正義の味方に施しを   作:未入力

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神話を見た日

「女の子…?」

 

口をついて出た言葉は疑問だった。

あたりを覆う闇によく映える白いドレスと髪、充満した殺気に不釣り合いな小さな体。

そして傍に控える黒く大きな巨人とのミスマッチさにしばし目を奪われる。

 

「豪胆だなマスター。しかし後にしろ、まずは迎撃する」

 

ランサーの言葉にはっと気付いた時には既に遅く、轟音を響かせ黒い巨体が跳んでいた。

振りかぶるはその両手に携えた大剣。岩を削り出したかのような見た目のその大剣を上段に構えたまま、二メートルを優に超えるその大きな影が月を覆う。

落下の勢いと巨体に任せた流星の如き一撃。

開幕の初手としてはあまりに強烈なそれを目の前にして、脳裏に死という文字が浮かぶ。

 

しかし同時に感じる浮遊感。何かに空へと引っ張りあげられる非日常と共に眼下で再び轟音が響いた。

同時に四方へと飛び散るコンクリートの破片。

人外の膂力を持って放たれた一撃はそれすらも凶器に変え、浮遊から落下へと移行するこちらの身を襲う。

無数の刃と化したそれを受ければ、この身はあっという間に新鮮な肉片へと成り果てるだろう。

 

しかし、敵が人外に位置する怪物ならばこちらには最上の英雄がいる。

俺の身を左手に抱えたまま、ランサーの右手がしなる。

一瞬の振動と、鈍い破砕音。空を駆ける凶器の全ては彼の振るう槍の煌めきで塵となった。

 

すとん、と軽い音を立て足と意識が地上へと降り立つ。

傍らに控えるランサーに礼の言葉を言うより早く、白く尾を引く軌跡となってランサーが疾駆する。

 

地面を抉り弾き飛ばし、敵へと駆ける彼の腕が大槍を構える。

狙うは眉間、未だ地に獲物を叩きつけたままの無防備な肉体へと照準を合わせる。

放たれた槍は鋭く、強烈。先の巨人が見せた一撃が地を割る衝撃ならこちらは津波に大穴を穿つ鋭さを持っているだろう。

 

鋼鉄に鉄塊を叩きつけたような分厚くそれでいて甲高い音、攻撃の成功を告げるそれと共に巨人の体が宙に浮かぶ。

だが、ランサーの表情に現れるのは疑問のみ。

サーヴァントといえど致命傷を免れないその一撃を受けて尚、ゆらりと何事もなく起き上がる巨人の姿に眉間の皺を濃くする。

戸惑い、とまではいかないが受け入れることの難しい現実にランサーの思考が僅かにズレる。

 

その瞬間。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

怒りの咆哮と共にバーサーカーが駆ける。

地を抉り、空気を叩き、標的を打ち砕く為の荒々しい突進。

それは大型トラックが暴走するよりも大きな威圧感と破壊力を持ってランサーへと襲いかかる。

 

「────!!」

 

そして、音が炸裂した。

吹き上がる粉塵と、立っていられない程の音の衝撃。

膝を付き、両の手で耳を塞ぎながらも両騎の激突から目が離せない。

 

地を砕くほどの一撃をその大槍で受け止めるランサー。

あれ程の一撃を受けて尚折れないその槍とそれを手繰る彼の力と技術はどれほどの賞賛の言葉をもってしても伝えきれまい。

しかし、それが長く続くはずもなく。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

さらなる咆哮、盛り上がる腕の暴力的なエネルギーに彼の姿が白い砲弾となって吹き飛んでいく。

 

「ランサー!!」

 

彼の姿を覆い隠す程の土埃が、その安否を俺に知らせることを拒む。

まさか、いやそんなはずはないと悪い思考を否定する。

青いランサー、ライダーという強敵を圧倒し、遠坂やセイバー、果てはルーラーにすら一目置かれているランサー。

その強さを知っているからこそランサーなら大丈夫だという考えが不安をかき消していく。

 

「ふふ、なかなかやるみたいね。お兄ちゃんのサーヴァント」

 

