文章の基本構成自体はあえて『走れメロス』のままになっています。
あくまで軽い思い付きの産物でありオリキャラ等の必須タグ要素は出てきませんが、上記の理由から著しいキャラ崩壊を起こしていると思いますので、苦手な方はブラウザバックをお願い致します。
また双方の原作及び製作者様を貶める意図はありません、ご了承下さい。
メロス ネプテューヌ(以下ネプ子)
セリヌンティウス アイエフ
暴君ディオニス マジェコンヌ
妹 ネプギア
妹の旦那 ユニ、ロム、ラム(旦那ではないので三人)
緋のマントの少女 RED
山賊 ナスビンダー(モンスター)
ネプ子は激怒した。
必ず、かの邪知暴虐の王マジェコンヌを除かなければならぬと決意した。
ネプ子は政治が分からぬ。
ネプ子は、プラネテューヌの女神である。
ゲームと仕事をこなしつつプラネテューヌを徘徊し、ピーシェ達と遊んで暮らしてきた。
けれども邪悪や困っている人に対しては、女神一倍に敏感だった。
今日未明ネプ子はプラネテューヌを出発し、ジェットセット山道を超えラステイションを超え、はるか遠く離れたこのぴーしー大陸の地へとやってきた。
ネプ子には父も、母も無い。元々あったかも分からぬ。旦那も無い。あったら大変困る。妹のネプギアやピーシェ、イストワール達と暮らしている。この妹は、一年のうちの或る日、すなわち、誕生日を近いうちに迎える事になっていた。誕生祝いも間近かなのである。ネプ子は、それゆえ、妹の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばるこの町にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。ネプ子には竹馬の友があった。アイちゃんことアイエフである。今は此の町で、情報収集の仕事をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにネプ子は、町の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、町全体が、やけに寂しい。のんきなネプ子も、だんだん不安になって来た。
路で逢った若い女性をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の町に来たときは、夜でも皆が歌を歌って、町は賑やかであった筈はずだが、と質問した。女性は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。ネプ子は両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「マジェコンヌ様は、間接的にゲームクリエイターを殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんのゲームをコピーしたのか。」
「はい、はじめはプロテクトの無い古い物を。(中略)それから、仮想ディスク化と配布を。」
「おどろいた。王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人も女神も、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、ソフトを一種類ずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めばコピーにかけられて、配布されます。今日は、六本コピーされました。」
聞いて、ネプ子は激怒した。「呆れたBB・・・王だ。生かして置けぬ。」
ネプ子は単純な女神であった。買い物を背負ったままで、のそのそ王城に入って行った。たちまち彼女は、巡邏のワレチューに捕縛された。調べられて、ネプ子の懐中からは木刀が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。ネプ子は、王の前に引き出された。
「この木刀で何をするつもりであったか。言え!」
暴君マジェコンヌは静かに、けれども威厳を以って問いつめた。その王の顔は蒼白で、長年愛用の帽子の皺は、刻み込まれたように深かった。
「ぴーしー大陸を暴君の手から救うのだ。」とネプ子は悪びれずに答えた。
「お前がか?」マジェコンヌは、憫笑した。
「仕方の無い奴じゃ。お前には、私の孤独が分からぬ。」
「言うな!」とネプ子は、いきり立って反駁した。
「ゲームを買わずコピーするのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の生活さえ奪って居られる。」
「コピーするのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、お前達だ。懐の金は、あてにならない。人間も女神も、もともと私欲の塊さ。信じては、ならぬ。」
暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。
「私だって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」今度はネプ子が嘲笑した。
「罪の無いクリエイターを間接的に殺して、何が平和だ。」
「黙れ、下賤の者。」マジェコンヌは、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。私には、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。お前だって、今に、磔になってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」
「ああ、王は利口だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんとナスを口にする覚悟で居るのに。好き嫌いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、ネプ子は足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、ナスの刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、誕生祝いをしてやりたいのです。三日のうちに、私は教会でパーティーを挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と暴君は、しわがれた声で低く笑った。
「とんでもない嘘を言うわい。逃がしたメタルスライヌが帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」ネプ子は必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にアイエフという我が国の諜報員がいます。私の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人の口に生ナスを数本突っ込んで下さい。頼む、そうして下さい。」
それを聞いて王は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの女を、三日目にナス漬けにしてやるのも気味がいい。女神は、これだから信じられぬと、私は悲しい顔して、その身代りの女をナス責めの刑に処してやるのだ。世の中の、購入厨とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと(精神的に)殺すぞ。ちょっと遅れて来るがいい。お前の罪は、永遠に許してやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。それほどにナスが嫌だったら、遅れて来い。お前の心は、分かっているぞ。」
