそれを楽しそうに口元をつり上げる。
「1対6か……今の俺ならこれくらいのハンデが丁度良いかもなぁ」
不敵に笑う。
その様子に一樹が
どういう訳かヴァーリ達と共闘する流れだが、今は1番場違いなこの男を排除するのが先決。
6人の内の誰かが動こうとしたその時────。
「あ〜ダメダメ。なんでそっちと遊んでるかなぁ?」
パンパンと手を叩く音と共にリゼヴィムが姿を現した。
リゼヴィムが呆れたように態とらしい溜息を吐く。
「俺はそっちの太陽君を連れてくるようにお願いしたのにさぁ。なんでコカビエルとじゃれついてるかね? ヴァーリお前、今の立場分かってる? んー?」
茶化すような態度でヴァーリに問い詰めるリゼヴィム。
ふわりと跳ぶようにヴァーリの傍に着地すると、彼の肩に手を置いた。
「俺もさぁ、義理とはいえ娘の新しい家族を手に掛けるなんてしたくないのよ? でも、お前があんまりにも反抗的だったり、無能なら、こっちもそれなりの仕置きを考えなきゃ、なぁ?」
ネチネチとヴァーリの母と新しい家族を殺すと示唆してくる。
それを苛立たしく思いつつも、今は従うしかない。
「わかった。彼の捕縛を優先しよう」
「それでいいのよ。じゃあよろしく〜」
ヴァーリから離れて、適当な建物に飛んで座り、静観を決め込む。
事態が二転三転する事に一樹はガリガリと頭を掻いて息を吐いた。
「で、結局オメーの狙いは俺な訳か?」
「そうだ。悪く思うな」
「仲間って訳じゃねぇんだ、構うかよ。でもな、簡単に行くと思うなよ?」
一樹と白音と祐斗。
ヴァーリと美猴とアーサー。
そしてコカビエル。
三つ巴の状況だが、やるしかない。
「行くぞ」
ヴァーリが動こうとした時、その場に声が響いた。
────お待ち下さいヴァーリさま。
ヴァーリの影が実体となって形となり、そこから紫色のマントのフードで顔を隠した女が現れた。
「メディアか……!」
「
ヴァーリチームの魔法使い、メディア。
彼女が現れ、一樹達は周囲を見回す。
何故なら、少し離れた位置にはこちらの戦闘をずっと観戦していたメディアが居るからだ。
アーサーが遠くにいる方のメディアに向かって呼びかける。
「もう構いませんよ、ルフェイ!」
その合図と共に遠くにいるメディアがマントを外す。
すると、その姿が一瞬テレビのノイズの歪み、アーサーの妹であるルフェイの姿へと変わった。
緊張の糸が切れてルフェイはその場に座り込み、大きく息を吐く。
「はぁ〜。ずっとメディアさんに擬態してたの、疲れました〜……!」
「ハハ! ま、お前さんだって悟られないように、全然喋らせなかったからねぃ」
美猴がお疲れさんと手を振る。
この地で顔を合わせた時から違和感はあったが、まさか偽者とは思わなんだ。
ヴァーリはメディアからの報告を聞く。
「メディア、母さん達は?」
「はい。ヴァーリさまの母君とその御家族の周りを彷徨いていた悪魔は私が始末し、代わりの人形に偽の報告を繰り返されました。あの方々の生活圏にも悪魔除けの結界と策を何重にも施してきました。今すぐに危害を加えられないでしょう。捜索に時間がかかってしまい、申し訳ありません」
ヴァーリ自身、母やその家族の所在を正確に把握しておらず、メディアにその捜索と護衛、というか、排除を頼んでいた。
それに時間を有し、ようやく合流出来たのだ。
洗脳を受けた悪魔達はメディアの命令1つで自害する人形にして。
「……いや、よくやってくれた。本当にありがとう。それで、母さん達は────」
「はい。元気で居られました。とても幸せそうに」
「そうか……」
心の奥底から安堵する。
そして同時にヴァーリ達がリゼヴィムの命令を聞く義理は無くなった。