だが何故だ。どうしても心の隅に嫌な予感が張り付いている。

やられた筈はない、それは確かだ。ランサーとの魔術的な繋がりを未だ俺は感じ取れている。

だがしかし、

 

「でもそのサーヴァントじゃどうやったって敵わないわ。私のバーサーカーは最強なんだから」

 

肌をビリビリと焼く殺気、濃密な猛獣の如き凶暴性。

そして先刻見たランサーに匹敵する速さと彼を大きく超える豪腕。

────格が違う。

 

悟る、理解する。

地を擦る音が聞こえ、足元を見れば一歩後ろへと下がった自らの足。

 

「どうやら分かったみたいね、お兄ちゃん。それでいいわ、抵抗なんかしたって意味ないんだから。じゃあ殺しなさいバーサーカー、あのランサーが起きる前に──」

 

「させると思うか?バーサーカーのマスター」

 

辺りの闇を、俺の暗い思考を切り裂く声が響く。

軽い音を立て、飛び上がった白い姿が俺の目の前に、脅威から守るように降り立つ。

 

「すまない、少々不覚をとった」

 

背中越しにこちらへ語りかけるランサーの姿にダメージは見て取れない。

身体を覆う鎧にも、肌にも深い傷は一つもない 。

 

「どうして?バーサーカーの攻撃が直撃した筈なのに──」

 

独り言のように呟かれた疑問にランサーは答えない。

代わりに見据えるのは黒き巨人。

大槍を脇へと構え、ランサーが踏み出す。

 

「いくぞバーサーカー。我がマスターを殺させる訳にはいかんのでな、ここでお前を倒させてもらう」

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

静かな闘志、激しい咆哮。

白く鋭い疾走と、黒き破壊の突進が再度激突する。

 

「─っ!なによ、やっちゃいなさいバーサーカー!そんなサーヴァントにあなたがやられる筈ないんだから!」

 

猛る豪腕が、振るわれる大剣がランサーの身を叩き潰さんと縦一線の軌跡を描く。

その破壊力、そして速度は正に極限。

戦士とは思えぬ腕力に任せきりの斬撃はしかし、その最上の身体能力によって並び立つもののない至高の一撃となる。

技も工夫もない、いやそんなもの使う必要がないのだ。

バーサーカーの攻撃の全ては回避、防御共に困難な物。つまりは全てが必殺。

振るうだけで相手を追い詰める攻撃には技術などという不純物が混じる余地などない。

 

現に、上段からの一撃を紙一重で躱したランサーだが反撃の手が出せていない。

躱されればもう一度、それも躱されればもう一度。

ただそれだけを嵐のように激しく、これ以上ない速度で振るわれ続ければどんな英雄だろうといつかは潰れてしまう。

 

賞賛すべきはランサーだ。災害の如き剣舞と、彼はその身一つで戦い続けている。

躱す、受け流す、逸らす。戦士としての経験と技術、修練が彼の身を未だこの世に留めている。

しかしそれは渦潮へと突き進む小舟のようなもの。

破滅の決まっている抵抗だ。

 

俺は何をしてるんだ、と拳を握る。

怒りという感情が内から溢れでる。

何か俺にできることはないのか、何かある筈だと思考の海に沈む。

だが浮かぶ答えなど一つもない。その事実に拳の力が更に強くなる。

 

だが、衛宮士郎は知らない。

バーサーカーは確かに最上のサーヴァントだが、ランサー──いや、カルナもまた並び立つもののいない英霊であることを。

 

縦横無尽に繰り出される嵐の剣舞、その真ん中でランサーの体が業火となって燃え上がる。

魔力放出──己の魔力をエネルギーとして出力するものだが、カルナのそれは通常のサーヴァントとは一線を画するものだ。

鉄をも溶かす灼熱、吹き上がる炎にブーストされる突進、神業と呼ぶに相応しい槍技。

真に渾身と言うのであろうランサーの一撃がバーサーカーの胸に突き刺さる。

 