ネプ子は口惜しく、地団駄踏んだ。物も言いたくなくなった。
竹馬の友、アイエフは、深夜、王城に召された。暴君マジェコンヌの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。ネプ子は、友に一切の事情を語った。アイエフは呆れながらも無言で肯き、ネプ子をひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。アイエフは、縄打たれた。ネプ子は、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
ネプ子はその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、プラネテューヌの教会へ到着したのは、あくる日の午前、陽は既に高く昇って、教会職員たちはオフィスに出て仕事を始めていた。ネプ子の妹のネプギアも、今日はネプ子の代りにRPGのレベル上げをしていた。よろめいて歩いて来る姉の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく姉に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」ネプ子は無理に笑おうと努めた。
「ぴーしー大陸の町に用事を残して来た。またすぐ町に行かなければならぬ。明日、お前の誕生会を挙げる。早いほうが良かろう。」
妹は頬をあからめた。
「嬉しいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、プラネテューヌの人達に知らせて来い。誕生会は、明日だと。」
ネプ子は、また、よろよろと歩き出し、教会広間へ帰って自分達の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。ネプ子は起きてすぐ、イストワールの部屋を訪れた。そうして、少し事情があるから、誕生会を明日にしてくれ、と頼んだ。イストワールは驚き、それはいけない、こちらには未だカレーの煮込みも出来ていない、三日掛かるから待ってくれ、と答えた。ネプ子は、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押して頼んだ。イストワールも頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにかイストワールをなだめ、すかして、説き伏せた。誕生会は、真昼に行われた。ネプギアの、人々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席していた他国の女神達は、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い教会の中で、よりによってエアコンが壊れた為むんむん蒸し暑いのもこらえ、陽気に歌をうたい、手をうった。ネプ子も、満面に喜色をたたえ、しばらくは、マザコングとのあの約束をさえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。ネプ子は、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、今は、自分の体で、自分の物では無い。ままならぬ事である。ネプ子は、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。明日の日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの教会に愚図愚図留まっていたかった。ネプ子ほどの女神にも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、歓喜に酔っている妹に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに町に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい仲間達があるのだから、決して寂しい事は無い。お前の姉の、一番嫌いな物は、人を疑う事とナスと、それから、嘘をつく事とナスだ。お前も、それは、知っているね。仲間達との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。お前に言いたいのは、それだけだ。お前の姉は、たぶん偉い女神なのだから、お前もその誇りを持っていろ。」
ネプギアは、夢見心地でうなずいた。ネプ子は、それからユニ、ロム、ラムの肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互い様さ。私の家にも、宝といっては、妹とわずかなゲームだけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、私の妹の仲間になったことを誇ってくれ。」
三人は揉み手して、てれていた。ネプ子は笑って客人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、自室のベッドにもぐり込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。ネプ子は跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あのマジェっちに、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。ネプ子は、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、ネプ子は、ぷるるんと両腕を大きく振って、雨中、龍が如く走り出た。
私は、今宵、(精神的に)殺される。(精神的に)殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。マジェコンヌの奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は(精神的に)殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、プラネテューヌ。若い(年齢不詳)ネプ子は、辛かった。幾度か、立ち止まりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。教会を出て、ジェットセット山道を横切り、国営工場をくぐり抜け、ラステイションに着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。ネプ子は額の汗を拳で払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い女神になるだろう。私には、今、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにぴーしー大陸に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ち前の呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、ネプ子の足は、はたと、止まった。見よ、前方のラステイション海岸を。昨日の豪雨で海は荒れ、濁流滔々と海岸に集り、猛勢一挙に定期船を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に桟橋を跳ね飛ばしていた。彼女は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、漁船も残らず浪に浚さらわれて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、膨れ上り、津波のようになっている。ネプ子は海岸にうずくまり、泣きに泣きながら先代女神ウラヌスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、ぴーしー大陸に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために(精神的に)死ぬのです。」
