これはアニメ「打ち上げ花火(以下略)」の感動をぶち壊す駄作です。またネタバレも盛大にあります。
そういうのが嫌いな方は読まないようお願い申し上げます。
彼等はどこまでいっても18にすらなっていない子供である。大人にも社会にも強く依存し、しかし自分の意を通すことはほぼできなかった。言葉で強がってみせることはできても、どうしようもない現実を彼等も一応理解できる。
だからこそ現実などくそくらえとばかりに彼等は想いを吐き出した。
いつまでだってあなたといたい。
幼稚なほどに単純な想い。
振り返ればそこにはいつでも現実があるけれど、今だけはこの夢に溺れていたいとばかりに。
繰り返す一日の中で彼等はあまりに美しいものを見続けた。
好きで好きで、でもどうしようもなくて、そうやって迷ううちに二人だけの世界を引き当てて。
美しかった。本当に本当に美しかった。何もかもが美しかった。
海の上を行く列車はいつまでも走る。その中に二人。夕焼けがかくも美しいものだと彼等は知っていただろうか。
列車が駅に着いてそこで彼等が降りても、まだ現象は終わらなかった。
何者にも追われずに砂浜に立つ二人。明らかに閉ざされた世界。
夢としか思えなかった。あまりにも美しくて夢のようでしかなかった。
だからこそ彼等はわかってしまう、夢は必ず終わらなければならないと。
いつ終わるかまではわからずともそう遠いことではないことぐらい彼等にも感じ取れた。
だから今だけは美しくあろうとなずなは典道に手を伸ばす。それに彼が応えようとしたとき、
「無限の平行世界から望むものを引き寄せたか」
「「っ!」」
響く第三者の声に、彼等は方向転換を余儀なくされる。
そこにいたのはやたらガタイがよく腰が曲がってもいない老人だった。
彼等の反応にニヤリとすると老人はまっすぐ彼等の方へ歩いてきて手を差し出す。
「ほれ。砂浜に落ちとったぞ。お前さんたちにとって大事なものだろう」
老人の手の上にあったのはこの日に彼等を何度も導いたあの不思議な球体だった。
「あ、ありがとうございます……」
球体を受け取った典道の声が震えていたのは老人の雰囲気に圧倒されたからであろうか。
彼の態度に苦笑の気配を一瞬漂わせてから老人は空を見た。
「美しいな」
それに促されるように彼等も空を見る。
しばし経ってから典道は視線を下げた。
「多分、ですけど……。これが持ち主の望みどおりに世界を変えているんだと思います。その結果がこの、どこかおかしな世界なんじゃないかと」
思ったよりはするりとそんな言葉が彼の口から滑り出た。そして彼が手に乗せている球体を見てからなずなも語る。
「そういえば、平行世界とか仰ってませんでしたか? 私たちは平行世界へ移動したか、あるいは平行世界を引き寄せて元の世界と融合させたとか、そういうことを仰りたいのですか?」
「そんなところだ。お前さんたちが信じるかどうかは私にとってどうでもいいことではあるがね」
そんな物言いに彼等は思わず顔を苦笑の形に歪めた。
「少なくとも俺は何度もifを形にしていますから、そういう話は信じます」
「私も不思議なことを十分に見ましたから、信じますよ」
カラカラと笑う老人。
「私は慈善事業家ではないし、お前さんたちにこれといったものも感じない。私がここにいるのは偶然世界干渉を感じ取ったからだ」
十分笑ったらしい老人は真面目な顔になってそう告げた。
「まあ、私が今からするのはただの自己満足であり、そのほうが面白そうだというだけでな」
その言いように「?」な顔をする二人。
それを無視して老人がどこからともなく取り出したものはおもちゃっぽいものだった。60cm程度のミサイルのようなものとそれを乗せるカタパルトのようなもの。
「ドラ○もんに出てくるどこまでも追尾するミサイルかよ……」
「何か言ったか?」
「いえ……」
某秘密道具の場合、先端が眼球を思わせる球状物なのだが、これはまったく違うものがついていた。
強いて言うならばナイフが近い。ハンドルがありフィンガーガードがある。
だがブレード部が異常だった。棍棒あるいは打製石器に似ていた。そして宝石のように輝いていた。
