例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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リドルとの戦い

 

「シャル!」

 

ハリーの頭の中では何故ここにトム・リドルが居るとかいう疑問より、幼馴染の安否の方が勝った。ハリーは青ざめた顔で、シャルロットの元に駆け寄り膝をついた。

 

「死なないで! シャル! 目を覚ましてよ!!」

 

ハリーがシャルロットの体を揺する。彼女の体は冷たく、ぐったりとしている。しかし、心音が聞こえてきたのでハリーは少し安心した。彼女はまだ生きているようだ。

 

「お、おまえがスリザリンの継承者だな?」

 

ロンは、緑と銀のネクタイを締めたリドルに杖を向けた。ロンの手は震えていた。

リドルはそんな様子のロンを、能面のような無表情さで見つめている。

 

「違うよ、ロン。 その人が僕が日記であったトム・リドルだ。 でも、どうしてあなたがここに? あなたはゴーストなの?」

 

ハリーが訊くと、リドルは端正な顔を崩さずにクスッと笑った。そして、ぞっとするような冷たい表情を浮かべた。

 

「いいや、ハリー。 この少年が言っていることは正しいよ。 …僕がスリザリンの継承者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

随分、昔の夢を見ていた。

 

その夢の中で、シャルロットは赤ん坊だった。

しかし視点は赤ん坊の自分としてではなく、映画のワンシーンを見るかのように俯瞰的にそれを眺めていた。

 

赤ん坊の頃の記憶なんて残ってるわけないから、きっとこれは魔法により見せられたものなのだろう。

夢心地の中でシャルロットはそれに気付いていた。

 

舞台はプリンス家だった。

しかし、今よりもずっと綺麗だ。レイチェルの趣味なのか、辺りにはカラフルな家具がたくさん置かれていて、今のプリンス家の重苦しい家の雰囲気を打ち消していた。

窓からは美しい花々がこれでもかというくらい花壇に咲き誇っている。

 

「ああ、可愛い可愛いあたしのシャルロット」

 

シャルロットの母--レイチェル・プリンスは心底愛おしげにそう言って、赤ん坊を抱きしめた。赤ん坊はキャッキャと笑い、母親に頬擦りをする。

その隣りでセブルスも微笑みながら、シャルロットの伸びたばかりの金色の髪を撫でた。セブルスは今よりずっと若々しくて素敵だった。

今みたいに仕事に追われていないようで、髪はブラシが通っているようでサラサラとしていた。魔法薬研究用の真っ黒な蝙蝠のような格好ではなく、オリーブ色の洒落たローブをばっちり着こなしている。

幸せそうに微笑み合うレイチェルとセブルスの背後には、ダリアとエルヴィスも居た。

 

 

「どうだ? 素敵な夢だろう」

 

 

いつの間にか現れていたトム・リドルが、シャルロットの肩に手を置いた。

 

「ええ。 とっても」

 

シャルロットは恍惚とその光景に見惚れて、頷いた。

母は植物状態なんかではなく健在で、父も若々しくて自分を構ってくれて、祖父も生きている。

 

「僕に体を明け渡してくれれば、君はこの夢の中で永遠に暮らせる」

 

トムの言葉はどごまでも甘美で麻薬のようだった。シャルロットの心はトムの作り出した幻影に絡めとられる。

 

シャルロットは幸せな夢に、手を伸ばした。

 

「祖父にマグルの血が入ってるのが頂けないが、プリンス家は由緒ある純血だ。 僕の復活の礎となることにスリザリン生として誇りに思え」

 

トム・リドルは最早本性を隠そうとせず残忍に笑った。

 

シャルロットの指がまさに夢の中のセブルスに触れようとしたその時。

 

体に鮮烈な痛みが走った。

それは夢なんかではない、もっと…リアルな痛みだ。

 

目の前の幸せな夢は陽炎のようにゆらりと消えた。

 

「ちっ…邪魔が入ったか。 まあいい。 この女の体は、ハリー・ポッターを倒した後にいくらでも奪える」

 

ハリー?