濁流は、ネプ子の叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽あおり立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はネプ子も覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、古代の女神達も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠とシェアの偉大な力を、今こそ発揮して見せる。ネプ子は、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の女神の子の姿には、つなこ神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。ネプ子は馬鳥のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先を急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊のナスビンダーが躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに町へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ち物全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから洞窟マニアにくれてやるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」
「さては、マジェコンヌの命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
ナスビンダー達は、物も言わず一斉に拳を振り挙げた。ネプ子はひょいと、からだを折り曲げ、馬鳥の如く身近の一人に襲いかかり、自身の背中の竹刀を抜き放って、
「気の毒だが正義の為だ!」と猛然一撃、たちまち、三人をネプテューンブレイクで殴り倒し、残る者の怯む隙に、さっさと走って峠を下った。一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、ネプ子は幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩歩いて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
ああ、あ、濁流を泳ぎ切りナスビンダーを三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たネプテューヌよ。真の女神、ねぷてぬよ。今、ここで、疲れ切ってしんでしまうとはなさけない。
愛する友は、お前を信じたばかりに、やがてナスを突っ込まれなければならぬ。お前は、稀代の不信の女神、まさしくマジェコンヌの思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはやチューリップ程にも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝転がった。
身体疲労すれば、精神も共にやられる。
もう、どうでも良いという、女神に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、微塵も無かった。女神も照覧、私は精一杯に努めて来たのだ。
動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。
ああ、出来る事ならゲハバーンで私の胸をたち割って、紫の心臓をお目に掛けたい。愛と信実とゲームの血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な女神だ。私は、きっと笑われる。私の教会も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、始めから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定まった運命なのかも知れない。アイちゃんよ、許してくれ。君は、肩をすくめながらも、いつでも私を信じた。私も君を、おちょくる事はあっても欺かなかった。
私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。一度だって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、アイちゃん。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一番誇るべき宝なのだからな。
アイちゃん、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、微塵も無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。ナスビンダーの囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。女神の私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。
だらしが無い。笑ってくれ。マジェコンヌは私に、ちょっと遅れて来い、と耳打ちした。遅れたら、身代りを(精神的に)殺して、私を助けてくれると約束した。私は奴の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私はマザコンヌの言うままになっている。私は、ビッグスライヌの下敷きになって行くだろう。奴は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。ゲイムギョウ界で最も、不名誉の女神だ。アイちゃんよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるに違い無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? ああ、もういっそ、ダークメガミとして生き伸びてやろうか。プラネテューヌには私の教会が在る。信者達も居る。妹達は、まさか私をプラネテューヌから追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、下らない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬるかな。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、車のエンジンの音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ近くの道に、屋台車が移動しているらしい。よろよろ起き上って、見ると、車のスピーカーから堂々と、甘い物は要らないかと宣伝しながら販売車両が移動しているのである。その車両に吸い込まれるようにネプ子は財布を取り出した。