それを察したリゼヴィムがあららと肩を竦める。
「こうも簡単に手の平返されるとはね〜。お爺ちゃんかなし〜」
嘘泣きするリゼヴィムに、ヴァーリが吐き捨てる。
「黙れ。母さん達の安全が確認出来た以上、お前に従う義理はない」
この瞬間からヴァーリが狙うべき最大の敵はリゼヴィムとなった。
それにこの男が生きている限り、母の安全は永遠に訪れない。
ここで確実に仕留める。
ヴァーリの手には膨大なオーラが吹き荒れ、掌に集められたエネルギーがリゼヴィムに向けて放たれる。
当たれば文字通り必殺の攻撃。
しかし、そのエネルギーの奔流がリゼヴィムに届いた瞬間に掻き消えた。
「あ? なんだ今の?」
一樹の呟きの後にヴァーリが舌打ち、コカビエルが鼻を鳴らす。
「あらゆる神器の能力を無効化する、超越者である奴の能力だ。その能力を警戒して、サーゼクスの奴は自分の眷属に神器能力者を置かなかったと聞く」
コカビエルの解説の後にリゼヴィムがゲラゲラと声を上げて笑った。
「その通りよ! 俺を殺したいんなら神器に頼っちゃダメダメってことよ〜?」
トコトン小馬鹿にしてくるリゼヴィム。
しかし、動いていたのはヴァーリだけではない。
「はっ! なら神器以外で攻撃すれば問題ねぇぜい!」
「ヴァーリには悪いですが、貴方はここで死んで貰います!」
美猴とアーサーが同時に仕掛ける。
「甘いよ〜ん、と!」
負傷しているとはいえ、2人の攻撃を軽く捌く。
「退きなさい!」
メディアが頭上を取り、数十に及ぶ魔法陣を展開し、一斉射撃を撃ち込んだ。
「だから甘いっての。いくら神器じゃねぇっつっても、俺も
素の能力も高いらしく、ヴァーリ陣営の攻撃が通らない。
それを見ていた一樹はある考えが浮かんだ。
「……やってみるか」
美猴とアーサー。そしてメディアの猛攻が続くがリゼヴィムを全て防いでいる。
「ダメよダメよってなぁ!」
美猴を蹴り飛ばし、アーサーの剣を持つ腕を掴んで骨を砕く。
「ぐっ!? この程────」
「寝てなちゃいね〜」
そのまま頭を掴んで地面に叩きつけた。
メディアも攻めあぐねている。
「どうしたヴァーリちゅあ〜ん。お爺ちゃんと遊ぼうぜ?」
ゲラゲラと品の無い不快な笑い声が響く。
すると、巻き上がっていた砂塵の中から一樹が突っ込んできた。
「あらら〜。そっちから来てくれるなんて、お爺ちゃん感激〜! なら、遠慮なく捕まえさせてもらうぜ!」
一樹の鎧に触れて無力化し、そのまま捕獲しようとする。
肩の車輪に触れる。
「あん?」
しかし、無力化出来ない。
驚いていると逆に一樹がリゼヴィムの腕を掴んだ。
「やっぱ、俺の鎧は例外だったか。この至近距離なら、ちっとは
眼球から放たれる
その反動で一樹自身が耐え切れずに後方へと転がった。
「糞が! やってくれるぜ! 大事な服が焼け焦げちまった……!」
やはりリゼヴィムを倒すまでとはいかず、喰らった攻撃を追い出すように唾を吐く。
「そうか……神器っても、聖書の神が関与してねぇから、俺の能力の範囲外になっちまうのかよ……! 永いこと生きてて初めての発見だぜ、おい!」
しかも攻撃を喰らったのに、何処か楽しそうに嘲笑う。
だが、そこで降参とでも言うように両手を上げた。
「なんのつもりだよ?」
「うんにゃ? どうやらサーゼクスの妹さんの方は終わったみたいだぜ? 聖杯は所有者諸共奪われちまったみたいだ。か〜ついてねぇ!」
まったく残念そうに見えずに告げる。
「こんな
遊び飽きた子供が帰るように背を向けるリゼヴィム。
それをヴァーリが引き留めようとする
「待て!」
「おいおい。まだお爺ちゃんに遊んでもらいてーのか? 勘弁してくれよ。俺だって若くないんだぜ?」