浅い──だが構わずランサーはその槍を更に突き立てる。

バーサーカーの巨体が宙へ浮く。

凄まじいエネルギーの全てを受け、大きく吹き飛ばされる巨人。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

両騎の激突により半壊した大地に巨人の指がかかる。

地面を削る重く連続した音と、削り飛ばされるコンクリートを残し、ようやくバーサーカーの体が止まる。

 

「──やはり貫けんか。バーサーカーであるお前に言っても詮無きことかもしれんが、もしその眼に理性の光があればと思わずにはいられんな。しかし今はお前という強敵と打ち合える幸運を噛み締めるとしよう」

 

ランサーの言葉通り、悠々と立ち上がる巨体には生命の光が未だ激しく輝いており一点の曇りもない。

だが、さしものバーサーカーといえど無傷では済まなかったようだ。

灼熱の豪槍を受けた胸には深いとは言えずとも決して無視できない穴が作られており、肉の焼けた跡と言える煙がゆらゆらと漂っている。

 

無論軽傷の度合いに収まる程度ではある。

しかしその軽度の損傷に動揺を隠しきれない人物がいた。

 

「バーサーカーに傷を付けるなんて…。ふうん、いいわ普通のサーヴァントじゃないってことだけは認めてあげる」

 

だがその動揺もただの一瞬のみ。

思い違いかとも思えるほどの刹那の時間で、少女は再び静かな笑みを浮かべる。

その根源と言えるものはやはりバーサーカーへの絶対的な信頼。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

その信頼に応えんとするは黒き巨人。

大樹の如き腕に溢れんばかりの剛力、猛る闘気が迸る。

 

「──サーヴァントへの絶対的信頼、あるいは盲信か。いずれにせよサーヴァント冥利に尽きるというものだなバーサーカー。その肉体を動かす力にそれが幾ばくか関わっていることは狂戦士であるお前にも否定できまい。──だがオレにも意地がある。お前がマスターの矛であるように、オレもまたマスターの矛であり、そして盾でなければならん」

 

空気を叩く音が響く程の闘気、雄叫びを受けて尚、ランサーの涼しげな表情は変わらない。

だがしかし、彼の内側に燃え盛る意志の力が湧き上がっていることも事実。

槍を深く構え、碧眼が敵を鋭く射抜く。

 

二騎のサーヴァントはすでに臨戦態勢。

息をすることすら耳触りとなるほどの静けさの中、互いの気迫がそれぞれを牽制する。

 

そして、

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

やはり先に動いたのはバーサーカーであった。

己が膂力に物を言わせた斬撃は、ランサーに負わされた傷をもってしても変わらず、圧倒的な速度と破壊力のまま。

であればやはり、そこからの攻防が先の焼き直しになることも必然だろう。

 

嵐の剣撃をランサーがいなし、反撃の刃を繰り出す隙を伺う。

剣の作り出す烈風の音を、空を穿つ槍が食い止め、互いの織りなす大地の破壊音が絶え間なく鳴り響く。

やがて、鋼の打ち合う音が百を数えた時、遂にランサーの槍が赤く染まった。

 

それはやはり先と同じ灼熱の槍撃。バーサーカーの肉体に赤々と焼ける傷を付けた必殺の刃。

 

「ふふ」

 

しかしそれを見て少女の口元に笑みが浮かぶ。

まるで悪戯に成功した妖精のように。

まるで望みの物を手に入れた子供のように。

 

──まるで、もうそれはバーサーカーには届かないと知っているかのように。

 

「──!」

 

ランサーの眼が驚愕で見開かれる。

彼が繰り出した一撃は確かに先の一撃と然程変わらないものではあった。

故に先の必殺と比べれば効果は格段に落ちる。

しかしそれでも、バーサーカーの見せた絶対的な隙に叩き込んだ槍は先と同じように巌の肉体を穿ち、吹き飛ばすだけの威力を持っていた。

 

それがどうだ。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!」

 

ランサーが驚愕するのも無理はない。

彼の灼熱は、バーサーカーに有効打を与えるどころか、傷一つ付けられてはいなかった。

 

「──そうか、お前の宝具は」

 