プリンを匙で掬って、一くち食べた。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。我が身を(精神的に)殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、アルラウネの葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。私の好き嫌いなぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! ネプ子。
私は信頼されている。私は信頼されている。大事な事なので二回言った。先刻の、あの悪いーすんの囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。ネプ子、お前の恥ではない。やはり、おまえは真の女神だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の女神として(精神的に)死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、先代女神よ。私は生れた時から正直な女神であった。正直な女神のままにして(精神的に)死なせて下さい。
路行くリアル先輩を押しのけ、跳はねとばし、ネプ子はゲイムギョウ界に吹く一陣の風のように走った。会議場に集まる七賢人の、その会議のまっただ中を駈け抜け、アブネスたちを仰天させ、スライヌを蹴とばし、小川をカンガルーのように飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人とさっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳に挟んだ。「今頃は、あの女も、ナス漬けにされているよ。」ああ、その女、その女のために私は、いまこんなに走っているのだ。その女を(精神的に)死なせてはならない。急げ、ネプ子。遅れてはならぬ。愛と誠とシェアの力を、今こそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。ネプ子は、今は、殆ど全裸体であった。着替える事も出来ず、二度、三度、彼女を見た通行人が噴き出した。当たり前だ。
見える。遥か向うに小さく、ぴーしー大陸の町のモニターが見える。モニターは、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、ネプテューヌ様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」ネプ子は走りながら尋ねた。
「フィナンシエでございます。貴方のお友達アイエフ様の同志でございます。」
その若い女中も、ネプ子の後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方がナスの刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
ネプ子は胸を刺し貫かれる思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、散々あの方をからかっても、ネプ子は来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、何だか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィナンシエ。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、ネプ子は走った。ネプ子の頭は、空っぽだ。何一つ考えていない。ただ、訳の分からぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、ネプ子はゲイムギョウ界に吹く一陣の風、まさに友の如く刑場に突入した。間に合った。
「待て。その人を殺してはならぬ。ネプテューヌが帰って来た。約束の通り、今、帰って来た。」と大声で刑場の群衆に向かって叫んだつもりであったが、元々中の人が無理をしていた所に喉がつぶれた為しわがれた声がかすかに出たばかり、群衆は、一人として彼女の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたアイエフは、徐々にナスを突き付けられてゆく。ネプ子はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! そのナスを向けられるのは、私だ。ネプテューヌだ。彼女を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。群衆は、どよめいた。天晴れ。許せ、と口々にわめいた。アイエフの縄は、ほどかれたのである。
「アイちゃん。」ネプ子は眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
アイエフは、すべてを察した様子でうなずき、刑場一杯に鳴り響くほど「ねぷうっ!」音高くネプ子の右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
「ネプ子、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生まれて、始めて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
ネプ子は腕にうなりをつけてアイエフの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君マジェコンヌは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、綺麗なマジェコンヌとなって、こう言った。
「お前らの望みは叶ったぞ。お前らは、私の心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、私をも仲間に入れてくれまいか。どうか、私の願いを聞き入れて、お前らの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、マジェコンヌ様万歳。」
REDが、白のパーカーをネプ子に捧げた。ネプ子は、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「ネプ子、あんたは、まっぱだかじゃないか。早くそのパーカーを着るがいい。REDは、自分のヨメの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
女神は、ひどく赤面した。
Q.女神化して飛んだ方が早くない?と言うか女神化無いの?
A.話が破綻しちゃうのでそれはちょっと・・・
Q.コンパちゃんは?
A.勿論誕生会の準備と皆の世話を頑張ってくれました。
Q.どの作品設定がベースなん?
A.筆者の原作知識はsteam版のRe;Birth1、2、3をプレイした程度です。
地形は3準拠ですが、色々混ざっていたりあえて無視した設定も一部あります。
あくまで笛次元での話の為、当然原作との繋がりもありません。
Q.何でマジェコンヌがぴーしー大陸を掌握してるの?
A.PCゲームの類はえてして、不正コピーの温床になりやすい側面があります。
マジェコンヌの語源がマジコンなので、王の役にはぴったりだと思ったのです。
追記
誤字報告、ありがとうございます。
もっと慎重にチェックしなければ・・・!