トムは何の話をしているのだろうか。

 

体中に鈍い痛みを感じながら、シャルロットは目を覚ました。

辺りは濛濛とした砂煙が立ち込めている。何か爆発が起きたようで、足に壁の一部であったのだろう石が落ちていた。先程感じた痛みはこれだろう。

 

記憶が混濁していた。

ここはどこだろう。

蛇の彫像に囲まれた、石造りの大きな部屋だった。地下だろうか。

 

砂煙が晴れた。

 

部屋の入口には粉々になった扉の石と共に、怒りで顔を歪ませたセブルスが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し前に遡る。

 

フォークスの出現によってバジリスクは盲目と化し、剣も手に入れた。

 

しかし、ハリーとロンにはそれでも目の前のこの大蛇を倒せるとは思わなかった。

 

ハリーの杖は油断していた時にトムに取られてしまったので、杖はロンしか持っていない。しかし2年生の扱える呪文などたかが知れていた。

ハリーはがむしゃらに剣を振るい、ロンもバジリスクの興味を逸らそうと思いつく限りの呪文を放った。

 

インセンディオ(炎よ)インセンディオ(炎よ)!…クソッ、ハリーに近付くなよ。 この化け物め!」

 

ロンの杖から放たれた炎は、バジリスクの硬い鱗に阻まれ虚しく消えた。しかし、バジリスクは鬱陶しそうにロンの方に鎌首をもたげた。

 

「赤毛の子どもは放っておけ! もう1人の子どもを殺すんだ! 匂いを辿れ!」

 

リドルはシューシューと蛇語で命じた。

バジリスクはぬめりとした体を翻して、ハリーを追った。バジリスクは狂ったように体をハリーに打ち付けようとする。

ハリーは剣を何とか振り回すが、自分には重たく上手く扱えない。

 

とうとうバジリスクがハリーの体を捕らえた。

 

「駄目だ! ハリー、逃げろ!!」

 

ロンが悲痛な声を上げた。

目の前のバジリスクは今にもハリーを食らおうと、がばりと赤黒い大口を開けた。

ハリーは覚悟を決めて、目をぎゅっと瞑る。

 

その瞬間、辺りを劈くような強烈な爆発音と衝撃が部屋を襲った。

 

劣化していたのであろう天井や壁の一部がボロボロと落ちてきた。大きな石の塊がバジリスクの尾に当たる。バジリスクは怒り狂ったようにシューシューと声を上げた。

 

ハリーは離れたところで意識を失っているシャルロットが石の下敷きになってないか心配したが、ここからは彼女の様子は分からなかった。

 

粉々に壊された部屋の入り口からは、セブルスが入ってきた。そして、一瞬で状況を理解するとバジリスクに向かって呪文を唱えた。

 

セクタム・センプラ(切り裂け)!」

 

バジリスクの腹部がぱっくりと割れ、夥しい血が流れ出した。

可愛いペットへの致命傷に、リドルは激昂した。

 

「おのれぇええ! 邪魔をしやがって!!」

 

リドルが加勢しようと、こちらにやって来る前にハリーはバジリスクの口蓋に剣をぶすりと立てた。同時に腕に熱い痛みがさっと広がった。バジリスクの長い牙が1本ハリーの肘を刺し貫いていた。

 

「ウィーズリー! リドルの日記をこちらへ!」

 

セブルスが短くそう命令すると、衝撃で転んでいたロンは日記を抱えてハリーとセブルスの元に駆けた。

 

バジリスクは血をダラダラと流しながら、ぐったりと倒れた。

ハリーは痛みに喘ぎながら、牙を肘から抜いた。体中に毒が走るのが分かった。

 

「おい! やめろ…何をする!!」

 

セブルスはハリーの手から牙を引ったくると、日記に深々と牙を突き刺した。

耳を塞ぎたくなるほどの、苦痛に満ちた絶叫。日記から黒黒とした穢らわしいインクが溢れ出した。

 

「ぐわぁああああああああああああ」

 

リドルは獣のように咆哮すると、大きく身悶えして…消えた。

 

フォークスが一声鳴くと再びこちらへ飛んでくる。そして、ハリーの腕に止まり、ポタポタと涙を垂らした。

不死鳥の涙。それにはバジリスクの毒さえも癒す効果がある。

 

セブルスはシャルロットの元に駆け寄る。シャルロットが目覚めていることを確認すると、怪我がないか体に触れて確認した。足を少し打撲しているものの、幸いにもその程度らしい。

セブルスはシャルロットの頬を手で包んだ。その瞳から涙が流れた。

 

「シャル…どうして私に相談しなかった…? 無事なのだな?」

 