ふざけた調子を変えずに手をひらひらさせるリゼヴィム。
それに、とリゼヴィムはヴァーリの仲間に視線を向ける。
「これ以上ジャレつくなら、先ずはお前さんの仲間をやるかもな〜。神器使いのヴァーリちゃんより俺にとっちゃやっかいさ。解ってんだろ?」
神器使いである以上、ヴァーリはリゼヴィムとの相性が悪い。
仲間の安全の為に、ジッとしてろと暗に言う。
「ま、安心しろよ。義娘ちゃんにはもう手をださねぇよ。同じ
その言葉と共に姿を消した。
リゼヴィムが消えるとコカビエルも踵を返す。
「興が削がれたな」
去って行こうとするコカビエル。
特に引き留める理由もない。
というか、この中であの男が1番の
「いっくん」
「おう、白、ねっ!?」
白音に軽く小突かれた。
「無茶し過ぎ」
「はい……」
本当に一樹の鎧を無効化されないのか賭けだったのだ。
その予想が外れていたら、一樹はまた捕まっていた。
祐斗が携帯をポケットに仕舞う。
「部長から連絡があったよ。クーデターや、ギャスパーくんの幼馴染のレヴァリーさんの保護に成功したって。今から合流して欲しいそうだ」
「あいよ。で、お前らはどうすんだ? どっか行くんなら追わねぇぞ」
流石に疲れた。
ヴァーリの方もこの空気で襲ってこない分別はあると思いたい。
「……俺達もアザゼルと会おう。これからの方針を決める必要がある。それで構わないか?」
仲間に問いかける。
「おう。構わねいぜい」
「私はヴァーリさまに従います」
美猴とメディアがそれぞれ返す。
ペンドラゴン兄妹も異論が無いらしい。
「あっそ」
「じゃあ、ついて来てくれ」
祐斗の案内で、リアス達と合流する流れとなった。
「3人共、無事で良かったわ」
合流したリアス達。
エルメンヒルデに用意された部屋で互いに経験した事を報告している。
腕を斬られたヴァーリはアーシアの治療を受けていた。
リアス達はなし崩しにクロウ・クルワッハとの戦闘。
相手が遊んでいただけだった事もあり、どうにか命拾いした。
マリウスなどは逃したものの、どうにかヴァレリーが神器を抜き取られ、殺される前に保護出来た。
悪魔の駒の使用は一旦保留となる。
しかし、改造された吸血鬼達が次々と理性を失った怪物へと変貌を遂げ、暴れたせいで、吸血鬼の都は壊滅状態だと言う。
その破壊には当然一樹達が暴れた分も含まれる。
ヴァーリから話を聞いていたアザゼルも大きく息を吐く。
「つまり、母親を人質に取られてやむを得なくリゼヴィムの奴に協力してた訳だ」
「あぁ。だが、そのお陰で俺も母さんの居場所が突き止められた訳だが……」
治療を終えたヴァーリがくっついた腕の調子を確認しつつ自分の事情を明かす。
話を聞き終えた一樹は不貞腐れた様子でいる。
「こっちはいい迷惑だったっつの」
「おい日ノ宮」
一誠が嗜めるが、本人はそっぽを向くだけ。
長らく消息が掴めなかった母を人質に取られていたのだ。
仲間でもなんでもない相手ならそりゃ遠慮なく捕まえるだろう。
「これからどうするんだ、お前?」
「奴が本格的に動き始めた以上、禍の団に戻るつもりはない。オーフィスも今は居ないしね」
一樹を奪還しようとした際に、
まだしばらくは出てこれない筈だ。
「しばらくは、リゼヴィムへの対策を考えつつ、情報収集に徹するさ」
それはつまり、禍の団との決別を意味する。
「分かった。なにかあったら厄介事を起こす前に連絡しろよ。それと、お袋さん、見つかって良かったな」
「……あぁ」
アザゼルの言葉に素っ気なくとも僅かに表情を柔らかくするヴァーリ。
次に朱乃がリアスに問いかける。
「部長、私達はどうしますか?」