カタパルトが砂の上に立てられミサイルを真上に向けるよう調整される。
「さっきも言ったように面白そうというだけで私は動いている。それをよしとしないのなら、私はこれを片付けて去ろう。しかし」
そこまで言って老人はカタパルトから距離を取りマッチ箱を二人に投げた。
「乗ってくれるのなら導火線に火を点けろ」
典道はなずなを見てなずなも典道を見る。
どうしようというよりわけがわからないというのが二人の本音だった。
老人の言動は強引そのものであり彼等の消化が追いつかない。夢のような時間を老人が邪魔してくれたという思いもある。
でもなぜだろう。彼も彼女も予感を抱いていた。本来終わらなければならない夢がもう少しだけ続いてくれる。それが確かに彼等の中にあった。
だから1本のマッチ棒が典道の手にありマッチ箱がなずなの手にある。
彼は指3本でマッチ棒を保持すると彼女が持つマッチ箱に近づけた。
動かす前に彼は彼女を見る。それに彼女は頷くことで応えた。
鋭い音を伴って火が点く。驚くほどのことでもないはずなのにそれは妙に典道の心を動かした。感動に似た何かが胸の内を騒がせていく。
彼の左手が握られた。なずなが握ってくれたのだと確認するまでもない。
後はもう、内より命ずるものに従うだけだった。
外見のわりに平和な音を立てながらミサイルのようなものは飛んでいく。灯台の高さ程度には上がったであろうか。
その光景をずっと見ていた二人はそこでありえざるものを見た。
空に刺さったのだ。
「「なっ!」」
しかもそれで終わらない。彼等が見ている空そのものが曲がり始めたのだ、テーブルの上に広げた布にフォークを突き立ててひねったかのように。
さらに曲がった空が極彩色に輝きだす。
「空が……」
続いて輝いている部分が細かく割れた。残されたのは暗黒の穴。
彼等は暗黒とそこから降り注ぐ輝くものを呆然と見た。
気がつけば彼等の周囲は破片ばかりである。一つ一つが輝きそして何かしらを映していた。
「万華鏡みたい」
無秩序のようで点対称のような、そんな光景にふとなずなが呟く。内心同意しつつも典道は意味不明のものに対する恐怖から彼女の手を強く握った。
苦笑というより「しょうがないなあ」といった表情でなずなは典道を見てくれる。そのことは彼にとって間違いなく感動であったが、周囲が崩壊していく光景の中で彼女の姿が崩れることなくそこにあることはどこか不思議だった。
何もかもが麻痺するほどの幸福感。
しかしそんな中でもふとなずなはあの老人のことを思い出した。
周囲を見るなずなに合わせて典道も首を動かす。
「いない?」
なぜか老人はどこにもいなかった。慌ててきょろきょろとする彼等を空間全体に響く声が止める。
「『向こう』に着いたら正直に話せ。座標はきっちりやっとるから問題ない。隠すほうが怖いぞ」
それをきっかけに光が増していった。彼等は目を開けることもできなくなり、さらに彼等の意識自体も漂白され……。
さて、彼等が身を置くのはどこまでいっても現実である。現実でなければならなかった。
少しばかり夢を見ることができても、必ず夢は終わる。
現実から離れれば次の現実が待つのだ。
そう、気づいたら衛なんとかさんの家にいて、遠なんとかさんに追及され、間なんとかさんに気遣われ、ペンなんとかさんとメなんとかさんに我関せずな態度を取られ、衛なんとかさんはフラグメイカーなのでこのままではまずいと藤なんとかさんの家に預けられようと、すべて現実である。
二人で同じ学校へ通い、二人で遊んだり、二人で将来を語ったり、ちょいとばかり異なる部分もあるが前の世界でも当たり前のようにあった生活。
時に悩み苦しみ、時に笑い喜び、考えて考えて動いて動いて、いつか終わる日まで。
圧倒的な現実を彼等は行く。
老人がノリノリで力を振るい、なずなが「やっちゃってくださーい」と軽く言う、という『絵』が最初頭に浮かびました。あくまでもギャグだったんです。
ただ、私は絵を全く描けないもので……。小説という形で表現することにしました。ギャグになってる気はしないですけどね。