シャルロットは何も言わなかった。ただセブルスをぎゅうっと抱きしめた。

 

セブルスの顔は汚れが飛び散り疲れ切っていて、お世辞にも素敵とは言えなかった。相変わらず服装は真っ黒な蝙蝠のようだったし、慌てて来たせいか頭はクシャクシャでおまけに薬草がついていて薬品の匂いがぷんぷんする。

 

それでも、何より自分が愛する父親だった。

 

「ハリー、ウィーズリー。 大丈夫か?」

 

セブルスはシャルロットをひょいと抱き上げると、ハリーとロンにそう訊いた。

 

「あんな怪物に噛まれて大丈夫なわけあると思う? 遅すぎだよ、セブルスおじさん」

 

ハリーが恨みがましくそう言った。しかし、不死鳥の涙の効力は素晴らしく、その腕はまるで傷など最初からなかったように綺麗なものだった。

セブルスはニヤリと笑った。

 

「軽口を叩ける元気があるなら大丈夫だろう」

 

そして、言葉を続けた。

 

「ドラコから秘密の部屋のことを聞いてな。すぐ準備をして3階の女子トイレに向かったのだが…恐らく入口は、時間が経つと勝手に閉まる仕組みなのだろう。 おまえたちの姿もなく流石に焦った」

 

「えっ、じゃあどうやって入口見つけたの?」

 

「分からなかったから女子トイレをあちこち爆発させた」

 

事も無げに涼しい顔でそう言ったセブルスに、ハリーとロンはこんな状況にも関わらずゲラゲラ笑った。

 

「ば、爆発させたって・・・! マートルに聞けばせめて場所くらい教えてくれたのに」

 

「ああいったネチネチしたゴーストは好かん」

 

ヒィヒィ笑うハリーに、セブルスは顔を顰めてそう返した。

 

「えーっと、それでスネイプ先生。 ここからはどうやって帰るのですか?」

 

ロンは未だ笑いを噛み殺しながら、まるで授業の質問のようにセブルスに言った。

 

「ミネルバが箒を持って向かってくれることになっている。 ドラコとロックハートは既に保護されて、保健室にいるぞ。 まあ、ロックハートがいずれ行く先はアズカバンだがな」

 

ドラコが無事ということを聞き、ハリーとロンも安心したようだ。

 

「ド、ドラコ…? ドラコまで私を助けに来てくれたの? 一体何が…? やっぱり私なの? 私が秘密の部屋を…」

 

1人だけ状況が飲み込めず今にも泣き出しそうなシャルロットに、セブルスは彼女の頭をぽんぽんと撫でた。

 

「大丈夫だ、シャル。 今は眠りなさい」

 

箒を持ったマクゴナガルが髪を振り乱して心配そうな顔で着いた時には、既にシャルロットの意識は深い眠りへと落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリーとロンとシャルロットを抱いたセブルスはマクゴナガルの引率のもと、無事トイレに戻ってきた。トイレはセブルスの話した通り滅茶苦茶だった。鏡は粉々に割れて、壁も取り払われ、蛇口からは噴水のように水が溢れている。

 

マートルはハリーが死んでいないことに落胆し、ロンはハリーをからかった。

 

校長室に行くと、フォークスは既にそこにダンブルドアと共にいた。

セブルスはシャルロットを先に保健室に連れて行ったので、ハリーとロンだけがダンブルドアとマクゴナガルに全てを話した。

 

そして、ハリーとロンとドラコの3人に200点とホグワーツ特別功労賞が授与されることになった。

これにはクタクタだった2人も大喜びだった。

 

全てを話し終えてハリーとロンは念の為保健室に行くことを指示された。ドアノブに手をかけたその時。すごい勢いで扉は開かれた。

 

目の前に怒りながらも何とも微妙な顔をしたルシウス・マルフォイと…ドビーがいた。

 

「ド、ドビー!?」

 

ルシウスへの挨拶より先に、ハリーは驚きの声を上げた。ルシウスからお仕置きを受けたらしく、ドビーの手は包帯でグルグルだった。

ドビーはハリーに何か訴えるように日記とルシウスを交互に指差して、自分を殴った。

…ハリーは全てを理解した。誰が日記をホグワーツに持ち込ませたのかを。

 

「それで、性懲りも無くホグワーツに戻ってきたのですな?」

 