「準備が出来次第、駒王町に戻るわ。これ以外ここに居る意味はないし、ヴァレリーを早く安心出来る所に運ぶ必要もあるでしょう」
眠り続けているヴァレリーはしばらくアザゼルが面倒を見るだろう。
ようやく帰れる事に一樹は心の底から安堵した。
エルメンヒルデへの挨拶も済ませた後に、駒王町の兵藤邸に転移して戻って来た。
肩の力を抜いて軽く伸びをするリアス。
「やっと戻って来れたわ。取り敢えず一段落ね」
「俺達は取り敢えず、家に帰ります。行こ、白音、姉さん」
さっさと帰ろうとする一樹にリアスがあら、と頬に手を当てる。
「もう遅いし、泊まって行ったら? 部屋は余ってるし」
日本ではもう23時半を回っている。
悪魔にはこれからだが、学生としては既に深夜だ。
思い出したように一誠が疑問をぶつける。
「そういや、日ノ宮。お前、今回はやけに協力するのに渋ってたけど、結局なんだったんだ?」
今回、何故か吸血鬼の本拠地があるルーマニアまで行くのを渋っていた一樹。
黒歌が向こうに居るのもあって、違和感が半端なかった。
一誠の疑問に一樹が心底不機嫌そうに返す。
「うっせぇ、お前には関係ねぇだろ、ぶっ飛ばすぞ」
「なんでそこまで言われなきゃなんねぇんだよ!」
そこで黒歌が背後から一樹の肩に手を置く。
「まぁまぁ。今日は当日で、もう時間も無いでしょ? ここで渡しちゃったら? どうせずっと持ってたんでしょ?」
なにかを察しているらしいにやにやと言う。
その様子に白音が首を傾げる。
「姉さま?」
「白音〜、分かんない? 今日は何の日よ?」
そこまで言われて白音が、あ……、漏らす。
「私の、誕生日?」
11月23日。
今日は猫上白音の誕生日だった。
「そーそー。ていうか忘れてたのね。一樹はずっと渡すタイミング図ってたのよ。あっちに行きたがらなかったのも、誕生日どころじゃなくなってたでしょ? このまま過ぎそうだったし」
現に今から帰っても、日付が過ぎる可能性がある。
納得いったようにリアスが腕を組む。
「そういうことね。なら、尚更泊まって行きなさい。明日は休みだし、私達もお祝いしたいしね」
視線が一樹に集まる。
彼からすると、家でちゃんと渡したかったが、時間ギリギリなのは事実だ。
頭を掻いて一樹はヴァーリとの戦いの時にアーシアに預けたコートから取り出す。
「これ、プレゼント。白音、誕生日おめでとう」
「う、うん……」
誕生日プレゼントなんて、毎年貰っている筈なのに、ちょっと緊張する。
やはり正式に付き合い始めたからだろうか?
「開けて、いい?」
「どうぞ」
プレゼントの箱を開封すると、そこには銀の腕輪が収まっていた。
「わぁ、綺麗です」
アーシアが純粋に感動する。
「アザゼル先生が紹介してくれた店でかった。値段については無粋だから聞かないでくれ」
実際、学生身分としてはかなり値が張っている。
これまでのトラブルで解決で出た報酬で買った。
アザゼルが茶化すように言う。
「なんだよ指輪じゃねぇのか」
「重いわ!」
流石に学生で指輪なんて用意する気はない。
腕輪を見えいた白音がそれを手に取る。
「ねぇ、いっくん」
「ん?」
「填めて」
左腕を出して腕輪を渡す。
その意味に気づかない程、一樹は鈍感ではない。
全員が見守る中で少し恥ずかしそうに一樹は腕輪を手にして白音の左腕にそれを填めた。
まるでそれほ結婚式の指輪交換のよう。
填められた腕輪を眺める白音。
「ありがとう、いっくん。大切にする」
そう、心からの笑顔を向けた。
えー。ここで、ですが。この作品を一旦完結表記とさせて貰います。
投稿ペースを考えて、予定していたところまで書くのは無理と判断しました。
またこの作品の執筆意欲が戻って書けそうなら連載表記に戻します。