「そう、バーサーカーの宝具はその肉体そのもの。Aランクに満たない攻撃を受け付けない神の呪い──それとね、バーサーカーには二度同じ攻撃は通用しないの。自分の力に溺れたのかしら、ランサー?惜しかったわね、でもこれでおしまい」

 

戦士とは常に自らの一撃に絶対的な自信を込めるものである。

その一撃を羽虫の如く打ち払われて尚、冷静に状況を分析し真実に辿り着いたランサーの精神力は並ではなく。

しかし、時既に遅し。

上段より振り下ろされた岩の剣がランサーの肩へと食い込み

 

「ランサー!!」

 

彼の白い頬、艶やかな首筋に鮮血が飛び散った。

 

「叫んだってどうにもならないわ。いくらサーヴァントが霊体といっても核を破壊されれば消えるしかないのよ、お兄ちゃん」

 

そんなことはわかっている。

肩口から袈裟に斬り裂かれたランサーの体には鮮血が浮かび、その衝撃で膝を突こうとその体勢を崩している。

そしてそのまま地へと倒れ伏すのだろう。

それが確実な未来として目に見える程にバーサーカーの一撃は重く、深く、強烈だった。

 

しかし、それでも関係ない。

崩れ行くランサーに向かい両の足を全力で動かす。

それは最早疾走さえも超えて跳躍。地を進むことすら時間が惜しいと足元を蹴り飛ばし我が身を前へと吹き飛ばす。

 

その行為は無意味どころか誰にも理解さえしては貰えないだろう行為。

マスターたる士郎が死ねばランサーが消えることに変わりはなく、そもそもランサーは既に。

だから、彼の行為には何の意味もない。むしろランサーの命にくわえて衛宮士郎の命まで消えて無くなるのだから事態を悪化させているだけと取れなくもない。

 

だが、それでも。それを理解していながらも衛宮士郎の動きに迷いはない。

加速する両脚に紫電が奔る。

ランサーへと追撃を加えんとするバーサーカー。その姿がやけにはっきりと網膜に焼き付けられる。

眼前へと伸ばした両の手が空を掴む。

皮の下、肉の内側、神経の一つ一つにナニカが食い込んでいく感触。

その違和感と共に頭皮の一部が灼け、視界に映る赤い髪が白く染まっていく。

 

「そこを、どきやがれ───!!」

 

投影(トレース)───

 

己の頭蓋、体の内側に流れ込むいつかの記憶、経験。

磨耗し、薄汚れ、焼け焦げて、しかしそれでも彼の経験が力となる。

 

両の手に掴む幻が現を創る。幻想を現実へと貶めて、エミヤシロウの手繰る剣が──。

 

「─シロウ。そこまでだ」

 

不意に聞こえた、聞こえる筈のない声に意識を白くする。

途端に霧散する剣の幻。現実を侵食しきれなかったその欠片が儚く散っていく。

同時、空間に木霊する鋼の音。バーサーカーの大剣を弾き飛ばし、ランサーの白い姿が目の前へと舞い降りた。

 

「お、お前──」

 

「どういうこと!?さっきみたいに槍が間に入ったわけじゃない、確かにバーサーカーに両断されたはず──!!」

 

白く、そして黄金の鎧を纏い月夜に輝く姿はまさしくランサーのもの。

両断されたはずの胴に傷跡はなく、鎧にも変わった箇所はない。

ただ一点、白い肌にまだらに飛び散った多少の血液のみが先程の光景が嘘でないことの証だった。

 

「─我が鎧は日輪の輝き、剣戟一つで崩れるものではない。だが──見事だ、バーサーカーそしてそのマスターよ」

 

「バーサーカーと同じ防御に特化した宝具…。それもあの一撃を受けてほぼ無傷だなんて…。加えて高位の魔力放出による火力の向上、速力の増大──」

 