ルシウスはダンブルドアを冷たく見据えた。

 

「はて? 奇妙なことに理事の殆どが儂に手紙をくれたよ。 皆、君に脅されたとね」

 

ハリーとロン、マクゴナガルでさえ居心地の悪い顔をしていた。

 

「今回のことは解決したわけですな? 犯人も無事捕まったとか?」

 

「ああ、犯人は前回と同じ者だった。 ハリーたちのおかげで犯人を暴くことが出来た。 そうでなければ、ミス・プリンスが犯人にされていたであろう」

 

ルシウスの口元がピクリと動いた。

 

「…ええ、そうですね」

 

「君の息子、ドラコもお手柄じゃったのう。彼が居なければハリーたちも無事には帰って来れなかったじゃろう。 ホグワーツの特別功労賞じゃ。 父親の君も誇らしかろう」

 

ダンブルドアはにっこり笑った。ルシウスの顔がこれ以上ないくらい歪んだ。

 

「…ドビー、帰るぞ」

 

ルシウスは短くそう言うと、部屋をあとにした。

ハリーは一瞬だけ迷ってダンブルドアをちらりと見た。すると、ダンブルドアが頷いたのでハリーは部屋を出てルシウスを追った。

 

「ルシウスおじさん!」

 

「…何だね、ハリー」

 

ルシウスは足を止めて振り返った。

 

「あの…ルシウスおじさんは、どうしてあんなことを…」

 

ルシウスは、ハリーが自分が黒幕であると気付いてることに驚愕と戸惑いの表情を見せた。しかしそれも一瞬で、すぐにいつもの飄々とした顔に戻った。

 

「何のことを言っているのか分からないな」

 

「でも…」

 

「ハリー、これだけは言っておこう。 私は君の味方にはなり得ない。 きっと、永遠にね」

 

息子のことを考えたのか、何処か辛そうにそれだけ言ったルシウスはくるりとハリーに背を向けホグワーツを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

期末テストは免除され、今年の寮杯はギリギリのところでスリザリンに持っていかれた。今回の1件でハリーとロンは合わせて400点グリフィンドールは稼いだものの、ドラコも200点貰っているし何よりクィディッチ杯をスリザリンが勝ち取ったのが大きかった。

クィディッチでドラコに負けたのが悔しかったハリーは今年の夏休みは、全て箒の練習に費やすことを決意した。

 

ちなみに噂でルシウスが理事を辞めさせられたことを聞いた。

さらにドラコ本人からドビーがクビになったことも聞いた。ドビーにとってはその方が良かったのかもしれないとハリーは思った。ドビーは悪いやつではないが、手紙を打ち止めたりホームに入れなくしたりブラッジャーをけしかけたことは、少し根に持っていた。

 

ハリーはルシウスが黒幕であったことを誰かに話すべきか迷ったが、結局誰にも言わないことにした。

親友の父親の悪事を広めてドラコやシャルロットが傷つくことは1番避けたかったし、ダンブルドアが知っているならそれで充分だと判断した。

 

 

今年のお祝いは夜通し続いた。

石にされた者も元に戻り、皆パジャマのまま飲んで食べて大いに騒いだ。

 

ハーマイオニーは満面の笑みで、ハリーとロンを抱きしめた。そして、何故か目の前のご馳走そっちのけで、お見舞いにもらったという高級チョコをご機嫌で齧っていた。ハリーとロンが誰にもらったチョコなのかしつこく聞いたが、ハーマイオニーは教えてくれなかった。

 

シャルロットもすっかり元気になった。

彼女が秘密の部屋に攫われたことから、スリザリン内からは『穢れた血』なのではと考える人もいるようだが、シャルロットはまったく気にしていないようだった。

 

ご馳走がすっかりデザートに変わった頃、ドラコがそわそわとしながらグリフィンドールのテーブルにやってきた。

 

「やあ、ドラコ!」

 

ハリーはシュガー・ドーナツを頬張りながら、声をかけた。

しかし、ドラコはハリーの挨拶に無言で頷き、つかつかとハーマイオニーの前まで向かった。そして、緊張した面持ちで口を開いた。

 

「その…この前は悪いことを言った。 もう、あの言葉は言わない」

 

それは謝罪と言えるものかどうか分からないが、ドラコはそれだけ言った。プライドの高い彼としては、これでも誠心誠意、謝ったつもりだったのかもしれない。

 

ハーマイオニーは目を大きく見開いて、ちょっと微笑んだ。

 

「もういいわよ、マルフォイ。 あなたには去年のハロウィンで助けてもらった借りもあるしね。 …チョコレートいかが?」

 

「おい!僕にくれなかったチョコ、何でマルフォイにはあげるんだよ!」

 

すかさずロンが文句を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テストがなくなったせいか、ダラダラと残りの学校生活をハリー達は過ごした。

 

ハリーとロンは学校中のヒーローのように扱われ、ハリーはとてもご機嫌だった。

ちなみにドラコのおかげでスリザリンは寮杯を取れたので、彼もまた寮内ではヒーローだった。しかし、『僕はスリザリン生なのに、グリフィンドール生を助けて加点なんて恥ずかしい』と、ちょっとズレた照れ方をしていた。

 

瞬く間に、再びホグワーツ特急に乗る時がやってきた。

パーシーに彼女が出来たことをフレッドとジョージがからかい倒したり、爆発スナップで遊んでいるうちに汽車はロンドンに着いた。

 

今年はテストの採点もないおかげで、殆どの先生も生徒と同じ汽車に乗って自宅へ帰った。

 

友達と別れたシャルロットは、生徒に見つからないようセブルスとキングス・クロス駅から少し離れた場所で待ち合わせた。

 

「待たせたな、シャル。 …せっかくロンドンに来たんだ。 必要な物があれば、買い足しなさい」

 

「うん!」

 

シャルロットはにっこり笑った。

 

去年の終わりから2人の間にあった溝は、すっかり取り除かれていた。シャルロットとセブルスはロンドンで買い物をして、レイチェルのお見舞いに寄ってから帰宅した。

 

久しぶりの我が家では、曾孫が心配で気が狂いそうになったダリアと、シャルロットの好物ばかりを作ったメアリーが待っていた。

家の中から、パイのいい匂いがふわふわ広がっている。

 

「おかえりなさい! シャルロット、危ない目にあったんですって? 大丈夫なの?」

 

ダリアはシャルロットを強く抱きしめると、気遣わしげにあちこちをぺたぺたと触った。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様!」

 

「ただいま。 曾祖母様、メアリー! ええ、もうすっかり元気よ!」

 

シャルロットはニコッと笑うと、メアリーの作った料理に惹かれてダイニングへ向かった。

 

「こら、シャル! 先に手洗いうがいをしなさい!」

 

そんなシャルロットをダリアが追いかけた。

セブルスは再びやってきた平穏に、眉間の皺を和らげた。

 

「ああ、そうだ。 セブルス、あなた宛に来た手紙ここに纏めておいたわよ」

 

セブルスは頷くと、夕飯まで少し時間がありそうだったので、自室で手紙の整理を始めた。

殆どは魔法薬に関するダイレクトメールだった。必要な物といらない物にてきぱきと分類していく。

 

その中で他とは毛色の異なる手紙を見つけた。カラフルなダイレクトメールの中で異質な、真っ白の手紙だ。

 

特徴のない文字で『セブルス・プリンス様』と書かれている。

魔法薬研究でも教師としてもスネイプ姓を使っているセブルスに、プリンス姓で届く手紙は少ないのだ。

 

何気なく、その封筒を裏返した。そして、そこに書かれた小さな文字にセブルスの顔色は変わった。

そこには同じく特徴のない字で『魔法省 魔法法執行部』と記載されていた。

 

セブルスは封を破り、中から羊皮紙を取り出した。

 

 

 

 

『セブルス・プリンス様 (関係 被害者の夫)

 

この度、囚人ピーター・ペティグリューに吸魂鬼のキスの執行日が決まったことを、ここにご連絡致す。

 

執行日 8月26日

 

魔法法執行部 部長 アメリア・ボーンズ』

 

 

 




これにて秘密の部屋編、終わりです。お付き合いくださりありがとうございました!

トム、出番少なかったかな・・・何かセブルスメインになって本当にごめん。

最後の吸魂鬼のキスの執行について、何故今さら?と感じるかもしれませんが、死刑のように執行まで時間がかかるとでも考えてくだされば幸いです。

次回からアズカバンの囚人編、始まります。まあ当小説ではシリウスは捕まってすらいませんが。

追記.手紙の内容少し変更しました。

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