黒き大槍を軽く振るい、構え直すその姿を直視しイリヤスフィールの警戒度が上昇していく。

与えたダメージは明らかに軽微。A+の筋力を誇るバーサーカーの一撃を受けてそれは余りに異常である。

加えて宝具によりAランク未満の攻撃を無効化するバーサーカーの肉体に風穴を開けたその攻撃力もある。

速度に関しては瞬間速度ならランサーが上、平均速度であればバーサーカーに軍配が挙がるだろうか。

無論、攻•防•速全てを単純なスペックだけで見ればバーサーカーが上回ってはいるだろう。

だがここまでの攻防で見せたランサーの技量、スキル、精神力を鑑みるとそれは圧倒的な優位であるとは言えないだろう。

 

故に今、イリヤスフィールの思考において、ランサーとバーサーカーの戦闘力は拮抗していた。

 

「──このままでは勝てんか」

 

それに対し、ランサーはこの先自分の敗北が濃厚であると冷静に分析していた。

魔力放出はもう通じない。渾身の一撃でも軽傷を負わせるのがやっとという現状。

それは相手も同じ事で、故にこの先は持久戦となるであろう事が容易に想像できる。

それはランサーにとって余りによろしく無い未来。

何故なら破格の英霊であるランサーは他のサーヴァントに比べ多量の魔力を消費する。

魔力放出や宝具を使わないのであればまだしも、全力で戦闘するとなるとそれはもう湯水の如く魔力を食い尽くす。

平均的なマスターであれば10秒意識を保っていられれば上出来という程に。

故にランサーにとって持久戦というのは絶対に勝てない戦であり、避けねばならぬ道なのだ。

 

「シロウ。頼みがある」

 

「なんだ?何でも言ってくれ」

 

間髪入れず返ってくる、信頼を込めた返答。

心なしか重心は前に傾き今にもバーサーカーへと疾駆しそうである。

無論、後先考えずにそんなことはしないだろう。

だが頼みの内容によっては迷いなく突撃を実行するだろう。

それは、サーヴァントに対しての信頼の表れ。

二人であれば勝てる、一緒であれば負けることはないという強い想い。

 

そう、今この戦場でその信頼という二文字が足りないのは唯一自分であった。

衛宮士郎は言うに及ばず、バーサーカーとイリヤスフィールも深い信頼で結ばれている。

だというのに自分は彼を守るという目的の余りに、彼に負担をかけないよう戦っていた。

それはマスターという存在を軽視すると同じ。

共に戦うと誓った衛宮士郎に対する裏切りに等しい。

 

そしてランサーは己がマスターに伝えるべき頼みを口にする。

これからは、真に共に戦うために。

 

「魔力を貰う。気を失わぬよう気をつけるつもりだが─」

 

「なんだそんなことか。俺に気を遣って使い過ぎないようにしてたって事か?なら気にしなくていい。いくらでも持ってけよ、足りるかはわからないけどな」

 

またも間髪入れず返される言葉、僅かに唇の端が上がることを自覚する。

 

パスを通じ、流れ込む魔力の奔流。吸い上げる魔力はランサーの周囲に炎となって燃え上がり、内なる枷を取り払う。

 

「──良くないものを呼び起こしてしまったみたいね。一体どんな英霊を呼び出したって言うのよお兄ちゃん」

 

平静に、常時と変わらぬ鈴を転がすようなその声。

それはやはりバーサーカーを従えているからこそであるが、それでも湧き上がる根源的な恐怖の全てを消すことは出来ない。

今こそランサーという存在は有象無象のサーヴァントの一騎ではなく、全力をもって叩き潰すべき強敵となった。

 

「似た言葉を先日も耳にしたな。どうやらオレは得体の知れないものという認識のようだ──だが、バーサーカーのマスターよ。その正体をお前が知ることはない。お前のサーヴァントは今ここで打ち倒す」

 

宣告と共に、魔力が吹き荒れる。それは空気に触れると共に火炎となり、寄り集まって燃え盛る業火となる。

地を覆い夜空を焼いて、ランサーがその存在を誇示する。相対するサーヴァントに、この地に、一騎のサーヴァントの降臨を告げる。

 

今こそ冬木の地、聖杯戦争の只中に最強のサーヴァントが降り立った。

 

 


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